ハイス芦ノ湖怪人~諦めなければ絶対できる~

    作者:相原あきと

     そこは神奈川県は箱根町にある大きな湖、芦ノ湖。
     湖畔を中心に観光名所やリゾート施設が数多く点在する観光地である。
     その湖の水打ち際で、どこか遠くを眺めつつ大きく何度も頷く男がいた。
    「何言ってるんですか! 諦めたらそこで終わりですって! 絶対できます! ハイス! 諦めるな!」
     男は短パンにポロシャツ姿だった。
    「聞こえないです! もっと腹から声出して! 聞こえないですゲルマンシャーク様!」
     そして男の姿で一番異常なのは、その顔が炎に包まれ――否、顔は松明のように燃えている炎が乗っている事だ。
    「あとちょっと頑張れば……ああ!!」
     炎の怪人はガクリと肩を落とすと、やがてゆっくりと振り向きそばに控えていたジャージ姿で同じく炎顔の配下達へと命じる。
    「まずはこの湖にありったけの熱と炎と情熱をぶつけて全ての水を蒸発させるんだ!」
    「ええ!? し、しかし、それではご当地のシンボルたる芦ノ湖が!?」
     配下の1人がすっとんきょうな声をあげる。
     しかし炎の怪人は遠く湖に浮かぶ3隻の遊覧船を眺め。
    「見ろ! あれはフランスの、あっちはイギリスの、その向こうのはスウェーデンの船だ。わかるか?」
    「いえ、さっぱりです」
     配下が素直に首を振ると「頑張れよ! ドイツの船が無い事ぐらい解れよ!」と暑苦しく説明される。
    「つまり、俺は芦ノ湖の怪人だが、芦ノ湖周辺の合宿所を盛りたてたい怪人だ。だから湖自体が干上がるのは別に構わん!」
    「ハイス! ハイス芦ノ湖怪人!」
     炎の怪人に同意するように配下達が敬礼する。
     ちなみに炎の怪人――ハイス芦ノ湖怪人――の服装は、良く見ればドイツの国旗柄であった。

    「神奈川県にある芦ノ湖って知ってる?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     芦ノ湖、神奈川県箱根町にある大きな湖であり観光地としてもそれなりに有名である。
     湖には3種の遊覧船が浮かび、湖周辺はテニスやバレーの合宿所等でも賑わっている。
    「実は、芦ノ湖にご当地怪人が現れたの。しかもその怪人……どんな理由があるか解らないけど、湖を干上がらせようとしているみたいで……」
     怪人は配下と通り掛かった一般人を巻き込み、湖の水を干上がらせようといろいろやっているらしい。
     たき火を投げ込んだり、灯油に火を付けて湖に巻いたり。
     正直、そんな事で水が干上がるとは思えないが、怪人は「諦めるな!」と暑苦しく強制してくるらしい。
    「敵のバベルの鎖を回避するには、丁度浜辺で灯油を準備しているタイミングで接触して! そうすれば怪人達との戦いに持ちこめると思うわ!」
     珠希はそこまで話すと怪人達の戦い方について説明する。
     怪人はご当地ヒーローとリングスラッシャーに似たサイキックを使い、ポジションはディフェンダー。
     配下達はガトリングガンに似たサイキックを使い、ポジションはジャマー、全部で8人いるらしい。
    「あ、それと、その怪人なんだけど、なんか『ゲルマンシャーク様、諦めるな! 絶対できる!』とか叫んでたっぽんだけど……本当、何なのかしら?」
     とはいえ、芦ノ湖以外でも似たような事件が起きているとの報告もある。
     もしかしたら第二回ご当地怪人選手権で行方不明になったゲルマンシャークの石像を捜しているのかもしれない。
    「いるとは思えないけど、もし万が一、ゲルマンシャークと遭遇したら……絶対に逃げて!」
     約束よ! そう珠希が念を押す。
    「あ、そういえば怪人の名前を言って無かったわね。怪人の名はハイス芦ノ湖怪人、ドイツ国旗っぽい柄の服を着た顔が炎の怪人よ!」


    参加者
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)
    長瀬・霧緒(開国天使ペリリーヌ・d04905)
    護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)

    ■リプレイ


     神奈川県箱根町は芦ノ湖、その湖畔で騒ぐ怪人とその配下8人&巻き込まれたテニス部員10人が、ハイスハイスと敬礼しつつ怪人に従っていた。
     そんな様子を遠目に眺めつつ……。
    (「どうにもハイスがデイスに聞こえる今日この頃ですね……」)
     思わず護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128) を見つつ心の中で呟くのは霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)。その服装は着慣れた三角頭巾の黒ローブ姿だ。
     そんな頭巾姿の刑一を、なにか変なこと考えていたのではと見つめるデイス怪人。
    「だれがデイスさくらこ怪人でいすか!?」
     サクラコが画面につっこみを入れる。
     そして――。
    「そこまでタヌよ!」
     怪人達がいる湖畔に声が響きわたる。
     キョロキョロする怪人達、すぐに1人が近くの木の上に何かがいるのを発見!
     とーう! と木の上から何かが飛び出し、くるくる回転してから着地!
    「いたいけな高校生に無理強いする悪いやつ! たぬ王国からの使者、正義のたぬきタヌファリアが――」
     着地したアルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)がポーズを取りながら――。
    「鍋に代わって~、お仕置きタヌ!」
     決めポーズは指鉄砲……にはなっていない。なんせアルファリアはタヌキの着ぐるみを着ていたのだ、指とかずんぐりむっくりである。
    「たぬき? なんで仮装なさっているのでいすか!?」
     タヌファリアが期待に応えてサクラコにもバキューンとポーズ。
     反応に困るサクラコ、一緒にやってきた三角頭巾。
    「鍋ぱわぁぁぁ、発動!」
     変身のバンクシーンよろしくクルクル周りながら、着ぐるみの上から鍋を履くタヌキ。
     さぁ大変な事になった。
     空気的に!
    「……馬鹿じゃねーの」
     ハッと我に返る怪人達。
     黒咬・昴(叢雲・d02294)の的確なつっこみは実は怪人達に向けてのものだったが、ナイスだと言わざるを得ない。
    「きみ達が誰かは知らないが、今は湖を干上がらせる大事な活動中だ! 相手をしている暇は無い! さぁ灯油をまくんだ、燃えるものを湖に投げ込め、大丈夫、諦めなければ絶対できる!」
     我を取り戻し再び熱くなるハイス芦ノ湖怪人。
    「人にやらせるんじゃなく、自分でやれよ」
     昴が何かを放りなげ怪人が掴む。それはマッチ箱だった。
    「やればできるんでしょ? それで干上がらせてみなさいよ」
     こんな安い挑発に乗る者など――。
    「さっさとやりなさいよ? ん? 出来ないなんて言わないわよね。言うからにはできるわよね?」
    「わかった! きみ達はそこで見ているんだ!」
     乗る者がいました。
     マッチ箱片手に湖に足首まで入ると、1人で何か暑苦しく頑張り始める怪人。にやりと笑みを浮かべる昴。
     自分達も手伝いますと配下8人が駆け寄るも、見本を見せると怪人に追い払われる始末。
     それを眺めるタヌキと三角頭巾と黒笑顔のおねーさん。
     なんだこの集団。
    「本当でいす、こんな集団に誰がした! ハイ、サクラコが団長ですねい」
     セルフつっこみなサクラコが「でも育てたわけでも生んだわけでもございませんのでご容赦下さいませ!」と虚空に謝っているが、サクラコが部長をするクラブのメンバーである3人は気にしてないようだった。
    「そこまでだ! ご当地怪人ッ!!」
     その時だ、完全に置いてけぼりだったテニス部員達と、ちょっとしょんぼりしている配下8人の間にヒーローが登場する!
     発動するダイナマイトモード!
     中学三年の女の子ヒーロー、長瀬・霧緒(開国天使ペリリーヌ・d04905)の姿はスクール水着にセーラー服の上、そしてニーソ!
     テニス部員達がおおっ!と反応する。
    「セクシーだ!」
    「なんというか……ダイナマイトセクシー」
    「でも胸はダイナマイトじゃないぞ?」
     余計な一言を言った部員の声は聞こえず、霧緒が名乗りをあげる。
    「私は人類の自由と平和を守る正義の灼滅者! 開国天使ペリリーヌ!」
     そして、背に部員達をかばいながら言う。
    「さぁ! ここは私に任せて、君達は早く逃げるんだ!」

     霧緒達の陽動?のおかげで、湖畔から無事逃げてくるテニス部員達を誘導するのは海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)とエステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)だった。
     詠一郎がふと隣の少女の服装に目がいく。
     ……メイド服だった。
     エステルがクルンとターン。
    「なぜかリクエストがあったのでメイド服仮装なの~、似合っているかなぁ?」
    「え、ええ」
     とりあえず空気を読む詠一郎。そのままテニス部員達が逃げたのを確認してカオスな湖畔へ2人が戻る。
     詠一郎とメイド服のエステルが合流してくるのを見て、殺界形成を使い一般人の避難誘導を支援していた夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)がげんなりする。
    「……何か、仮装してるヤツ、多くね?」
     たぬきやスク水や三角頭巾やメイドや顔が炎の配下達が、誰だよ? と横を見る。
    「……仮装大会じゃねーか。なんつーか……戦い辛ェー」
     凄く……凄く遠い目だった。


    「ふはは、ともあれ俺の熱き嫉妬波動を食らうのです!」
     三角頭巾がドス黒いオーラを配下8人へ不意打ち気味に解き放ち、サクラコがその腕を鬼に変化させて突っ込むと配下の1人が膝を付く。即座に影が盛り上がりトドメ、詠一郎の斬影刃だった。
    「そんなに熱いのがお好きなら徹底的に焼いてやるわ」
     残った配下達7人に昴の放った炎の弾丸が降り注ぐ。
     さらに――。
    「ぐっ……がはぁ」
     配下達へ殺意の固まりがぶつけられ、傷の深かった2人をまとめて倒す。
    「むいむい、ばらばらに刻んであげるの♪」
     エステルがにこりと微笑む。
    「キミ達! 何をしている!」
     その時、戦場に大声が響きわたる。
     すでに戦闘が始まっていた事に今更気が付いたハイス芦ノ湖怪人がやって来たのだ。
     だが、怪人がいない間に相当ダメージをたたき込んでいた事もあり、炎のバッドステータスこそ大量に食らいつつも、次々に配下を倒していく灼滅者達。やがて――。
    「配下も残り1人だな」
     治胡が最後の配下をシールドバッシュで殴りつけると、配下は倒れたまま動かなくなる。
     次はお前だ、とばかりに怪人に指を突きつける治胡。
    「くっ、俺が安い挑発に乗ったばっかりに……だが、皆の思いは無駄にはしない!」
     台詞と共に怪人の顔が一際暑く燃え上がり、宙にいくつもの炎の玉が出現。前衛の灼滅者達に着弾すると、配下達に着けられていた炎が勢いを増して燃え始める。
    「くっ、やるな……だが!」
     霧緒が気合いと共にリバイブメロディを奏でる。
    「私達は負けない!」
     開国天使ペリリーヌの掛け声に呼応するように、仲間達の炎の勢いが抑え込まれたのだった。


    「わかった。きみ達は本気のようだ……それなら俺も本気で、この湖の水を一滴残らず蒸発させてゲルマンシャーク様を助けてみせると宣言しよう!」
     ゴゴゴと全身から炎を立ち昇ら得る怪人。
    「というか頑張ったって、できないことってありますよ?」
     詠一郎の言葉に怪人がピクリと反応する。
    「諦めるなよ!」
    「いえ、例えば伸びすぎた僕の身長が縮むことはないですし……」
     高身長がコンプレックスの詠一郎にとっては大きな問題なのだが、もちろん怪人は納得しない。「きみならできる!」と詠一郎を信じきった目で見つめられた。
     予想通りだが……正直、疲れる。
     ……疲れは精神的なものだけではない。
     戦い初めて数分が経過っていたが、怪人が疲れを見せる素振りは無かった。
     まるで一生懸命戦っていれば不思議と疲れないとでも言うようだ。
     怪人が足に炎を纏わせると、霧緒の延髄めがけて回し蹴りを放つ。
     だが、唸りを上げて飛びこんで来た鉄の塊、ライドキャリバーであるサスケが身をていして霧緒を庇う。
     強引に足を振り切りサスケを蹴り飛ばす怪人だが、改めて狙おうと霧緒に視線を戻した時、その視界の端に飛び込んでくるサクラコを捕らえる。
     踏み込む足の角度を変え、強引に身体をサクラコの方へ向き直すと、百と迫るサクラコの拳を怪人は素手でうち払い被弾を避ける。
     だが、そんな少女の口元が僅かに持ちあがる。
     怪訝に思い少女の瞳を見る怪人、そこに映っていたのは自身の背後でマシンガンを構える赤髪の女。
     ガガガガガガッ!
     気が付いた時には遅かった。怪人の背に治胡が放った炎の弾丸が数十発と着弾する。
    「ぐっ……が、まだまだ!」
     ドン、と倒れそうになる身体を片足を踏み出し支えると、怪人はぐっと身を起こす。
    「癒しよりも苦痛に感謝だ!」
     相変わらず意味がわからない。
    「うわ、あつくるし!!」
     仲間達に防護符を飛ばして回復させていた三角頭巾が一歩引きつつ、思わず口に出す。
    「というか諦めませんか? どうしてそこで頑張るんですか? 人生エバー・ギブアップって言うじゃないですか!」
    「同意です~、梅雨なのに暑いのいやなの、グサグサにして静かにしてあげるのです~」
     メイドが三角頭巾に同意しつつ、こちらは自身を集気法で回復する。
    「暑いのがそんなに好きなら……灼いてあげるわ!」
     岩塊に封印された斬艦刀に炎を纏わせ、昴が大上段から怪人へと巨刀を振り下ろす。
     ズガッ!
     しかし、昴の刃は怪人の放った炎のリングによって弾き飛ばされる。相殺されたのだ。
    「いいぞ! もっとハイスだ! ハイスな血を燃やせ! 俺もこの芦ノ湖に映る富士山のように全力を出してやる!」
     一際大きく自身の炎の顔が燃え上がり、どこか遠くを見ると。
    「心の目で見てて下さい、ゲルマンシャーク様!」
     遠くに叫ぶ怪人だった。

    「っつーか、ゲルマン何とかって呼んでるが、ここにそいつがいるかワカンネーだろ!」
    「なに?」
     治胡の言葉に怪訝な表情を浮かべる怪人。だが治胡は続ける。
    「気合だけじゃどーにもならねーこともあるんだぜ?」
    「きみ達はもしかして……ここにゲルマンシャーク様がいないと、そう思ってるのか?」
     暑かった怪人が急に真顔になり冷静に質問してくる。
     急に変わった空気に灼滅者も、何かが胸をザワつかせる。
    「そうか……そう思っていたのか……」
     怪人は溜息を付くように首を小さく振ると、すっと灼滅者達を射抜くように見つめた。
    「ゲルマンシャーク様、俺の本気を……ハッ!!!」
     怪人は全身を炎で燃やすと、その炎が火柱のように立ち昇り、ぐっと90度曲がったかと思えばそのまま湖へと急降下、炎の柱が水面にぶつかると共に爆発する。
    「どうした灼滅者、まさか逃げるのか?」
     聞いてくる怪人に詠一郎が返す。
    「逃げますよ? 僕はごく普通の灼滅者ですし」
     霧緒も逃げずに踏みとどまる人がいないかチェックする。だが、全員逃亡を選択するようだった。
     土鍋を履いたタヌキも冷や汗を垂らしながら言う。
    「不吉タヌね……鍋に亀裂が!………………入って無いタヌね?」
     入って無かった。鍋はつるりとしている。
     やがて水煙が晴れると、湖面には――。
    「ふふふ、ここで会ったが百年目でいす!って、あれいない!?」
     湖面は元通りに、そして誰もいなかった。
    「そう! ここにゲルマンシャーク様はいない。そうさ、お約束だ」
     いきなりとんでも無いことを口走る怪人。
    「だけどな、お約束な場所にお前達がいたならどうする! それでもお前達は逃げたのか! 諦めたのか! チャンスは逃げずに立ち向かった奴にしか来ないんだ! 信じろよ自分を!」
     なんか説教してきた。正直うざい。
     パンッ!
     怪人が手を鳴らし、行くぞ練習だ、とか言いだす。
    「はい! ゲル鮫様が現れた! どうする? ほら、5秒で応えて! まずキミ!」
     エステルが差された。
    「むいむい、ザワークラウトのお酢を米酢に変えてやるですよ~」
    「いい反射だ! はい、次!」
     昴が差された。
    「パス。私、調理しても食べられない食材に興味ないの」
    「………………」
     怪人が深く目を閉じ、再び開けると三角頭巾が手をあげていた。
    「はい、きみ!」
     怪人に差された三角頭巾が銅鑼を取り出すとジャーンジャーンと叩き――。
    「ドイツのジャーマンポテトにジャガイモの芽を入れてやります!」
     完全にゲルマンシャーク関係無くなってた。
     さすがに彼らの解答に怪人が青筋を立てながら炎を燃やす。その炎は7つに分離、怪人の周囲に浮き上がると縦横無人に灼滅者達へと襲いかかってくる。
    「本気で……本気で答えろよ!」


     炎のリングによる列攻撃は致命的な命中だったせいもあり、かなりのダメージを受ける事になった。だが、それで膝を折る仲間はここにはいない。なぜなら――。
    「人類に愛と夢が在る限り、私は何度でも立ち上がる……」
     ……ずいぶんと壮大な理由になっちゃったが……霧緒は倒れず構えると。
    「命、燃え尽きるまでッ!」
     再び怪人へと突撃する霧緒。
    「燃やすのは心意気だけにして下さい」
     詠一郎が祭霊光で霧緒を回復させつつ、周りの仲間達へ呼び掛ける。
    「あの怪人に、時には諦めることも必要だ、と分からせてやって下さい」
     その言葉に応えるように、身を低く地を蹴り駆けるは、チェーンソー剣とマテリアルロッドを構えたエステルだった。
    「むい、お帰りくださいませごしゅじんさま、なのなの♪」
     ぎりぎりバックステップを踏み回避する怪人。
     だが、下がった地点にはすでに誰かが回り込んでいた。
    「星・葬・剣!」
     死角から刑一の蛇腹剣が怪人を切り裂く。
    「ぐっ……おのれ」
     苦しそうに振り返る怪人、その顔にふっと灯りが差す。見上げれば人影、炎を纏った昴だった。
    「しょうがないから私が燃やしてやるわよ、もっと燃えるがいいや」
     ドッと怪人を地面に押し倒すと、至近距離からガトリンガンがぶっ放され、炎の弾丸が何度も怪人を大地へと撃ちすえる。
     炎の弾丸が吹き止むと、怪人はよろよろと立ちあがる。だが、その目の前には……タヌキがいた。
    「ていうか、芦ノ湖なのかドイツなのか、どっちの怪人だか分からないタヌよ!」
     タヌキのたぬ☆ダイナミックが爆発!
     綺麗な弧を描いて宙を飛び、そのままドサリと大地へと。
     そしてピクリとも動かなくなった自身の身体に、どこか悟ったように怪人が呟く。
    「俺は……信じた、自分の、道を……わかるか?」
     もう目も見えなくなっていたのだろう。
     誰ともなく呟いた言葉だったが、顔だけは偶然サクラコの方を向いていた。
     だから、サクラコはこう返したのだ。
    「信じた自分の道……トゥルルでいすね?」
    「違う! シジミだっ!!!」
     怪人が死の間際に全力でツッコミを入れつつ、そのまま爆発する。
     なんでシジミなのか不明だが、とにかく怪人は灼滅されたのだった。
     けっこうカオスな仲間達を見つつ、治胡が戦いの汗をぬぐう。
    「ふう、暑苦しいヤツだったぜ」
     治胡の言う通り、暑い奴はいなくなった。
     芦ノ湖に静寂が戻る。
     灼滅者達の誰もが、心無しか少しだけ涼しくなったような……そんな気がしたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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