武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われる。
今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。
今年の修学旅行は、南国沖縄旅行。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載。
夕食もまた、修学旅行の楽しみの一つだろう。
あなた達はテーブルの上から、好きな料理を好きなだけとることができる。
用意される料理は、沖縄独特のものが多い。
まず、目を引くのは、豚肉料理。
皮つき肉を煮込んだラフテー。それからテビチ(豚の足)の煮込みもある。ラフテーもテビチの煮込みもプルプルッとした、皮の食感が魅力。
ミミガー(豚の耳)は、茹でてからをしょうゆとごまで和えたものを。ミミガーの歯触りはこりこり。
野菜を食べたい人には、ゴーヤと島らっきょうがお勧め。
ゴーヤは爽やかな苦みがあり、島らっきょうは他県のらっきょうより歯ごたえが強い。
ゴーヤジュースで口の中をさっぱりさせてもいいし、肉や卵と一緒に炒めたゴーヤチャンプルーも食べ応えがあるだろう。
島らっきょうは天ぷらで、シャキシャキバリバリと召し上がれ。
海で囲まれている島であるから、海の幸、魚や海藻も新鮮なものが手に入る。
グルクンの唐揚げは癖のない味わいで、海ぶどうのサラダは噛めば、ぷちぷちした食感。
また、沖縄の豆腐は島豆腐と呼ばれ、濃い豆の味と煮ても炒めても崩れない固さが、特徴。
こちらは、豆腐チャンプルーとざる豆腐でどうぞ。
店の奥では、地元の歌い手が力づよい島唄を歌い、君達を歓迎してくれる。
お腹がはちきれそうなほど食べてもいい。島唄に耳を傾けながら、じっくり味わうのも、楽しみ方の一つ。
そうやって食べる事で、沖縄の食と文化を学ぼう。
或いは、ご飯を食べながら友人や仲間、恋人たちとの会話を楽しむのもいい。
さあさ、食事を堪能し、素敵な夜の、思い出を作ろう!
テーブルには大皿に盛られた沖縄料理。漂う食べ物達の香り。
ぐぅ。誰かのお腹がなる。そして「「いただきます」」と皆の声。
きららは料理を見、
「おいしそー!」
紫の瞳を輝かせる。菜箸を手にしテビチを自分の皿に。皮のとろけそうな舌触りを堪能し、
「おいしー! おかわりー!」
嬉しげな声を響かせた。
薫もまた、菜箸を持っていた。
「……負けない……」
テビチを自分の皿に載るだけ、載せていく。
「……わたしが食べるのが早いか、料理人が作るのが早いか、勝負ね……」
薫は言う。その口調は静かだが、強い闘志が感じられた。
少し離れた位置で。誠は晶子の手を掴んで、ひっぱっていた。
「皆、すごい食べっぷりだ。なくならねーうちに、オレ達も急ぐぞ!」
「た、たくさんあるから大丈夫ですよー」
晶子は手をひかれながら、困り笑い。
誠は大皿の前まで行くと、ざる豆腐を大量に取り、口いっぱいに頬張った。
「うひょーっ、豆の味が濃くてうめーっ。ほら、晶子も」
「……ほんと。このお豆腐、美味しいです」
晶子も豆腐を一口、幸せそうに目を細める。
沖縄独特の料理に、舌づつみを打つ生徒達。
彩夏の手にはお椀。椀の中には、黒いカタマリが浮かぶ汁。海蛇の肉を使ったイラブー汁だ。
「某料理漫画でみてから、是非食べたいと思っていたんですよね」
ズズッとすする。コンソメとドクダミの中間のような、上品な香りが胸を満たす。
公平が皿にとったのは、ゴーヤチャンプルー。
「沖縄料理なら、やっぱりこれですよね」
鮮やかな緑のゴーヤと黄色い卵を摘む。
「これはカツオの風味がして……美味しい」
予想と少し違う味に驚きつつ、箸を動かし続ける公平。
陽太も同じ料理に挑戦しようとしている。
「肉もうまいけど、肉ばっかじゃ駄目だよな。身長のために野菜も……」
決意をこめた眼をし、ゴーヤを一気に口に。
肉とゴーヤと卵とカツオ、様々な味が口内に広がる。
「苦っ! けど……うまいっ!」
一方。龍牙は顔をしかめてる。彼もゴーヤを食べたのだが、彼には苦みは強すぎたようだ。
「口直しを……」
近くのコップを取り、中の液体をぐびぐび。
「ウッ! こ、これはゴーヤジュース……」
新たな苦みに、龍牙は苦悶の表情。無意味に腕をばたつかせた。
【吉祥寺キャンパス高校2年8組】、樹の皿にもゴーヤチャンプルがほんの少し。
「ゴーヤは苦手なんだけど、本場のものだったら大丈夫かしら? 味見を……ん、悠一くん、どうしたの?」
悠一は樹の前で首を振る。
「に、苦手なら……やめとけ」
彼もゴーヤに挑戦していたのだ。
「さっき俺も食べたが……好奇心、猫を殺すって言葉を思い出したぜ」
情けなさそうな彼の声と表情に何人かがくすり。
麗羽はかすかに笑みを浮かべて二人の様子を見守っていたが、頃合いを見て提案する。
「口直しに何か取ってこようか? 海ぶどうのサラダをおかわりしに行くところだし」
彩歌も、はいと手をあげた。
「じゃあ、私も取りに行きますね。欲しいものは遠慮なく言って下さい。皆もお肉がつけば……いえ、ここだけの味を一緒に楽しみたいですから」
本音が漏れた気がしたが、気のせいですよね、彩歌さん。
「それじゃ、取ってくるけど、食べ過ぎないように程ほどにね」
忠告する麗羽。
和やかに食事を続ける2年8組。
拓馬は仲間や自分が取ってきた料理を見ながら、遠い目をしてみせた。
「数ヶ月前のもやし生活が、懐かしく思える生活だねぇ」
しみじみと、一言。そして、愛しい人の方を見る。目があった。拓馬は小さく笑む。
絶奈は耳をすませている。聞こえてくるのは、級友の笑い声、店の奥から聞こえてくる歌手の島唄。
「気の置けない仲間達と一緒だからこそ、味覚も視覚も聴覚も嗅覚も触覚も……何より心も満たされるのでしょうね」
シジマは口の中で遊ばせていた島らっきょうをごくん、飲み込み、絶奈へ頷いて見せる。
「ん、せやな……仲間と楽しく……修学旅行はこうでないとな」
そして、
「島らっきょう美味しいで。ちょっと食わへんか?」
「あら、有り難う」
シジマと絶奈は笑顔を交わし合う。
温かい空気の流れる級友たち。
一方。鋼人は熱く語っていた。
「やっぱり肉ですよ、肉」
彼の皿には、ラフテー等が山盛り。
「アスリートの資本は体で、体を維持するには肉ですから」
肉をむしゃむしゃ。あむあむ。ごっくん。さらに、むしゃむしゃ。
「そうだ、肉だ! とにかく肉をくいまくるぞ!」
鉄子が力強く賛同。テビチ6本を一気に平らげると、今度はミミガーに。
「このくにくにがミミガーか……好きだっ! 大好きだっ!! 私はミミガーをわたしのフルコースに加えるっ!!!」
絶叫する鉄子。
聞こえてきた叫びに、【八幡町キャンパス高校2年1組】のケイジは相槌を打つ。
「確かに、ミミガーはうまいっ、こりこりだ! だが――」
そこで息を吸い
「――一番は、らっきょうだ! らっきょサイコー!」
叫び、怒涛の勢いで島らっきょうの天ぷらを口に放り込む。ぼりぼり、ぼりぼり!
葉次は唇の端を釣り上げ不敵に笑う。
「ケイジには大食いで負けるわけにはいかねぇな」
爪楊枝を、チャンプルのゴーヤに突き刺した。ケイジに張り合うように怒涛の勢いで食べていく。
葉次の隣で、ジェイドはコップを見つめていた。困惑した顔だ。コップに入っているのは、ゴーヤジュース。
「百聞は一見にしかずっていうしな」
ジェイドは思い切りよく一気飲み。
「……レモンが混ざってて、意外とイケる。信じらんねぇ!」
感嘆の声。
「おい、寶樹。おまえはどうして人の皿から料理を取る?」
シルヴェストは呆れた顔と声を綾へ向けていた。綾が仲間の皿からつまみ食いをしていたのだ。
「しかたない。海ぶどうをわけてやろう。大事に食えよ」
「さんきゅ」
シルヴェストが綾に海ぶどうのサラダをわけると、綾はそれをかきこむように食べる。歯で潰された海ぶどうがプツプツ音を立てる。
「しっかし……シルヴェストも皆も、いい奴だよな……ほんと、さんきゅ」
嬉しそうな声の綾。
【Promenade】の詠一郎は声を弾ませていた。
「乃亜ちゃん、ソレ美味しそうだね」
詠一郎は乃亜の皿から海ぶどうを摘む。
乃亜はつまみ食いされた事に気づき、腰に手を当てる。
「欲しいならそう言え。大体、詠一郎はもう少しバランスのいい食事を……っ?」
乃亜の口の中に何かが入った。それは詠一郎が持ってきたお菓子ちんすこう。
乃亜は頬を赤くしたまま、ちんすこうをコクン、飲み込む。
「い、いきなり放りこむな、びっくりするじゃないか」と動揺した声で。
近くでは、サリィが隼鷹を叱っていた。
「もう、なんでそんな子供っぽいことするの? そもそも、一つの料理でお皿いっぱいにするから……」
隼鷹もサリィの皿からつまみ食いしたのだ。
隼鷹は苦笑い。
「……じゃ、これでおあいこな。はい、あーん」
と、サリィの口にサータアンタギーひとかけを近づけた。
「……。しょうがないなあ。ちゃんと肉も野菜も食べなさいよ?」
サリィは、しぶしぶ許す、そんな口調を取りつくろいながら、口をゆっくり開けた。彼女の頬は夕焼けのように真っ赤で。
桜となこたは、今料理を大皿から取りわけている最中。
桜の皿に、なこたは赤いものを載せる。海ぶどうサラダに入っていたエビやタコ、それから赤い魚のグルクン。
「へへへー。こっちのお魚さんもこのエビさんも赤くて、おいしいですよ」
「サンキュな」
なこたは桜や皆の顔を見回し、ぽつり。
「ふふ、皆と一緒。楽しいです」
「ならもっと楽しもうぜ。そのためにも、メニューの全制覇だ!」
なこたへ、桜が親指を立ててみせた。
【文月探偵事務所】の仲次郎は、仲間の前に取り皿を置く
「はい、料理取ってきましたよー。桐香さんの言っていた、海ぶどうのサラダ。後は、チャンプルーにミミガーですねー」
金糸雀は初めてみるミミガーにおっかなびっくり。
「ミミガー? え、豚の耳なの? べ、別に怖がってないわ。……大丈夫よ、食べれるもの……あむ」
強がりながら、一口。
「……あら、意外とあっさりしてて、こりこりしてて、美味しいわね?」
桐香はほほえましげに、金糸雀を見ていた。そして、ふと本州の方向に顔を向けた。学園で待つ仲間を思い出したのか。
「探偵事務所へのお土産も買っていかないといけませんわね!」
呟く桐香。他の二人も「そうですね、何を買っていきましょうか」などと同意。
丞は携帯電話を操作している。
料理の写真を取り、『バイキングなう』などの文字を添え、仲間に送りつける。
「飯テロって奴だ」
写真を見て悔しがる仲間を想ってか、丞はにんまり。
【玉川上水2-9】の切丸は茶碗にクファジューシー、豚肉入りの沖縄風炊き込みご飯を入れ、食べていたが、椀をテーブルに置いて、ふぅ。
「小食だから、もう腹いっぱいだが……」
それでも全品制覇したい。そのために、切丸は一時休憩。
彼の隣の直人は、一秒も休む様子がない。富士山かというくらい山盛りにされた料理を、怒涛の勢いで食べている。
「立食バイキングっていいもんだな!!!」
「はい、いくらでもたべていいなんて素敵です」
菊乃が目を輝かせながら返事した。菊乃は作法に則った動きで、けれど見えないほど早く手を動かし、料理を平らげる。
ひらりは、
「沖縄って言ったらやっぱ豚さんですよねっ!」
口の中のラフテーをゆっくりと咀嚼し、そのぷるぷるした皮の感触に「ん~~!」と、体を震わせた。表情は幸せそのもの。
そんな彼女の傍らに一本の小瓶。コーレグース。沖縄の辛味調味料。
紅はひらりから小瓶を借りると、澪と稲葉の料理に振りかけた。
「このコーレグースっての、いいらしいゼ? 俺の分まで味わってくれヨナ!」
澪は疑うことなくコーレグースのかかった島豆腐を口に入れた。
「どれどれ、ちょっと食べてみるか。……こ、これは――?!」
固まり動けなくなる澪。
その隣では、同じくコーレグースを口にした稲葉が喉を押さえ、
「み……みずぅ……だ、だれか……み、みずぅ……ッ!」
と呻いている。
コーレグースの辛さが澪と稲葉の舌に直撃したのだ。
他の仲間は彼らを見て笑ったり介抱したり、おおわらわ。
千巻と右九兵衛も騒いでいる真っ最中。
ゴーヤジュースの大ジョッキを持った右九兵衛に、
「ほら、うくべークン。それイッキ!イッキ!」
千巻が両手を叩いて囃したてる。
「ま、まぁええ……飲んだるわ、悪いモンやあらへんやろからな。……それ!」
右九兵衛は額に冷や汗を浮かべながらジョッキの縁を口につけた。一気飲み。
ふぐぬぅ……苦しげに呻く右九兵衛。千巻は八重歯をみせて笑う。
騒ぐものもいれば、相談し合うものもいた。
鷹次は仁道の体を見つめ、がっくりを肩を落とす。そして尋ねた。
「どうやったら仁道みたいな体格になれるんかね? 俺さん、色んな所で貧弱扱いで……」
仁道は顎に手を当て考えてから、答える。
「確かに梓童は線が細いが、なに、まだ成長期だ。しっかり食って寝れば、でかくなる」
「なるほど……もっと食って、ガンガン寝ればいいんかね! さんきゅー!」
さっそく肉を食べ始める鷹次。仁道はかすかに笑んだ。
近くのテーブルでは、千尋はひそひそ声でレオに話しかけていた。
「レオくん……告白した彼女とは……ど、どう、なの?」
「え?!」
レオは驚く。そして、とぎれとぎれに答える。
「千尋だから言うけど、その、実は……キス……した」
「わわわ……」
レオの顔も、千尋の顔も、真っ赤。二人は見つめ合い、やがて、どちらからともなく、照れた笑みを浮かべだす。
食事し話するうちに、時間は経過していく。
殊亜はお腹をさすっている。
「ラフテーもテビチも、ゴーヤも島らっきょうも、グルクンって魚も、歯ごたえのある豆腐も、ぜんぶ美味しかった!」
殊亜は壁にもたれ島唄に耳を傾ける。
悠仁はゴーヤジュース片手に食事の余韻に浸っていたが、殊亜の言葉を聞き、話しかけた。
「特に豚足――テビチがよかったです。初めてですが、皮がとろけるようで……夢中になりました」
忍者装束のハリーも口を挟む。
「それも美味しかったでござるが、拙者はタコライスがよかったござるよ。あれは、懐かしい味にござるな!」
と、拳を握って力説。何がおいしかったか、話しあう三人。
近くの席で、憂斗は今、デザートに、鮮やかな赤い皮のドラゴンフルーツを平らげたところだ。
ほのかな甘みと酸味に満腹。満足げにふぅ、吐息を吐いた。
「南国フルーツも予想以上のバリエーションでした。沖縄まじ南国です。なんですか、これ」
どこかうっとりとした響きで言う。
憂斗の言葉を、殊亜の耳が拾う。
「フルーツもあるんだ。俺達も食べに行かない? 全種類制覇しないと、沖縄の文化に失礼だし?」
と提案すると、
「何がおいしかったか話して、もう一周したくなってきていたところです。是非行きたいですね」
「いいでござるな。最後まで沖縄料理を堪能して、明日に備えるでござるよ!」
悠仁とハリーが嬉しそうに同意。三人はデザートを食べるため動き始める。
まだまだ食べようとする者、もう食べ終えて余韻と浸るもの。それぞれの楽しい時間は時間は過ぎていく……。
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月18日
難度:簡単
参加:50人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 14
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