修学旅行~鍾乳洞探検の時が来た

    作者:泰月

    ●南の島へ行こう
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われる。
     今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。

     今年の行き先は、南国沖縄旅行。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載である。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作ろうじゃないか!

    ●地中に広がる自然の神秘
     修学旅行4日目。
     最終日だが、ホテルを出て空港に直行、という訳ではない。自由時間はある。
     空港に向かう前に、もう少し沖縄を堪能しようじゃないか。
     
     沖縄と言えば南国、南国の自然と言えば海。
     そんなイメージの人も多いのではないだろうか。
     だが、沖縄には海の他にも、地中にある自然が作り出した絶景を見ることが出来る。
     石灰岩が水に侵食されて出来た、鍾乳石の立ち並ぶ天然の洞窟、鍾乳洞である。
     中でも有名なのが、国内最多となる100万本以上の鍾乳石が存在する沖縄最大の鍾乳洞、玉泉洞だ。
     天井からつらら石、地面から石筍が無数に伸びている『東洋一洞』と名付けらた空間。
     上下に林立する鍾乳石の奥にある白銀の大石柱、『昇龍の鐘』。
     先に行けば、2万本もの槍の様に鋭い鍾乳石が頭上に広がる『槍天井』。
     洞窟内は地下水が流れ『龍神の池』や『青の泉』と呼ばれる場所もある。
     『黄金の盃』と名が付いた国内最大級のリムストーンと言う種類の鍾乳石。
     天井から落ちた雫で跳ね返った泥が地蔵の様な形になった泥筍の並ぶ『千人坊主』。
     カーテンと呼ばれる板状の鍾乳石が重なって出来た『絞り幕』。
     波打つ様な形に巨大な鍾乳石が連なった『白銀のオーロラ』。
     今回行けるのは通常公開されているのは890mのエリアだが、名前の付けられたスポットだけでも、見所はたっぷりある。
     コースは全体に足場が組まれ照明もついているので、特に必要なものは無い。
     少々滑りやすいのでサンダルより靴の方が良いくらいだ。
     東京に帰る前に、およそ30万年程かけて自然が作り出した神秘の空間にちょっと足を運んでみては如何だろう。

     そして、この鍾乳洞をかなり楽しみにしている一人の生徒がいた。
    「……修学旅行の、そして探検の時が来たようだな!」
     今日も時が来ている神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)である。
    「鍾乳洞。それは悠久の時が築きあげた、神秘の英知と大自然の浪漫が満ちあふれた世界……」
     いや、いつもよりテンション高めに時が来てないだろうか。
    「なあ。最終日の自由行動、おきなわワールドに行かないか? あそこには玉泉洞がある。鍾乳洞だ!」
     心なしか、ヤマトの目は輝いてやしないだろうか。
    「詳しくはこのパンフレットを見てくれ。一人でも、グループでも楽しめるはずだ」
     何と言う準備万端っぷりか。
    「勿論、俺は行く。ここには是非行っておくべきだと、脈々と受け継がれてきた先人たちの偉大な言葉の数々も、そう告げている」
     ガイドブックや口コミサイトに影響されたらしい。
    「とにかく、楽しい旅行にしよう!」


    ■リプレイ

    ●地底世界へ
    「ヤマト隊長ー! こっちこっちー!」
     覚えのある声にヤマトが振り向いてみれば、両手をぶんぶんしている夏蓮を始めとしたクラスメイト達の姿があった。
    「皆も探険か?」
    「クラスの皆で洞窟探検ですよー。ヤマトもクラスメイト。一緒に行きましょうー」
    「ヤマトさんを隊長に任命しようかと~」
     真夜や睦月の言葉に、俺でいいのかとヤマトは少し意外そう。
    「自分も隊長と呼ばせて貰うっす」
    「ヤマトくんともご一緒したいです」
     千結や紗里亜にもこうまで言われて、頷かない彼ではない。
    「わかった。一緒に探検の記憶を心に刻もう」
     神崎探検隊の結成である。
    「こうして、神崎探検隊は人類未踏の鍾乳洞へと向かうのであった」
     朱里のナレーションで、一行は鍾乳洞へ向かう。未踏じゃない、と言うツッコミは出なかった。

     鍾乳洞。鉱物好きな燐音には堪らないスポット過ぎる。
    「ギリギリまで満喫する贅沢大事!」
     と瞳を輝かせ、いざ玉泉洞へ。
     階段を降りれば、広がる白の織り成す光景。上から下から鍾乳石が生えた地底世界。
     燐音の頬にストローから雫が落ちてきた。
    「あ、ヤマトくん。昇龍の鐘はどちら?」
    「昇龍の鐘なら、奥でお前を待ってるぜ」
     ヤマトに礼を言って、セイナはデジカメ片手に順路の奥ヘ足を進める。
    「見れる所全部、じっくり堪能しましょ」
     彼女にとって最後の修学旅行の最終日。
     存分に楽しもう。まず目指すは、玉泉洞の中でも最も美しいと言う鍾乳石だ。
    「これが昇龍の鐘ですか……」
     想像つかなかったその形を目にして、榮太郎は思わず息を呑む。
    「うお、なんだあれ。デカいし輝いてやがる」
     昇龍の鐘に驚く骸骨――の仮面を被った矜人。
    「良い物見せて貰ったぜ」
     人の手では絶対に作れないような光景に、戦いがどうとかがちっぽけな事に思えてきた。

     鍾乳洞に入ろうとした一途に、声をかけて来たハイナ。その少し先で出会った治胡。
     都合、3人で回ろうかと言う話になったのだが――。
    「実はさ、アンタと一度やり合ってみたかったんだよね」
    「……さては、アカ同様、僕のファンなのだな。そうだろう」
     何故か、治胡とハイナの間の空気が妙な方向に。
     これ以上険悪になるなら鉄拳ですね、と一途は密かに拳を握る。
     真月は割と窮地だった。
     一緒に入った澪の悲鳴が聞こえた。と思ったら、後ろから押し倒されて絡まる様に転倒。
     しかも、泳ぐ場所があると勘違いした澪はかなり面積の少ない水着を服の下に着ていて、その胸元が彼の目の前に――。
    「んッ……まこきゅん、ドコ触っとるん……くすぐったいえ?」
    「ち、ちが、これはわざとじゃ……!」
     頑張れ少年。

    ●洞窟をダンジョンと読む人達
    「こんな立派な鍾乳洞が沖縄にあったんだ……」
     頭上に広がる鋭い鍾乳石を見上げ、瞬兵が呟く。
    「ゲームっぽいですよね」
     カメラ片手に頷く光。
    「あれとか落ちてきたらやばそう」
     暑そうに団扇で扇ぎながら、感知に失敗したら、なんて思いながら頭上を見る丞。
    「自然系のダンジョン攻略に、ランタンは2つ必須ですよね」
     妙な拘りを見せる小次郎。
    「ランタンは2つもいらないと思います……」
    「ランタンは消耗品ですよ?」
     瞬兵のツッコミにも、小次郎は譲らない。
    「あ、蝙蝠発見です」
    「蝙蝠はエンカウントってとこか」
     鍾乳石に止まった蝙蝠にカメラを向ける光と丞。
     ゲーマー全開でダンジョン気分な【TRPG同好会】の面々だった。
     【井の頭小6蓮組】の3人もリアルダンジョン探索気分だ。
    「すっごいつららなのですー! とんがってて、かっこいい!」
     槍天井の鍾乳石に兎織のテンションが上がり、フードのウサ耳も揺れる。
    「ファナちゃんトールちゃんここすごいねー。槍天井っていうんだー」
     将来お城を作る時に使えそう、と覚えておいた知識を披露する莱音。
    「こんなに鍾乳石が並ぶと、神秘的ね……」
     そうとは露知らず、息を呑むファナ。
     この後、手が届きそうな鍾乳石に兎織が「鍾乳ソード」とか言い出して、莱音とファナが2人で止めにかかるのだった。

    ●神秘の地底
     入口からしばらく続く階段。その高さと怖さはサリィの予想外。
    「ほら、手。繋げば怖くないだろ?」
     不安気な彼女を見かねた隼鷹が差し出した手を、赤くなりつつ握ってそれでも怖くて、腕にしがみついてしまう。
    「こうしてると怖くない」
    「高い場所、苦手だもんな。怖くなくなるまで、掴んでていいからな?」
     聞こえたサリィの小さな声に隼鷹はちょっと笑って。2人は、ゆっくりと先に向かう。
     東洋一洞から更に下ると、天井に槍の様に鋭い鍾乳石が広がる空間に出る。
    「まるでシャンデリアみたいですね……」
     頭上に広がる光景が出来るまでかかった年月に思いを馳せて、見入る雪臣が思わず独り言。
    「うわ。この天井、針山みたいで怖っ」
     パンフレットと実物は大違い。思わず奈穂が呟く。
     釣られて見上げる、クラレットと楼沙。
    「うっ。確かに、天井ちょっと怖いかも……」
    「は、針山なのだ! やっぱり洞窟は怖い所なのだ!」
     鋭い鍾乳石がこちらを向いていて、確かに怖い。楼沙のウサ耳帽子がふるふる揺れる。
     と、3人の上を何か影が通りすぎる。
    「何か飛んだ?」
    「あ、蝙蝠!」
     奈穂とクラレットがその正体に気づいた。鍾乳洞に住む蝙蝠だ。
    「た、確か蝙蝠は血を吸うから、近づいちゃダメなのだ。気づかれないよう、ゆっくり移動するのだ」
     奈穂もクラレットも、別に怖がっていないのだけど。楼沙の言葉で、そろりそろりと先へ進むのだった。
    「うおお、鍾乳石やっべー!」
    「マジ槍天井すげーっすね……っ」
     【人部】の3人も、頭上に広がる鍾乳石に目を奪われた。
    「こんなの自然にできちゃうのか……自然の神秘ってやつか」
    「周が真面目な事言ってるっす」
    「絶滅危惧種だな」
    「お、お前らな!」
     思わず口をついた言葉を時春と徹太に弄られ、少し慌てる周。
    「でも、長い時を重ねて未だに伸びてる鍾乳石みたいに、俺達の絆もずっと続いていくといいっすね」
     移ったか、時春も独りごちる様に言う。
    「……なんだ、ハルもセンチメンタルだな」
    「そういうの嫌いじゃねーよ」
     それは小声だったけど、周も徹太も確かに聞こえていた。

    「ヤマト、ヤマトも。洞窟、探検ー♪」
     と言うルー達【徒然】も途中で加わり、ちょっとした大所帯になったヤマト達。
    「探険隊の前に現れたのは謎の化石でした~」
     ナレーション役は睦月になっていた。
    「これ、何の。化石、ですか?」
    「何の化石かしらね?」
    「アタシもわかんなーい」
     ルーが周りに訪ね、法子と草灯がヤマトをちらっ。
    「これは、遥か時の彼方に生きていた存在……リュウキュウジカの化石だな!」
    「ほわー。すごいですねー」
    「へー……すごいっすねー」
    「ヤマト、物知り。すごい、です」
     ルーだけでなく、真夜や千結からも賞賛の声に、少し得意気なヤマト。
     そこのプレートに書いてあるとか突っ込む者はナッシング。
    「ヤマトさん。鍾乳石に対する愛とか薀蓄とか、何かないのー?」
    「此処は、他の鍾乳洞より鍾乳石の成長が早い。沖縄の大自然の力のお陰だ」
     更に草灯がノリで尋ねれば、すかさず返してくるヤマト。
    「珊瑚礁の石灰質に大量の雨が降り注ぐため、成長が早いんですよね?」
     紗里亜がさりげなくフォローを入れる。
    「ヤマト。他のお勧めのポイントとか教えなさいよ」
    「そうだな……まずこの先に、煙の様な滝と鳥居がある筈だ」
     法子の問いに、一度パンフレットに目を落としてから、ヤマトは順路の先を指す。
     その頃、そこにはさゆみが訪れていた。
    「物語だと、何か素敵なものが眠ってそうですね」
     白い滝の上に、緑に輝く龍神の池。
     期待した涼しさはなかったけれど、大自然の生み出した神秘的な光景に、暑さも忘れて目を奪われても仕方がない。

    ●地底水景
     やがて、青く輝く静謐なる泉の上に出る。
     通路が地下水の上なのだ。足元に広がる幻想的な青に、足を止める者は多い。
    「おー。ほんまに真っ青やな。しかも広いわ……」
     青の泉の一帯は、天井こそ鍾乳石で低いが、壁が少なく広い空間だ。アイネストの声が響く。
    「綺麗だ……ソーダアイスやかき氷シロップみたい」
     魔女の様なとんがり帽子を被った檸檬が、青の泉を凝視してポツリ。
    「言い得て妙だけど、飲んだら駄目だろ」
    「駄目ですよ?」
     しかし、即座に一颯とクラウディオの2人に突っ込まれる。
    「なら食べても大丈夫な物を頼む。上条の奢りでな」
     ジト目になった檸檬が、手摺から離れたその瞬間。つるっと足元が滑った。
    「っ危ねえ!」
    「危ない!」
     咄嗟に一颯とクラウディオが支える。
    「これは、檸檬さんの奢りですね」
    「む……すまない」
     逆に奢りと言われても、返す言葉のない檸檬だった。
    「いい場所ね……心が洗われるようだわ」
     ルーシャが自然の神秘に目を奪われていると、泉の奥に小さな影。蝙蝠だ。
    「……そこの蝙蝠さん、使い魔に来ない? 餌は弾むわよ?」
     魔女と言えば使い魔。使い魔と言えば蝙蝠。されど、影は奥へと消えた。
     千夏の眼下には鍾乳石に溜まった綺麗な青い水。視線を上に送れば、鍾乳石群。
    「すげえ……」
     30万年かけて自然が作った景色に、千夏が思わず感嘆の声を漏らす。
    「ちょっと怖いくらいだな」
     潤子も水景に息を呑む。その青が綺麗すぎて、吸い込まれそうで。
    「ね、ヤマトくん。青ってことはすっごい深いんだよね?」
    「これはライトアップだ。水は深くないが、歴史は深いぜ」
     そうなんだ、と頷く潤子。
    「うん、洞窟ってワクワクしてきますよね。30万年モノっすよ、30万年」
    「ああ。俺達は今、30万年の時の中にいる」
     水景を前に、興奮を隠せない蓮司に、いつもの調子でヤマトも頷く。
    「時間の作り出す造形って凄いですよね」
     ヤマトの言葉と目の前の光景に、朱里達、神崎探険隊も思わず息を呑んだ。

    「すっげー!」
     はしゃぎ気味な夜斗が歓声を上げる。
    「あれなに色?」
     パーカーのフードを被った朱が無邪気に足元の泉を指差す。
    「瑠璃色……にゃちと薄いんかな? 鈍?」
    「い、色の名前なんぞ俺が知るかっ」
     誘ってくれた皆に感謝、なんて思っていた所に話を振られ、慌てた脇差の答えは素っ気ない。
    「しかし、涼むにはいいが野宿には向かない洞窟だよな」
    「野宿前提かよ!」
     かと思えば直哉が野宿とか言い出すので、ツッコミも忘れない。
    「洞窟は雨風を凌ぐのにうってつけだからに決まってる」
    「やめた方がいいよ。俺、昔鍾乳洞で風邪引いたし」
     まだ真顔の直哉に、明莉が語るは過去の災難。
    「なぁ、次に行こうぜ!」
     早く早くと駆け出す朱だが、濡れた床に足が滑る。
    「あぶないっ」
     咄嗟に智優利が手を伸ばすも、結局2人とも尻もちをつく事になった。
    「2人とも大丈夫か!?」
     夜斗の声に、頷いて立ち上がると、朱はすぐに進み出す。
    「鈍っち。出口までおぶってー☆」
     一方、智優利は何故か脇差にもたれかかっていた。
    「誰がおぶるか! 自分で歩け!」
     感じる柔らかさに口では抵抗するものの、強く跳ね除けられない。
     そんな2人を最後尾に、6人は順路の先へと向かう。
    「この水とか鍾乳石持って帰りたいな」
    「駄目ですよ?」
     少々はしゃぎ気味な晴夜に流希が釘を差す。
    「……じゃあ、この中に『紅』羽さんを落としてみます? 紫色になったりして」
     何故かウズウズしたように手を動かして、遥香が少し不穏な冗談を言う。
    「後輩たちに楽しいお土産話を持って帰れるだけでいいじゃないですか」
    「桜井が蝙蝠に悲鳴上げたとか?」
    「それは忘れてくださいお願いします」
    「……柳さんも、はしゃいで転びましたね」
     常識精神を発揮して止めに入った夕月に、晴夜が突っ込めば、更に遥香が突っ込む。
    「悠久の 時の記憶に 魅せられて。ここに居合わせる私達は幸運なのかもしれませんねぇ……」
     【TG研】の仲間との楽しいひと時に、しみじみと呟く流希だった。
     これぜーんぶ持って帰れたら、とか、中に熱帯魚泳がせましょ、とか。
     青の泉の前で話してる内に、鶴一と七のテンションは最高潮。
    「やば、なんか飛び込みたくなってきた」
    「飛び込んじゃおうか?」
     手摺から少し乗り出したまま顔を見合わせ、互いに悪戯な笑みをニヤリ。
    「あははは! あんたと来たの大当たりだわ!」
    「あっは! あたしもそー思ってた所!」
     同時に吹き出してひとしきり笑い合った。
     青の泉の前で、目を閉じ耳を澄ます親友の姿に、皇が少し苦笑する。
     事実、判り難いが、普段来ない場所の雰囲気に戒は興奮していた。
    「本やテレビで見た事はありますが、本物の鍾乳石を見るのは初めてです。いやぁ、凄いですねー」
     もう一人、ソルデスは最初っからテンション高いままだ。
     そんな2人がいれば、疲れ気味だった皇のテンションも釣られて上がる。
    「時間が作り出した芸術品だよ。この青も、この形も。……どうにかして、この場所を留めて置けないかな」
    「変わるからこその自然やろ? 来る度に違う風景っつーのも、悪くないんちゃうか?」
     次第に口数も増え、呟いた戒の言葉に笑って返した。

     唯人と生鏡も、青の泉で足を止めた。
    「泉明寺さんってこう言う神秘的な場所、似合うね?」
     生鏡が不思議な色彩に目を奪われていると、カメラを構え嬉しそうに唯人が言う。
    「似合うだなんて……ありがとうございます」
     突然褒められて、ここに来る前に唯人の手を握った時よりも赤くなる生鏡。
    「ここでも記念に1枚貰うよ」
    「はい」
     頷いた生鏡と青い水景を、ファインダーに収める。その出来栄えは――。

    「んとね、ここが【青の泉】で……」
     ガイドブックを手に恋人を案内するもも。反対の腕は、エアンとしっかり組んでいる。
     この方が転ばなくていいと、エアンから差し出して来たのだ。
    「……へえ、神秘的な色だな」
    「私、この色……大好き」
     広がる青に息を呑むエアン。だけど、ももが見ているのは泉ではなく、もっと近くにある2つの青。
    「ああ、そういう事か……困ったな」
     視線で言葉の意味に気づいて、エアンも見つめ返す。
     ももが目を閉じ少し背伸びをすれば、エアンがそっと唇を触れさせた。

     泉の先に降りると、大きな棚田の様な黄金の鍾乳石が現れる。
     そこに湛えられている、沖縄の海を連想させる青。
    「外国の洞窟を探検している様な錯覚を覚えますわね」
     今度は誰かを誘って、なんて。日有は携帯で写真を撮った。
    「あかねちゃん、屈んで?」
     花梨に腕を引かれるままに朱祢が屈んで見れば、白いマイクログールが目に入る。
    「へぇ。確かに綺麗だ」
     朱祢の反応に、花梨は満足そうな笑顔を浮かべた。
    「こう言うのは、共有できた方が楽しいの」
     だから、ね?
    「ちゃっかりしてんなぁ、お前」
     低い視点の次は高い視点。朱祢がそっと花梨を抱き上げた。

    ●星路と銀幕
    「おっと、危ない」
     狗崎がひのとの前に出る。すぐ先を、小さな蝙蝠が横切った。
    「襲って来なければ大丈夫……なはずです」
     ひのとはそう言うけれど、狗崎は軽くナイト気分。
     やがて2人の前に現れたのは、一面に小さな白い鍾乳石が点々とした空間。
     鍾乳石を星に見立て、銀河街道と名付けられている。
    「天井が銀河風なのかと思ったけれど、星を撒いた風情なんだな」
     頷く狗崎の隣で、ひのとは言葉も忘れその光景に見入っていた。
    「すごいな……」
    「すごいね……」
     連なる鍾乳石に、輝く泉。星を思わせる白い石。
     次々と変わる光景にポツリと漏れた言葉は4人とも同じ、すごい、の一言。
     口には出さなかったけど、葛城も胸中で、すごいとしか表現できない、と思っていて。
     顔を見合わせ、思わずくすりと笑い合う井の頭2-7のクラスメイト達。
    「せっかくなので、何かここに来た証を残したいっすねぇ……」
     笑いが収まった所で、翠里がそんな事を言い出した。
    「ね、次、広いとこに着いたら写真撮ろう?」
     それを聞いて笑い掛けるシン。入る前は一番怖がっていた彼女も、怖いなんて気持ちはもうない。
    「ああ、悪くないな」
    「そうね。いいんじゃない」
     昴人が頷き、葛城も自分で珍しいと思いながら提案に乗る。
    「じゃ、広いとこ目指して行こうぜ」
     思い出を形にできる事が嬉しくて早足になりそうな自分を隠し、花之介が先頭になり歩き出す。
     少し先で撮った写真には、笑顔の5人が写っていた。

     銀河街道の先にあるのは、後ろから照らされ白く透けた『白銀のオーロラ』と名が付いた鍾乳石だ。
    「素晴らしい光景だ」
     薄暗い中でもサングラスを掛けたままの桜火が呟く。今日の彼女はいつも以上に口数が少ない。
    「この景色、まぐろさんにも見せてあげたかったな」
     鍾乳石を何処かウットリと眺めながら、長袖の学ラン姿の仲次郎が愛しい人を思い浮かべ呟く。
    「此処も綺麗だけど、青の泉も印象的だったな」
     悠は過ぎてきた地下水の景色を思い浮かべる。
     『何か』がそこにいて、邪魔したら悪い様な、そんな気がした場所だった。
    「私も刺激を受けました。帰ったら、作曲でもしてみましょうか……♪」
     スミレも青の泉の景色を思い出す。
     まるで、地の底から空を覗き込んでいる様な、幻想的な青。本当に素敵な色だった、と。
    「どこもすごく神秘的だよな。順路はちょっと工事現場みたいだけど」
     工場街で育ったからか、旋は組まれた人工の足場も気になるようで。
     クラスメイトで集まった5人は、思い思いに鍾乳洞を楽しんでいた。
    「これができるまで、どれだけ時間がかかったのでしょうね……」
     眼前の大きな鍾乳石に圧倒される七波。
    「石灰分を多く含む水が大量に流れ込む環境だから、成長が早いみたいだよ」
    「さすが探求部部長。本当に詳しいね」
     解説役が板に付いている結衣菜に、感心するエリアル。
     ライトアップの演出に少し騙されたような気もしたけれど、それは野暮と言うもの。
    「皆さんを入れて、写真を撮りましょう」
    「あ。折角だから3人で撮って貰おうよ」
     七波の提案を聞いた結衣菜が、丁度現れたヤマトの元へ歩み寄る。
    「たんきゅう~ぶ、ブイ!」
     鍾乳石をバックにVサインの結衣菜。両脇に、七波とエリアル。
    「お前達の探検の証(レコード)、確かに残したぜ」
     撮影したヤマトも満足気な、記念の一枚だった。
    「みてみて、祇弦」
     シアンが祇弦の袖を引く。
     珍しくはしゃぐその姿に、祇弦も思わず笑みを浮かべる。
    「すごいなぁ……」
     これまでとは違う形、模様の鍾乳石に息を呑むシアン。
    「本当に、自然の壮大さを感じる」
     祇弦もはしゃぎこそしないが、地底の景色を存分に堪能していた。
    「ね。一緒に色々回れて楽しかったよ。ありがとう」
    「俺もシアンと色んな場所に行けて良かった。こっちこそ、ありがとう」

    ●地底の終わり
     眼目が目立たぬ様に隅から洞窟を鑑賞してたら、誰かが寄ってきた。
     だから威嚇して、離れた。のに、その先で何故かまた会う。その繰り返し。困惑したまま、もう終点だ。
     独奏楽団は行く先々で、眼目を見つけては近づいた。
     拒絶も威嚇も新鮮で愉しくて、彼女の笑みは深まるばかり。二度までは偶然。ならそれ以上は?
    「青の泉は鮮やかだったよな、浅葱調査員!」
    「ホント、綺麗な色してたよなー」
     ずっとテンション高めな月兎。に、ツッコミつつ自身も堪能したカイ。
    「浅葱調査員、大事な話を聞いてくれ」
     順路の終わりも近い所で突然、月兎は足を止めてカイに向き直る。
    「俺は将来、蝙蝠になりたい」
     そして爆弾発言。
    「え、なりたい!? 飼いたいとかじゃなくてなりたいの!?」
     最後までツッコミ役なカイだった。
    「はい、シーサー!」
     夏蓮の掛け声が響く。神崎探検隊の解散前に笑顔で記念撮影だ。
     スタンが名残惜し気に来た道を振り返る。
     この不思議な空間をもっと見ていたい。
     暑く明るい外に戻るのを少しためらって、帽子をかぶり直す。
     ああ、光がまぶしいや。
    「……うん、ステキなところだった。すごくね」

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月21日
    難度:簡単
    参加:88人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 6
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