修学旅行~恐怖の一夜! 肝試し大会!!

    作者:かなぶん

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     今年の修学旅行は、南国沖縄旅行です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
     修学旅行を間近に控えて、学園のあちこちでは生徒達が旅行の計画を立てている。
    「ところで皆さん」
     そう切り出した五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、突然教室のカーテンを閉め切って、自分の顔を懐中電灯で照らしながら微笑んだ。
     暗闇の中に姫子の笑顔が浮かび上がる。怖い。 
    「修学旅行の夜といえば……やっぱり肝試しですよね」
     そう言うと、姫子は修学旅行のしおりのとあるページを開いて差し出した。
     どうやら修学旅行二日目の夜には『肝試し』が企画されているらしい。
    「ホテルの近くにある森が肝試しの会場です。許可はとってありますから安心して楽しめますよ。それじゃあルールを説明しますね」
     参加者は2~3人で組を作り、森の中のコースを歩く。そして数々の恐怖トラップに耐えながらゴールを目指してもらう。
     コースは森の中をぐるりと回るというもの。スタート地点からゴールまでは一本道だから迷う心配はない。安心して恐怖に身をゆだねて良い。
    「おどかす役も募集してますよ。森に隠れて、怖い仮装や怖い演出、怖い仕掛けに怖い音楽なんかで参加者の皆さんをおどかしちゃってください」
     友達をおどかすもよし、めいっぱい怖がってもよし。
     気になるあの子と二人きりで絶叫体験したいアナタ。
     仲良しの友達を思い切りおどかしてやろうと企んでるそこのキミ。
     南国沖縄の夜を、背筋も凍る恐怖と悲鳴で彩ってみないか!
    「せっかくの皆さんとの旅行ですから、いろんな思い出を作らないと勿体ないですもんね。皆さんも参加してみませんか? 私はオバケ役をやってみようと思ってるんですよ」
     手を胸のあたりで垂れて「う~ら~め~し~や~♪」と幽霊のマネをしてみせる姫子。
    「どうでしょう、怖いですか?」
     彼女は心底皆との肝試しを楽しみにしているらしい。
    「修学旅行の夜ってなんだかわくわくしちゃいますよね。私、張り切って皆さんを怖がらせちゃいますから。何人がゴールにたどり着けるのか、楽しみですね……ふ、ふふ、ふふふ」
     懐中電灯で顔を照らしたまま、いつもの微笑みで君達を誘う姫子。
     幽霊のマネよりその笑顔の方がなんか怖い。泣きそう。
     何はともあれ、沖縄の暑い夜をひんやり涼しく過ごすイベントに、是非君も参加してみてはどうだろう。
    「ふふふ、めいっぱい怖~い肝試しにしましょうね♪」


    ■リプレイ

     修学旅行二日目。恐怖の一夜が始まる。
     肝試し会場の入り口には、真っ赤な血文字で「スタート」と書かれた看板が立っていた。
    「それでは皆さん、あとでお会いしましょうね。ふふふ……」
     にっこり微笑んで姫子達おどかし役は闇の中へと消えて行った。

    ●肝試しスタート
     沖縄には妖怪が住むという。
     その名もキジムナー!
    「イヤーッ!」
     赤髪の人影が樹の上を駆ける。コワイ!
     おどかされるのを楽しみながら進む鶫と神楽。
    「わぁ! お化けっすよ神楽さん、やばいっす、俺怖いっすよー♪」
    「キジムナーだっけ? テレビで見た気がするにゃー」
     木の間を飛び回る沖縄妖怪。
     鶫は楽しそうに悲鳴を上げながら、神楽の腕にしがみつく。
    「神楽さんと一緒だと肝試しでも楽しいっすねー♪」
    「にゃはははー楽しいねえ!」
     ぎゅーっと抱きしめ合いながら、二人は奥へと歩を進めた。
     キジムナーの奇抜なおどかしに治胡と朱祢の組は動じない。
    「お前さー、なんかこう、ちょっとぐらい怖がるとかしてもいいんだぞ?」
    「キャーとか言って抱き付けば良いのか、俺が、ギャグだろ」
     小動物だったら、と呟く治胡。
     振り返った朱祢に、べちょり。吊るされたこんにゃくがヒットした。
    「ぷっ、オマエ、見事に引っかかってやんの」
     まだまだ肝試しは始まったばかりだ。

    「あ、由布くん発見。よろしければご一緒しませんか?」
     優衣に誘われた由布は、彼女の手を握って歩く。
    「いえ、平気なんですよ? お化けなんて嘘さって歌を歌えるぐらいに」
     一方の優衣は、夜の森でも平気そうだが。
     ガサガサガサッ。
    「――?!!!」
     突如姿を現したビハインドに二人は思わず抱き合った。
    「……ごめんなさい。怖い、です」
    「ほら、衣観。ちょっかい出しちゃダメだよ」
     ビハインドを連れて行く願戒。なんだか衣観の方がわくわくしている。
    「た、多分大丈夫。きっと怖くない怖くない………やっぱり怖い」
     ポタ……ポタ……。
     木の上から落ちた水滴が彼女の頬を赤く濡らす。何かと上を見上げた途端、白い着物の美乃里がどさりと地面に落ちてきた。
     美乃里は口や目から血を流し、カクンと首を傾け、生気の無い目で願戒を見上げる。
     真夜中の森に少女の悲鳴が響いた。

     にゅるん。
    「ひぅっ!」
     突然の冷たい感触に侑緒は悲鳴をもらす。
     辺りを見回すと、木の陰から白い着物の姫子がじっとこちらを見ていた。
     手招きをする彼女の唇は「みえてるんでしょ」と言っている。
     怖いけど、椿に頭を撫でられて、侑緒は勇気を振り絞る。
    「椿さんは怖いの大丈夫ですか?」
    「日本の怪談話は苦手だけど、こういう怖さは平気だな」
     次の瞬間、椿が懐中電灯の明かりを消した。
     怯える侑緒の目の前に椿のビハインドがぬっと顔を覗かせ、
    「~~っ!!」
     侑緒の声にならない叫びがこだました。

     夕月の後ろに隠れて怯えながらも歩く碧月。
     ざく、ざく、ざく……。
     森の奥から地面を掘り返す音が聞こえてくる。
    「ないよぉ……見つからないよぉ……」
     蛍のすすり泣く声。
     すると不意に肩を叩かれた。振り返ると真っ白なマスクを被った女が、
    「わたしの顔、しらない?」
    「きゃあああああ!!」
     早速碧月は参加したことを後悔していた。
    「だって面白そうだったし、姫子さんすごい楽しそうだったし……」
     しかし恐怖トラップは容赦なく襲いかかる。
    「うー、みんな怖くないの……?」
    「こ、怖いです」
     霊犬のティンを抱いて夕月は答える。
    「怖いよね! そうだよね! 私も怖いよぉ!」
    「私も怖いですか? ふふふ……」
     知らない声に振り返るとそこには白い着物の姫子が!
    「にゅあぁぁ!?」
     ついに耐えきれず、夕月が悲鳴を上げた。

     やみの中からぬっと顔を出した真っ黒な影が、大きな口を開ける。
     遠くからさめざめと泣く声が聞こえ、またしてもどこかで悲鳴が響き渡った。
    「さっさと行きましょ?」
     スタスタと歩く紫翠。
    「ただ脅かしているだけでしょ? 何が怖いの?」
     後ろを歩く流希は苦笑する。
    「あ、怖さが足りないようでしたら、私が後で、実際に体験した恐怖話をしましょうか」
    「あら、望むところだわ」
     数々の恐怖トラップにも顔色を変えない律嘩に、鎮はむーっと頬を膨らませた。
    「勝負! 先に悲鳴を上げたほうが負けだ!!」
     鎮の挑戦を、余裕の笑みで受けて立つ律嘩。
     その時、木の枝がガサガサと揺れた。
     木々の間を白い人影が飛び跳ねる。人影は空中でさらに飛び上がると、どさりと目の前の地面に激突した。紅だ。
     彼の周りに赤黒い染みが広がっていく。
    「ぎゃあああああああああ!!」
     びくっ!
     壮絶な鎮の悲鳴に思わず律嘩の表情が崩れる。
    「まもちゃんの悲鳴に驚かされるとはな……」

     木の上から血塗れの白装束を着た龍がぶら下がっていた。
    「ひっ!」
     小さな悲鳴を漏らす駒子。
     龍はズルズル木から落ちると痙攣しながら、
    「恨みます」
     と呟いた。
     ついでに龍は露わになった胸元をかくす。
    「いや、お化けが下着つけてたらおかしいかなと思いまして……」
     ツッコミを入れる間もなく、駒子はその場を立ち去る。
    「ほい、駒」
    「……いらない、ってば。ちゃんと歩ける、よ」
     恐怖のあまり彼女は、手を差し出す毅にもつんけんしてしまう。
     水辺を通りかかったとき、突然駒子の足が濡れた手に掴まれた。
    「……―――ッ! や、ぁッ……お、……おにいちゃ、助け、……!」
     しがみつく彼女を毅は抱きとめる。
    「………。ん、大丈夫大丈夫、にーちゃん一緒だからな」
     二人の様子に濡れた手は水の中に消えた。
     肝試しコースを歩く男女を水中で見送りながら、晃河童は次の獲物を待つ。
    「しかしなぜこういうことになると皆本気を出すのか」
     男二人の肝試しに何か切なさを抱きつつ、風貴と流は森を歩く。
     まるで動じない流は更に怖い話を始めた。
    「俺の家が古い事は知っているな? 実はあの家には決まった時刻になると現れる女がいてな……」
     そこまで話して、流は風貴の背後に視線を彷徨わせる。
    「まぁ良いか」
    「って、怖! ちょ! 何お前無表情で語るのやめろよ! 俺の背後に何かいんの!?」


    「やーん暗いよー、なんだかもう恐いわ?」
     ぎゅっと三朗の腕を掴むひかる。三朗は、
    「ここここ怖くナイヨ! 全然、怖くなんかナイアガラ!!」
     ガクブル震えていた。
     べちゃり。
    「むぎょわあああ!」
     頬に張り付いた冷たい感触に三朗は飛び上がる。
    「やん冷たい! こんにゃく……?」
     次の瞬間、
    「ヴォォォォオオオオ!!!」
     森の中から全身に枝葉をまとった義実が猛ダッシュで迫ってきた。
    「うおぉおお! 貴様等ぁ! そこ何くっついてる!」
     暗い森に恐怖の叫びが響き渡った。
     木々の向こうに義実の声を聞いた気がして、玖羽は振り返る。
    「な、何がでてくるのかなぁ……」
     玖羽と聖はへっぴり腰で歩きながら煉糸の腕をぎゅっと握りしめる。歩きづらい。腕が痛い。
    「いま、なんかいなかったか?」
    「ひっ! 気のせいじゃない?」
    「こえーなら服の端っこでも摘まんでろ」
     煉糸はツンと言い捨て、さっさと進んでいくと、
     ボロン……ボロン……。
     茂みから、たどたどしい弦の響きとわらべ歌が聞こえてくる。
    「ぎゃーーーーーーーっ」
    「きゃー、いやーーーっ」
     聖と玖羽は色気もクソもない絶叫を上げて暴れだした。こっちの方が怖い。
    「もう無理、もう無理」
     そちらに気を取られていると背後から、
    「わぁっ! あいたっ! え……ひゃあっ!!」
     飛び出した詩音が盛大に転んだ。
    「あ……あは……驚いてくれたかしら……」
    「「いやああーーーーーっ!!」」
     聖と玖羽には効果抜群らしい。
     とりあえず煉糸は恥ずかしそうな詩音を撫でることにした。
     ミナの後ろに隠れながら進む兆夢。
     その時、死装束の麻樹が闇の奥からじわりと姿を現した。
    「誰か、私の亡くした足を……もっていませんか……?」
     地の底から響くような声で呻く。彼は髪を振り乱し、這い寄ってきた。
    「ひぃ!? で、で、でたッスぅぅぅ~~!?」
    「っ!! ちょっと急に声出さな……キャー何すんのエッチ!」
    「あ、その、わざとじゃ……ぽげらっ!」
     パンパンパンパンパンパン! 絶叫して抱きつく兆夢に、ミナのビンタが炸裂。
    「みぎゃ~~!? な、なんスか? 今の音は?」
     ミナはじと目で彼を睨む。
    「ねぇー……男女ペアの位置逆転してない?」

     霧が出てきた。
     ぽたり……ぽたり……。
     赤い液体が滴り、参加者の首筋にたれたかと思うと、暗闇に生首が浮かび上がった。
     悲鳴を上げる間もなく、そばの茂みから青白いゾンビが飛び出し、怖がりの者は逃げだす。
     一通りおどかすと、紫苑とシーゼルは次なる参加者を待った。
    「ねぇシーゼル、待ってたら眠くなってきた」
    「おい、寝んな! 楽しみはこれからだろーが!!」
     眠気覚ましにと、紫苑はヘアピンでシーゼルの脇腹をプスリ。
     断末魔の悲鳴が夜の森にこだました。
     暗闇に響く悲鳴を聞いて良介はビクッと硬直する。
    「今のって」
    「シーゼルの声ね」
     隣を歩く美夜はあまり怖がっていない様子。
     ぽたり……。
     首筋に何かが落ちてきて美夜は肩を震わせた。
     それは彼女の素肌の上をうねうねと蠢く。
    「む、虫!? はやく取って!!」
     驚いてしがみつく美夜に良介のドキドキが増すのだった。

     紘一と歩く詩亜は、おどかし役をおどかし返してやろうと企んでいた。
    「さて、何人おどかし返せるかな♪」
    「ってちょっと待って置いてかないでマジ怖いんだってほんとに何か出たらどうすんの!?」
     紘一の声に振り返った詩亜の顔は、皮膚が爛れたおぞましい形相で。
    「ふふふ……」
     不気味な声で嗤う彼女に紘一は、
    「うぉあああああっ!?」
    「神井君がビビってどうするのよ」

     どこからか聞こえてきた悲鳴に肩を震わせる菫。
     ドルルルル!
     チェーンソーのエンジン音が響く。
     眩しいライトの灯りを背に、仮面を被った殺人鬼紫廉が襲いかかってきた。
    「……っ!!」
    「ふははははぁ! こ・ん・に・ち・わ・ああああっ!」
     次の瞬間、菫の拳が殺人鬼の顔面にめり込んだ。
    「あれ……? 肝試しって幽霊役を殴るものだっけ……?」
    「……ああ吃驚した」

    「夜の森って不気味……っ!? 何の音……?」
     ガサガサガサ……。
     びくっとして京音は六玖の服の裾を引っ張る。
    「あははは! 大丈夫だってけーねちゃん。それ木の枝だよ!」
    「ご……ごめんつい……っきゃーなんか動いたぁぁー!」
     草木をかき分け、RB団サバト服を着たゾンビが顔を出す。
    「ほぅほぅ、二人でこっそり肝試し……しかも片割れはRB団の同志でつまり……」
     恨めしそうに二人を睨むと、ゾンビは猛烈な勢いで襲いかかってきた。
    「裏切り者発見! 裏切り者には死を!!」
    「えええええ!? 同志!? なんで!?」
     京音の手を引き六玖は逃げた。全力で逃げた。


     このエリアは、正義の味方部が恐怖をお届けする。
    「沖縄の修学旅行で肝試しをやるとは思ってませんでした」
    「まぁこういうのも、修学旅行の醍醐味だよね」
     歩きながら会話する太郎と折花。
    「どうかオバケが出ませんように、どうかオバケが出ませんようにっ」
     謳歌は二人の後ろに隠れながら歩く。
    「い、今なにか声が聞こえなかった……?」
     懐中電灯の灯りを向ける。灯りに照らされて浮かび上がったのは、
     木に吊るされた道化師のマリオネットだった。
     一体誰がこんなことを。
    『ケタケタケタケタ』
     その時突然マリオネットが嗤い出した。
    「きゃあああーーー! 出たあーっ!? 早く逃げ、逃げないとっ!」
     謳歌が驚いている間にマリオネットは木の上に姿を消す。
     その後も不気味な笑い声は響き続けた。
    「油断してました。ネタ、演技共に完成度が高いですね」
    『ゾンビなんて大っ嫌いー!!』
     太郎が感心していると、遠くから参加者らしき悲鳴がこだまする。
    「悪い、少し用事ができた」
     悲鳴を聞きつけ、ゾンビマニアの折花は目の色を変え、一目散に駆け出して行った。

     出発前。
    「修学旅行の夜の定番が肝試しって誰が決めたんすか……! べ、別に怖くなんかないっすよ!」
    「ぷぷっ、そうだよね、男が叫び声上げるなんてカッコ悪いよね!」
     と言っていた狭霧と颯太。
     数分後。
     狭霧は涙目だった。それを見て颯太は笑いをこらえる。
     森の中を進んでいくと突然不気味な墓石が姿を現した。
     なぜこんな所に……。
     どこからか子供の数え歌が響いてくる。
     警戒する狭霧の背中にぴとり、
    「~~~~っ!!?」
     颯太の仕掛けたなまこのぬるりとした肌触りが襲った。
    「ちょ、センパイあんたもか! 俺は何を信じてゴールすれば良いの!?」

     子供の歌うわらべ唄は今も不気味に響き続けている。
    「な~の~な~の~……」
     白い布がふわふわと宙を舞う。
    「きゃあっ……!」
    「大丈夫大丈夫。平気だからねー?」
     怖がるモイラ。やはり小学生なのだなと、灯十郎は彼女の頭を撫でた。
    「うーらーめーしーやぁっ!」
     おどろおどろしい声を上げ、この地で非業の死を遂げたメイドの空子が飛び出した。その姿は皮膚がはがれ、血にまみれている。
    「ひゃう……!? こ、怖いよ……」
     驚き、咄嗟にしがみつくモイラ。
     灯十郎の腕に伝わる感覚。彼女は何を感じただろう。
    「トゥ……ありがとう」
    「ん、どーいたしまして。あのさ、あとで話があるんだ」
     ガシッ!
    「へ?」
     不意に冷たい手がモイラの足を掴んだ。見下ろすとそこには血まみれの喪服の女がいた。だらりと垂れた前髪の下で女は金切声の悲鳴を上げる。
    「連れて行ってぇぇぇっ!」

     暗い森にまたしても悲鳴が響く。
    「へ、へぇ……幽霊もんな空気読まなくてもいいのにな……」
     引きつった表情の勇騎と、その勇騎にびっくりする亨。
     どちらがおどかし役なのか分からない。
    「なぁ勇騎、知ってるか? 幽霊って怖がってる奴の所に出るんだって……」
     亨はビクビク肩を揺らす友人をからかった。
    「っ!? てめ、脅かすんじゃねぇよっ!」
    「ゆ、勇騎……お前の後ろに……」
    「そそそんな手にひっかからねぇぜ!」
     その時だった。
     ずる……ずる……。
     何かを引きずるような音が勇騎の背後に近づいてきた。
    「待って……、ねぇ、待ってよ……」
     ずぶ濡れの着物女が髪を振り乱して地面を這いずってくる。
    「寒い……、寒いよぉぉぉ……! タスケテェェ……!」
     二人の恐怖は絶頂に達した。


     【井の頭2-9】は6班に分かれての参加だ。
    「……で、まぁ。参加はしてみたものの……私って神社の娘だから大概の心霊現象とか慣れてるのよねぇ」
     平然とコースを歩く巫女。おどかし役を労いつつ右九兵衛と進む。
    「遠慮せんで、くっ付いたり悲鳴上げながら抱きついたりしてええんやで」
    「あ、セクハラに値することやったら殴るわよ容赦なく。手つなぐくらいは許すけどね」
     笑いかける右九兵衛に巫女は遠慮なく拳を握りしめた。

     新が釣竿を構えて暗闇で待機していると、新たな参加者が。
    「あっ……何か白いものが通ったような……」
    「ひっ! ……どこ、通った?」
     怖がる大輔をからかう紫。
     ザザ……ザザ……。
     そんな二人の背後から物音がついてくる。
     ザザ……ザザ……。
     何かを引きずるような不気味な音だ。
     振り向くと、紫の首にべちょっと柔らかい感触が!
    「ひゃんっ!」
    「…………」
    「……き、きのせいよ! 今の声、私じゃないもん!」
     吊るされたこんにゃくを握りしめて必死に言い訳をする紫。
    「クスッ……うん。そうだね」
    「忘れなさい!」

     ゴール付近、千巻とペアを組む祐一は不意に道端でしゃがみこんだ。
    「ん? どしたの? 大丈夫ぅ?」
    「わりーわりー、ちょっと落し物したみたいで……」
     そう言いながら彼は地面を探る。
    「もー、しょうがないなぁ。何を落とした、の――」
    「いや、大したもんじゃねーんだけど、顔をさ゛あ゛ぁ」
     振り返った祐一には顔がなかった。
    「ぎゃー!! ゆーいちクンがついに本性出したぁぁあ!!!」
     千巻は一人、超ダッシュでゴールへ逃げて行った。

    「俺……じゃなくて我の……我の墓所に来る愚か者は誰だ……?」
     突然巨大な腕が現れて木々を揺らした。
     殊亜と鞠藻を追い払うように青い火の玉が周囲を舞う。
    「タチサレ……タチサレ……!!!」
    「うわっ」
     冷静な鞠藻と彼女の後ろに隠れる殊亜。
    「……とりあえず紗守さんは女性を盾にして歩かないでもらえますか……みっともないですよ」
    「他の皆にばれなければみっともなくはないよ。委員長はクラスメイトを守るものだよね」
    「ではゴールに着いたら今の紗守さんの勇姿を紫さんにお話ししましょう」
    「ちょっと待って! 鞠藻さん腹黒だよ……!」

     隣を歩く黒白に、ツェツィーリアはにやりと笑う。
    「俺相手じゃ嬉しいイベントは起こりそうにねえなぁ、残念だったなぁ?」
    「シリアさん、わかってると思うッスけど銃抜くのは禁止ッスよ?」
     二人の進む先には軍服を着た白骨死体が転がっていた。
     明らかに危ないやつだ。
     触らないように通り過ぎようとすると、
     ガシッ!
     突然動き出した骸骨が足を掴んだ。
     びくっと固まる黒白。
    「……ビビって無いッスからね? ホントっすよ?」
    「きゃー♪」
     イタズラっぽく抱きつくツェツィーリアは、舌を出して微笑んだ。

    「肝試しなんて聞いてないのだ!」
    「ふふ……、中々に……リアリティが在って……面白いですね……」
     びくびくする楼沙を連れて、クラレットとアリスティアは森の中をずんずん進む。
    「二人共早いのだ! こ、こういうのはしっかりと確認しながら進まないと……」
     三人が森を進んでいくと、道の隅で悠仁がうずくまっていた。
    「……が…した。……が…した」
     彼はぶつぶつと何かを呟いている。
     三人が近づくと彼はゆっくり振り返る。
     その顔は赤黒い血にまみれたおぞましい形相で、
    「お前が殺したああぁぁぁ!!!!」
    「きゃあ! ……まあ、所詮は偽者、こ、こここ怖くなんてないのだ」
     やせ我慢の楼沙に、クラレットとアリスティアは「ふふふ……」と笑んだ。
     二人はせーので凶悪な兎ヌイグルミを楼沙に突き出して、
    「わっ! 食べちゃうぞ~!」
    「きゃああああ! お、おおお化けが、兎のお化けが! わ、我なんて食べても美味しくないのだ!」
     絶叫する楼沙をよしよしとなだめるクラレット。
    「やりすぎちゃったかしら……」


     また、森のどこかで悲鳴が響き渡る。
     学子、ランジュ、業慧は三人でコースを歩く。
    「ほ、本当に行くのか……? べ、別に苦手なわけじゃないが。苦手なわけじゃないがな……ッ!?」
    「う……ぅ、ぐすっ……」
     先頭を歩く業慧は道端でうずくまって泣いている和服のルイを見つけた。
    「お姉ちゃん達と離れちゃったの……一緒に探してくれる?」
     他の参加者とはぐれたのだろうか。
     ランジュは辺りを見回してみる。
    「お姉さん、どこに行ったんでしょう?」
    「ここなの、お姉ちゃんここで……」
     声が途切れる。気が付くと少女の姿はどこにもなかった。
     どこからかわらべ唄が聞こえてくる。
    「おわあああああ!?」
     野太い悲鳴を上げて業慧は二人に抱きついた。
    「はぁ世話が焼けるな……」
     肩をすくめて学子はランジュの手を取り、先頭に立つ。
     繋いだ手にランジュは恥ずかしそうにうつむいた。

    「肝試しとか百物語って、時々本物が紛れてるんだってね……」
     怪談を語り合いながら歩く七緒と夏槻。
    「ふへへ、ナッキーこういうイタズラ好きなんだね。ちょっと意外」
    「やりすぎちゃったらあとで謝まろう」
     語り合う二人の背後に影が忍び寄る。
     低くかすれた唸り声を響かせながら、血の気のない顔に血の涙を流して、茂みから這い出る光。
     ズズズ……。
    「逃ガ……ス……カ……」
     地面を這いながら彼が手を伸ばす。
     振り返った二人は互いの顔を灯りで照らす。その顔は真っ赤な血で染まっていた。
    「み~た~な~」

    「にぎゃー!!!」
     夜の森に深幸の悲鳴が響き渡る。
    「うるせぇよ大丈夫だからちったぁ落ち着け」
    「だって怖いんだもんー!! なんではるはそんなに普通なのー!?」
     涙目でぎゅうぎゅう春彦にしがみつく彼女。
    「今、そこの木の陰に誰かいなかった?」
    「誰もいねーぞ」
    「ほらあそこ、着物で長い髪の女が!」
     木の裏から着物を肌蹴た舞が姿を現した。
    「にぎゃあああああ!!」
     春彦にしがみつきながら深幸は逃げだした。
     二人を見送った舞は、
    「もう、こんな美人から逃げるなんて♪」
     さらに進むと、闇の中に金色に光る瞳が浮かび上がる。
     血塗れの巫女服を着た菊乃だ。
    「…ア…ァア……助、ケ…テ…」
     そう言って手を伸ばす彼女の足元からは、無数の黒い腕が二人に手招きをしていた。
    「にぎゃあああああああ!!」
     深幸の悲鳴に春彦は耳を塞ぎながら、
    「だーかーら少しは落ち着けってのバカ」
    「うー……はるのばかー……」

    「ウオオオオオー!」
     くぐもった雄叫びが響く。
     暗い森の奥から落ち武者の影が迫ってきた。
    「ウオオオオオー!」
     落ち武者ウルスラは思い切り日本の夏を満喫していた。
     それを受け流して観月と一途は淡々と歩く。
    「なんだか、あれ、これって肝試しか?」
    「肝試しってどういう感じで楽しめばいいんですかね」
    「……仕方ない、怖がってくれそうな子を探すか。肝試しで怖がる女の子とかいい漫画のネタになりそうだし」
    「……あ、いいですね。リアルな流血風味に仕立てましょう」

     怖がってる女の子ならここにいた。
    「うぅ……お化け嫌なのにー!!」
     柚琉の後ろに隠れる彩香の悲鳴が森に響く。
     不意に懐中電灯の明かりがフッと消えると、
    「ちょっ……なんで消してるんですかー!!」
    「あ、アヤ。後ろにお化け!!」
    「お化け嫌ー!! ユズのバカー!!」
     柚琉が灯りを点けると、突然姫子が現れた。
    「うわっ!! 驚いた。君か」
     彼女は俯きながら、
    「私、頑張っておどかそうとしたんです。でも、誰も怖がってくれなくて、だから……」
     そう言うと姫子は真っ赤に濡れた自分の両手を見下ろす。
     そして瞳孔の開いた目で二人を見つめ返し、
    「ねぇ、私、怖いですか? コワイですよね? 怖イでショ? コワイッテ イッテ」
    「いやああああああ!」
     彩香は半泣きで、
    「もう……肝試し行きたくないです……」

     この先は好事部が待ち受けているエリアだ。
     フェリスはランタンの灯りを消し、変身して、参加者が来るのをじっと待つ。
     道の奥から姿を現したのはりんごと薫子だった。
     小さくなってりんごの手を握る薫子。
    「不安なら、わたくしにしがみついてもかまいませんよ?」
    「うう、お言葉に甘えさせて頂きますわ」
     二人は道にビデオカメラが転がっているのを見つけた。
     ビデオから流れている映像は、女子供の呻き声が響き、血飛沫が飛び散り、ゾンビがはらわたを撒き散らす地獄の光景だった。
     不意に木々を揺らして羽音が響く。
    「うひゃぁっ! ……何か動いた気がしますわ……ぅぅ……」
     りんごが灯りを向けると、大きな木に首吊り死体がぶら下がっていた。
    「ひゃああああああ!!」
    「大丈夫、ただの仕掛けですよ?」
     首吊り死体はにやりと笑み、
    「見ましたわね……」
     恐怖のあまり刀を抜いた薫子をりんごは必死におさえる。
     しかし好事部の恐怖はまだ終わらない。
     顔面にもふっとした感触が覆いかぶさる。
    「にゃー」
    「きゃあああああ」
    「だ~ず~げ~で~……れ~……」
     木々の間からケイジの悲痛な呻き声が響いた。
    「いいやぁあああああ!!」

    「……うぅ……よろしくお願いします……譽・唯です……」
    「女子と二人っきりだと思ったのに……!」
     誠は悔しがる。
     彼の後ろで帽子を目深に被った彩夏が嗤った。
    「……こんな暗い夜には気を付けないといけませんよ? 何時怖いモノが紛れ込んでるかわかりませんから」
    「ひっ……! ……なななな……何ですか……?」
     唯が肩を縮める。
    「怖いなら、遠慮なく俺の胸に飛び込んでおいで! ぐふふ……」
     そんな会話を交わしつつ、なんとかゴールに辿り着いた三人はほっと胸をなでおろす。
     彼等を見て、ゴールにいた嘉哉がふと口にした。
    「……ところで、参加者の数、聞いてたより多くないか?」
    「へ?」
    「確か最後の組は二人だったような」
     その言葉に空気が凍る。
    「だから言ったでしょう? クスクス……」
     誠と唯が後ろを振り返ると、彩夏はゆっくり帽子を脱ぐ。その下の顔は――。
    「ぎゃぁぁあ!?」

     肝試しを終えた生徒たちは今夜の思い出を写真に収めた。
     笑顔や泣き顔、恐怖に引きつった顔、叫び疲れた顔。
     その全てが修学旅行の大事な思い出になるだろう。
    「そろそろ消灯時間ですし、ホテルに帰りましょうか。ふふ、皆さん肝試しは楽しんでいただけましたか? 明日もたくさん素敵な思い出を作りましょうね」

    作者:かなぶん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月19日
    難度:簡単
    参加:103人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 22
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