もふもふ鼬の好きなもの

    作者:飛翔優

    ●薄布引き裂く鼬
     とある休日の公園。ベンチに腰掛けていた翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)が、メモを開くとともに深い溜息を吐き出した。
    「よもや、このような都市伝説が現れようとは……」
     ――薄布切り裂く鼬。
     場所は東京都下のベッドタウン、やや外れた場所にある畑道。
     膝丈スカートをはいて歩いていると、何処からともなく鼬の集団がやって来る。
     その小さな体に風の刃を纏い、膝丈スカートを切り裂いていく……。
    「……知らせよう。このような存在とはいえ都市伝説、何かがあってからでは遅い」
     今一度深い溜息をはいた後、アレスはメモを仕舞い立ち上がる。
     向かう先は武蔵坂。灼滅者たちが集う学び舎だ。

    ●放課後の教室にて
    「そういうわけだ。葉月、よろしく頼む」
    「はい、アレスさんありがとうございました。それでは早速、説明を始めさせて頂きますね」
     アレスに頭を下げた後、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちへと向き直る。
    「東京都下のベッドタウンで、次のような噂がまことしやかに囁かれています」
     ――薄布切り裂く鼬。
     まとめるなら、やや外れた場所にある畑道を、膝丈スカートをはいて歩いていると、どこからともなく鼬の集団がやって来る。やつらは、その膝丈スカートを狙っているのだ。
    「……はい、都市伝説ですね。今回、皆さんにはこの都市伝説を退治してもらうことになります」
     葉月は地図を広げ、畑が並んでいる場所を指し示した。
    「現場はこの辺り。この辺りを、膝丈スカートをはいて歩いていれば鼬の集団はやって来ます。時間帯は……夜になりますね」
     後は、鼬の集団を叩きのめせば良い。
     数は五体。力量は灼滅者一人よりは強い程度で、妨害能力に優れている。
     攻撃方法は、スカートはおろか防具すらも切り裂く勢いで放たれる風刃。もふもふな体を生かした体当たりにより麻痺に似た力を与える技。相手の服の中に風を送り込み蠢かせる技の三種。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図など必要な物を手渡した後、説明を締めくくる。
    「なぜこのような都市伝説が生まれてしまったのか……それはわかりません、ええわかりませんとも。ですが、現実のものとして現れてしまった以上倒さなければなりません。どうか皆さん油断せず、確実な討伐を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    神宮寺・三義(路地裏の古書童・d02679)
    リアノア・アイゼンガルド(金色の夢・d06530)
    風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)
    翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)
    綺堂・妖(小学生妖術使い・d15424)
    紅神・聖(やさぐれスクールガール・d15668)
    フィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847)

    ■リプレイ

    ●月下に駆ける切り裂き魔
     深い闇に染まりゆく東京都下のベットタウン。都心と比べれば月や星々を多く伺うことができる街中の更に光の弱い場所、街の外れにある畑道に灼滅者たちはやって来た。
     都市伝説、薄布引き裂く鼬を呼び出すために囮を担うのは、膝丈程度のスカートをはいた三人の少女。残る面々は、影に隠れ見守る……出現後直ぐに飛び出せるよう準備を整えていく予定である。
     囮を担う三人に不安があるかと問われれば……外から見ただけではわからない、というのが本音だろうか?
     何せ、街灯の少ない畑道。月明かりを頼りに歩く他ないのだから……。
    「っ!」
     ……心地良い土の匂いをそれとなく嗅ぎながら歩いていたヴィクトリアンメイド・リアノア・アイゼンガルド(金色の夢・d06530)が、五つの気配を感じて振り向いた。
     佇む鼬が、風を放つ。
     三人のスカートを切り裂いていく。
    「……」
     リアノアはメイドらしくとても落ち着いていた。
     少しずつ剥いて行くつもりだったのか美麗で健康的な太ももをそれをより魅力的に見せるガーターベルトを晒す程度に収まったのも影響していたのかもしれない。
     一方……。
    「きゃっ」
     風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)は小さな悲鳴を上げながら、前後の布地をかき集める。
     顔を真赤にしながらスレイヤーカードを取り出して、声高らかに宣言した。
    「……さあ、唄を紡ぎましょう」
    「……」
     フィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847)は暗闇に紛れる程度のみの被害に収まったからか特に気にした様子はなく、落ち着いた調子でスレイヤーカードを構えていく。
    「Sie sehen mein Traum,Nergal」
     定められたワードを唱えると共に八枚の翼を、デモノイドの証たる漆黒の皮膚を解き放ち、二本の刀を引き抜いた。
     様子が違うことに気がついたのか、五体の鼬も臨戦態勢を取っていく。
     月と星々が見守る中、少女たちを守るための戦いが開幕した。

    ●風の刃を受けながら
     隠れ見守っていた仲間たちの内、最初にやってきたのはライドキャリバーのザウエルにまたがる影道・惡人(シャドウアクト・d00898)である。
    「おぅ、もっとしっかり脱がせやコラ」
     妄言を吐きながらも鼬たちの間合いの外側にて立ち止まり、蛇腹剣を振り回す。
    「間違えた。おぅヤローども、やっちまえ!」
     ザウエルに援護射撃を命じつつ、風刃舞い散る竜巻を鼬たちに差し向けた。
     続いて到達した翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)は、静かなため息を吐き出しながらゆっくりと狙いを定めていく。
    「長いスカートを狙う……か。よほどのミニスカ好きな奴なんだな」
     額に汗が浮かぶのは、決して興奮しているからではない。
     ただ、暑い。風はあれど、空の閉ざされていない状態では。
    「……夜なのにあつい……」
     七つに分裂させた雪の結晶が如き輪で鼬たちを薙ぎ払いながら、今一度ため息を吐いて行く。
    「さて……本格的に刀を使うのはどれ位まえじゃったかな。百か? 二百か? それとも千じゃったかな? まぁよいわ。どの道加減なぞ出来る器用な腕は持っとらん。そっ首撥ねられても恨むでないぞ、口承の化生よ」
     軽い調子で宣告しながら綺堂・妖(小学生妖術使い・d15424)は舞うかのごとく日本刀を振り抜いた。
     踊るがごとく輪を避けている鼬のうち先頭に位置する個体を狙い、下から上へと切り上げる。
     反撃は、後方に位置する個体から、
     風刃と、勢いのついた体当たりにて。
    「オラッ」
     呼応するかのように、惡人が弾丸を放ちザウエルが再びガトリングを連射した。
     鼬たちを踊らせながら、先頭に位置する個体を貫いて……。

     程なくして、灼滅者たちの戦線も整った。
     盾による突撃をぶちかました神宮寺・三義(路地裏の古書童・d02679)は、鼬の放つ体当たりを真正面から受け止める。
    「っ! ……冗談みたいな相手だけど、油断はできないね」
     わずかに痺れる手足を叱咤し鼬を押し返し、一旦後ろへと退いた。
     深い息を吐いた後、土が植物たちが放つ香りを力を体内へと取り込んでいく。
     痛みを消し、体内を巡り始めた麻痺毒を浄化して、再び立ち向かうことができるよう。……だが。
    「っ!?」
     横合いから風を浴び、三義は一瞬動きを止めた。
     構わず風は服の中を廻り出す。
     蛇が如き年度を持って、青い果実(男)を蹂躙する。
    「ちょっと気持ち悪いかも……っっ。でも……!」
     三義は気を張り符を引き抜き、狙い続けている個体に投げつけた。
     眠り闇へと紛れていくさまを横目に見つつ、リアノアが静かな風を巻き起こす。
    「皆さん、ご無事でしょうか? 私たちが支えますので、安心して戦って下さい」
     優しい流れは麻痺だけでなく纏わり付く風を浄化し、引き裂かれた布を修復してくれる。
     アレスは小さく頭を下げてお礼の意思を示しながら、再び輪を七つに分裂させた。
    「毛だらけで暑いだろ? 刈ってやる」
     鼬たちの中心部へと差し向けて、別け隔てなく切り傷を与えていく。
     手元に戻ってきたのならば即座に再び分裂させ、瞳を細め狙いを定めた。
     いくら意識から除外しようとしても、見た目の暑苦しさは変わらない。自然と服も汗ばみ張り付いて、心地悪さが増していく。
    「……見てるだけでも暑苦しい。こ、今年は猛夏なのに更に暑くさせる気か!」
     苛立ち混じりに輪を差し向け、再び切り裂いていく。
     襲い来る輪に鼬たちが踊らされていくさまを冷たく細めた瞳で捉え、フィアは腕を巨大な砲台へと変貌させた。
    「……」
     言葉なく解き放てば、強い毒性を帯びた光が右端に位置する個体を貫いていく。
     次に狙うべきはその個体だと、紅神・聖(やさぐれスクールガール・d15668)が唇を軽く噛みながら影を刃に変えて差し向ける。
     曰く、もふもふしたい。
     しかし、タイミングを逃しその隙が見当たらない。
    「……切り刻まれる経験を自分でもするといいのです」
     何事も学習だと振りぬけば、右端の個体は動きを鈍らせる。
     概ね灼滅者たち優位な状態で、戦いは進んでいた……。

    ●もふもふは薄布を切り裂けない
     更に一匹の仲間を失ってなお暴れ続ける鼬たち。
     うち一体の体当たりを受け止めた妖が、強く、強く抱きしめた。
    「ふむ……もふもふじゃの。このような鎌鼬は見たことないが……」
     軽く毛並みを手で撫でて、柔らかな感触と温もりを堪能する。
     件の鼬は逃げようと暴れているけれど、容易に手放すわけがない。
    「なるほどのぅ。これが噂によって実体を出現させた存在下! まるで百語りじゃのー」
    「その手がありましたか!」
     穏やかなにもふもふを堪能している妖を見て、聖がポンと手を打った。
     刀を腰にしまった後、鼬に向かって無防備に両腕を広げていく。
    「もーふーらーせーろおおおおおおお!」
     絶対にもふります、と誓っていた聖。
     並々ならぬ執念……もとい熱意が通じた、最後方に位置していた個体が体当たりをかまして来た。
     腰を落とし体全体で受け止めて、聖は強く抱きしめる。
    「もふー、柔らかくてさらさらで……」
     撫で上げながら頬ずりし、瞳を心地よさそうに細めていく。鼬が暴れても気にせずに、もふもふもふり続けていく。
    「……もふもふ、もふもふ……」
    「……大丈夫かな」
     虜にされてしまったような二人を眺め、三義は去来する不安を今狙っている個体へと意識を移すことで誤魔化した。
     鋭く符を投げつけて、動きを鈍らせていく。
     それでも鼬は自由を求める。
     薄布を、その先にある何かを求め、三者一斉に風を放った。
     狙いは、爽やかな青が眩いドレスを纏う氷香である。
    「……ほんと、誰がこんな都市伝説を考えたんだろう?」
     巡る魔力のお陰か、被害は軽微。ほんの少し、腕のあたりが破けた程度。
     しかし、去来する感情が消えるわけではない。
     恥じらいは常に頬を染め続ける。
    「……」
     見た目はカワイイ鼬たち。
     けれど悪い子とするいけない子。
    「さあ、そろそろ真面目にやっていこう」
     女の子の敵には鉄槌を。
     蛇腹剣を振り回し、唯一抱きしめられていなかった個体を捕縛した。
    「……」
     ごく自然にそんな光景を眺め人知れずため息を吐いていた惡人が、呼びかけに応じるかのように一発の弾丸を打ち出した。
     遅れて放たれたバウエルの射撃に紛れ、どれがその弾丸なのかはわからない。
     知った頃にはもう遅い。
     鋭き一発の弾丸に撃ちぬかれてしまっているのだから……。

     腕に埋め込んだ刀を取り出しながら、フィアは切り裂いた個体に背を向ける。
    「……後二体」
     気配だけで消滅を確認し、次の……妖に抱きしめられていた個体へと向き直った。
     一気に畳み掛けるのだと、次に取るべき手を思考する。
    「それでは、そろそろ終わりにしましょうか」
     一気に攻めるための力を与えるため、リアノアが優しい風を発生させた。
     痛みを、行動を阻害する呪詛を消すことで、仲間たちが伸び伸びと動くことができるよう。
    「イケナイ鼬に鉄槌を、だよ!」
     氷香が蛇腹剣を振り上げたなら、虚空に生み出せし魔力の矢が件の個体めがけて降って行く。
     一つ、二つとそのやわらかな肉体を貫いて、地面へと縫い付け動くことも許さない。
    「めんどくせーからパパっとな」
     見逃す理由は何処にもないと惡人が放つオーラがその小さな体を打ち据えた。
     オーラの輝きが消える頃、鼬もまた土に抱かれるようにして消滅する。
     残された個体はただ一匹。
     なおも抗わんというのか、三義めがけて風の刃を巻き起こした。
    「っと。このくらいなら……!」
     盾で防ぐと共に駆け出して、そのまま体当たりをぶちかます。
     向こう側へと押し返せば、そこには佇む妖が居た。
    「ま、躾じゃ。不必要に害を成した汝らへの、な」
     素早く刀を振り抜いて、鼬を虚空へと打ち上げる。
     軌道上に佇むフィアは腰元に手を当てて、刀を一思いに振り抜いた!
    「……」
     刃が鞘へと収められて行くとともに、鼬の体が別れていく。
     月明かりを浴びながら、地面へと落下することもなく消滅した。
    「……」
     穏やかな風に安堵の息を乗せ、フィアは仲間たちへと視線を向けていく。
     平和の訪れた畑道で、いざ休憩の時間と参ろうか。

     ……そして全てを終えた帰り道。街へと向かうさなかのこと。
     聖が、手をつなぐアレスに問いかけた。
    「私のスカートが切り刻まれてたらどうした?」
     悪ささえしなければかわいかった、もふもふだった鼬たち。その凶刃に襲われていたら……。
    「……皆に見えないように隠す」
     静かに答えを返すと共に、アレスは前へと視線を戻した。
     だからだろう。聖は腕を抱きしめる。
     抱いたまま帰路を辿り続けていく。
     月と星々が見守る中。
     世界が、勝利者たちを祝う中。
     二人が、そして灼滅者たちが危惧していた事態は起きずに過ぎ去ったのだから……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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