しゃくなげ湖怪人ロードデンドロン!

    作者:笠原獏

     新潟県、南魚沼市。
     越後三山に抱かれた豊かな自然の中、あるご当地怪人が唐突に、本当に唐突に勢い良く空を仰ぎ見た。
    「……! ゲルマンシャーク様、ゲルマンシャーク様ではありませんか!」
     特徴的なフォルムを持つ頭部が抑えきれない感情を表すかのように震える。叫びに近い声が無駄に通り良く響くも、目の前どころか周囲のどこにも他者の気配は無い。けれど怪人のそれが独り言であるとは言い難かった。
     例えば、何かしらの電波的なものを受信しているかのような。
    「なるほど、それ以上の情報は無い、と。仔細承知! お任せくださいゲルマンシャーク様、このしゃくなげ湖怪人シャクナゲー……いや、しゃくなげ湖怪人ロードデンドロン! 何をしてでも必ずやゲルマンシャーク様の……」
     そしてばさりと身を翻し、怪人は自身の背後を振り返った。
    「ゲルマンシャーク様の御身を見つけ出し、引き上げて見せます!!」
     その眼前には穏やかな湖面。青空と、そして周辺の緑を映す風光明媚な光景が広がっていた。右腕を高々と掲げたご当地怪人は迷い無き声を張り上げる。
    「まずは捜索の邪魔となるものを一切合切排除せよ! そして入り口を封鎖のうえ──このしゃくなげ湖の大捜索を行うのだ!!」
     
    ●名前の由来:近辺が自生地だから
    「あ、ロードデンドロンってドイツ語で石楠花の花の事ね。長いから適当に省略しておいてくれるかい?」
     現れたご当地怪人について、二階堂・桜(高校生エクスブレイン・dn0078)がそんな事を言いながら灼滅者達へ印刷した画像を見せた。初夏の緑に囲まれた大きな湖──新潟県南魚沼市の山間にあるというしゃくなげ湖の画像だ。
    「ここに現れたのさ。いわゆる人造湖かつダムなんだけれどね、ロックフィルダムと景色の融合具合が凄く素敵だよねぇ。湖の外周に沿った道路もあって、景色を楽しみながらのウォーキングイベントなんかも時々開催されているんだって。で、今回の怪人はそこで楽しんでいた人達を追い出して、その道に続く入口を配下に封鎖させて、あとついでにそこと湖の間にある観光センターを拠点として占拠してしまっているんだ」
     どうも目的の為の手段を全く選んでいないようで、下手をすればダムである事を良い事に水量を減らす為の放水までも決行しかねない。早めの対処をお願いするよー、と桜は灼滅者達へ告げた。
    「まず入口にいる配下数名をさくさく倒してしまっておくれ。その後で怪人本人に接触──というかもう襲撃だね──してもらうけれど、タイミングとしては捜索部隊として引き連れた他の配下と一緒に、観光センターへお昼ご飯を取りに来た時が最良だよ」
     それを許すとそこで販売されている『しゃくなげ弁当』が全部確保されてしまうのさぁ、と桜が不満げに唇を尖らせた。微妙に緊張感に欠けるタイミングだ。
    「店員さんが数名残されていると思うから、その人達を逃がしてあげる事も忘れずにね。キミ達で怪人と配下を抑えてあげれば自分達でちゃんと逃げてくれる筈さ、土地勘はキミ達よりある訳だし」
     店員達については逃げるきっかけさえ作ってやれば大丈夫、という事だ。それより重要なのは迷惑極まりないこの怪人を灼滅する事。
     観光センターには広い駐車場も備わっている。そこならば戦うにも困る事は無いだろう。怪人の強さについては侮る事は出来ないから、そこだけは油断をしないようにと言い含めた。
    「怪人一体でキミ達全員分くらいの戦力は持っているからねぇ。それでね、この怪人なんだけど、どうも『ゲルマンシャーク様はいずこー』みたいな事を叫んでいたようなんだ。更に同じような事件が同時に発生していてね」
     つまり、と桜が短い溜息と共に告げる。寄りかかっていた窓枠に座り、右手をひらりと振った。
    「このご当地怪人達が、第二回ご当地怪人選手権の後に行方不明になっていたゲルマンシャークの石像を捜しているんじゃないか、ってのが見解なのさ」
     とはいえあちらこちらで捜索している現状を見るに、確実に居場所が分かっている訳では無さそうだけどね、と桜は付け足す。
    「でも万が一があったら事だしね、ある程度は警戒しておいておくれ。例えばゲルマンシャークと遭遇する事があったらとりあえず逃げるように、とか。それほど長くは動けない筈だから、逃げ切れば何とかなる筈さ!」
     そんなところーと言葉を結んで窓枠から降り、眼鏡を外しながら笑みを浮かべ。
    「七月になるとしゃくなげ湖まつりなんてのも開催されるみたいだから、今のうちで良かったねぇと言うべきなのかなぁ。ともあれよろしくお願いするね」
     そして、どこからともなく上越新幹線の切符を八枚、取り出した。
    「Max二階席のグリーン車にしておいたからさ!」
     いわく、景色が良いらしい。


    参加者
    鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)
    花澤・千佳(彩紬・d02379)
    篠村・希沙(手毬唄・d03465)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    九重・綾人(コティ・d07510)
    炬里・夢路(漢女心・d13133)

    ■リプレイ

    ●お気軽にお越しください
     新幹線を降りて本数の少ない在来線に乗り換え、降りた駅からタクシーを拾い約三十分。左右が田んぼとまばらな民家で構成された道を上ってゆく中でまず最初に目に留まったのは遠目にも分かるほど壮大なロックフィルだった。あまり近すぎない位置で降ろしてもらい、それを仰ぐ。
    「あの奥が湖ですね……全く迷惑な」
     地図を表示していたスマートフォンを下ろした若宮・想希(希望を想う・d01722)が零す。迷惑ではあるけれど、それでも。
    「実に良い景色とお弁当とおやつタイムだった……」
    「おいしいご飯と新幹線おやつときれいな景色、すばらしい!」
    「だるま弁当、気に入って貰えたようで何よりだ」
     ここに来るまで窓際に張り付き終始はしゃいでいた鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)と花澤・千佳(彩紬・d02379)、両腕を組み頷くアレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)。彼らの目的はご当地怪人の灼滅だ。
    「帰りもまたおやつ交換しましょうネ!」
    「新潟土産も買わないと!」
     きゃっきゃと華やかな声を弾ませながら炬里・夢路(漢女心・d13133)と篠村・希沙(手毬唄・d03465)が湖へ続く道の入口を目指して歩き出す。繰り返すが彼らの目的はご当地怪人の灼滅だ。
     その証として。やがてどこか退屈そうに身を揺らす石南花──怪人から力を与えられた配下の姿を認めると、灼滅者達の周囲に展開していた若干緩い空気が僅かに変化した。
    「綺麗なしゃくなげ湖と新潟観光の為、だ」
    「しゃくなげ弁当確保なんて……許すまじ!」
     ぼそりと落ちたのは蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)の声、大きく響いたのは九重・綾人(コティ・d07510)の主張。そして放たれたのは列攻撃を持つ者達がほぼ一斉に放った攻撃の波。
    「ふははばかめ我々の敵ではない……わたしたちヒーローですよね?」
     文字通り一瞬で跡形も無く消し飛ばされた配下達。腕を組み胸を張った千佳が、そう言ってから仲間達へと振り返った。
     ちなみに千佳の本日の荷物はカメラとスケッチブック、色鉛筆、おやつ、ごましお、そして──灼滅道具。

     ぐねぐねと歪曲する坂道を登って行くと、やがてひとつの建物を目に留めた。それは怪人が拠点としてしまった観光センターで、普段であれば駐車場に見られるであろう観光客の車は一台も残っていない。
     そこへやって来たのは明らかに奇妙な軍団だった。ゆらゆら動く多数の石南花達、それを引き連れ先頭を歩く異様な形状の頭部(よく見ればそれはしゃくなげ湖の形に似ている)を持った者。
    「腹が減っては何とやら、通常であればしゃくなげ弁当を全国のコンビニへ常設する活動に精を出すべきところではあるが今はゲルマンシャーク様の為! 早々に補給し早々に作業へと戻るぞ!」
     その者──しゃくなげ湖怪人ロードデンドロンがご当地怪人らしい壮大で無謀な野望を口にしながらセンターに踏み込んだ、その直後。
    「させるか! とうっ!」
     声が響くと同時、怪人の身体が真横に飛んだ。
    「美味い弁当食べる為に! お前にだけ渡さねーっての!」
     目に飛び込んだのはビターショコラ。それは待ち伏せていた綾人が放ったタックルからの抱き付きだった。突然の出来事に状況理解が遅れる怪人を抑えたまま、同じく驚きに固まる店員の皆さんの方を向いて叫ぶ。
    「ここは任せて早く逃げるんだ、怪人シャクナゲーは俺達が倒す!」
     それはヒーローさながらの凛々しさと頼もしさ溢れる姿。思わず見つめてしまっていると更に店内へなだれ込む複数の影。入口付近にいた配下達は鰹を模した相棒ライドキャリバーに騎乗したアレクサンダーにより薙ぎ倒されていた。
    「美味しい物を独り占めしようだなんて許すまじ大罪ヨ。アタシ達がどれ程楽しみにしてたか思い知りなさい! 行くわヨ武蔵坂ハラペコ部隊!」
    「優雅なランチを楽しみたくば我々を倒してからにせよ! 具体的な話をするとヒーローが戦う所は広い方がかっこいい! あとはわかりますね! 表へでなさい! あとおばさまがた、すべておわったらお弁当をぜひ買わせてください!」
    「そうだそうだー。あ、オレの分もお願いします」
     夢路と千佳が至極真剣に叫び、小太郎がゆるゆると便乗して気を引きつけ、怪人の周囲をディフェンダー達が固めているうちに想希が店員達へ駆け寄る。眼鏡を外し胸ポケットに収めながら落ち着いた声色で「ここは任せてください」と告げればようやく我に返った店員達が動き出した。
    「どこん子か知らんけど、ありがとうね!」
    「後で戻るからね!」
     弁当あげんばなんねっけな! という声を最後に店員達が無事逃げ去る。この流れに呆然としてしまっていた怪人が、自分を抑えたままで小刻みに震える綾人に気が付いた。
    「何を──笑っているんだ貴様! 離せ!」
    「いや、思わず……」
     油断する心算なんて無い。けれど先刻から響く挑発の声は楽しくて頼もしくて自然と笑いがこみ上げて。はぁ、と大きく息を吐いた綾人が怪人を見上げた。
    「さっきも言ったけど、俺達で倒させてもらうからな──『ロンドン』」
     瞬間。
    「……は?」
     怪人の時がちょっと停まった。

    ●その発想は無かった
    「そこまでヨ、ロンドンちゃん!」
    「あんたの相手はわたし達! 何なんその頭だっさ。ロンドンのくせに」
    「石南花の花言葉は『威厳』『荘厳』だが他に『危険』といった意味がある。まさにお前だロンドン」
    「ご当地怪人ならそれらしく大人しく町おこしに励んでいてくださいよロンドン」
    「ロンドンに勝ったらおいしいごはんが待ってます。頑張りまっしょい」
     それはさも当然のように、自然に。
    「ちょちょちょちょっと待て! 貴様ら何だロンドンって!」
    「ロードデンドロン÷2=ロンドン! ドイツでもイギリスでもない日本の車窓からお送りしておりますはなざわ(命名者)です!」
    「何て事をしてくれたんだ貴様!!」
     ぐるんと千佳を向いた瞬間に綾人が怪人の身体を解放した。直後怪人の腹部へ走る衝撃、ライフルの銃口を物理的にぶち込んだ徹太がついでに駐車場へ向け怪人を蹴り飛ばしながら告げる。
    「ご当地を満喫していた皆さんを追い出し、ご当地で働く市民を危険に晒し、ご当地そのものを壊そうとする、お前それでもご当地怪人か。あと今頃授業に苦しんでるあいつに『ロンドンなう』って写メ送ったら、何言ってんの大丈夫的な反応が返ってきた。お前のせいだロンドン」
    「冤罪だ! というか何なんだその息の合い方は!」
    「改めて何者ヨって感じよねェ」
    「その辺はもう黙れェ!!」
     新潟県南魚沼市のしゃくなげ湖怪人ロンドン(ドイツ風)が叫び疲れて肩を落とした。何だかんだで気付けば全員が駐車場に立っている。
    「その辺なんて失礼ネ、ユメって呼んで頂戴ヨ……ってのは置いといて、っと」
     唇を尖らせた夢路が、次の瞬間まるで満開の桜が綻ぶようにふんわりと笑った。そして。
    「雑魚ちゃんは纏めてチリになーれ!」
     手を掲げた直後、しゃくなげ湖怪人ロードデンドロン(以下ロンドン)の周囲に群がっていた配下達の熱量を根こそぎ奪う死の魔法を、放った。それを合図にアレクサンダーが担いでいた斧を薙ぎ払うべく振りかぶり、彼を敵陣へ突入させたライドキャリバーもまた機銃を乱射する。
     縛霊手内の祭壇を展開した想希が霊的因子を強制停止させる結界を構築すれば小太郎が手にしたナイフに蓄積された呪いを毒風に変え、それが竜巻として襲いかかる中を千佳の分裂させた光輪が飛び回った。
     先刻は威嚇に使っていた大槌を、希沙は地面へ盛大に叩きつける。地が震え生まれた衝撃波が撃ち出されると同時、地面を蹴った綾人が僅かに残る配下をシールドでもって殴り付けた。
     ひゅう、と駐車場を駆け抜けた風が砂埃を拭い取ればそこに残されていたのはロンドンと配下が一体。その配下もロンドンが目をやるより早く徹太により撃ち抜かれた。
    「気分……爽快……!」
     目を輝かせた夢路が頬を紅潮させる。けれど狼狽えつつもさほど消耗した様子も無いロンドンの姿はこんなナリでも灼滅者達個々より高い実力を有しているという証。
    「……ふ、ふはは、少々不意を付かれたり望まぬ国境を越えさせられたりなどしてしまったが今度はそうはいかん。貴様等の愚行、ゲルマンシャーク様が許すと思うな! この私がゲルマンシャーク様に代わり、貴様等を今ここで始末する!!」
    「いくら主の為とはいえ自分のご当地を荒らすとは……その前に灼滅するのがせめてもの情けか」
    「ほざけ!」
     同情心すら含んだアレクサンダーの言葉を一蹴すると、ロンドンは仰々しいモーションと共に腕を構え、そして叫ぶ。
    「まずは貴様からだ、喰らえロードデンドロンビーム!!」
     貴様とは灼滅者達の後ろの方で頑張って背伸びをしていた千佳の事だった。ゲルマンシャークの為と言いながら明らかに私怨で放たれた必殺ビームをまともに喰らった千佳の目が僅かに座る。
    「このわたしを怒らせるとは、やってくれますねロンドン!」
     怒っているのに怒っているように見えないという状態はさておき、アレクサンダーが龍砕斧に宿る龍因子を解放した。こうなる可能性は想定内、自分は自分のすべき事をするのみだ。
    「本当に迷惑ですね」
     特徴的な刃紋を持つ太刀を中段に構え想希が零す。ロンドンの死角をへとぐるり回り込みそのまま斬撃を振り下ろすとほぼ同時、勢い良く振り返ったロンドンの纏うオーラがそれを防いだ。ロンドンの背後をキープすべく動いていた徹太が反対側から回り込み、けれどその先にいた千佳の元へと一度立ち寄る。
    「花澤、どうどう」
     小さな子へと言い聞かせるように纏うオーラでなだめればロンドンを凝視していた千佳が「はっ!」と声を上げ、徹太へ視線を移した。
    「わたしとしたことが、我を忘れていました……ありがとうございます!」
    「どういたしまして」
     そのやり取りを前を見たまま聞いていた小太郎が眠たげな無表情はそのままに安堵の息を吐く。きれいに咲いた石南花は勿体無かったと一掃された配下を思い返しながら、けれど手に握った槍の柄を無造作に繰った。纏う空気とは裏腹に身のこなしは機敏、加えられた捻りを乗せて突き出されたそれがロンドンの横腹へと穿たれて、その隙を縫った希沙が地面を蹴って飛び、綾人が反対側へと走る。
    「日々ご当地の為尽力する皆さんを恐怖させただけでなく、栄養たっぷりのお弁当を奪うとは不届き千万! 御用だ!」
    「俺も食べたいっ!」
     そして同時に肉薄した二人は同時にシールドを展開させ、その拳を容赦なくロンドンの顔面と背中へと、叩き込んだ。
     食べ物の恨みは怖い、そしてグルメへの愛は必ず勝つ。
    「今日はいつもの10倍燃えるわヨー!」
     夢路の声と、爆炎の魔力を込めた弾丸の大量連射音が響き渡った。

     それから暫く、殴られたり蹴られたり殴り返したり斬ったり回復したりなだめたり。しぶとく攻防を繰り返しながらロンドン連呼をしていると、じわじわ体力精神力を削られたロンドンが近くにいた小太郎のフードを掴んで投げ飛ばした。
    「ロンドンじゃないダイナミック!!」
     半切れ、主張、そして起こる謎の大爆発。いたい、とだけ零した小太郎の目に青々とした空が映る。そこへ少女の声が響いた。
    「鹿野さん、今こそ放課後練習したキメポーズとビームの出番です!」
     三秒間の間を置いて、小太郎はぴょんと跳ね起きた。叩きつけられた全身は痛い。けれど今やらねば何時やるというのかと。
    「うむ、ばっちりキメてやりましょう花澤さん」
     そして両手へオーラを収束させる小太郎、裁きの光を生み出す千佳。
    「くらえおーらきゃのんかのびーむ」
    「くらえじゃっじめんとはなざわびーむ!」
     棒読みと大ノリの声が重なった直後放たれるびーむ。二人の背景に、先刻よりも盛大な爆発が起こった──ように見えた。勢いに押された部分もあってかクロスさせた両腕で顔を覆いながらロンドンが後ろに吹っ飛び背中から落ちる。
    「あの二人ホントに今回が初対面?」
    「……俺達も含めてほぼ、な」
     後ろから聞こえた徹太の声に、綾人が答えながら再度吹き出した。
    「びーむ! ビーム羨ましい!」
     ペリドットの瞳をいっそう輝かせ、希沙が自分もとひらり手を泳がせる。瞬間噴出した炎を枯れぬ花の絡む槌に宿し──
    「さらばロンドン! レーヴァテインしのむらビーム!」
     ほぼぶん投げるような形で転びっぱなしのロンドンの腹部に、落とした。
    「それビーム違う!!」
     ロンドン(燃えてる)の声はほぼ断末魔に近い。
    「なら本当のビームを喰らわせてやろう。上司にへこへこして異国風に改名するヤツには勝つ気しかしない」
     掠れる視界にライフルを構え静かに告げる徹太の姿が映った。蛍光迷彩帽の下、気怠い瞳は確かにこちらを捉えている。
    「やめっ……」
    「早く『弁当なう』って写メ送りたいから断る。爆発しロンドン」
     言うと同時、闇を撃ち抜く魔法光線が放たれた。満身創痍ながら顔に掠めるに留め飛び起きたロンドンが身を翻したそこに、今度は相棒に跨り指を鳴らしていたアレクサンダーが座席を蹴って跳躍する姿を見た。これはご当地を愛する者が放つ正義のキックであるという事をロンドンは知っている。逃げ場を探し振り返ると想希が優しく笑んでいた。そして赤きオーラの逆十字を出現させていた。怖かった。
    「アナタの事……忘れないワ……」
     青空にロンドンの姿を描き浮かべ夢路が零す。早いだろうと言う気はもう、ロンドンには無かった。
     ──もう無理だ、これ。
     そうして人生を諦めた直後。ロンドンの身体はトドメの攻撃を喰らい、怪人らしく爆散した。

    ●家に帰るまでが灼滅です
     壮大な景色が広がっていた。
     先刻まで遠目に見ていたロックフィル、そのてっぺんに立てば目の前には皆で守ったしゃくなげ湖、振り返れば山間から広がる南魚沼。今は田植えを終えた直後だけれど、数ヶ月もすれば成長した稲により更に美しい緑の絨毯を目にする事が出来るのだろう。
    「景色もいいし、軽くピクニック気分ですね」
    「ひと仕事終えた後の弁当って何でこんな美味いんだろうなぁ」
     眩しさに目を細めた徹太の傍らではしゃくなげ弁当を確保した想希と綾人が早速それを開けていて、アレクサンダーが残る全員分のお弁当を配ってくれている。
    「帰りの新幹線何時だっけ」
     携帯の画面に目を落としながら小太郎が呟く。この湖にゲルマンシャークは居ない──なら後は時間と胃袋の限界まで新潟グルメを堪能するのみだ。
    「こしひかりソフトクリームなんてのがあったわヨ乙女達!」
    「お握りとサラダあられも!」
    「! ぜひかえりの新幹線でたべましょう!」
     もちろん向かい合わせの座席で。そんな乙女達のはしゃぎ声は皆の疲れを吹き飛ばす。
     しゃくなげ湖の湖面、緑を映したそれはとても、穏やかで美しかった。

    作者:笠原獏 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 10
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