夜道に気をつけな!

     耶麻・さつき(鬼火・d07036)は、こんな噂を耳にした。
     『シャッター街に地上げの都市伝説が現れている』と……。
     都市伝説が確認されたのは、かつて商店街として知られていた地域。
     だが、最近になって大型ショッピングセンターが出来たため、ドミノ倒しの如く商店街が潰れていき、今ではシャッター街と化しているようだ。
     それでも、『俺の代で終わらせるわけにはいかねえ』と意気込む商人や、『お客さんが来なくなるまで頑張るぜ』と気合を入れる商人がいたらしい。
     そのおかげで何とか持ちこたえていたのだが、地上げ屋の都市伝説が現れるようになってから、いきなり通り魔に襲われたり、子供が交通事故に遭ったり、髪の毛が薄くなって来たり、不倫がバレて修羅場になったりしたため、廃業を選ぶ店もの少なくはないようである。
     都市伝説はありとあらゆる嫌がらせをしているらしく、ピンポンダッシュなどは日常茶飯事、猫除けのペットボトルの中身を水から灯油に変えたり、悪質なコラージュ写真を作って、近所にバラ撒いたりしているらしい。
     また、こっそり家に忍び込んで車に10円傷をつけたり、マジックで落書きをしたりして店主を絶望させたり、洗濯物を一纏めにして洗濯機の中に放り込み、娘との関係を劣悪なさせたりとやりたい放題。
     このままでは、商店街だけでなく、彼らの家庭まで崩壊する事は確実!
     そうなる前に都市伝説を倒す事が今回の目的である。


    参加者
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    耶麻・さつき(鬼火・d07036)
    アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    如月・花鶏(フラッパー・d13611)
    須野元・参三(戦場の女王・d13687)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)

    ■リプレイ

    ●シャッター街
    「いやー……まさか、本当に居るとは思ってなかったよ。噂ってのも大概、バカに出来ないもんだねぇ……」
     耶麻・さつき(鬼火・d07036)は都市伝説を倒すため、シャッター街にやってきた。
     かつてはいくつもの店が立ち並び、活気に溢れていた商店街も、今は昔。
     その面影すらないほど、商店街は寂れ果てていた。
    「放課後に商店街で買い物するのが日課の私にとって、このような都市伝説は許せませんね。家計を管理する者の怒り、見せてあげましょう。ええ、凄く怒っていますとも」
     激しい怒りをあらわにしながら、神凪・燐(伊邪那美・d06868)が男物のスーツ姿で闇纏いを使う。
     もう商店街に残っている見せはほとんどない。
     逆に言えば、それだけ都市伝説が現れる場所が限られているという訳である。
    「しかも、コラージュを悪事に利用するなんて……、許せません」
     不機嫌な表情を浮かべながら、御影・ユキト(幻想語り・d15528)が旅人の外套を使う。
     都市伝説は悪質なコラージュ写真を利用し、相手を追い込んでいたようだが、そこには多少なりとも真実が紛れ込んでいたため、余計にトラブルを引き起こしてしまったようである。
     おそらく、都市伝説の独自調査によって、ある程度の裏付けが取れていたのだろう。
    「確かに、迷惑極まりないですね。……と言うか、いつの時代から流れていた噂なのでしょうか? かなり時代遅れだと思うのですが……」
     納得のいかない様子で、アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341)が資料に目を通す。
     噂自体は昭和の頃から流れていたようだが、都市伝説が生まれたのは、つい最近。
     一体、どのような経緯でかつての噂が蘇り、都市伝説になったのか分からないが、そこにはシャッター街と化した商店街の事情も絡んでいるのだろう。
    「それにしても、ペットボトルに灯油か……。少し前の映画にそんなのあった気がするねぇ……」
     水の入ったペットボトルに目をやり、さつきが何気なくボソリと呟いた。
    「へ~、そんな映画あるんだ? ねえ、さっちん。ちょっと中身の味を確かめてみて。舐めても大丈夫だよ、きっと!」
     瞳をランランと輝かせ、如月・花鶏(フラッパー・d13611)が期待の眼差しを送る。
    「それなら、一口って……大丈夫な訳がないだろ。そもそもなんで飲まなきゃなんねーんだよ!」
     納得がいかない様子で、さつきがツッコミを入れていく。
     そもそも、このペットボトルに入っている液体が、水なのか、いつ入れられたものなのかも分からない。
     そんな状況で、ペットボトルの液体を飲む必要があるのか。
     答えは否。
     飲む必要などない……はずなのだが、なんだろうか、この期待に満ちた眼差しは。しかも、いつの間にか増えている。穢れのない円らな瞳が無駄にいくつも並んでいる。
     この雰囲気、この空気……、間違いなく飲まなければ、いけない状況。
     万事休す……、そう思った矢先、いかにもカタギではない風貌の一団が、視界の片隅に見えた。これはある意味、助けの船。
    「見つけた。あいつか」
     ハッとした表情を浮かべ、比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)が都市伝説を睨む。
     都市伝説は手下と思しき男達を連れているが、絵に描いたようなやられ役達ばかりで、ちょっと脅せば簡単に退散しそうな雰囲気満載だった。
    「まさか、こんなに早く会えるとはね。今日で地上げ屋の悪事は終わりよ。聞いたわよ、電気屋の佐藤さんから。浮気の証拠をネタに、だいぶ搾り取っていたようじゃない。しかも、こんな悪質なコラージュ写真で。やっぱり悪い事したら、それ相応の報いが来るんだと思うわ。まあ、佐藤さんの方は事実だったから……自業自得だったけど」
     佐藤さんから狙ったコラージュ写真を足元にバラ撒き、中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)が溜息をもらす。
     コラージュ写真は偽物だったが、浮気をしていたのは事実であったらしく、これがキッカケとなって芋づる式に浮気相手がバレていったようである。
     その数ざっと7人。毎日、別の相手と浮気を楽しみ、雪だるま式に膨れ上がった借金を、娘の学資保険を解約して賄っていたりと、最低っぷりを披露していたため、遅かれ早かれこうなったていた事は間違いなさそうではあるが……。
    「おいおい、勘違いをしてもらっちゃいけねーな。俺は商店街のゴミ掃除をしているだけさ。何ひとつ悪い事なんてしちゃいねー」
     都市伝説がチンピラ感をプンプンと撒き散らし、得意げに語り出す。
     それに合わせて、まわりにいた手下達も、いやらしくゲヘゲヘと笑う。
    「つーか、せこい嫌がらせしかやっていないじゃないか!! ……そうですよね?」
     都市伝説にツッコミを入れた後、須野元・参三(戦場の女王・d13687)が心配した様子で仲間達に確認をする。
    「なんだと……!」
     だが、それよりも早く、都市伝説がブチ切れ。
    「俺様のやっている事が……、せこいだと!?」
     都市伝説が睨みを利かす。
     それに合わせて、手下達も『おうおうおう、トシさんを怒らせてタダで済むと思うなよ』と警告混じりに呟いた。

    ●チンピラ達
    「あーあ、どうするのかなぁ。トシさんを怒らせちまったら、何が起こるかわからねーぜ。例えば、いきなりバイクが信号を無視して、突っ込んでくるとかさ」
     チンピラ達は調子に乗っていた。
     乗り捨ててあったバイクに跨り、いやらしい笑みを浮かべている。
     途端にバイクのけたたましいエンジン音が辺りに響く。
    「……ヒッ! い、いや、怖くなんてないからな。ほら、証拠だってこんなにある!」
     そう言って参三が都市伝説の犯行を裏付ける映像を見せようとする。
     しかし、都市伝説の姿は映っていない。一瞬たりとも。きちんと撮ったはずなのに。
     そもそも、都市伝説は実際には存在しえないモノ。
     故に、こういった事があっても、おかしな事ではないのかも知れない。
    「おい、こら! 難癖をつけていると、バイクで轢き……おっと! 無人のバイクが突っ込んでくるかも知れないぜ」
     チンピラが殺気立った様子で喚き散らす。
    「それは脅しか?」
     まるで月をその背に纏うようにして黒いコートをはためかせ、逢真がチンピラ達に冷たい視線を送る。
    「い、いや、あ、兄貴。俺達、ちょっとヤボ用があるんで、後は頼みます」
     その途端、チンピラ達が借りてきた猫の如く大人しくなり、そそくさとその場から逃げていった。
    「……って、おい! それはこいつらを相手にするより大事な事か? 違うよな? おい、こら、待てよっ!」
     都市伝説が必死に叫ぶ。
     だが、チンピラは決して後ろを振り向かない。
     それどころか、両手で耳を押さえて、『俺達は関係ない。何も見てない、やってない』と叫んでいる。
    「う、裏切ったな。この俺を……俺様を! 絶対に、許さん。許さんぞおおおお!」
     そう言うや否や、都市伝説が逢真達に背を向ける。
     もちろん、この場から逃げるたため。力の限り、全力で!
    「ねぇ、一体どこに行くつもりなの? この状況で。まさか、逃げるつもり? 尻尾を巻いて?」
     にっこりと笑みを浮かべ、紅葉が都市伝説の行く手を阻む。
    「い、いや、別に逃げる訳じゃない。あ、あいつらをだな。再教育しなければ……」
     そのため、都市伝説がしどろもどろになって、言い訳を語る。
     しかし、その間も逃げるチャンスを探して、あっちをチラチラ。こっちをチラチラ。今は戦うべきではない。いや、これから先も。相手にすべき相手ではない。
     そう結論が出てしまっているため、都市伝説は逃げ腰だった。
    「待ってください。悪事の証拠なら、いくらでもあるんですよ」
     すぐさま燐が都市伝説の逃げ道を塞ぎ、ある事ない事、口にした。
     本音を言えば、証拠はない。
     その上、相手は都市伝説。例え、証拠があったとしても、存在自体が曖昧なのだから、警察が動く訳もない。
    「それじゃ、俺はこの辺で」
     都市伝説がコソコソと逃げていく。
     ここで逃げなければ、明日はない。商店街の住民達が苦しむ顔を見るためにも、チンピラ達に制裁を加えるためにも、ここで戦う訳にはいかないのだ!
    「さっきまでの威勢はどうしたんですか。逃がしませんよ」
     都市伝説の後を追いながら、ユキトがホーミングバレットを放つ。
     その一撃を食らった都市伝説が派手に躓き、そのままゴミの山に突っ込んだ。
    「一部、自業自得な人も居たけど、悪質な都市伝説だし、さっさとボコってご退場願いましょうかね」
     仲間達と一緒に都市伝説を包囲し、さつきがスレイヤーカードを構える。
    「お、おい。じょ、冗談だろ。仲良くしようぜ。そ、そうだ。俺と手を組んだら、分け前の半分……何なら商店街の半分をお前達にくれてやる! 莫大な金と、広大な土地が手に入るんだ。べ、別に悪い話じゃないだろ?」
     青ざめた表情を浮かべ、都市伝説がさつき達に命乞いをする。
     もちろん、口から出まかせ。
     この場さえ凌ぐ事が出来ればいい。後は逃げる。逃げるのみ!
    「……まったく、最低な都市伝説だね。どうせ、嘘でしょ。顔に『ウソ』って書いてあるよ」
     不機嫌な表情を浮かべ、花鶏がジロリと睨む。
     都市伝説は……、目を合わそうとしない。
     それどころか、両目をギョロギョロと動かし、顔を必死に擦っていた。
    「どうせ、お前に祈る神などいないのだろう。このままここで殺してやる」
     堂々とした態度で情け容赦なく、アリカが都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
     それでも、都市伝説は『ま、まて。商店街の7割。何ならもう少し! だから命だけは助けてくれ!』と叫ぶのだった。

    ●都市伝説
    「た、頼む。見逃してくれ! 俺には身重の女房と、7人の子供が!」
     都市伝説は必死だった。
     相手が口を挟む隙すら与えず、マシンガンの如く己の不幸を語っていく。
    「それ……、嘘だよね?」
     だが、花鶏も負けてはいない。
     都市伝説が息継ぎをするほんの一瞬を狙い、強烈な一言を突っ込んできた。
    「い、いや……、本当だ。う、嘘なんて……ついてない」
     明らかな動揺。しかも、声が上擦り、何やら言い訳を考えているようだった。
    (「マ、マズイぞ、おい。こりゃ、絶体絶命のピンチじゃねえか。何とかして逃げなきゃ、死んじまう!」)。
     そう思いつつ、花鶏達をチラリ。
     妙に殺気立っている。殺る気満々。今世紀ブッ殺したいランキングナンバー1を見るような目をしている。
    「そんな嘘の積み重ねで、私達があなたを逃がすと思いましたか?」
     荒ぶるオカン的なオーラを纏い、燐が都市伝説に閃光百裂拳を叩き込む。
     その時、都市伝説は確かに見た。
     燐の背後で鬼のような形相を浮かべた荒ぶるオカン的な幻影を!
    「今まで自分がやってきた罪を悔いながら逝くがいい」
     その間に参三が仲間達と連携を取りながら、バスタービームを撃ち込んだ。
    「な、何か勘違いしているようだが、俺は悪くない。いい奴だ!」
     都市伝説が反論をする。
     涙目になって……、心の底から訴えかけるように!
    「いい訳なら、あの世でするんだな。きっと、あっちなら話を聞いてくる奴がいるからさ」
     都市伝説に語り掛けながら、さつきがフォースブレイクを放つ。
     それと同時に都市伝説が……逃げた。
     傷つくのも恐れず、一心不乱に!
     どうせ、無傷で逃げられる訳がない。
     ならば、どんなに傷ついても、逃げるべきだという結論に至ったのだろう。
    「逃がすか!」
     都市伝説の体を鎖で絡め取り、逢真が叫び声をあげて、勢いよく壁に叩きつけるようにして蛇咬斬を炸裂させた。
    「逃がさんと言ったはずだ。じわりじわりと行きたいところだが、流石にこれ以上、騒ぐのも迷惑だ。すぐ楽にしてやる」
     そう言ってアリスが鋼鉄拳を叩き込む。
     その途端、都市伝説が何か言おうとしたが、それよりも早くアリスの拳が体を貫き、跡形も残さず消滅させた。
    「これで商店街の人達も理不尽な暴力から解放されたわね」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、紅葉がホッとした様子で溜息をもらす。
     これで商店街の住民達も、安心して眠りにつく事が出来るだろう。
     ほんのごく一部を除いては……。
    「まあ、親子関係や不倫は……都市伝説を倒したところで解決しないでしょうね」
     どこか遠くを見つめながら、ユキトがやれやれと首を振る。
     特に後者は自業自得なので、解決する気がしない。
     むしろ、嫌われて当然。逆に、早いうちに発覚して、良かったように思えた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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