魔法使いに憧れて

    作者:零夢

     魔法使いになりたくなったら探してごらん。
     長いマントにとんがり帽子、黒猫と一緒にお散歩する彼女は、きっと君を仲間に入れてくれる。
     俯きがちでも躊躇いがちでも、ちょっとだけ勇気を出して手を伸ばせばいい。
     彼女は嬉しそうに笑って、ぎゅっと握り返してくれるはずだ。
    「これから一緒にがんばろうね!」
     と。
     つらいことも嫌なことも、もう一人で悩む必要はない。
    「でもぼく、ほんとに何もできないよ? 頭も悪いし運動もできないし、ほんとにだめな奴だから――」
    「そんなことない、だめなんかじゃないよ!」
     彼女は真っ直ぐな瞳で君の弱音を否定する。
     一人でだめなら、みんなで立ち向かえばいい。
     みんなで手を取り合って、立ち上がればいい。
     彼女を求めた時点で、もはや君は一人ではないのだ。
     君は変われる、強くなれる。
     みんなと変わろう、強くなろう。
    「みおの力、分けてあげるね」
    「力……?」
    「うん!」
     だから絶対、大丈夫だと。
     できないことなんてない、不可能なんてないと。
    「だってみおは、魔法使いだもん!」
     
    「単なる魔法使いごっこ――だったら、可愛らしいんだがな」
     そうではないのだと、帚木・夜鶴(高校生エクスブレイン・dn0068)が説明する。
    「少女、枸橘・水織は闇に堕ちかけた一般人だ。このまま放っておけば、彼女は遠からずダークネスとして覚醒するだろう」
     魔法使いなどではない、紛うことなきソロモンの悪魔として。
    「そうなる前に、きみたちの力を貸して欲しいんだ」
     幸い、水織はダークネスの力を持ちながらも人間としての意識を手放しきっていない。
     だからこそ、可能であれば灼滅者としての救出を。
     それが絶望的ならば、灼滅という名の救済を。
    「このどちらかを、任せたい」
     
     水織と子どもたちは、放課後になると皆で魔法の練習をしているらしい。
     水織を除き、子どもは全部で5人。
     そしてその5人は全員が全員、いわゆるいじめられっ子――後ろ向きになりがちな子だという。
    「やり方はともかく、水織のもともとの目的は、彼らを勇気づけることにあったらしいな」
     ある日芽生えた不思議な力。
     水織自身、その力に対する驚きや戸惑いがなかったといえば嘘になる。
     彼女だって、本当は戦うための力なんかじゃなく、もっと違う力が欲しかった。
    「憧れていた魔法とは違っても、それでも彼女はその力を使って彼女なりに頑張ろうとしている……その心意気は認めてやれるものだと、私は思う」
     やり方はともかくな、と夜鶴は繰り返す。
     いじめられっ子の背を押すために力を貸す、それを間違いだとは言い切りにくい。
     けれどもし、彼らが力に溺れたら? 暴走したら?
     もしもこのまま、完全に闇堕ちした水織が子供たちを率いて力を振り翳したら――?
     結果を想像することは、エクスブレインでなくとも難くない。
    「場所は河川敷、こちらが近づいたからといって逃げることはないが、いきなり襲い掛かってくることもない。とはいえ、灼滅であれ救出であれ、一度きちんと戦ってKOする必要があることを忘れないでくれ」
     また、水織と接触し、彼女の心に呼びかけることで、その戦闘能力を下げることもできる。
     それを狙うのならば、話の進め方や言葉の掛け方なども重要になってくるだろう。
    「それと、5人の子どもたちは皆、水織に救われたという認識があるからな、いざとなれば間違いなく彼女のために戦うだろう。彼らの根本にあるのは水織に対する信頼意識だ。言葉だけで水織から引きはがすのは無理だと思ってくれ」
     ちなみにこの5人、日常に戻れないほどの強化はされていないが、ESPが効く相手ではない。
     とはいえあくまで見習い魔法使い、彼らのサイキックは二回に一度、成功するか否かといった程度らしい。油断さえしなければ強敵になることもないだろう。
     
    「魔法使いといえば、誰しも一度は憧れたことがあるんじゃないか?」
     教室の灼滅者たちに、夜鶴は微笑とともに問いかける。
    「この学園には本物の魔法使いもたくさんいるが、私からしてみればきみたちは皆、下手な御伽噺よりずっとすごい存在だからな。駆け出しの魔法使いたちに、本来魔法とはどういうものか、きっちり手ほどきしてやってきてくれ」
     よろしく頼んだぞ。
     そう言って、夜鶴は灼滅者たちを見送った。


    参加者
    羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)
    鴇・千慶(ガラスの瞳に映る炎と海・d15001)
    反転院・オセロ(二次元が恋人・d15176)
    伊藤・実(高校生サウンドソルジャー・d17618)
    生石・朱鳥(稲妻落とし・d18075)

    ■リプレイ

    ●小さな魔法使い
     放課後の河川敷、リンデンバウム・ツィトイェーガー(飛ぶ星・d01602)は目的の六人を見つけると、柔らかく目を細めた。
    「ふふ、かわいらしい魔法使いの卵さんたちね」
     まだこちらに気づいていないらしく、子供達は思い思いに魔法の練習に励んでいる。
     杖に見立てた小枝を振ったり、ピンと伸ばした人差し指から何かを出そうとしてみたり。
     どうやら誰かが成功したようで、皆できゃっきゃと喜ぶ声が聞こえてきた。
    (「……何も悪い事はしていないのよね、あの子達」)
     生石・朱鳥(稲妻落とし・d18075)は複雑な想いでその光景を見つめる。
     たまたま進んだ方向が悪かっただけで、彼ら自身に罪はない。
     だからこそ、助けたいと思う。
    「なんか、昔の自分を見ている気分だな……」
     泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)がぽつりと洩らす。
     箒に乗って空を飛べる――星流は魔法使いとして目覚める前から、そう疑わなかった。
     箒ととんがり帽子を手放さず、闇に堕ちた幼馴染を助けたいと願っていた。そして、星々がそれに応えてくれた。
     そんな過去と今の水織が重なり合う。
    「では、そろそろ行ってみようか」
     言って、反転院・オセロ(二次元が恋人・d15176)は口の端に笑みを乗せる。
     ひたむきに頑張る小さな魔法使いたちを導くために。

    「お初にお目にかかる。魔法使いとして話す事があり推参致した」
     そう声をかけたのは鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)だった。
     じゃらりと鳴った彼の錫杖に、子供達はビクリと驚き肩を揺らす。
     無理もない、錫杖のみならず着物を纏った神羅はまさに東洋の魔法使いであったし、何より『魔法使い』の単語を出されては、反応しない方が難しい。
    「お兄ちゃんと、お姉ちゃん達は何……?」
     戸惑う子供達を庇うように一人の少女が進み出る。
     長いマントにとんがり帽子――彼女が枸橘・水織だ。
     彼女の足元では黒猫がシャーッと毛を逆立てている。
     これ以上の警戒は流石にまずい。
     羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)が口を開く。
    「ひお達は河川敷の魔法使いさんの話を聞いて、お話したいと思って来たの」
    「ふ、うん……?」
     僅かながらも興味を示す水織に、陽桜はそのまま語りかける。
    「みんなを勇気付けたい、応援したいって頑張る水織ちゃんの気持ちは、間違ってないよ」
     とっても素敵で、大切なことだ。
    「でも、水織ちゃんやみんなの魔法の力は、誰かを笑顔にすることもできるけど、同じくらい誰かを傷つけたり悲しませてしまうこともある」
     魔法は万能じゃない。
     その力を使うという事は、怖いことも知らなくてはいけない。
     言われて、水織はぎゅっと俯き言葉を探す。
    「……けど」
    「じゃあ例えばだ。君はオウチで料理するかな?」
     迷いながら逆説を繋ぐ彼女に、伊藤・実(高校生サウンドソルジャー・d17618)が問う。
     水織は一瞬きょとんとし、それでもすぐに頷いた。
    「お手伝いはするよ」
    「そっか。ならその時、包丁使うよな。あれっていきなり一人でやった?」
     水織の答えは当然、ノーだ。
     お手伝いである以上、いや、そうでなくとも多くの場合、子供は刃物の使い方を大人から学ぶ。
     水織の力もそれと同じ。
    「誰かに見てもらってやらないと、凄く危ない。指を切る程度じゃ済まないし、周りの人を巻き込んじゃう」
     それは脅しなどではなく、紛うことなき事実。
     実際に経験した灼滅者だって、少なくない。
    「そんなことっ」
    「聞いて、みお。そのまま力をつけ続けたら、みおは魔法使いじゃなく悪魔になっちゃうよ」
    「……え?」
     鴇・千慶(ガラスの瞳に映る炎と海・d15001)の言葉に、水織はぴたりと動きを止める。
     このまま放っておけばどんどん歪んで、ダークネスに呑まれた水織はいなくなる。
    「それは、やだな」
     真っ直ぐな瞳を向ける千慶。
     水織は震える拳を握り締める。
    「じゃあ……じゃあ、みおはどうすればよかったのっ!!!!」
     叩きつけるように吐き出された、水織の本音。
     嫌な風が巻き起こり、彼女の瞳が闇色に輝く。
     まるで予言者の瞳のようで、その本質は魔法使いのそれと全く異なる。
    「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、みおたちの邪魔はさせないんだから!」
     少女はその身に、悪魔を宿す。

    ●魔法の力
     水織の豹変で、その場の空気は一変する。
     人払いの殺気を放つ陽桜に、水織を守るように進み出る子供達。
     そして、振り翳した指先から氷の魔法が放たれた。
    「みおちゃんをいじめるなっ!」
    「違う、今の彼女は悪魔に操られている! よく見るんだっ!!」
     星流は予言者の瞳を発動させ、彼らに語る。
     顔つきも雰囲気も、見ればきっとわかるから。
    「……っ、でも、それでも水織ちゃんは私たちの魔法使いだもん!」
     躊躇いながらも反論する少女。
     それに頷いたのはオセロだった。
    「確かに、ワタシたちみたいな能力者は魔法使いに見えるかもな」
     と。
     だが、これから見せるのはダークネスのように乱暴な力ではなく、それを制御した者の力だ。
    「正しい力の使い方を、手取り足取り教えてあげよう!」
     言うや、彼女のナイフから夜霧が溢れ、仲間の氷を溶かし去る。
     負けじと放たれた魔法の矢がリンデンバウムの身に刺さるが、彼女の笑顔は揺るがない。傷も痛みも全て無視だ。
    「私たちが信じられない? 水織ちゃんを任せられない?」
     そうかもしれない。まだ、些細な言葉を交わしただけだから。
     でも、それで構わない。
     全てを受けとめる覚悟はできている。
    「行くわよ、りゅーじんまる」
     呼べば、彼女の霊犬は応えるように斬魔刀を振るう。とどめの一撃は彼女自身が――当然、威力は加減済みだ。
     実も霊犬を使役しリンデンバウムの回復を任せると、盾を構えて矢面に立つ。
     走りくる少年に立ちはだかり、そこから繰り出すのはシールドバッシュ。
     そして。
    「任せたぜ、鴇」
     彼の影から千慶が飛び出す。
     少年が気付いた時にはもう遅い。
    「もう君は……君たちは強くなったよ」
     拳を構え、千慶が言う。
     君たちには強くなろうと思う仲間ができた。
     魔法がなくても、もう大丈夫。
    「――人間って、強いんだよ」
     少年の動きを軽くいなし、一思いに千慶は決める。
     信頼という絆、依存にも似た執着。
     どこか紙一重なそれらは、きちんと分けねばいつか悪魔に魅入られる。
    「しばし眠っていただこう!」
     大きく振るった神羅の腕に、三人目の意識が途切れる。
     見習い魔法使いはあと二人。その事実に、彼らの瞳に不安げな色が浮かぶ。
     いや、不安の原因はそれだけではないだろう。
     彼らはこの状況どころか、自分たちの力すらも理解しきれていない。
     わからないことは、怖れに繋がる。
    「得体の知れない力を使い続けるって不安だよね」
     朱鳥は不安を射抜くように二人を見据える。
     でも、どんな不安も手遅れじゃない。知らないことは知ればいいだけ。
    「力を持つという事がどういう事か、教えてあげるよ!」
     オーラを纏い、ぶつける拳。
     糸が切れたように倒れる小さな体。
    「みんなっ――」
     咄嗟に水織が踏み出せば、残された少年が彼女を止めた。
    「……行っちゃやだ」
     震える声で、けれど通せんぼの腕は下ろさない。
    「みおちゃんがぼくらに力をくれた、だからぼくらは戦うんだ!」
     枝を構え、振り上げる。
     狙うは陽桜。なのに、振り下ろした先からは何も出なくて、ついには枝を捨てた拳をがむしゃらに振るう。
     当然、サイキックでない打撃が効くはずもない。
     けれど止まらない手を、陽桜はただ受けとめる。
     内気な子が何かの為に頑張れる――水織の魔法は、一歩踏み出す勇気だ。
     そして、皆はその一歩を踏み出したのだと思う。
     だからあともう一歩。
    「水織ちゃんの魔法なしで、自分の勇気で前に進むの。ダメなんかじゃないよ、絶対大丈夫!」
     はっと少年が目を見開いたのは一瞬のこと。
     記憶に残る大切な言葉が、彼の心を呼び戻す。
    「今度はひおが、はなうたさんの魔法かけたげるね♪」
     陽桜は優しく笑い、縛霊手を振り下ろした。

    ●きみが憧れたもの
    「……まだ、一人前じゃなかったから」
     水織は俯き、小声で呟く。
     皆が弱かったから。
     みおの力が足りないから。
     だから、もっと、もっと――!
    「そうじゃないわ、水織ちゃん。力は切欠でしかなかったはずよ」
     暴走しかける水織に、リンデンバウムが一歩踏み込む。灯した笑みは絶やさず、諭すように、宥めるように。
     もし水織が力を失っても、きっと何も変わらない。
     だって。
    「『魔法』が嬉しかったんじゃない、『一緒』が嬉しかったんでしょう?」
    「黙って!!」
     何も聞きたくないというように、水織の動揺が竜巻を呼ぶ。
     けれど、何も聞こえなくとも実戦を通して伝えられることはある。
     リンデンバウムがりゅーじんまるの一撃とともに雷を落とせば、実も霊犬を連れ竜巻の中を押し進む。
     正直、今回のケースを得手・不得手で分類するなら不得手である。
     が、真面目にやる理由もそれなりにあったりするわけで。
    「ちゃんと助けてあげなくちゃ、なッ!」
     狙いを定め、指輪から放たれる弾丸。
     竜巻に刻まれた傷はオセロの護符が癒してくれる。
    「やれやれ。君の憧れる魔法使いは悪意をもって、誰かを傷付けるものなのかい?」
     オセロは笑むと、まあワタシは魔法使いより賢者をオススメするがね、なんて付け加える。
     なにせ賢者はカッコいい。
     もっとも水織がそんな話に乗るかは別で、オセロだって賢者の域には未到達。だが、そこはおいおい学べばいい。
     魔法使いと賢者の、見習いどうし。
    「違う、悪意なんかじゃない、みおはみんなで立ち向かう力が欲しかった! でもこんな力でできるのは――」
    「ああ。間違ってはおらぬ」
     神羅が言葉を重ねる。
    「枸橘殿の志は正しいと思うし、実際にその力で世や人を救う行動は出来る」
     だって、世界に魔法は実在するのだから。
     魔法があって魔法使いがいて、そして、ダークネスがいる。
    「魔法で人の役に立ちたいならば、内なる闇を制する者になる必要がある」
     それが自分達、灼滅者という存在だ。
    「魔法と呼ぶには些か野蛮であるが、一手馳走致そう!」
     叩き付けるは鬼の腕。
     千慶もそれに続く。
    「みおはぜったい、俺達といっしょだよ」
     一人じゃ倒れそうな子たちを助けて、皆で強くなろうとした。
     水織はいい魔法使いになれる。
     神羅の言うような存在に、きっとなれる。
    「みおは、灼滅者に向いてるよ」
     そう信じて、千慶は拳を撃ち込む。
     よろめく水織――何とか持ちこたえれば、すかさず陽桜が走り込む。
    「水織ちゃん、一歩だけ立ち止まって」
     水織は今、すごく危ないところにいる。
     どんどん歩いたら、大変なことになってしまう。
    「このまま進めば、水織ちゃんがやりたかったことも台無しだよ!」
    「……っ」
     次々と放たれる拳撃に、水織の息が詰まる。
     反撃しようと上げた手は、星流のマジックミサイルに止められた。
    「魔法とは言葉や行動で人に勇気や希望を与える事――魔力は、その補佐でしかない」
     水織のしたことは、まさにそれだと星流は思う。
     そういう意味で、水織はもう、自分だけの『人を救える魔法』を持った魔法使いだ。
    「水織ちゃん、闇にのまれないでっ! 君が望んだ未来を思い描いてっ!!」
     星流が叫ぶ。
     それが君を、導いてくれるから。
    「み、おは……――」
     闇色の瞳から一筋の滴がこぼれ出す。
     動きを止めた水織――やるなら今だ。
    「ちょっと痛いけど、我慢しなさいよ」
     言って、朱鳥は地を蹴り飛び上がる。
     使う人の心次第で、良くも悪くもなる魔法の力。
     その一端を、肉体派魔法使いとして見せてあげる。
    「これでラストよ! 稲妻落としぃぃ!!」
     朱鳥の踵が、見事に決まった。

    ●踏み出す先の道
     目覚めた水織を一番に迎えたのは、陽桜の笑顔だった。
    「おはよ、水織ちゃん。体は平気かな?」
    「えっ、あ……う、ん」
     戸惑うように頷く水織。その瞳に、もはや闇の色はない。
    「えっと、みんなは……?」
    「案ずるな。皆、穏やかに眠っている」
     恐る恐る尋ねた水織に、神羅が答える。
     あちらだと視線で示せば、水織はほっとすると同時に、申し訳なさそうに視線を伏せた。
     そんな彼女に、星流が静かに声をかける。
    「……君は十分立派だったよ」
     実際、水織があのまま悪魔に心を囚われる可能性だってゼロではなかった。
     けれど、水織は水織として、今ここにいる。
    「きっと、思い描いた魔法使いになれるよ」
    「ほんと?」
     水織が首を傾げると、オセロが頷き、早速指南を始めてみる。
    「ああ。では手始めに、ワタシを反転院さんと呼んでみようか」
    「は、んてんいん、さん?」
     ……なんて冗談と楽しげなオセロはさておいて。
    「水織ちゃん、私達ならその力について教えてあげられるわ。だから私達と一緒に来て欲しいの」
     朱鳥が言えば、
    「危なくない力の使い方、知りたいだろ?」
     実もそれを後押しする。
    「……やっぱり、お兄ちゃんとお姉ちゃんも魔法使いなんだよね?」
     しばしの間を空け、確認するような水織の言葉に、リンデンバウムがふふっと笑った。
    「そうね、こんなことは出来たりするわよ?」
     くるりと回した箒に乗れば、彼女は空高くへと舞い上がる。
     わっと見上げた水織に、その足元では、にゃあと一つ、猫が鳴く。
    「ねえ、ねえ。このくろねこ、なんて名前なの?」
     興味津々の千慶が訊ねると、困ったように水織が答えた。
    「この子、野良だから決めてないの」
    「うーん、そっかぁ」
     言いつつ、千慶がだっこしたいなぁ、だめかなぁ、かわいいなぁなどと考えていると、猫の方からくりくりと頭をこすりつけてきた。
     思わず、千慶の頬が緩む。
     水織の方もご機嫌な野良が嬉しかったのか、小さく笑って立ち上がる。
    「……みお、決めたよ」
     これからのこと、進みたい道。
     まずは、目が覚めたらみんなに言うのだ。
     みおはこの人たちと一緒に、一人前の魔法使いになってくるからね、と。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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