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武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われる。
今年の修学旅行は、6月18日から6月21日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。
今回の行き先は、青い海が美しい南国『沖縄』。
観光はもちろん、沖縄グルメを堪能したり、マリンスポーツや離島巡りをしたり、沖縄ならではの楽しみが満載だ。
――さあ、皆でたくさんの思い出を作ろう!
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修学旅行2日目、最初に向かうのは『沖縄美(ちゅ)ら海水族館』。
沖縄周辺の海に棲む生きもの達を集めた、大きな水族館だ。
屋外にある『オキちゃん劇場』では、バンドウイルカ、オキゴンドウ、カマイルカ、ミナミバンドウイルカといったイルカ達のショーを観賞できる。
高く舞い上がるジャンプやボール運びなど、軽快ながらも愛らしいパフォーマンスに、観客は惜しみない拍手を送るのだと言う。
また、イルカ達を間近で観察できる『イルカラグーン』では、イルカと直に触れ合ったり、デッキ上からイルカに餌をやることも可能だ。
少し疲れたら劇場近くの『オキちゃんパーラー』に行ってアイスやジュースで一休みしてもいいし、まだまだ元気なら『マナティー館』に赴いて人魚のモデルにもなったマナティーを眺めるのもいいだろう。
出発までの時間を、どのように楽しもうか――?
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「……と、いうわけで。美ら海水族館でイルカショーを観ない?」
灼滅者たちが集まった教室で、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)はそう言って話を切り出した。
「水族館から5分ほど歩くことになるけど、ショーだけじゃなくて、イルカと直に触れ合えるコーナーもあるみたいだし、こんな機会めったにないかなって」
動物好きを公言するエクスブレインは、いつになく興奮した様子で。飴色の瞳を輝かせる彼を見て、倉槌・緋那(高校生ダンピール・dn0005)は表情を綻ばせた。
「確か、近くにはマナティー館もあるのですよね」
「そうそう」
少し考えた後、控えめに言葉を重ねる緋那。
「イルカを見るのは初めてなんです。よろしければ、皆さんと一緒に行きたいのですが――」
いかがでしょうか、と告げて、彼女は全員を振り返る。
「修学旅行、とても楽しみですね」
まだ見ぬイルカ達に思いを馳せるように、緋那はそっと微笑んだ。
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燦々と照る、太陽の下。
触れ合い体験に間に合うよう、『白亜の大聖堂』の3人はイルカラグーンに急ぐ。
リアンが居ないと周囲を見渡せば、いつの間にか彼は最前列に。
「おい、何してる早く来い」
慌てて追いつくと、リアンは食い入るようにイルカを眺めていて。やがて、足元に来たイルカをそっと撫でた。
「……お前が『イルカ』か」
どこか楽しげな彼の様子に、カーティスは潤子と顔を見合わせて笑う。
「良かったね、リアン君」
直後、合いの手を入れるようにイルカが鳴いた。
賢いんだね、と言って、潤子が手を伸ばす。
「可愛い~♪」
時間いっぱい、皆で心ゆくまで楽しもう。
「おーっ! イルカだーっ! 本物だーっ!」
真っ先に飛び出した穂ノ太を筆頭に、ラグーンに突貫する井の頭キャンパス小学6年薔薇組。
「こら、そんなに慌てると転ぶのじゃよ!」
級友達を嗜める華織も、間近で見るイルカについつい表情が緩む。
シルビアがイルカに手を伸ばすと、直子ことストレリチアも恐る恐るそれに倣って。
「すごい、ほんとうに触っても大丈夫なんですのね?」
「楽しいな? でっかいな? 可愛いのじゃ!」
と、笑顔で言葉を交わす。
「沖縄美ら海水族館でイルカと握手っ☆」
おどける星流の傍らで、七波がそっとイルカを撫でた。
「イルカに触れられる体験、そうそうないですね」
その後は、皆でイルカの肌触りを確かめたり、にらめっこしたり。
「こんだけ触れるなら、乗ってもいいよなっ?」
今にもプールに飛び込みそうな穂ノ太を、七葉と星流が止めたりで。
「服を濡らさないように気をつけなさいな――」
見かねた逢紗が思わず注意した時、イルカが跳ねた。
我が身を盾に被害の大部分を防いだ七波の隣で、顔に飛沫を浴びたストレリチアが逢紗からタオルを受け取る。少しばかり濡れても、沖縄の日差しならすぐに乾く筈。
だから言ったでしょう、と呆れ顔の逢紗に、結月が笑いかけた。
「ふふっ、だって楽しいんだもん。逢紗ちゃんもイルカ触ってみよーよ」
手を引かれるままイルカを撫でる逢紗も、なかなか満更でない様子。
「ん、イルカさん、何食べるのかな?」
「ゆきも餌あげてみたいな。七葉ちゃん、一緒にあげてみる?」
七葉と結月が餌やりに興味を示せば、シルビアも元気良く手を挙げて。
「妾もやる! やりたいのじゃ!」
そのまま、全員で給餌体験の流れに。
嬉しいとか楽しいという感情は、七葉には分からないけれど。こういう時間なら、もっとあっても良い。
「おっ、始殿はやっほーなのじゃー♪」
そんな折、クラブ仲間を見つけた華織が手を振ると、始も彼女に気付いて。
「桃山やんか。楽しんどるか?」
やり取りを見て、ライスは旅先でナンパかと首を傾げる。
誤解を解くべく華織を紹介する始だが、刹那、イルカが急反転。水飛沫をもろに浴びてしまった。
「……ライス、今わいを引っ張らんかったか?」
ちゃっかり始を盾にしたライスは、涼しい顔で華織に挨拶。
「ハジメ、イルカにご飯をあげてもいいかぉ!?」
納得いかない様子の始をよそに、一緒に給餌体験のデッキへ。
イルカに乗れないと知り、揃って肩を落したのも束の間。
気を取り直し、2人はデートを満喫すべしとイルカに向き直る。
悪戯なイルカが響の頬に口付ければ、那波は少し嫉妬して。
所詮は動物と己に言い聞かせた時、水飛沫を浴びた響が声を上げた。
「あ……着替え持ってきてなかった!?」
ずぶ濡れの響を見て、那波が笑う。
こんな事もあろうかと――と、彼女は予備の服を差し出した。
「イルカあああ! おっきい!」
動物好きかと思い誘ってみれば、朱里は最初から叫び通しで。
「お前、はしゃぎすぎだろ……」
傍らでイルカを撫でつつ苦笑する朱祢の声にも、止まる気配がない。
「可愛い……朱祢、可愛い……!」
イルカのことだと分かっていても、この台詞はかなり複雑。
おい、と声をかければ、朱里は少し考えて。
「あ、朱祢も可愛いか」
「!?」
飛び出した言葉に、朱祢は思わず耳を疑った。
係員のレクチャーを経て、『徒然』の一行はいざ触れ合い体験。
「イルカ、イルカ! 可愛い、です!」
順番を待つ間、アスルは目を輝かせて草灯の服を掴む。
いよいよ自分達の前にイルカが来ると、あゆは内心でガッツポーズ。
カメラを手にした小鳩に、法子がはしゃいで言った。
「私よりもイルカ撮ってね! この子!」
頬を染めてイルカを撫でるアスルも、カメラは気になるようで。皆でカメラマンを交代しつつ、触れ合いと写真撮影を楽しむ。
イルカからは、可愛らしいキスのプレゼント。
「ありがとー!」
あゆがお礼を言えば、イルカは返答するように一鳴きして。
すっかり舞い上がった草灯が、跳ねた水飛沫を頭から被る一幕もあった。
呆れ顔の法子にタオルを手渡され、思わずぼやく草灯。
「アタシとしたことが……」
しかし、『可愛いは正義』なので仕方がない。
一方、カメラを死守した小鳩は、イルカと撮った沢山の写真を見てご満悦。
「時森さんに早く見せてあげたいわ!」
本好きのナノナノを思い出して、彼女は声を弾ませた。
ラグビー部の5人も、間近で見るイルカに盛り上がる。
「みてみてイルカ!」
いつになく大きな声ではしゃぐ鋼に、櫂は表情を綻ばせて。握手の瞬間を、逃さず撮影。
手触りが面白いと智景が笑えば、小さな鳴き声が聞こえて。
「可愛い声で鳴くのね」
そろりとイルカを撫でる櫂の言葉に、一行は暫し『お喋り』に耳を傾け。代わる代わる、触れ合いを楽しむ。
「皆で写真撮ろうよ。記念、記念」
「あ、いいね! イルカ真ん中にして」
「マジで? 写真とか苦手なんだけどよ……」
鋼と智景の提案に渋い顔をしていた鉄兵だが、その瞬間イルカと目が合って。思わず、可愛いなぁ――と零してしまう。
たちまち赤面し、誰にも聞かれてないかと慌てる彼をよそに、冬崖はマネージャー陣と戯れるイルカを眺め。ショーではありえない、距離の近さに感動する。
この人懐こさ、つぶらな瞳。果たして、誘惑に抗える者など居るのだろうか。
記念撮影が終わったら、パーラーで一休みがてら感想を語り合おう。勿論、お土産を買うのも忘れずに。
間近で見るイルカに歓声を上げた後、慌てて口を覆って。
奏恵と桜子は、そっと手を伸ばす。
「おお、ぺたぺた!」
「不思議な感じ。でも、可愛ーね」
記念写真を撮ったら、デッキの上から給餌体験。
大口を開けるイルカに、奏恵は思わずどきりとして。
「わ、私美味しくないよ!?」
「近くだと、こうされちゃうかも?」
自分の手をイルカの口に見立てた桜子が、奏恵の指にかぷっと噛み付いた。
イルカの傍らで目を輝かせる功紀を見つけ、蓮司はそっとカメラを構える。
シャッターを切れば、功紀は満面の笑みで。ありがとうと告げる声に、蓮司の心も和んだ。
時が経っても、今日の思い出は素敵な宝物として残る筈。きっと、必ず。
一方、吉祥寺キャンパス中学2年A組の面々は。
「私、海の生き物を間近で見るの、初めてです……☆」
「沖縄に来たのもだけど、実物のイルカを見れて触れるなんて感激だ♪」
興味津々といった様子ではしゃぐ六花と詩亜を横目に、瀬護は早速イルカと握手。
ショーも良いが、やはり間近で眺めるイルカは一味違う。
「目が結構可愛いかも」
イルカを撫でつつ瞳を覗き込む遥斗に、唯が答えた。
「しかも、イルカって賢いんだって」
テストも代わりに受けてくれたら良かったのにと言いかけ、慌ててその考えを振り払う。今は、イルカとの触れ合いを楽しもう。
傷つけないようにと慎重に手を伸ばす六花の隣で、狩野・翡翠も遠慮がちにイルカに触れる。
「不思議な触り心地ですね」
糸の如く目を細めた亜門が、野生のイルカと泳いでみたいものだと語った。
すべすべした手触りをおっかなびっくり確かめた後、紘一はスケッチブックを手に取る。
「帰ってから、イルカの編みぐるみでも作ろうかって思ってさ」
その様子を見て、詩亜もカメラを取り出した。
「よーし、みんなでイルカさんと写真とろー!」
イルカの愛らしさに目を輝かせた唯の提案で、全員で記念撮影。この後は、お待ちかねの給餌体験だ。
「へー、こうやって餌を食べるのか」
遥斗が感心する中、慌しくも賑やかな時間は過ぎていく。
悪戯っ子なイルカに水をかけられても、そこはご愛嬌。
「皆さん元気いっぱいですね♪」
亜門からタオルを受け取った翡翠が、満面の笑みを浮かべた。
(「次は3年後か、その時もこの面子で来られたらよいのぅ」)
しみじみと思う亜門の傍らで、瀬護が級友達の顔を見る。
――願わくば、皆といつまでも楽しい時間を。
大きめの帽子で、日焼け対策は万全。
一人じゃ寂しいからと寛慈を伴い、黒須・誠はイルカのプールに歩み寄る。
「結構でかいね、可愛い可愛い」
ぺちぺちしたい衝動を堪え、イルカを撫でる寛慈。
意外に鋭い歯に驚いていた誠も、それに倣った。
「かっちゃんも触るの初めて?」
寛慈が頷けば、誠は誘ってよかった、と笑う。
隣に相手が居なければ、お互いイルカに触れることはなかった筈だから。
いつも一緒のカップルは、今日も仲睦まじい。
「エルディアスさん、イルカですよ、イルカ!」
はしゃぐユッカを微笑ましく眺め、エルディアスはそっとイルカを撫でる。
温もりを感じる肌に、優しくも愛らしい瞳。
イルカに魅了されるうち時間は過ぎて、最後は、『3人』で記念撮影。
写真が苦手なエルディアスだが、今回は特別だ。
「可愛く撮ってもらいませんとね」
この一枚は、最高の笑顔で。
イルカに触れるのは勿論、近くで見るのも初めてで。
「みろよ寧、すげーな!」
肌触りを面白がる真月・誠の楽しげな様子に、寧の表情も綻ぶ。
「イルカさん、お持ち帰りしたくなっちゃいますね」
名残惜しそうな呟きを聞いて、暫し思案する誠。
ぬいぐるみは好きかという問いに頷く寧の手を取り、彼は売店の方を指した。
「じゃあ、イルカのぬいぐるみを連れて帰ろうぜ!」
本物は無理でも、とびきりの可愛い子を。
「水族館で見たことはあるけど、実際に触れ合ってみたかったの!」
楽しげにはしゃぐ結衣と、代わる代わるイルカを撫でて。
「鳴き声も癒されるし、人懐っこくて可愛いなあ……♪」
そんな恋人の言葉に、凛弓はじっと彼女の目を見る。
「いるかも可愛いけれど……君の方がもっと、ね」
告げられた言葉に、結衣の顔がたちまち赤く染まった。
これからも、ずっと。沢山の思い出を、君と2人で――。
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――美ら(ちゅら)とは、何とも独特な音だ。
沖縄の言葉で『清らか』を意味するのだと告げるラルフに、メルキューレは頷きを返す。
「確かに綺麗ですね、沖縄の海は」
青い海を背にしたプールには、優雅に泳ぐイルカ達。
屈んだメルキューレが彼らを撫でていると、ふと名を呼ばれて。
「コチラを向いてください」
振り返れば、不意打ちのシャッター音。
イルカと触れ合う親友を撮ったラルフは、おどけて笑った。
知った顔と出会い、何となく道連れになった2人。
触れ合い体験が気になる様子の治胡を伴い、一途はラグーンに向かう。
「わお。かわいいですね」
一途が早速手を伸ばした時、イルカと治胡の目が合った。
(「……コイツは強敵だ」)
堪らず横を向き、頬を染める治胡。
彼女の可愛らしい一面を発見した一途が、くすりと笑って『強敵』を撫でる。
敗北感を覚えつつ、治胡は照れ隠しに帽子を被り直した。
初めて触れる生き物は、少し怖くて。
手を繋いでほしいと嘩乃子が言えば、色梨・翡翠は微笑んで応じた。
掌の温もりと、優しげなイルカの瞳に安心して。
「ふへ、イルカさん……触ってみましょうです」
翡翠の声に勇気付けられ、嘩乃子は彼女と同時に手を伸ばした。
ひやりとした感触を記憶に留めつつ、傍らの友達を見る。
「一緒にいてくれて、ありがとね」
その思いは、2人とも同じ。
白槻・聖と純の姉妹も、期待に胸を弾ませながらイルカに手を伸ばす。
「……イルカさん……すべすべ……!」
聖が思わず目を見張れば、純はいつまでも触っていたいなあ――と笑って。
「近くにあれば、いつでも触りにいけるんだけれど」
少し残念そうに、そっと目を伏せた。
そんな妹を、聖は愛しげに眺めて。また一緒に来よう、と微笑む。
楽しそうにはしゃぐ姿が見られるなら、いつでも――。
次は、いよいよ自分達の番。
レディーファーストに甘えて手を伸ばした空に、エイジが悪戯っぽく笑う。
「噛まれへんように注意してな」
「にゃ!?」
一転しておどおどした態度になる様を、楽しげに見やって。
そろりイルカを撫でた空がすっかり虜になった頃、彼も漸くイルカに触れる。
「えぇ手触りやな」
「一緒に泳げたら気持ちよさそうだよねっ」
愛らしいイルカを前に、2人は顔を見合わせて笑った。
相棒の箒を伴い、功紀を誘って。
イルカに触れつつ、煌介は銀の月にも似た目をそっと細める。
動物好きの彼のようにはしゃげずとも、好意は伝わる筈で。
「……楽しい、な」
瞼を閉じ呟けば、功紀とイルカが笑う。穏やかな時に想うことは、きっと同じ。
吉祥寺キャンパス小学6年薔薇組の面々にとっては、『初めて』が多い今回の旅行。
級友と親睦を深める良い機会だと笑う妖の隣で、人生初の水族館に胸を躍らせる虎芽は間近で見るイルカに大興奮。
「すごーい! みてみて!」
「イルカ可愛いー! ハイタッチしようぜ!」
言うが早いが、斎賀・真琴はイルカと握手からのハイタッチ。
ここは経験者として大人の余裕を――と考えていた水無も、いざイルカを前にしたら大はしゃぎで。
「きゃーっ! 目が合いました! あの子、手を振ってます!」
盛り上がる級友達の傍ら、ユキトはグローブを外した素手でイルカをそっと撫でる。
「……いい子」
イルカは賢い生き物だという。言葉はなくとも、何かが伝わる気がして。
「これが、イルカなのね……可愛いな♪」
皆に倣って頭を撫でたモイラも、思わず表情を綻ばせる。占いで暗示された『良い出会い』は、早くも的中したかもしれない。
触れ合いを経て、次は給餌体験。
「ふむ、こやつめよく食うのぉ……」
次々に餌を放る妖と、口を開けたイルカを見て笑う真琴。
「トゲトゲの歯も可愛いー!!」
和気藹々とした時間の中、虎芽がぽつり呟く。
「……イルカって食べたらおいしいのかな?」
イルカや級友達に聞こえなかったのは幸いだろうか。
眼前にいるのは、本の中でしか知らない生き物。
高鳴る胸を自覚して、雪花はそっと手を伸ばす。
「……すべすべ、です……ね」
イルカの背を撫でる彼女を見て、哉汰もそこに触れた。
「へえ、イルカってこんな感触なんだ」
ゴムのような手応えに驚き、彼は雪花に視線を戻す。
様々なものに興味を持ちつつある彼女といると、新しい発見があって楽しい。
そう思う自分も、少しずつ変わっているのだろうか。
故あって大きな動物が苦手な月瑠も、意を決して手を伸ばす。
イルカに触れて挨拶すれば、きゅ、と愛らしい返事が聞こえて。それからは、もう夢中だ。
「かわいいのです」
いつか、一緒に泳げたらもっと素敵。
理由は違えど、イルカとの触れ合いはマキナも鈴も初めて。
握手だ、写真だと、今まで縁が薄かった分も取り返す勢いだ。
「もう何してても癒されるよー」
「これが……イルカセラピー……!」
すっかりご満悦の2人は、緋那を誘って給餌体験に。
「皆めっちゃ口開けて待ってるよ」
「なんです、この幸せな光景」
せーの、と皆で餌を放れば、イルカの見事なキャッチ!
2人と顔を見合わせ、緋那が可愛いですね――と笑った。
さて、こちらは『武士道』の面々。
「うわぁ、可愛いねぇ」
懐こいイルカをそろりと撫で、紅神・聖は口元を綻ばせる。
一緒に泳ぎたいのをぐっと堪えて、触れ合いを堪能。
「……水中で寝るのって気持ちいいのかなぁ」
つるりとした肌に触れ、黒田・真琴が呟く。もしイルカになれるなら、試してみたいところだ。
「海豚って、何で『豚』なのでしょう」
「漁をしてた所もあるらしいけど、イルカ肉って美味しいのかな」
各々の疑問を口にする嗚呼といろはの後ろでは、太兵衛が皆の楽しげな様子を眺めていた。
イルカがいろはに怯えているようにも見えるが、まあ気にしないでおこう。
「やっぱり、テレビで見るのとは違うねぇ」
ふと、イルカと目が合った。つぶらな瞳が愛らしいが、高校男子が人前ではしゃぐのもどうかと自重する。
同じ頃、真琴は夢中になってイルカを撫でている嗚呼を温かい目で見詰めていた。
本人に言ったら、はしゃいでいる訳ではないと否定するだろうけど。
「人間も動物も素直なのが一番だよね」
給餌体験に移った時、いろはは肩を竦めて言った。
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優しげな鳴き声が、彼らと触れ合う『Fa-la-la』の面々の鼓膜をくすぐる。
間近で見るイルカは、意外なほど大きくて。
「むおお、すべすべ! 柔らか!」
夢中でイルカを撫で回すウルスラの隣では、足を滑らせた羽衣を夕陽が慌ててキャッチ。
「雪片! 乗り出し過ぎっ」
先程も引っ張られて危うく転びそうだったのに、苦労が絶えない。
「この暑いのに、何で元気有り余ってるの先輩……」
「それはもちろん、オキナワだからだよー!」
玉と羽衣のやり取りを微笑ましく見て、紫姫もそっとイルカに触れた。皆と過ごすこの時間こそ、一番欲しかったものなのだと思う。
ふと顔を上げれば、イルカのショーが始まる時間。
「わぁわぁ! ここからでも見えるよ!」
はしゃぐ羽衣の傍ら、玉と夕陽はこの後のプログラムにも興味を示す。
「……あ、給餌体験の合間に観察会とかあるんだ」
「餌なんてあげる機会滅多にないし、誰か一緒にやってみるー?」
明るい日差しの中、太陽のような笑顔に囲まれて。ウルスラが笑みを零した。
「ふふ、来てよかったデース」
空と海を背に跳ねるイルカ達と、舞う水飛沫。
「イルカ、好きですか?」
ええ、と微笑む緋那が同じ問いを返せば、由布は己の掌を見て。
「僕は……好きですよ。可愛い動物も、可愛い人も、大切な人たちも」
この小さな手で何を掬い、どれだけを救えるだろう?
ショーが終わった後は、イルカラグーンを散策。
跳ねるイルカに水をかけられても、今はそれすら楽しくて。
はしゃぐレンを温かく見守りながら、零冶はデッキを指差した。
「エサやりもできるらしい。やってみるか?」
折角だからと、そのまま給餌体験。
零冶が押すなよ、と言えば、レンは押して欲しいの? と悪戯っぽく笑い。
暑い中でも元気なイルカ達に向けて、2人は餌を放った。
この水族館はおろか、沖縄に来るのも初めてだけれど。
付き合ってくれる連中が居て良かったと、当麻は『地☆雷☆原』の面々を見て思う。
イルカに触れてご機嫌の音々は、給餌体験でも目を輝かせていて。ころころ表情が変わる彼女とイルカを、ハガネが交互に眺める。
「なんつーか、見てるこっちが飽きねーリアクションだな、音々」
そう言って餌を放るも、イルカは男2人には知らん顔。
音々にはあんなに擦り寄っていたのに、この差は地味に傷つく。
「……も、もっかいだ!」
「ほ、ほら、餌やるからこっち向けって」
必死になる当麻とハガネを、音々は笑って見ていた。
少年に見紛う風貌の蒼介に、女子に間違えられる唯水流。
対照的な2人が赴いたのは、イルカが泳ぐプール。
「思ってたより大きいのな」
感心する蒼介の隣で、唯水流がはしゃいで身を乗り出す。
餌を放れば、イルカ達は器用に受け止めて。
これはどうだとフェイントを加えたら、1頭が大きく跳ねた。
仲良く水を被った蒼介と顔を見合わせ、唯水流が笑う。
愛用の外套は脱いできたから、今日は濡れても気にしない――。
作者:宮橋輝 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月19日
難度:簡単
参加:88人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 5
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