修学旅行～夜の海、光の花

■リプレイ

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　日が沈んだころ、灼滅者達は旅館を出て、浜辺へ向かった。もちろん花火のためだ。海は空の紺色をそのままに映していて、深く澄んでいた。
　最初に花火を手にした爆が静寂を盛大に打ち破った。
「ひゃっはー！　リア充は爆発だー！」
　両手の指にレッツパーリィな感じで花火を持ちまくる。台詞はともかく絶対これ誰かやるよね。それにしても花火の似合う男である。
「夏だっ！　海だっ！　OKINAWAだっ！」
「だーっ！」
　こっちにもいた。ウルスラと翼である。両手に何色もの花火を装備して思うままに駆け回る。昼間も存分にはしゃいだが、まだまだこれからだ。へばってられない。
「ほら、気をつけろよ」
「うん……あ、ついたの！」
　同じクラブの朱祢は、花火が初めてだという花梨に手解きをしてやる。おそるおそる火をつける花梨だったが、花火の光が弾けると、ぱっと表情も明るくなる。
「ふふ、やっぱり花火っていいなぁ」
　喜ぶ花梨の姿に、頼子も頬をほころばせた。辺りを見渡せば、そこかしこで虹のように花が咲いている。大勢でやる花火は賑やかでいい。ぱちぱちという音さえ楽しい。
「ええ、……皆様が楽しそうで何よりですねぇ」
　そう言うラピスティリアは線香花火の火が落ちると、砂浜に腰をかけた。仲間の笑顔に、思わず目を細める。
「……火を絶やさないで。明るくしよう」
　珍しく弾んだ声。恢は光を絶やさぬよう、矢継ぎ早に花火を繰り出す。光が青く、赤く、何度も彼の顔を照らした。
「こっちはクラスの面子と海行く予定だけど、そっちは明日何処行く予定？」
　悠埜が聞いた。言葉を交わす間にも、恢の花火に次々に点火していく。
「よかったら、どうぞ」
　その様子を見て、飲み物を持って戻ってきた一途は小さく笑む。それから、仲間がばらまく光の花を、そっと眺めていた。一瞬を、少しでも留めておくために。悠埜が写真を撮ろうといった。シャッターを介に任せ、９人は適当な、各人らしい場所に陣取った。
「いちたすいちは？」
「「にー！」」
　９人の声が、シャッター音と同時に咲いた。
　捨六は考えた。ウルルが黒ビキニの上にシャツという、魅力的すぎる格好をしていたからだ。気の利いたことでも言えればよかったのだが、口から出たのは別のこと。
「線香花火を落とさず最後まで出来ればいいことが有るらしいな」
　視線を胸元から線香花火に移す。いや、ちらちら戻るけれど。ウルルはそっと近づいて花火を持つ彼の手に、自分の手を重ねた。
「すてろくちゃん、綺麗ですねぇ、えへ」
　何かを願うように、二人の視線は花火の先端へと集った。
　ジジジ、と樒深と希紗人の間に静かな花火の音。突然、何の前触れもなく、樒深が懐からネズミ花火を出して見せた。希紗人は思わず飛び退く。花火はすぐにどこかへ行った。二人の間に、緊張が高まる。けれど、樒深がによりと笑えば、悪戯と理解した希紗人もふっと笑みをこぼす。
「次はどうする？」
「そうだな……」
　花火は幼少以来。希紗人が聞くと、樒深はできるだけ動きが派手なやつを選んだ。
「点火ぁっ!!」
　巨体に似合った、豪快な奇襲だった。冬崖はこっそり並べた吹き上げ花火に一気に着火した。実は葵もグルだ。しかし葵の足元にはヘビ花火のおまけつきである。
「この分かりやすい手、巨勢だな」
　足元にうごめく不気味なものを見つけた葵は、不敵な笑みを浮かべる冬崖にネズミ花火で反撃。
「ひっ」
「いやーっ！　こっちくるっ！」
　櫂が短く悲鳴を上げて、七がけらけら笑って、ネズミ花火から逃げ惑う。
「あおちゃんかぁ？　覚悟しろよ！」
　さらに、にやにや笑う朔之助がロケット花火で再反撃。もちろん人を狙ってはいないが、たくさんのロケットが音とともに空へ飛び立っていく。櫂はびくびくしたり、涙目になったり。本人は気づかれていないと思っている模様だったが。それから、櫂は花火でハートマークに挑戦した。しばしの苦戦のあと、見事に成功しにっこり。七はテンションが上がりっぱなしで、終始、爆笑しながら男たちの乱戦を観戦していた。
　六にとっても花火は初めての体験だ。ホームセンターで手に入れた大量の花火を円に見せびらかした。火を点けると何色にもきらめく花火に、六も同じように目を輝かせる。けれどやがて、燃え尽きた花火を手にして呟いた。
「……円君……花火って、ちょっとさみしいね」
　激しく光るからこそ、終わりは切なくて。円はそれに苦笑して答えた。
「まぁ、消えても綺麗だったことは憶えてるだろ」
　六が手を握ると、円も少し考えてから握り返した。
　うおー、とやたらテンションの高いのは鈴だ。対して傍らにいる葉は半笑い。
「お互い誕生日おめでとうございました！　あと二日だろうが上は上だ敬いたまえ！」
「母ちゃんの腹から二日早く出てきただけで年上面かよ」
　態度のでかい鈴に、髪でも焦がしちまえと花火を渡す。しかし意気揚々と二刀流。思惑通りにはならず。鈴が楽しいかと聞けば、素直に悪くないと答えた。こんなときにウソついてもしょうがないじゃない。
　フランセットは男である。結斗は女である。互いが互いにややこしい恰好をしているので同姓だと勘違いしているが、それでいて不都合がないのもこの二人だった。
「我が名はフランセット・ラグレーン！　薔薇の騎士！」
　と意気込んで、フランセットは花火で薔薇を描く。少し恥ずかしくて、結斗は頬をかいた。
「派手な火も良いけれど、こういう火も綺麗だろう？」
　結斗が線香花火を見せれば、彼もじっと見入った。

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　時間は関係を変化させる。悠一と彩歌は少し前までは家族という関係だったが、今は違う。線香花火のあと、悠一は隣の彩歌の肩をそっと抱き寄せた。それだけで、周りの花火や波の音が遠ざかったような気がした。
「ね……悠一、もう少しだけ、このままでもいいですか？」
　悠一は答えなかった。ただ代わりに、もう片方の手を重ねた。この手を離すことはない、と誓いながら。
　手持ち花火が初めてだという月夜を、アレクセイがエスコート。手際のよい準備を見て訪ねた。
「にゅ、色々と必要なのですね？　けど、火を使うのって大丈夫なのです？」
　アレクが大丈夫とうなずくと、月夜はおそるおそる火に花火を近付けた。その手に、アレクは自分の手を重ねる。知らないうちに顔が赤くなっているが、暗さと花火で気付かれなかった。
「大丈夫、怖くないですから」
　やがて、しゅぼ、と音を立てて花火が光る。月夜もつられて笑った。
　ステキな笑顔でススキ花火を振り回す椿。背後には呆れた様子のビハインドもいる。
「花火で人を襲う……ひゃっほうロマンだ、覚悟しろ！」
「リアル中二病なめんなよ、銀柳焚龍昇サンダー剣を食らえ！」
　とスパーク花火で受けて立つ宗汰。龍虎並び立つといったところか。大げさに言うと。
「ちょ、まっ、闇縫さんに板尾君、それ危ないよ！」
　慌てて一樹が生死に入るが、二人は止めてくれるな、と聞き入れない。ここで果てる覚悟らしい。そこに割り込むように、紫王もネズミ花火で参戦。大量のネズミ花火を放り込む。そしてさらに慌てる一樹。
「はしゃぎすぎて転ばないでね？」
　さらに紫王の黒い笑み。最後には、戦いそっちのけでロケット花火を並べていた太兵衛が口を開く。
「よ～し、ロケット花火に点火するよ～！」
　シュバ、とロケットが空に飛び立っていく。光と音の不意打ちに、仲間達も我に返った。決着は線香花火で着けることになった。
　星と月と海と、そして友人。すべてを目に納めて、葉月は深く息を吸う。煙っぽいが、それも悪くはない。
「玲那ちゃんは花火は初めてなんだね。私はやったことあるけど、こんなに素敵な花火は初めてだよ」
　彼女の言葉にうなずいて、玲那は光の群れに目を細めた。脳裏には亡くした家族。次にクラブの仲間のことを思い出して、見てもらおうと写真を撮る。出会いに感謝して、もっと強くなると誓った。言葉は音に消されてしまったけれど、葉月の表情を見ると、思いは届いているようだった。
　藍色の瞳に、赤の光が映る。ソラと加奈の二人はじっと線香花火に興じていた。光を見ていると、時間が静かに、ゆったりと流れているのを感じる。火がぽつりと落ちると、ソラもぽつり。
「加奈のが最後まで残るのを期待しようかな」
　加奈の線香花火はまだ燃えていた。けれど少しして、やはりぽつりと。加奈は苦笑して、すっくと立ち上がる。
「少し、歩きませんか」
　星を指さして言うとソラもうなずいて立ち上がった。
　故はぼうっと花火を眺める。綺麗、というより不思議、という風だった。棒付きの飴を咥えた琉珂は花火を適当に何種類か選んで渡してやる。長い髪を焦がさないよう気をつけながら、しばらくぱちぱち遊んだ。もちろん締めは線香花火だ。
「沖縄……初めてだけど来られてよかった」
「ああ、オレも」
　光は一瞬だけれど、一緒に見た思い出はなくならない。二人は手を握り、思いを確かめ合った。
　全身に花火を巻きつけた刻が仲間をめがけて突撃した。熱いのは熱いようで、全身から汗が噴き出している。
「くわー！　花火お化けだぞー！」
「きゃー花火怪人が来たわー！」
　口では悲鳴を上げながらも、草灯はやる気まんまん。無数のネズミ花火で反撃する。
「うわ、やばこっち来んな！」
　さらに綴が自分のところに飛んできたネズミ花火を蹴り返す。刻に。さすがに危ないと判断したのかあゆが突き飛ばし、海に突っ込ませる。
「いや、ホント今の危なかったよ？」
　自分は悪くない、としたり顔。まぁ、あんまり危ないことするとなかったことになりますゆえ。
「こういう危ないことをしちゃいけないよ」
　花火初心者もいるので、由鶴はそれとなくフォロー。アスルもこくこくうなずく。二人の視線の先にはずぶ濡れの刻がいた。
「花火、気を付ける、です……」
「すげー、棒から花火が出た！　すげー！」
　外国育ちの烏衣は手持ち花火が珍しいようで、テンションが上がりっぱなしの様子。ただし手元は危なっかしい。瑞樹が少し離れた所から見守ってやる。顔にはくすりと笑みが浮かぶ。花火の音と光にも負けない、大騒ぎだった。
　智恵美と優希那は、浴衣を着て花火に参加だ。普通の花火をして、ネズミ花火をして、お次はドラゴン（吹き上げ）花火。しゅっと導火線に点火。
「あれ、点きませんね？」
「ですねぇ？」
　反応がないので、近付いてみる。けれどその瞬間に火が点いた
「「ふぎゃー!?」」
　驚いて、二人いっぺんに飛び上がる。そして二人で一緒に右往左往。どこまでも仲のいい二人であった。

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　双子の姉妹、桜夜と桜と一緒に花火をする晴夜。両手に花状態だ。しかしそんなことより初めての花火に夢中な様子。両手に花火である。桜も調子に乗って花火を陽気に振り回す。
「綺麗だね♪　お姉ちゃん、晴夜さん♪」
「こら、桜！　人に向けてはダメでしょ！」
　口では叱っているが、桜夜の表情はやれやれといった感じだ。可愛い妹には勝てないらしい。
「ひゃっはー　ってうおっ、やべ、んぎゃ!?」
　同じく調子に乗っていた晴夜も盛大にずっこけ、砂浜に突っ込んだ。砂まみれの晴夜を見て、桜がお腹を抱えて、桜夜がくすりと笑った。
　せっかくの修学旅行、ということでクラスメイト同士で参加する者もいた。煌介は花火で夜空に絵を架ける。
「……当ててみる、すか？」
「犬、犬だろう！　いややっぱりヤンバルクイナ！」
　寿は叫んだ。なぜ鳥ではなくヤンバルクイナ。沖縄だからだろうか。
「う～ん、エニグマ？」
　何の暗号ですか猫子さん。可愛らしく首を傾げても、分からないものは分からない。
「駄目だ、全くわから……っておい馬鹿！」
　鎖夜は思わず大声をあげてしまった。だって、煉火とお銀が花火合戦をしていたから。
「そっちが六刀流なら私は七、いや十刀ッ！　フゥハハハハ!!」
「やるな。だがまだまだだ！　ニカくん、フィィバー!!」
「ふぃーばー」
　煉火の号令に合わせ、ヴェロニカはヘビ花火に一斉に点火。ヘビというより別の、邪なものに見えた。邪神的である。
「うわぁ……堕ちそう」
　ヘビ花火のもりもりを見て、蓮二が呟いた。武蔵坂に『闇堕ち注意』という張り紙がされるのもそう遠くはないかもしれない。
　陸人達もクラスで参加だ。蝋燭で顔を照らして、言う。
「ふっふっふ。夜の海へようこそ……ここには花火の呪いがかかっとるんや……」
「……ん？」
　ススキ花火を楽しんでいた月兎が、今何か言った、みたいな視線を送る。陸人ががっくり肩を落とすと、次はスパーク花火に挑戦。
「砂浜で足腰を鍛えツツ涼を取リ季節を楽シム。コレこそマサニ夏の醍醐味というものではないデスか！　いえそうデス！」
「反語!?」
　クアドラは大量のネズミ花火に火を点け、一気に放つ。縦横無尽に駆け回る花火から、八尋は必死な顔で逃げ回る。ちょっとお見せできない顔だ。
「って、それ特注品か!?　赤くて速いんだが！」
　同じく逃げ惑う唯人。コントロール機能などないのに、花火は彼らを追いかけているようにも見えた。
「騒がしいな……」
「そうです、ね……ふぇ!?」
　線香花火で勝負していた弓弦と紫姫にも、ネズミ花火の群れが襲いかかる。線香花火そっちのけで逃げに回るが、頭からごっつんこしてしまう。
「まったく、やれやれね」
　みんなが怪我しないうちに、歌織はバケツで花火を消化した。言葉面こそ呆れているが、口元には笑みが浮かんでいた。
「花火といったら線香花火！　何とも言えない風情があるよねぇ」
　蝋燭から火を灯しながら、碧月は楽しげに笑う。そこに眉を曲げた優奈がやってくる。
「……一緒しても、いいかな？　わたし、初めてで」
　碧月はもちろん快諾。彼女が遊んでいるのを見よう見まねで、優奈も挑戦してみる。
「お～い、おれも混ぜてくれぇ～」
　長い髪を揺らして、琴緒も加わる。三人でそれぞれ、線香花火に火を点ける。それきり言葉はない。小さな光と小さな音、そして波の音が夜の海に溶けていく。
　両手に花火を持ったヒオは器用に花火で字を書いてみせた。
「ほらほら、こーすると字がかけるですよ！　暗いので花火してる時しか見れませんがー」
「ほふるはハートですぅ！」
　それに反応して、穂布留が色とりどりのハートを描く。たくさん愛が見つかりますように、と。クラスメイトの真琴はそれを見て、おー、と小さく拍手。
「大きい花火も綺麗ですけど、線香花火もいいですね」
「うん、かわいい音と光だよね。」
　真琴の言に潤子もうなずく。火が落ちると、もう一本もう一本となくなるまで続く。その間に、こっそり『ずっと友達でいましょう』と書くヒオだった。
　闇を嫌うレニーは、夜はあまり好きではない。けれど夜の海は特別だった。シャルロッテが傍にいるならなおさらだ。
「こうしてると、夜でも明るいね」
　二人だけではない、周りにも光が溢れている。夜という時間を思えば、それは不思議なことで。レニーはシャルロッテの花火に自分のを交差させる。
「綺麗で、とっても明るいデスネ。目を閉じてもそこに残りマス」
　開いたほうの手を握り、シャルロッテは微笑んだ。

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　毅は不機嫌そうな彩の腕を引っ張って浜辺に連れ出した。花火を押しつけ、有無を言わさず火を点ける。
「たまにはガキはガキらしくはしゃいでもいーと思うぜ？」
「……別にガキでいたいわけじゃないの」
　いつもと違う強引さに、彩は少し戸惑う。でも視線は花火に釘付けだ。その隙に開いたほうの手に、かんざしを握らせる。彩は表情を見られないように、俯いてポケットにしまった。
　薄青に金魚柄の浴衣を着込んだ澪。七葉は白に蒼の紫陽花、銀河は紺に菊だ。それぞれ自分の色のススキ花火を手に持つ。
「ほらほら、ハートやでぇ～」
　袖を振りながら、澪は器用に赤いハートマークを描く。
「天の川……ちょっと無理がある？　まあいいじゃないですか！」
　銀河は名前の通り、星の川に見せようとするがあまりうまくはいかず。
「ん、ちょっと寄って」
　七葉が小さく手招き。二人は意図に気付いて、花火を七葉のものに重ねた。三人の色が混じり合って、今度こそちゃんと星に見えた。それを見て、七葉の表情もちょこりと緩む。
　羽衣と慧樹はそれぞれ昼間の報告をしながら、花火に火を点ける。羽衣は不慣れでうまくいかないので、慧樹が教えてやる。
「注意！　花火はヒトに向けてはいけません!!」
「にゃーっ向けちゃダメっていったじゃんー！」
　花火を向けるフリをすると、羽衣はネコのように飛び退いた。少し離れて、警戒たっぷりの目を慧樹に向ける。困った慧樹がごめんと謝って、手を差し出す。羽衣も許してあげる、と呟いてその手を握った。
　沖縄で買ったシャツを着た優雨は、仲間に花火を配る。途端に千唯がはしゃぎ出した。
「夜の海で花火って素敵っすね！」
　花火に負けず目を輝かせたギュスターヴがそれに続く。
「キラキラでパチパチで、すごくロマンチックだよ！」
「おっと。はしゃぎすぎてケガするなよ？」
　そう言うレイシーもテンションは高いようで、手に持った花火にすべてに火を点けたりとやることは豪快だ。千唯も真似して、滅茶苦茶に火を点ける。
「やっぱり海の音もなんとなくですけど、違いますね」
　優雨は線香花火を見つめて静かに呟く。花火の音も波の音も耳に心地よかった。ギュスターヴはクラスメイトを見つけて、小さく手を振った。
　その先には帽子をかぶったアヅマの姿がある。夕月と杏里も手を振り返す。
「口日さん。一緒にやらない？」
「うん。ありがと」
　アヅマが誘うと、目もうなずく。目も同じクラスだ。
「ほら、ネズミ花火。できるだけ遠くに……あ」
　杏里が見せようとしたネズミ花火は、手を離れた瞬間に自分のもとに帰ってきた。慌てて目も一緒に逃げる。
「花火といえば線香花火ですよねー」
　光を眺め目を細める夕月。すぐそばには『徳用二百本入り』と書かれた箱が。使いきれるのだろうか。目も挑戦してみるが、不器用ゆえにすぐに落としてしまう。
　そこに偶然通りかかった優太朗が見かねて声をかけた。
「できるだけ動かずに、しっかり持ってください」
　助言のおかげで、目でもちゃんと遊ぶことができた。ありがとう、と小さく礼を言う。
　花火もそろそろ終わりというころ、バン、と大きな音がした。打ち上げ花火だ。さすがに業務用にはかなわないが、この人数で楽しむには十分だ。夜色のキャンバスに、赤や、青や、黄や、たくさんの色の花が咲く。みんな、そのひとつひとつに思いを巡らせた。
　打ち上げ花火が始まると、零冶はレンの手をとってみんなから少し離れた。
「真下から見るのもいいけど、打ち上げは少し離れて見るべきだろ」
　零冶が座るのに合わせ、レンも砂浜に腰掛ける。言いたい言葉はあるのに、まだふわふわしたそれは口にすれば消えてしまいそうだった。代わりにそっと、大きな肩に体を預けた。零冶も何も言わず、それを受け止める。
　奏とレインは、手をつなぎながら打ち上げ花火を見上げていた。ふと隣を見て、呟く。
「……綺麗だ」
「はい、そうですね……」
　子供のように花火に見入った奏は、その言葉が自身に向けられたものだとは気付かない。花火は次々と打ちあがる。空は瞬間ごとに姿を変える。時間は止まらない。だから、一瞬を積み重ねていく。次の瞬間も、もっと先も一緒にいられるよう、握った手の感触を確かめた。
　空に咲く花を指さして、茉莉花が大声を上げた。傍らの光も笑みを浮かべる。
「あっ、咲いたよ咲いたよ！　たーまやー」
「おぉ～思ったより高く上がるね！　かーぎやー！」
　二人の視線の先には光の花が。波の音と花火の音が重なって耳にも届く。いつもの、東京の大都会とは隔絶された世界だった。光の花と、茉莉花の笑顔。ずっと憶えていようと光は思った。
　全ての打ち上げ花火が終わると、少年少女達は片づけを始めた。修学旅行は、もう、二日目も終わり。まだ、二日目の終わり。灼滅者達はそれぞれの思い出を胸に旅館に戻る。そして、明日という未来へ期待を馳せるのだ。

作者：灰紫黄	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年6月19日 難度：簡単 参加：100人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 17／キャラが大事にされていた 6
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