てるてる坊主にお願い

    作者:春風わかな

     どんよりとした厚い雲に覆われた空から絶え間なくポツポツと雫が落ちてくる。
     夕刻を過ぎた保育園に残っている園児たちの数も数えるほど。
     そんな中、窓ガラスに張り付きシトシトと降り続ける雨空を見上げる二人の幼い少年がいた。
    「きょうも雨、やまないねー?」
    「雨やだー」
    「あしたのえんそく、雨やむかなぁ?」
    「えんそく行きたいー」
     しかし、空から落ちてくる雨粒は止む気配は感じられず。
     溜息をつく少年達に担任の保育士がある物を見せた。
    「ユウくん、タッくん。てるてる坊主にお願いしたら?」
     保育士の名案に二人はぱっと顔を輝かせ、ティッシュペーパーを丸め、どんどんてるてる坊主を作り始める。
    「てるてるぼうずって、晴れにできたらおさけあげるんでしょ?」
     それで、雨だったらくびをちょんって切っちゃうの。
     得意げに話す少年は出来上がったてるてる坊主を嬉しそうに保育士に渡す。
    「わぁ、ユウくん物知りねぇ~」
    「だからね、このてるてるぼうずも雨のときはくび、きっちゃうんだ」
    「ボクもきるー」
     窓枠にてるてる坊主をぶら下げる保育士は苦笑を浮かべた。
    「ダメよ、てるてる坊主も頑張ってるんだから。大きなてるてる坊主がユウくん食べに来ちゃうわよ」
     笑いながらたしなめる保育士の脳裏を噂話がよぎる。
     ――てるてる坊主の首を切るっていうと、自分の首が切られるっていうけど、まさかね。
     縁起でもない話だと首を横に振り「できたよ」と声をかけると少年達はてるてる坊主に向かって両手を合わせた。
    「「てるてるぼうず、あしたてんきにしてください」」

     例年よりも早く梅雨入りした空を物憂げに眺めていた久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は教室に灼滅者達が集まったことに気付くとゆっくりと口を開いた。
    「新しい、都市伝説の出現を、予知した――」
     とある保育園の窓辺にぶら下げられたてるてる坊主。
     お迎えを待つ子供達が作り続けてその数ざっと20個以上。
     そのてるてる坊主達が夜になると1人の幼い少年の命を狙うために動き出す。
     少年を狙う理由は……。
    「晴れなかったら、首を切られる」
     自分の首元に手を当て、來未は首を切る仕草をして見せた。
     首を切られるなら、その前に相手の首を切ってしまえ。
     そう考えたてるてる坊主達が少年を襲いに行くので阻止してほしいと言うのだ。
     都市伝説を出現させるには、大量のてるてる坊主が軒にぶら下がっている必要がある。今回は、件の保育園に行けば良いだろう。
     保育園は夜9時過ぎには保育士達も全員帰ってしまうというのでこっそり忍び込むことが可能と思われる。
     そして、てるてる坊主達の前で「首を切る」と言えば襲い掛かってくると來未は告げた。
     都市伝説はてるてる坊主の姿をしている。20センチにも満たない小さな姿ではあるが……。
    「全部で、25個」
     1体の強さはそれほどでもないが、何しろ数が多い。油断は禁物だ。
     攻撃方法は雨粒を飛ばして来たり、小さな体で全力でぶつかってきたりする。他に仲間の傷を癒す能力もある。
     また、特筆すべき点として彼らは一定時間を経過すると合体して大きなてるてる坊主になるという。
     合体するためには条件があるとはいうものの、合体した場合は体力も攻撃力も上昇するので厄介だということは否定できない。
     体力を維持しつつ、効率よく敵を倒していくことが重要になるだろう。
     なお、都市伝説として具現化したてるてる坊主達はもう元に戻らない。
    「時間があれば、てるてる坊主を作ってあげても、いいかも」
     子供達が楽しみにしている遠足が晴れるように願いを込めて。
     教室を去る灼滅者達を見送り、來未は持っていたてるてる坊主を窓辺に吊るすのだった。


    参加者
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    桜之・京(花園・d02355)
    螺・一了(ラシ・d03514)
    三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)
    安土・香艶(メルカバ・d06302)
    雨宮・悠(夜の風・d07038)
    アスル・パハロ(幸せの青い鳥・d14841)
    真田・真心(遺零者・d16332)

    ■リプレイ

    ●てるてる坊主の憂鬱
     灰色の雲に覆われた空からは霧のような雨が音もなく静かに降り続いている。
     昼間とは異なりしんと静まり返った園内は束の間の休息をとっているかのようだった。
     保育園の周りに誰もいないことを確認し、安土・香艶(メルカバ・d06302)は意識を集中させる。刹那、彼の身体を中心に筆舌に尽くし難い殺意の波が発せられた。
    「ちょっと待ってて」
     合羽を羽織った夕永・緋織(風晶琳・d02007)が保育園の建物へと入っていく。と、やや遅れて園庭の街灯がともり、細かな雨粒が明かりに照らし出された。
     園庭にできた小さな水たまりを器用に避けながら真田・真心(遺零者・d16332)は軒下へと近づいて行く。真心の傍らにいるのはライドキャリバーのチャクことチャクラバルティン。ランプを装備したチャクが軒下を照らせば白い小さなてるてる坊主達がお行儀よく並んでいるのが見えた。
    「てるてる坊主さんも、晴れに出来なかったら首を切られちゃう、なんて……必死にもなるわよね」
     困ったような表情の緋織の隣に立ち、てるてる坊主を見上げていたアスル・パハロ(幸せの青い鳥・d14841)の顔がさっと陰る。
    「てるてる坊主、頑張ってる。なのに、首。切っちゃう、酷い。です……」
     ぎゅっと両手を握りしめ今にも泣きだしそうな表情で俯くアスルの頭をそっと撫でたのは雨宮・悠(夜の風・d07038)。悠は静かな声でアスルに語りかけた。
    「雨なら首を切るってのは、それだけの願いがこもっていたということなんだよね。天気に生死を左右されていた時代の人にとって、雨乞いも日照り乞いも大事なことだったんだろね……」
     過去の風習が現代へと受け継がれ童謡として広く親しまれるようになったのだろう。てるてる坊主には気の毒だと思うが、取り返しのつかないことが起きる前に凶行は止めなければならない。
    「準備はいいかー?」
     スレイヤーカードを掲げて仲間達を見回す三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)の声に灼滅者達は殲術道具を握りしっかりと頷いた。
     準備が完了したことを確認し仲間達を護るように並んで前へ出た香艶と健は互いに視線を交わす。そして、軒下に並ぶてるてる坊主達へと向かって大きな声を張り上げた。
    「この雨降り続くなら……」
    「お前の首を切るぞ!」

    ●てるてる坊主の反乱
     香艶と健の声に反応し、動くはずのないてるてる坊主達が自らの意思を持って動き始める。吊るされていた糸を切り、てるてる坊主達は1個、また1個と端から順番に園庭へと降り立った。灼滅者達をぐるりと取り囲むようにして整列したてるてる坊主達は訴えかけるようにぴょんぴょん飛び跳ねる。
    『おまえらなんかに、くびきられてたまるかー!』
    『ぼくたちがおまえらのくびをきってやる!』
    『そうだそうだー! ぼくたちにはおくのてがあるんだぞ!!』
     全身全霊を込めて抗議をしているらしい様子はわかるのだが、どこかその姿は微笑ましい。
    「まぁ、可愛らしいてるてるさん達ね」
     その愛らしい姿に桜之・京(花園・d02355)は思わず笑みを漏らすが、彼女の指先に絡まる細く硬い糸はいつでも敵を切り裂く準備は整えられていた。
    「てるてるもそう怒んなって」
     てるてる坊主達をなだめようとする螺・一了(ラシ・d03514)だったが、言葉とは裏腹にどす黒い殺気が無尽蔵に放出される。
    「せめてもだ。切る攻撃は無しにしとくよ、今日は」
     一了が放った闇色の殺気はメディックてるてる坊主達を一気に包み込んだ。一了の攻撃に重ねるように京も同じく真っ黒な殺気を放つ。突然の攻撃にてるてる坊主達はパニックに陥った。
    『!!??』
     あたふたするてるてる坊主に狙いを定め、悠のガトリングガンが火を噴く。あっという間にてるてる坊主は炎に包まれた。まずは1個。戦闘開始からわずか数十秒で一つ目のてるてる坊主が空へとかえって行く。
    「この調子で後衛から狙うぞ!」
     ガンナイフを構えた健の元気な声が園庭に響き渡った。どす黒い殺気をふり払わんと夢中になっているてるてる坊主に銃口を向け弾丸を発射する。その特殊な弾丸は逃げ惑うてるてる坊主を執拗に追いかけ打ち抜いた。
     ふらふらとおぼつかない足取りで風に舞うてるてる坊主の身体に真っ赤なオーラの逆十字架が浮かび上がる。香艶の放ったギルティクロスによってその白い身体は音もなく引き裂かれた。そしてまた1個、てるてる坊主は空へかえる。
     だが、てるてる坊主達も大人しくやられているばかりではなかった。
    『よくもやったなー!』
    『かたきをとるぞー!』
     ぴょこぴょこと元気よく跳ね、てるてる坊主達は灼滅者に向かって休む暇なく雨粒を飛ばす。――もちろん、彼らの狙いは香艶と健。
     だが、そんな敵の攻撃を集中的に集める二人の周りに小さな光の輪がいくつも浮かび上がった。それは、緋織とアスルの飛ばしたサイキックエナジーの光輪。きらきらと輝く光の環はてるてる坊主に囲まれた香艶と健の傷を癒すと同時に彼らを護る盾となる。
    『ぼくもかいふくするよー!』
     仲間達の傷を癒そうとしているてるてる坊主に気付いた真心の黒い影が伸びた。相棒チャクの援護射撃もあり、刃のようにとがった真心の影の先端がてるてる坊主の身体を切り裂く。
     秒針が3周した頃にはメディックてるてる坊主の姿は跡形もなく消え、敵の数も半分にまで減ろうかとしていた。
     中衛に狙いを定めた一了が素早く氷の魔法の呪文を唱える。するとキャスターてるてる坊主達の周囲の温度が急激に下がっていくのが感じられた。だが、仲間を庇うべく果敢に飛び込むディフェンダーてるてる坊主もいた。もちろん、それは承知の上。目を細め、一了は不敵な笑みを浮かべる。
    「いらっしゃいませ、どうぞ食らっていって」
     ゆらゆらと力なく揺れるてるてる坊主を京の鋼糸がとらえ、その息の根を止めた。
    『まけないぞー!』
     てるてる坊主達が奮起し前衛に向かって次々と飛び込んでくる。
     前衛に群がるてるてる坊主を真心は巨大な縛霊手で渾身の力を込めて叩き落とした。そして前に立つぼろぼろになった相棒を見て思わず呟きを漏らす。
    「すまんチャク……持ち堪えてくれ!」
     真心の気持ちを相棒はわかっていた。大丈夫、と言わんばかりにチャクは元気よくスロットルバルブを全開にして自身の体力を回復する。
    「絶対、倒れさせない。です……」
     アスルの澄んだ歌声が園庭に響き渡り深い傷を負った健の身体を優しく包み込んだ。そして緋織が呼び寄せた爽やかな風が前に立つ仲間達の傷を癒す。風が吹き抜けた後には怒りに満ちていた仲間の瞳は冷静さを取り戻していた。
    「もちろん、誰も傷つけることは許さないわ」
     凛とした表情で告げる緋織の瞳もまた金色から元の黒色へと戻っている。
     ――そしてまた、秒針が1周した。

    ●てるてる坊主の逆襲
    「あと何個かな?」
     悠の体内から噴出させた炎に包まれ、ディフェンダーてるてる坊主が瞬く間に燃え尽き動かなくなる。
    「10個……いや、9個だ」
     香艶の攻撃で倒しきれなかった1個に健が止めを刺す。
     残された時間はあと僅か。
    『おくのてつかうぞー!』
     てるてる坊主達は合体せんと準備に入った。やぐらの要領で土台をつくり、その上に次々とてるてる坊主達が乗っていく。
     そして、最後の1個がてっぺんに上ろうとした時――。
     ひゅん、と音を立てて鋼の糸がその身体を絡み取る。糸の動きに合わせててるてる坊主の身体が宙を舞った。
     生き物のように自由自在に動く糸を操っているのは京。
     鋼の糸に絡め取られたてるてる坊主を見つめ、京は妖艶な笑みを浮かべた。
    「てるてる坊主は吊るされてこそ、よ」
    『!!』
     憐れ、張り巡らされた糸にかかったてるてる坊主の末路は空へとかえるのみ。
     ぎりぎりのところで京が1個トドメをさしたが、残るてるてる坊主の数は8個。
    『いくぞー!』
     掛け声に合わせるかのようにさっとてるてる坊主の身体が一斉にはためいた。そして……。
    『せーの!』
     くるん、と8個のてるてる坊主が同時に飛び上がると宙返りを一つ。
     ドーン!!
     大きく地面を揺らして着地。
     灼滅者の前に姿を現したのは2メートルを超す大きなてるてる坊主だった。
    「あと1個、倒せれば……」
     悔しそうに唇を噛み締める香艶だが、気持ちを切り替え螺旋の如くうねりをくわえ【翔龍】を突き出す。白銀の刃に雨粒があたり、光を反射して煌めいた。
     一方、そんな香艶とは反対に晴れ晴れとしている者もいる。真心だ。
    「これで存分にやれる!」
     真心は身体の重心を下に落とし嬉しそうに巨大てるてる坊主へと向かって蹴り技を繰り出す。四肢を駆使しててるてる坊主を追い詰めていった。
    『!?』
     じりじりと後ろへ後退していくてるてる坊主の身体から突如炎があがる。一了のガトリングガンがてるてる坊主に向かって大量の弾丸が降り注いでいた。
    「太陽がもう出てきちまったみてエじゃん」
     にやりと笑う一了の言う通り。てるてる坊主の身体は赤々とした炎に包まれている。
     しかし、これしきの攻撃ではてるてる坊主も倒れない。大きな身体を揺らし、先程よりも勢いをつけて前衛の間を駆け抜けた。
    「Cuidado!(危ない)」
     慌てたアスルの口から飛び出たのはスペイン語。だが、仲間が誰も倒れていないことを確認し、ほっとした表情で胸を撫で下ろす。
    「アスル君、私に任せて」
     再び緋織がもたらした清らかな風が傷を負った仲間を優しく包みダメージを和らげた。アスルも疲労が蓄積している健の前に護りの盾を召喚する。
    「願いを叶えても叶えられなくても、役目を終えた形代は空に帰るのが定めだよ」
     淡々と語りかける悠の拳にはオーラが収束していた。ぐっと握った拳を目にも止まらぬ速さでてるてる坊主に撃ち込む。悠の猛打から逃れることが出来ず、てるてる坊主は苦しそうに身体をよじった。
    「その枠から外れようというのなら、もうてるてるぼうずじゃない」
     拳を下ろした悠が静かに告げる。
    「――ただの魔物だよ」
     悠の言葉にてるてる坊主が答えることはない。その身を弾ませ勢いよく地面に着地。狙ったかのように灼滅者の上に大量の雨粒の弾丸が落ちてくるが、それもすぐに緋織とアスルによって傷は癒された。
    「ねぇ、安心して」
     いつのまにかてるてる坊主の死角へと京が回り込んでいる。少し京が指先を動かすだけで、細い糸が幾重にもてるてる坊主の身体に巻き付いた。
    「明日は晴れるわ」
     すっと糸を引くと、てるてる坊主の身体はずたずたに切り裂かれる。そして、京はてるてる坊主にだけ聞こえる声でそっと告げた。ありがとう――と。
    「今がチャンスだ!」
     一瞬てるてる坊主の動きに迷いが生じたように思え、健はその大きな身体をぐっと掴む。敵の身体は自身よりも大きいが怯むことはない。渾身の力を込め健はてるてる坊主を持ち上げた。
    「晴れて勝利を飾る為……曇って澱んだ闇坊主、祓い断ち切るぞ!」
     全身全霊を込め、健はてるてる坊主を地面へ叩きつける。
     ドーン!!
     大きな爆発とともに、巨大てるてる坊主の身体が弾け、小さなてるてる坊主達がばらばらと空から降ってきた。
     灼滅者達は落ちてくるてるてる坊主を受け止めようと手を伸ばすが、受け止める傍からてるてる坊主達は姿を消していく。
     そして、アスルが受け止めた最後の1個もまた――。
    「ばいばい、です」
     灼滅者達に見送られ、てるてる坊主達はゆっくりと天へとかえっていった。

    ●てるてる坊主のお願い
     園庭に近い教室の明かりが灯る。
     緋織が用意したタオルで濡れた身体を拭いた灼滅者達はてるてる坊主作りに励んでいた。
    「遠足の前の日とか、作ったなー」
     幼い日を思い出し、香艶が作ったてるてる坊主はちょっと頭でっかちさん。なんだか不細工なような気がしないこともないが……細かいことは気にしないことにする。
    「出来た、ですー!」
     二人一緒に楽しそうに作っていた健とアスルが同時に出来上がったてるてる坊主を掲げた。
    「てるてるヒーローの完成だっ!」
     首に赤いマフラーを巻いたヒーロー風てるてるがじっとアスルを見つめヨーヨーのようにびよんびよんと揺れている。
    「すごい、ですー!」
     きらきらと目を輝かせるアスルが作ったのは顔に星のマークがついたスターてるてる。てるてるヒーローと二つ並べて吊るしてもらおうと笑顔を浮かべた。
    「そういえば、てるてる坊主の歌には歌われなかった歌詞があるんだっけ」
     てるてる坊主を作る手を休め、悠が記憶を辿る。確か、雨なら一緒に泣こうという内容だったはず。それであれば、首を切られることもなかったのではないだろうか。
    「でも、てるてる坊主さんにお願いされたら子供達も首を切ることはないんじゃないかしら?」
     悪戯っぽく微笑み、緋織が見せたてるてる坊主の裾には子供たちへ宛てたメッセージ。
     ――がんばるけど、あめがふったら、みんなであそんでほしいな。
     ――はれたら、みんな、きをつけて、いってらっしゃい。
    「それ、いいね」
     こうして、思い思いのてるてる坊主からのメッセージを書き添えられた25個のてるてる坊主が完成した。
     出来上がったてるてる坊主はあらかじめ用意しておいた写真と見比べながら真心が忠実にてるてる坊主を吊り下げていく。
    「こんだけありゃたりるっすかね……っとぉ!」
     お行儀よく軒下に並んだてるてる坊主達は写真とは違い、角やら足が付いていたり、フェルトの王冠を被っていたりと個性あふれる姿でぶら下がっていた。お神酒の代わりに、と真心は用意しておいたジュースをそっとてるてる坊主達に供える。
    「雨の滴る軒下で微笑むてるてる坊主さん、私は好きなのだけれど……」
     真心を手伝っていた京はゆっくりと雨降る園庭に視線を向けた。とはいえ、せっかくのお外で楽しむ行事が出来ないのは哀しい気持ちもわかる。
     てるてる坊主を軒下に吊るし終えた灼滅者達は教室を片付けて庭に出る。
    「それ、持って帰るの?」
     悠の言葉に、皆の視線が一了が持つてるてる坊主に集まった。だが、彼はゆっくりと首を横に振る。
    「これからコイツが雨雲を全部喰うんだ」
     一了は顔の横に掲げたてるてる坊主を揺らし、ゆっくりと雨空を見上げた。
    「そうすれば、明日の朝には晴れるだろ?」
     園庭の隅に立てかけられていた竹ぼうきを手に取った一了の身体がふわりと宙に浮く。
     そして、魔法使いは腹ペコのてるてる坊主を連れて小雨舞う夜空へと駆けて行った。

     晴天を望む子供達の願いを叶えるため、てるてる坊主は今日も頑張っている。
     ――明日、天気になぁれ。
     小さな呟きに応えるように、てるてる坊主達がふわりと揺れた。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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