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「聞いた? 絶望岬の水死体」
「えっ。知らない。また誰か自殺したの?」
夕暮れ時の帰り道。
二人の女子高生が何やらヒソヒソ話をしていた。
「警察は自殺だって言ってるけど、絶対違うよ。だって、手が……ほら」
スマートフォンを手早く操作して、ある画像を突き付ける。
船から撮った写真だ。
夜の崖と海。崖の真ん中当たりに黒い人影があった。
その人影を、海から伸びた無数の手がつかんでいるのだ。
「やだっ。きもっ」
「うふふ。びびった?」
「なにこれえー……よくできてるね。合成写真? てか、手ぇ長すぎ!」
「本物かもよー」
女子高生はいたずらっぽく笑いながら、スマートフォンをしまうのだった。
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「それが本物なんだよね、この写真」
逢見・賢一(高校生エクスブレイン・dn0099)が、プリントアウトした写真をぴらぴらさせながら説明を始めた。
崖の上の人を海に引きずり込む都市伝説が実体化したんだ。キミ達にはそれを灼滅して貰いたい。
都市伝説は、夜中にこの崖に立って物思いにふければ現われる。沢山の手が、こう、ろくろ首みたいに、にゅにゅにゅーんと海から伸びて襲いかかってくるから、そこを迎え撃って欲しい。
崖の高さは約二〇メートル。海は結構荒れているし、結構深いし、結構冷たい。海に引きずり込まれる事もあるだろうから、色々と準備しておいたほうがいいね。
都市伝説の無数の手は海の底で繋がっているような気がするんだけど、ハッキリした事は分からないんだ。とにかく、伸びてきた手を一本一本やっつけていけば、そのうち灼滅出来るよ。
なんだか気持ち悪い相手だけど、油断しなければ大丈夫。
じゃ、頑張ってね!
参加者 | |
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柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798) |
真白・優樹(青空ハミングウェイ・d03880) |
メルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367) |
祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003) |
天空・青菜(ケツァルコアトルの娘・d15703) |
九葉・紫廉(すごい傷だらけの男・d16186) |
八守・美星(イノセントエンブリオ・d17372) |
イレーナ・カフカ(中学生ストリートファイター・d18112) |
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深夜零時を少し回った頃、灼滅者たちは絶望岬に到着した。
ずらりと並んだ鉄柱に鎖が張られている。ここから先は立ち入り禁止だ。
闇の向こうから、波の砕ける音が聞こえてくる。
「あ、何か書いてあります」
柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)が手に持ったLEDランタンを掲げると、暗闇に立て札が浮かび上がった。
メルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367)は、立て札をちらりと見てため息をついた。
「暗くて寒い。嫌な場所です」
立て札には自殺を思いとどまらせようとする文章が書いてあった。
灼滅者たちは鎖をまたぎ、照明で前方を照らしながら岬の先端に向かった。月はずいぶん前に雲に隠れてしまった。各々が用意した照明だけが頼りだ。
「あそこが崖っぷちですか」
天空・青菜(ケツァルコアトルの娘・d15703)が足を速めた。
「皆さんはここで待っててください」
皆を残し、囮役の青菜が先端に立った。同じく、囮役のメルキューレも後に続く。
崖は緩やかな上り坂になっており、突き出した舌のように尖っていた。
どうやら、崖は荒波によって深くえぐられているらしい。地の底から伝わる波の音によって、それを感じることができた。
青菜は崖下を覗いた。遙か下で、黒い波がうねっている。波を見つめていると、空に浮いているような錯覚に陥った。平衡感覚が怪しくなり、崖下に吸い込まれそうな気がしてくる。
青菜はその感覚を楽しんでいたが、すぐに飽きて身を引いた。さて、どんなことを思って都市伝説をおびき寄せようか――。
ここに立って物思いにふければ都市伝説が現れるという。青菜とメルキューレは神妙な面持ちで真っ黒な海を眺めた。
(「ここで自殺しようとした方々は、何を思っていたのでしょうか」)
メルキューレは首に下げた十字架に触れながら、ここから飛び降りた人たちのことを思った。
「……緊張しますね。まだ出てこないのでしょうか」
イレーナ・カフカ(中学生ストリートファイター・d18112)が、二人の背中を見つめながら言った。二人があそこに立ってから、もう三分ほど経過している。
「まー、そのうちイヤって言うほど出てきますよ。あと、準備体操したほうがいいですよ。海に落ちて足がつったら大変ですから」
祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)が、アキレス腱を伸ばしながら言った。
「海から伸びる無数の手って、何ともジャパニーズホラーチックな都市伝説だね」
真白・優樹(青空ハミングウェイ・d03880)が屈伸しつつ言った。
「無数の腕が生えた本体って絶対キモいよな……」
海パン一丁になった九葉・紫廉(すごい傷だらけの男・d16186)が震えながら言った。
「え? どうして脱いでるんですか、紫廉」
真夜が首をかしげた。この崖の上で水着姿なのは紫廉だけである。
「どうしてって……」
むしろ、どうしてお前たちは脱がないのだ、と紫廉が問いただそうとしたとき、八守・美星(イノセントエンブリオ・d17372)が鼻を押さえて顔をしかめた。
「くさい」
「え、俺?」
慌てて自分の二の腕に鼻をつける紫廉をよそに、美星は地面を見つめる。
「崖の下から、業にまみれた嫌な臭いがするわ」
美星は、はっとして囮の二人を見た。叫ぼうとしたが、あまりの臭いに吐き気がこみ上げ、声にならなかった。
(「さっきから物思いにふけってるのに、一向に出てきませんねえ。さっさと都市伝説の腕をザクザク斬り刻みたいんですが」)
しびれを切らした青菜が、ひょいと崖下を覗き込む。
青菜の首から下げたヘッドライトが、えのき茸のように伸びてくる無数の手を白く照らした。
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「出たね!」
優樹が弾けたように走り出した。その目は、高く宙に浮いた青菜と、青菜をつかみ上げている五本の腕を見据えている。
「たかいたかーいを喜ぶ年じゃないんですけどねえ」
青菜はいつもの笑みを崩さなかったが、首、両腕、両足をがっちりとつかまれ、さて、どうしたものかと考えた。崖上を見下ろせば、白く伸びた腕が仲間たちにも襲いかかっている。一人あたり四本から七本。約四十本の腕が、崖の上でうごめいていた。
「遅い遅い!」
優樹は迫り来る腕を突進しながら躱し、青菜を拘束する五本の腕に飛びかかる。
バツン!
刃と化した優樹の影が、一本の腕を真っ二つにした。
「助かりました、優樹さん」
自由になった青菜の右拳が闇夜に稲光を放つと、青菜の首をつかんでいた腕がへし折れ、力なく海へと落ちていった。
「……ひゃっ!?」
岩陰に身を潜めながら手を迎え撃っていたイレーナが、足首の冷たい感触に声を漏らした。見れば、崖の脇からも腕が這い寄ってきているではないか。
「こ、このっ」
足首をつかんだ手に目を奪われている隙に、正面から伸びてきた腕に手首をつかまれ、思いっきり引っ張られた。
「た……助けてくださーい……」
イレーナの叫びを聞いて、真夜は振り向いた。イレーナが地面を引きずられながら、真夜の右脇をもの凄いスピードですり抜けて行く。
「させませんよ!」
真夜の縛霊手が腕の一本をつかみ、イレーナを止めた。さらに、網状の霊力を放って腕を縛り上げる。
イレーナは体勢を立て直しながら、呼吸を整えた。目が据わり、先ほどまでのお茶目なムードは一転している。
「オカエシデス」
凶戦士モードに切り替わったイレーナがどす黒い殺気を放つと、イレーナをつかんでいた全ての腕がみるみるうちに枯れていった。
「ヤハリ脆カッタデスネ」
ボロボロに朽ち果てた腕を振り払いながらイレーナは呟いた。腕の数は多いが、一本一本はたいして強くない。範囲攻撃に弱い相手だ。
そのことは、紫廉も実感してた。
「乱れ打ちだああああ!」
ガトリングガンを右に左に振りながら銃弾の嵐をばらまくと、腕が次々に千切れて吹っ飛んだ。紫廉のライドキャリバー『カゲロウ』も機銃掃射でどんどん腕を仕留めていく。
「ハイスコアは貰ったぜ!」
「私だって負けていませんよ。無数の手には、無数の刃です!」
メルキューレが空に手をかざすと、空間から無数の首刈り鎌が現われてズババババババッと腕をなぎ払った。
「なるほど、範囲攻撃ね。なら私も……」
美星はヴェノムゲイルの構えをとったが、なんだかおしりがすーすーしたので思わず振り返り、飛び上がった。
「っ、スカートをつまみ上げるなぁっ!」
「なに?!」
思わず振り返る紫廉。その瞬間、おしりをぺろんとなでられた。
「いっ」
紫廉は悲鳴をかみ殺し、怪しい手つきの腕をガトリングガンで粉々に吹っ飛ばした。
彦麻呂は伸びてくる腕を拳で迎撃しつつ、仲間のダメージに気を配っていた。腕のやることと言えば、体をつかんで海に引っ張り込もうとするか、エッチな手つきをするかなので、回復すべきダメージは無さそうだ――と思ったそのとき。
「きゃー!」
彦麻呂が太ももを手でかばいながら叫んだ。
「今ちょっとヌルっとしたー!!」
涙目になる彦麻呂。
「やんっ」
と、変な声を出したのはメルキューレだ。白い手が服の下に潜り込んでなにやらもぞもぞ動いている。
「畜生……最初はホラーな感じだったのに実際はこんなイロモノかよ!」
執拗に尻をなでようとする腕から逃げながら、紫廉がガトリングガンを連射した。
変質的な腕のせいで怪しげなムードが漂い始めたとき、優樹の叫びが響き渡った。
「青菜さんが落ちた!」
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ゴボゴボという泡の音に包まれながら、ああ、真っ暗だ、と青菜は思った。
首から下げた照明が青菜の周りを白く染めているが、その淡い光はかえって奥に広がる海の闇を際立たせていた。
青菜は自分が呼吸を止めていることに気づき、思わず笑った。すぐにESP『水中呼吸』を発動し、大きく息を吸い込む。スレイヤーカードからチェーンソー剣『理性』を具現化すると、海の底に目を凝らした。
一方、崖の上では優樹が八本の腕に体をつかまれ、宙ぶらりんにされていた。
「わざわざ飛び込んであげたのに、どうして邪魔するの!」
「一度に一人ずつなのかもしれませんね」
優樹と同じように、海に飛び込んだものの宙ぶらりんにされた彦麻呂が言った。
「のんびりしてる場合じゃねえぜ!」
紫廉のガトリングガンが火を噴き、優樹をとらえていた腕を全て薙ぎ払った。自由を取り戻した優樹は落下するままに海に飛び込もうとした。が、またもや腕に捕らえられた。
「ああん、もうっ」
「こうやって降りればいいのですよ!」
真夜が、都市伝説の手のひらの上をぴょんぴょんと飛び移りながら言った。伸びてくる腕を木の枝のように利用しながら、腕を一本ずつ始末していく。
「いいのですよって……!」
真夜の忍者めいた身のこなしに、優樹は思わず突っ込んだ。
「急行シマス」
体に殺気を纏ったイレーナが、一直線に崖から飛び降りた。つかみかかろうとする腕を殺気ではね除けながら、綺麗に着水した。美星も同じように、体に影業を纏い、伸びてくる腕を切りつけながら着水する。
「だんだん腕も少なくなってきましたね」
メルキューレが虚空ギロチンで彦麻呂をつかんだ腕を一挙に薙ぎ払うと、彦麻呂も海に入った。
海は冷たかった。彦麻呂はESP『水中呼吸』を発動すると、防水用ライトを伸びた腕に向けながら潜っていった。しばらく潜ると、海水が濁ってきた。先の方に、明かりが三つ見える。美星、イレーナ、青菜の明かりだろう。仲間たちは全員水中呼吸を使えるので溺れる心配は無い。問題は、海底に潜む本体の戦闘力だった。
(「これは、血……?」)
彦麻呂は、海水の濁りに血の臭いを感じた。そして、徐々に見えてきた都市伝説の本体を見て、小さくうめいた。
本体は球形だった。その表面には、人間がびっしりと張り付いている。人間を百人くらい集めて団子にしたようなものだった。そのほとんどの人には、腕がない。
これは都市伝説であって、本当の人間ではない。それは彦麻呂も理解しているが、何とも痛ましい光景には違いなかった。
その人間団子に青菜がチェーンソー剣を何度も突き立てている。そのたびに、海が血で濁っていった。
青菜、イレーナ、美星、彦麻呂は、海の中で都市伝説の本体に攻撃を浴びせた。一方、崖の上では真夜とメルキューレと紫廉が優樹を救い出し、四人はそのまま崖の上に残って戦っていた。
「みんな大丈夫かな」
優樹が無敵斬艦刀で腕を薙ぎ払いながら言った。腕は海の中からどんどん出てきたが、その勢いも徐々に衰えている。この調子なら、都市伝説を灼滅できるだろう。だが、海に入った仲間の無事は、ここからでは確認できない。
四人は崖の上で腕を刈り続けた。
「これで最後です!」
真夜のオーラキャノンが、紫廉の尻をなでようとした腕を貫いた。
「ふー、助かったぜ……」
紫廉はガトリングガンを置くとその場に座り込んだ。もう、腕は襲ってこない。全て倒したのだ。
「嫌な相手でしたね」
メルキューレは、体をまさぐられたことを思い出して身震いした。
優樹は崖の先端に駆け寄ると、崖下を覗き込んだ。
真っ黒な海の中から、美星が顔を出した。そして、少し微笑みながら優樹に手を振った。
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「人間団子、ですか……」
本体の姿を聞いて、真夜は顔をしかめた。許せない相手とはいえ、少し気の毒に思えてしまう。
「なんだよそれ。想像しただけでトラウマになりそうだ……」
着替えを済ませた紫廉が身震いした。
「ほんとうに怖かったですよ~♪」
怖がる紫廉に、イレーナがホラーな雰囲気を醸し出しつつ微笑んだ。
「ほんとうに、ひどい臭いだったわ」
美星が髪をタオルで拭きながら言った。
「今度は依頼じゃなく、遊びで来たいですねー」
同じく髪を拭きながら彦麻呂が言うと、皆は身じろぎした。ちなみに、ここは自殺の名所である。
メルキューレは崖の先端に立つと、首に下げた十字架に手を添えた。
「……自殺に肯定も否定もできませんが、せめて安らかに眠れることを祈ります」
青菜は、来る途中で摘んだ花を海へ投げ入れた。
「自殺の意思を持って来て都市伝説に食われた方も居るでしょう。そちらの世界で楽しんでますかねえ?」
優樹はただ、ここで亡くなった人が安らかに眠れるよう、黙祷した。
こうして、絶望岬の都市伝説は、灼滅者たちの活躍によって灼滅された。
作者:本山創助 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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