転機、来たりて

    作者:聖山葵

    「退きなさい。あなた方に興味はありませんし、邪魔です」
    「ひっ、ひぇぇぇぇっ」
     道着姿の女性に一睨みされただけで、男達は逃げ出した。
    「おっ、おい! 何で逃げるんだよ? 俺が負けるってのかよっ!」
     ただ一人、気魄に逃げなかった男だけが逃げ出す者達の背中に怒鳴っていたが、拳鬼である葛折・つつじにとっては男達には逃亡して貰わねばならなかったのだ。
    「一般人に害をなさない……約束、ですからね」
     呟きは、おそらくここにいない誰かへ向けてのもの。
    「……邪魔しに来ないなら、それはそれで良しとしましょう」
     あの方々が真の武に目覚めるなら門下に推薦するのも良いでしょうが、というつつじの言葉は男にとって意味不明で。
    「ちっ、面白くもねぇ。何ブツブツ言ってやがる?」
     苛立たしげにつつじを見やりながら突き刺さりそうなほどに敵意を視線にのせ、拳を握る。
    「強者を求めてとはいえ、一般人に雇われる雑魚です。些少、別のことに気を割いたとしても負けるはずもありません」
    「へぇ、見くびられたモンだな」
     つつじの言を挑発と受け取ったのか、男は額に青筋を浮かべ、握り混まなかった方の手で、手招いた。
    「負けねぇかどうか見せてやろうじゃねぇか」
    「良いでしょう」
     オレンジ色の大地を黒く切り取った人型が二つ向き合い、構えをとる。
    「いくぜっ」
    「参ります」
     この直後、一瞬の緊張を挟んで両者は互いに地を蹴ったのだった。
     
    「つつじが見つかったで」
     口を開いたクリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)は、黒板に貼られていた地図の一点を指さした。
    「今回連れ去るのは普通のアンブレイカブルの様だな」
     横にいた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)の受け継いだ言葉に胸をなで下ろす者も居たかもしれない。なぜなら前回つつじが連れ去ろうとしたのは、闇堕ちしかけた一般人だったのだから。
    「前回の接触で交わした言葉に納得したのかまでは解らないが、この行動は理解出来る」
     かって、つつじは灼滅者達に自分より先んじる手段があることを聞かされている。「両者の見解が異なり闇堕ち一般人を奪い合う展開になった場合、先手を打てる私達にかなうはずもない」
     ならば、灼滅者達の説得失敗にかけて足を運ぶよりも、約束にも反せず競合しないごく普通のアンブレイカブルを狙った方が失敗は少ない。
    「そう。かっての相互不戦を守り継続するつもりなら、今回つつじの行動に介入する理由はない」
     つつじは今後も競合しない野良アンブレイカブルを一般人に被害が出ないように回収してくれるだろう。
    「故に、今回足を運ぶかは君達次第だ。もし連れ去られるはずのアンブレイカブルを倒すというのであれば、私はつつじが接触する前にバベルの鎖に捕らわれることなく接触する方法を教えよう」
     このままの関係を持続するなら、足を運ばないという選択肢も存在する。
    「もっとも、関係改善の為に接触するのも自由だ。ただし、先日闇堕ちした少女を救ったことで、つつじとの関係は若干悪化している」
     故に交渉は帰って破局を招く恐れもあるとはるひは言い添える。
    「問題のアンブレイカブルは、ガラの悪い男達の用心棒みたいなことをやっているようで、接触時は数名の一般人を伴っている」
     明らかに堅気には見えないが、アンブレイカブルを灼滅するにしてもつつじと会話するにしても人よけの必要はあるようだった。
    「戦いになれば件のアンブレイカブルはストリートファイターのサイキックに似た攻撃手段で応戦してくる。私の演算で導き出した接触方法で戦い始めた場合、つつじが現れるまでの時間は十分」
      戦場となるのは、街外れの空き地。もちろん、戦うつもりがないならこれは関係ない。
    「つつじと接触する場合、前回のことを踏まえて向こうから何か提案してくる可能性もある」
     むろん、その提案をどう受け止めさばくかも決めるのは当事者達と言うことになるだろう。
    「結局の所、選ぶのは君達だからな。私は君達の選択を尊重しよう」
     今まで幾度か接触した一人のアンブレイカブル。葛折・つつじとの関係が破綻するか、それとも別の結果を迎えることになるのかは、おそらく赴いた灼滅者達にかかっている。
    「最後に、一切関わらない場合を考慮してこれを渡しておこう」
     言いつつはるひの差し出したのは、ファミレスの食事券だった。
    「それで食事でもしてくるといい。不要になりそうな気もするがね」
     わざわざ呼び出されてこの場所まで来たのだ、はるひは半ば確信を込めた目で灼滅者達を見やると、健闘を祈るよと一同を送り出した。
     


    参加者
    鏡・剣(喧嘩上等・d00006)
    鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)
    仰木・瞭(夕凪の陰影・d00999)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    戯・久遠(暁の探究者・d12214)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    クリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)

    ■リプレイ

    ●圧倒
    「そろそろ良さそうですね」
     遠くに見覚えのある道着姿を認めつつ口を開いたのは、星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)だった。
    「皆が見てるいうんなら仕方あらへん」
     周囲の一般人を追い払って用心棒アンブレイカブルにいきなり戦闘を仕掛けるつもりだったクリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)も、仲間達が静観を決める状況下で一人だけ挑む気は流石にない。
    「まさか出だしから拗れかけるとはな」
     それは『つつじと灼滅者の間』ではなく『仲間同士で』であったが、戯・久遠(暁の探究者・d12214)も嘆息を禁じ得なく。
    「お帰りはあちらや♪ちなみにタネも仕掛けもあらへん」
    「現場保存は探偵の基本です。お引き取り下さい」
    「ひぃぃぃっ」
     つつじに追い散らされて逃げてきた男達は、クリミネルの道路標識を曲げるパフォーマンスで立ち止まり、綾達のぶつけた殺気に気圧され方向を変えて走り去る。
    「これで一般人については問題ないな。さて、今回は拗れる事が無ければいいが」
     殺界形成による人払いへ参加していた久遠が危惧を抱きつつ前方へ視線を戻したのは、接触するつつじとの関係が悪化していることをエクスブレインから聞いていたからか。
    「あなた方は――」
    「久しぶりね。相変わらず、ってトコかしら? あ、邪魔立てする気は更々ないから、煮るなり焼くなり好きにして頂戴な」
    (「やはり、気づかれていましたね」)
     道着姿の拳鬼が声をかける前に鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)達をちらりと見たのは、犬神・夕(黑百合・d01568)の推測したとおり既に灼滅者達が居ることを知覚していたのだろう。
    「……つつじとあのアンブレイカブル、どっちが勝つか賭けない? って賭けるまでもないわね、これは」
     狭霧が自分の提案を打ち消した理由は、聞くまでもない。
    「うわぁぁっ」
     おそらくいつかの時同様手加減された回し蹴りで宙を舞い。
    「大言壮語では無いことが理解出来ましたか?」
    「アンタ……」
     強かに臀部を打ちつつも地面にへたり込んだ敗者へ、つつじはトドメを刺ずそれどころか手を差し伸べていた。第三者である灼滅者から見ても解る格の違い。
    「あー……まあ交渉とか俺にはよくわかんねーからとりあえずまかせるわ。全員で言っても纏まりつかなそーだしな」
     目の前で繰り広げられた戦いへ身体をうずかせつつも、鏡・剣(喧嘩上等・d00006)は、そう宣言して交渉を味方へゆだね。
    「お久しぶりですつつじさん、探偵の星陵院綾です」
     かわりに進み出たのは、綾だった。

    ●謝罪から
    「前回の地下闘技場では仲間が失礼いたしました」
    「俺からも謝罪させて頂きます、失礼しました」
    「これも、道場でのお話しの時に私達が説明不足だったことが原因ですね。改めて謝罪いたします」
    「前回の遭遇時は譲れなかったとはいえ、一方的な譲歩をしてもらいまして――」
     仰木・瞭(夕凪の陰影・d00999)と二人、頭を下げる姿を前につつじが頭を振る。
    「謝罪には及びません。何が正しい道かを自分で判断したまでなのですから」
     少なくとも、前回の一件でつつじが灼滅者達を責めるつもりがないと解ったことは、収穫かもしれない。
    「認識に差があってもめちゃったから今回は互いの理解を深めるためにちょっと聞きたいことがあるの」
     ならばという訳でもないだろうが、今回灼滅者達が目指したのはつつじとの関係改善。故に鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)は問いをつつじへと投げる。
    「貴方たちにとっての真の武って何なのかしら?」
    「何者にも負けない強さです」
     返された答えは、拳鬼でなくてはいけないみたいだと梓が受け取った理由をシンプルながらも雄弁に語っていた。
    「そう、それが貴方達の武なのね」
    「はい」
     つまりは、灼滅者が真の武に値しないのは、問題点は力量差にある、ということだろう。
    「徒党を組んで一人に襲いかかる真の武人がいるなら、話は別ですが」
    「そりゃま、ウチらは多人数じゃないとアンブレイカブルに歯が立たないけど……」
     困ったような顔のつつじへ、狭霧は視線を背けつつも同意する。ただし、個々の強さの面でのみ。
    「でも闇堕ちなりかけを狙ってたってコトは、そちらもあまり余裕がないんじゃない?」
    「新たに真の武人として目覚めた方を教え導くのは先達の役目でしょう?」
     狭霧が続けた質問に、つつじは一瞬不思議そうな顔をしたものの、何やら自己完結したのだろう。
    「すみません、少々驚いただけです。あなた方は余裕がなければ後輩を指導しないのですね」
     微妙な、誤解という形で。
    「違」
    「とりあえず、微妙に脱線しかけた様ですが、話しを戻しましょう」
    「せやな。そちら側の対応云うのを聞きたいわ。やけど、場所変えんか?」
     立ち話も何やしと、クリミネルが声をかけたのは、否定の言葉を遮ってつつじが口を開いた直後のことだった。
    「いえ、ここの方が都合がよいのでは?」
     首を横に振ってつつじがちらりと見た先には、ただじっと自身を見つめてくる剣の姿があって。
    「……失礼しました、続きを」
     つつじの言わんとすることを察した夕は、途切れた話の先を促す。
    「先日の事を気にされているようなので、その件について話を詰めてみようというだけなのですが」
     道着の拳鬼が口にしたのは、灼滅者側もおそらく一番に重点を置いていた案件。
    「真の武人になる以前の者に接触し、連れ帰ることについては好きにして構いません。ですが、あなた方が真の武人に目覚めた時は……」
     自分が道を示す、と。
    「闇堕ちしかけた一般人を救うことへ手を出さないかわりに、闇堕ちした灼滅者を連れ去ることを黙認する……」
     夕が反芻した条件は、灼滅者達の誰もが予想もしないものだった。むろん、灼滅者が闇堕ちすることを避ければ、灼滅者達の言い分を一方的に呑んだ条件でもあるのだが、だからといって即答出来る類の話ではない。戻ってこられる者も居るかもしれないのだから。
    「お互いが譲歩したともきっちり線引きしたとも言えますね。俺は相互不戦の継続を望みたいとは思っていますが……」
     故に瞭が選んだのは、不戦協定の継続を希望しつつ別の方向から説得を試みることだった。

    ●暗雲
    「邪魔にならない者に、あえて手を出そうとは思いません。私達の禁を破ったならば容赦をする気はありませんが、そう言うことはまず無いでしょう」
     つつじはそう答えた上で更に言葉を付け加える。
    「あなた方が言う所のダークネスの力に目覚めていない者を門下に加えようとは思いません。目覚めた者に関してはダークネスとして扱うでしょうが」
     細部はそれこそ、提案を呑むか次第ということなのだろう。
    「人間がダークネスになったら戻ることは出来ません。彼等の様な人を救わなければ、人間が減っていくばかりでこちらにとって不利益なのですが」
     切り口を変えて瞭が訴えた言葉に対して、つつじが漏らしたのは『理解出来ない』という一言だった。
    「そも、人間の管理というのはダークネスが行うものです。人間が減ったから灼滅者が不利益だと言われても……」
     つつじからすると、人間がダークネスになるのは自然の摂理であり、ダークネスが増える事で人間が減りすぎる事はありえないと目の前の拳鬼は語った。
    「あなた方は一つ、大きな思い違いをしていませんか? ダークネスが一体どれだけの間この世界を支配してきたと思うのです?」
     困惑とも呆れともとれるような視線で灼滅者達を眺めつつ、つつじは首を傾げる。この世界の支配者はダークネスなのだ、灼滅者達の言葉はまるでこの大前提を忘れているかのようで。
    「貴方の門下の人たちと私たちで合同訓練でもしてみない?」
     相互理解の為にと話を切り替えて梓が提案したのは、若干雲行きが怪しくなってきていたからかもしれない。
    「合同訓練、ですか……」
    「そうそう、いっそそっちの配下から腕利きを派遣して、ウチら相手に腕試しさせればいいんじゃない? 無論、真剣勝負じゃないカタチでね」
     一瞬、あっけにとられたような表情をした目の前の拳鬼は、狭霧の方をちらりと見ると少し考えてから、口を開く。
    「では、まず私を相手に力を示していただけますか? どうやら拳を交えたくてウズウズしている方もいるようですし」
     たぶん、この答えを待ち望んでいたのだろう。
    「そーいや最初にあったとき次はこっちで語り合おうぜっていったろ。稽古なら立ち会ってくれるっていってたんだから守ってもらうぜ」
    「『稽古としてなら、立ち合ってみたいですが』と言ったのは、森沢さんですよ?」
     拳を鳴らしつつ笑みを浮かべた剣へ瞭が指摘するが、ひょっとしたら聞いていないかもしれない。
    「あー、はいはい、落ち着いて落ち着いて。……ゴメンなさいね、この人喧嘩するコトしか頭にない残念な人で」
    「おい、むこうが力を――」
     つつじ側から持ちかけてきた話へ飛びつこうとする剣を狭霧が抑えたのは、まだ詳細を聞いていないから。
    「それで、力を示すっていうのは?」
    「私と戦って頂きます。むろん、手加減はしますし、あなた方の言う稽古のようなものでしょうね」
     手合わせを望む灼滅者達への気遣いと言うことなのか。つつじが出してきた条件は一対一で戦うと言うことのみ。
    「まさかつつじハンの方から言うて来るなんてなぁ」
     クリミネルにとっては意外だったし、交渉が纏まってから稽古を希望しようとしていた他の面々にとっても意外だった。
    「準備はよろしいですか?」
    「ああ」
     短く答えた剣は、一番手として地面を蹴り。
    「おらぁ! っ」
     繰り出した拳は、少し遅れて繰り出されたつつじの膝蹴りに相殺される。
    「真っ向勝負ですか、ならば」
    「ぐおっ」
     膝で受けたのは、つつじが両腕を後ろに縛って投げも拳も封じているからだが、それでもまるで勝負になっていない。ただの一蹴りで剣は吹っ飛ばされ、背中から地面へ落ちる。
    「では、次の方」
     汗一つかかず、振り返るつつじの前に小袖を脱ぎ捨て進み出たのは、梓で。
    「実はこうなることちょっと期待してたの……その高み、挑ませてもらうわ」
     目の前であっさり仲間が敗れたにもかかわらず、拳にオーラを集中させた梓は躊躇せず間合いを詰める。
    「なるほど、悪くありません……灼滅者としては、ですが」
    「うそっ」
     拳鬼は拳の嵐を殆ど最小限の動きでかわし、側面に回り込むとやはり一蹴りで勝負を決し。
    「次、ですね」
    「そう、やなっ」
     拳を繰り出すクリミネルの腹部へすれ違いざまに膝を叩き込んだ。
    「もっとも弱いダークネスよりも弱い、それがあなた方灼滅者です」

    ●信
    「武とは一対一の勝負で磨かれるもの。あなた方では最も弱い門下生にも及ばないのではありませんか?」
     訓練相手として力不足だと、つつじは言外に語る。拳を交えたのも、力の差を理解させる為だったのだろう。
    「話しを戻そう、こちらの条件は、闇堕ちしかけている者には手を出すが、アンブレイカブルはそちらに可能な限り譲渡する、だ」
     ならば本来の案件に戻るべき。久遠にしても、口にした言葉は条件の確認に過ぎなかったのかもしれない。
    「譲渡とは、まるで私達を物であるかのように言うのですね」
     だが、返ってきた声は冷たかった。横にいた元用心棒の拳鬼にしても、久遠を見る目は同じ。
    「失礼しました……ただし一般人を殺害した者へは相応の対処を――」
     流石にそのまま流すのは拙いと判断して夕が言葉を継ぐも。
    「一つ良いですか?」
     その言葉をつつじが遮った。
    「門下となった者が私達の指導に反して破門になったのならば私達は関与しません」
     つつじは言う。ただし、門下となった者が門下となる前に何をしていたとしても、門下となってから正しく修行をしているのならば、私達は門下の者を守りますと。
    「あなた方が灼滅者だと言うのでしたら、その中にも人を殺した者は多くいるはずです。あなた方もまた、過去の罪業を問わず、現在の生き様を受け入れているのでは無いのですか?」
     そう指摘されれば、灼滅者達は何も言えない。過去まで遡って殺人を咎めるつもりが無かったなら言葉選びを間違えたのだ。
    「第一、その論法で言うならダークネス及び眷属を殺した事のある灼滅者は、こちらで殺しても良い事になるのですが」
     あなた方はそれで問題無いのですか、と追加で問われれば灼滅者達に頷ける訳もなく。
    「現状では不服ということですか?」
    「……アンブレに挑む一般人がいた場合、その者も他の一般人同様の対応をしてもらえませんか?」
    「それはできません」
     夕の言葉につつじは頭を振る。
    「挑むのは、命の危機をもって真の武に目覚めようと言う意志によるものでしょうから」
     ただ、向上心のある人間を粗略に扱う事はありませんとも言った。
    「例え真の武に目覚めること無くとも敬意をもって弔いましょう」
    「そっちが懸命なはわかるんだけどね、それはこっちも同様。第一、この場にいる私達がよくても、私達の仲間が納得できないわ」
     狭霧は食い下がって見るも。
    「なるほど、あなた方は交渉する気がないのですね」
     返ってきた声は冷たく。
    「それは、交渉では無く、恫喝というのですよ」
     次の瞬間に見たのは。そして、と続けオーラを身に纏ったつつじの姿。
    「私達が恫喝に屈することはありません」
     むしろ、状況は悪化して。
    「なぁ、師匠がおった身として聞きたいんやけど……師匠の話をただ鵜呑みにしとらんか? ウチ等からしたら、戦力を集め戦争の支度しとるとしか思えんのや」
    「つまり、あなた方は戦争の支度をしていると?」
    「な」
     切り返しに驚きの声を上げたクリミネルをつつじは不思議そうに見る。
    「あなた方も先日、灼滅者を一人連れ帰った筈ですよ?」
     仲間を連れ帰っただけで戦争準備と言うなら、逆もまたしかり。そもそも、問いかけ自体がつつじの言を信じていないと言うも同じなのだ。
    「そもそも、誰と戦争するというのです?」
     流石に自分達と、とは言えない。黙ってしまったクリミネルのかわりに口を開いたのは、瞭。
    「話しを戻して、情報との取引と言う形ではどうですか? こちらからは得た情報で葛折さんの利益になるものを、優先的に渡します」
     こちらの予測力は実感して貰えてる筈、と持ちかけた話への返答は、この日最大の収穫だった。
    「そうですね、それなら交渉は可能かもしれません」
     話し合いで解決出来ることが解ったのだから、ただ。
    「正しい情報を伝えてくれる信頼があれば、ですが」
     既に遅かったと言うべきか。
    「今の時点で、あなた方の情報を信頼する理由がありません」
     積もりに積もったものが灼滅者達の信頼を損ねたらしい。
    「まともに会話出来ると思ったことが、私の不明だったかも知れませんね」
     失礼します、と立ち去るつつじを呼び止められる者は居ない。
    「どうして……」
     こうなった、と誰かの口から呟きが漏れた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 3/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 19
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