武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
今年の修学旅行は、南国沖縄旅行です。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
きらきらと輝くのは濃厚な甘みのマンゴー。
さっぱりとした酸味が爽やかなシークヮーサー。
頬張ったパインは果汁があふれ、口いっぱいに夏の味が広がる。
もちろん沖縄のフルーツはそれだけじゃない。
南国フルーツの代表格・パッションフルーツや、食感も楽しいドラゴンフルーツ。ココナツやアプリコットに加え、バナナやスイカなど全国的にみられる果物でもこだわりの県内産は一味違うのだとか。
他にも黒糖や紅芋、サトウキビなども沖縄の甘味を語る上で欠かせない。
沖縄スイーツはそれらの食材をふんだんに使い、自然の美味しさの上に成り立っている。お土産として持ち帰りたい気持ちも勿論だが、折角の修学旅行、その場でしか味わえない新鮮な甘さ、美味しさを堪能しなくては大損だ。
スイーツ散策に出掛けられるのは修学旅行の四日目、つまり最終日。
帰るまでの残り時間を使って、沖縄スイーツとともに最後の街歩きを楽しむのだ。
幸い、沖縄の街にはテイクアウトのスイーツを提供してくれるお店も多い。食べ歩きならば短時間でもいろいろなものが味わえるし、時間があればあるだけ楽しみも増えていく。
目的を絞って攻めるのもいいし、片っ端から食べ尽くすなんてチャレンジャーもいるかもしれない。友人と話しながらスイーツ片手にのんびり散歩する人もいるだろう。
搾りたての果汁100%ジュースに、ひんやり冷たいスムージー。タピオカミルクなんてのも、いかにも南国らしい。
沖縄名物サーターアンダギーも食べたいし、フルーツたっぷりの巨大パフェだって捨てがたい。
真夏の日差しを浴びながらのジェラートやソフトクリームは絶品だろうし、何よりフレーバー選びが悩みどころだ。王道のフルーツや紅芋、黒糖の他、ゴーヤーなどの一風変わったものを試してみるのも思い出になるだろう。
どれだけ時間があってもきっと足りない。
だからこそ、最後の自由時間のぎりぎりまで沖縄を満喫しよう。
「甘い物を、食べないか?」
アレクシス・カンパネラ(高校生ダンピール・dn0010)は観光資料を差し出すと、無表情にぽつりと言った。
いや、訂正しよう。無表情というのは正しくない。いつもとは瞳の色が違う――ように見えるだけかもしれないが、とにかく。
アレクシスも修学旅行を楽しみにしている者の一人らしい。
差し出された資料はどうやら雑誌の沖縄特集のようで、開かれたページには『南国スイーツを食べ尽くせ!』の題字の元、様々なスイーツの写真が所狭しと並んでいる。
彩り鮮やかな南国フルーツを中心に、ぜんざいやアイス、カキ氷など、涼しげなものが多い。
「私は修学旅行も沖縄も初めてなのだが、随分といろいろなものがあるのだな」
しおりや雑誌を眺めていて驚いたのだと、アレクシスは言う。
加えて、当日の天気予報は晴れ。
これはもう、街歩きには冷たいスイーツが必須だろう。
もっとも、冷たくないスイーツも食べ歩きには欠かせないが。
要は旅行における甘い物はとてもとても大切なのである。
ご当地限定品もあったりして、日頃の甘い物よりぐぐっと価値が上がるのである。
「……そういうわけで、行ってみないか?」
最終日で疲れが溜まってきそうな人も、まだまだ元気が余っているであろう人も。
皆で修学旅行最後の思い出を、あまくあまく締めくくろう。
「っし、食うぞ」
修学旅行最終日、千尋は気合を入れる。むしろ今日が本番だ。まずはお土産、そしてタピオカミルク片手に、ご当地フレーバーのスイーツを制覇しなくては。
智優利とるかも計画を立てる。
「るかちゃんは何食べたい?」
「そうですねぇ、シークヮーサーやパッションフルーツ、あ、紅芋もいいですね。お土産には……」
お小遣いと相談してお土産も考え始めたるかに、智優利はこっそりお財布確認。誘っておいて小学生と割り勘は色々ダメだ。……よし、大丈夫。
「今日はいーっぱい食べようね」
「はい、とっても楽しみです!」
二人が目指す街の中では、ハラペコ怪獣・きららが早速スイーツを平らげていた。
「南国フルーツサイコー!」
片っ端からどんどんどんどん……沖縄壊滅の勢いである。
だが、スピードならば美乃里も負けていない。フルーツからスイーツまで、手が霞むほどの速度で食べていく。実は優雅に味わっていることは、スロー再生でしかわからない。
とにかく幸せそうに食べていたのは恋だ。
「うう~ん、ほっぺた落ちそう~」
折角の修学旅行、気になるものはたくさんたくさん、食べちゃおう。ダイエットは、明日から。
甘い物に惹かれるのは仕方がない。
「女子たるモノ、スイーツに勤しまんで何とするー?」
杏子も【闇堕ち被害者友の会】の皆と共に街を歩く。
サーターアンダギーとスムージーを楽しむ美鳥に、テイクアウトを片っ端から頼むひかり。シメは巨大パフェだ。散々食べても、ひかりの胃袋はまだまだ余裕。
「マジか、コレ……!」
どーんと出されたパフェに、竜胆が息を呑む。一人で食べたら絶対終わらない量である。それでも、
「まあ、頑張るか」
「……あ、おいしい……」
「疲れた五臓六腑に染み渡る~……♪」
「みんなで食べるとさらにおいしいんだにぃ!」
そんなこんなでパフェが消えれば、食べ歩きの旅は再開だ。専門店のサーターアンダギーにクンペン、萌え系ちんすこう、買いたいものはたくさんある。
クロエはリア充研究のため、沖縄のお菓子をペアで揃え、相棒を待つ……が、待ち人来たらず。ならば一人でペロリと食べるまで。今日のRB団の活動は、研究に止めておこう。
別の所では、ハリーがヤシの実ジュースを手に木にぶら下がっていた。彼も観察目的だが、対象が可愛い女子のため動機は違う。が、程なく彼は、眼福が一転し撃退されることになる。
「いい天気で絶好の食べ歩き日和にゃね♪」
クロが【こた猫】メンバーと歩きつつ、まずはカキ氷かソフトクリームか考えていると、横では花火がどんどんスイーツを集めていた。氷ぜんざいにサーターアンダギー、
「ああ、フルーツも大事!」
更には飲み物も加わって、お小遣いの限りに甘い物が大集合。
勢揃いした甘味は叶流が携帯で写真に残し、当然、その合間に食べることも忘れない。普段食べることの少ない南国スイーツ、日頃の無表情もつい緩んでしまう。
空子もサーターアンダギーと紅芋ソフトを両手に、大満足だ。
「空子、定年になったら沖縄に住みたいですっ」
なかなか遠い将来の夢である。
「……って花火さんがいませんよ!?」
スイーツに囲まれた喜びの余り、踊り出した彼女はどこかで絶賛迷子中。
【蝉時雨】の四人も、アイスを手に沖縄を満喫していた。
何でも今年はフルーツフレーバーが流行らしく、
「それは勿論、食べなきゃだよねっ」
桜乃はバナナをチョイス。ネオンのベリーに嘉市はマンゴー、ホナミがパインとシークヮーサーで、みんな南国の彩りだ。
「嘉市も食べてみろよ。酸味がきいてて美味しいぜ」
「へえ、本当だな。あ、よかったらこっちも食ってみるか?」
ベリーを差し出すネオンに、嘉市もマンゴーを返す。するとそこへ、ホナミも混ざる。
「私のもいる? 何なら、あーんもつけてあげましょうか?」
「なっ、そ、そういうのは、別の人に……!」
楽しげなホナミ、真っ赤になる嘉市。
冗談だと笑った彼女が人数分のスプーンを取り出せば、ようやく一息。
皆で交換し合うアイスは幸せな味がした。
ファルケは一人、甘味研究会の名を背負いスイーツに臨んでいた。食前には写真とメモ、食後には味わいのコメントを。あとは大食いか早食い記録に挑戦して、任務は完了である。
直哉もお留守番組の為、奔走する。長い土産リストを見つつツッコみつつ、ネタになりそうな揚げ団子も買って……どうやら大荷物になりそうだ。配送の準備はしておこう。
とはいえ、お土産は絶好の口実――。
「……じゃなかった、大義名分もありますし、今日くらい良いですよね?」
贅沢に食べ歩いても、と言った夏樹に、京介が頷く。味見だって大事なのだ。まずはご当地感のある物、トロピカルなジェラートなんていいかもしれない。
「って、頭いってええぇぇ……!!」
食べすぎた。
頭を抱える彼に、店を見回るウルルが「荷物持ちはきょーすけちゃんにお願いしちゃいましょぉ」なんて笑う。
お土産は黒砂糖や南国のドライフルーツが良いだろうか。思い出と甘い物、いっぱい詰め込んで、みんなにお持ち帰りだ。
雅はお土産が山になったリアカーを連れ、日陰でぜんざいを食べていた。そこにスムージー片手のアレクシスが通り掛かる。
「美味しそうっすね! どこで買ったんすか?」
「……あちらに」
「よし、行ってみるっす!」
早速リアカーを引く雅を見送り、アレクシスは虚と出会う。蜂蜜店に行ったのか、両手にはそれらしき袋。今はアイスとソフトクリームの味を迷っていたらしい。
「共に試してみないか?」
「……交換も、いいだろうか……?」
虚の誘いに頷くアレクシス。二人の方が、味わい深い。
壱子とチセも、二人で様々な甘味を食べていた。
定番フルーツに未知のフルーツ、ご当地スイーツも楽しんで、タピオカミルクとドラゴンフルーツの生絞りジュースを交換し合う。最後はアイスとフルーツの巨大パフェに挑戦だ。
「本当に豪華……!」
「でも、二人ならきっと食べれるんよ」
一口食べれば零れる笑顔。
パフェは半分でも、幸せは二倍。
レオンは地図を片手に夢衣と歩いていた。初めての場所の案内は緊張するけど、きっと大丈夫。
まずは紅芋アイスにタルト、それから柑橘系スムージー。
「レオンくんが食べてるのも美味しそうだね。美味しい?」
「ん、ひとくち分け合いっこするか?」
いっぱい涼んで楽しんで、南国の街を食べ歩く。
微かな潮の匂いに、鼻の奥がつんとしびれた。
真樹は暑さにやられつつも、スイーツを巡る。何かのセールの如き量を食べていくが、やはり動きは緩慢である。
そんな彼女を気遣いながら、茉莉は次の標的を見つけた。
「真樹ちゃん! 次あれがいいのっ!」
指さす先には紅芋の生どら焼き。茉莉は先に向かい、二人分のそれとタピオカミルクを購入する。水分補給は大切だ。まだまだ旅は続くのだから。
一方レビは、暑さに負けず元気に叫んでいた。
「修学旅行だ! 沖縄だ! スイーツだーっ♪」
「……」
「……暑い」
ジオと雪那、しれっと他人の振り。何気に息が合っている。
「ちょっ、ああっ、二人が遠い!?」
レビは嘆くが、実のところ、ジオも雪那もまんざらでもなかったりする。
そんなこんなで甘味を巡り、
「せっちゃん、はいアーン♪」
「……するわけないでしょう」
「えー、でもジオ君は食べてくれるよね?」
「……」
無言でスプーンをUターン。
「んむ!? ……むぐむぐ……うん、美味いっ!」
何事も結果オーライである。
もっとも、敵は暑さだけではない。
「流石沖縄、太陽が照り付けて美咲さんのおでこも益々輝いていますね」
「桐城さん、どこを見てますか、どこを!」
マンゴーパフェを味わう詠子に美咲がツッコむと、六華が日焼け対策を申し出た。
「館さん、日焼け止め塗りますからおでこをこちらへ、あ、ちょ、まぶし……」
「細氷さんもこれ見よがしに眩しそうにしない!」
全く、とドラゴンフルーツのパフェを頬張る美咲に、六華もかき氷を食べれば、その頬を詠子がハンカチで拭う。
「わ、あ、ありがとうございます……」
ちょっぴり恥ずかしかったのは、かき氷を一口差し出して誤魔化した。
寛慈と大洋も暑さと日差しに参り、スムージー片手に日陰を歩いていた。途中ドラゴンフルーツの試食を見かけ、大洋が一口。
「美味しい?」
「甘くてシャリシャリするな。寛慈くんも食べてみる? ほい」
あーんと渡せば、うん、シャリシャリ。
寛慈もお返しに、見つけたスナックパインを一個あげる。
「あーん」
お土産はこれにしよう。
虎芽とユーリーは気分任せにスイーツ店に突入していた。
「よぉーし! いっぱい食べるよ!」
そんなユーリーが虎芽を連れ回したり、虎芽がユーリーを引っ張ったり。
「おいしい!」
虎芽はお菓子を味わいつつ、先輩たるユーリーに「あ~ん」のご奉仕も忘れない。
「満足っ!」
最高の笑顔を浮かべるユーリー。そして再び、二人はスイーツ目指して歩き出す。
両手いっぱいのスイーツを頬張る宙の横で、誠はスムージーを飲んでいた。
と、視線を感じて振り向けば。
「……どうした?」
「スキありっ!」
じゅーっ!
……飲まれた。
呆気にとられる誠だが、こっちもおいしいっすよ、なんてジェラートを差し出す宙には怒れない。
更にパフェを見つけた宙の瞳は輝きだして――甘い物は正義、スイーツ巡りは終わらない。
そしてその正義に惹かれた引きこもり、眼目も日の下を歩いていた。一番の目的は果汁たっぷりの甘い完熟フルーツ。店員との会話……は、英語で誤魔化そう。お金を出せばきっといける。
奈津姫は紫桜に奢ってもらったアイスにうきうきしてると、曲がり角で少女とぶつかった。
「す、すまない」
「おい、大丈夫かよ。ごめんな、うちのツレが」
落ちたアイスに涙目ながら慌てて謝る奈津姫に、少女の汚れを拭う紫桜。そんな二人に少女、詩乃は問う。
「お兄さんは、ろりこん?」
「ああ、うん」
「違うわ! コイツと一緒ならそう見えるかもだが!」
奈津姫の肯定を紫桜は全否定。
だがこれも何かの縁と、三人は紫桜の奢りで共に街を行く。
どこか似ている彼女達、実は共通の知人で繋がる彼と彼女。
旅の縁とは奇なもの、粋なもの。
沖縄といえばサトウキビ。
「なぁー、これって歯で……」
「いや、無理だろ? どう見ても竹だぞ、歯の方が欠けるかもしれないぞ」
「……いけないわなぁー……」
慌てて止める千李に、へらっと黒澤・蓮が笑った。
勿論、沖縄名物は他にもあるわけで、サトウキビに代わり、二人はマンゴーやスターフルーツを食べ歩く。二人で食べる果物は、溶けるように甘かった。
月代・アレクセイと沙雪も南国フルーツを中心に巡っていた。地元の新鮮なフルーツケーキに、ドラゴンフルーツやスターフルーツのプリン。
「ドリアンのアイスは……まあ、好みがあるので食べたければ」
「みゅ? 挑戦するです」
「……どうです?」
「……」
「ココナッツジュースも試してみます?」
「……ありがとうございます」
何事もチャレンジである。
ドラゴンフルーツはテレビでよく見るせいか、ロズウェルも興味があった。そんなわけで、氷柱と二人ぶらり旅。だが、サトウキビジュースも気になる。
「別々に頼んで、一口いただいても?」
ロズウェルが訊く。男として女性にねだるのは駄目かもしれない――が、沢山楽しみたいのはどちらも一緒。
「もちろんどうぞですよぅ」
二人の時間はのんびり流れる。
「……ドラゴンフルーツって、モンスターの卵みたいね」
「中どうなってんだろ……」
絢の感想に優奈が頷く。とりあえず、皆のお土産に買っていくことにして、二人は紫芋のサーターアンダギーを分け合い、南国ドリンクとジェラートを楽しむ。
「また一緒に沖縄来ような、アヤ♪」
「うん、約束」
絡めた小指に誓い合う。嘘ついたら、ドラゴンフルーツ丸呑みだ。
【徒然】の四人は二人ずつ手を繋ぎ、街を歩く。
草灯とアスル、法子と小鳥。
道中の沖縄スイーツをたくさん楽しみ、次は氷ぜんざいのお店。
「氷ぜんざい、白いの食べる」
「ぜんざい、楽しみ。ねー」
小鳥とアスルが言葉を交わし、皆で注文を済ませると、程なく四つのぜんざいが揃う。
「きゃー、すごーい♪ 食い出があるわね!」
大きな抹茶白玉あんみつぜんざいに草灯が驚けば、法子も自分のイチゴミルク金時の大きさにびっくりしながら、パクリと一口。
「おいしい~っ! あ、小鳥とルーにも。はい、あーん!」
「氷、つめたい、おいしい……」
「ぜんざい、おいしー、ですー」
皆であげたり貰ったり、気づけば小鳥のぜんざいがいっぱい溶けてて、草灯は余裕のスピードで完食してて。甘く楽しい時間が流れていく。
【チームアロハ】の面々は、その名の通りアロハ姿でスイーツ巡りに臨んでいた。
各々スイーツを買い求め、待ち合わせの場所で披露し分け合うのだ。
月夜の紅芋とマンゴーのジェラートに、氷上・蓮のパインアイス、比嘉・アレクセイが巨大シュークリームタルトで、一樹は紅芋やフルーツのプチガトー。
相談ナシでも被りはゼロ。ナイスチームワークだ。
「わーい、甘い物が沢山なのですー♪」
「交換、しよう」
わくわくと目を輝かせる月夜に、暑さにやられながら蓮もじーっとスイーツを窺う。一樹が柑橘ジュースを皆に配り、アレクセイはタルトを切り分けて。
「ほら、蓮さん。そんなに急がなくても大丈夫ですから。月夜さんも」
「どれも美味しいですね」
胸焼けとかは一先ず黙殺、目の前の甘味を全力で楽しむのだ。
【超・帰宅部】も、持ち寄ったスイーツを皆で囲む。
ドラゴンフルーツやマンゴーゼリー、シークヮーサージュースとタピオカドリンクに加え、中心には巨大フルーツパフェ。
「果たしてこれは食べきれるのでしょうか……?」
藍花は素朴な疑問を投げかけた。
が、いざ食べ始めれば、お腹が苦しくても「あーん」と差し出された七葉の一匙をつい食べてしまう。貧乏性だろうか?
「どう、おいしい……かな?」
訊かれれば頷くしかない。
そうして皆で、あげたり貰ったりひょいぺろしたり、あーんしたりあーんされたりして、ミラージュも真っ赤な顔でプルプルしながらあーんを貰う。
「ささ、スイーツ女王のぎんにゃんはどんどん食べてな♪ お金はお姉ちゃんが払ったる♪」
「あの、スイーツ女王とか、そんな……ありがとう、全部美味しく頂いちゃうよ!」
澪の言葉に瞳を輝かせる銀河。
幸せいっぱい胸いっぱい、お腹もいっぱいになればまさに至福だ。
「南国フルーツ、食べ尽くすぜっ!」
街の中心、明莉は気合を入れ――一人取り残された。【便利屋】一同、出発済み。
「甘味、甘味! フルーツもよいが、甘味!」
「あ! あのジェラート美味しそうっ」
心桜とユリアはサーターアンダギーを食べつつジェラートを目指す。
「女子共、太るぞ!」
明莉の遠吠えは届かない。甘味は苦手な彼だが、
「はいはい、苦手フラグは回収しちゃうよー」
ナディアに連れられ、いざ出発。
途中、明莉はヤシの実ジュースを女子に奢り、仕方なくナディアにも抹茶ラテ(的な物)を奢ると。
「ふぎゃあああ!!?」
途端、叫んだナディアに、彼の残りを明莉が一口。
「にっが……!!」
口に広がるゴーヤ味。
「明莉先輩、これを!」
心桜が渡す黒糖ジュース。
「甘っっっ!!」
撃沈。
その光景にユリアが笑う。うちの男性陣っていつもああだよね、と。
【魔王の館】は、メルフェスを中心に捨六のナビで街を行く。冷静について回るお姉さん(別名財布)と、荷物持ちからパシリまで、最短ルートも万全な完璧すぎる保護者だ。
「あ、次はあれ食べたいの!」
言うが早いか、彩香はソフトクリームを買ってメルフェスに渡す。その心は。
「あーんして!」
「いいわよ? あーん」
早速頷いたメルフェスに、彩香は嬉しさのあまり鼻血を出す。威力が凄い。が、同時にメルフェスのテンションも上昇。
そんな二人を眺め、優雨はスイーツを味わう。沖縄食材を使ったプリンにロールケーキ、ドリンクにはルートビア。一言でいえば湿布風味だが、意外と美味しいと思う。
すると、今度は緋女がメルフェスに寄る。
「魔王様、次はわらわがあーんしてあげるのじゃ!」
テイクアウトのフルーツを一口差し出すと、
「あら、いいの?」
内心の興奮を抑え、大人の余裕で口を開くメルフェス。
口に甘さが広がれば、続いてレスティールがお土産用スイーツを手にひっそりとメルフェスを見上げた。
「あの、お留守番してる子にこういうのはどうでしょうか」
撫でて欲しそうに、ちょっぴり上目遣い。
「……っ」
限界突破。固まった彼女は、捨六が素早くフォロー。
何とか事なきを得ると、希亜が彼に完熟パインを差し出した。
「どうぞ。……美味しいですよ?」
言いつつ、頭の中ではお土産計算。多めに買って、捨六さんに持ってもらおうかな。
「シーサー!」
遥香がシーサーの真似をしつつ、無表情に道端で叫ぶ。旅行中に覚えた一発芸だ。
「何その可愛いポーズ、オレもオレも!! ……シーサー!」
「シーサーっ!」
「シーサー……」
大はしゃぎの稲葉に、タピオカミルク片手のシャルロッテ、無表情な棒読みでネアルが続く。【静かな礼拝堂】の面子はノリがいい。
「あー生きてて良かった、今日は存分に糖分補給やわ♪」
由宇は愛しのパインを頬張り、新鮮な甘さに舌鼓を打てば、横から視線を感じた。直人だ。ちゃっかり南国フルーツを一通り試したはずなのに、まだ足りないらしい。……よし、何か奢ろう。
「すみませーん、このでっかいパフェ一つ!」
「何、いいのか?」
言いつつ、ほくほく顔の直人。見つめてみるものだ。
そうして、視線を感じた部員たちは部長にスイーツをあげていく。ネアルはシークヮーサーを一つ、シャルロッテは極限まで重ねたアイスを。
「みんなよく食べるね……気持ちは判るけどさ」
柑橘ジュースを手に由宇が感心する。直人だけではない、他の皆もゴーヤソフトやマンゴージェラート、サーターアンダギーとどんどん食べていく。エリアルも、折角の沖縄だからと生のサトウキビを齧ってみた。
「……」
うん、植物。
そうしている間にもみるみる減っていく巨大パフェ、そして、それに憧れた稲葉も挑む。
「すいませーん、金魚鉢パフェ追加でー!」
皆でなら、きっと平気。旅の終わりはまだ遠い。
イチは沖縄スイーツ本を手に、次々と甘味を食べていた。そして、最終目的の巨大フルーツパフェ――の店の前にアレクシスを発見する。目的は同じだろうか。
「……ご一緒、しませんか?」
イチが誘い、アレクシスがこくりと頷く。無表情の中の狩猟者の瞳、二人はいざ店内へ。
優希那と夕陽もお店に入る。フルーツもスイーツも楽しむなら、やはりコレ。
「巨大パフェって本当に大きいですねぇ! びっくりなのですよぅ」
「……手伝ってくれたら嬉しい、かな」
嬉しそうに写真を撮る優希那に、頼んだ夕陽は怯み気味。
だが、甘い物は別腹と優希那はもぐもぐ食べる。頬についたクリームは夕陽が掬い、パクリと一口。冷たい甘さが美味しかった。
巨大パフェに誘われ、美夜と優姫もお店に入る。とはいえ、パフェの他にも大量注文だ。
「美味しいものは制覇しないとね」
美夜が笑う。
優姫も気が乗らない風を装いつつ、内心ワクワクなのだ。異論はない。
やがて注文が揃えば、二人は交換しながら味わっていく。日頃ぶっきらぼうな優姫もご満悦で、美夜はその頭を撫でておく。妹がいたら、こんな感じかな?
カノンと漆葉の注文も巨大フルーツパフェだ。ただし、一人一つ。
「甘いものはいいですね……」
「おおお! 神様! すげぇよな! これ!」
ぽつりと言うカノンに、漆葉は何もない所に向かって感動を叫ぶ。そのくらいスゴい。
そして、いただきますと同時に静まり返る二人。
もぐもぐもぐもぐ……周囲に飛ぶお花と音符だけが、全てを物語っていた。
沖縄に来たからにはフルーツたっぷりジャンボパフェ、それは刹那も同じだ。
「新鮮な南国フルーツを使用してるだけあって美味しいですね」
大の甘い物好きの彼女も、満足の味だった。
潤子とカーティスが頼んだのは、パインがメインの巨大パフェだ。
「……これ、時間制限の何かじゃないよね?」
「あれ、潤子ちゃんが見えない」
その大きさにひたすら驚きながら、とりあえずパクリと一口食べ始めれば、
「このパイナップル、甘くて美味しいなぁ♪」
「アイスも美味しいね!」
思わずパクパクと先は続いて、意外と食べられそうである。
ひらりと安寿も、トロピカルな巨大パフェに挑戦する。お目目キラキラ、頬はバラ色、夢見る乙女全開だ。
「ひらりちゃん、あーーん」
「ん、美味しっ♪」
安寿の差し出した一掬いに、ひらりの笑顔がぺっかー! と輝く。
「それじゃ私からも、あーんっ♪」
「あーん!」
食べさせてあげたり貰ったり、二人のパフェはみるみる小さくなっていく。
パフェに女の子の夢が詰まっている噂は嘘じゃない。
南国フルーツパフェを前に、紫は瞳を輝かせる。が。
「殊亜くん、食べるの早いよっ」
気づけば遅れを取っていた。これは負けていられない。
「紫さん、このパフェ作れるようになってね。いずれはドーナツパフェ屋さんも!」
「そうね……って、ええ!?」
暑さと美味しさで変な事を言っているだけ。気にしない。
既濁は感謝と感激と共にパフェを食べていた。
「んめぇ……! 夜鷹、マジでありがとうな。お前ェのお蔭だわ、コレ食えたの……」
「……俺、唯付いて来ただけなんだが」
治胡が言う。そう、女性限定パフェの為、彼に同行しただけなのだ。けれど熱烈な既濁の勧めに一口試せば、
「……ん、ウマい」
案外ラッキーな付き添いだったかもしれない。
フランセットは結斗とともにパフェを挟み、ご機嫌だ。
「あーん♪」
自分の好きなマンゴーやバナナの美味しさを教えるべく、一口スプーンで差し出せば、一瞬戸惑う結斗。絵的に恥ずかしい。が、ここで退くのは男じゃない。
「あーん……お、なかなか。じゃあお返しもしないとね」
言って、有斗が差し出すココナッツアイス。
外から見たら、どう見えるだろう?
【兄妹s】の前にも、カラフルなフルーツパフェが運ばれる。
「……!!」
その大きさに、一瞬固まる籠宮兄妹。
運んだ店員さんお疲れさん、なんて毅は思うわけだが、駒子は一人、目を輝かせる。
「……すごいね、フルーツ全部、きらきら……してる」
「木町屋兄任せた! お前なら食い切れるやろ!」
「えー、最初から試合放棄すんなよー」
それでもいざ食べ始めれば、
「ふぁぁぁぁおいひぃぃぃ……! ね、駒子ちゃん!」
「うん、美味しい。ね」
笑顔を交わす姫月と駒子。
「はい、姫ちゃん、あーん」
なんて夜月の出来心は、机の下で蹴り飛ばされた。
どこの家庭もこんなものだろうか。だが毅は進む。
「ほら、たまにはどうよ、駒。あーん」
「…………」
無言のガン見。
どこの家庭もそんなものらしい。
愛羅と空の巨大パフェには、大量のフルーツに加え、サーターアンダギーも乗っていた。
「ほわー! ほんとにおっきいね!」
大はしゃぎの二人はパフェを間に記念撮影をして食べ始める。
と。
「空先輩、少しじっとしててね」
愛羅が空の頬に付いたクリームを掬って一口。わわっと空は慌てつつ、こっちにいっぱいあるんだよと愛羅にあーん。その一口は、もっと甘い。
【武蔵坂軽音部】の前には噂のパインパフェ。だが。
「37cmってパフェの一般規格超えてるよ! 前見えないじゃない!」
鈴がツッコんだ。
ひたすらパインまみれ、しかし天辺はあくまでチェリーという、実に立派な逸品を男女で一つずつ囲めば、いざ尋常に。
「んじゃ、万事くん『あーん』して☆」
「クッソいい笑顔しやがって、葉……!」
「俺の奢りだ遠慮すンなって。おら、食え。つーか灼滅されろ」
「み、観月助け……てくんねーのか畜生!」
「俺もうお腹いっぱいなんで、写真を……」
優雅な笑顔で女子の方へカメラを構えるが、甘かった。
「あ、柴くん食べてないでしょ。差し上げましょう、そうしましょう」
ご丁寧にパフェを取り分けた皿を手に、千波耶がにっこり。
割とノリノリで食べていた女子達も流石に限界が来たらしい。飽きたり寒かったり、こりゃもう男子を頼るしかない。
「この巨大なパイナップルは万事君にプレゼントかしら」
「アッ、手が滑っちゃったそぉい!!」
紫苑のささやかな贈り物。鈴の一投は華麗に葉の口へぶち込まれる。
なんだかんだと減っていくパフェ、ちゃっかりシャッターを切りまくる観月と紫苑。
とりあえず、思い出はいっぱいだった。
青い空に白い雲。
甘い香りと潮風に包まれて、武蔵坂学園の修学旅行はその幕を下ろす。
作者:零夢 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月21日
難度:簡単
参加:120人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 15
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