ゲルマンチック・ハートレイククイン

    作者:那珂川未来

     北海道豊似湖。そこはハートの形をした湖。別名ハートレイク。
     そんな豊似湖は、あぜ道を越えヒグマ出没する危険地帯を越えた先にある、自然の神秘が生み出した奇跡の湖だ。
     神秘的でロマンチック、辿りつけば恋でも成就しそうな可愛らしい湖畔の片隅で、
    『ご指名ダンケシェーン♪』
     どかーん!
     近くの倒木を粉砕し爆誕したのは、ハートの形をした仮面と、胸の部分がハート型に強調されたバニーガールのおねーさん(わりと可愛い)!
     しかしまるく短いお耳と尻尾が赤茶色なのはたぶん、豊似湖には準絶滅危惧種のエゾナキウサギがいるからに違いない。
    『ゲルマンシャーク様の力でパワーアップ♪ 今日もハートの形でラブラブズキューンと世界征服! 豊似湖だけじゃなくて、地球もハートの形になっちゃえば超かわゆす♪ 愛とハートの伝道師、ハートレイククイン只今参上☆』
     きゃっぴるーん♪
     手でハートマーク作ってキメポーズ。どこかしら目も当てられないくらい弾けておられる怪人ですけれども。
    『やっぱりアタシ、シャーク様に愛されていたのね……』
     何やらこの怪人ハートレイククイン、ゲルマンシャークに命令を受けたっぽい。
    『えっへんお任せ~! ゲルマンシャーク様のお体は、アタシがサルベージ!』
     きらーん。
     無駄に目を輝かせ、何処にいるかもわからないゲルマンシャークに誓いをあげた後、
    『うむ。よくやった。さすが我が自慢の怪人ハートレイククインよ。世界の全てをハートマークに作り変え、世界征服!』
     野太い声を作り、ゲルマンシャークになりきり小芝居かまし、
    『きゃーんゲルマンシャーク様、まずはゲルマンシャーク様のダンディハートをハートマークに征服し、た、い、の! ……ポッ♪』
     なんて勝手に救出後の妄想を繰り出す、実に痛い怪人である。そもそも此処にいるかどうかも確定ではないんですがね!
    『今日も元気にクインオブハート♪ まずは湖の周りの邪魔な原生林を切り落とし、スッキリクッキリサッパリさせてから捜索しちゃうわよー♪』
     
     たたたたた大変だ!
     豊かな手つかずの自然が、アホな娘の暴走した愛によって壊されてしまう!
     ついでに何もかもハートマークの形にされたら大変だっ!
     ここにはナキウサギのほかエゾシカやヒグマや北海道の希少な自然が残っているんだ!
     いそげ灼滅者!
     世界の平和は、キミたちの手に掛かって――、
    「――いるのだ!」
     ちょっぴり熱いノリで前説を終えた仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)。
    「というわけで、北海道の豊似湖に向かってほしいんだヨ。このままじゃアホな子……じゃない、豊似湖怪人ハートレイククインに手つかずのままのこしてある大事な自然が全て壊されちゃうんだよネ」
     現地までへの地図は用意してあるので、特に迷うことなく行けるだろう。
    「あとコレ。クマ除けの鈴。これを装備していれば、ヒグマも人間がいるとわかって、襲ったりしないヨ。これ北海道の常識ダヨ」
     自然を守ろうとしているのに、その自然に襲われたりむやみに傷つけるわけにはいかないっ!
    「で、件の怪人ハートレイククインなんだけれどネ」
     手でハートマークを作り繰り出す、ハートレイクビームがご当地ビーム相当。
     ハートマークを空に浮かび上がらせ、それをズキューンってノリで打ち抜きながらドロップキックするハートレイクキックがご当地キック相当。仮面のヒーローがやってそうな技だよね!
     ハートマークを量産しながら抱きついて、そのままジャーマンスープレックスが、ご当地ダイナミック相当。相手が女だからって抱きつきますよ。
     そしてハートの形をした護符揃えで、導眠符 と防護符を使用してくる。
    「あとネ……」
     説明前から沙汰がげんなりしている、嫌な予感。
    「ハートレイククインと同じ恰好をした」
    「恰好をした……?」
     ごくり。
    「いや、待て。言わんでもいい」
    「そうだよネ。……言うと精神ダメージ高そうだよネ。バニーガールのオヤジなんてサ」
    「だから、言うなと言っておろうぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
     そういうわけでハイ、バニーオヤジ(むきむき)が、二体。ガトリングガン小脇に抱え、襲ってくる……。
    「や、でもサ、前もってわかっていた方が心の準備ってもんがネ?」
     一理ある。
    「そうそう、あとこのハートレイククイン。ゲルマンシャークを探しているっぽい。もしかしたら、第二回ご当地怪人選手権の後行方不明となっていた、ゲルマンシャークの石像を捜しているのかも……」
     同様の事件が日本の湖のあちこちでおきていることから、場所が特定できているわけでもなさそうである。
    「でも、そういう意味では、皆の行くところに万が一っていうのもあるわけだから……ある程度は警戒をしておいてネ」
     そして、もしもゲルマンシャークと遭遇した場合はとりあえず逃げよう。相手はそれほど長く動けないので、もたもたしなければちゃんと逃げられる。
    「精神物理とも色々大変だけれど、よろしくネ!」


    参加者
    伏見・武(暖色戦士オーミヤイザー・d00144)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)
    間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)
    高柳・綾沙(疾る剣の娘・d04281)
    宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)
    神楽・識(欠落者・d17958)

    ■リプレイ

     柔らかな日差しに照らされて、露に濡れた新緑がきらきらと輝く。からからと鳴る熊よけの鈴に合わせる様に、花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)のハミングと野鳥の囀りが重なって。心地よく耳に届く音に、危険なあぜ道も何処か楽しげ。
    「わー……綺麗……」
     あぜ道を抜けた先に見えたのは、サファイア色に輝く湖面。ハートの形をした神秘の豊似湖を見て、ましろは目を輝かせる。
     しかしそこに轟く破壊音。灼滅者達は全力でそこへと急げば、
    『はーい、観光客の皆さん邪魔よどいてどいてーっ! アタシの恋路の邪魔すると、このオジサマたちに撃たれて死んじゃうんだからー!』
     ハートマークの護符揃えをポンポン代わりに振って、ガトリングガンで木々をなぎ倒そうとしているバニーオヤジ二体を応援しているハートレイククイン(以下クイン)。
    「うわぁぁ……目がッ! 目が腐るッ!」
     戦闘員のあまりの視覚的オソロシサに、観光客の皆さんは痛む目を押さえ思うように動けない! 精神攻撃と物理攻撃をいっぺんに行う、なんてオソロシイ奴らだ!
    「成程、確かにこれは普通の人には目の毒ねー」
     言いつつ豚を見るような目で平気でガン見している神楽・識(欠落者・d17958)。口元に扇当てつつ蔑みのオーラ全開。
     と、眺めているのも楽しいが、一般人の健全な精神も守り抜かねばならないのが灼滅者の務め。
    「そこまでです。悪の変態怪人さん!」
    『ダレ? つーか変態ってなんなのー!?』
     凛々しく響き渡る宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)の声に、クインは声を上げた。
    「怪人あるところにヒーローあり!」
     とう! と間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)が華麗な宙返りを繰り出し間に割って入ると、
    「燃え上がれ、俺の心!」
     ゴーグルをスチャっとつけてバトルオーラを展開させると、ビシーッとカッコイイポーズ!
    「明石のご当地ヒーロー、間乃中・爽太只今参上!」
     そして伏見・武(暖色戦士オーミヤイザー・d00144)も、無駄にひねりを入れながら怪人と一般人の間に降り立つと、
    「さいたま市大宮区を守るヒーロー! 暖色戦士オーミヤイザー出張見参!!!」
     チャキーンとカッコイイポーズ!
    「今日も元気にクラレットオブハート♪ ……ここの緑は私が守らせてもらうわよ!」
     ブドウとずんだの力で愛も二倍。風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)はクインのキメ台詞を奪い取るという奇襲精神攻撃をかましつつ、カワイイポーズ!
    「おお~」
     ぱちぱちぱちー。
     ご当地ヒーローたちの登場シーンに何かカンゲキしている観光客の皆さん(ESPの力に非ず)。目に毒すぎるバニーオヤジに比べたら、少年らの競泳水着やスクール水着のなんと健全な事か! しかも沢山の普通の女の子、癒される!
    『あーっ何しに来たのよ灼滅者! つーかアタシのキメ台詞まで邪魔するなんて!』
     ムキーと実に分かりやすく怒るクイン。
    「残念ですが、あなたの企みはこの宮代庵がお見通しです」
    「恋は盲目とはよくいったものだけれど、シャークさんをみつける為に自然を破壊するのはちょっと納得いかないのよね」
     きらんと眼鏡の縁を煌めかせる庵。帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)は、静かな怒り今は胸に秘め、きりりとした表情で言い放つ。
    「観光客サンには申し訳ないケド……」
     一般人からクインの気が削がれている隙に、高柳・綾沙(疾る剣の娘・d04281)は殺界形成して、
    「皆サン、今はここから逃げて下サイ!」
     この変態怪人たちは私たちが何とかしますと、頼もしい言葉で国道へと下る道へと避難を促す。
    「変態じゃないんだ、変態怪人なんだ、わーっ!」
     そこはかとなく殺気だったような気がして、素直に逃げていく観光客の皆さん。
    「さて、覚悟はよろしいですか?」
     識の蔑みの視線に、クインも黙っているはずも無く、
    『邪魔するならしてみなさいよ、愛には障害があった方が一層燃えるもんっ。行くわよ、オジサマたち! ハートの形でラブラブズキューンと世界征服!』
     初っ端からハートレイクキックを繰り出すクイン。寡黙なバニーオヤジたちは厳ついガトリングガンを構えると、火花散らせつつ前衛陣へと弾丸を嵐のように発射して。
     前衛陣七人と(サーヴァント含め)、前を厚くした布陣。オヤジたちの弾丸の分散させることによって、プレッシャーを受けるまでは無いにしろ、いつまでも前にいられては邪魔なことこの上ない。肉の壁的にも、視覚的にも。
    「さて、悲壮行くわよ。しっかり盾役お願いするわ」
     ましろの清めの風が吹き抜ける中、識が爽太へとシールドリングを展開。その間ビハインドの悲壮をけしかけて。ライドキャリバー超特急ほんごうも率先して庇いに入る。
    「やるじゃないか! 次もその調子で頼むぞ!」
     武は軽快に走りまわり皆様の目の健康をも守り続ける相棒にエールを送ると、
    「クラッシャー! 貴様にはバレッドストームを与えてやる!」
     クラッシャーオヤジへ向けバレットストーム……まぁ列攻撃故お隣のオヤジにも炸裂してますけどね!
     燃え上がるオヤジたちへ間髪いれず、クラレットと綾沙が間合いを詰め、
    「行くぞ」
     綾沙はオヤジの顔だけ睨んで(一番まともな部分)、抗雷撃の発光でくらましつつ他を見ないようにしながら鳩尾一発。更に軽やかに空を舞い、重力の力を借りながらクラレットがご当地キックの構え!
    「ずんだキック!」
     空中前転しつつかかと落とし炸裂。
    「よし、クインは俺が引きうける!」
     オヤジどもがひるんだすきに、爽太がご当地ビーム。
    「お前の相手はこの俺だぜっ!」
    『やったなー、このちびっこめー!』
     割と単純なクイン。しかしさすがに、爽太一人がずっとクインを引き付けているのは正直きつい。こんな残念で痛い子でも、一応ご当地怪人の一人。
    『もっとちっちゃくしてやるんだからー!』
     二撃目はどうにかかわせたものの――華麗なフットワークで迫るクインにバックを取られ、
    『ハートレイクすーぷれっくすぅー』
     振り解けず、綺麗に決まったご当地ダイナミックの一撃に、加護の力を全て粉砕されて。
    「爽太くんしっかりするんだよ」
     ましろがすぐに防護符を作り上げ、その傷の手当てを。識が影喰らいで牽制して。
     爽太は礼を言いながら口元を拭い、
    「こりゃ、いつも以上に心を燃やして気ぃ引き締めていかないとなぁっ! 仲間には指一本触れさせないっ!」
     ゴーグルの位置を正すと、オーラキャノンのホーミング機能を利用して、確実に攻撃を当ててその手を鈍らせようと。
    「素直に諦めれば痛みもなく灼滅してあげますよ」
     クラッシャーオヤジ向けて庵のブレイジングバースト。識がもう一度シールドリングを展開して、爽太の障壁を厚くして。
    『ぷ~ん。まともに連携もとって無いチームワーク悪すぎなおこちゃま達に負けるもんかー』
     事実、クインの言うとおり、クラレット、武、綾沙、爽太の四人しか感情を結んでいない。
     波状攻撃がやんだ瞬間を突くように、オヤジたちがお返しのようにブレイジングバースト。
    「むっ、なかなかやりますね」
     舐めるように広がる炎に身を焼かれながらも、キリリと表情正す庵。メディックに信頼を預け、
    「あなたのような変態が完璧な武器であるガトリングを使うなんて許せません! 目にも世間にも毒なのでとっとと灼滅されちゃってくださいね」
     傷をそのままにガドリングガンを発射する庵。
     そんな庵を狙って、クインがハートマークを浮かび上がらせると、
    『おこちゃまはおねむの時間だよーっ』
     一人目倒しちゃうわよーと、クインはハートレイクキック。
    「させないんだから」
     優陽が咄嗟にカバーして、
    「そういう貴方たちも、足並みがそろっているように見えないわ」
     冷たく言い放ち、クラッシャーオヤジに影縛り。
     優陽が言うように、思うようにオヤジたちの攻撃が集中しないのは、彼女が的確にシールドバッシュでその意識を引っ張っているからこそだ。
     出来る限り視界に入れないようにしながら、かつ的確に攻撃を打ち込もうと頭の中フル回転で戦況を分析しながら立ち回っている綾沙だったが。
     酷いトラウマに苛まれ身を振り乱し動揺しているオヤジたちの動きは暴走状態。
    「ええいその格好で走り回、……ッ」
     綾沙は吹いた。吹いてしまった……!
     だからと言って殴ることはやめない。むしろとっとと消えてくれ、だ。
     超特急ほんごう突撃を喰らってよろめいたバニーオヤジへと、綾沙はデットブラスター零距離発射。
     かはっと血を吐き、力尽きるクラッシャーオヤジ。倒れる姿はハードボイルド。しかし反比例する格好、只の変態。
    『きゃーオジサマ!?』
    「余所見している暇は無いぜ!」
     まさかやられちゃうなんてーと驚愕しているクインへ、爽太は隙をつくようにご当地ビーム。お怒りのクインはハートレイクすーぷれっくすお返しして。
    「爽太さん無茶は駄目だよ」
     ましろが防護符を飛ばしながら注意喚起。一人でボスを受け持つせいで、殺傷ダメージが溜まり結構危険。
    「ディフェンダー! 斬影刃で自慢の防御を崩してくれる!!」
     武は無駄に声を張り上げながら斬影刃。とりあえず、とっとと残るバニーオヤジを退けなければ。
    『ふんだ! どっちにしろ、簡単に倒されたりしないもんね。くらえ、ハートレイクキッーーク!』
     矢のような速さのクインのご当地キックを超特急ほんごうがしっかりと受け止めて。武の斬影刃が脆くなった筋肉に更に亀裂を生んで。
    『うおおおぉぉぉぉ!! クイン様の野望、らぶらぶずきゅーんと世界征服の為此処は退かぬ! 命顧みぬ!』
     寡黙なはずのバニーオヤジも歯を食いしばりながら吠え猛り、ガトリングガン乱射してクインを守ろうと――しているんだろうが、恰好はもとより台詞までどうも迫力が感じられないのは何の罠。
    「……ッ!」
     再び吹いてしまった綾沙。視覚だけじゃなく声でもやりやがったオヤジ。
     綾沙は自らを奮い立たせるかのように槍を操り、
    「消し飛べ!」
     くわっ。
     妖冷弾を打ち放つ、渾身の力を込めて。
     酷い衝撃がバニーオヤジのむきむきの上を弾ける。だがオヤジは、ぷすぷすと煙を燻らせながらも、その類稀なるむきむきで耐え抜いた。さすがディフンダー。
    『キャー、頑張ってー』
     防護符でオヤジを支えるクイン。
    「みんな、もうひと踏ん張りだよ」
     あと少しで目の毒は消えるよと、ひとまず再び打ち放たれたバレットストームの傷をカミの風で癒すましろ。
    「行きなさい、悲壮」
     識は悲壮をけしかけて。霊撃に目を剥いているオヤジを、あくまで、豚を見る様な目でガン見したまま、蔑みのオーラでもこもっていそうな影喰らいで打つ。
    『ぐはぁ! クイン様ばんざぁぁぁい!』
     その万歳の姿勢のままエビゾリで吹っ飛んでゆくオヤジ。
    『うっそーん!』
     頼もしいむきむきのバニーオヤジを全て叩き伏せられ、ちょっと焦ったクインだけれども。
    『いいもーん。オジサマなんてすぐに手に入るもーん。クインとっても可愛いから☆』
     手でハートマークとウインクしながらキメポーズ♪
    「動きとか格好が狙いすぎなのよ! 私がやったほうがナチュラルで可愛いんじゃないの?」
     クインのポーズがいちいちイラっとくるクラレット。というわけで、
    「クラレットビーム!」
     くるっと回ってロッドを振れば、ブドウの果汁弾けるようなフレッシュご当地ビーム100パーセント!
    『狙ってないもーん。一番イイ角度でポーズ決めているだけだもーん』
     お返しとばかりに、ハートマークをつくりながらきゃぴっとポーズ。
     それを狙っていると人は言う。ツッコミ入れる様に、庵が鬼神変。妙にスナップの利いた肥大化したその拳を顎に喰らい、
    『わきゃっ!』
     ジャストで決まってみっともなくすっ転ぶクイン。
    「さすがわたしですね。渾身の一撃が決まりました」
     くいくい眼鏡を持ちあげながら、自分を褒める庵。
    『ムキー! おこちゃま体型のシットの方がみっともないしー!』
     小学生相手に大人げ無いクインを冷やかにガン見しながら、
    「豊似湖は自然がハートの形に作り上げた奇跡の湖と聞いて私楽しみにしていたの。けれど貴方は捜索の邪魔となるならその自然さえ破壊しようしてる。好きな人を助けたいと思う気持ちはわからなくもないわ。でも目先の目的に囚われて周囲の環境を疎かにしようとする貴方は本当にこの地の怪人として胸をはれるのかしら、恋の伝道師さん?」
     むしろ、豊似湖自体に頭擦りつけてお詫びした方がいいんじゃないんですかと、優陽は強烈に視線に込めて、湖の真ん中に頭から差し込んでやるくらいの勢いでシールドバッシュ。
    『疎かにしてるわけじゃないわよー? だってハートマークじゃない木とか草とかかわいくないしー。つまりアンタも可愛くなーい!』
     頬をスリスリしながら、お返しハートレイクキック。
    「ハートの形の湖は、可愛くてきゅんっとしちゃうけど。地球までハートの形は、さすがにやりすぎだと、思うんだよ」
     ましろもその意見には大反対と、影喰らい一発。
    「青い炎は心の熱さ! お前のハートごと、燃やし尽くしてやるぜっ!」
    「援護するぞ!」
     爽太は渾身の閃光百裂拳。武のブレイジングバーストが一瞬にしてクインの体を飲みこんで。
    『あーん、ゲルマンシャーク様のダンディーハートだけでもせめてぇぇぇ……』
     ハートマークにしたかったそうですが、華麗に明後日の方向へとぶっ飛ばされた。
    「よし! やったぞみんな!」
     ぐっと拳を握り、その苦労を労う武。
    「これで疲れを取るといいんだよ」
     ましろは微笑みながら、胸元からドリンクバーで栄養ドリンクを取り出し、みんなに配って。
    「アップルティーもありますのでどうぞー」
     優陽が用意した紅茶の香りがとってもいい癒し!
     満身創痍の爽太。よくぞここまで持ちこたえたと(視覚的なものも)、巡り合わせも良かったのだろうが、自分を褒めてやりたいと思いながら、とりあえず腰を落とし皆と一息ついた。


    「とう!」
     ものすごく湖面と水平な姿勢で、武が湖の中へと飛び込んだ。ばっしゃーんと弾けた水。今痛かったろうなぁと思いながらも、クラレットと爽太もゲルマンシャークの石像を探すため、続く。
     湖の水位は低めだったため、それほど長い時間を要する事無く探索を終えて帰ってくる三人。
    「どうでしたか?」
     識は淑やかにバスタオルを差し出しながら尋ねれば、
    「何にもなかったよ」
     ちょっとがっくりしながらクラレットは差し出されたタオルを受け取って。
     結局どこに落ちたのか、気になるところではあるものの。
     ひとまず、神秘的な豊似湖の平和と観光客の目と精神衛生と人生と青春が、灼滅者の力で守られたのでありました。


    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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