死の覚悟は悪へ誘い

    作者:幾夜緋琉

    ●死の覚悟は悪へ誘い
     神奈川県は本厚木市、夕方の交差点。
     丁度下校時間となり、市内中学校や高校の学生達が駅に向けて横に並んだり、喋りながら下校している。
     ……そんな通学路の一角にある、車通りの多い交差点。
    『キキィィィ……!!』
     車の強いブレーキ音が突如鳴り響き……一人の男子高校生の身体が大きく宙に浮く。
     ……そしてその身体が、地上に叩き付けられると……その男子高校生は、ピク、ピク……と身体を震わせる。
    『やっちまった……お、おい、大丈夫か!?』
     事故を起こした車の運転手が、青年の元へ駆け寄る……血だらけの青年の姿に、万が一にも助かるはずが無いと思えた。
     ……だが。
    「……く……くくく……」
     ……何故か笑い声を上げる少年。
     次の瞬間、少年の身体は青い身体へと切り替わり……そしてその腕が、斧の様な物へ。
     そして……その斧を流れる様に振るい……男の身体を一刀両断。
    『ク……クククク……』
     そんな声を上げながら、ギラリとした視線を周囲に向け……駆け始めるのであった。
     
    「と、皆集まってくれたな? それじゃ説明、始めるぜ?」
     神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達に笑顔を見せつつ、説明を始める。
    「皆も最近一般人が闇墜ちし、デモノイドになる事件が発生しているのを知ってるよな? 今回もその事件の一つだ」
    「デモノイドとなった一般人は理性も無く暴れ回ってしまう。それ故に多くの被害者が出てしまう事件が多い。今回皆に頼むこの事件も、遅くなれば多数の被害者を出しかねないモノだ」
    「幸い、デモノイドが事件を起こす直前に突入する事が出来る。だからこそ何とかデモノイドを灼滅し、被害を未然に防いで欲しい」
    「ただ……デモノイドになったばかりの状態であれば、多少なりとも人間の心が残っている事はあるだろう。その人間の心に訴えかける事が出来れば、灼滅後にデモノイドヒューマンとして助け出せる事が出来るかも知れない。救出出来るかどうかは、デモノイドとなったものがどれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているんだ」
    「逆にデモノイドとなった後に人を殺してしまった場合……これは人間に戻りたいという願いが弱くなる。そうなれば助けるのは難しくなるから、人を殺める前に救出して欲しい」
     そしてヤマトは、続けてデモノイドの詳細戦闘能力を伝える。
    「このデモノイドの攻撃手段はその腕の斧状の武器だ。切れ味鋭いこの斧の攻撃は服破り、及びジグザグの効果がある。デモノイドたった一人と言えども、素早い動きとこの攻撃で以て皆を苦しめてくる事だろう」
    「勿論説得の結果、多少なりとも彼が戦う事に葛藤をしてくれれば、その攻撃の手数も減ることがあるかもしれない。とはいえそれでも強力な敵であるのは間違い無いだろう」
    「彼は不慮の事故に遭遇してしまい、デモノイドへと変化してしまったんだろう。だからこそ、生きる為に皆の声を投げかけて欲しい」
    「ともかくデモノイドがこのまま暴れれば危険な事は間違い無い。皆、この青年を、皆の手で助けてやってくれよな!」
     と、最後にヤマトは皆に気合いを入れて送り出すのであった。


    参加者
    黒路・瞬(路選ぶ継承者・d01684)
    銃神・狼(ハウンドツー・d13566)
    永舘・紅鳥(死を恐れぬ復讐者・d14388)
    フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)
    華表・穂乃佳(高校生神薙使い・d16958)
    グレイス・キドゥン(居場所を探して・d17312)
    上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317)
    一二三・政宗(中学生神薙使い・d17844)

    ■リプレイ

    ●不幸訪れ
     ヤマトの話を聞いた灼滅者達。
     彼らが向かっていたのは人通りも車通りも普通にある、ごくごく一般的な交差点……そこで交通事故が起こり、一人の青年がデモノイド化してしまう、というのがヤマトの話だった。
    「……まぁ……当然よね。いきなり死にかけたんだもの。そりゃびっくりするわよ」
    「ええ。突然、自分が車に轢かれて、それでも動ける状態で、自分が持っている力を持てあましたら、混乱するな、という方が無理よね。でも初依頼が同族との対決なんて、ね」
     上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317)と、フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)の二人が憂う。
     デモノイドの力が発現する手段は様々。
     しかし今回の発現した現象は、望むべくして望んだ結果では無い、唐突な結果。
    「闇墜ちして生きれたのは幸運か不幸か……なんて言えないか。死を恐れる気持ちは誰にだってあるもんな」
    「むい……そうな、なの……たいへん……なの……ほんとうなら……しんじゃうけど……でも……このままでも……だめなの……もとに……もどして……きれいに……まとめる……です……がんばる……の……」
     黒路・瞬(路選ぶ継承者・d01684)に華表・穂乃佳(高校生神薙使い・d16958)がぐっ、と小さく拳を握りしめると。
    「そうだな……不慮の事故。そんな最悪な終わりじゃなくて、こっち側に連れ戻してやらないとな!」
    「ああ。被害が出る前に、やつを止める。そして、救うんだ」
    「そうね。同族で救えるのなら救いたいわ」
    「助かって良かったわよね。だから死なせないし、誰も殺させない……今助けるから、待っててね!」
     永舘・紅鳥(死を恐れぬ復讐者・d14388)、銃神・狼(ハウンドツー・d13566)、フィオレンツィアに美玖が頷き合うと。
    「……さて、と……場所は恐らく此処ですね。後は……その青年が何処に居るか、ですが」
    「……そうやね……」
     一二三・政宗(中学生神薙使い・d17844)に、グレイス・キドゥン(居場所を探して・d17312)が周りを見渡す。
     ……こちらに向けて歩いてくる、鞄を持った学生達の姿。
     高校生、中学生と様々な学生達が歩いてくる……恐らくこの中に、そのデモノイドの力を発現する者が居るはずだが……すぐに誰がそれだ、とは判断出来ない。
     勿論車側の動きにも注意しながら、警戒を続けていった。

    ●命喪して
     ……そうして暫しの時が経過。
     下校時間を過ぎて、学生の姿も、道路を往来する車の影も比例して多くなり始めていく。
    「……少しマズイな」
    「ええ……でも、私のDSKノーズにピンピンと業が集まってきて強くなるのを感じてきたわ」
     狼が唇を噛みしめながら呟き、フィオレンツィアも目を細める……人も車も多くなれば、当然その分被害者が出る可能性が多くなる。
     とは言えデモノイドの力の発現は、事故に遭うからこそ……だから、警戒する以外に手段は無い。
     ……と、そうしていると。
    『……キ、キキィィィ……!!』
     大きく鳴り響くブレーキ音、それと共に、交差点にタイヤがロックしたままに滑り込んでくる赤いスポーツカー。
     ……車はそのまま交差点を通り過ぎる。どうにかブレーキを掛けているようだが……スピードは中々緩まない。
     そして車が進む先には、鞄をもった学生が二人……。
    『お、おい、やべーぞ!!』
     片方はそう叫び、鞄を放り出してその場から逃げる。
     対してもう一人の青年は……みるみる内に近付いてくる車に、咄嗟の判断が出来ずに立ちすくむ。
     ……そして。
    『ドンッ!!』
     大きな音と共に、その身体をはね飛ばす車……。
     血のアーチが視界に浮かび、そして車はそのまま壁にぶつかり停止……対し青年の身体も、道路の上に落下。
     ……青年は、血だらけになり動かない……当然周りにいた人達が、ざわざわとざわめく。
    「グレイスさん!」
    「ああ。一般人は巻き込まんようにせんとな……!」
     美玖に頷きながら、グレイスが即座に殺界形成を纏う……事故のすごさを恐怖と勘違いさせて、その場から自然と後にさせる。
     そして美玖、狼が。
    「みなさん、離れて下さい!!」
    「そうだ。車が爆発するかもしれないだろ。避難するんだ!」
     プラチナチケットを使い、警備員の服を着ておく事で関係者と見せかけながら拡声器や大声で、その場から皆を離れさせる。
     一部居た外国人達については、政宗がハイパーリンガルを使用した上で避難を呼びかける。
     ……そして、避難させている間にグレイス、瞬が運転手の元へ。
     怪力無双でドアをはぎ取り、中で頭を抱えている運転手の手をぐっと引っ張る。
    『ひ!?』
    「あんたはこっちに避難しとき!」
     多少強引ではあるけれど、運転手をさっさとその場から逃がす。
     ……そして、その頃一方フィオレンツィア、紅鳥、穂乃佳は青年の元へ。
     う、ううう……と呻き声を上げている青年……身体は正しく瀕死で傷だらけ……死の一歩手前と言ったところ。
     ……でも、その身体が……次第に色を持ち始める。肌色から青白く、そして……真っ青に変わり始める。
     その腕は斧のような形に変形し、人外の姿へみるみる内に変わっていく……そんな彼に対し穂乃佳が。
    「むい……急なの……わからないでなるの……かなしいの……ちゃんと……元に戻して……つれてかえる……の」
    「そうね。これ以上の罪を犯させない。それが……デモノイドがデモノイドヒューマンになれる方法よ」
     静かな穂乃佳の言葉に、フィオレンツィアも静かに宣言。
     そして一般人の避難を終える迄、デモノイドの周りに立ち塞がるようにする。
     ……そして、蒼色に変わりつつある彼に向けて、紅鳥、フィオレンツィアが。
    「お前はまだ生き残ってるんだ! なら、そんな不格好な姿じゃなくて、俺達と同じ人間で居ようぜ!」
    「そう。貴方はまだ死んでいないわ。だから、まずは落ち着いて私達の話を聞いて!」
    『……ぅ……ぅぅ……』
     呻き声を上げる青年……更に美玖、瞬、狼が合流して。
    「大丈夫よ、落ち着いて。まだ生きてる! まだ戻れるのよ!」
    「そうだ、おい、聞こえてるよな? 突然の事故に驚いたのは仕方ねえ。でもな、自棄になって人間やめていいのか? まだ死ぬと決まったわけじゃないんだ。灼滅者として生きてみろよ!」
    「そうだ。このままじゃ戻れなくなるだけだ。破壊を囁くもう一人に負けるんじゃねぇ! 事故にあって痛かっただろうさ。でも、落ち着くんだ! 戻りたかったら、ちゃんと居場所もあるから大丈夫だ。終わったら人として仲良くやろうぜ! ここに居る全員がそう思ってるさ!」
    「そうよ。私達は貴方のことを助けに来たの。だから、どうか人間として生きることを手放さないで!」
     次々と灼滅者らが呼びかける言葉……その言葉に、その身体が青くなるスピードはほんの僅か、遅くなった様な気がする。
     ……そして、運転手や外国人も避難させ終わり、周囲から一般人の姿が無くなった所で、グレイスと政宗も合流。
    「いいか? 不運な事故に遭ったんは確かに残念や……でも、それが人を殺す理由にはならへん。そうやろ? 今なら未だ、そんな姿やなくても生きられるんやで!」
     グレイスが声を掛ける。
     ……葛藤、呻き声……。
     どうにか踏みとどまろうとしている様にも見える。
     しかし……その身体が青く変わるのは、確かに、確実に蝕んでいく。
     ……そして、その身体が完全に青く変わり……すくっ、と立ち上がる。
     人外の姿、生気を失った人外の目……そして、灼滅者達をギロリ、と睨み付ける。
    「貴方はダークネスという悪しき力に引きずり込まれ、己を闇の力で人の命を奪おうとしている。だけど、それは間違っているわ! 今の貴方は昔の私の様に力の使い方を知らず、望まざる力を使って、業を自分の身体に刻みつけようとしている。どうすべきかは、貴方自身が知ってる筈よ!」
    「そうだ。君には遭いたい人は居ないのか? こんな形で逢えなくなっていいのか?? 今の君の姿を、君が知る人達に誇ってみせることが出来るのかい?」
    「家族はどうするの? 友達は、彼女は? お母さんを泣かせていいの!? ダークネスに支配されちゃダメよ!!」
     フィオレンツィア、政宗、美玖が立て続けに言葉を掛ける……が、ダークネスとなってしまったその身体、心は聞き届けることはない。
     斧の様な腕で斬りつけてくる……が、その攻撃は瞬のキャリバー、神威がディフェンス。
    『グゥゥ……!』
     いらつく様な言葉を投げかける……それに。
    「……仕方ないな。先輩か後輩かは解んないけど、俺達が助け出すから、少しの間我慢してくれ!!」
    「むい……そうなの。ちゃんと……もどしてあげる……の……だから……いまは……がまん……なの……」
     紅鳥、穂乃佳がそう宣告し、構える。
     他の仲間らも、同様にデモノイドを包囲する様に立ちはだかりつつ。
    「ふゅーねる。ディフェンダーに行け」
     狼は己の霊犬をディフェンダーに進ませると、バスターライフルで構えを取る。
     デモノイドは思いのままに、立ちはだかる灼滅者に向けて斧の手を振りかざし、攻撃を嗾けてくる。
     鋭い刃は中々強力な攻撃力……だが、その攻撃をすぐに。
    「むい……いたいのいたいの……とんでけー……な……の…………すこし……恥ずかしい……です……」
     顔を赤らめながら穂乃佳が清めの風を使い回復。
     回復の後、まず先に動くは瞬、紅鳥。
     鏖殺領域をダブルで放ち、それぞれ防アップを行う。
     そして狼が、構えたバスターライフルで。
    「……これでも喰らえ」
     とデッドブラスターで毒を付与する。
     更に、グレイス、美玖のクラッシャー陣が連携し、閃光百裂拳と影縛り。
     そして二つの攻撃に続き、ジディフェンダーのフィオレンツィアが。
    「……あの戦争は悲惨だった。二度とそうならない為にも……青春を謳歌するんだ」
     と告げて戦神降臨。
     続けて瞬のキャリバー、神威、狼の霊犬、フューネル、穂乃佳の霊犬のぽむ、そして政宗のビハインド、政道らも、フィオレンツィアに続いて、攻撃を次々嗾けていく。
    『グ……グゥゥ……!』
     そんな灼滅者らの攻撃に、痛みに苦しみの表情……そして、特に大きなダメージを与えるクラッシャーに対し、反撃をしようとする。
     しかしそこは、確実にディフェンダーのフィオレンツィアらが庇う事でダメージを軽減。
     穂乃佳に加え、政宗もダメージの回復を行い、大ダメージには至らないように特に注意していく。
     そして……数分経過後。
    「……大人しくしな」
     狼が制約の弾丸を撃ち放つと、その一弾が旨を貫く。
    『ガ……ウグァア……!!』
     今迄の中で一番大きな呻き声。
    「……痛いよね? ……分かってる。でも……貴方が人に戻る手段は……灼滅するしかないの。だから……痛いだろうけれど、我慢して」
     美玖が静かにデモノイドを見据え……そして、DESアシッド。
     高攻撃力がその身を蝕み……そして。
    「いいか……戻ってこいよ。必ず、戻ってくるんやで!」
     グレイスがそう告げながら封縛糸を放ち、縛り上げられた身体が悲鳴を上げて……ばたりと倒れ、そして……青い身体は、静かに肌色へと戻り行くのであった。

    ●心戻して
    「……終わったな。ふぅ、皆お疲れ」
    「ああ、お疲れ様。疲れただろ? これでもどうだ?」
     瞬の言葉に紅鳥が差し出すチョコレート。
     そのチョコレートを受け取りながら
    「ああ、ありがと……と……」
     チョコレートを一つ口に運びつつ、周りを見渡す美玖。
    「……ここ、よく考えたら車通りの多いふつーの道路なのよね? ……バベルの鎖、大丈夫かしら?」
    「そう言えばそうね……どうやらこの青年も、どうやら踏みとどまってくれたみたいだし……まずは片付けて、道は開通させた方がよさそうね」
    「そうね……みんな、手伝って」
     フィオレンツィアに美玖が頷き、そして灼滅者達で速攻で道に落ちているモノとかを一通り片付ける。
     流れ初めた車通りに向けて。
    「渋滞させてごめんなさい!」
     とぺこり頭を下げて……そして一通り片付けながらも、デモノイドからデモノイドヒューマンになった青年を、人目に付きづらい裏路地へと連れて行く。
     ……数分後。
    『……う……うう……ん……』
    「……ん、気付いた様やな」
     身じろぎ、すっ……と起き上がる青年。
     グレイスがそんな青年に声を掛けると、突然の事にびっくりした様で。
    「すまんな、驚かせてしまったか……俺は狼。俺達はお前の仲間だ」
    「さっきまでの事は覚えてませんか? ……狂気に囚われた中で、忘れてしまったかもしれませんが」
    『……』
     狼と政宗の言葉に、僅かに首を振る彼。
     まぁそれはそれで覚えてないのも仕方ないと言えるだろう。
     とは言えそんな彼に向けて、灼滅者の事……デモノイドの事を、皆で細かく説明していく事で、次第に自分に発生した現象を理解していく。
     そして……ある程度理解した所で、問いかける狼。
    「俺達の学園には、お前と同じようなのが沢山居る。だから……一緒に行かないか? その力に悩むなら、きっと適切な道を指し示してくれる筈だ」
    「むい……そう……なの……きっと……道を……間違える……事は……ないはず……なの……」
     穂乃佳も彼をじっと見上げて……そして差し出された手。
     ……その手をぎゅっと握るのに、グレイスはほっとしたように微笑んで。
    「これから灼滅者として……宜しくな?」
     と微笑みかけるのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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