悪に誘い悪に近付き

    作者:幾夜緋琉

    ●悪に誘い悪に近付き
    『へへへ……もうけた、もうけた、っと……皆もご苦労! ほら、今日はコレで乾杯だぜー!』
     財布に入っていた金を握りしめ、にやりと笑みを浮かべる男。
     そんな男の周りに居る、ボロボロの服に身を包んだ男達も、彼の言葉に歓声を上げる。
    『まぁちょろいもんだよなー。あれじゃスッて下さいって言ってる様なもんだよなぁ』
    『そうだよなぁ。まぁ……抵抗したヤツもいたけど、歯応えねぇ相手だったよなぁ……ちょちょいと殺したらそれで終わりだったしよ』
    『はは、そーだよなぁ、やめろーって言うのを殺すのは爽快だったぜぇ』
     そんな会話を繰り広げている彼らは、元々はアモンの配下の、ソロモンの悪魔の配下であった強化一般人。
     そして彼らは、殺したり、スってきた金で宴会を上げていたのである。
     
    「皆さん、集まって頂けた様ですね? では……説明、させて頂きますね」
     槙奈は集まった灼滅者を確認すると、早速ではあるが今回の依頼の説明を始める。
    「今回皆さんには、この方達を倒してきて頂きたいのです」
     と言いながら見せた写真は、何だか性格の悪そうな若者の顔写真。
    「彼は不死王戦争で灼滅されたソロモンの悪魔、アモンの配下だった強化一般人の方です。戦争直後は何が起こったか解らなかった様で、活動を自粛していたみたいなのですが……どうやら主のソロモンの悪魔が居なくなったと考え、欲望のままに好き勝手やり始めているみたいなんです」
    「彼の悪事はスリ、恐喝……すれなかった場合とかは、完膚なき迄に殺している様で……到底スマートとは言えないやり方をしているみたいですね……」
    「幸い強化一般人ですので、個々の戦闘能力はさほど高くはありません。ですがその代わりに数で勝負、と言わんばかりに数が多いです……まぁスリの方達ですし、それをグループでやらかしている……という事の様ですね……?」
    「ちなみに彼らの攻撃手段はナイフと鉄パイプ。ナイフは斬りつける攻撃、対し鉄パイプは破壊能力に優れた武器です。この武器を持つのがそれぞれ半々居る模様です」
    「これら武器に、特筆すべきバッドステータスは無いのですが……その代わり、彼ら此処がとても素早く動けます。その動きに翻弄されない様、気をつけて下さい」
     そして槙奈は。
    「……ある意味彼らも、ソロモンの悪魔に利用された被害者であるとも言えます。しかし人を殺してしまった以上……ただの犯罪者でしかありません。皆さんの力で、しっかりと始末を付けてきて下さいね……お願いします」
     と頭を下げて送り出すのであった。


    参加者
    千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)
    本堂・龍暁(不動金剛・d01802)
    碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)
    三影・幽(魔道の探求者・d05436)
    木通・心葉(パープルトリガー・d05961)
    佐竹・成実(口は禍の元・d11678)
    清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)
    草薙・結(安寧を抱く守人・d17306)

    ■リプレイ

    ●小悪に傾き
     槙奈の話を聞いた灼滅者達。
     灼滅者達は彼らの根城である廃ビルへと向かっていた。
    「……全く下衆が。救いようも無い奴らだな」
    「そうね。好き勝手暴れたい放題。さぞかし痛快なのでしょうね」
    「だろうな。本当、大人しくしていればいいものを、欲望に身を任せて強盗……と。ダークネスでなくても許せませんね」
     碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)に、佐竹・成実(口は禍の元・d11678)、千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)が肩を竦める。
     アモンが居なくなり、思う存分に悪事を働いている強化一般人達……そんな小悪党達が巣くう廃ビルへ向かう。
    「しかしまた強化一般人による事件……ですか。元凶は悪魔で、彼らもある意味被害者なのかもしれませんね……」
    「そうでござるね。うーむ……大きな力を手に入れて、欲望のままに暴れる典型にござるなぁ。それまでの常識的には考えられない能力。しかも拘束力もなく、自由とあらばこうした輩が出るのは必定。結果的には我等も無関係ではないでござるから、ここは責任を持って解決に当たりたいところにござるな」
    「そうですね。彼らも被害者……救えるなら救いたかった……でも……自分のした事は償わないと……」
    「ええ……『自由』をこんな形で使ってしまった以上……消えて貰いましょう。自由とは……もっと有意義に使うべきものですから……」
     三影・幽(魔道の探求者・d05436)、清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)、草薙・結(安寧を抱く守人・d17306)らの言葉に、木通・心葉(パープルトリガー・d05961)、本堂・龍暁(不動金剛・d01802)、成実と爾夜が。
    「ま、悪知恵のやつは力を持つと誇示したがるという事だな。人殺しはボクは好かんのでな。容赦無く、やらして貰おうか」
    「ああ。大抵の奴は許すが、外道って奴だけは見逃さねぇ……ま、いかに外道退治でも、殺しはいい気分になれんがな。せめてもの慈悲だ、一瞬で眠れ」
    「まぁツケはきっちりと払って貰う事にしましょうか」
    「そうだ。きっちりツケを払って貰う。そしてせめて潔く散るがいいさ」
     そして灼滅者達は、残党達の生息する廃ビルへと急いでいった。

    ●悪の一つに
     そして灼滅者達は、生息域の廃ビルに到着する。
     不気味な雰囲気が漂うその場所に……ぽつり幽が。
    「廃ビルですか……」
     その呟きに、龍暁が。
    「ん、どうした?」
     と近付き、びくっとなってしまう幽。
    「い、いえ、あの……暗くて狭いですし、結構場所としては……好き、かもしれない……です……ね」
     ぎこちなく笑みを浮かべる彼女に、そうか、と龍暁は頷き……そして入口から中を確認。
     電気は落されていて、暗闇。しかしそんな暗闇の中から。
    『ったくよー、ほんとうちょろいよなー』
    『まったくだぜ。こんなんなら働かないでいいよなー』
     そんな言葉が、奥の方から聞こえてくる。
    「この中に居るのは間違い無さそうだな」
    「そうでござるね。しかし……本当にいい気になっている様でござるね」
    「……全くだな」
     爾夜、静音、龍暁が小声で会話しつつも……着々と準備開始。
     音を立てないようにしながら、廃ビルの周りを歩き回り、入口、出口の確認。
     そして……大きく二手に分かれるようにし、幽らは猫変身などを使い、人の身を隠しながら、廃ビルの中をとてとてと歩く。
     ……その声は次第に大きくなり始め……。
    『さぁてと、また次のをスってくるとするかなぁ。この力があれば軽い軽いってもんだぜ!』
    『へへ、全くだぜー』
     ……その言葉は、立て付けの悪そうなドアの中から聞こえる。
     どうやらこの中に居るのは間違い無いだろう……そして灼滅者達は、相互に視線を交して。
    「……行くでござるよ!」
     静音の合図に合わせ、一斉にドアをぶち破って中へと突入する灼滅者達。
     突然の突撃に、彼らは当然……驚く。
    『な、な、何なんだおめぇらは!!』
    「……ふん。お前等に名乗る必要は無い。だが……」
     バトルオーラをその背に纏いながら、爾夜はその場に居る強化一般人の詐欺師達を睨み付けて。
    「……己の欲求のみに従い、他者を踏みにじる者がのうのうと生きていられると思うな。こうして僕らが来たように、やがて悪は滅ぼされるのだから」
    「そうでござるよ、箍が外れたことでやりたい放題とは、悪ふざけと笑っておれぬでござる! 自分達のとった行動の意味を、その身で存分に味わうでござるよ!」
     爾夜と静音が威勢良く声を投げ放つ……それに詐欺師……いや、強化一般人達は。
    『っ……灼滅者って奴か。ったく……面倒な奴らが来ちまったもんだぜ』
     と舌打ちを飛ばす彼ら。完全に二人に注意が向いている中……隠れし仲間達は、大回りで彼らの後方へと急ぐ。
     ……そして仲間達が挟撃を取るまでの間、心葉、龍暁が。
    「しかし……惜しい奴らだな。君達の力は、正しい事に使えばもっと強くなれるはずだろうに」
    「そうだな……本当、惜しい奴らだ……こういう力も、手に入れるだろうに」
     龍暁はそういいつつ、傍らにあった廃材……普通二人でも一苦労しそうな大きさなのに、それを怪力無双でひょいっと持ち上げ、強化一般人の方へぶん投げる。
     ガンッ、と大きな音を立てて壊れる廃材……その力に、目を丸くさせてしまう。
     そして静音も、同様に……華奢な身体なのに、同程度の者を軽々ぶん投げる。
    『……な、なんだよこれ……おいぉい、やべーぞ』
    『そ、そうだな……お、おぼえてやがれ!!』
     と言って逃げようとするのだが……。
    「させませんよ」
    「ええ。逃がしません……覚悟して下さい」
     幽、心、成実、結の四人が、もう一つの出口に立ち塞がり封鎖していた。
     成実はその言葉と共に鬼神変でEN破壊を付与しておく。
     完全に逃げ道を塞がれてしまった強化一般人。
    『この……し、しかたねぇ……!!』
     懐からナイフを取り出したり、近くにあった鉄パイプを握りしめる強化一般人。
     そんな強化一般人に向けて心葉、心が。
    「まぁ力がもっと強くなるなど嘘だ。君達が求めようとも、くれてやるものなど一つも無いからな」
    「そうです。では、灼滅を始めましょう……これ以上罪を重ねる前に、殺してあげます」
     と宣言し、灼滅者達らが戦闘態勢を鳥、そして……龍暁、心葉がまずは特攻。
    「喰らえっ!!」
     渾身の力を、その腹に閃光百裂拳を叩き込む龍暁……身体が大きく壁に吹き飛ばされ、バウンドする。
     対し心葉は、無敵斬艦刀を頭上から大きく振りかぶって、強力な一撃を放つ。
     ……特にクラッシャー効果もあり、そのダメージは著しい。
     それに続けてディフェンダーの心、成実、静音と、幽の霊犬が、強化一般人達を包囲する様にして。
    「行きます……その悪事は、もうこれ以上許す訳にはいきません!」
    「そうでござる。これ以上の悪事は重ねさせないでござるよ!」
     心が黒死斬で斬りつけると、静音がシールドバッシュ、成実が閃光百裂拳、そして静音がシールドバッシュ。
     次々と討ち放たれる攻撃で、確実に強化一般人達の体力が削れていく……。
    『くそ……!! 皆、気合い入れろや!!』
     と威声を上げる。そして……ナイフと鉄パイプで斬りつけ、殴りの攻撃を仕掛けてくる。
     しかしそれら攻撃は、ディフェンダー陣が確実にディフェンス。
    「全く……仕方ない奴らだ。逃げようなどというこざかしい考えをしていたようだが……させん。大人しく散れ……」
     爾夜がオーラキャノンを放つと、スナイパーの幽、唯が五星結界符と除霊結界による足止め。
     そして、次の刻に龍暁、心葉の強烈な一撃を連続して叩き込み……まずは一人目。
    『ひ、ひいい!!』
    『おい、ビビってんじゃねーよ!! 俺達にゃ力があるだろうが!!」
     仲間が倒れた事に、悲鳴を上げる一人を罵倒する。
     ……どうやら全員が、戦闘に狂っているという訳では無さそうである。いや……灼滅者達の強さに恐怖を覚えてしまった……という事かも知れない。
     でも、もう後悔しても遅い。このまま放置しておく事は、強化一般人となってしまったからには出来ないし……このまま生き延びさせる訳にはいかない。
    『く、くそおお……!!』
     と、叫びながら、ナイフをぶんぶん振り回し、鉄パイプも所構わず叩き付けていく。
     その一撃が、龍暁にヒットするも……さして効いた様にも見えない。むしろ。
    「……謝っても許されない事をお前達はした。大人しく……覚悟しろ!」
     龍暁が、その首根っこを掴んで背中に背負い地獄投げ……床にたたき付けられた強化一般人は、そのまま動けなくなってしまう。
     その後も、一人、また一人……と確実に灼滅者達は、強化一般人達を倒していく。
     ……そして戦い初めて10分後。
     残るはあと一人……完全に周りを包囲され、彼の顔は絶望が浮かぶ。
     が……それを決して許しはせず。
    「ま……何だ。もう諦めろ……トドメだ」
     と心葉がすっと抜いた無敵斬艦刀……一挙に迫るその一太刀に、最後の強化一般人も、悲鳴を上げながら倒れるのであった。

    ●悪の痕
    「……終わった?」
    「……そうでござるね。ふぅ……」
     結に頷く静音。
     ほっとして気を抜いた所で、口元のマフラーがずりさがる……それをそそくさと直したりしつつ。
    「しかし、さんざん暴れさせて貰ってなんだが、なんだかスカッとしねぇな。割切る事も出来るだろうが、麻痺らせてはいかんこともあるな」
    「そうね……ともかく、安らかに眠りなさい」
     龍暁に頷きつつ、結が倒れた強化一般人達に向けて冥福の祈りを捧げる。
     そして……祈りを終えると、心が。
    「長居は無用ですね。死体を適当に処理したら撤退するとしましょうか」
    「そうですね……」
     心に頷く唯……そして灼滅者達は強化一般人達の骸を埋葬。
     その処理をしつつ、心は。
    「……なんか空しいですね。ダークネスを倒しても、世界は良くならないんじゃないでしょうか?」
     と呟く。
     ……とは言えダークネスを倒す事は、灼滅者としての使命。
     そして全ての片付けを終えての帰り道に静音が。
    「……しかし力、それ自体に善も悪も無いとはわかりきった事にござるが、力をこのような方向にしか使えないとは寂しい事にござるな」
     と憂う。
     強化一般人になってしまったのは、ある意味被害者かもしれないけれど、その力の使い方を間違わなければ良かったのかもしれない。
     でも、一度悪に墜ちてしまったからには、それを救うには灼滅しか無いわけで、灼滅者達は溜息をつきながら、廃ビルを後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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