修学旅行~ケラマブルーに包まれて

    作者:天風あきら

    ●いざ、南国の地へ!
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われる。
     今年の修学旅行は、六月十八日から六月二十一日までの四日間。
     この日程で、小学六年生・中学二年生・高校二年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。

     今年の修学旅行は、南国沖縄旅行。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載だ。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作ろう!
     
    ●慶良間諸島でシュノーケリング
     慶良間(けらま)諸島は、沖縄本島から西へ約四十キロ離れた大小の島々である。有人島は渡嘉敷島をはじめとする五島のみで、残る二十前後の島は無人島となる。
     沖縄県でも……いや世界でも有数の透明度を誇る慶良間諸島周辺の海域は『ケラマブルー』と呼ばれ、シュノーケリングやダイビングを楽しむ人々が多い。美しい珊瑚や熱帯魚も魅力だ。
     その中で、初心者でも楽しめ、かつレアな体験ができるのが阿嘉島の真謝の浜。何とウミガメが生息していて、遭遇するチャンスがあるのだという。しかも人をあまり怖がらないので、かなり近くで観察することが可能だ。
     渡嘉敷島のトカシクビーチでも同様にウミガメの目撃情報はあるのだが、真謝の浜の方が人も少なく、水深五十センチから三メートルほどの浜から近い場所に珊瑚が群生しており、ウミガメ以外にも様々な生き物の姿を楽しめる。立ち上がった時や、足に付けるヒレのようなフィンで蹴る時に、うっかり珊瑚を傷つけないように注意したい。もちろん、珊瑚に直接触れてしまうのは厳禁だ。
     装備としてはシュノーケルとマスク、シュノーケリングベストにウェットスーツ、グローブ、そしてフィン。これだけ揃えれば、初心者でも安全にシュノーケリングを楽しめるだろう。これらは沖縄本島や阿嘉島でレンタルも可能だ。特に言うならば、飲料水は持参すると良い。
     また、泳ぐ時はこれも危険防止の為、二人一組以上が必須。シュノーケルに水が入った時など、一人では慌てて溺れてしまう可能性が高いが、仲間がいれば落ち着いて水を出すなどの対処がしやすい。

     さあ、以上のことを確認したら、君もケラマブルーを楽しもう!
     
    ●一緒に行かないかい?
    「あっ、ごめん」
     廊下を歩きながらよそ見をしていたら、他の生徒にぶつかってしまった。お互いが手に持っていたものが、廊下にばら撒かれてしまう。
    「――あれ、君も修学旅行生なのかい?」
     互いの荷物の中にそれぞれの『修学旅行のしおり』を見つけた、篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)。話しかけられた生徒は、頷いて答えた。
    「そうなんだ。……ねえ、良かったら三日目の自由行動、皆で一緒に慶良間諸島に行かないかい?」
     そして生徒は荷物を拾いながら、慶良間諸島が沖縄でも小さな島々の集まりであること、そこでシュノーケリングを行うコースがあること、海の美しさや様々な生物を観察できることを聞く。
    「クラスメイトやクラブの人、冒険を通じて知り合った友達とでもいい。出来れば二人以上で……一人なら僕か誰かと一緒になるけど、いいかな?」
     灼滅者なら、そうそう溺れたり危険な目に合うこともないかもしれないが、誰かと組んで潜るのは守らなければいけないルールだ。それに何より、友人と共に過ごす時間は、きっと有意義なものになるだろう。
     頷いて返した生徒に手を差し伸べて、閃は珍しく微笑した。
    「一緒に楽しもう。一生に一度の修学旅行を」


    ■リプレイ

    ●いざ行かん、ケラマブルー
     慶良間諸島の一角、阿嘉島の真謝の浜に集った学生達は、ビーチをほぼ独占。多くの者はウェットスーツを含むシュノーケリングセットを完全装備していたが、水着のままの者も少なくなかった。地元業者に尋ね、この装備は浮力を維持するためだと聞き、泳ぎとバディの信頼関係に自信があるなら、と注意された上での格好だ。
     しかし、シュノーケルすらつけていない者も少なからずいる。そう、こんな時に役立つのがESP『水中呼吸』!
     準備体操後、自分だけ水中呼吸を使っているヘキサに、恋人の鴎が引っ張られて海へ。鴎にヘキサが手を繋ぐ。
    「スゲー……マジスゲェ! 海ン中がこんなに生命で溢れてたなンてなァ!」
    「うぅっ、沖縄の海を甘く見すぎていたぜ……僕様超感動っ!」
     そしてまたすぐに海中に潜り、泳ぎ続けるのであった。
     一方、普段クラスで喧嘩ばかりの鶫と誠。
    「ペアでしか参加出来ないっていうから……仕方なく、仕方なーーく誘ってあげる」
    「ああ、仕方なく、仕方なーーく付いてきてやった」
    「ヴェインも一緒だよ」
     と、鶫が霊犬の頭を撫でる。泳ぐのが苦手な鶫は、誠に引っ張って貰うという作戦だ。
     そして海へ。でも鶫は緊張して、誠にしがみつく。近い距離に、妙に意識してしまう誠だったが……鶫は徐々に慣れて、珊瑚礁を見ては、目を輝かせていた。
     しかしヴェインが突如、ナマコを咥えて現れた!
    「ぅがば!?」
    「?!」
     驚いて誠に顔をぶつけてしまう鶫。二人とも息を吐き出してしまい、慌てて呼吸。ジェスチャーで抗議する誠に、やはり身振り手振りで弁解する鶫だった。しかし、シュノーケル同士がぶつかっていなければ、どうなっていたやら。
    「……シュノーケリングやるぞー」
    「はい、いきましょー!」
     夜ト、ディートリヒのコンビ。ディートリヒの故国では出来ない体験に瞳を輝かせている彼の頭を、夜トは思わず撫でた。
     魚への餌やりは海を汚す可能性から却下されてしまったが、それでも様々な生き物を見つけることは容易に出来た。
     『自転車同好会』で参加の慧樹、日方、司。
    「シュノーケルは初めてだけど、お手軽なトコがいいな!」
    「俺も初めてだ、楽しみ。よーし、せーのでいくぜっ!」
    「ええと、装備はこれを……わ、待ってくださいよー! うん、せーのですね。せーの……っ!」
     浜から海に入る三人は、海の蒼の深さに圧倒される。海底まで届く陽光、そしてそれに照らされる珊瑚礁と魚達。
    (「派手な色の魚はおいしくなさそうだし、小魚多いから、腹ふくれないんじゃね?」)
     なんて思う慧樹は現実的。
     慣れてきたら段々はしゃいできて、魚に触りそうになる司。そしてジェスチャーで『めっ』とする日方。司は後ろ頭を掻く仕草で反省の意を示した。
     『天剣絶刀』のメンバーは六人。
     ギィは潜った瞬間、珊瑚礁に目を奪われるが、すぐに我に返り、まずは体勢制御の基本を練習する。
    「珊瑚を見るのは後でも出来るっす。基本が大事。皆さんもちゃんと言われたとおりにするっすよ?」
     と、皆に釘を刺した。
     それをこなした後、離れすぎないよう泳ぐ面々。
    「おお、凄い! 綺麗だね! ──へえ、珊瑚ってこうなってるんだね」
     珊瑚に触れないよう気を付けながら、ぎりぎりまで近づいて見る架乃。
    (「どうしましょう、感動しっぱなしでドキドキします……!」)
     高揚が止まらない紫桜里は、美しい珊瑚や魚達に見とれながら目を泳がせていた。
    「クラブのお友達の皆様と海を存分に楽しめるなんて夢みたいです」
     嬉しそうに微笑む空凛。シュノーケリングが得意という彼女は、初心者達と離れないよう浅瀬で珊瑚を観察していた。
     スポーティな水着で決めた日有は、少し深いところへ行って珊瑚の隙間に群がる熱帯魚を発見。透明度の高い海と鮮やかな魚の色のコントラストを見つけて感動し、隣にいた鏡の肩を叩いてそちらを示す。
     初めてなのに自前で装備を整えているあたり、楽しみにしまくりだった鏡。
    (「テレビで見るだけでも十分綺麗なものだが……これほど圧倒的なものだとはな……」)

    ●ウミガメ発見の報!
     吉祥寺キャンパス高校二年八組の面々。テレビでしか見たことのない、海の底が透けて見える海を眺める悠一。
    (「珊瑚礁に魚の群れ……灼滅者として日々生きてりゃ空を飛ぶ事もあるけど……そういう景色とは、本当に違う景色だ」)
     水をフィンで蹴りながら思う。
    (「……仲間と見るこの景色、しっかり胸に刻みつけよう。またこういう景色を、皆で見られるように。日々、強くなっていかなくちゃな」)
     また、レンタル装備のサイズがぎりぎりあった、筋骨隆々の剛人は、現地の法令等を事前に詳しく調べ、海洋生物を遠巻きに鑑賞していた。
    「何者にも邪魔されることなく日々生きている、そのあるがままの姿を眺めるのが醍醐味と言うものですよ」
     その言葉は、妙に老成していた。
     絶奈は清水の舞台から飛び降りる覚悟で……などと大袈裟に覚悟を決めていた。
    「それに、こういう不安と期待を楽しんでこそ面白みも増すと言うものです」
     彼女もどこか達観している。
     麗羽は「海は未知が詰まった宝石箱みたいな物だし、そこに住まう魚は、泳ぐ宝石といったところかな」と称した。実際、魚や珊瑚は陽の光を浴びて、宝石のように輝いている。
    「皆ー、レモン水、作って来たからねー」
     叫ぶ樹。幼い頃に溺れかけ水が苦手になった彼女だが、修学旅行に発つ前にパンフレットを見て思わず参加。海に入ってみると──透明度の高い水に、そして水に反して様々な色合いを主張する珊瑚に言葉を失う。
    (「怖がって浜辺から見てただけじゃ見られなかったもの……何かに挑戦してみるのは悪いことじゃないわ」)
     水上に浮かび、微笑む樹。
    「Sea! そう、俺はシーマン……!」
     装備一式をレンタルした上で、頭に魚型の被り物をしている拓馬。魚達と一緒に泳ごうとするが、逃げられる。
     そこへ、大きな影が寄り添って来たので話しかけた。
    「よう、最近どうよ。俺か? 人生のしょっぱい波に揉まれてるぜ。海だけに」
     口から空気と共に言葉が流れていく。通じたのか、その影はすっと彼から離れて行った。
    「あれ、今のは……?」

    「うーん、楽しそうだし、やってみたいと思ってたケド、いざやる時になると緊張するぅ」
    「やー、俺は泳ぎとか得意ねんなー。千巻ちゃんは……ちょい苦手そうやからな。思う存分俺に頼ったらええよ、フヒャハハ!」
    「むぅ」
     頬を膨らます千巻に、右九兵衛は意地悪く笑って見せた。
    「ほれほれ、手ェ引いたろか?」
    「うー、離さないでよ? あ、ウミガメ探そうよ、ウミガメ!」
     千巻は右九兵衛に手を引かれて海へ入っていく。しかし一度水中に潜ったら、すぐに一旦顔を出す。
    「見た? 見た?? チョー綺麗だよっ!」
    「調子ん乗ってたらあかんで。海は案外危険なモンや、ハシャギすぎんようになー」
    「もう、うくべークンたら」
    「っちゅーても、確かに綺麗なモンやわ」
     右九兵衛ももう一度顔だけ水中につけてみる。足元には美しい珊瑚礁が広がっていた。
    「──あっ! ちょっ、手離さないでったら!!」
    「アヒャハハ! ま、こっから先は危ないさかい、ちゃんとエスコートしたるでー?」
     リア充にしか見えない二人は更に沖へと泳いでいくのだった。

     井の頭キャンパス小学六年百合組。かえでは修学旅行という言葉に特別な響きを感じていた。
     海に潜ると間もなく、眼前に広がる珊瑚礁。それと共に命を育む魚たちをじっと眺めて。海の天井から差し込む光の柱に何故か感動したりして。
    (「海の中だから、ちょっと涙出てもばれないよね」)
     それくらい、彼女は感銘を受けていた。
    「凄いなぁ。こんな世界があるんだね」
     水中から顔を出して、呟く薫。闇堕ちから帰還したばかりの彼は、感激もひとしお。
    「本当に帰ってこれてよかった。ね、しっぺ……って、わーっ!?」
     一人喜びを噛みしめ、横で犬かきしていた霊犬のしっぺに声をかけると、瞬間、波を被って溺れかけそうになる。
    「すごいすごい、海がホントに透き通ってるー! こんなきれいなとこさ潜るなんてステキ、だねー!」
    「……正直、水練の経験がないので水場は不得手なのですが……」
     志歩乃もフーリエもシュノーケリング初体験。それでも、
    「皆そんなものだよきっとー。だからのんびりゆっくり、泳げばいんでないかなー?」
     志歩乃の度胸に大物の片鱗が垣間見える。
    「まぁ、学友には情けない姿は見せられませんし」
     早速海に潜って、その透明度に感嘆し、皆から逸れぬよう身体の動きを確認。それからフーリエは探すまでもなく、自由に泳ぐ魚と見事な珊瑚が広がる光景に目を奪われた。
     そして志歩乃が見つけたのは──。
    (「あ、凄い、海から空が見えるー! なんだか空に浮かんでるみたいー……!)
     折角だから、と志歩乃は周囲のクラスメイト達を片っ端から叩いて上を示す。すると皆は上を……空を見上げて、息の続く限り動きを止めるのだった。
    「初シュノーケリングだからドキドキですよーっ」
    「うわぁ……オレもこんなきれいな海、初めて見た! 運動なら任せて、こんなの玄界灘(の地獄合宿)に比べれば余裕、よゆー♪ 何かあったら助けるからね」
     メイも勇介に励まされて、胸を高鳴らせながら水に入る。潜っても潜る前と大差ない、けれど明らかに違う世界。
    (「あ、お魚!」)
    (「ほら、怖くないよー」)
     追いかけようとして、皆から逸れないよう注意されたことを思い出す。
    (「──あ!」)
     そしてメイが見つけたのは、砂地の上で昼寝をしている──。
    「ウミガメですよーっ!」
    「何だって!?」
     その水上に上がっての第一声に、それを聞きつけた皆が集まってくる。そして次々と潜る学生達。
    (「すげー、でっかい。ほんとだ、逃げないんだね」)
     一番近くにいた勇介が、その様子をつぶさに観察する。
     そこへやって来たのは『Aile』の三人。
    (「おっきいですねー……可愛いですね……♪」)
    (「写真! 水中カメラ!!」)
     はしゃぐミネットと光琉の姿を、迷うことなくシャッターに収めるミツキ。
    (「あ、閃さん! 三人とウミガメさん一緒に撮ってください!」)
     一報を聞いてちょうど泳いで来た閃たちに、ミネットがジェスチャーで頼む。閃は快諾し、記念の一枚をパチリ。
     閃を誘った龍暁は、漢は褌一丁にゴーグルひとつ、と異彩を放つ。「色々と詳しそう」との理由だったが、閃も本やネットで調べられる程度のことしか知らないので、一緒に海を楽しんでいるところだった。
     彼を含む井の頭キャンパス高校二年四組は、準備運動など入念に準備して潜っている。
     ウミガメは周囲が騒がしくなってきたのを察してか、ゆっくりと動き出した。それに併泳する学生達。
    「普段は陸の景色しか見てないけど海の景色もいいもんだぜ。来てよかったなー」
     一足先に水上に上がったミラージュは、相棒のライドキャリバー・ラディを撫でながら言った。
    「デジカメとかで写真を撮りたい位綺麗でした」
     彩花の感想も嬉しそうだ。
    「──がぼっ」
     慣れないシュノーケリングに、隆漸は水を吸い込んでパニックに……なりかけたが、水中呼吸を使っていた事を思い出し赤面。
    「……すまん、情けないところを見せた」
     そそくさと水分補給に浜へ上がる。
     シュノーケリングが初めてという参加者は、閃も含め多い。
    「お互い一人なら一緒に組まない?」
    「良いですね。僕はシュノーケリングは初めてで」
    「大丈夫、泳ぎなら自信あるから。宜しくね」
     と、そっけないながらも直前にペアを組んだ蒼介と龍一。珊瑚や魚を観察して回る。
    (「わぁ……! とっても綺麗な珊瑚ですね、こんな間近で観察出来るなんて」)
     珊瑚の影には沢山の小魚が隠れていた。
    「こうして綺麗な景色をのんびり眺めるのもいいもんだな」
     水上に上がり、呟くシーゼル。一般人初心者・閃の様子にさり気なく気を配っていたが、問題はなさそうだ。
    「楽しいですね♪」
     と、微笑んで雰囲気を良くする美乃里。
    「あ……! あれ、ウミガメ……ですよね?」
     と、美乃里は小さい声ながら興奮した様子で言った。先程見つかったのとは別のウミガメだ。
    「確かに。実に堂々としたものだな」
     海の底を滑るように動くウミガメを見て、腕を組むマキエ。
     そのウミガメに併走を始めるエウロペア。長いパレオは珊瑚に引っかかる恐れがあると却下され残念だったが、水着で泳ぐのもまた良し。……しかし。
    「がぼっ!」
     式夜が彼女のビキニが解けているのを発見してしまい、吹き出す。慌ててジェスチャーでエウロペアに知らせると、彼女は両腕で胸元を隠し、式夜は慌てて水着を取りに行く。こんなハプニングも、後で笑いのネタになるのだろう。

     一番大きな団体が、井の頭キャンパス高校二年五組のグループ。
     一通り見終わって、眼鏡をかけ直す翔。
    「……っておぉい!? 岬いきなり抱きつくなよ!? ……ってり、理沙もか!?」
    「えっへへ、ぎゅー!」
    「リサもぎゅってするーっ!」
    「と、とりあえずおめーら……ほ、他の人にもやってこいよ……」
     翔の声は辛うじて絞り出されたものだった。顔面真っ赤。
    「くっつくのは女だけにしておいた方がよくね?」
    「……変態」
     冷静にツッコむカグラと、男性陣に対して容赦のない椋。
     彼女にもカグラは声をかける。
    「のんびりは後でも出来るだろ?」
    「そうそう! 皆と一緒に潜ろーぜ!!」
    「しょうがないわね」
     飛鳥からも誘われ、椋は仕方なさそうにマスクを着けた。
    「魚もいたよぉ!」
     珊瑚礁を見ていた桐羽は、海の中から顔を出し、腕を振って皆を誘う。
     「野郎の補佐をしても面白くないから」と女子のサポートに回る雛。美味しい位置に収まって、水中で空を見上げる彼に対し、足を引っ張る悪戯を仕掛ける奏。
    「……しゅここー!」
    「がばぅ!?」
     雛は見事引っかかってバランスを崩した。しかしこれ以上のお遊びは、危険の潜む海ではご法度だろう。奏は猛烈な勢いで逃げ出した。
    (「コイツら食ったら美味そ……いや」)
     魚やウミガメを眺めていた東も、通りがけに足を引っ張られる。
    「げふっ」
     思わず息を吹き出す。
    「くっそ、倍返ししたる!」
     最早ただの海水浴である。
    「海かー、綺麗だと思うけど、日差しも塩っぽさも苦手なんだよね……」
     ということで、夕焼は女性陣には冷えたジュースを、陸にいる自分を襲いにくる奴には煮詰めた食塩水を用意していた。
     その恩恵を受け、また餌食になった者は少なからずいたようだ。

    「私の語彙じゃ表現に困る位、すごかったな。地球、すごい……なんてしかいえませんけれど 私、この思い出は一生忘れないと思います」
     最後に、クラスメイトに感極まったように伝えた彩歌。
     実際、一日遊び倒せる程楽しませてもらった。海への感謝と感動を忘れず胸にしまって、皆は浜を後にするのだった。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月20日
    難度:簡単
    参加:55人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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