灼滅者講座3:勝利を掴め

    作者:七海真砂

    「第3回の灼滅者講座では、前回の内容を踏まえて、より実践的な内容に挑戦したいと思います」
     挨拶もそうそうに、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はさっそく本題に入った。
    「ダークネス退治に行きましょう」
    「ええっ!?」
     驚きを隠せない様子の灼滅者達。
     第2回の時に『戦いなんてしたことが無いけど、自分なりに頑張って考えてみた』という灼滅者が何十人もいたのにこれだ、無理もない。
    「もちろん、ひとりで戦うわけじゃありませんから安心してください。行き先は新宿です。もう聞いている人もいるかもしれませんが、新宿に『ブレイズゲート』があることが分かったんです」
     ブレイズゲートが、どんな場所なのかは第1回で解説があった。不安な人は、第1回の講座の内容を聞いたり、復習しておこう。
    「新宿は、吉祥寺駅から15分くらいですから、ちょうどいいですよね」
    「確かに近いですけど……」
    「そういう問題?」
     とはいえ、第3回の行き先がブレイズゲートになった理由は、これだけではない。
    「第2回のとき、戦いについてしっかり考えている人が、とても多くいました。戦いに興味がある人が多いのなら、実際にチャレンジしてみるのがいいと思うんですよね。実際に経験してみることで理解できることもあるでしょうし、今後のダークネスとの戦いに、役立つでしょうから」
     戦いは不安だ、という灼滅者の声がたくさんあるのも知っている。
     しかし、戦いは避けて通れないのだ。もちろん先輩灼滅者たちも同行するし、サポートしていくので、そこまで不安にならなくていい。

    「行き先は『新宿橘華中学』です。ここはブレイズゲートなので、内部の詳細は分かりません。今回は『4人1組』のチームを作り、内部を探索します」
     チームはくじを引いて、ランダムに抽選で決めるそうだ。できるだけ先輩と後輩を混ぜて作るようにするらしい。
     もし、特定の誰かと一緒に組みたいのであれば、そう希望すればできるだけ考慮されるという。
    「灼滅者講座で知り合った人とチームを作ったりしても構いませんよ」
     クラスメイト、クラブで知り合った先輩……など、いろいろなチームが作れるかもしれない。
    「重要なのは、内部の様子が分からないブレイズゲートを、どう探索するかですね。どんなことが起こりそうか、想像しながら事前に考えておくといいかもしれません。あなたは、ひとりじゃありません。『他の3人と、どう交流したり協力するか』といった点も考えておくのがいいかもしれないですね」
     4人いるので、なにもかも全部自分でする必要は無い。それぞれの得意分野を生かして協力して探索できるのも、チームというものの魅力だろう。
    「今回は行き先がブレイズゲートなので、私は学園でお留守番です。あとは先輩灼滅者の皆さん、よろしくお願いしますね」


    ■リプレイ

     話を聞いた灼滅者達は、さっそくチームを作り始めた。くじ引きを待つ列があっという間に長くなったので、なんとなく近くにいた者同士で声を掛け合ってチームを作るような動きも、あちこちで見られる。せっかくだから知り合い同士で一緒に、という面々は、話がまとまるのも早い。
    「良かったら俺も一緒にいってもいいかな」
    「もちろんだべ、よろしくー」
     初心者マークを付けて歩きたいくらいだべ、と不安そうにしていた中井・亜紋(高校生ファイアブラッド・d18416)に声をかけたのは、レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)。他にも戸惑っていたり、声を掛けずらそうにしている後輩には、レイン達のような先輩灼滅者がすすんで声をかけてチームを作っていく。
    「女の子女の子女の子女の子女の子女の子女の子」
     一方、何度も繰り返し唱えながらくじを引いたのは阿久沢・木菟(自爆系忍者・d12081)。その祈りが通じたのか、チームメイトはミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)や不破・星奈(炎滅拳者・d17988)など女の子ばかり。これでも先輩でござるからな! と張り切って彼女達にブレイズゲートでの戦いについてレクチャーしていった。
    「うりゃっ」
     どきどきしながら岬・在雛(領主の後継者候補・d16389)がくじを引き、チームメイトを探していると、
    「あら、あなた同じチームみたいね」
     同じくじを持ったヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)が呼びかけた。傍でウロウロしていた葦原・憐華(死天使・d14030)も、無事に仲間と合流できて、一安心だとホッとする。
    「よろしくお願いします」
     最後に合流したのは、黒のチャイナドレスにフリルのエプロン、という格好の雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)だった。彼が大真面目な様子で、さっそく「軽く打ち合わせをしておきましょう」と呼びかけたので、何故そんな恰好なのだろうという謎を残しつつ、4人はさっそくブレイズゲートの探索に向けて動き出す。
    「はじめまして! 高校一年生の天道ナオです。よろしくお願いします」
    「ルチルです。兄様共々よろしくお願いします」
     まずは、と自己紹介をはじめたチームは他にも多い。天道・奈落(堕落論・d16818)たちも自己紹介からはじめ、ルチル・ティタニア(おたからハンター・d17529)は霊犬のことも紹介している。
    「よろしくね! 私はディフェンダーで、みんなを守りながら戦うのが得意だよ☆」
     樋口・かの子(天爛桜花・d02963)は軽く構えを取って、自分の得意なこともアピール。一方、楓・十六夜(闇夜虚ろう蒼銀の湖光・d11790)は簡潔に挨拶をすると、あとはなすべきことを果たしてみせると、静かにたたずんでいる。
    「では行きましょう。あ、その前にメアド交換しておきませんか?」
     簡単に打ち合わせを済ませ、せっかくだからと奈落が呼びかけた後、4人は出発していった。

    「ここが『新宿橘華中学』か」
     新宿の一角には、チームを組んだ灼滅者達が訪れていた。その中のひとり、高村・圭司(高校生神薙使い・d06113)が、校舎を見上げて呟く。こうして来たのは初めてなので、興味深いといった様子だ。
    「魔法、上手く使えるでしょうか……」
    「大丈夫、落ち着いていこうぜ」
     その隣でこわばった顔をしている東雲・菜々乃(中学生ストリートファイター・d18427)を白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が励ます。
    「そうね、そのためのチームだもの。協力して頑張りましょう♪」
     中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)も頷くと、さっそく挑戦してみようと呼びかける。他の3人とのバランスを考え、前に立って敵を引き付けるつもりの紅葉が先頭だ。
     灼滅者達の中には、途中で『あったら便利そうなもの』を用意してきたチームも多かった。
     ちらほらと光っているのは、内部が暗かった場合に備えて持ってきた懐中電灯。また、探索が長時間になる可能性を想定して、サンドイッチやお弁当を用意したり、お菓子を持ち込んでいるチームも少なくない。
     それらはさっそくチームメイトと分け合いっこされていく。九十九坂・枢(迷宮喜劇・d12597)も持ってきた飴ちゃんを、みんなに配っていた。
    「おやつは300円までって聞いたから、その範囲ギリギリで用意したよ」
    「え、決まってるんですか……?」
    「あまり気にしなくていいんじゃない」
     学園行事じゃないし金額は自由なのだが、なんとなく言いつけを守ってしまう生徒がいたのは、みんなで出かけるという点では同じだから……なのかもしれない。たとえ、その行き先がブレイズゲートだろうとも。
    「スラップアップパーティー、出発~」
    「「「おー!」」」
     そんな中、九重・木葉(矛盾享受・d10342)の号令で入っていく4人。2人ずつのペアがくっつく形で結成されたこのチームは、チーム名までついて、すっかりまとまったようだ。
    「これでいいですね」
     渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)はアリアドネの糸を使い、中で迷った場合に備えておく。歩きながら、一之宮・きょう(星屑コルテージュ・d17786)へのレクチャーを3人が行っていく形で、時間は有効に使われていた。
    「あとは……実際に見せようか」
     と、銃沢・翼冷(証拠不在の機密暴露背徳諜報犯・d10746)が足を止める。その視線の先に現れたのはダークネスの姿だった。
    「この鬼龍院・桜の前に現れた以上、タダでは帰れないと思……んなっ!?」
    「おっ、来たね来たねぇ」
     殿辻・尚都(アルミニウムプライズ・d01744)はニッと笑って、さっそく羅刹の少女にレイジングバーストをぶっ放した。後ろから進路を照らしていたレン・サニテーター(ベルゲンハウンド・d06308)も、すぐさまライドキャリバーに前へ出るよう指示している。
    「やったわね。喰らいなさい!」
    「っ」
     構えられるマシンガン。その直後に鳴り響いた射出音に、大河内・環(闘志と元気の円環・d17542)は息を呑んでこらえた。傷はすぐ、レンの起こした優しい風が癒していく。
    「キミ、厄介やわ」
     マシンガンから弾をばらまきながら闘気を高めていく桜を見て、草薙・風真(風奏鬼・d13021)は歌声を響かせる。神秘的な歌声が相手の構えを崩したところで、
    「ここの敵に、遠慮はいらないようだね!」
     環が思いっきり、サイキックで異形巨大化させた腕を叩き込んだ。
    「危ない!」
     どこからともなく聞こえてきた音楽。それは悲愴な音色の破壊曲――攻撃だと察知した由井・京夜(道化の笑顔・d01650)は、とっさにリステアリス・エールブランシェ(牙を隠した金色オオカミ・d17506)をかばう。
    「ありがと……助かる、よ……」
     その分は戦うことで返そうと、リステアリスはデモノイド寄生体から酸を飛ばして反撃する。
    「ノノ、京夜さんをお願いします」
     その間に、星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)の言葉に頷いたナノナノが、ふわふわハートで彼が受けた傷を癒していく。
    「あとは僕に任せてくれ」
     ガトリングガンを構えた曳古森・新人(ヒキコモリ上級弐種取得・d15099)はクールに告げると、あとは黙々と敵を狙い撃つ。連射された弾丸によって、ベートーヴェンもどきの外見をした都市伝説が、蜂の巣になって転がった。
    「これで、終わりだよっ!」
     サイキックソードで敵を切り裂いたランド・フォックス(銀狼のプリンス・d18357)は、戦いに勝てたことを喜ぶ。
    「ブレイズゲートって、こういう感じなんだね。向こうはどうなってるんだろ?」
     すると、とたんに戻ってくるのが好奇心。先が気になるせいか足取りも軽い。
    「へー、イスとかつくえとか、しょーがっこーよりおっきいな!」
     きょろきょろしてるのは出島坂・ステラ(小学生ご当地ヒーロー・d15739)も同じだ。今日8歳になったばかりのステラにとって、ブレイズゲートじゃなくても中学校は未知の場所。大好きなカステラを抱えて、楽しそうに探索している。
    「ま、今のここは中学っていうよりも、お化け屋敷みたいだけどな」
     机とか滅茶苦茶だし、とバリケードのように積み上げられた机を見てつぶやきつつ、芹澤・朱祢(白狐・d01004)は周囲を警戒している。教室のドアを開けたら散乱する机の陰から敵が、なんてことも十分ありそうな場所だ。
     いきなり何かが飛び出してきそう、という意味では、お化け屋敷と確かに似ているかもしれない。
    「いいか? 開けるぞ」
     次の教室へのドアを慎重にあける。途端に、田中・花(光の戦士・d12468)は身構えた。そこにはバットを振り回している少年――ダークネスがいたからだ。
    「アン? ……ダークネスじゃねぇな」
    「防御は私に任せて下さい!」
     殺意を隠そうともしない敵の様子に、花が向き合う。振りかぶったバットを受け止めたそこへ、ランドたちが一気に攻撃していく。
    「バラバラにならないよう気を付けて。力を合わせて、頑張りましょう」
     敵と遭遇してすぐ、一宮・光(闇を喰らう光・d11651)が呼びかけるとチームメイトたちが頷き返した。敵に分断されると、厄介だ。
    「そっち、お願いします」
    「わかった」
     黒曜・伶(趣味に生きる・d00367)が影の先端を刃に変えて敵を切り裂く間に、脇をすり抜けてきた相手に五十嵐・信濃(悪食野郎・d17637)が向き合う。無敵斬艦刀に炎を宿して振りかざすが、その剣先はあと一歩足らずよけられてしまう。
    「回復は私が」
    「じゃあ……」
     村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)の言葉に、光は影を操り敵を切り裂く。その間に伶が負った傷は、寛子が響かせた歌声で和らいでいく。
    「今度は逃がさない。これなら……どうだっ!」
     素早い動きで死角に回り込んだ信濃の一撃に、ダークネスは呻くと倒れ込んだ。
    「よかった、上手くいきましたね」
     無事勝利できたためか、伶は笑う。まだ探索を続けられそうなのを確認すると、4人は先を目指した。どうやら2階への階段があるらしい。

    「待ち伏せ……は無さそうだな」
     栗原・嘉哉(幻獣は陽炎に還る・d08263)は階段の上が大丈夫そうなのを確認すると、チームメイトたちを呼んだ。
     ブレイズゲート探索というシチュエーションではあるものの、このチームの雰囲気は明るく、そこまで張りつめた空気では無い。合間合間に柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)がいろいろな話題を持ちかけているせいだろう。
    「そういや、ふたりはもうじき修学旅行か?」
    「うん。沖縄回るの今から楽しみなんだー」
     探索の方針について相談したり、敵と遭遇した場合の戦い方、作戦を考えてみたあとは、お互いのことを話してみたり、学園のことなど、話題はいろいろなものに飛んでいた。
     初対面のチームメイトと何を話したものか……と最初は悩んでいた朔夜・碧月(さくよにてるつき・d14780)も、そのあたりのことはすっかり気にならなくなっていた。
    「せっかくだから満喫してくるといいぜ……っと」
    「敵みたいだな」
     中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)が声を潜める。頷いて嘉哉が示した先には、机の傍に立つ不穏な女の姿があった。
    「よし。さっき打ち合わせた通りで大丈夫そうだな」
     落ち着いていこう、と呼びかける銀都に3人は頷き返す。
    「むむー、大した情報は持っていないようじゃの」
     遭遇した敵から、このブレイズゲートの情報を聞き出そうとしたピップー・ドコサイクノコノコ(着グルマニアン・d14451)だったが、敵は答えてくれず、あまり有益なことは掴めそうにない。
     どうやら彼女(?)は呪いの噂話から生まれた都市伝説らしく、それどころか呪いの力を放って攻撃してくる始末だ。
    「でもね、好き勝手できると思ったら大間違いよ?」
     東雲・ミラ(中学生殺人鬼・d17496)は敵に鋼糸を巻きつけると、きつく締め上げて動きを封じようとする。その間に牙神・京一(モノノフ・d02552)は不死鳥の癒しをピップーに与え、彼の石のように重くなった体を治す。
    「チャリンコ、行きますよ……」
     涅・染(退屈な女・d12400)はライドキャリバーと一緒になって、立て続けに攻撃を繰り出す。縛り上げられている所に見事なコンビネーションが重なり、敵は攻撃を避けきれない。
    「やむなしじゃな。さっきの、お返しじゃ!」
     体勢を立て直したピップーも攻撃を重ね、都市伝説を倒して更に先を目指す。
    「敵さえ出なきゃ、普通の学校っぽいのにな~」
     みんなの怪我の様子を確認した穗積・稲葉(しっぽハーメルン・d14271)は、一見マトモに見える教室の様子に、思わず言わずにはいられなかった。
     これだけ敵がいれば、嫌でもここがブレイズゲートなのを痛感するが、初めは学校がブレイズゲートだなんて信じられなかったくらいだ。
    「これは何かの仕掛け……か?」
     注意深く警戒していた威河・悠夜(月下翠雨・d17404)は、壁に何かボタンのようなものがあるのに気付いた。
    「どうする?」
    「とりあえず押しちゃう?」
     はたして、吉と出るか凶と出るか。悩ましいところだが、何とかなるだろうとボタンを押す。もちろん十分に周囲を警戒するのは忘れない。
     その途端、遠くから何か物音が聞こえてきた。
    「……なにかが開いた、のかな。この先かもしれないね」
     とりあえず進んでみよう、というレニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)の呼びかけに、4人は更に奥を目指していく。一度廊下に出て、隣の教室の様子を窺うと、
    「……いるね」
     そこには、凶暴そうな外見のゾンビたちが、たむろしていた。
    「戦うしかなさそうですね。サクラは後ろから竜巻を」
     桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)の言葉に頷き、ナノナノが起こした竜巻が敵を襲う。綾鷹自身はウロボロスブレイドを高速で振り回しながらそこへ飛び込むと、一気に敵を切り刻んだ。
    「お前ら全員、オレ一人で倒してやるぜ!」
     敵の群れを前に、堂々と言い放ったのはルーク・エヴァンス(現役ガキ大将・d16479)。すぐさま豪快に敵を投げ飛ばす傍らで、ラティファ・アフマド(炎の手を持つアフマドの娘・d15253)は落ち着き払った構えから一瞬にして刀を抜き、敵へ斬りかかった。
    「防御は任せた」
    「おっけー任された」
     ゾンビは鉄のように固い拳を乱打してくるが、それは望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)が受け止める。そのまま反対に連打を叩き込んだところへ、バスターライフルを構え、照準をしっかり合わせた影宮・咢(仮想人格・d10721)からの魔法光線が見事に射抜いた。
     まずは1体。この調子なら大丈夫そうかな、という今日子の読み通り、前から後ろから、各自でしっかりベストを尽くした4人は、見事に敵へ打ち勝つ。
    「なー、鷹。オレそろそろ疲れてきた」
    「はいはい」
     ぼやいている塚地・京介(淡碧・d17819)に、氷室・鷹(マルチプレイヤー・d17570)は「ぼやぼやしてると置いていくから」と、つれない返事だ。
    「まあ、もうちょっと頑張ろうぜ」
     そんなやり取りに、クロノ・ランフォード(白兎・d01888)が京介を励ます。クロノ自身も別にそこまでポジティブというわけではないのだが、最初と比べて覇気の無くなってきた様子が放っておけないらしい。
     4人はブレイズゲートの話題をきっかけに、それぞれの趣味の話などをしつつ、ここまで探索を進めてきた。新しい場所に入るときは、一度止まって慎重に。今度もそうやって次の教室へ入ると――。
    「……東京に、あんな感じの場所なかったか?」
     グレダラス・ベラデスタ(小学生ダンピール・d18462)が思わず他の3人を振り返る。
    「ああ、浅草……」
    「浅草のご当地怪人だな」
    「間違いない」
     有名な観光名所の姿を髣髴とさせるダークネスたち。そんな彼らは、灼滅者を敵とみなすと、すぐさま拳を放ってくる。
    「くっ」
    「大丈夫か?」
     京介の傷を見て、鷹はすぐさま天上を思わせるほどの歌声を響かせた。その間に敵へ肉薄したグレダラスが、思いっきり握りしめた拳で敵を撃ち抜く。
    (「あとは、いきなり回り込まれないようにだけ気を付けておくか」)
     退路を断たれるのが一番怖い、とクロノは背後、廊下側にも気を配る。あちらへ逃れるルートを常に確保しておけば、どのような状況になっても何とかなるだろう。
    「まずはその足、狙わせてもらうわよ~」
     布陣はバランスよく、と考えた甘夏・氷柱(極突刺深・d16579)は中衛に入ると、敵の足元を狙った一撃で足取りを鈍らせた。
    「奇遇だねぇ。僕も同じ考えだよ……っと!」
     隣のクランズ・ヘリュピード(小学生神薙使い・d17738)が撃ち込んだ漆黒の弾丸は、どんどん敵を毒で苛んでいく。
    「よくもやったな!」
    「だめ、通さないよ~!」
     シールドを周囲の仲間たちまで広げた夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)が、その一撃を食い止める。すかさず、そこへゆみかのライドキャリバーが突撃したそこへ、
    「ほら、こっちだよ」
     山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)が飛び込み、回転させた槍で敵をまとめて蹴散らす。まるで怒りを誘うようなその動きに、どんどん敵が押し寄せてくる。
     ゆみかとライドキャリバーがそれをカバーしつつ、敵の攻撃を3人で協力して食い止める中、クランズと氷柱によって、敵はどんどん不利なコンディションへと追い込まれていく。
     壮絶なぶつかり合い、消耗戦となったが……。
    「や、やったね~……」
     気付いた時には、もう身動きが取れない。そんな有様になった敵を、なんとか倒した4人は、倒れた彼らの向こうに、更に上へ続く階段を見つけるのだった。

    「この辺は敵があまりいないようだね」
     童子・祢々(影法師・d01673)は次の紙に3階の地図を書き始めた。敵の気配が下の階よりもしないのは正直有難いが、戦闘を避け続けることが難しいことも分かっている。
     それでも、できるだけ慎重に歩き、戦いを避けながら廊下を進んでいくと、突き当たりの教室へと入る。
    「――何かいるぜ!」
     不穏な気配に蛇穴・螺旋(天昇鬼・d18249)が警告するのと、机の影から次々と唸り声をあげて奇妙な犬のような敵が現れるのは同時だった。
    「なんだこれ。一体どうなってやがるんだ……?」
    「眷属だ。きっとダークネスに改造されたんだね」
     犬同士を縫い付けたような姿に、思わずつぶやいた柩・冥(灼熱影刃・d13984)に、祢々が答えながら身構える。
    「なるほど……行くぞ!」
     すぐに敵を見据え、覚悟を決めた冥が炎をたたきつける。その一撃に咆哮した敵は、鋭い牙で噛みつき返そうとするが、すかさず、水流添・鴎(渡らずの鳥・d16753)が身を挺して受け止める。
    (「お味方に攻撃がいかぬよう、この身を呈して守る、ただそれだけです」)
     受けた傷はすぐ癒しの光で回復させ、鴎は敵と睨み合う。
    「――なにか来るの」
     和気あいあいと話しながら歩いていた御門・美波(壊れたアストライア・d15507)たちも、敵に気付いて足を止めた。繕・銀河(ロンサムヒーロー・d02202)はすぐさま、リングスラッシャーを分裂させて仲間の守りを固めていく。
    「足止めは任せて」
    「みんな、がんばろー♪」
     栗野・松谷(小学生デモノイドヒューマン・d18029)が周囲に放った護符を発動させ、そこへ美波が突っ込んでいく。アッパーカットが決まったところへ、九十九・緒々子(回山倒海の未完少女・d06988)のばらまいた弾丸が爆炎とともに襲い掛かる。
    「ともあれ、蹴り飛ばしてしまえばよかろう? なのです」
     緒々子はすかさず距離を詰めて、ご当地パワーを込めたジャンプキックで敵を蹴り飛ばす。敵が立て続けに炎を飛ばして反撃してくるが、
    「回復は引き受けたぜ」
     すぐに銀河が護符を飛ばして、その傷を癒しながら仲間への守りをさらに強固なものへしていく。
    「ふふ、そこです」
     敵の死角から忍び寄った羽切・紫苑(中学生殺人鬼・d13732)は、振りかざした大鎌で敵の足を容赦なく切り裂く。
     前で石田・和也(大罪の処刑人・d09196)と星見・紗生(スターゲイザー・d16863)が敵の攻撃と相対している間に、紫苑が隙をついて攻撃する――この繰り返しで、彼らはどんどん敵を追い詰めていた。
    「はいはい。歌うんよぉ~♪」
     後方からの宮比神・うずめ(舞うは鬼の娘・d04532)の歌が皆に活力を与えて、治しきれる範囲の傷を癒していく。苦し紛れに敵が放ってきた炎も、みるみる消してしまったくらいだ。
     敵からの攻撃を黙々と食い止めていた和也が、零距離からの反撃に出ると、敵は大きく体勢を乱して膝をつき、そのままどおっと倒れ込んだ。
    「勝てた……よかった」
     紗生はホッとつぶやきながら、その場に座り込んだ。少し不安もあったけれど、チームを組んだ3人と無事に勝てて良かった、と。怪我もたくさんしたけれど、安堵の方が大きかった。
    「よし、先へ進もうぜ!」
    「そうだね、まだ行けそうだ」
     入ってきたのと反対側にある扉を指さす土屋・マサヒコ(小学生ダンピール・d18146)に、砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)が頷き返す。
     危なくなったら撤退を、と常に頭の片隅に置いている皐月だったが、まだその必要は無いと判断していた。ブレイズゲートの探索自体は経験があるし、そのあたりの見極めでヘマはしないつもりだ。
    「あんな不気味な敵まで、いるんですね……」
    「ダークネスや眷属にもいろいろいるからな。でも大丈夫だって、今もなんとかなっただろ?」
     ちょっと青い顔をしている雛菊・凛(鋼の雛人形・d17270)を天木・桜太郎(吊花・d10960)が励ます。
    「ほら、俺達は、2人の後ろをついて行けばいいしなー」
     前に誰かがいるのを見ながら歩くのは、ちょっと安心感があるだろう。更に隣を歩いてくれる桜太郎に凛は頷く。ひとりじゃなくて、本当によかった、と。
    「こっちは家庭科室か」
     普通の教室とは違う机が並ぶ教室。その一番奥に、何者かの姿があった。ミシン台の前で顔をあげた少女の手には、布と縫い針がある。
    「……もしかして、灼滅者?」
     なんであろうと無断侵入者には変わりないわね、と立ち上がった少女を見て、立影・龍牙(黒衣の死神・d18363)はすぐさま戦闘態勢を取った。
    「テメェの相手はこのオレだ……!」
     飛び出した龍牙は日本刀を抜き、即座に少女へ斬りつけた。少女の方も裁ちばさみと縫い針で襲い掛かって来ようとするが、後ろからのシロナ・エンティミスタ(幽刻・d08554)による援護射撃が、その出鼻をくじいた。
     しかしすぐ体勢を立て直し、少女は弾丸の嵐にも構わず突っ込んでくる。
    「屍萩さん、回復は任せていい?」
    「大丈夫だよ」
     屍萩・理成(無色の音色・d13897)は頷くと、バイオリンを奏でながら歌声を響かせていく。それなら自分は、と水杜・光(オーバードライブ・d02809)は教室内を見回して――。
    「他にもいるよ、気を付けて!」
     いつの間にか集まって来たのか、教室には他にも眷属たちの姿がある。なら彼らをまとめて一気に、と光は輝く十字架を降臨させる。そこから放たれた無数の光が、一気に敵を貫いた。
    「こんな攻撃、当たってあげないわよー☆」
     藍原・音弥(オネェ界の超新星・d15446)は軽やかな動きで攻撃を避ける。ビハインドのゴンザレスが顔を晒し、敵にトラウマを植え付けていくと、更に安藤・燐花(ケットシー・d17984)からの弾丸が嵐のように吹き荒れた。その余波で、予め束ねておいた燐花の髪も揺れる。
    「これでお前との戦いに専念できるな」
     ライオ・ルーネス(高校生ダンピール・d16633)は、まっすぐに日本刀を振り下ろした。
    「しまっ……」
     敵の手から武器が落ちたのを見て、すかさず浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)は攻撃に転じた。チェーンソー剣で切り裂かれた敵は針を飛ばして反撃してくるが、音弥は「全然大したことないわねぇ」と余裕の態度だ。
     燐花がしっかり狙い撃った弾丸に貫かれて、敵は完全に倒れていった。
    「開けるわね」
     雪月・桜花(中学生サウンドソルジャー・d05499)たちは用心深く先へ進む。何が起こっても大丈夫なよう、手分けをして別々の方向を警戒しながら教室の中を確認する。どうやら理科室のようだ。
    「人体模型にホルマリン漬け……こういう場所だと余計に気味悪く感じない?」
    「わかります……」
     長門・睦月(正義執行者・d03928)の言葉にフェオドラ・グランツヴァルト(エンゲルグナーテ・d16137)は思わず頷く。さっきまでの話題では、よく笑みを見せていたフェオドラも、さすがに表情が少し曇っている。
    「そうだな。ここは何もないようだし、早く出よう」
     教室を軽く確認したが、敵の姿も無ければ、探索に役立ちそうなものがあるというわけでもないらしい。雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)の言葉に、皆が反対するはずもなかった。
    「滅入るような場所に長居は無用だな」
    「はい……」
     口々に言い合いながら廊下へ出ていこうとする4人。だが、その時。
    「ち、避けられたか」
    「ダークネス……待ち伏せていたのね!」
     待ち伏せしていたのだろう、敵が襲いかかってくる。最初の一撃はうまくかわしたものの、戦闘までは回避できそうにない。娘子は再びスレイヤーカードをかざして、ライブ衣装に姿を変えた。
    「さっきの敵ほどじゃないですねぇ」
     踊りながら攻撃していく天野部・癸錐(濁唄・d05143)の言葉を裏付けるように、遭遇した敵が次々と倒れていく。残った敵からの攻撃を凌ぎつつ、ビハインドの神狩は霊障波を撃った。
    「主によりて世界は遍く光に照らされ……」
     それっぽい言葉を唱えながら、光で癒していくのはギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)。
     普通に話していると、もっとゆる~い印象のギュスターヴは、戦いになるとまるで別人のように見える。もっとも今も内心で「僕こんなにカッコいいセリフも言えるんだよ、すごいでしょー!」とか思っているくらいなので、あんまり大差はないかもしれないが。
    「終わりましたね……」
    「やったねー!」
     最後の敵を影で飲み込み、倒した天城・翡桜(碧色奇術・d15645)が一息つく。ギュスターヴが今度もまた勝てたことを喜ぶ傍ら、癸錐が皆の怪我の様子を確認するが、どうやら、まだ大丈夫そうだ。
    「10分ほど休みマショウ。では、その間は僭越ながら……」
     ビハインドたちのおかげで怪我の無かったモーリス・ペラダン(問怪氷釈の釈放怪盗・d03894)は、シルクハットを脱ぐと、その縁をステッキで叩いた。すると空っぽだったはずの中から、万国旗が飛び出す。
     道化のように振る舞って、ちょっとしたショータイムを演出し、一礼したところでピッタリ10分。先へ進んだ4人は、上へ続く階段を見つけたのだった。

     階段を上って少し進むと廊下は行き止まり、ひとつ扉があった。烏丸・仁王(輪舞男爵ロンドバロン・d16976)は今回も慎重に、警戒しながらそれを開く。
    「かなり広い教室ですね……」
     中の様子を確認しようとした高嶺・由布(柚冨峯・d04486)は、途端に顔をしかめた。漂ってくる不穏な匂い。それがすぐ血の匂いだと気付いたからだ。
     見れば、床に倒れている影の周囲を取り囲むような血だまりが、いくつも、いくつも、その教室にはあった。
    「なんだ? 部外者の立ち入りは禁止だぜ」
     血だまりの向こうで側で、カッターナイフを握りしめた少年が笑っている。赤いしずくを垂らした刃の先を、少年が構えた。
    「俺とアソぼうぜ。バラしてやるからかかって来いよ」
    「言われなくても」
     村山・たかし(高校生殺人鬼・d05042)は、すぐさま無敵斬艦刀を叩きつけた。しかし少年は笑ったまま「お前達も惨殺してやるよ」と刃先を繰り出す。鮮やかな血が舞う中、由布はすぐさま矢に癒しの力を込めて放った。
    「こっちだ!」
     仁王は意識をそらすように、影を宿した一撃を繰り出す。泡野・宮介(小学生魔法使い・d18076)は狙いを定めると、彗星を思わせる強烈な矢で敵を射抜いた。
     堅実な戦い方を続け、確実に攻撃を重ねていく4人。だが敵は手強く、内臓まで切り刻むほどの勢いで反対に切り裂かれる。
     たかしと仁王が前で敵と向き合う間に、由布が回復を続け、宮介はバベルの鎖を瞳に集中させながら体勢を立て直していくが、なかなか決定打には至らない。
    「させないよっ」
     篠原・唯識(炎槍の踊り手・d18141)は、四条・久那妓(風狼・d17767)を狙った刃先の一撃から彼女を守る。
    「篠原、大丈夫か?」
    「大丈夫。それより、アイツらを思いっきりぶっ倒しちゃって」
     仲間を守ることが今の僕の役目だから、と笑う唯識に頷き、久那妓は拳を構え、そこにオーラを収束させた。
     ひとつ、呼吸をして。
    「砕け散れッ!」
     あとは一気に拳を解き放ち、すさまじい連打を叩き込む。
    「武器の威力まで削いでくるとは、厄介ですね」
     富士・輝夜(中学生ご当地ヒーロー・d17943)は癒しの力を乗せた矢を仲間に届けると、続けて仲間を守護するための護符を取り出した。その間に、レリエル・ヒューゲット(小さな星・d13268)は無数の矢を敵へ飛ばし、周囲の眷属たちを次々と射抜いていく。
     間違いなく、相手は強敵。だからこそまず敵の数を減らし、戦いの長期化に備えて仲間の力を高めていく。レリエルと輝夜の動きは、その判断を踏まえてのものだ。
    「手ごわい、敵だけど……諦めちゃ、だめだよ!」
     加賀谷・麻綺(啓示を待つ英雄卵・d02684)はリングスラッシャーを分裂させ、周囲の敵を薙ぎ払いながら呼びかけた。皆を励ますように、そして自分自身を奮い立たせるように。
    「利亜ちゃん、傷は平気?」
    「私は自分でどうにかします。それより、おふたりを」
     愛良・向日葵(元気200%・d01061)は頷くと、より呼吸の荒れている麻綺に温かな光を放った。聖江・利亜(星帳・d06760)も深呼吸しながら、オーラを癒しの力に転換させて回復に努める。
    (「やはり準備しておいてよかった」)
     いざという場合に備え、回復できるサイキックの心積もりをしておいたのは、やはり正解だったと利亜は思う。
     敵は散々血まみれになったカッターの替刃を袖から出すと手早く交換し、切れ味を最大限に生かした攻撃を繰り返していた。鋭さを増した攻撃を受ければ、みるみる大量の血が流れていく。
    「大丈夫かい、プリンセス!」
     奴らの凶刃から君を守るぜ、と何度も繰り返し飛び出していくのはナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)。
     仲間を、特に女性を守ることが自分の使命だと豪語するナイトは、先程いちど倒れたというのに魂の力だけで立ち上がり、ボロボロのまま、なおも仲間をかばい続けている。
    「後ろはどう? 敵はおらん?」
    「こっちは平気だから、前にだけ集中してくれて大丈夫だよ」
     佐藤・一輝(高校生デモノイドヒューマン・d18222)の返事に、炎藤・沙希(左を制する者は世界を制す・d18114)はホッと頷きながら、その強靭な拳を遠慮なく目の前に叩きつけた。
     敵がすり抜けて、あるいは回り込んで後ろを奇襲するのが怖いと、沙希はそれを一番危惧していたのだ。その心配が無いのなら、思いっきり目の前の敵だけをぶん殴れる。
     普段は影が薄く、存在が忘れられてしまいがちな一輝も、デモノイド寄生体を用いた酸を飛ばして敵を服ごと腐食させたり、断罪の力を込めた咎人の大鎌を振るって相手の回復まで阻害したりと、十分な活躍で戦況を支え、仲間たちと協力し合っている。
    「クルルン、止めるよ!」
     榊・くるみ(がんばる女の子・d02009)はナノナノと一緒に、敵の攻撃を食い止める。何度切り刻まれても、内臓をえぐるほど深く突き刺さる刃を受けても、くるみとクルルンは決して屈しなかった。その間に、一輝の放つ黒き波動が敵を呑みこみ、稲妻のように激しい闘気を込めた沙希の拳が、敵の顎を思いっきり打ち据えた。
    「くるみ、行けるかい?」
    「大丈夫だよマハルさん!」
     螺旋を描きながらの一撃で敵を穿ったタージ・マハル(武蔵野の魔法使い・d00848)に頷いて、くるみはマテリアルロッドを構えた。ふたり同時に敵へ迫り、呼吸を揃えて叩き込んだその先端から、思いっきり魔力を流し込む。
    「ぐ、この……っ」
     大きくよろめいて睨み返してくる少年に、更に一輝の腕ごと殲術道具を呑みこんだデモノイド寄生体からの死の光線を浴びせる。貫かれた少年は、足元の血だまりに滑るようにして、膝をついた。
    「くそ、俺もヤキが回ったかな……」
     言い終わるよりも早く少年の体は崩れだし、跡形もなく消え去っていった。
    「よっしゃーっ!」
     勝利の喜びに沙希が顔を輝かせる。
     ブレイズゲートは果てしない。この先にもまだ領域は続いているのだろう。だが、勝利したとはいえ、強敵との戦いで4人はすっかり疲弊している。
    「この辺で、一度戻るのが良さそうだね」

    「皆さん、お帰りなさい」
     そうして夕方。
     ブレイズゲートの探索に向かった灼滅者達は、チームごとに探索を終え、武蔵坂学園へ戻ってきていた。
     探索の状況は、チームごとにまったく違う。ギリギリ限界まで戦いに挑んだ者達もいれば、無理はしないようにして、余裕をもって引き返した者達も少なくはない。斬られそうになって大変な目にあったとか、地下に変だけど強い奴がいて大変だったとか、いやそもそも変なのばっかりだっただろ……などなど、早めに帰ってきたチームは、別のチームと感想を言い合ったりしている。
     スムーズに探索を終えたチームの中には、ひとやすみしてから帰ろうと甘い物などを食べて、親睦を深めつつ帰ってきた者達もいたようだ。
    「にししし~」
     古閑・合歓(眠り子の花・d00300)がほくほく顔をしているのは、どうやら往復の最中、マネーギャザを使ってみた成果が期待以上だったから……のようだ。なんでも新宿駅がすごかったらしい。
     一方、無理をしたチームの中には、ボロボロになりながらなんとか脱出したものの、ブレイズゲートから出てすぐ倒れてしまい、他のチームの人達に助けてもらって帰ってきた……なんて組もあった。
    「自分や仲間のことを大切に思うんなら、無謀な戦闘や深入りは禁物だ」
    「そうですね。撤退する勇気も大切ですよ」
    「勝てない、と思った時に帰るのは、恥ずかしいことでも何でもないし」
     多くの先輩達が、戦いからの逃走や撤退について、そう説いていく。
     状況を冷静に判断し、大丈夫なうちに引き返す……そう決断をするのも、いざという場面では大切だろう。何かあってからでは遅いのだ。
    「ところで、さっきダークネスがこんなことを言っていたんだけど……」
     一部の灼滅者は気がかりなことがあるのか、新宿橘華中学や、そこにいたダークネス達について語り合っていたが、浮かんだ謎や疑惑に、なかなか結論は出なかった。

    「これで全員帰ってきましたね。皆さん、どうでした?」
     最後のチームが戻ってきたところで姫子が呼びかける。緊張したけれど、チームメイトのおかげでなんとかなった……とか、良い経験になったという声が、やはり多いだろうか。
    「次は、他のチームが行ったところまで潜ってみせる!」
     と悔しがるような声もチラホラあがった。
    「あの。今回は姫子さんに言われた通り冒険しましたけど、実際には違いますよね」
     今回は、言ってしまえば練習だ。本番ではどうしたらいいのでしょう……という声がチラホラあがり、先輩達が立ち上がった。
    「まずは、どんな事件が起こっているのか、しっかり確認することからでしょう」
    「ひとつひとつ事件の内容は全然違うから、エクスブレインさんのいうことよく聞かないとね」
     久織・想司(妄刃領域・d03466)や枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)が頷き合う。

    ====================
    【マスターからの解説】
     『教室』でのシナリオの選び方は、第1回でも触れていますが、たくさんのオープニングがあるので、まずはそれらを読んでみましょう。
     オープニングの『順序』を『参加可能』にすると、今あなたが参加できるシナリオが上の方に並びます。いろいろな事件があるので、順番に見てみるといいでしょう。
     このシナリオが面白そう、このシナリオでこんなことがしてみたい……など、気になるシナリオ見つけたら、それに参加してみるといいでしょう。
     それぞれのシナリオの左上には、そのシナリオがどんなシナリオなのかを大まかに表す『アイコン』が出るので、目印にしてみると、いいかもしれません。ちなみに、アイコンは敵の種類をイメージしたデザインになっていて、
     コウモリの黒い羽……『ヴァンパイア』のシナリオ
     炎をまとった獣の頭…『イフリート』のシナリオ
     握り拳(グー)………『アンブレイカブル』のシナリオ
     血痕……………………『六六六人衆』のシナリオ
     ドクロ…………………『ノーライフキング』のシナリオ
     魔法陣…………………『ソロモンの悪魔』のシナリオ
     スペード………………『シャドウ』のシナリオ
     魅了されたハート……『淫魔』のシナリオ
     鬼が島…………………『羅刹』のシナリオ
     お土産の箱……………『ご当地怪人』のシナリオ
     デモノイドのパーツ…『デモノイド』のシナリオ
     ビル……………………『都市伝説』のシナリオ
     悲鳴をあげている顔…『眷属』のシナリオ
     武蔵坂学園……………『学園シナリオ』

     という違いがあるので、自分の宿敵と戦いたい場合などには、目印にして探すと便利かもしれません。

     また、一番左上に『個人授業』が出ている人は、まず授業を受けてみるといいでしょう。先生の出す問題に答えると、レベルアップできるくらいのEXPが貰えたりしますよ。個人授業は無料です。
    ====================

    「教室では、同じ事件に関わる灼滅者と相談をすることもできますよ」
     遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)は「たとえば」と前置きして、こんな話をしてみる。
    「『このブレイズゲートのどこかに、武蔵坂学園の校章が入ったボタンを10個隠しました。ボタンを見つけて持って来てください』……と言われた時、お互いにベストを尽くせば、それなりに上手くいくと思いますけど、あらかじめみんなで相談しておいたた方が、もっと上手くいきそうだと思いません?」
    「戦う時も、仲間と力を合わせた方が、より良い方法が思い浮かぶかもしれないからな」
     せっかく他の灼滅者と協力するのだから、と秋篠・誠士郎(流青・d00236)も頷く。
    「でも、どんなことを言ったらいいんでしょう……?」
     なにを話したらいいのか分からない、という戸惑いの言葉に、
    「もし悩んだ場合は、まずは自分の考え、やりたいことを述べると良いのではないだろうか?」
    「誰かの話を聞いてみて、それに意見を返したりとか。それがいいと思ったら、賛成だと言うだけでも立派に『君の意見』だよ」
     泉二・虚(月待燈・d00052)たちがアドバイスしていく。
     何か話してみることで、それを聞いた他の人が意見をくれることもある。エクスブレインから話を聞いて、何か思った事があるなら、それを元に話していくのも良いだろう。
    「誰かが話さないと何も始まりません。何か言っても、誰も答えてくれなければ、やはり話は進みませんから」

    ====================
    【マスターからの解説】
     先輩達の意見をまとめると『皆さんが黙っていると、どう思っているのか分からなくて先輩達も不安になっちゃう』『どんな内容でも大丈夫だから、あんまり難しく考えないで、気楽に話してみてね』という感じでしょうか。
     『教室で、参加するシナリオについて相談するのは楽しいから、最初は緊張するかもしれないけど思いきって話してみて欲しい』というお誘いも、たくさんありましたよ。

     また、とても多かったのが『プレイングの書き方』についての質問です。
     いろいろ考えすぎて、何を書いたらいいのか分からなくなってきたという方もいましたので、先輩からのアドバイスを紹介していきましょう。
     まずは、『教室の詳しい利用方法』を読みましょう!
     ここでは、教室での冒険の基本を解説しています。かなり重要なのでしっかり読んでおきましょう。ちなみに『詳しい利用方法』は、どのコンテンツのものも、一度目を通しておくといいですよ。
     他にも『冒険の手引き』『戦いの手引き』が、参考になるでしょう。

     そして、多くの先輩からアドバイスとして書かれていたのが、
    「とにかく、まずは『自分がどのような行動をしたいか』を伝えるといい」
     でした。
     第2回では『自分の、どんなイラストが欲しいか』を伝える文章を書いたりしましたが、今回は『自分が、このシナリオで、どうしたいのか』を文章にします。これがプレイングですね。

     たとえば『敵と戦う』としても、今回のリプレイのように、いろいろな方法があります。
     あなたが『こうしたい』と思っていることがあるなら、プレイングに書いて伝えた方が確実です。せっかくプレイングが書けるのですから、書いてみましょう!

    <ちょっとした例>
     同じサイキックを活性化していたとしても、
    「最初にヴァンパイアミストを使い、そのあとマルチスイングを使って敵の親玉と戦う!」
     と、
    「基本的にはヴァンパイアミストで仲間を回復することに努める。余裕があれば、マルチスイングで一番倒しやすそうな敵を狙う」
     だと、戦い方、実際にキャラクターがする行動は、全然違います。
     シナリオを担当するマスターも『あなたというキャラクターが、このシナリオの状況に遭遇したら、こうするだろう』と考えてくれますが、あなたが実際に考えていることとは少し違っているかもしれません。
     どちらの行動がしたいのか、あるいはもっと別の行動がいいのか……プレイングに書いておくと、あなたの考えが、よりしっかりと伝わりやすそうですよね。
     サーヴァントがいる人は、サーヴァントのことも伝えておくといいかもしれません。

     プレイングをどう書くかは、あなたのキャラクターがリプレイでどう活躍できるかに影響します。
    「こうやって戦いたい!(こう戦っているシーンが見たい、こう活躍しているシーンが見たい)」という希望は、ガンガン書いて伝えていきましょう!

     戦い方以外にも、そのシナリオでやってみたいことは、どんどん書いて大丈夫ですよ。
     今回のシナリオでは『ブレイズゲートの探索を、どんな風に進めていくか』を書いていた人が多かったです。
    「警戒は怠らないけど、せっかくなので、みんなとおしゃべりを楽しみながら進みたい」
    「なにか貴重な品を発見できるかもしれないので、隅々までしっかり調べる」
    「扉やロッカーに敵が隠れているかもしれないので、そういう場所に近づく時は慎重に」
    「後ろから忍び寄ってくる敵がいないか、最後尾で注意している」
     など、いろいろとありました。
     他にも、くじの引き方を書いていたり、戦闘開始時に敵へ言う決め台詞を考えておいたり、お弁当を持参してチームメイトに配ったり、姫子へのお土産を用意して帰ったりと、いろいろなプレイングがありましたよ。
     先輩方も「探索しながら、ブレイズゲートや戦闘について、一つ一つ丁寧に説明する」という人もいれば「探索中に、さりげなく様々なことをする機会を後輩に回すようにして、実際にいろいろ体験してもらえるように工夫する」「黙々と行動し、背中で語る」など、同じ『後輩への教え方』でも幅広い内容がありました。

    ※普段のシナリオはプレイングの他に、『パフォーマンス』も書けるので、『教室の詳しい利用方法』を参考にして、あなたのキャラクターをアピールしてみるのもいいですよ!

     ただ、プレイングは文字数が決まっているので、あれもこれも……と書いていると、最大文字数をオーバーしてしまうかもしれません。
     そんな時は『自分が一番大事だと思っていること』がなにか、考えてみましょう。
     このシナリオで一番成功させたいこと、必ず描写して欲しいこと、この活躍だけは譲りたくない! なんて内容ですね。
     大事なものから順番に、優先順位を付けて、それに必要な内容を優先的に書いていきましょう。第2回のコツも参考になる部分が多いと思います。
     シナリオでは一緒に冒険に挑む仲間がいるので、仲間を信頼するのもコツです。
     今回、先輩のプレイングには『○○○は、きっと他の人がやってくれると思うので、自分はこういうことをする』という内容がいくつもあったのですが、くじ引きで決まったチーム(プレイングの相談をしていない状態)でも、結構うまくいってました。
     他の人と相談しながらだと、もっと成功しそうですね。ひとりで何もかも全部やる必要はないのです。
     また、さっきも書いたようにマスターは、特に何も書かれていない部分は『あなたなら、こうするはずだ』と考えてリプレイにしてくれるので、プレイングは強いこだわりのある内容や、あなたが大事だと思っていることをメインにして、優先順位が低めのものはマスターさんにお任せしちゃう手もありますよ。

     ちなみにマスターは、プレイングだけを見てリプレイを書くわけではありません。皆さんがプレイングを書く時に選んだサイキックや、ステータスの内容なども見ています。なので、学年や特徴や性格など、ステータスにあるものはプレイングに書かなくてもわかります。
     ただし『ここをしっかり描写して欲しい』と特別に考えていることがあるのなら、プレイングがパフォーマンスで書いて伝えた方が確実ですね。
     サイキックも同じです。今回のリプレイでは、プレイングに書いたサイキックをそのまま使っている人、書いていたのとは別のサイキックの方が有利だったのでそれを使った人、具体的なサイキックは書いていなかったので、その状況で一番いいサイキックを使った人などがいます。
    (たとえば、同じ能力値のサイキックで攻撃し続けていると『見切り効果』で敵に命中しにくくなるので、その場合は活性化していた別のサイキックで戦っていたりします。でも、ヒールサイキックは必ず命中するので、その場合は気にしない……などですね)
    ====================

     それから先輩達が話題に挙げたのは、今回の冒険の行き先になったブレイズゲート自体のことだ。
    「今回のことでブレイズゲートに興味が出た人は、また誰かを誘って一緒に行ってみるといいよ」
     比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)は、そう勧める。
     今回のように初対面の人とチームを組むことも、知っている人とチームを組むことも、どちらもできるようになっている。たとえばクラスの友達とブレイズゲートに行ってみると、その人の新たな一面が見れたりするかもしれない。
    「私は、ライドキャリバーを連れている者だけでチームを組んでいたりするぞ」
     という須野元・参三(戦場の女王・d13687)のように、こだわりのチームを結成してみるのもブレイズゲート探索の仕方のひとつだろう。
    「探索が楽しかったら、パーティをメモしてまた同じ人と出かけてみることもできるよ。ブレイズゲートをきっかけに、他の灼滅者と仲良くなるのもいいんじゃないかな?」
    「そうですね。せっかくですから手に入れた殲術道具をお裾分けしてみてはどうでしょう?」
     先輩達の経験談が、次々と続く。
     茂多・静穂(ペインカウンター・d17863)のように、手に入れた殲術道具を一緒に行ってくれた仲間にお裾分けしている者も多い。そういったブレイズゲートの探索を通じて交友を深めていくのも、灼滅者らしい友人関係だといえるかもしれない。

    ====================
    【マスターからの解説】
     普段のブレイズゲートは、プレイングを書いて冒険するわけではありません。マウスで操作したり、あらかじめ設定していた条件に沿って自動的に戦闘します。
     プレイングのかわりに、自分のステータス画面の『設定』にある『戦法』で、ブレイズゲートで自分がどう戦うかを事前に決めておくことができます。特に何もしなくても、いい感じに戦うようになってはいますが、戦い方にこだわりたい人は、ここを変えておくといいですよ。
     クラブの仲間とライブハウスに行くときの設定も、ここで変えられます。。
     ブレイズゲートと一緒に書いてある『戦争』については、第4回でお話しますね。

     ちなみに『戦法』ではなく『カットイン』を選ぶと、美術室で描いてもらったピンナップを表示することができます。ここで『あなたのセリフ』を入れておくと、あなたの決め台詞などを聞けるようになったりしますよ。実はイラストが無い人でも、セリフの設定はできます。

     とてもたくさん話があった『ポジション』ですが、詳しい解説は『ゲーム解説』にあります。
     ここに書いてありますが、遠のサイキックを使うキャラクターがクラッシャーやディフェンダーにいたり、近のサイキックを使う人がメディックにいても平気です。どのポジションにいても、すべてのサイキックを使えます。
     ポジションの選び方は皆さんの戦い方にあったものを選んだり、敵の特徴を踏まえて対策を考えてみたりといった方法があります。いずれにしても『どんな時でも必ず有利になれるポジション』というものは存在しません
     たとえばディフェンダーは、たくさんの攻撃に耐えられるようになって有利かもしれません。でもクラッシャーになると、たくさん攻撃を受ける前に敵を倒せてしまえるので、そもそも攻撃を受けることが少なくなるかもしれません。
     サイキックは命中率が高いと、当たりやすくなるだけじゃなくてクリティカルなどの有利な効果も出やすくなるので、スナイパーになるという人もいるかもしれませんね。。
     敵が列攻撃をしてくるからポジションをバラバラにしよう……など、敵の攻撃の仕方を見て、ポジションを考えることもあるでしょう。
     実際に色々なポジションを経験しながら考えてみるのは一つの手かもしれません。もちろん悩んだら、一緒に冒険する仲間や、友達、先輩などに相談してみるのもアリですよ。

     最後に。
     今回のシナリオは無料でしたが、ほとんどのシナリオは参加するのにお金がかかります。
     ブレイズゲートも、誰かに誘われた時は無料ですが、あなたが自分から行くときは『★』が必要です。
     こういった有料のコンテンツを利用したい時は、このページの一番上に並んでいるアイコンの左から3つめ、星のアイコンのところで『★』を購入する必要があります。
     お金はとても大切ですから、コンテンツの内容と課金のところに書いてある説明文章を、よく確認してから購入するかどうかを決めましょう。
    ====================

    「それでは、今日はここまでにしましょう。皆さん、今回の内容を生かして、これからの戦いで勝利を掴んでいってくださいね」
     最後にそう締めくくられたところで、今回の灼滅者講座は終わりとなるのだった。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月7日
    難度:簡単
    参加:1872人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 36/キャラが大事にされていた 24
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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