おい見ろよあんなところに死亡フラグが!

    作者:若葉椰子

    ●当シナリオは死亡フラグを立てざるをえない状況にまで社員を追い詰めなければいけない会社を灼滅する社会派シナリオではありません
     某日某所、深夜。オフィス街の路地裏にて、それは起こった。
    「あー、今日も会社泊まりとか本当キツいわー」
    「仕方ないだろう、あのスケジュールじゃ毎日残業になるのは確定だったんだ。ここまで長引くとは思ってなかったけど」
     社会人二人の世知辛い会話。あり意味での地獄ではあるが、日常会話と言えなくもない。
    「俺さ、この過密スケジュール乗り切ったら田舎に帰るんだ……」
    「何言ってんだよ藪から棒に」
     しかし、その会話から偶然出た一言が、この二人の運命を激変させる事となる。
    「今度こそ、田舎の幼馴染にプロポーズするんだ。それで庭付きの白い家建ててさ、大きい犬飼ってさ」
    「おいやめろ馬鹿、そんなに死亡フラグをポンポン立ててるから見えてるじゃないか、死亡フラグ」
    「えっ」
    「……えっ」
     将来の事を話していた男の頭上には、のっぺりとした旗が浮かんでいた。
     それも、ご丁寧に『死亡』と書かれてある。
    「ちょ、何これ、俺どうなっちゃ……うわあぁぁぁぁぁ!!」
    「柿崎いぃぃぃぃぃ!?」
     その後、二人の行方を見た者はいない。
     
    ●当シナリオは死亡条件が多彩すぎて難易度の非常に高くなったゲームを面白おかしく紹介するシナリオではありません
    「ええと……『あなたは幸福ですか?』という問いに肯定しなかった人は14ページに……
     あっ、また死んじゃいました……」
     何やら本を広げてぶつぶつ言っている園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)さん。
    「……あ、みなさん揃っていたんですね。ごめんなさい、つい読書に熱中していました」
     先程の行動で一区切りついたらしく、灼滅者達の姿に気付いて頭を下げる。
    「あの、今回の依頼なんですが……みなさん、死亡フラグって、知っていますか?」
     死亡フラグ。フィクションにおけるお約束のひとつで、『これをやった人物は遠からず死ぬだろう』と思わせる行動や言動の事である。
    「この死亡フラグという俗語が……サイキックエナジーを受けて、実体化しています」
     数は一体。姿はフラグという名の通り、旗そのもの。真っ白なペナントの旗に、死亡という文字が書かれているらしい。
    「出現する場所は、深夜の路地裏です。深夜なので……人目を気にする必要は、ありませんね。街灯もあるので、明かりも充分だと……思います」
     出現条件は簡単だ。目的の場所へ行き、死亡フラグとなる行動をすればいい。
    「都市伝説は、死亡フラグを立てた人を、常に狙うみたいです。ターゲットを決めてから、しばらくの間は様子見をしていますが……」
     しばらく待ってもターゲットが変わらない場合、森羅万象断に似た特大ダメージの攻撃を仕掛けてくる。当たるとシャレにならないレベルだ。
    「これを防ぐには、みなさんが続けざまに死亡フラグを立て、標的を動かし続ける必要があります」
     なお、同じ人がターゲットになるにはしばらくの時間が必要だ。少人数で回すより、可能な限り全員が均等にフラグを立てるのが望ましい。
    「攻撃さえ来なければ……あまり倒すのに苦労する敵ではないと、思います。みなさんの機転で……この都市伝説を止めて下さい」
     最後に、死亡フラグを立てても絶対に生きて帰ってくださいと懇願する槙奈であった。


    参加者
    九条・茨(白銀の棘・d00435)
    桃山・華織(白桃小町・d01137)
    水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)
    二十世・紀人(虚言歌・d07907)
    鴨宮・寛和(ステラマリス・d10573)
    藤堂・十夜(カニスディルス・d12398)
    氷山・義治(押入れに住んでるわけじゃない・d15386)
    九条・雪斗(のらくらにゃんこ・d15521)

    ■リプレイ

    ●死亡フラグは取扱い上の説明をよく読み、用法用量を守って正しくお立て下さい
     深夜の路地裏。
     街灯がうすぼんやりと照らす中、死亡フラグを勝利への活路へと変えるべく灼滅者達が集まっていた。
    「私……この戦いが終わったら、彼を追い詰めて無理矢理告白させるんだ……」
     全員の戦闘準備が終わったと見るや、水心子・真夜(剣の舞姫・d03711)がフラグ『戦闘後に好きな人へアタックする宣言』を開始早々に成立させる。
     というかセリフが怖いですよ! なんかこう告白してくるまで追い詰め続ける気迫とか漂ってますよ!
    「……あは、冗談冗談。これじゃヤンデレのフラグよね。
     でもちゃんと、死亡フラグとして認識されたみたいだけれど」
     灼滅者達の眼前には、予知で聞いた通りの無機質な旗が存在していた。
     しかも、しっかり真夜をロックオンしているではないか!
     全員が総攻撃を仕掛けるなか、九条・茨(白銀の棘・d00435)の格好を一瞥した二十世・紀人(虚言歌・d07907)が声をかける。
    「ちょっと待て、そんな格好で大丈夫か?」
    「ああ、問題ない」
     フラグ『装備を心配され、自信を持って答える』成立の瞬間だ。まあ、激安ファッションですからね。心配ですよね。
     だからと言って一等いいのをくれと言われても困りますが。
     ターゲットが切り替わった事を確認し、二人でサムズアップ。
    「じゃ、存分に楽しむとするかね」
     そのままスタイリッシュに殴りかかる茨だったが、お約束というべきか真っ先に死亡フラグの餌食となった。
    「九条・茨、死亡確認!」
     駆け寄った真夜が、思わず宣言してしまう。あれ、それって生存フラグですよね?
     ともあれ安心して欲しい、彼はここで死ぬ定めではない。魂が肉体を凌駕する事によって立ち上がったではないか!
    「やっぱり強ぇな、死亡フラグ。俺が資料を読むだけで中間テストへの勉強時間まで削られちまうだけの事はある」
     紀人さん紀人さん、それはあんまり関係ないと思います。
    「まぁ良いさ。引き続き突撃を……」
     そう言って紀人が攻撃を再開しようとしたその時、桃山・華織(白桃小町・d01137)がフラグ『行動を起こしそうになった時、誰かの靴紐が切れる』を発動させた。
    「な、靴紐が本当に切れてしまったのじゃよ!? 演技で済まそうと思っておったのに!
     いかん、紀人殿! 本当にアブない気配が……!」
    「そうかい、そりゃスリリングだ。それなら尚更止まるワケにゃいかねえ!」
     死亡フラグが成立し、ターゲッティングされているにも関わらず、構わずに突撃する紀人。
     そう、元よりフラグを立てるのが目的なのだ。今更天然モノのフラグが増えたところでどうという事はない。これぞロック!
    「この戦い、負けるわけにはいきません。せっかく出来た友達に、パインサラダを作ってもらうよう頼んでいますから……!」
     重ねて、鴨宮・寛和(ステラマリス・d10573)のフラグ『パインサラダ』が成立した。こいつはステーキなんかよりも強い、食べ物系では最上位の死亡フラグだ!
    「その後は、映画を観に行く約束だってしているんです。絶対に生きて帰りますよ、みんなで!」
     更にフラグ『戦闘後のちょっとした幸せな予定』までつなげるという策士ぶり。
     友達が苦労して出来た大事な存在というのもポイントが高いだろう。恐ろしい子……!
    「しかし、ホント分かりやすい死亡フラグだなー」
     そして、九条・雪斗(のらくらにゃんこ・d15521)は闘いつつも敵である死亡フラグのあんまりにもそのまんまな姿に感心していた。
     シンプルイズベスト。単純ながらに強烈な存在感のあるそのフラグは、確かに立っているだけで死にたくなるかもしれない。
     しかし、死亡フラグならば折れるもの。そう考えれば怖くないだろう。
    「まーでも、これだけ押してりゃ余裕っしょ。100%勝てるわーこれ」
     気だるげに呟くその言葉は、果たして天然か狙っているのか。フラグ『やたら高い予想勝率』が立ち、標的が雪斗に切り替わった。
    「おっと、お前の相手は俺一人で充分だ」
     そこへご当地ビームを放ちつつ割り込む藤堂・十夜(カニスディルス・d12398)。
     その閃光が収まると、死亡フラグを指さして高らかに宣言する。
    「一刻も早くこの戦いを終わらせて、俺はタイムセールに行かなければならない。お前は犠牲となってもらう、かかってこい!」
     フラグ『後に待つ重要な用件を交えつつの挑発』発動。日々が金銭的に死活問題の彼にとって切実な、そして効果的な行動となった。
    「いやー、みんな頑張ってるなー。それじゃ俺も……」
     その戦いぶりを見て、氷山・義治(押入れに住んでるわけじゃない・d15386)のやる気も火がつく。
     お得意のバスターライフルを取り出して自慢したり、初依頼だからと自信過剰な振る舞いでフラグを立ててくれるのだろうかと思われた。
     が、しかし。
    「……あれ、もしかして俺ってばノープラン?」
     なんと、禁断のフラグ『ノープランで戦闘に挑む』を立ててしまっていた。
     恐るべきフラグである。あまりにも恐ろしいので、取り敢えず彼は極力いつも通りに戦おうと心に決めた。

    ●死亡フラグはお子様や一般人の手が届かない場所でお立て下さい
     各々が手を変え品を変え死亡フラグを乱立させ戦闘を続ける中、いつの間にかしとしとと雨が降り始めていた。
    「雨か……こりゃ嵐になるな。時化る前に船を見てくる」
     空模様を気にしていた茨が、唐突に謎の言葉を発して明後日の方向へ走ろうとする。
    「だ、ダメだよおじいちゃん! 今海に行くのは危ないよ!」
    「止めるんでねえ、華織! 漁師が船さ失くしたら、生きていけんくなるけんのう!」
     突如始まった即興の芝居により、フラグ『悪天候時に外へ出ようとする』が成立。
     漁師のおじいさんを演じる茨の機転もさることながら、それに合わせて普通の娘よろしく即座にのじゃ口調を放棄した華織の反応も賞賛に値するだろう。
    「雨ェー、それは俺の嫌いな悲しみの天気ィー……」
     降りだした雨にインスピレーションを刺激されたのか、紀人も即興で作詞作曲した曲を披露し、その歌声をサイキックに昇華させて戦場に響かせる。
     傍からは「ボエー!」としか聞こえない事が実に残念であるが。
    「説明しよう!
     これは今大気に広がっている雨という現象をサイキックエナジーにより俺の指揮下に置き、かつ悲しみの感情とともに歌として発散させる事で敵に多大なるダメージを与えるという
     俺がたった今考えた嘘だ!」
     嘘かよ!
     灼滅者達は思わずズッコケるかツッコみそうになったが、そんな事でもフラグ『自分の使った技について語る』を成立させるのだから恐ろしいものである。
    「雨かー、雷雨にならなきゃ良いんだけどなー」
     翻って、どこか淡々とした口調で別の心配をしている雪斗。
     どうやら、雷による停電を気にしているようだ。
    「最後のクエスト、ギリ終わんなかったからポーズ画面のままなんだよね…… 早く帰って終わらせねーと」
     その言葉によって、フラグ『戦闘前に中断したゲーム』が立つ。
     あと一息でコンプリートというところまで漕ぎ着けているのなら、その未練も尚更だろう。
     是非とも、これまでのフラグを全てへし折り生還したいところだ。
    「ふふふふ……この雨が私にヤンデレの力をくれるわ。
     愛する人が確かに存在している今、もう何も怖くない!」
     そして雨の中、真夜の猛攻が更に勢いを増していた。
     恋する乙女のチカラとでも言うべきか、あるいは病んででも相手を想うその執念ゆえか。
     どちらにせよ、この勢いは灼滅者達にとって歓迎されるものだろう。
    「私はこんなところで立ち止まってられない。絶対彼に告白されるんだ!」
     どうでしょう、この気迫。恋って凄いですね。
     これを邪魔しようものなら、馬に蹴られるということわざも納得出来るってもんです。
    「うむ、私も故郷に戻ったら、婚約者とささやかな花屋を持つという大きな夢があるのじゃ。
     こんなところでは、負けておれんな!」
     すかさず華織も便乗して、フラグ『将来の夢』を成立させる。
     その幸せそうな光景が容易に想像出来るあたり、死亡フラグとしての破壊力は相当なものだろう。
     いよいよもってヒートアップする戦闘。
     しかし、そろそろ死亡フラグのストックも尽きつつあり、どこまであの旗の攻撃を受けずにいられるか分からない状態となっていた。
    「……? フロインデさん、何を?」
     ふと、寛和が怪訝そうな顔で自身のサーヴァントを見やる。
    「えっ……『カンナハモウヒトリジャナイ、ミンナガイル』……? そんな、フロインデさんまで死亡フラグを!?」
     おそらく事前に仕込んでいたものだろうが、その迫真の演技の前ではそのような些事はどうでもいい事だろう。
     一度だけ主人へと振り返り、旗へと取り付く。
    「そんな、やだ、フロインデさぁぁぁぁぁん!!」
     素晴らしい場面だ。感動的だ。だが敵からの攻撃はない。フラグ『無口キャラが突然活発になる』を満たし、敵の待機時間を増やしたのだから!
     活路は開かれた。あとは全力で攻撃するだけだ。
    「お前の死亡フラグを、教えてやる……」
     渾身の一撃を叩きこまんと、ふらつきながらもしっかりと得物を構える十夜。
     この戦闘の後に行く場所がスーパーマーケットとは思えないほど、鬼気迫る表情だ。
    「それはッ! 俺達八人の灼滅者を前に、単身で戦闘していた事だッ!」
     トドメの一撃に相応しい斬撃が、死亡フラグに向かって振り下ろされる。
     この瞬間、確かに死亡フラグを折る事に、成功したのだ。

    ●死亡フラグの効果には個人差があります
    「終わった、か。
     しかし、あれだけ死亡フラグを立てたのに全員生き残っているとはな……」
     都市伝説の消滅を確認した十夜が、死亡フラグとは何だったのかと問う。
    「なに、簡単な事さ。死亡フラグの乱立は生存フラグになる……ってね!」
    「……たまに本当に死ぬけど」
     その深淵な問いに、茨は得意げにイイ笑顔で応え、雪斗が補足するようにオチをつけた。
     何にせよ、無事で済むのは灼滅者達にとって何よりもありがたい事だろう。
    「そう言えば、死亡フラグついでに惚れた腫れたを言ってたヤツもいたなぁ?」
     何気なく放った紀人の一言に、真夜と華織が反応する。
    「ええ。無事に切り抜けられたから……いよいよ本気でアタック出来そうね?」
    「ち、違うのじゃよ!? 婚約者などはおらぬし、花屋というのも嘘っぱちじゃからな!?
     ただこう将来的にはそういうのも悪く……いや何でもないのじゃー!」
     自信を持って答える真夜と、必死になって先程の発言を撤回する華織。二人の反応は対照的だ。
     しかし、どちらも今後の行動が気になる良い反応である。
     そんなやり取りも、全員が死亡フラグを破壊し生存出来たからこそ交わせるものだろう。
     改めて死亡フラグの恐ろしさと生存のありがたみを確認し、灼滅者達は日常へと戻っていく。
     そして。
    「また皆さんとご一緒出来るのを、楽しみにしていますね」
     最後に場を締めくくった寛和の発言により、フラグ『再会の約束をする』が成立した。

    作者:若葉椰子 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 14
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