いつか王子様が

    作者:江戸川壱号

    「ちょっと、離してよ!」
    「そんなこと言わないで、いいじゃん。ちょっと付き合ってよ」
     華奢な少女が、いかにも柄の悪い男に絡まれている。
     いかにもな光景に、しかし道行く人は遠巻きにするのみで誰も助けようとはしない。
     よくある風景、よくあるトラブル。
    「誰かっ、助けて!」
     勇気を出して少女は助けを求めて声をあげるが、残念ながらその声に反応する者は誰もいなかった。
     もしもこれがドラマか漫画だったならば、颯爽と好青年が現れて彼女を助けてくれただろうが、現実は甘くない――と思われた。
     だがそこへ、一陣の風が舞い込む。
    「……失せろ、下衆が」
     風の正体は、高嶺・凜という名の少女だ。
     凜は男が己を認識するよりも早く接近すると、腕を捻りあげて少女の腕を解放させる。
    「な……!?」
     事態に気付いた男は当然のように凜に掴みかかろうとするが、これもあっさりと避けて腹に一打を叩き込むと、倒れた男を踏みつけて逃げられないように留めた。
     絡まれていた少女を助けたのは好青年ではなく高校生くらいの少女であったが、それでもまるで物語のような事態の流れに、被害者の少女は顔を輝かせ凜に礼を言う。
    「あの、有り難うございました!」
     だが凜は、助けた筈の少女にも冷たい視線を向けた。
    「助けたわけじゃない。私は、ただ周りに助けを求めるような、お前のような輩が大嫌いだ」
    「え?」
     何を言われたのか分からず、少女はきょとんと凜を見返すばかり。
    「だからな、私は決めたんだ。……まとめてぶちのめす、と」
     男を踏みつけにしたまま、少女に向けても拳を放つ凜の頭部には、僅かに黒曜石の角が覗いていた。


    「ピンチの時には颯爽と王子様が! ……女の子なら、誰でも一度は憧れるシチュエーションだよね?」
     ぐっと拳を握って須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が力説する。
     同意の有無にはまったく頓着せず、さておき、とまりんは本題を語りだした。
    「真馳さんが危惧してた感じの事件を察知したよ!」
    「あら。ほんとに居たの?」
     呼ばれた理由はそれかと、真馳・かぎり(免罪譜・d00053)は軽く目を見開いて驚きを示す。
     王子様なんていないと絶望したコが起こす事件があるのではないか、という危惧があたったのだ。
    「うん。この子、高嶺・凜さんっていうんだけど。どうやら闇堕ちしかけているみたいなんだ」
     凜は少々複雑な家庭に育ったらしい。
     愛情も不確かな中、人目を避けて半ば閉じ込められるようにして育てられたのだという。
     本と勉強道具だけが友であった幼い凜は、絵本で読んだ王子様に憧れるようになった。
    『どんなに寂しくても辛くても、いつか王子様が現れて、ここから連れ出してくれる』
     と――。
     だが王子様が現れないまま無常にも時は過ぎ、願うだけでは叶わない現実を知った凜は絶望から闇堕ちしかけ、自力で家出をはかったのだ。
    「そうして彷徨ってる時、さっきいった状況に遭遇しちゃうみたい」
     憧れの反動か、凜は今や『王子様』や『都合の良い夢物語を信じる女性』に強い嫌悪感と憎悪を抱いている。
     だが心のどこかではまだ、信じたいと思っている可能性が高い。
    「凜さんは、今後も夢見る女の子を片っ端からぶん殴っていくつもりみたい。そうなる前に、どうにか止めてあげて」
     まりんが告げた接触可能なタイミングは、ナンパ男に絡まれた少女が助けを求めた直後。
     つまり、凜とほぼ同時に現場に踏み込むことになる。
     場所は路地裏で、幅は10メートルほど。
     障害物は特になく、広くはないが戦闘に支障がある程でもない。
     行き止まりの通路ではないので、どちらからでも侵入は可能だ。
     便宜的に方向を与えるならナンパ男側、少女側、といったところだろうか。
     ちなみに凜は、ナンパ男側から路地裏に侵入してくるようだ。
     ナンパ男と少女は、己の身が無事ならば自主的に逃げ出すが、凜は彼らを攻撃しようとする為、なんらかの対処が必要だろう。
    「巻き込まれるその二人に限らず、夢見がちな発言をする女の子や、甘かったりキザな台詞を吐く男の人を優先的に狙ってくるみたいだから、気を付けてね」
     凜は神薙使いと縛霊手のサイキックを使い、攻撃に専念する構えのようだ。
     闇に堕ちかけている凜は灼滅者達よりも力は上だが、言葉か行動かで彼女の心を動かすことが出来たなら、実力が発揮できなくなるだろう。
     まだ人間の心を残している今ならば、救うことが出来るかもしれない。
     完全にKOする必要はあるが、彼女にもし灼滅者の素質があるのなら、灼滅者として生き残る可能性もある。
    「そうしたら、学園に誘ってみるのもいいと思うよ」
     武蔵坂学園でならば、彼女が憧れていたような『王子様』にも、出会えるかもしれない。
    「王子様なんていないって嘆いてる女の子を、バシっと王子様らしく助けてきてあげてね!」
     そういって、まりんは元気よく灼滅者達を送り出した。


    参加者
    真馳・かぎり(免罪譜・d00053)
    白・理一(空想虚言者・d00213)
    レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)
    司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)
    エリザベス・バーロウ(ラヴクラフティアン・d07944)
    神木・一蜃(哭鬼・d16670)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    津野森・樹(渇いたラッキーボーイ・d17531)

    ■リプレイ


    「誰かっ、助けて!」
     助けを求める少女の声に、飛び出す影は全部で十。
     ひとつは闇堕ちしかけの少女……高嶺・凜であり、残るは八人の灼滅者と一体のサーヴァントだ。
     路地に侵入したのは、ほぼ同時。
     だが凜にとって灼滅者達の登場は予想外のことであり、灼滅者達にとっては凜の行動も状況も全てエクスブレインに聞いた通りのもの。
     ナンパ男へと伸ばされた凜の手を、庇うように前へ割りこんだ神木・一蜃(哭鬼・d16670)が受け止める。
    「!?」
     驚愕に目を見開いた凜の視線も受け止めた一蜃の背後には、付き従うビハインドの白桜花と、凜の視界から一般人二人を隠す位置に御印・裏ツ花(望郷・d16914)が立った。
     行く手を阻むのがその二人と一体なら、退路を塞ぐのはレニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)と津野森・樹(渇いたラッキーボーイ・d17531)の二人。
     そして路地の逆側には、残る四人の姿がある。
     ナンパ男と少女の安全に万全を期す為、裏ツ花とは僅かにずらした位置へ猫のような肢体を滑り込ませたのは、エリザベス・バーロウ(ラヴクラフティアン・d07944)。
    「助けに来たよ-」
     その背後では司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)と白・理一(空想虚言者・d00213)が、少女を凜とナンパ男からさり気なく遠ざけた。
    「女の子には優しくね」
     少女の保護を確認したレニーが改心の光を投げかけると、ナンパ男はたちまち心を改めて己の軽薄な所行を反省し、詫び始めた。
     無論、改心とこの場を離れることはイコールではないが……。
    「汚らわしい。早々に此の場から消えるが良い」
    「そうそ。男らしくないコトしてんじゃないわよ、みっともない」
     裏ツ花から冷たい視線を浴びせられ、真馳・かぎり(免罪譜・d00053)に遠くへ行ってしまいなさいと追い払われれば、その場に留まることなどできる筈もなく。
     ナンパ男が這々の体で路地を後にしたのを見て、絡まれていた少女も胸をなで下ろし、目を輝かせて礼を言う。
    「あの、有り難うございました!」
    「もう大丈夫だよ」
    「アナタも早く、ここから離れた方がいいわ」
     少女はまだ何か言いたそうであったが、人影の向こうではまだ何か揉めている様子だったこと、銀河とかぎりに促されたこともあり、幾度も頭を下げながら路地から離れていった。

     一方、灼滅者達に行動を邪魔された形の凜も、ただ黙って見守っていたわけではない。
     一蜃を振り払い更に踏み込もうとしたところを、止められていたのである。
    「待たせたな、助けに来たよ。あなたを」
     という樹の台詞によって。
     ドラマのように大仰な台詞をさらりと吐くその様子からは、先程まで「柄じゃないんだけどな~」と頭を掻いていた姿は想像できない。
    「なんなんだ、お前達」
     少女の危機に狙い澄ましたかの如きタイミングで助けに入ったきた上、『王子様のような』台詞だ。
     自然と目つきが剣呑になった凜を、一蜃の真摯な視線と言葉が更に追い立てる。
    「オレ達は……君を助けに来た」 
    「僕らは、さしずめ白馬の王子様さ」
     そしてレニーが口にしたのは、とどめと言える単語。
     金髪金眼で中性的な美貌のレニーが微笑むと、まさにお伽話の王子のよう。
     それだけに、凜の神経を大いに逆なでしたのだろう。
    「私を助けるだと? 何から? 私は誰の助けも必要としない。それに私は、居もしない『誰か』に助けを求めるだけの女も、そんな女を作ってしまう貴様等のような口だけの輩も、大嫌いでな」
     険があるを通りこして憎悪すら瞳に宿した凜から、闇色のオーラが吹き上がる。
    「あいつらの代わりに、貴様等をぶちのめしてやるッ!」
     そして、叫びと共に拳を繰り出してきたのだった。


     レニーを狙って撃ち込まれた凜の拳を、影を纏わせたロッドを掲げた理一が阻む。
     受け止めた衝撃は小さくなく、ウェーブのかかった特徴的な緑色の髪がなびいた。
    「やつあたりにしては、ちょっと過激かな? でもまぁ……受け止めるよ、全部」
     意図して痛みを感じさせぬ笑みを凜へ向けた理一の背から歩み出るのは、レニー。
    「ふふ、困ったお姫様だな。王子様はいるよ。君が望み求めるのなら」
     夜色の棘を纏う縛霊手『バニティグラスパー』から彼女の動きを縛る霊力の網を紡ぎ出していく。
    「ふざけた呼び方をするなッ。姫だ王子だと、ばからしい!」
     凜の叫びは怒りと苛立ちに満ちているが、だからこそ灼滅者達は彼女の『本心』がどこにあるかを確信した。
    「こういうことするのって、本当は王子様は居るんだって信じたいからなんでしょ?」
     後方へ抜かれぬよう、理一と立ち位置をフォローし合いながらバスタービームを放つ銀河が真正面から指摘するのは、揶揄したいからではない。
     常に真っ直ぐに突き進むその性格と……。
    「やっぱり誰だって本当は、誰かを助けたいし、助けられたいんだよ」
     飛び交う戦闘の音に紛れ、誰にも届かぬ独白に潜む思い故だろう。
    「違う!!」
     激しく首を振り、吠えるように吐かれる否定。
     感情のままに放たれた風の刃に頬を切り裂かれても、銀河は顔を背けない。
     例え当たって砕けたとしても、頑ななまでに真っ直ぐに。それが彼女だからだ。
    「確かに、あなたがこれまで居た世界には居なかったのかもしれないけど……。この新しい世界にも居ないだなんて決めつけちゃったら勿体ないよ」
     それは、かつて絶望に堕ちて、けれど新たな出会いによって希望を得たからこその言葉。
     ただの気休めではない、経験から来る言葉と愚直なまでに真っ直ぐな眼差しに、凜の表情が怒りの為ではなく歪む。
     そこへ更に裏ツ花が、経験からの言葉を投げかけた。
    「信じて貰えないでしょうけど、わたくしは出会いましたの。自分だけの王子様に。認識していなかった自身の扉。その鍵を優しく、開いて下さった」
     豪奢な巻き髪と自信に溢れた態度から高慢に見られることも多い裏ツ花だが、最愛の人を語る表情にきつさはなく、その印象も和らいでいた。
    「所詮物語、絵空事と思っておりましたわ。けれど、どうしてかしら。虚構と思えば思うほど、心は其の存在に焦がれていたと、知ったの」
     在るはずがないと否定するのは、ソレを渇望すればこそ。
     否定しなければ、得られぬ今に、自分に、耐えられないから。
     認めることは怖い。けれど。
    「誤魔化さないで。諦めることなんて無いですわ。期待すらしていなかったわたくしが、巡り会えたんですもの」
     闇に堕ち、その機会さえも失ってしまう前に。
    「黙れ!」
    「心のままに信じてごらん。僕らが応えてあげる」
     言葉から逃れるように奮った腕を右手の縛霊手で受け止め、優しく微笑みかけたのはレニーだ。
     裏ツ花のような幸運を皆が得られるほど世界は都合良くないことを、レニーは知っている。
     現にレニーにもそうした存在はいなかった。
     だが、だからこそ。せめて自分だけでもそうあろうと思うのだ。
    「自分は君の求めているような王子様ではないかもしれない。だけど、君が『自分を抱きとめてくれる腕』を求めているなら……幾らでも、貸してやる」
     揺らぎ、動きを止めた凜に、一蜃も縛霊手ごと手を差し伸べる。
     その胸で、彼の過去を象徴するペンダントが揺れた。
    「私……、私、は……」
     絶望と、それを誤魔化す為の憎悪に罅が入り、押し込めていた凜の本心と願いが、僅かに顔を覗かせる。
    「時に夢破れ、現実に打ちのめされることもあるだろう。だがそれでも、夢を見ることは誰もに許された権利だ。お前にとってもそうだ、高嶺・凛」
     それを後押しするのは、エリザベス。
    「だから私達は――お前の夢を叶えに来た。お前の事を救いに来た。来い、まずはその悪夢から目を覚まさせてやる!」
     そして――。
    「王子様じゃないかもしれないけど、あなたを救いたい人間は間違いなくここにいる!」
     樹の言葉に反応し、凜の目が居並ぶ灼滅者達を改めて捉える。
     ただ邪魔をしに来たか、あの少女を助けに来ただけだと思っていた。
     だが己を囲む少年少女が見つめ、訴えかけているのは相手はただ一人。
    『助けに来た』
    『救いに来た』
     彼らは、凜に、そう言ったのだ。
     その意味をようやく真に理解した時、凜に異変が起きる。
    「うわぁああああ!」
     絶叫は、何の為か。
     驚き身構えた灼滅者達の前で、揺らぎかけていた闇色のオーラが膨れ上がった。
    「……うるさい。誰も助けになど来ない。お前にはな!」
     哄笑をあげる凜の瞳には憎悪も絶望もなく、あるのは嘲りと苛立ち。
     しかし豹変した凜に灼滅者達が戸惑うことはなく。
    「出たな、ダークネス」
     猫の爪を思わせる形状のガンナイフを手に、瞬時に接近する黒衣の影はエリザベスだ。
     雷を纏わせた拳で強烈なアッパーカットをくらわせたところに降り注ぐのは、裁きの光。
    「迷える仔を更に惑わす悪いコは、さっさと退場しなさい?」
     苦悶の叫びをあげるダークネスに向けて、愛用のバイオレンスギター『スティグマータ・マリア』を構えたまま、かぎりはそう言った。


    「助けを求めるなど、軟弱なだけ。己の力だけが全てなんだよ!」
     力任せに奮われる拳は、理一と裏ツ花が出来る限り受け止めていく。
     二人もただ攻撃を受けているわけではない。
     大ぶりな動きの隙をついての反撃は、過激なほど。
    「可愛い女の子を助ける余裕もない軟弱者には、なりたくないなぁ」
     読めない笑みで理一が繰り出したフォースブレイクの衝撃で一瞬動きを止めた凜を、裏ツ花が盾ごと殴りつけて注意を惹く。
     凜の意識が沈んでいても気障な台詞には反応するようで、理一はそれを利用して上手く攻撃を集中させ、裏ツ花もまた怒りを与え挑発することでこちらのダメージをコントロールする。
     ダメージを引きうける二人を癒すのは、樹が放つ光輪の盾とかぎりが奏でる癒しの音色。
     仲間を支えるのは癒し、守る力ばかりではない。
     敵の動きを阻害することは、攻守に渡って重要な役割だ。
     一蜃の指示に従い動く白桜花は次々と毒や攻撃力を削ぐ攻撃を放ち、エリザベスは猫のような身のこなしと素早さで敵を翻弄し、影を自在に操って敵を絡め取っていく。
     そして勿論、欠いてはならないのが攻撃の担い手。
    「なんて言おうと、私達は彼女を助けるよ!」
     影を宿した縛霊手で殴りつける銀河の動きは、やはり真っ直ぐ。
     だが他を省みない直線ではない。逃亡を許さぬよう常に仲間と連携し、立ち位置を考えながらのもの。
     銀河と入れ替わりにレニーが凄まじい連打を叩き込み、仰け反ったところを一蜃が受け止めるようにして殴り、霊力の網で縛りあげた。
     凜の心に影響を与えることができた成果なのか、ダークネスの動きは精細を欠いており、攻撃を食らってもダメージは思った程ではない。
     自分達の言葉と心は彼女に届いたのだということに力を得て、確実に救う為にこそ攻撃を重ねていく。
     こちらのサイキックの効果を打ち消す力をダークネスが纏えば、すぐさまそれをエリザベスが除去し、纏い付く霊力の網が仲間に絡みつけば樹とかぎりが手分けして癒し払った。
     時に肉薄し、時に距離を置いて砲撃を放つ銀河と一蜃。
     常に敵の間近に位置取り、敵の動きをいなしながら様々なサイキックを駆使してダメージを与えていくレニー。
     幾度もの攻防の中、エリザベスが絡みつかせた影の効果もあり、ついにダークネスの動きが止まる。
     霊力の糸と影に攻撃を妨げられ吠えるダークネスに、かぎりが奏でるギターの音色と声が、その魂の奥深くへ向けて響いた。
    「……八当たりするガキに都合のイイ王子様なんて来やしねェよ」
     けれど。絶望の果てであれ彼女は最初の一歩を。自らを助ける一歩を、踏み出した筈なのだ。
    「アナタの物語、始まったばかりじゃない。自分の力で掴んだ最初の頁、ハッピーエンドまで貫きなさい!」
    「ぐ……ぅ……ッ」
     ダークネスの、凜の瞳が、再び大きく揺らぐ。
     その瞳を覗き込むのは、黒のマスクの狭間に煌めく金の瞳。
    「悪夢は終わりだ。さぁ、お前の夢を叶えに行こう――」
     黒衣のヒーローは猫のような瞳を笑みに細め、凜に残された闇を祓った。


     気を失い倒れ込む凜を受け止め抱き上げていたエリザベスは、彼女の意識が戻ったことに気付くと、そっと地面に下ろす。
     意識を取り戻した凜は、まだ硬いところはあるものの、ごく普通の少女だった。
    「王子って感じじゃないかもしれないど、まあ助かって良かったかよ」
     人の意識が戻っていることに安堵して、樹が胸をなで下ろす。
     気まずげに顔を伏せている凜に、武蔵坂学園の説明をして学園に来ないかと誘いをかけているのは裏ツ花とレニーだ。
    「同じ力を持つ仲間がいる場所、過ごし易いと思いますの」
    「学園に、君の王子様を捕まえにいこうよ」
     その誘いに凜は戸惑い、不安そうに目を彷徨わせる。
    「もう一度信じても、いいのだろうか……」
    「……ったくバカなコねェ」
     かぎりの溜息を聞いて凜はびくりと肩を奮わせるが、次いで降ってきたのは優しい掌と声。
    「夢ってのは、現実でこそ見るモンだろーが」
     むしろこれからだと告げる声に、凜の瞳に涙が滲んだ。
    「怒るにしても泣くにしても、そういう……なんていうか『柔らかい』表情の方が、自分は可愛いと思うな」
     そこへ慰めなのか本心なのか判別し辛いことを真顔で言うのは一蜃で。
     慣れないのか頬を染めて「やめてくれ」と訴える凜に、理一がそっと微笑んで手を差し伸べる。
    「一緒に帰ろう」
     家を出、帰る場所を失った凜にとって、それは思いもかけず、けれど何よりも嬉しい言葉。
     伺うようにエリザベスを振り返り、彼女が小さく頷いたことに勇気を得た凜は、恐る恐る理一の手をとった。
    「はい……っ」
     初めて見る、笑顔を浮かべて。

    作者:江戸川壱号 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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