武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
今年の修学旅行は、南国沖縄旅行です。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
修学旅行3日目。
この日は終日自由行動で、沖縄各地でマリンスポーツや観光を楽しむことができます。
もっとも、流石の灼滅者でも、旅行の3日目ともなれば少しばかり疲れが見え始めてくるころかも知れません。
「とんでもない! まだまだオレの体力・気力は有り余ってるゼ!」
――という元気溌剌、健康優良灼滅者の皆さんは、石垣島での体験スキューバダイビングに挑戦してみてはいかがでしょう。
必要な器材などは全てレンタル。ベテランインストラクターの引率で、誰でも(泳げない人でも!)気軽に海中遊泳がエンジョイできます。
海底一面を覆いつくす美しい珊瑚礁。そこに住むカクレクマノミやイソギンチャクなどのカラフルでちょっと不思議な海の生き物。
日本最大規模の珊瑚礁を誇る石垣島周辺は、国内でも屈指のダイビングポイントです。豊かな自然に彩られた、ここでしか見られない幻想的な海中の世界は、一度体験すると忘れられない思い出になること、間違いありません。
また、スキューバダイビングでは常に二人一組でバディを組んで潜ることになります。仲の良い友達と一緒に潜るも良し、あえて一人で申し込んで、その場でバディを組むことになった人と親交を深め合うも良し。
海の中という特殊な環境で育まれた友情は、きっと特別なものになるはずです。
みんなで沖縄の美しい自然を満喫しましょう!
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海に潜ると、世界が変わる。
体の内から鳴り響くようなレギュレーター越しの呼吸音。マリンブルーのフィルターが掛かった、パステルカラーの珊瑚礁。
遠く、近く、色とりどりの熱帯魚達が、驚くほど穏やかに人を恐れず自然の中を泳ぎ回っている。
息をする度口の中に流れ込んでくる潮の味にも大分慣れてきた頃、全員が降りてきたことを確認したインストラクター達の指示で、ゆるやかな海中遊泳が始まった。
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珊瑚礁が育む豊かな生態系はダイバー達の視界を飽きさせることがない。
映画で有名になったクマノミや、群れをなして泳ぐツバメウオ。珊瑚の合間に根付いた波に揺れるイソギンチャク……
(「海の中って凄いな~……こんなにも、景色が違うなんてっ」)
麗の抱いたその感想は、この海に居た誰もが皆感じたものだったかもしれない。
……もっとも。
『魚うまそうだな! 赤いのとか!』
彼女のホワイトボードにそう書き込んで見せた翔は、少し違う感想を持ったのかもしれなかったが。
彼ら【井の頭キャンパス小学6年桜組】のクラスメイトたちは、それぞれバディを決めてはいるものの、クラス全体で一団となって行動していた。
(「凄いや、普段見ないカラフルな魚がたくさん……あっ、あっち!」)
その中で、彪が一番に気付いたのは、この人間の群れに向かってくるヨスジフエダイの群れだ。
桜組の面々のみならず、他の参加者たちも予想外の接近遭遇に嬉しい驚きをあらわにする。
(「魚がこんな近くまで! くぅーっ、テンション上がってくるなぁ!!」)
眼前をスイスイと泳いでいく魚の群れに、丈介の興奮もひとしおだ。
(「こんなに間近で見れるなんて……すごくキレーだね……!」)
(「まるで、宝石箱をひっくり返したみたいだ」)
瞳を輝かせる燈も、彼女のフォローをするつもりでいたバディの理央も、その光景には思わず心奪われてしまう。
(「あぁ……凄いなぁ、沖縄の海って……」)
ただただ漂うような泳ぎを楽しんでいた夜好は、眼前スレスレを泳いでいくカラフルな魚達にただただ感心する。
ちなみに、花火や緒々子らが注目していた『夜好は男女どちらの水着を着るのか?』問題は、男女兼用ウェットスーツ着用のため判定不能、というがっかりオチであった。
(「どっちだろ……上からじゃ無理かなぁ?」)
それでも、花火はまだ、ウェットスーツの上からでも下に着た水着のシルエットが読み取れないか、目を凝らしていたりしたが。
『とても幻想的で、素晴らしい光景ですわね』
佐奈子から接触テレパスでそう伝えられた頼仁は頷き、魚達の行く方を指すと、素早く魚と並ぶように泳ぎ始めた。
心なしか慌て気味だったのは、女の子とバディを組むことになって少しドキドキしていたからかもしれない。
珊瑚に魚に、元気な友人達に。璃羽が持参したカメラを向ける被写体には事欠かない。
いつもどおりの無表情ながら次々と切られていくシャッターが、彼女の昂揚を如実に示していた。
(「黒乃さん、こっちですー! 皆も―っ」)
緒々子はブンブンと手を振って、璃羽にアピールする。花火や夜好らも手招きし、珊瑚や熱帯魚たちをバックにポーズを取った彼女たちの姿は、璃羽にとって最高の被写体の一つだった。
(「……やっぱり潜って正解だったわね、こんなにも静かで綺麗な世界が広がってるんだもの」)
イヴがこのダイブの為に借りてきたデジカメのレンズが、イソギンチャクの中から泳ぎ出た二匹のクマノミを静かに捉える。
(「イヴさんも、一杯撮られてるみたいですわね」)
イヴのすぐ隣では、波を抜けて差し込んだ陽の光がスポットライトのように珊瑚礁の一角を照らす一瞬の光景を、日有が写真に収めていた。
期せずしてバディとなった二人だが、似た目的を持った二人である。
フエダイの群れを前に二人は意図せず同時にシャッターを切り、それに気づくと、向い合って少し笑いあった。
『かわいいの、いっぱい、いるよ!』
興奮気味の恋の接触テレパスに頷き応える日高の視線は、小柄な熱帯魚よりも愛しい人の横顔に向けられていた。
(「って、恋のが、一番可愛いって……!」)
珊瑚に熱帯魚、イソギンチャクにウミウシ。見る度くるくると変わる愛しい人の表情が、楽しくて仕方がない。
『ずっとこうして、一緒にいたいなぁ……』
無意識に思う恋の心が伝わってくると、日高の顔は真っ赤になって。
それに気づいた恋の顔も、負けないくらい真っ赤になった。
『浮上しよう! 今の深度を保って、潜行しよう。OK! エアが無い!』
(「えっ、上? 違う? って、空気がない!? 失礼、タンク残圧は……い、一杯ありますわーっ!?」)
バディを組んだしぃことシルビアが次々繰り出すハンドサインに、直子ことストレリチアは惑わされることしきりであった。
「折角覚えたハンドサイン、全部使ってみたかったのじゃ!」
とは、後のシルビアの弁である。
よい子とよいダイバーは、真似をしてはいけないよ。
これも、バディとしては、あまり好ましくないことなのだが。
梓と暦の一ノ瀬兄妹は、気付けば兄が妹にすっかり置いていかれてしまっていた。
(「暦、泳ぐの速い!! ダイビングって速さを追求するものじゃないからっ」)
(「私は普通に泳いでいるよ。兄さんが多分遅いのかも知れない」)
(「な、なにおぅ!」)
(「あ、そんな急にスピード出したら……」)
視線とボディランゲージだけでここまでの意思疎通をこなす二人の息が必ずしもぴったりでない、というのは、少し不思議な話ではある。
(「げんそーてきって、こういうのを言うのかな?」)
【箱庭ラボ】のメンバーと一緒に参加した珠姫は、この別世界の中を人魚姫になったかのようにフエダイの群れと並んで泳いでいた。
(「エメラルド・ブルー、珊瑚に熱帯魚……これぞ沖縄の海、……だね」)
彼女のバディ、セーメもまた、この別世界を満喫している。
カナヅチであった彼女だが、スキューバにおいては、それは大きな問題ではない。
仲睦まじく並んで泳ぐ彼女たちを、奏恵のカメラがパシャリと捉え、そんな奏恵を翡翠のカメラが捉え、そんな二人を勇騎のカメラが不意打ちで捉える。
その時。
何かに気付いたように、奏恵が身振り手振りを駆使して上を見るよう指し示した。
(「……もう一枚♪」)
最初にその様子に気付いたバディの翡翠が、パシャリと一枚慌てる奏恵を撮ってから、彼女の言う通り、顔を水面の方に――空に、向ける。
そこでは、光が、揺れていた。
(「……! 水面が、光ってます!」)
(「本当だ……光が反射して、すごく綺麗だ」)
亨と勇騎のコンビも、そして勿論珠姫とセーメも……そして、メンバーの近くにいた他の参加者たちも。
参加者たちは次々と空を見上げて、波打つ光の美しさに酔いしれた。
その内、友人達に向き直った奏恵には、仲間たちの賞賛のサムズアップや感動を伝える頷きが贈られたのである。
詠乃が仰向けになって、海面から降り注ぐ優しい光を浴びていると、ドン、と誰かにぶつかった。
(「うわぁ!? ご、ごめん抄禅寺!」)
ぶつかったのは彼女のバディで、彼女同様海の世界に気を取られていた秋五である。
(「あら……東堂さん、ぶつかってしまってすみません」)
これは全く健全な、お互いの不注意が生んだ些細なアクシデントであった。
(「ん、ぁ……わあああああごめんーっ!?」)
(「?」)
そう、ぶつかった時、秋五の手が詠乃の腰に回される形になっていたのは、あくまでアクシデントであり。
そんなことを一々気にしていたのは秋五だけ――と、いうわけにはいかなかった。
同じ【悠々楽々】から参加していた、宵とマイアがしっかりと、その様子を見ていたのである。
(「あいつラッキースケベしよる……! くっそ羨ましい……」)
(「何をしているんだ、あれは……後で秋五の奴、殴っておこう。あぁ、宵もな」)
――暖かい沖縄の海の中で、男子二人の背筋を寒いモノが走った。
●
珊瑚の広がる一帯をぐるりと円を描くように遊泳したあと、インストラクター達がバディ一組につき一本ずつ、魚の餌を手渡していく。
まずは、お手本といったところだろうか。インストラクターが魚肉ソーセージのようなそれを千切って撒くと、一体どこにそんなに隠れていたのかというほど、魚の群れが勢い良く群がってくる。
『今日はいつもより多いですよ』
首から提げたホワイトボードにそう書いて、参加者達に笑いかけてみせた。
受け取った餌を少し擦った途端、一息に群がる魚。
その数と勢いの良さを見て、度の入ったマスクの下の蓮次の瞳が妖しく光る。
(「フッフッフッ。魚まみれになれ―!」)
(「ちょっ、蓮次!?」)
バディの千波耶に向けて放るようにばら撒かれた餌に向かって、無数の熱帯魚が勢い良く食らいつく!
(「ちょ、モテキ到来!? て、魚の口、こそばゆい~!」)
二人のレギュレーターから笑い声の代わりに大量の気泡が音を立てて吹き出した。
【井の頭キャンパス中学2年F組】から誘い合いこのダイビングに参加した4人の中で、最初に餌を撒いたのは風花だった。
本当に、一体どこから来るのかというくらい。周りでも同じように餌は撒かれているというのに、魚の群れがドンドンと集まってくる。
「ぼば、ぼぼぼぼばばば」
レギュレーターから漏れる空気の音が、驚きと喜びを表す言葉だったことは想像に難くない。日頃無表情な彼女の顔に、笑みが浮かんでいたのだから。
続けて、智恵美が餌をやる。撒くと言うよりは、擦った餌をそのまま手のひらに乗せて広げたような形だ。
(「わわわっ、くすぐったいですっ」)
当然、集まってくる魚たちは智恵美の手のひらをつんつんと啄んでいった。
もぞもぞとする智恵美を見ながら、丹はパッ、と餌を撒き、その中に指先を差し込んでみる。
輝くような鱗を持つ熱帯魚が眼前に集まり、餌と一緒に丹の指先をちょいちょいと啄んでいくのだ。
(「ちょ、見てこれ可愛いんだけど!」)
と、テンションの上がった丹が振り向くと。
おそらくは、なるべく近くで魚達を見たかったのだろう。
文字通り、目の前に餌を撒いてしまった椛が、それは、もう、思いっきり、魚達に群がられていた。
ボフッ、と思わず吹き出してしまった丹を、非難することはできないだろう。
ひとつまみずつ、少しずつ。
ひふみが撒いた餌に、四方からカラフルな魚達が飛びついてくる。
海面を通して差し込む陽光に彩られた色鮮やかな世界は、まるで空想世界を彩る空のよう。
海中になびく諒一郎の髪も光を受けて、色の博物館に展示物を増やしていた。
(「……ところで、この熱帯魚はお腹も満たせるんでしょうかね」)
(「……なんて、食えるかどうか考えてるんだろうな」)
諒一郎は、実に、和んだ。
征士郎が餌に群がる魚達に夢中になってしまったのはそう長い時間ではなかったはずだったのだが。
(「――! 葛城様!?」)
その僅かな時間目を離した間に、バディの百花の姿が消えてしまったのだ。
事前のレクチャーで習った、ダイビングの際最も大事なこと――『パニックを起こさない』、というルールを、一瞬だけ、忘れてしまう。征士郎は慌てて、フィンを大きく掻きだした。
――さて、当の百花はといえば、集団からそれほど離れていない所で、珊瑚のない海底に横たわって、のんびりと水面を見上げていた。
楽しんでいた征士郎の邪魔をするのも悪いかな、という思いで声をかけずにいた事が、逆に迷惑をかけてしまったようだ、と――慌てて自分を探しに来た征士郎の様子を見て、大いに反省したものである。
その気持は、態度で表すことにした。
(「……フネ君と記念撮影をする時、後ろから抱きついてあげましょ」)
●
そろそろ、浮上の時間が近づいてきている。
熱帯魚たちに別れを告げる前に、海中カメラを持っている人は、記念写真を撮っておくのがいいだろう。
インストラクター達も、最後に全体写真をとるためのパノラマカメラの用意を始めた。
ダイビング経験者である那月は、即席でバディを組むことになった雪音をサポートする形で、今回のダイブを楽しんだ。
思っていた以上に元気の良い石垣島の珊瑚礁に改めて目を見張っていると、とんとん、と雪音に肩を叩かれる。
見れば、雪音は胸元にアオヒトデを抱えていた。
どうやら、
(「これぇ、持って帰っていいのかしらぁ~?」)
と、言うことらしい。
那月は首を振りながらで手でバツ印を作り、それから、次々とシャッター係を頼まれているインストラクターを指で示した。
(「記念写真で、我慢だな」)
単独でこのダイビングに参加した真は、同じく単独で参加した舞斗とバディを組み、この沖縄の海を満喫した。
海中では、会話はできない。だが、互いが互いの見える位置をとり、同じ世界を泳ぎ、同じ光景を目にしたという事実は、膝を突き合わせた語り合いと変わらないほど、互いを知り合えるものである。
そしてこのバディはお互いに――沖縄の海を楽しみながらも、海の中での戦闘、というシチュエーションを忘れていないことに、気付きあったのだ。
真の差し出した右手に、舞斗もまた右手を出して応じた。
少なくともこの海の中、二人は間違いなく相棒(バディ)同士だったのだ。
カナキは最高の時間を満喫していた。
【御殿山キャンパス高校2年8組】の仲間達で参加したこのダイビングで、カナキは何と女子と! 黎花とバディを組んで実に楽しい時間を過ごしたのである。
その喜びようときたら、当の黎花や友人の小次郎の方が嬉しくなってしまうほどだ。
そして今、黎花のカメラを手にした綱姫によって、黎花とカナキのツーショット写真が撮られたのである。
撮られる側に回りたかった黎花の方もノリノリで、カナキのピースに合わせてバッチリポーズなど決めている。
続けて綱姫は小次郎と黎花のツーショットも撮った後、近くにいたインストラクターにカメラマンを頼んで、4人全員での記念写真も撮ってもらった。
写真の中、4人の後ろを泳ぐフエダイの群れと華やかな珊瑚礁は、彼らの堅い友情を彩るようだった。
さて、少し後のことになるが――浮上した小次郎の耳元に忍び寄る影があった。
「……あのツーショット写真、欲しはるんなら焼き増ししはってもええのんえ♪」
「陸でアイスでも奢らせて下さい」
綱姫と小次郎の握手は、実に堅い堅いものであった。
●
チーム同士で、バディ同士で。知り合い同士で、知り合った者同士で。
ひとしきりの写真を撮り終えた頃、ようやっとパノラマカメラの用意ができたようである。
インストラクターが広げた指を折って、カウントを数える。
3!
2!
1!
――パシャリ! と、フラッシュに焚かれた参加者達は皆、最高の表情を浮かべていた。
作者:宝来石火 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月20日
難度:簡単
参加:49人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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