パイ投げを制せよ乙女!

    作者:一文字

    ●ボクとデートしたいならパイ投げに勝って下さい。
     パイ投げとは、人間の顔面に向かってパイを投げることを言う。
     主に悪戯や罰ゲームとして行われるそれは、一瞬にして場を笑いで包み込んでくれる。そんな喜劇的な遊び。
     しかし……とある体育館で行われるパイ投げはその限りではない。
    「往生、せいやああああッ!」
     怒号を乗せて射出される平たい物体。肉食系少女が放ったクリームパイはゆるふわ系ガールの顔面を正確に捉えた。
    「ぎゃふんっ!」
    「いつも猫かぶりやがって……ずーっと気に入らなかったんだよ!」
    「隙ありっ」
    「な、何――ゴフッ!」
     横からやってきたメガネ女子が肉食系少女にパイを叩きつける。奇襲に気づけなかった少女は為す術もなく床に転がった。
     まさにパイによる無法地帯。一方でステージ上には白い地獄絵図を眺める少年の姿があった。
    「ぷっ、あはははははっ! なんて滑稽な絵面なんだ!」
     2人の屈強な男を従えた少年は豪華な椅子の上で笑い転げる。顔面をクリームまみれにした少女達を見下す彼の瞳は闇に濁っていた。
    「勝者にはボクが1日デートしてあげるんです。その分、精々無様な見世物でこの美しいボクを楽しませて下さい。……この美しいボクをね!」
     彼としては大事なので2回言っておきました。

    ●このボクが楽しませてあげるんだからありがたく思って下さい。
    「どうやら自分とデートしたい女の子を集めて、パイ投げで決着を付けさせてるようだ。それも放課後の体育館を乗っ取って」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は半ば呆れ顔で説明を始める。
    「奴の名前は涼風。名前の通り、という表現は些か問題があるかもしれないが、とにかく外見は非常に爽やかな青少年だ」
     いつしかとある中学校に紛れ込んだ彼は女子からの絶対的人気を確立。チヤホヤされるのは気分がいいけれど、毎度毎度デートを申し込まれるのは面倒臭い。そこで彼が思いついたのが、パイ投げによるデート権争奪戦である。
    「涼風は自己愛が強く、相手に求めるハードルも高い。顔をパイまみれにした奴なんてお断り、ってことなんだろうな」
     見世物と選別を兼ねたパイ投げバトル。彼にとっては退屈しない妙案なのだろうが、そんなことで少女達の心が傷つき、学園を荒らされては堪ったものではない。
    「涼風の灼滅。それが今回の目的だ」
     以下、敵の詳細である。
    「涼風は配下と共に体育館を占領してから、女子生徒達に争奪戦を行わせる。恐らくお前達が突入するタイミングは争奪戦開始直後以降になると思う」
     無数のパイが飛び交い、クリームが散らばる空間の先。ステージ上で涼風は暢気に観戦していることだろう。しかし決して無防備ではない。配下の男が2人、涼風を守るように配置されている。
    「無闇に特攻すればいい訳じゃないってことだな。とりあえずまずは女子生徒達が戦闘に巻き込まれないように対処して欲しい」
     女子生徒の数は12。それもデート権を得るために必死。説得して、ハイソーデスカ、と簡単に引き下がってくれるとは思えない。
    「女子生徒の保護と涼風を引きずり出す手段。それらはお前達に一任したい」
     スナイパーの涼風はリングスラッシャー、クラッシャーとディフェンダーの配下はそれぞれ無敵斬艦刀とWOKシールドと同等のサイキックを用いる。ナルシストな涼風は基本的に自分が傷つかないように配下を盾にして立ち回るだろう。
     俺からの説明はそれくらいだ、とヤマトは資料を閉じる。
    「自分に好意を抱いてくれてる人を見世物扱い、か。あんな奴に弄ばれちゃ悔やんでも悔やみ切れないだろうな。これ以上の横暴を許さないためにも頑張ってくれ。頼んだぞ、お前達」


    参加者
    三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)
    リタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    アデーレ・クライバー(冷えた炎纏う鷹・d16871)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)

    ■リプレイ

    ●最恐パイ投げ選手権!
    「むきー、この年増ー」
     行方不明の音程で発せられる叫び。アデーレ・クライバー(冷えた炎纏う鷹・d16871)が放ったクリームパイは短髪女子の顔面に勢いよく直撃した。
    「今だ、隙あり!」
     背後に潜んでいたテニスウェア少女がアデーレを狙う。しかし投じられた物体は隣から飛来したパイに相殺された。
    「貴方がスキだらけよっ」
     投擲者である神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)はそのままテニスウェア少女に接近、用意していたもう一枚のパイを当てる。怪我をさせない程度の一撃ではあったが、少女が負けを悟って戦意を喪失するには十分だった。
    「はいはい、負けた人は外にでてねー」
    「ほら、捕まるでござるよ」
     小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)が力なく崩れたテニスウェア少女に声を掛け、潜入用としてくの一姿になったハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)は完全に倒れた短髪女子を抱えて外まで運んでいく。彼らの腕には『スタッフ』と記された腕章が巻かれていた。
     遡ること数分前、灼滅者一行は『デート争奪パイ投げ大会』の会場である体育館に突入。男子は敗者の誘導、女子はパイ入り乱れる会場に乱入した次第である。

     以下、簡単な回想。
    『待って、私達も参加したいのっ』
    『涼風くんとのデート権は私のものよ!』
    『かれとのデートはうちをたおしてからにしろー』
    『あなたのマブシイ笑顔にひかれましたー』
    『涼風君、僕にとっての人生の相方になってはくれないか?』
    『へえ、君達もコレに入りたいんですか。いいですよ、人数が多い方がきっと面白いですから。全く、ボクの美しさは本当に罪ですね』
     以上、回想終了。淫魔涼風は皆が本気で彼に惹かれてやってきたと思い込んだらしい。おめでたい頭である。

     そんなこんなで絶賛パイ投げ中な女子一行。華麗に勝利を収めたアデーレと紫の背後では、鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)が長髪ガールと対峙していた。
    「かれはうちのものー。わたさんのよー」
     涼風を前にしている手前、それらしい発言をする珠音。もちろん全力で棒読みである。
     それはこちらのセリフよ、と長髪ガールが大きく振りかぶる。珠音は瞬間的に距離を縮めて腕を掴むと、動きが止まった隙にパイをぶつけた。
     威力は決して強くない。それに上手い具合に髪を避けて当てられている。それを悟った長髪ガールは眉をひそめた。
    「……手加減のつもり?」
    「涼風風情にその髪を――」
    「風情?」
    「あー、いやいや、今のは風情のある涼風って言ったんよ? ともかく綺麗な髪を台無しにしたくなかっただけじゃ」
    「……そ。どうやら私の完敗みたいね」
     パイを当てられて頭が冷えた上、珠音の態度にやる気を削がれたのだろう、長髪ガールは両手を上げて降参の意思を示した。
     着々と勝ち星を重ねていく灼滅者メンバー。無傷の勝利が続く一方、1人だけ清々しいほど真逆を突っ走る少女がいた。
    「喰らえェェェェェ!」
     振り下ろされるレスリング女子の豪腕。ゼロ距離で射出されたパイはリタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)の顔面で砕けて散らばった。
     しばしの沈黙。顔全体がクリーム塗れの所為でリタの表情がいまいち窺えない。特にリアクションもなく突っ立つ彼女にレスリング女子が思わず首を傾げた次の瞬間――、
    「……やり返しはギャグの基本っ」
     突然リタが相手に全力でパイをお見舞いした。
     レスリング女子の脳天に叩きつけられる鋭いドツキ。パイと共に襲う衝撃に耐え切れず、レスリング女子はパイだらけになりながら地に伏した。
     直後、リタもぶっ倒れるのだが。
    「お、おい、大丈夫か!」
     三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)が急ぎ駆け寄る。顔を覗き込むと、クリームがぶち撒けられたメガネの奥でリタが心底真面目な表情を浮かべていた。
    「今のボクは中々だったと思うんだけど、君から見てどうだった?」
    「こうして心配して駆けつけてきたのが答えだよ」
    「なるほど、もっと精進が必要のようだね」
     打ちどころがまずかったのか、とちょっとズレたリタの言動にゲッソリする柚來。ともあれ無事のようで何よりである。
     激闘の末、残る一般女子生徒は1人。灼滅者を除く最後の女子は今まさに白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)と衝突する瞬間だった。
    「はあああああッ!」
     叩き潰さんという気概を乗せた一撃が襲う。朝乃は後方に飛ぶことでそれを紙一重で避け、横薙ぎに迫る追撃を肘で腕ごと弾いた。
     宙に浮くパイ。相手が腕の痺れで悶絶している隙に朝乃はクリームパイをキャッチ、そのままラストガールに叩きつけた。
    「これで……終わりっ」
     パイが顔を捉え、勢い良くクリームを飛び散る。頬に付着したパイの残骸を手に取り、茫然と見つめるラストガール。何が起こったか分かっていない彼女の肩を朝乃が優しく叩く。
    「そんな姿を涼風さんに見られたくはないでしょ? だから、ね?」
    「――っ。あ、たしはただ……涼風君がずっと好きで……だから、だからっ……」
    「……もう、いいから。外に出よう」
     泣きじゃくる少女の手を取り、それとなく体育館外へ誘う。止めどなく涙を流す彼女の横顔に朝乃はそれ以上言葉を掛けられなかった。
     一般生徒が退場し、灼滅者達だけが残される体育館。先程までの喧騒が嘘のような静寂に涼風は訝しげな表情を浮かべる。
    「ん……どうしたんですか。さあ、雑魚は消えました。貴方達も――」
    「うるせえよ、ナルシスト」
     告げる柚來。最大級の怒りを孕んだ声音のまま逆手で体育館の扉を閉めると、近くのテーブルの上に置かれたパイを手に取る。
    「こそこそと裏方に徹してたが、もう我慢の限界だ。……いつまで高みの見物決め込んでんだよ」
    「そろそろ降りてきてもらうでござるよ」
     左手に外した金髪ツインテールのウィッグを、右手にクリームパイを手にするハリー。亜樹もまたそれに倣ってパイを片手に隣に並ぶ。
    「それじゃ皆いくよー。……せーの!」
     そして灼滅者一行の手からステージ上に向かってパイが投擲された。

    ●実際パイをぶつけられた方のテンションの下がり具合は半端じゃない
     パーンッと弾ける音がステージ上に響く。散乱したパイ生地と広がるクリーム。しかしふんぞり返る少年は綺麗なまま。彼の前にはパイに塗れた丸太のような腕が2本、盾のように交差されていた。
    「……何のつもりですか」
    「見て分からないのかい。そろそろ主役交代だ。いつまでも自分だけ汚れないのはナンセンスだろ?」
    「うん、そうですねー。でもリタさんはそろそろ顔拭いた方がいいと思いますよー」
     未だに顔面パイ塗れなリタに紫がハンカチを差し出す。芸人にとってパイをぶつけられるのは非常にオイシイことだが、これでは表情すら分かったものではない。
    「チッ、とんだ邪魔が入ったものだ。折角の見世物が台無しじゃないですか」
    「もぐもぐ……。いやぁ、性根が腐れてますね。筋肉つけて出直して下さい。……ごくんっ」
     アデーレは何気にパイを平らげ、手に付いたクリームをペロッと舌で舐め取る。瞬間、パイに代わって彼女の手に得物が出現、後衛に夜霧を展開した。
    「ニンポー霧隠れー」
    「クロステス・フリノット・カティバ・ガリノス」
     覚醒の言の葉。灼滅者の力を開放した亜樹が力強く床を蹴ったのを合図に、極限状態で保たれていた緊張の糸が一気に切れた。
    「女の子たちを競わせて楽しむような人たちはおしおきしちゃうよっ」
     亜樹の手で回転を始める長槍。何重もの軌跡を描いた穂先は、射程圏内に入ると同時に斬艦刀を手にした配下の男の脇腹を抉った。
     男は螺旋の一撃を受けながらも、得物を振るって亜樹にカウンター。
    「ボスに仇なす者はオレ達が排除する」
    「その意志は立派じゃな」
     しかし、と珠音は塵殺領域を展開。殺気の嵐が敵前衛を包み込む。
    「仕える相手を間違えちょるよ、お前ら」
    「それはもしかしてボクをことを言ってるんですか?」
    「他に誰がいるんだよ、色男」
     柚來の片腕が異形化。直後、凄まじい膂力を持った拳が側方から迫っていたクラッシャーの顎を強かに打ち、男の巨体を宙高く打ち上げた。
     地面に叩きつけられるクラッシャー。しかし柚來の視線は殴った相手ではなく、その先で悠々と微笑む涼風に向けられていた。
    「女の子達をあざ笑うとかイケメンでも男として最低だなっ」
    「だったら何ですか。ボクが彼女達をどう動かそうと勝手でしょ?」
    「……いっそそう言ってもらえて助かりました」
     ここで改心されたら気が緩むから、と続ける紫。彼女の霊犬が振るった斬馬刀と螺穿槍が交わるようにクラッシャーに集中する。
    「やっぱり貴方は女性の敵です。これで遠慮無く野放しにせずに済みます!」
    「それでも我らはボスを守る」
     ディフェンダーの男がクラッシャーを回復。同様に亜樹の治療に取り掛かる朝乃のナノナノ――ぷいぷい。その合間を縫うように忍装束が体育館を疾走する。
    「行くでござるよ、ニンジャケンポー・ティアーズリッパー!」
     赤いマフラーが揺れ、光剣が煌めく。死角から繰り出される高速の刃にクラッシャーの男は何とか反応して斬艦刀を合わせたが、隙を突いて朝乃が迫っていた。
    「人の心を弄ぶなんて絶対に許さない。彼女達に代わって私達が貴方達を倒す!」
     パッショネイトダンスによる前衛攻撃。情熱的な舞を魅せる朝乃だったが、その直後、光の輪が遠方から飛来した。
     技後の硬直を狙った一撃。朝乃は高速で襲い来るリングスラッシャーを見つめることしか出来ず、思わず目を瞑る。
    「危ないっ」
     咄嗟に反応したのはリタだった。ウロボロスブレイドを周囲に展開していた彼女は身近に落ちていたパイを拾い上げて投擲。……己のビハインドに向かって。
     主からのパイ投げにあったビハインドは倒れるように前に出てしまう。それがちょうどリングスラッシャーの射線上なのだから、直撃を受けて吹き飛ぶのは必然であった。
    「よくやった、高崎。身を呈して女の子を守るとは見上げた根性だ。それに身体を張る君も輝いてるぞっ」
     光輪を浴びた相棒を心配するどころか、サムズアップするリタ。一方的に酷い目に遭ったビハインドだが、仲間の身が守れたのだからひとまず良しとしよう。
     最初の攻防を終え、改めて間合いを空ける両陣営。涼風は倒れていない灼滅者と傷ついた己の部下を交互に見て面白くなさそうな顔をする。
    「どうやら本気でボクを怒らせたいようですね」
    「それは勘違いよ。怒るべきなのは外で泣いている女の子達であって、貴方じゃない」
    「もう結構。貴方達の意志は十二分に分かりました。……全力で殺してあげます。かかってきなさい」
    「望むところでござるよ!」
     高まる殺気と闘志の波。瞬間、戦いは次なる攻防へと移った。

    ●決着はクリーム色に染まって
    「これで……倒れなさい!」
     涼風の周囲を滞空していた光輪が分裂、主の命に従って空を裂く。7つに分かれたリングスラッシャーは縦横無尽に飛び交うが、亜樹は軽やかな身のこなしでそれらを躱し、気が付けば淫魔の正面に躍り出ていた。
    「まけないよ」
     静かでありながら確かな決意の表れ。呼応して輝く拳は目を剥く淫魔の身体を何度も打つ。
    「くっ……」
    「これで終わりではござらん!」
     たたらを踏む涼風の背後でハリーの影が蠢く。刃に形を変えた漆黒に背中を大きく裂かれた淫魔はついに膝を崩して床に転がった。
    「嘘だ……。嘘だこんなの……。なんでボクがこんな目にっ……」
     彼にとっては受け入れ難い現実だったのだろう、うなされるように呟く涼風。その時、震える指が先程己を守って倒れた配下2人に触れた。
    「お、お前達いつまで寝てるんだ! あいつらからボクを守れよ!」
     呻き声を上げるだけの配下を殴る。刹那、正確に反応した彼の本能が背後から漂う並々ならぬ憤怒を感じ取った。
    「一途な心を弄ぶ淫魔。貴方は人の心をなんだと思ってるのっ」
    「さて……どう料理してあげようか」
    「そのキレイな顔を歪ませてくださいー」
    「この一撃、パイ投げに散った女の子達の想いも乗せましょう」
    「これだけ気持ちよく叩き潰せる相手は久しぶりじゃね。……覚悟は出来ちょるよなー?」
     何故か得物ではなく、これでもかと言わんばかりの量のクリームを乗せたパイを手に立ちはだかる女子メンバー。ゴゴゴゴゴッと聞こえてきそうなオーラである。
     味わったことのない眼前の恐怖。命が惜しい涼風は必死の抵抗を見せる。
    「ま、待てっ。ここでボクを見逃せば、デート権を君達全員に与えます。もちろんまとめてではありません。別々の日に1人ずつデートをしてあげます。分かりますか、美しいボクがですよっ」
     ニッコリと笑顔を浮かべる女子一同。助かった、と涼風は安堵の溜息を吐く。
    「さ」
    「よ」
    「う」
    「な」
    「らー」
     当然助かる訳もないのだが。
     顔面に叩きつけられる会心の五撃。パイ投げというよりも、パイを手にした強烈なストレートパンチに近い。頭全体を覆うようにぶち撒けられたクリームの所為で表情どころが原型すら判別不能である。
     無残な元イケメンは宙を舞う。そんな彼を地上で待ち構えるのは、鬼神変で巨大化した手を握り締める柚來。その腕に特製のパイを添えて。
    「そおいっ!」
    「ぼふえあおほぁぁぁぁぁッ!」
     豪腕と共に顔面にめり込む特製パイ。パイ投げ史上最強であろう一撃を浴びた淫魔の体はクリームとパイ生地に塗れながら消滅した。

    「えっと、さっきはごめんね。これで顔拭いて」
     戦いを終えて外に出た朝乃が真っ先にやったのは、先程退場させてしまった女子生徒にハンカチを渡すことだった。
     柚來は返り血ならぬ返りクリームを払うことも忘れて大きく伸び。
    「あー、スカッとした! やっぱりパイ投げは楽し――じゃなかった。ああいう淫魔を倒せて良かったなホント」
    「今本音がチラッと出て来ましたね」
    「でも見ててスッキリしたのは事実じゃな」
     ニシシと悪戯っぽく笑う珠音。しばらくはあのクリーム頭で笑い話が出来そうである。
     一方その頃、残りの女子メンツはというと……。
    「僕にもパイをくれるかな?」
    「モグモグモグモグ、どうぞー」
     暢気にパイを分けあっていた。
     モシャモシャとパイを平らげていくリタとアデーレを始め、勝利の余韻に浸る一行を眺めて、亜樹もまた任務達成を実感する。
    「これで一件落着、かな?」
    「うむ、これで平和は守られたでござる。ではそろそろ拙者達は参ろうか」
     行くでござるよー、という呼びかけに応えて、一行はハリーの許に集まる。そして彼が懐から取り出した玉が地面に落ちた瞬間、周囲に煙幕が溢れ出した。
     しばらくの後、灰色の煙が風に流れて消える。そこに灼滅者達の姿は既になく、人数分のタオルが静かに置かれていた。涙とクリームを拭うために。

    作者:一文字 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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