修学旅行~お土産を探して

    作者:君島世界

     ようこそ、武蔵坂学園の修学旅行へ!
     毎年6月に開催されるこの恒例行事、今年は18日から21日までの4日間の日程で、沖縄へと向かうことになりました。
     名所観光やマリンスポーツ、離島巡りに沖縄料理探訪、そして仲間たちとの自由行動といった、修学旅行ならではのイベントが目白押し!
     参加学年は小学6年生、中学2年生、そして高校2年生。あなたも南国沖縄で、かけがえのない思い出をたくさん作りましょう!
     
     
     さて、修学旅行もついに最終日。離島に行ったみんなも沖縄本島に集合し、あとは那覇空港で帰りの便を待つだけ……と思ったらおおまちがい。
     このタイミングで、みなさんには最後の自由行動時間が与えられるのです!
     残されたこの貴重な時間を使って、ご家族の皆様やクラブの先輩後輩たちのために、お土産を買いに行きませんか?
     ただ、修学旅行とは事件とは関係のない学業の一環ですから、経費は全て自分持ちです。スレイヤーカード提示での割引も、残念ながらやっていないお店がほとんどですから、お財布の中身とはよく相談してくださいね。

     沖縄のお土産と言えば、この土地独特の陶器『やちむん(焼き物)』や、鮮やかな色彩が魅力の『琉球グラス』といったものが人気がありますね。形として残り、日常的に使えるそういった器は、見るたびに沖縄の思い出を蘇らせてくれることでしょう。お値段も手ごろなものからこれぞ逸品という物までありますから、お気に入りのものが見つかることうけあいです。
     お土産になるものはそれらでだけではありません。探せば探すだけ、たくさんの物を見つけることができるでしょう。シーサーの置物、ちょっとしたアクセサリーや小物、ポストカード……、通りがかったお店にある全ての品物が、お土産になりえる可能性を持っているのです。午後の飛行機まで時間はたっぷりありますから、気の向くままにウィンドウショッピングを楽しむのも、また一興というところですね。
     もちろん、あまり沖縄の風土と関係ない『定番お土産』を並べているお店も結構ありますよ。ペナントやTシャツはまだわかりますが、十手だとか木刀だとかキラキラ光る石のついた龍のキーホルダーだとか、本当に沖縄に来てまでそれが欲しかったのかと問いたくなるような土産品を、しかしついつい欲しくなるのもまた事実。妖しい魅力を放つそれらの品々をテンション任せで買っちゃうのも、修学旅行ならでは、ですよね。
     
     他の場所に行かないのならば、これが正真正銘修学旅行最後の大イベント! みんなでワイワイ、一人でじっくり、地元で待つ誰かのために、または自分のために、とっておきの沖縄土産を探し出しましょう!


    ■リプレイ

    ●ある小物店にて
    「おばちゃん! これ一つ下さいな、デース!」
     ウルスラのハイテンションな突撃に、レジを構える老女はゆっくりとその品を紙袋に包む。大事に手渡されたそれは、琉球グラスのストラップであった。
     昼の日差しと夜の静けさ、白い雲と星の輝き……。沖縄名物『琉球グラス』は、そういったものを形にしたような鮮やかな色彩で、見る者全てを魅了する逸品だ。
     色々の組み合わせでパッケージされた小さなコップを、空凛はしげしげと眺める。
    「これで五人分ですね。皆でドリンクを楽しめるように……」
    「へえ、色々あるなぁ……。えっと、頼まれていたのは、確か伝統工芸品の……」
     店内を見回す菫が選び出したのは、赤・青・ピンクのグラスであった。
    「……これ、すごく綺麗……」
     百花は、ゴブレット型のものを光に透かしていた。沖縄の想い出を凝縮したようなその青に、思わず見とれていた。

    「あぁ、きらきらしていて素敵ですねぇ……」
     緩んだ笑顔で氷柱が手に取った小物を、綾乃がどれどれと覗き込む。
    「お~、いいねぇ琉球グラス! 買っちゃう?」
    「えぇ、これは自分用に購入決定ですよぅ。えと、クラブの方には、お菓子をと言われてましたねぇ……」
    「だったら紅芋タルトだよ! ホテルで食べたの、美味しかったなあ」
     楽しそうに買い物を続ける二人の様子を、尊は内心ガチガチに緊張しながら眺めていた。
    「……まあ、私も満喫できているし、思い切ってついてきてよかったな」
     両手に花というこの状況を、尊はなんとなくで過ごしきった。

     鳴虫山荘の三人は、ただ一人参加できなかった同居人のためへの品を探していた。
    「つっても先輩、要調理なのは危なっかしいからなあ……。レンチンできるラフテーにするか」
     切丸が自分の品を決めた頃、真夜はイリオモテヤマネコのぬいぐるみをじっと見つめていた。
    「……えーと、この子にしましょう。猫好きみたいですし、きっと喜んでくれますよね」
     祢々はそんな様子の二人に被らないようにと、赤い琉球ガラスのストラップを選んでいた。
    「普段気軽に使えるものがいいと思うから、僕はこれにしよう」
     先輩が、どうか喜んでくれますように。

    「や、女の子へのお土産なので、可愛らしいラッピングでお願いします」
     正流はグラスのストラップをラッピングしてもらっていた。この他にも琉球グラスには、例えばヒオが早速購入したようなバレッタ型のものもある。
    「ふふふ、これで完璧ですよぅ……! 好きな色を先に聞いといてよかったです」
    「さすがに職人技だな。では俺はあのスズラン型のランプを。色はライトブルーにしてくれ」
     感心しきりのレクトが、そして迷わずランプを購入する。グラスのほかにも、この店は様々な小物を揃えてもいた。
    「あ、このシーサーの置物ちょっとかっこいいな。守り神って感じで……お、こっちは沖縄ご当地ヒーローのフィギュアか?」
    「シーサーが主人公のゲーム機……? うん、お小遣いも、ぴったり、足りそうな感じ……!」
     嘉哉が手に取ったような置物類から、瑞音が即購入した小型ゲーム機まで。

     カウンターでお土産の宅配手配を終えた『新聞部』の一行。自分用のお土産をとまた売り場へ向かう京を、梓が呼び止める。
    「織部、自分にお土産か売ってのも妙な話だろ。……ほら」
     と言って手渡したのは、綺麗な珊瑚と貝殻のストラップ。
    「え、わたしに? ……いいの?」
     わずかにそっぽを向く梓を、カイジが軽くはやし立てる。
    「おいおい男だなあ一之瀬! 織部も、良かったな」
    「いいんだよ、雪合戦したり腕相撲で骨へし折られたり、そういう常日頃のお礼にだな」
    「ちょ、腕はへし折ってないよ!」
    「というかへし折れちゃう腕の方が問題ないか?」
     真偽はまあ、この際さておいて。

    「ネオンー! これどうかな、これ!」
     愛羅が同行者のネオンに見せたTシャツには、例えようのない珍妙なロゴマークがついていた。
    「お、おぅ……。なんというか、個性的、だな」
    「だろ? ね、これお揃いで着て帰ろうか?」
    「あ、いや、ちょっとそれは勘弁してくれ……」
     顔をそむけたネオンがイルカの小物を見つけ出す。二人が同時に思い出したのは、同じ人物のことだ。

     綴と裕士は、真剣な表情でファンシーグッズを品定めしていた。
    「どれもこれも可愛くて目移りするな……あ、裕士、これ可愛くない?」
    「ペンギンか。あいつが好きそうやなあ」
    「……ところで裕士。妹ってさ、可愛いよね」
    「むっちゃかわええ」
     即答である。
    「――修学旅行、妹と一緒に来たかったなあ」
    「なんで学年決まってるんやろ……」
     ため息をつきながら、学園で待つ妹たちの事を思う二人であった。

     流と風貴は、それぞれの恋人の為のお土産を探していた。
    「ハイビスカスの髪飾りか。あいつの髪に映えそうだ」
    「俺はこのブレスに決めたっと。……んで流、どんな顔して渡すのさ、それ」
    「どんな顔も何も、普通に渡すつもりだがな」
     さらっと答えた流に、風貴はにやにや笑いを止めようとしない。
    「それにしても、お互いリア充してんねぇ……」
     お土産を渡す瞬間が、二人は今から楽しみだった。

    「咲紀ちゃん、先輩へのお土産は決まったかい?」
     迅は後輩である咲紀に声を掛ける。咲紀が手に取っていたのは、ウォーターブレスであった。
    「こういうの、先輩と一緒に付けてみたくなって……どうでしょう。おかしく、ないですよね?」
    「うん。先輩は貰ったものをちゃんと身につけてくれる人だから、いいと思うよ」
    「は、はいっ!」
     迅のお墨付きに、咲紀はぱぁっと表情を明るくした。

    「おっ、可愛いマスコットと良さそうな物はっけーん!」
     闇沙耶が見出したのは、仮面をつけた外見からは想像のつかないような普通の品――シーサーの置物と星の砂であった。その並びにあったもずく石鹸を、通りがかった安寿がひとつ選び取る。
    「うん、これでいかな。なんだかんだと美容にはうるさそうだしね、オネェだから」
     また、工房を併設するそのお店では、アルレットがシルバーのリングを発注していた。
    「カノジョが入院しててさ。オレ……いや、『アタシの見た蒼』を、伝えたいの」
     アルレットは、――そしてきっと誰もが、ここで見つけた小さな宝物にそれぞれの思いを込めたのだ。

    ●あちらで一つ、こちらでも一つ
     沖縄の町自体も、やはり奥深いものがある。見回してみれば、あちこちで様々に行動を起こしている学生の姿を見つけることができた。
    「それにしても、暑いですね。引きこもりのわたしには辛いです……あ、ネカフェだ」
     アイスバーンは早々にギブアップして、通販サイトで目的のものを購入する。
    「つってもまあ、すぐに見つけられるようなものじゃないだろうしな……野良猫じゃあるまいし」
     路地裏では和也が、友人の話に聞いたキジムナーを探していた。ここでもチャレンジメニュー巡りをしているマキエのような者もいて、それぞれが思い思いに、残り少ない時間を楽しんでいた。

     枢の買い物は絶好調であった。ESP『ぶらり再発見』をフル活用してまで、欲望のままにあちこち練り歩く姿は、
    「到底知り合いには見せられへんなぁ……あ! 飴ちゃんは買うてこ!」
    「おお、ありゃァいい買いっぷりでござんすなァ! あっしも負けてはいられませんぜ!」
    「大事な土産探しだからね。できることはなんでもしておかないと」
     自分に発破を掛ける娑婆蔵や、苦労を省みず良い店を探し続ける刹那もまた、ぶらり再発見を使用していた。
    「さて、友人たちの分を揃えることはできましたね。普段の生活費を節約した甲斐がありました」
     自分の分より先に友人のお土産を購入する悠仁のような者もいれば、心象によって見切りをつける紫廉のような者もいたりする。
    「あのアホ共にはネタでいいだろ、木刀木刀っと……。世話になってる方の人たちには菓子が適当ですかね」
     探せば探すだけ、目新しい品が増えていく。お土産を究める道は、奥が深いのだ――。

    「柚姉さん! 見てくださいよ、あれ!」
    「どうした柳、師匠に渡す土産は見つかったのか――って、なにこれ!?」
     柚羽が驚くのも無理はない。柳が指差していたのは、ゴーヤの寝袋であった。
    「そこな店員! 誰だあんな企画を出したのは! いや違う、褒めているのだ胸を張れ!」
    「店員さんこれ下さいこれ! お土産で! ……大丈夫です、使うの僕らじゃないですし!」
     テンション任せで購入した二人。妙な達成感が、そこにはあった。

    「あれ……カイ? どこ行った? おーい」
     ふと目を離した隙に姿を消した友人を探して、悠埜は辺りを見回した。程なく恢は見つかるが、彼がその手に持っていたのは――。
    「ユーヤ。これ。かっこいい」
     ――ご当地的変Tというヤツだった。
    「……かっこいい」
    「ま、まあ、家用なら、いいんじゃない……か?
     キラキラした瞳で問う恢に、悠埜はそう答えるのが精一杯だった。

     あさひと静穂の二人は、いろいろうろ覚えながらも店巡り自体は楽しく過ごしていた。
    「えっと、ボクが買わなきゃいけないのは……なんだっけ。なんとか、あんだぎー?」
    「サーターアンダギーですね。あ、私の探しているのはシーサーですよ。ほら、猫好きの方用に……」
    「あれ。シーサーって確か、犬だったような……?」
    「実は私も自信ないんですけど……ま、いいですよね」

    「サーターアンダギーも買った、サトウキビもOK。他に、買い忘れた物ってありましたっけ?」
    「いえ、クラブの皆様に頼まれたお土産は、これで一通りですわ」
     遥斗の質問に、佐奈子が指差し確認する。クラブ『はじめましての会』の買い物も、そろそろ終わりの時間が近づいてきた。
    「お疲れ様です。……それにしても、暑いですね」
     ユキトが見上げる沖縄の空は、吸い込まれそうなほどに青い。三人はしばらく、揃って流れる白い雲を眺めていた。
     そんな僅かな瞬間も、かけがえのない思い出となる。

     クラブ『家庭科部』の面々は、以前話題になったブランドの美容液を見つけたところだ。
    「これかな、先輩の言ってた美容液! 良さそうだねえ」
     さっそく手に取ったミケが、二種類のビンを光に透かして眺める。同道する将真の目からは、少々値が張るのではないかと思えるが、
    「俺にはよう分からんしな。それに関しては、女性陣に任せるとしよう」
     と、別のリクエストの品を改めはじめた。お土産用に一つずつかごに入れた雅は、ふと同ブランドの日焼け止めがあるのに気づく。
    「……あら、日焼け止めもあるんですね。これも、私用も含めて確保しておきましょう」
    「おーい、部の備品の方もちゃんと揃えとけよー。天然塩に黒糖、ラフテー、スパム……へへっ、今から楽しみだな!」
     特産の食材(特に黒糖)を前にした智巳は、そう言ってサングラスの奥の瞳を輝かせていた。

     星空芸能館の名目で行動していたえりな、ファルケ、寛子、そして花梨菜の四人であったが、常時一緒というわけではなく、時にはそれぞれの目的のために別行動をとることもある。
    「花梨菜さんは、琉球グラスをお土産になさるんですよね。いいのはありましたか?」
    「はい……。この5色セット、どれも沖縄の色そのものを映しているようで、綺麗です……♪」
     と琉球グラスを探すのは、えりなと花梨菜だ。一方、別のクラブ経由で頼まれた甘味類を求めて、ファルケは特設コーナーを回っていた。
    「あそこからのは全部菓子だったからなー。さすがは、甘味にうるさい方々だ」
     残る寛子は、近くのCDショップで沖縄のロコドルやインディーズバンドの音源を片っ端から購入していた。
    「いい音源が手に入ったの! 早くみんなに聞かせてあげたいな~!」

     親戚たちのためにお土産を探す愛花は、キーホルダーのラックの前で右往左往していた。
    「手前のでいいかな? あ、でも、後ろのやつの方がバランスが……可愛さで言うならこっちのが……ううう」
    「うーん、これとかも喜んでくれるでしょうか…………うん、きっと大丈夫だよね! 決めました!」
     同じように迷っていた美乃里は、そして意を決してある品を棚から抜き出す。とその時、疾走する勇騎がその場の空気を切り裂いて現れた。
    「おっと、パインカステラここでも発見、確保確保っと!」
     彼が急いで手に取ったのは、別の場所で買ったものとまた違う種類の物らしい。
    「あ、うっかりしてて私の分を忘れてましたね……と、あれがいいでしょうかね」
     そののんびりした口調からは想像もつかないが、敦真もまた急いで品を探しているようだった。

    ●ショッピング中のひととき
     土産屋の軒先で、真剣に品定めをしている朽葉。同行する畔は、その横顔をしばらくじっと眺めていた。
    「あれ、いたのか井貫。そっちは土産いいのあった? ……っとと」
     畔に腕を引かれて、朽葉は小さく一歩を踏む。
    「ふふ、くちはくん、お土産探しに夢中だったよ。……ね、あっちのも見にいこ!」
     ぎゅっと抱きしめた朽葉の腕を、畔は離そうとはしなかった。

     色とりどりの沖縄かんざし『ジーファー』を前に、輝の足が止まる。彼女が振り向くのを待たず、晃は一つを手にとった。
    「輝殿、どうぞ」
    「あ……♪」
     飾られたことが嬉しくて、輝はその場をくるりと回る。彩を加えた少女の髪は、そして華やかに踊った。
    「えっと……、似合っていますかねぇ?」
    「はい、よく似合っていますよ」
     嘘のない晃の微笑みに、輝は頬を朱に染める。

    「光くん、今日はありがとうね!」
     茉莉花が無邪気な笑顔で振り返る。荷物を提げた光は、その後ろをゆっくりと歩いていた。
    「おかげでスムーズなお買い物ができました。光くんのおかげだよ!」
    「僕は大したことはしてないよ。……それでさ、茉莉花ちゃん」
     と、光は柔らかな笑顔を浮かべて言う。
    「飛行機までまだ時間があるから、すこしどこかでゆっくりしていこうよ」

     喫茶店では、若女将のゆのかがフォークに刺したサーターアンダギーを、楽しそうに誠へ差し出していた。
    「誠君、お疲れ様ですよ~♪ はい、あ~ん♪」
    「ちょ、ゆのかっ! はず、恥ずかしいって……」
    「あら、甘いものはお嫌ですか?」
     などと対面で可愛らしく首をかしげるゆのかに、誠は観念して身を乗り出す。そうして口にした甘い砂糖菓子は、――砂糖の味はしていたのだろう、たぶん。

    ●名産品店での喧騒
    「……なんか、もの凄い種類あるんですけど、何コレ」
     と、足を踏み入れたアヅマが圧倒されるのもむべなるかな。沖縄名産店を並べるその店は、まさに品揃えこそが売りなのだ。
     名産スイーツの類は、特集コーナーにそれぞれ数十種類がずらりと並ぶ。他にも珍味や地元の人が日常的に食べるような品も、そこにはあった。
    「ええと、とりあえず皆でつまめるように、お菓子系はまとめ買いするとして……」
     ここに来た誰もが目移りするような光景の中、アレクセイが順調に品を揃えていく。
    「部員だけで五十人くらいいるからなあ。お金、間に合うといいんだけど……」
     法子も同じようにして、定番品をどんどんかごに詰めていった。メモを見ながら店内を探し回っているのは、小柄なカーティスの姿だ。
    「お世話になってる皆には、黒砂糖とムラサキイモのタルトと、あとは……」
    「……シークワーサーのジュースは、1ケースぐらいあってもいいかしら」
     夏場のスタジオは喉渇くからね、と紫苑が注文表を持って配送カウンターに向かう。一方何故か並んでいた苺大福を前に、咲楽が迷った挙句に拳を握り締めて言った。
    「俺らしくはない……だがっ! めんどくせえ、魂の直感を俺は信じるぜ!」
     そことは別のコーナーでは、アインが近くのおばちゃんと会話をしている。
    「なるほど、そういう調理法もあるのか……、参考になった。では、その『うつぼ』を一尾買うとしようか」
     そうして決めた品物をバッグに詰めていく楽しさは、誰にとっても旅先でしか味わえない醍醐味なのだ。

    「桜子も飛鳥も、この修学旅行で何か良い思い出は出来たかい?」
     遊の問いに、『想ひ出玩具箱』の仲間、桜子がこくりと頷いて答える。
    「ええ! この気持ちを忘れないうちに、ステキなお土産探さないとね♪ 何にしよっか?」
    「沖縄土産といえば、サーターアンダギーは外せないよね」
     言いながら名産品店に向かう飛鳥と桜子。自分も進もうとして、ふと遊があることに気づく。
    「……あれ? 女性二人に野郎一人だと、オレ荷物持ち確定じゃね?」
    「おーい、荷物持ちさーん! こっちこっち!」
    「みんなの分買いますから、ちょっと量が多くなりそうなんです」
     遊は返事を飛ばしながらも、こっそりと二人に贈る品を手に入れていた。

    「なー、あっちのはさんぴん茶でどうやろ」
    「ええ、甘いもの以外と言われていましたしね。それで良いかと」
     深隼が見せる品に、オリヴィアは同意の頷きを見せる。彼らは、掛け持ちする二つのクラブへのお土産を探していた。
    「んでもう一つの方は……これやな。シークワーサー」
    「沖縄らしいし、いいかもしれませんね」
     この果物を絞ってジュースにするのも、また一興だろう。

    「よし! 買わないで後悔するよりも買って後悔しましょう!」
     大量のスイーツを抱えて、前向きに覚悟を決めた『LIFE PAINTERS』の椛。と、背後の喧騒に気づくと、そこでは残りの二名が漫才を繰り広げていた。
    「お金がないからって僕を見捨てるノ? 非道イ! 煉火にとっての思い出は、お金にも劣るものだったんだネ!」
    「違うんだ、誤解だよシーサー! ボクだってこの運命の出会いを手放したくない、けど残金が……っ!」
     シーサーの置物に隠れた奏と、その事実に気づかない煉火。すると椛が、笑顔で二人の所へと歩いていく……。

    「さて、そーるのみんなへのお土産なんだけど、大体のところはこれで揃ったかしら」
     クラブ『応援走流!』の梢はメモを手繰りつつ、山のように詰まれた荷物とリストを突き合わせていた。こうして全てを一箇所に集めてみれば、ものすごい量だ。
    「おっけ。それじゃあこの荷物は、飛鳥くんに任せるわね」
    「ちょ、ま、俺が全部持つのか!?」
     いきなり無茶振りされた飛鳥に、海梨が追撃のように近寄って目で訴えかけた。
    「飛鳥先輩……、お土産、持ってくれますか?」
    「そこで上目遣いは卑怯だぜ……ええい! こうなりゃやってやろうじゃないか!」
     海梨の強力な目力攻撃に負け、飛鳥が渾身の力でビニールバッグを持ち上げる。慌てた結衣が、すぐにバッグの下を支えに入った。
    「はわわ、飛鳥くん、そんなに無理しなくていいよ!」
    「飛鳥君、僕の荷物もあるし、申し訳ないから僕にも何か持たせてよ」
     アルバートがそう申し出るが、飛鳥はよたよたしながらも親指を上げて見せる。
     誇り高い荷物持ちの姿が、そこにはあった。

     倹の道を究める『倹道部』の面々も、今日は全開状態だ。食べ歩きを楽しんだり、チラガーを見てトラウマを獲得したりと、沖縄を存分に楽しんでいる彼らであった。
    「ね、皆。ソフトクリームも食べていこうよ! ハイビスカススフトだって!」
     財布の中身を確認したマキナが、別の店を指差して言う。他にもならぶ幟を見て、華凜が目を輝かせた。
    「わぁ……。でしたら私は、黒糖ソフト、ですね」
    「私雪塩ソフトがいいなー。ね、買ったらみんなのも一口おくれよ!」
     鈴の提案に、女子三人が楽しそうに盛り上がった。そしてもう一名、男子である冬織は、流石にそれに混ざるとは言い出せない……が。
    「こういう日は、最後まで満喫しないとな……よし、俺も買うぜ!」
     バイト代は吹っ飛んでしまうだろうが、たまにはこんな日もあっていいだろう――。

     沖縄の暑い一日が、こうしてまた過ぎて行く。ひとときの客に過ぎなかった武蔵坂学園の彼らだったが、その感想を問えば、おそらく誰もがこう答えてくれるはずだ。
     楽しかった、と、満面の笑顔で。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月21日
    難度:簡単
    参加:90人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 8
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