一方的な暴力、万引き、カツアゲ、ひったくり、痴漢行為など傍迷惑な悪事を繰り返しているその不良集団は、街の人々にとても恐れられていた。
「捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
持ち前の悪運によって警察からまんまと逃げおおせている彼等は、最近かなり調子に乗っており、『オレたち最強!』などと恥ずかしげもなく公言し、セコイ犯罪を重ねているのだった。
ぶっちゃけバカである。
ある日のこと。
「ごきげんよう」
「……うえッ?」
緑深き山の麓にある、人から忘れられた工場廃墟――不良集団のアジト。
そこに突然訪れた人物を見て、不良達は度肝を抜かれた。
入口に立ったのは、ひらひらしたレースがあしらわれた綺麗なドレス、ふんわりとしたウェーブヘア、つぶらな瞳に小さな体躯……不良の世界とは一生縁がなさそうな、どこからどう見ても可憐な美少女。
そして彼女は異様なものを軽々と引きずっていた。それは、ズタボロにされた不良仲間の体で。
「……なっ、なんだオマエっ!?」
「最強の名をほしいままにしている方がここにいらっしゃると聞いて、はるばるやってきましたの。私の名は殿ケ谷理彩。言葉よりも拳でしょう。さあ、この私と戦って下さいまし!」
鈴を転がすような声でそう言って、美少女――理彩は上品に微笑んだ。
数分後。
「残念ですわ……」
足元に累々と横たわる屍の中心で、理彩は大きな溜息をついた。
「今度こそと思ったのに、ここにも強い方はいなかった……本当にガッカリですわ。弱いって罪ですよね。はぁ」
と、そこで――理彩はフッと我に返ったような表情になり、ゆるりと首を傾げて呟いた。
「私、どうしてこんな事を……強い方を探して、一体何になるのかしら?」
だがそれは一瞬の事。彼女はすぐに無邪気な笑顔となって、窓の外に目を向けた。
「こうなったら、この方々がやっていたように、道を歩いている街の方々に片っ端から喧嘩を売ってみましょうかしら。そうすれば強い方に出会えるかもしれませんわね。そうしましょ♪ 私ったら、ナイスアイディア! ぐふふふふっ」
血塗れになった拳をぶんぶん振って、彼女は満面の笑みを浮かべた。
●お嬢様の殴り込み!
アンブレイカブルに闇堕ちしかかっている少女がいる、と神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は言った。
「殿ケ谷理彩、小学4年生。裕福な家庭の箱入り娘。こんな状態になるまでは、読書好きの引っ込み思案、暴力なんかとんでもないという、優しくておとなしい女の子だったらしいぜ」
そんな彼女が何の因果か、強敵との殺し合いを渇望する狂ったバトルマニア、アンブレイカブルに変貌しようとしているのだ。
「半闇堕ち状態の理彩は、これまでに、色々な街に出向いて不良集団を半殺しにし、悪の組織をボコボコに潰してきた。この行いに関しては、正体不明の救世主が現れたと街の人々には感謝されていたらしい。まるで正義のヒーローみたいだよな。それだけなら別に問題はなかったんだが……」
問題のあるなしは別として――これから起こる同様の事件において、遂に理彩は死亡者を出してしまう。それだけではない。彼女を放置しておけば、被害は更に街へと拡大してゆくというのだ。
「悪質な不良とはいえ、相手はただの一般人だ。命まで取るのはさすがにやりすぎだろう。なにより、殺人を犯してしまったら、理彩はもう――後戻りできなくなっちまう」
完全なダークネスとなってしまえば理彩という存在は消える。しかしこれは未来の話。今ならまだ、灼滅者として彼女を救うチャンスが残されているのだ。
説得と救出、もしくは打倒。
「そういう訳だ。この問題を、お前達の力で良い感じに何とかしてきてくれ」
幸い、灼滅者達は理彩よりも数十分は早く、事件現場となる不良のアジトへ到着できる。
「まずは、そこにいる不良達をどうにかしなければならないな」
アジト――工場廃墟内の広い倉庫にたむろしている不良の数は10名。中学生から高校生くらいの、血の気が多い男子達だ。
「街で悪事を繰り返してチョーシに乗っているタチの悪い連中だし、少々こらしめてもいいぜ。ただし、シャレにならないような重傷を負わせないようにな。理彩が現れる前に適当にボコって追い出すなり、どこかに閉じ込めるなり、とにかく不良達が理彩の目に触れないようにしてくれ」
しばらくしてから訪れるであろう理彩は、そこにいる灼滅者達を『オレたち最強!』と公言している不良集団だと勘違いしてくれるだろう。
「バカに間違えられるのは不本意かもしれないが、我慢してくれ。彼女とはろくな会話も交わせず、すぐに戦闘へ突入する事になるだろう。理彩は強い者を求めているから、手応えのある戦いになれば、お前達に興味を抱いてくれる筈だ」
そうなって初めて、彼女は相手が投げかけてくる言葉にも耳を傾けてくれるというのだ。
「説得内容は、お前達に任せる。理彩の心をこちら側に引き戻せるような強烈な言葉を、拳と一緒にガンガン叩きつけてくれ」
現在はまだ理彩のお嬢様的な人格が色濃く残されているが、完全に闇堕ちしてダークネスとなれば、グフフフと笑う汚い言葉遣いのガサツなオジサンの人格に取って代わられてしまうらしい。それはあまりにも悲劇的な展開ではなかろうか。
「本人もそれは嫌だろうし、その辺を突っついた言葉で攻めてみるのもいいかもしれないな。説得が効けば攻撃力も衰えてくるだろうし、どちらにしろ理彩を救うためには一度KOしなければならないからな。できそうな事は全て試してみるといい」
説得が伝わっていれば、戦って倒れた後に理彩は灼滅者となる。もしも駄目だった場合は……ダークネスとして灼滅されてしまうだろう。
目的地への地図を灼滅者達に差し出し、ヤマトはニヤリと不敵に笑った。
「理彩を救ってやってくれ。お前達ならやり遂げられると信じている。吉報を待っているぜ」
参加者 | |
---|---|
風嶺・龍夜(闇守の影・d00517) |
最上川・耕平(若き昇竜・d00987) |
天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553) |
シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984) |
リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213) |
叶・一二三(輝装闘神レイヴァーン・d12033) |
ラティファ・アフマド(炎の手を持つアフマドの娘・d15253) |
綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780) |
●邪魔者を排除せよ
初夏の爽やかな風が吹き抜ける遊歩道。山の散策ルートも兼ねているらしく、幾人かのハイカーとすれ違ったが、細い枝道の先にある廃墟に辿り着いた時にはもう、のどかな空気はすっかり消え去っていた。
「いかにも悪人がアジトにしそうな場所だね」
目を輝かせながらくすんだ建物を見上げるのは、正義の血を滾らせた叶・一二三(輝装闘神レイヴァーン・d12033)だ。
「さ、行こうか」
雑草をガサガサ掻き分けて敷地の奥へ進入した灼滅者達は、下品な笑い声が聞こえてくる倉庫を発見し、躊躇なく中へ飛び込んだ。立ちこめる紫煙の向こうでふざけあっていた少年達が、侵入者に気づいて嫌らしい笑みを浮かべる。
「何だぁ、オマエら? ここは俺らの縄張りだぜ」
興味本位で廃墟に入り込んできた学生グループとでも思ったのだろう、彼等は哀れな獲物を見るような飢えた目つきをこちらへ向けてきた。
「私がかっこいい強さを教えてあげるのです」
相手のペースになどつき合っていられないとばかりに不良の群れへ突っ込んだ天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)が、体格の良い不良をがしっと捕らえる。
「何だこのガキ!」
「暴れると危ないのですよ?」
「なっ……ぎゃー!」
ぽぉん。不良の体が倉庫の天井まで派手に投げ上げられた。垂直に落下してくる体をキャッチして、再度投げ飛ばすティナーシャ。
「正義のヒーローとして注意をしに来たんだけどね」
続いて、童女のパフォーマンスに驚愕する不良達の前を横切った一二三が、脇に積み上げられていた廃材を拳一発で粉々にしてみせる。
「ちょっと強いからって調子に乗って人様に迷惑をかけてると、こうなるよ?」
その衝撃で足元に転がってきたドラム缶を手刀で軽々とへこませ、不良達に蔑みの視線を向けたのはリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)。
「悪運ってね、揺り戻しがあるのよ。知らなかった?」
「この野郎ッ!」
およそあり得ない事態に遭遇し恐慌状態に陥った不良達が、よせばいいのに鉄パイプを拾い上げて襲いかかってきた。上段からの攻撃をパシッと受け止めたシャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)が鉄パイプを真っ二つにし、攻撃者を蹴り飛ばす。
「武器は危ないですし、意味ないですよぉ。早く逃げる事をお勧めしますぅ…」
「う、うるせぇッ!」
「困った人達だね」
向かってくる不良をバトルリミッター状態で薙ぎ払った最上川・耕平(若き昇竜・d00987)は、怯む相手に凄みのある笑顔を向ける。
「これ以上、悪事を働くなら……分かるよね?」
「えーいっ!」
しぶとく暴れる不良を狙った綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)が、勢い余ってコンクリートの柱を粉砕。音を立てて崩れる瓦礫の向こうでは、まだティナーシャが人間お手玉を続けているし、リュシールは片っ端からしっぺを叩き込んで敵の戦意を削いでいた。
「うわ~、ぎゃひいいっ!」
もはや彼等は訳も判らず腕を振り回しているだけの間抜けな存在になり果てている。
「そろそろ頃合いか」
すっと前に進み出た風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)が、高らかに声を上げた。
「暴力は強さの証などではないわ!」
王者の風に威圧された少年達は暴れるのを止め、おどおどした目を龍夜へ向ける。
「家に帰って今までの所業を反省するがいい!」
「はい、お帰りはあちらですよぉ…」
反撃する気力も尽き果てたのだろう、不良達はシャルリーナの指示する裏口から這々の体で逃げていった。
「少しは懲りてくれるといいんだけどね」
彼等を屋内に留めておくような事態にならず良かった、と息をついたラティファ・アフマド(炎の手を持つアフマドの娘・d15253)が正面入口に目を向ける。
もうすぐ現れる筈だ――件の『お嬢様』が。
「闇に落ちかけてなお不良共を叩きのめしにくるのならば、本来の性格はきっちりした奴なんだろう。ここでしっかり引き戻してやらないと、ね」
●少女の遊戯
「いらっしゃい。待ってたのよ」
ふわりとした髪の可憐な美少女――理彩は、リュシールの言葉を聞いて不思議そうに首を傾げた。
「私、ご連絡差し上げた覚えはありませんのよ」
(「この子が理彩ちゃん……」)
倉庫入口に立った理彩は、まだ年端もいかぬ少女。同じく幼少の折に闇堕ちした経験のある唯水流が、いてもたってもいられずこの任務に志願したのは――理彩の一件が他人事とは思えなかったからだ。
(「絶対、助けなきゃ」)
かつて強い力を求めて闇に堕ちたシャルリーナも同じ思いでいる。
(「私と同じ道を歩ませたくはないですからね。必ず救ってみせます」)
「聖光招来! 輝装転身!!」
今がその時とばかりにスレイヤーカードを掲げた一二三の体を、白銀の装甲が包み込む。
「正義の光を拳に宿し、尊き世界の闇を討つ! 輝装闘神レイヴァーン、見参!!」
特撮ヒーローの如くビシッとポーズを決める一二三へ、理彩は嬉しそうな笑顔を向けた。
「まぁ素敵! 少しは期待しても良さそうですわね」
無敵斬艦刀を振り上げた龍夜が鷹揚に頷く。
「勿論だ、ガンガンかかってこい。俺達はそれを受け止められる。さぁ、始めようか」
「参りますわ!」
ドズン! 旋風のような理彩の初撃がリュシールの胸元を強く打った。
(「く、速い……っ。でも負けない!」)
苦痛を堪え、相手の呼吸リズムを読んだリュシールが繰り出したのは、理彩と同じ鋼鉄の拳。
「奥義の弐、虎討」
龍夜が振るう鉄塊の如き巨大な刃が、少女の矮躯に迫る。艦船をも叩き割る強撃をむしろ楽しそうに受け止める理彩の死角に飛び込んだシャルリーナが、鋭い斬撃で相手の急所を絶った。
「この守り、貫けるかな?」
耕平と一二三が自己の守りを固め強化する後方で、ティナーシャが緩やかに歌い始める。澄んだソプラノによる天使の旋律に包まれたリュシールを掠めんばかりの勢いで前に出たラティファは、異形化した左腕による渾身の一撃を繰り出した。
「……っ!」
皆に遅れを取るまいと前に飛び出して攻撃に出る唯水流。しかし少女との戦闘に戸惑い手加減を加えてしまった彼の一撃は、理彩にあっさりとかわされてしまう。
灼滅者達の攻撃を浴びた少女は優雅に髪をなびかせ、ウキウキした表情でくるりと一回転した。
「本当にお強いのですね。私、感動致しましたわ。本気で……行きますわよ!」
ドドドドッ! 激しくオーラを滾らせた少女が龍夜の懐に飛び込み、猛烈な拳の連打を彼の体に叩き込む。
「ぐ……っ!」
後方に吹き飛ばされそうな苛烈な追撃に苛まれながらも、彼はすぐさま反撃に出た。
「魂砕業の伍、痕拳」
具現化したトラウマに襲われる理彩へ、リュシールの閃光百裂拳が降り注ぐ。
「私はこの力を……誰かを守りたい為に振るいます!」
稲妻の如き青白いオーラを纏うシャルリーナの蹴撃を正面から食らった理彩。彼女の注意を自分へ引きつけるべく、耕平は追い討ちをかけるようにシールドで理彩を殴打した。
メディックを担うティナーシャと唯水流は、旋律と光輪を操り、傷ついた仲間を癒やしてゆく。
「たーっ!」
一二三の縛霊撃が炸裂し、霊力の網が少女の体を絡め取る。タタンとステップを踏みながら理彩に肉迫したラティファは、体当たりに近い勢いで凄まじい拳の連打をブチ込んだ。
「うふふ、何て楽しいのでしょう。続けて参りますわよっ!」
これだけ攻撃を食らっても理彩はびくともしない。身を低くして耕平の足元に滑り込んだ少女は、雷を帯びた拳で彼の顎をガツッと突き上げた。
反撃の拳を打ち込み後方へ飛びすさってから、耕平が口を開く。
「……僕の家は代々武道家でね。昔から良く言われたんだ」
「何をですの?」
「志無き力は只の暴力、ってね」
理彩は手を止めて首を傾げた。こちらの話に興味をもってくれたという手応えを感じた耕平が、更に言葉を続ける。
「自分の気持ちを充足させる為だけに力を振るう今の君に、志があるようには見えないな、僕には」
「志、ですか」
「理彩さん、その力はもっと色んな事に揮われるべきじゃないかな。例えば、多くの人を守る為、とかさ」
次いで、リュシールも理彩に語りかけた。
「ね。貴女、これまで悪人退治ばかりしてたでしょ。喜ばれてたわよ」
「私はただ、強い方を求めていただけで……」
「ただ強いのがいいなら、相手を選ぶ必要なんてないよね」
貴女は何に憧れて外に出たのかと、彼女は問う。
「感じない? 貴女の中の別の誰かを。そいつは貴女の体で弱い者いじめをしようとしてるの。部屋から出たのは、そんな奴の乗物になる為? 違うでしょ!」
「え。わ、私……は」
自分を気遣う言葉を投げかけられて、理彩は明らかに動揺している。揺さぶるなら今だ。龍夜は諭すような口調で言った。
「その力は悪しきもの。飲まれてはならん。人を傷つけるだけの力は、強さではない。人を守れる力が本当の強さだ……力に溺れるな。お前自身の優しさを取り戻すのだ!」
天上の歌を奏でて耕平を癒したティナーシャが、淡々と言葉を紡ぐ。
「貴女の力は何のための力なのですか? 誰かを倒すためだけの貴女の強さに、私達は負けたりしないのです」
「理彩ちゃん、きっとキミは優しい子なんだね。手に入れたその力で、悪い人に困らされている人達を助けたかったんでしょ?」
一二三は厳しい口調で「でも」と続ける。
「今のキミはただ力に溺れているだけだよ。思い出して、キミの優しさを!」
「あ……う」
次々と投げかけられる言葉に混乱する理彩。ラティファは何もかもを包み込むような表情で、少女を誘う。
「強い奴に会いたいのなら、うちの学園に来れば良い。理彩と良い勝負ができる奴だって、同じような仲間だって、大勢いるよ!」
「私……が望むのは強い方との殺し合いですわ。その為の力なのです、もの」
少女を覆い尽くさんとしている闇は色濃く深い。唯水流はこれまでの迷いを振り切って、声を荒げた。
「笑わせないで……その力の意味、君は理解していないんだね。心の伴わない力は只の暴力。私の周りには強い人がいっぱいいるけど、皆、誰かを守ったり、信念を貫こうとしてる! そんな稚拙なものを振り回して強さを語らないで!」
心のこもった拳であるならいくらでも受けて立つ――唯水流の言葉に揺さぶられた理彩の中で、彼女自身の心とダークネスの心とが鬩ぎ合いを始めたのだろうか。
「うあああっ!」
狂乱する理彩の掌から放出されたオーラキャノンを真っ向から浴びた唯水流は、決意の言葉を口にする。
「咲き狂えっ! 氷華!」
「力に乗られちゃダメ、乗りこなすの……こんな風に!」
闇に翻弄される少女に超硬度の拳を叩きつけながら、リュシールが説得を続ける。理彩の動きに先刻ほどのキレはない。そう、皆の言葉は確実に彼女の心へ届いているのだ!
急所を突いて更に足取りを鈍らせつつ、理彩の瞳を真っ直ぐに見据える龍夜。
「闇に飲まれてなお、お前は悪い奴だけを倒そうとした。そんな心根を持つお前を、なぜ非難したり嫌ったりするものか。大切なのは闇に負けない――心だ」
「爆ぜろ!」
理彩の心を取り込まんとする闇を祓うような勢いで繰り出されたのは、耕平のフォースブレイク。
「ううっ!」
魂の奥底に眠るダークネスの力を負傷者に注ぎ込みながら、シャルリーナはしっかりした口調で理彩に語りかける。
「とても……強い力です。でも、その力は貴女自身を飲み込んでしまいます」
これまで理彩の力が間違った方向に振るわれなかったのは、ただ単に運が良かっただけなのだろう。このままの状態でいては、彼女はいずれ無差別に人を殺めてしまうようになる。
「正しく自分の心と向き合って、力の使い方を学んで下さい。そうしなければ、他人と、自身を滅ぼしてしまいますから」
「何かを守るために戦うことができるなら、貴女はもっともっと強くなれるのです」
伝説の歌姫の如き神秘的な旋律で理彩を包み込んだティナーシャは、友達に向けるようにすっと手を伸ばした。
「私達と一緒に、かっこよくて強い貴女になってみませんか?」
一二三の足元から伸びた影の触手に絡め取られた理彩へ、ラティファの焔拳が降り注ぐ。赤々と燃えさかる炎に包まれた少女は、後方から突撃してきた唯水流の一撃を食らい、大きく仰け反った。
「う、う……!」
口から血を吐き出した理彩がラティファに掴みかかり、投げ飛ばす。
「そろそろ目を覚ましても良いんじゃないかな」
彼女はかなり疲労していると判断した耕平が理彩の首根っこを掴み、お返しとばかりに危険な角度へ投げ上げた。
「捕縛業の弐、搦糸」
龍夜の鋼糸が弧を描いて、理彩を捕らえる。もはや息も絶え絶えとなった少女へ、灼滅者達のサイキックが容赦なく打ち込まれてゆく。
「帰ってきて、理彩ちゃん!」
迷いを払った唯水流のオーラが力となり、理彩を攻め立てる。残された力を振り絞るように放たれた拳の連打をすんでのところで避けたシャルリーナの足蹴りが、理彩を決定的に打ちのめし――。
「きゃあ!」
小さく叫んで力尽きた少女は、気を失ってそのまま地に伏した。
●新たなる人生を
「大丈夫?」
唯水流の介抱によって目を覚ました理彩は、悪夢から覚めたような表情で灼滅者達を見上げた。
「……皆様の声が、聞こえましたの」
ダークネスという存在の事を改めて伝えられた少女は、頬に手を当てて「まぁ」と狼狽える。
何も知らない彼女に教えなければならない事は多いが、まずはクールダウン。リュシールは理彩の肩をぽんっと叩き、頑張ったわねと彼女を労った。
「今度、私達の学園に来てみない? 強くて楽しい人が沢山いるわ」
「理彩の力を借りたいくらいに手強い敵もいるからな……歓迎するよ?」
灼滅者になった以上、力を制御していかねばならない。その為に学園へ足を運ぶのもけして無駄ではないだろうとラティファは思う。耕平も一緒になって学園の事をアピールした。
「自由で良いところだよ。興味があったら来てごらん」
「正しい方向に力を振るうなんて、言われただけでは実感できませんよね」
そんな時は私達がお手合わせしますよぉとにっこり微笑むシャルリーナ。一二三もまた、正義のヒーローのように爽やかな笑顔を見せた。
「どんな事に力を使うのか、考えてみて下さいね」
ティナーシャの言葉に頷き立ち上がった理彩へ自分の名を告げた龍夜が、俺達と一緒に心を鍛えてみないかと手を差し伸べる。
「お誘いありがとう。一度自宅へ戻って、よく考えてみますわね。皆様に感謝致します」
上品に一礼する少女の顔から、闇の翳りは完全に消え去った。
意味も判らず強者を求めていた日々は、終わったのだ。
この新たな仲間が武蔵坂学園に加わるのも、そう遠くない未来の話なのかもしれない。
作者:南七実 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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