けんぞくのむれがあらわれたので、おてがみかいてみた

    作者:御剣鋼

    ●次なる手紙の主は……
    「クロキバ派の困りごとの解決が、また依頼されてくるかなーって」
     と、山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)が、箱根温泉街を散策したところ……。
    「予想は的中! 前と同じところに石版が置いてあったから、急いでもってきたんだけど」
     竹緒は「あとは里中くん、よろしくね!」と、傍らに控えた里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)に詳細を委ねる、けれど。
    「流石は灼滅者、御見事でございますッ! この里中、感無量でござ……失礼致しました」
     執事エクスブレインは周囲のドン引きもとい沈黙を切るように、小さく咳を払う。
     そして、何もなかったように、竹緒が持って来た石版を灼滅者達にも見せるのだった。

     ――ハコネユモトノ スミカノチカクニ ケンゾクノムレガイテ ウルサイ。
     ――デモ ヘタニウゴクト ヒトザトニ ニゲテシマウカモシレナイ。
     ――アトハ ヨロシク。

    「クロキバの筆跡と違うというか……なんだ、この『アトハ ヨロシク』って!!」
    「なんか、全体的に荒いというか幼稚というか、って!? 丸投げ、丸投げなの!?」
     頑張って解読(?)しようと、額に汗を浮かべる灼滅者達。
     執事エクスブレインも小さな溜息を洩らし「補足しますね」と、ゆっくり口を開いた。
    「これは、クロキバから話を聞いた『イフリート達からの手紙』だと推測されます」
    「「な、なんだってええええ!!!」」
     ――何かあれば、連絡して欲しい。
     と、箱根の温泉街で一派を纏めているクロキバに、直接返事を返したのは記憶に新しい。
     そのことは各地の源泉に隠れている、一派のイフリート達の耳にも入ったのだろう。
     早速、困り事があったと、近くの源泉に隠れていたイフリート達が依頼したのだった。
    「わたくしの方でも解析を試みました所、箱根湯本の温泉街近辺に、バスターピッグの群れが潜んでいることを、確認致しました」
     バスターピッグの数は、10体。
     5体がバスターライフルのサイキックを、残りがバトルオーラのサイキックを使って来る。
     とりわけ強い個体がいるわけでもないけれど、数が多いので油断はできないだろう。
    「この数に鳴かれると……ゆっくり眠れないのは、確かでございますね」
     10体が一斉にブヒブヒ鳴けば、イフリート達が腹を立てるのも無理もない。
     思わず口の端を弛めてしまった執事エクスブレインは、瞬時に口元を引き締めた。
    「一見、容易で単純とも言える、イフリート達からの『依頼』ですが……」
     これを放置した場合、頭に来たイフリートが暴れて人里に危害を及ぼす事も考えられる。
     イフリートや灼滅者にとって容易であっても、人々にとっては驚異に等しいだろう。
    「バスターピッグ達は山間の獣道を集団で移動しています。その途中に開けた場所がありますので、そこで迎え撃つのが得策でしょう」
     執事エクスブレインは、山間の一カ所に印をつけた地図を、灼滅者達にそれぞれ手渡す。
     初夏を迎えた山間は青々と茂っているけれど視界は明るく、足場はしっかりしている。
     ターゲットは終始ブヒブヒ鳴いているようなので、接近は直ぐに分かると付け加えると。
    「眷属の群れをさくっと倒した後は、ゆっくり温泉にでもつかってきて下さいね」
     折角の機会ですからとバインダーから取り出したのは、人数分の日帰りの温泉入浴券。
     初夏の新緑に覆われた山々は空気も格別で、これまた絶景に違いない。


    参加者
    光・歌穂(歌は世界を救う・d00074)
    駿河・香(ルバート・d00237)
    七里・奈々(淫魔ななりんすたぁ・d00267)
    山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    メイニーヒルト・グラオグランツ(鋭刃ノ絶壁・d12947)
    黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992)

    ■リプレイ

    ●ぶらり湯けむり、豚さん退治
    「豚さんたち、どこにいるかなー?」
     地図を頼りに山間の獣道を探索していた一行の双眸に、一際強い光が飛び込んで来る。
     七里・奈々(淫魔ななりんすたぁ・d00267)は目印の場所に着いたことを確信すると、何時でも眷属達と遭遇しても問題ないように、感覚を研ぎ澄ませた。
    「温泉! にしても、丸投げにもほどがあるというか……」
    「でもまあ、眷属を放っておく訳にもいかないしね」
     頼まれごとの相手がダークネスだということに、思う所がある者は少なくない。
     それでも陽気で楽しそうな光・歌穂(歌は世界を救う・d00074) に、駿河・香(ルバート・d00237)も、明るく前向きに頷いてみせて。
    (「イフリートからの依頼というのが、少し気に入らないけれど」)
     しかし眷属の群れを一網打尽にする好機……これを逃す手はない。
     刀の鯉口を切る同時に、メイニーヒルト・グラオグランツ(鋭刃ノ絶壁・d12947)は人を遠ざける殺気を周囲に飛ばす。
     人の気配は感じないけれど、念には念を入れて、人払いは怠らない。
    (「一時的にでも協力関係にあるなら、保つに越したことはないか……」)
     他ならぬ自分を大切にしてくれている父も、きっと賛同してくれるだろう。
     思う所があるのは、黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992)も同じ。
     金色の双眸を鋭く細め、気の弱さを隠すように、唇をきゅっと強く結んだ。
    「さっさと倒して温泉を楽しむんだよ♪」
     イフリートが嫌いな師が今回の依頼の出所を聞いたら、怒るかもしれない。
     けれど、初めて戦う眷属に、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)の心は踊っていて。
     ――その時だった。
     静寂に満ちていた山間を、徐々に騒がしい鳴き声が支配したのはッ!
    「わー、一気に騒がしくなってきたねーっ!」
     クラッシャーに布陣した奈々の耳に、けたましい鳴き声がブヒブヒと飛び込んで来る。
     何時でも戦えるように右手の槍の柄を握り締め、左の拳に桃色の鋼糸を絡めていく。
    「ブタなんか、直ぐに片づけてやるよ!」
    「みんなでひと汗流して、スッキリしよう!」
     ……もしかしたら、他にも住処があるかもしれない。
     他にも思う所は多いけれど、クロキバ一派に頼られてるのは、確かだろう。
     住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)は純粋に嬉しさを噛み締め、山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)も、マイペースに頷いた。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     桜が掲げたスレイヤーカードが鳴動し、瞬時にその身を血の如く赤黒いオーラが包む。
     鳴き声が聞こえた方角向けて身構える灼滅者達の前に、桃色の群れが飛び込んできた。

    ●ブヒブヒ☆パラダイス
     彼等の存在は、イフリートならず耳にさわるといいますか……一言でいえばウザいッ!
     鳴き声に、状態異常(怒り)でも付与されていると思うくらいに、眷属達は忙しなく。
    『ブヒー、ブギッー!』
    『ブブヒー、ブブッ!』
    『ブヒッ、ブヒィー!!』
    「とっとと沈んどけっ――!」
     そんな中、慧樹はハエを叩き落とす勢いで、真っ先に敵最前列に飛び込んでいく。
     軽く旋回させた漆黒の穂先に炎を纏わせ、眼前のオーラを纏う眷属目掛けて叩き込んだ。
     瞬く間に炎に飲み込まれていく眷属、慧樹は思わず「……焼き豚」と、呟いてしまう。
    「わ、美味しそうー!」
     釣れられてテンション高く声を上げたのは、ディフェンダーで守りを固めていた歌穂。
     炎で殴りたい衝動をぐっと堪えると、催眠に誘う歌声を2体目に向けて響かせる。
    「まさかバスターピッグ相手だから炎サイキック中心に……いや、私の気のせいだな」
     解除コードを呟くと同時に、花月は横薙ぎに振った剣先から、光の刃を撃ち放つ。
     控えめなシャンパンゴールドの軍服で引き締めた花月にビクっと背を震わすのが、数名。
     脳裏によぎった美味しい想像を振り払う慧樹、皆考えてることは同じだったようです。
    『ブヒィ――!!』
     しかぁし、黙って焼き豚になってくれる程、眷属は大人しくないッ!
     オーラを纏った前列が飛び出すと同時に、後列がライフルの銃口を一斉に剥けてきた。
    「あまり使いたくはない、吸血鬼の力だけれど……」
     その動きに即座に反応したのは、ジャマーのメイニーヒルトだ。
     後列の眷属を鋭く見据えると、胸の十字架を逆十字にして素早く右手に巻き付けて――。
    「ダークネス相手になら、躊躇はしない……ッ!!」
     冷たき刀身から放たれた赤き逆十字の軌跡が、後列の1体の身と精神を同時に引き裂く。
    「私も一緒に、状態異常をばら撒いていくわ」
     香が踊るように軽くステップを踏むような動作をすると、ゆらりと足元の影が揺れる。
     先端を鋭利な刃に変えた影は、赤い十字を追うようにぐんと伸び、2体目を両断した。
    「回復される前に焼き豚……じゃなくって狙っていこう!」
     舞うように巧みに鋼糸を操っていた奈々も、右手の槍の穂先に螺旋の唸りを加えていく。
     自身に迫る眷属を軽く身を捻って避けると、刺すようにガラ空きの背に槍を突き出した。
    「バトルオーラ持ちから狙うのに私も賛成だ」
    「歌の力、見せてあげるよ!」
     1体ずつ着実に倒していくのが、自分達前衛の役目。
     数に勝る眷属を前に、嬉々と瞳を輝かせた桜は、師から受け継いだ漆黒の野太刀を振う。
     漆黒から繰り出された赤き斬撃に合わせて、歌穂も催眠に誘う歌声を響かせた。
    「私はメディックだから、回復を優先気味にするね!」
     自己回復持ちは多かったけれど、数に勝る相手に治癒を疎かに出来ない。
     3体目が倒れるのを見届けた竹緒は体力が低い花月に護符を飛ばし、守護を高めていく。
    「気を付けて、またビームが来るよ!」
     奈々は前列の眷属を狙い続ける間も、後列の眷属達の動きを警戒していて。
     1体は既に倒れ伏しているが、まだ後ろには4体残っている。
    「ボク達が後列に催眠をばら撒いていく」
    「その隙にバトルオーラ持ちの方をお願い!」
     後列の眷属を鋭く見据えたまま、メイニーヒルトは再び赤き逆十字の軌跡を撃ち出す。
     香も歌姫を思わせる神秘的な歌声を響かせ、最前列で戦う仲間の背を後押しした。
    「やらせないよっ!」
     残り7体、けれど油断は出来ない。
     歌穂も竹緒のサポートに回らんと、天使を思わせる歌声をメイニーヒルトに届ける。
     確かな治癒と牽制に支えられた前衛は、反撃に転じようと、一斉に風となった!
    「1匹ずつ確実に退治していこう」
     さらに距離を狭めて肉薄する花月に、奈々も各個撃破を狙わんとガンガン攻め上げる。
     2体が同時に倒れる中、桜も日々の鍛錬を活かそうと、漆黒の髪を初夏の風に靡かせて。
     小枝でも折るかのように、最前列に残る1体へ鋼糸を鋭く巻き付けた。

    ●ブヒブヒ★バスターズ
    「油断さえしなきゃ問題なさそうだな」
    「ここからは私達自身でも、しっかり回復していきましょ」
     ――残るは、後列の4体のみ。
     花月は自身に付与されたプレッシャーを気合いではね除けると、更に距離を詰めていく。
     後列の香も己に治癒を施し、メディックの力を前線へ供給することを心掛けていて。
    「この曲で元気出して!」
     疲労が蓄積していた奈々を歌穂が元気良く励ますように癒しの歌を届けていく。
     仲間の体力の低下具合を気にしていた桜も、攻撃に専念しようと意識を研ぎ澄ませる。
     メイニーヒルトの逆十字の斬撃に合わせて、鮮血の如く緋色の斬撃を織り交ぜた。
    「俺の炎で焼き豚……じゃなくって、燃え尽きちまえっ!」
     回復は仲間に託し、数減らしに専念しようと慧樹は誰よりも速く後列に踏み込んでいて。
     直近に迫るライフル持ちの眷属を落とさんと、勢い良く魔力の奔流を叩き込んだ。
    「この調子でドンドン行こう!」
     ――残り、3体。
     竹緒も徐々に攻撃の比率を上げていこうとしていくけれど、メディックは1人だけ。
     攻撃は仲間に任せて自分と共に仲間を支えていた歌穂を癒さんと、護符揃えを構えた。
    「あと少しで温泉だな」
     戦闘中は打って代わって好戦的になる桜だけど、お楽しみは忘れていない。
     純白の振袖の裾を靡かせながら漆黒を振い、死角からの斬撃を繰り出して足止めを狙う。
     続けざまにメイニーヒルトが赤き逆十字の斬撃を飛ばさんとするが、寸でで避けられる。
    「攻撃攻撃でガンガン攻めていくよ!」
     しかし、その隙を見逃す灼滅者達ではない!
     奈々は大きく跳躍すると木の幹を強く蹴り、眷属を追い越すように身を捻って一回転!
     ふわりと体を蝶の如く宙に舞わせた刹那、刺すように鋼糸を素早く眷属に巻き付ける。
     動きを封じられた眷属は、香が撃ち出した魔法の矢に易々と貫かれた。
    「騒音程度で死刑判決は酷かも知れんが、諦めろ!」
     状態異常が重なっていた眷属には、花月が光の剣を突き出して裁きの光条を解き放つ。
     三日月を模した琥珀のイヤーカフスが光を受け、煌めいた。
    「最後、みんなで押し切ろう!」
     ――残り1体。
     回復から一転。攻撃に転じた竹緒が撃ち出した魔法の軌跡が、艶やかな黒髪を靡かせる。
     香も軽くステップを踏むように足踏みすると、動きを制約する弾丸を同時に撃ち出す。
    「私のステージはまだ終わらないよっ!」
     歌って踊って世界を平和にがモットー、けれど走り出したら止まらないっ!
     元気で陽気な歌穂の炎が躍動して眷属を飲み込んだ、一拍。
    「俺の炎で、さっさと燃え尽きちまえっ!」
     ぐらりと態勢を崩した眷属目掛けて、慧樹が勢い良く炎を叩き付けた。

    ●湯けむりに抱かれて
    「お姉ちゃん達の分も温泉を楽しむんだよ♪」
     負傷者した者は1人もなく、箱根湯本の温泉街に着いた一行の足取りはとても軽い。
     平日の温泉は貸し切り状態で桜は直ぐに水着に着替えると、はしゃぐように飛び込んだ。
    「おーんせーん!」
     細身の身体に体を湯を掛けて流した竹緒も、勢い良くドボーンと湯の中に飛び込む。
     背を伸ばすように広げた脚は細く綺麗で、つやつやのおもち肌が雫を受けて煌めいた。
    「ほわー、いいお湯だねー」
     歌穂の水着は色っぽくはないけど、お腹と背中は露出多めのセパレートタイプ。
     仕事の後の温泉は疲れも取れて最高だと、歌穂もゆったりまったり温泉を満喫中〜。
    「まぁ、温泉は楽しみだったけれども……」
     ――そもそも、日本の温泉に浸かるのに水着が必要なのだろうか?
     卿に入るなら卿に従えともいうし、水着を着けなければ入れないのなら、仕方がない。
     そんなことを想いながらも、メイニーヒルトも学園指定の水着を綺麗に着こなしていて。
    「脚だけでも湯で解すと、大分違うものだな」
     花月の水着は深緑の迷彩柄トランクス、豊かな胸はサラシで潰している。
     大事を取ってサラシを巻いた身体を濡らさないよう、脚だけをそっと湯に浸していた。
    「うーん、私には少し熱いかも……」
     実は、余り長く温泉に浸かっているのが苦手だと、香は思わず苦笑を洩らす。
     幸いここは露天風呂、初夏の夜風が火照った顔と身体を冷やしてくれるのが、心地良い。
    (「男……俺だけって罰ゲームっぽくねっ!?」)
     紅一点もとい漢一点、むしろ混ざってスミマセン……。
     慧樹は遠慮がちに少し距離を保ちながらも、チャレンジャー精神で会話に混ざっていく。
     折角の無料入浴券、修学旅行に新調したサーフパンツ、一切無駄にしないのが漢です!
     ――だが、しかぁし!
    「隅っこに1人とかでいるのも駄目だよー」
     そんな慧樹を更に女性陣の方へ、ぐいぐいと引っ張っていくのは、竹緒。
     竹緒の水着は、クリーム色っぽい白地に細かい花柄模様が描かれた可愛らしいビキニで。
     水着コン用に準備したのを、一足先に御披露目してみたとのことだ。
    「恋バナとか色々とお話してみたいなぁん」
     はいはーいと湯から元気良く手を挙げた奈々は、学園指定のスクール水着。
     ゼッケンに大きく『3年7組ななさとなな』と書いてあるのが、チャームポイントです。
    「こ、恋バナ!? お邪魔イタシマセンので……」
    「しゃーらーっぷ!」
     男1人に多勢に無勢。
     のんびり温泉に浸かっていた奈々も、楽しそうに賑わいに溶け込んでいく――。

    「メイニーヒルトさんと香さんの水着も可愛いね♪」
    「桜の肌は雪のように白いな」
     桜の水着は白色のビキニタイプ、腰に桜の模様が入ったパレオを巻いていて。
     手足も細くてスタイル抜群の桜に、メイニーヒルトは思わず自分の胸に視線を落とす。
     微塵にも膨らみがない己の胸をペタペタ両手で触るけど、特に気にしている様子はなく。
    「私のは去年の水着の着納めね、何となく捨てれなくて箪笥の肥やしになってたわ」
     けれど、フラワープリントのタンキニは、明るく前向きな香に良く似合っていて。
     夜の帳が降りつつある温泉に、明るいカラーが花のように冴え映えとしていた。
    「風が気持ちいいな、月もキレイだ」
    「ああ、空気も美味いしゆっくり休むには良い場所だ」
     温泉に入ってたイフリート達も、そんな風に思ったりしていたのだろうか……。
     湯に浸り思いに耽る慧樹に、髪だけを洗って流し終えた花月が応えた、その時だった。
     自作の温泉ソングを鼻歌まじりで口ずさんでいた竹緒が、黒目がちな瞳を瞬かせたのは。
    「これからもどんどん引き受けていきたいね!」
     イフリート任せにしたら被害が出そうなことも自分達なら穏便に済ませることが出来る。
     また、クロキバ一派との接点を残して置きたいという考えもあった。
    「お互いにとって、いいことだと思うんだよね」
     竹緒の笑みに慧樹は強く頷き返すと、再び夜空に浮かぶ月を見上げる。

     ――依頼の件は完了。
     ――他にもまた何かあったら声をかけて欲しい。

     そんな感じでカタカナで刻んだ石版を置いてきたけれど、炎獣達はどうするだろう。
    「依頼の出所はともかく、迷惑なのは困るよね」
    「これからも協力出来る範囲でしていく、か」
     伝えたいことや言いたいことは特にない……。
     今は温泉を存分に堪能しようと、歌穂はハイテンションで湯を掻き分けていて。
     湯の温もりに委ねるように花月は再び脚を浸し、メイニーヒルトも体を沈ませていく。
    「あ、お土産どうしようかしら」
     石版の行先を気にしていたのは香も同じ、しかし先に脳裏に浮かんだのはお土産のこと。
     知り合いには勿論、執事の装いをしたエクスブレインにも――。
     竹緒が再び慧樹を女子の輪へぐいぐい引っ張る中、風を浴びたいと香は湯から上がる。
     一足先に上がって冷えたイチゴ牛乳で喉を潤していた奈々の頬は、幸せに満ちていて。
     はしゃいでいた桜も、のんびりゆったり楽しむように、夜風を含んだ湯気に瞳を細めた。

     ――その、数日後♪

     困りごとを解決してくれるという灼滅者の噂は、箱根近辺に留まることなく。
     全国各地の源泉に隠れ棲むクロキバ一派の耳に入ったことを知るのは、また別の話。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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