灼滅者講座4:学園の歩み

    作者:七海真砂

    「さて、灼滅者講座も第4回……最終回を迎えました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者達に微笑みかけた。
    「ここまでの灼滅者講座で、たくさんのことを勉強してきました。今の皆さんなら、最初の一歩を踏み出す勇気さえあれば、もうどんなことでもできちゃうと思います。ただ……」
     もし、今のみなさんに足りないことがあるとしたら、これですね。
     姫子は言いながら、チョークでこう書いた。
    『武蔵坂学園のあゆみ』。

    「自分が来るよりも前の武蔵坂学園のことに詳しい人は、あまり多くないと思います。ですが、過去について知っておくのも大切なことですよ。今までに先輩たちが経験してきた出来事は、きっとみなさんが『これから』の活動を行っていく上で、手助けになるものや、参考になることが、たくさんあると思いますから」
     ですから、今回は、今まで武蔵坂学園が経験した事件や、武蔵坂学園での出来事などを取り上げて、みなさんに解説していきたいと思います、と姫子は告げた。
    「もちろん、教えてくれるのは『実際にそれを経験した先輩』ですよ。経験者が語る言葉が、やっぱり一番参考になりますからね。先輩の皆さん、ぜひいろいろなことを話してあげてくださいね」
     後輩の側からも、今まで『ダークネスとの戦い』などについて聞いてみたい、という要望があったことも、今回こうした場を持ったきっかけになったらしい。
     過去の武蔵坂学園のことを改まって話題にしたり、いろいろ教えて貰うような機会は、確かにあまり多くないかもしれない。
     自分の宿敵について、戦いの具体的な経験談、学園生活についてなど、それら全部をひっくるめて灼滅者達のこれまでのあゆみを知ることができるのは、後輩たちにとって得がたい体験になるだろう。
     先輩の側にとっても、自分があまり詳しく知らなかった事件の情報などを、改めて再確認するにはいいかもしれない。
    「今回は、先輩達がいろいろ話してくれる予定ですけど、後輩の皆さんも詳しく聞いてみたいことがあったら積極的に質問してみてくださいね」
     その方が、先輩達も話しやすいだろう。
     まったく知らないことの他にも、『こんな事件があったらしいけれど、詳細までは知らない』というような出来事があれば詳しいことを聞いてみるといいだろう。だれか知っている先輩が答えてくれるはずだ。
    「ここまでの灼滅者講座を振り返って、質問がある場合もどうぞ。灼滅者講座は今回が最終回ですから、そういう人がいたら、おさらい的なこともしちゃいましょう」
     それでは第4回、最後の灼滅者講座をはじめましょうか、と姫子は呼びかけるのだった。


    ■リプレイ

    ●武蔵坂学園のあゆみ
     講座が始まると、まず最初に須藤・遥(読書通・d01797)や或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)たちが用意した資料が配られていった。雨井・戦争(青髑髏・d04799)は、年表のラインが入ったお手製プリントをよければ、と周囲の灼滅者達にお裾分けしていく。
    「今のうちにペットボトル買ってきていいか?」
    「どうぞー」
     外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)など、飲み物が欲しいという灼滅者達は、売店や自販機へと出かけていった。一角では、持参した麦茶が『ご自由にどうぞ』と振る舞われていたが、これは好評ですぐにボトルが空になってしまったようだ。
    「これからの武蔵坂学園をより良くするために、話を聞いて、いろいろ考えた方がいいね」
    「そのためにも、歴史を学ぶのは大事だな」
     プリントを受け取った生徒たちの中には、ナッシュ・エヴィルム(小学生エクソシスト・d17699)や蛇神・光弥(屍鬼灰塵・d17706)のように、もうさっそく講座の内容について近くの灼滅者と話していたり、予習するように資料へ目を通している者も少なくない。
     プリントが皆に行き渡る頃には、買い出しに行っていたメンバーも全員戻ってきたようだ。姫子の机にも、差し入れで貰ったペットボトルが置かれていた。
     更に「よければ講座のお供に」と振る舞われた手作りのクッキーなどを手元に置きつつ、第4回の灼滅者講座は本題に入るのだった。

    「あの、武蔵坂学園の成り立ちなどを、詳しく聞きたいです」
     まずは武蔵坂学園そのものについて知りたい、という声が祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)や花籠・チロル(みつばちハニー・d00340)たちから上がった。
    「こんだけでかい学園だ、スゲー歴史があるんだろーな!」
     辻堂・ケイジ(ハラペコ野郎・d17641)は期待の眼差しを向けているが、残念ながら、と高村・葵(ソニックソードダンサー・d04105)は首を振る。
    「武蔵坂学園が開校したのは数年前なので……」
     何百年もの歴史を持つ伝統校などのようには、いかないらしい。
     そもそも武蔵坂学園は、1990年に稼働したサイキックアブソーバーのある場所にあとから建てられたので、サイキックアブソーバーよりも歴史は浅いのだ。灼滅者が集められはじめてから10年弱くらい。学校の歴史も、長さとしては、そのくらいだ。
    「そもそも、なぜここ――武蔵野にサイキックアブソーバーがあるのでしょう?」
     狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)が首を傾げるが、それはもともと、ここでサイキックアブソーバーについての研究が進められていたからだ。
     その結果、完成したサイキックアブソーバーが稼働し……サイキックアブソーバーの創設者たちが灼滅者を集めてつくった武蔵坂学園が、サイキックアブソーバーの上に建てられた、という流れなのである。
    「なるほど。そんな成り立ちなんだな」
     かつて闇堕ちから救出された際に学園のことを知り、通うようになった桐生・桜(高校生ファイアブラッド・d06705)は、真面目に耳を傾けながら頷いている。
     そこまで詳しく聞いたことが無かったという灼滅者達にとって、あらためてサイキックアブソーバーの稼働と学園の開校の流れについて、強いる機会になったようだ。
    「そもそも、サイキック油そばってなんですの!」
    「……ええと、サイキックアブソーバーね」
     堂々と胸を張りつつ思いっきり間違っている野々村・志乃(ドリルなら二本ここにある・d15081)に、やんわりと訂正が入った。
    「確かに気になります。いつかビームを発射したり、変形合体したりするんですかね」
     藤原・彗王丸(ハイドラ・d14507)あたりは、わくわくした様子で先輩達の解説を待つ。
    「ふっふっふ。エッちゃんが解説しよう!」
     そこで立ち上がったのは江戸川・越子(自称小江戸の平凡な一般市民・d06524)だ。
    「この武蔵坂学園の地下深くにある、超スーパー機械。それがサイキックアブソーバー!」
     なんとなく勢いにつられてか「おおっ」というどよめきが走る。
    「この機械の登場により、全世界のサイキックエナジーは何やかんやですっごい吸収され、日本国外のダークネスはほぼ全滅! ダークネス達の支配がすっげぇ揺らいだのよ!!」
     越子の言葉はアバウトだが、内容は的を射ているだろう。
     サイキックアブソーバーは世界中のサイキックエナジーを吸収している。これは、活動にサイキックエナジーを必要とするダークネス達にとって『活動するのに必要なエネルギーが枯渇してしまった』ことを意味する。
     日本列島にはサイキックエナジーが残っているので、一部のダークネスはそれでも活動することが出来ている。が、ダークネスは強ければ強いほど、より多くのサイキックエナジーを必要とするため、強大な力を持つダークネスは身動きが取れず、まったく活動ができない状態なのだ。
    「だから今、事件を起こしているのはダークネスの中でも下級の存在だということになるね」
     しかし、下級だろうとダークネスは強い、と蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が説明していく。どんな下っ端のダークネスだろうと一般人には到底対抗できないし、灼滅者だって、ひとりだけで立ち向かうのは無謀だ。
     現に、かつて生まれた灼滅者は、その存在がダークネスに知られるたび殺されるか闇堕ちさせられてきた。全滅といっていいほどだ。
     しかし1990年以降、サイキックアブソーバーによって強力なダークネス達が活動不能に陥り、ダークネスの間で大混乱が引き起こされたため、少しずつ無事に育つ灼滅者が現れてきたのだ。
     それでも、各地にバラバラでいたままでは、ダークネスと遭遇した時に殺されて終わりなのは変わりがない。
    「そこで武蔵坂学園ができたわけね」
     みんなで集まりダークネスに対抗する。ひとりだったら、嬲り殺されてしまうだけかもしれないが、灼滅者が10人いたらダークネスに勝ち、返り討ちにすることだって不可能ではないことは、皆もう知っているだろう。
     さらに百人、千人……と、武蔵坂学園には大勢の灼滅者達が集まった。
     そうして、ダークネス達との戦いを繰り広げているというわけだ。

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    【マスターからの解説】
     武蔵坂学園に通っている生徒で一番年上の人は18歳(高校3年生)ですが、これは『武蔵坂学園に集められた灼滅者の中に、それ以上の年齢の灼滅者がいない』からです。
     皆さんが集められて武蔵坂学園ができたあと、皆さんの学年があがるのにあわせて中学や高校ができていきました。来年の春には大学もできます(いろいろな進路希望に対応できるよう、かなりたくさんの学部が出来る予定です)。
     高3の皆さんは、受験勉強を頑張ってください。勉強が苦手な人には、熱心な先生達が全力で協力してくれるはずです。浪人なんてさせるはずがないじゃないですか。

     ちなみに武蔵坂学園は、いくつかのキャンパスに分かれています。一番古いのは『井の頭キャンパス』で、井の頭公園の近くにあります。その後も武蔵坂学園に通う生徒が増えるのにあわせて、少しずつ新しいキャンパスが作られています。クラスは各キャンパスの各学年に9クラスずつで、高校は数字、中学はアルファベット、小学校は花の名前になっています。
     キャンパスとクラスは、次のような感じです。クラスは後で詳しく説明する『組連合』の組み合わせにも影響します。

    ●武蔵坂学園のキャンパス
     井の頭キャンパス
     吉祥寺キャンパス
     武蔵境キャンパス
     天文台通りキャンパス
     桜堤キャンパス
     西久保キャンパス
     三鷹北キャンパス
     玉川上水キャンパス
     御殿山キャンパス
     八幡町キャンパス
     千川キャンパス

    ●武蔵坂学園のクラス
     1A梅
     2B桃
     3C桜
     4D椿
     5E蓮
     6F菊
     7G蘭
     8H百合
     9I薔薇

     武蔵坂学園では、学年さえ同じなら、キャンパスやクラスはいつでも好きなように移動できます。通ってみたいキャンパスのクラスに、まだ空いている席があったら、そこをクリックすると移動できますよ。
     先輩の中には、クラブで仲良くなった友達のクラスに移動したり、好きな花のクラスに移動したり、通いたいキャンパスのクラスへ移動している人もいます。『学年は違うけれど、同じ組連合になりたい』とクラスを変えたことのある人もいるようです。
     最近だと『運動会でのチームは敵同士になりたい』という理由でクラスを変えて、運動会が終わったからまた元の暮らすに戻った……みたいな人もいるようです。

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    ●『イフリート』とのあゆみ
    「では、まず武蔵坂学園がこれまでに遭遇した、大きな事件を教えていただきたいです」
    「先輩方が一番大変だった敵は誰ですか?」
     クリス・アンダーソン(這いよるドエム・d06253)や榊原・司(心配性な猫・d18443)が切り出した質問に、先輩達は顔を見合わせた。
    「不死王戦争……かな」
    「そうですね。やはり、あの時が一番でしょう」
     だいたいの先輩の意見が一致する。それは、霧丘・学(不動の魔導士・d17970)や津野森・樹(渇いたラッキーボーイ・d17531)など、多くの後輩が気にしていた事件でもある。
    「ダークネスとの大きな抗争、つまり戦争だな。今年の3月31日にあった、不死王戦争って呼ばれる戦争だ!」
     一方『そもそも不死王戦争自体を知らない』という灼滅者に向けて、枷々・戦(左頬を隠す少年・d02124)が大まかなことを伝えていく。
     しかし、詳しく説明するとなると、なぜこの戦いに至ったのかを順序立てて、話していく必要があるだろう。
    「阿佐ヶ谷の事件について話すべきかしら?」
    「ん~。まずは鶴見岳のイフリートのことからじゃない?」
     ビスコ・ロッティーナ(カロンの六文銭・d00552)や鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)らが相談をかわしていく。不死王戦争には、さらにその前に起こった、さまざまな事件が関わって来る。

     イフリートと聞いて、彼らについて詳しく知りたいと思っていたアスール・カルデナス(中学生ファイアブラッド・d03801)たちからも注目が集まる。
    「最初は、大分県別府市でイフリートの活動が活発になったことだったんだよ」
     じゃあ僕が、と口を開いたのは守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)だった。
     去年の秋――11月の終わり頃から、別府温泉でイフリートたちの活動が見られるようになったのだ。
     イフリートは、鶴見岳のマグマの力を吸収して力を蓄え、強大なイフリート『ガイオウガ』を復活させようとしていた。しかし、別府温泉でイフリートを待ち伏せながら戦った灼滅者達によって、それは阻止される。
    「阻止されたイフリート達は、別の手に出るようになりました」
     説明役を引き継いだのは小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)。
    「イフリートが全国各地で眷属や都市伝説等を襲撃を開始したのです」
     2013年を迎えてすぐ、各地での事件の情報がサイキックアブソーバーとエクスブレインから入るようになった。イフリートの目的は他のダークネスたちを灼滅し、そのサイキックエナジーを奉げることによって、ガイオウガを復活させることだった。
    「私たちは多くのイフリートを撃破し、これも阻止していったんです」
     エクスブレインの未来予知と、なにより灼滅者達が協力して頑張った成果だと、言えるだろう。
    「しかし、この大規模な動きは我々だけでなく、他のダークネス組織にも知られることになりました」
     イフリートの動きを知った、他のダークネスの反応について言及するのは睦月・恵理(北の魔女・d00531)。
    「『ソロモンの悪魔』が、鶴見岳に集まった力を狙って動き出したのです」
     その結果、鶴見岳ではガイオウガを復活させようとするイフリート、その力を狙うソロモンの悪魔、そして、それらを阻止しようとする灼滅者達が激突することになった。
    「この戦いは、とても激しいものになった。俺達の班は前に逃した大狼のイフリートと再戦し、勝利することができたが……」
    「『ソロモンの悪魔の司令部』を目指した私たちの班は、2体ものソロモンの悪魔と戦うことになって……仲間の闇堕ちに助けられながら、なんとか撤退するので、やっとだったわ」
     千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)たちがダークネスに打ち勝った一方、羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)などのように、苦しい戦いを迫られたチームも多くあった。
     1体だけでも手ごわい相手が2体もいれば無理もない。2体相手に戦って、仲間のために十分な時間を稼ぐことにも成功できた。全体的に見れば、十分な貢献ができたとはいえ……結衣菜は、レヒト達に追い込まれた時のことを、忘れることはできないだろう。
    「私たちのチームは司令部に攻め入り、そこで総司令だったソロモンの悪魔、アモンと遭遇しました」
     その結果、柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)たちはソロモンの悪魔たちを指揮していた『アモン』の元まで辿り着いた。
    「でも、アモンは強力でした」
     有馬・由乃(歌詠・d09414)たちが離脱するためには、4人もの仲間が闇堕ちしてアモンと戦わなければならなかった。真夜もその際に闇堕ちしたひとりだ。そうでなければ由乃たちは今、ここにはいないだろう。
    「こうした戦いの結果、悪魔たちは力を手に入れることを妨害され、目的を達することはできませんでした。イフリートもガイオウガの復活に失敗したんです」
     双方の狙いを阻止することができたのだと、森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)が戦いの結果をまとめていった。
    「そんな戦いだったのですね」
     名前だけは聞いたことがあったが、月・切人(会話が苦手な高校生殺人鬼・d13193)にとって詳細を聞くのははじめてのこと。なるほど、と感心しきっている。さっき少しウトウトしていた高橋・ゆめみ(ご当地魔法少女・d01700)も、彼らの話を聞くうち、すっかり興味がわいた様子で、今ではすっかり目が開いていた。
    「そしてガイオウガ復活に失敗したイフリートの『アカハガネ』たちは、鶴見岳を去っていったんだ」
    「それは箱根の拠点を置く、『クロキバ』というイフリートを頼ってのことだった」
     その後のイフリート達の動向について語る淳・周(赤き暴風・d05550)に、嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)が補足する。彼らは箱根温泉へと移動していったのだ。
     クロキバの勢力もまた、封印される以前のガイオウガの配下だったらしい。
     箱根に移動後のイフリート達とも何度か接触があり、そのクロキバ――黒いイフリートとの接触も持っている。彼らはその後、大きな動きを見せる様子はなく、何かあると灼滅者に手紙を送ってくることすらある。
     しかし、相手はイフリート。ダークネスだ。いつまた、どのような動きがあるかは分からない……ということだけは、しっかり肝に銘じていかないといけないだろう。
    「なるほど。そんなことがあったのか」
    「アカハガネの名前は知っていたけど、そんなことをしてきたダークネスだったのか……」
     イフリート達についての話を聞き終え、越坂・夏海(残炎・d12717)やキアロ・カプッチノ(ほろにが系・d18319)の疑問は解けたようだ。
    「ところで、別府だったり箱根だったり……イフリート達は温泉が好きなのかな」
    「うーん……?」
    「一応、怪我を治すのに温泉使ってたみたいではあるけど……」
    「どちらかというと、マグマとか熱とかが好きなんじゃない? 炎獣だし……?」
     首を傾げる倉地・悠矢(コルノ丶アンブラート・d04312)に先輩達も首を傾げつつ、そう返すのだった。

    ●阿佐ヶ谷地獄と不死王戦争~ソロモンの悪魔・デモノイド・ノーライフキングとのあゆみ
     一方、ソロモンの悪魔は、その後どうなったのか。
    「鶴見岳に現れたソロモンの悪魔は『デモノイド』を連れていた。彼らもまた引き上げていったが……」
     実際に鶴見岳でデモノイドと戦った大塚・雅也(ダイヤを探すシャドウハンター・d03747)が「そこで、さっきも少し話題に出た『阿佐ヶ谷地獄』だ」と告げる。
     デモノイド。それは、ソロモンの悪魔アモンが作り出した新たなダークネス種族だ。
     その後、主に愛知で暴れ回るデモノイドの事件が予測されたものの、ソロモンの悪魔に関する動きはしばらく見られなかったのだが……。
    「アモンは『刺した人間をデモノイドに変えてしまう短剣』を作り出し……それを、密約を交わした『ノーライフキング』の勢力に……渡したようなのです……」
     そして、その短剣を持ったアンデッドたちが『阿佐ヶ谷』に押し寄せたのだと、久遠・雪花(永久に続く冬の花・d07942)が説明していった。
     アモンが密約を交わした相手の名は、鍵島・洸一郎。鍵島コーポレーションという企業で、社長を務めていた男だ。しかし鍵島は、普通の人間ではなかった。かといってダークネスでもない。彼はノーライフキングの眷属である『アンデッド』だったのだ。
     鍵島は『蒼の王コルベイン』と呼ばれる強大なノーライフキングの眷属であり、配下のアンデッドたちに短剣を持たせて阿佐ヶ谷に放った。
    「アンデッドは阿佐ヶ谷の人々を片っ端から襲撃した」
     それはまさに『地獄』のような状況だったのだと藤堂・優奈(緋奏・d02148)が告げる。
     人々を救うために、多くの灼滅者が阿佐ヶ谷へ向かった。新城・七波(藍弦の討ち手・d01815)らはなんとかデモノイドになりかけていた人を救うことが出来たし、レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)も事件に巻き込まれそうになっていた阿佐ヶ谷の人々を多数守ることができたと語る。
    「でも……」
     その一方で、多くの命が失われたのだ、と黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)は目を伏せた。
    「そんなことが……」
     当時を知らない諫原・楓(誰そ彼と君に問う・d17134)や勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)たちは、彼らの言葉や表情などから、先輩達の辛さを思いやる。
    「ダークネスは、無辜の人々を標的にしたんです……!」
     水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)はやるせなさそうに拳を握った。人類はダークネスの思いのままに、簡単に命を奪われる。そして、バベルの鎖によって、その事実は表沙汰になることはない。
     それがダークネスに支配されている時代の、人々の知らない現実だ。
     だが、だからこそ、なんとかして助けられるだけの命を救いたいと、ゆまは思う。
    「眷属、じゃなくて……新しいダークネスを、作るなんて……」
     アモンがデモノイドを作ったという事実に驚いた御手洗・花緒(喋る空気・d14544)は、またこんな風に、ダークネスがダークネスを生み出すようなこともあるのだろうかと、先輩達に尋ねる。
     だが、それに明白な答えを返せる者はいないだろう。
    「一度あったからには、可能性は否定しきれないけど……」
     もう2度とこんな事は起こって欲しくない。それが先輩達の本音かもしれなかった。

    「この事件の後、武蔵坂学園ではエクスブレインが新たな未来予測をしたの」
     灼滅者が阿佐ヶ谷で邪魔をしたことに対し、『蒼の王コルベイン』の勢力は武蔵坂学園を潰そうとしたのだと、百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)が話す。
     阿佐ヶ谷の街に水晶城を出現させ、無数のアンデッドを出現させんとしたのだ。
     アンデッドの軍勢に幾度も攻め寄せられれば、武蔵坂学園といえどもいつかは壊滅させられてしまうだろう……。
    「そこで私たちは決めたんだ。その前に、反対に敵の本拠地へ乗り込んで、敵の首魁たる蒼の王コルベインを討つと!」
     そしてこれこそ、不死王戦争の始まりだったのだと、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)が説明していく。
    「その時に殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)を使ったんだよな?」
    「殲術再生弾……?」
     羽野・竜胆(風疾り雷迅く・d16583)の言葉に、周囲の後輩たちが首を傾げている。
     殲術再生弾とは、一時的に灼滅者達の能力を大幅に強化することができるものだ。手強いノーライフキングの軍勢に対抗するため、灼滅者達は1発だけサイキックアブソーバーに装填されていた、この殲術再生弾を使う決断をしたのである。
    「そうして、皆で力を合わせて戦ったんです」
     その結果灼滅者達が勝利したのだ、と紅羽・流希(挑戦者・d10975)が締めくくった。

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    【マスターからの解説】
     不死王戦争は『リアルタイムイベント』と呼ばれる、とても大きな戦争イベントでした。
     戦争が行われた3月31日は、リアルタイムで皆さんが選んだ行動によって、どんどん戦況が変わっていきました。そして、最終的には武蔵坂学園が勝利し、戦いは幕を下ろしたのです。

     不死王戦争では『組連合』が結成され、1週間ほど前から『ファーストアタック』でどんな行動をするかや、当日の戦い方についてなどの相談が行われていました。
     また、リアルタイムイベント当日は、戦いの様子を描く特別なイラスト『イベントピンナップ』の発注や、リアルタイムで返事がくる投稿コーナー『情報局』に参加することなどもできました。

     当日の詳しい様子は、このページで見ることが出来ます。
     http://tw4.jp/html/world/event/007war/007war_130331main.html

     なお、戦争をするリアルタイムイベントでは『クラブパワー』によって、あなたの能力が更に強化されます。
     クラブパワーは、その名の通り、クラブでの日々の活動によって獲得できるポイントです。ポイントが多ければ多いほど、リアルタイムイベントでの戦いは有利なので、クラブで交流を楽しみつつ、今からクラブパワーを獲得しておくといいかもしれません。
    (あなたが今獲得しているクラブパワーは、ステータスの『設定→クラブ活動』で確認できます)
     クラブ活動では、発言力というものも獲得でき、それもこの画面で確認できます。
     発言力は、教室での冒険に関わってきます。詳しくは教室の詳しい利用方法を読んでみてくださいね。
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    「アモンとも、この時また戦ったんだよね?」
     白星・円(蒼冠のトロイメライ・d17052)の問いに、多くの先輩が頷き返した。
     鶴見岳での雪辱を晴らすかのように、多数の灼滅者が力を合わせてソロモンの悪魔たちを追い詰め、アモンを討ち取ることに成功できたのだ。
    「私は鍵島と戦いました」
     紅林・美波(茜色のプラクティカス・d11171)は、コルベインの間の手前にいた鍵島・洸一郎と戦った灼滅者のひとりだ。ノーライフキングの眷属として戦っていた鍵島の言葉は、美波にとって、印象深かったと話す。
     他にも平野・歯車など、鍵島コーポレーションには会社員に扮した眷属やダークネスが数多くおり、ノーライフキング勢力の一員として戦っている。
    「ダークネスが人間の世界に潜み、溶け込み……いや、いかに平然と過ごしているかを痛感する出来事だな」
     鳳蔵院・景瞬(破壊僧・d13056)は、そう感想をこぼす。
    (「やはり、実際に話を聞くのは違いますね……」)
     資料を読むのとは全然違った、と御門・心(アルデバラン・d13160)は痛感していた。いろいろ直接聞いてみるのは、やはり得難い経験だ。
    「ハプニンガー原田という敵も、不死王戦争の時に現れたんですよね」
    「あ……うん」
     片桐・ほの花(翠時雨・d17511)は、先日先生から話を聞く機会があったらしくハプニンガー原田の名をあげる。敵にも色々な相手がいるのだなと、ほの花は感心している様子だったが、先輩達は苦笑いをして、ちょっと複雑そうな表情だ。
    「あと、あったことといえば…………そうだ、女装写真戦争だ!」
     他に何か語れることはあっただろうか、と思い出していた朧月・咲楽(君の視線を釘付けにする・d09216)が脳裏に浮かんだ言葉を叫ぶ。
     なにか、とんでもない言葉だったような気がするが……険しい戦いの最中だろうとも、そのくらい心の余裕を持って戦いたいものだという教訓……なのかもしれない。
    「コルベインには首が無かったそうですけど、首は一体どこにいってしまったのでしょう?」
     アリス・アトウッド(妖精の森のちいさな魔女・d14437)だけに限らず、それは先輩達の中でも気にしている者が多かった。だが、その真実はいまだに分からないままだ。
     『蒼の王コルベイン』はダークネスの間でも、強大な存在として知られていたらしいが、一方で弱体化の事実は鍵島達によって隠蔽されていたらしい。
     コルベインを撃破した勢力として、武蔵坂学園が注目されていてもおかしくはないだろう。
    「じゃあ、デモノイドヒューマンが学園に来たのは、この事件が関係してるのか?」
     デモノイドが関係していた事件であり、時期的にも近いのではないかという亜宮・りり(黒き忘却の剣・d00937)の質問には、先輩達だけでなく、この場にいる多くのデモノイドヒューマンたちが頷いた。
     この戦いで救出されたり、生き残ったデモノイドヒューマンや、既にアモン達の元から逃げ出し、この戦いのことを聞いたデモノイドヒューマンが、武蔵坂学園に集まるようになったのだ。
     灼滅者達が懸命に力を尽くした影響のひとつだと、言えるだろう。
    「コルベインを撃破後、コルベイン傘下の残ったノーライフキング達は、コルベインの水晶城の崩壊が始まると同時に突如として姿を消した。最近になって、日本各地に姿を現しているから、どうやら転移したようだな」
     水晶城の崩壊は主であるコルベインの撃破によるものだろうが、転移の原因は今もって不明だ。これも、コルベインの力だったのかも知れないが。
     ノーライフキングの一部は、自分だけの新たな迷宮を作ろうと動いていることがエクスブレインによって予知されている。
     ノーライフキングは元来、そういった活動をするダークネスなので、不自然なことではない。が、そうして力を蓄えていったノーライフキングは脅威になるため、存在が予知されるたび、灼滅者が対処しているのだ。
    「ソロモンの悪魔もトップが潰れて、バラバラに暴れてるらしいね」
    「まだ、悪いことしてるソロモンの悪魔はいるのね」
     レイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861)の言葉に、ノ・クレドール(花舞うマホウ・d08228)はむむっと難しげな顔だ。
    「他に目ぼしい動きは無いのかな?」
    「そうだな……」
     マイケル・ウォーロック(マジックビート・d17353)の言葉には、エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)も気になることがある。ハセベミユキ……かつて救えずソロモンの悪魔に堕ちてしまった彼女は、今どこでどうしているのか……。
     不死王戦争の際、どこかへ逃走したらしいベレーザ・レイドのことも、気になるところだ。
    「それほど大きな戦いだったのに、その出来事が広まっていないのは、やはりバベルの鎖の影響なのだろうか」
    「そうですね。戦いに居合わせませた人々もいましたが、彼らから話が伝播することはありませんから」
     来須・桐人(十字架の焔・d04616)の予測通りだと、先輩達が頷き返す。
     戦争に巻き込まれた人々の記憶が消えるわけではないが、サイキックにまつわる物事が周囲には広まらなくなるのがバベルの鎖の効果だ。あれだけの大事件だったのに、不死王戦争のことはまったく報道されていない。

    ●『淫魔』とのあゆみ
    「どうしてこのせんそうにいんまがさんかしていたのですか?」
     そんな中、綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)が新たな疑問を口にした。
     ノーライフキングと、ソロモンの悪魔はわかった。でも、不死王戦争の際に姿を見せていた淫魔は、どうして不死王戦争に関わったのだろうか?
    「『営業活動』の一環だな」
     それには竹尾・登(何でも屋・d13258)が詳しく答えていった。
     淫魔は、他のダークネスと友好関係を結びつつ活動していたダークネスなのだ。不死王戦争に関わったのも、その一環だろう……と。
     これも、それに至った経緯がある。
    「簡単に説明するとな、まずダンサーの少女達が闇堕ちして淫魔となる事件が連続で発生してたんだ!」
     そして、彼女達の多くが灼滅者によって救われた。この藍堂・ルイ(歌う愛弩留総長・d11634)もそのひとりだ! と彼女は言い放つ。
     少女たちを闇堕ちさせてダークネスを増やす……というのが狙いだったようだが、それが思うように上手くいかなかった淫魔たちは行動を変えた。それが営業活動――他のダークネス達と友好を結ぶことである。
     エクスブレインによって、淫魔が様々なダークネスに接触を持とうとしたことが判明したのだ。
     とにかく片っ端からいろいろなダークネスと仲良くなって、邪魔しないで欲しいとお願いする……というのが、その目的だったのだろう。
    「…………」
     ちなみに、そのあたりを説明しようとした穂照・海(或いは塗り替えられた情景・d03981)が全裸になろうとしたので、周囲の灼滅者達によって阻止された。残念そうな顔をしているが、仕方ない。
    「私たちは『ラブリンスター』という淫魔の声……テレパシーみたいなものですね……を聴いて闇堕ちしたんです」
     気を取り直して、経験談を語るのは籠野・美鳥(高校生サウンドソルジャー・d15053)。
     ラブリンスターこそ、淫魔を統率している存在であり、非常に強力だと目されているダークネスだ。彼女の呼びかけだけでダンサーの少女が闇堕ちしたということだけでも、その力は察して余りあるだろう。
    「そのラブリンスターが不死王戦争のあと、今度は武蔵坂学園に接触してきた」
     不死王戦争の結果を受け、蒼の王コルベインを撃破した更に灼滅者とも友好関係を結ぼうとしたのだろう、と伐龍院・黎嚇(龍殺し・d01695)が語る。
    「ライブのチラシ配ってたんだよね……」
     ラブリンスターは堂々と通学路でチラシを配っていたため、青柳・諒(ゆるふわ魔法少年・d04524)など、多くの灼滅者にそこを目撃されている。
     用心して参加しなかったという新城・七葉(蒼弦の射手・d01835)のような者もいるが、会場に足を運んだものの多くはライブを楽しんで帰ってきたようだ。ラブリンスターと聞いて注目した新月・灯(中学生サウンドソルジャー・d17537)は、そんな彼らの感想の数々を、ふむふむと聞いている。
    「ラブリンスターなりに考えて、灼滅者と仲良くなりに来たってことか……」
     ラブリンスターの目的が、ずっと謎だと思っていた片囃・ひかる(神曲リベレーション・d16482)も、皆の話を聞いて大体のところを掴めたようだ。
    「それでも敵対的じゃないダークネスってのは驚きやわ」
    「あんな感じで俺たちと仲良くしようって交渉してくるダークネスって結構いるのか?」
     馬喰・火花(灼熱ハンマーヘッド!・d01994)の言葉に頷き、若菱・弾(高校生ストリートファイター・d02792)が質問するが、そんなダークネスは珍しいと先輩達は口を揃える。
    「ライブの前にも、いろいろあったんだねぇ」
     ラブリンスターライブの事は知っていたけど……という豊田・陽生(ボブは飯うまベーシスト・d15187)のような生徒達も、淫魔の起こした一連の事件を知る機会になったようだった。三好・静火(幻炎の華・d15469)も、プリントには無い生の声や経験談を聞きつつ、こんな風にいろいろつながっていたのかと再認識している。
    「ラブリンスターはやっぱりエロかったすか?」
     崎・星太(きらぼし・d18487)の質問には、そりゃあもう……とニヤニヤしながらの感想が戻ってきたが、教育によろしくないという理由で、詳細を教えようとした先輩の口は塞がれてしまった。
    「ラブリンスターからは、その後なにか?」
     シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)が尋ねるが、今のところ、そういった動きはないというのが先輩達の言葉だった。
     しかし、いつかそんな日が来た場合のことを考えておいても、いいのかもしれない。

    ●『ヴァンパイア』とのあゆみ
    「ダークネスといえば、朱雀門高校というヴァンパイアの組織があることが判明しているみたいだけど、今のところどんな接触があるのか知りたいんだ」
     宿敵であるヴァンパイアのことだし気になる、と桜瀬・伊織(悩める小学生主夫・d12544)が声を上げた。宇都木・日羽(ハイテンションストロベリー・d13067)も興味があるのは同じだ。
    「私たちが武蔵坂学園に集まっているみたいに、ヴァンパイアも朱雀門高校を拠点にしているってことなのかな?」
    「どうやら、そのようです」
     武蔵坂学園が、問題の朱雀門高校に所属するヴァンパイアと最初に遭遇した際に居合わせたことがある漣・静佳(黒水晶・d10904)が頷く。
     先程『鶴見岳から散らばったイフリートが、全国各地で力を集めようとした事件』について話したが、その際に、学生服を着たヴァンパイアと遭遇した灼滅者達がいた。
     この時の相手が朱雀門高校の生徒だと名乗ったわけではないが、その後で遭遇したヴァンパイアたちと同じ制服を着ていたことから、このヴァンパイアも関係者だと推察される。

    ====================
    【マスターからの解説】
     ちなみに、これは『楔を喰らう炎獣~悪徳か暴力か』というシナリオでの出来事です。
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    「ブレイズゲートにいるのもそうなんだよな?」
     長崎・莉央(ヘーゼルレイン・d16750)の言うように、『世界救済タワー』で目撃されている『ヤズト』と『クロ』も、同じ制服姿のヴァンパイアだ。彼らは力を求めてブレイズゲートをさまよった末に力を暴走させ、ブレイズゲートにとらわれてしまったが……。
    「朱雀門高校のヴァンパイアは他にも多数活動しています。彼らは全国各地の学校に『転校生』として入り込んで、学校を支配しようとしていますね」
     桜木・栞那(小夜啼鳥・d01301)も先日、その事件に関わった。このヴァンパイアたちは『学校』を最大限に利用して活動しているのだろう。
     朱雀門高校については、まだまだ分かっていないことも多い。敵の居場所が判明しているのなら、もっと何かできるのではと考える灼滅者もいるが、ヴァンパイアは強大なダークネス組織だ。真っ向から敵対するような行動は、灼滅者達にとって自殺行為になりかねない。
     しかし、ヴァンパイアに狙われている学校を救うことが出来るのは灼滅者だけだ。そのため、うまくヴァンパイアの作戦行動を阻止するため活動している……というのが、現在の状況である。
    「そのようなことをしているのですね……」
     ヴァンパイアによってダンピールにされた身としては、各地の学校へ手を伸ばしているというヴァンパイアの活動は許し難い。しかし今は、ヴァンパイアへの理解を深められたことだけでも喜ぶとしようと、真波・尋(高校生ダンピール・d18175)たちは思うのだった。

    ●『シャドウ』とのあゆみ
    「俺は『慈愛のコルネリウス』について教えて欲しいです」
     羽場・武之介(滲んだ青・d03582)が気にしているのはシャドウのことだった。
     シャドウは強大なダークネスで、存在するだけで大量のサイキックエナジーを必要とする。
     そのため、シャドウたちは『ソウルボード』と呼ばれる精神世界を住処にしていた。ソウルボードでは、シャドウの力は大幅に弱体化するが、必要なサイキックエナジーも減少するためだ。
     しかし、ソウルボードを渡り歩きながら、シャドウたちは精神世界を蹂躙していくことがたびたびある。精神世界のこととはいえ、その犠牲者は精神的な影響を受けるだけでなく、肉体面でも死に至ることもある。
    「死んでしまうこともあるんだ……」
     銃神・狼(ハウンドツー・d13566)は、そんなシャドウの恐ろしさを再認識する。
    「シャドウのいるソウルボードには、シャドウハンターの人達が行けるのよね」
     トレニア・リーフィル(緑界の住人・d04108)の言うように、シャドウから人々を守るため、灼滅者はたびたびソウルボードに入って、そんなシャドウたちと戦っている。
     そして、そんなソウルボードで目撃されているシャドウのひとりが、慈愛のコルネリウスだ。人間の少女の姿をとっているコルネリウスは、ある意味で最も理解しがたい相手だろう。
    「慈愛のコルネリウスは、『幸福な夢』を人々に見せているんだよね」
     実際に会ったことのある無常・拓馬(魔法探偵ハンパねぇぜ・d10401)がコルネリウスについて語る。
     夢の中なら誰でも幸せになれる。だから彼らを幸せにするために、夢を見せる……というのがコルネリウスの主張だった。
     ちょっと不幸なことがあるかもしれない。苦しいことがあるかもしれない。けれど、努力すればそれが必ず報われる――そんな夢を、コルネリウスは見せている。
     コルネリウスの行動原理は『慈愛』で、その行動はおそらく善意に基づいている。
     コルネリウスの活動は、それ自体が目的だ。
     その後に別のシャドウから得た情報によれば、夢からサイキックエナジーを得ているわけでもなく、配下の活動に必要なサイキックエナジーを、自ら分け与えてすらいるらしい。
    「コルネリウスの心根自体は嫌いじゃないけど……」
    「じゃあ、現実世界にいるシャドウと戦ったことのある方はいるのでしょうか」
    「少し前に、ありましたよ」
     桐城・詠子(ダウンリレイター・d08312)の問いには、何人もの先輩が頷いた。まさにそのコルネリウスが「灼滅者が夢に入る前に食い止める」ように配下のシャドウへ命じたことがあるのだ。
     これは以前の事件で、夢の中に侵入して来た灼滅者達によって、夢を見せていた相手が目覚めてしまったことが要因だろう。
     そうして現実に現れたシャドウたちは、いずれも非常に強力だった。現実世界で活動できる時間に限界が無ければ、そして彼らが『慈愛』のコルネリウスの配下で無ければ、負けるのは灼滅者達の側だったかもしれない。
     コルネリウスや、その配下のシャドウたちが大挙して現れれば、不死王戦争以上の戦いにだってなるのかもしれない。そう考えると、やはりシャドウは恐ろしいダークネスと言えるだろう。

    ●『アンブレイカブル』とのあゆみ
    「次は……アンブレイカブルのことに、しましょうか」
     残るダークネスの中から、次に話題へ上ったのはアンブレイカブルだった。
    「アンカレイブルはなあチョー強いんだよな。真っ先にやられたんだよ。ビビったよ」
     前に道場破りをしていたアンブレイカブルと戦った際、激しい連打を受けて倒れたことを思いだしてラックス・ノウン(不動のフーリダム・d11624)が言う。
    「ええ、私も敵の攻撃を食らって予期せぬM字開脚を……じゃなくて!」
     ストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)にとっても、アンブレイカブルは苦い思い出があるダークネスらしい。
    「彼らについて言及するとなると、やはり葛折・つつじのことは避けて通れないでしょう……」
     神妙な面持ちで語り出すのは星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)だった。
    「つつじが現れたのは、不死王戦争が終わってすぐのことです」
     業大老と呼ばれるものの門下であるというつつじは、師と呼ぶ業大老から何かを命じられたらしく、街で暴れるアンブレイカブルを連れ去り、鍛え直そうとしていた。闇堕ちしかけている少女を救出しようとする灼滅者と、ダークネスになった少女をアンブレイカブルとして鍛えようとするつつじが、遭遇したこともあった。
     その際は、つつじの到着前に灼滅者達が少女を闇堕ちから解放したことで、少女が『真の強者』になる資格無しと見なしたつつじの側が退いてくれたのだが。
     もし戦闘となっていれば、つつじ一人でも居合わせた灼滅者達を倒して少女を連れて行っただろう。
     そういった事件を通じて、接触の機会は何度かあったが、つつじは、あくまでもダークネスだ。
     ダークネスと灼滅者では立場も目的もまるで違う以上、互いに妥協することは、そう簡単ではないのかもしれない。

    ●『羅刹』とのあゆみ
    「オレは宿敵の羅刹について詳しく知りたいねェ」
    「羅刹に関しては、事件は起きていないのでしょうか?」
     四辻・夕鳥(逢魔が刻の舞鴉・d15546)や一二三・政宗(中学生神薙使い・d17844)らが口々に言うと、月見里・和(朧月・d09905)が手を挙げた。
    「確か、不思議な力を使った羅刹が居たって聞いたことがあるのですが」
    「俺も聞いた。最近ちょっと話題になってただろ」
     ギーゼルベルト・シュテファン(戦黒鷹・d17892)も、そのあたりを聞いてみたいひとりだ。
    「羅刹で覚えていること、というと、印象深いのは去年の12月31日のことかな」
     白・理一(空想虚言者・d00213)はその日、謎めいた予兆をいくつか見た。そのうちのひとつが、隔絶された山中の村にいる羅刹の様子である。

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    【マスターからの解説】
     メインページには、ときどき『何かの予兆』を表すような出来事が表示されることがあります。
     30分~1時間くらいの、限られた時間だけ表示されることから、先輩達の間では『時限トップ』と呼ばれることもあります。
     ゲームの中では、これは『バベルの鎖によって感じ取った予兆』という扱いになります。

     これまでに、学園の誰かが感じ取ったことのある予兆の内容は、ゲーム解説ページの『武蔵坂学園のあゆみ』の一番下にまとめられています。
     羅刹の予兆というのは、2012年12月31日のところにある『隔絶された山中の村 21:00』です。この日は他にもたくさんの予兆が感じられていました。
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    「それからしばらくして、傷付いた羅刹の少女が起こす事件を察知したんだよ」
     解決に向かった灼滅者達は、倒したはずの――本来であれば灼滅されるはずの、その羅刹が『何か不思議な力』によって傷を癒し、更に力まで増すところに遭遇したのだと、ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)が解説する。
     この事件からしばらくして、再び問題の羅刹の少女が事件に関わることが未来予測される。
    「羅刹の少女は、どうやら他の羅刹に追われていたみたいだね」
     追いかけていた方の羅刹を倒した灼滅者達は、そのとき羅刹の少女に携帯電話を渡して帰ってきていた。その後さらに窮地に追い込まれた羅刹の少女が、助けを求める電話をかけてきたことが、つい最近あったという。
    「そんなことが……」
     謎の力は気になるが、羅刹が助けを求めて来るというのも、かなり珍しい状況だろう。宿敵のことを知りたいと思っていた月之宮・悠沙(疾風の狙撃手・d18491)も驚くばかりだ。資料に目を通しながら話をじっと聞いていた水鏡寺・モクレン(鬼と共存したい巫女・d18530)は、一連の事件についての説明を聞いた後、一息つくかのように顔をあげた。
    「ダークネスといっても一枚岩ではないのかしらね」
     羅刹同士の抗争という辺りも意外だったと、神楽・識(欠落者・d17958)は難しい顔だ。それは相手が宿敵だからこそ、羅刹についてしっかり知り、考えたいという識の気持ちの表れでもあるだろう。
     羅刹については、救援に向かう灼滅者が戻って来たら、また新たなことが分かるかもしれない。何かあれば彼らが知らせてくれるだろうから、注目しておくといいかもしれない。

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    【マスターからの解説】
     こういった重要なシナリオの話題は『メインページ』(最初にアクセスする、校門前のイラストの場所です)で話題になっていることが多いです。
     メインページの内容に注目していると、今話題の事件や出来事、学園行事などについて、いろいろ聞くことができますよ。
     ホットワードにもなりやすいので、気になる単語があったらクリックしてみるといいでしょう。
     また、クラスのたまり場やクラブに、事件について詳しい人がいることも、あるかもしれません。
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    ●『ご当地怪人』とのあゆみ
    「私達が戦うダークネスの中には、ご当地パワーの暗黒面に取り込まれた『ご当地怪人』という人達がいます」
     次に始まったのはご当地ヒーローとご当地怪人についての話だ。三鷹・鈴夜(高校生ご当地ヒーロー・d06258)たちの説明に、小桜・まつり(浅草甘味祭・d16596)が早速わくわくしている。
     彼らについてで特筆すべき事件は、やはり『一度灼滅されたご当地怪人が復活して、新たな事件を起こした』ことだろう。
    「何故か復活したご当地怪人は皆『ドイツ風』になっているという事件でしたみゃッ」
     海音・こすず(蕪島ヒロイン・d04678)らが言うように、外見や口調や戦い方など、どこかが何かしら変化していた彼らは、『ゲルマンシャーク』という、強力なダークネスの力を得て、復活したらしいことがわかってきた。
    「ドイツ風味……中二病……。『なんでや! ドイツカッコええやろ!』」
     手元のパペットと漫才していた紫乃月・竜華(中学生ご当地ヒーロー・d17973)が、じゃあそのゲルマンシャークって一体? と尋ねると、
    「そうでゴザルな、まずは『第1回ご当地怪人選手権』の話なんてどうでショウ」
     口を開いたのは天鈴・ウルスラ(ぽんこつ・d00165)だ。
     ウルスラは当時、事件の話を聞き、富士急ハイランドへ向かった向かった灼滅者のひとりである。しかしブレイズゲートを利用し、巧妙な罠をしかけていたダークネスに敗れ、闇堕ちしてしまった。
    「後に、報告を受けて4人チームの灼滅者が助けに来てくれたので事なきを得ましたガ、アレは思い出したくない思い出でゴザル」
     闇堕ちしていた時のことは、ほとんど覚えていないというウルスラが溜息をこぼした。
     そして……。
    「今年の4月に『第2回ご当地怪人選手権』が行われたわけ!」
     立川・春夜(お気楽ピエロ・d14564)が説明を引き継ぐ。
     それは一時的に復活した、ご当地幹部ゲルマンシャークの号令によって集まったご当地怪人や、闇堕ちした灼滅者が多数、富士急ハイランドに押し寄せるという、とても大規模かつ重大な事件だった。
    「ご当地怪人と灼滅者が入り乱れてのトーナメントバトル。ゆるきゃらご当地怪人の選手権。ご当地グルメの屋台群……」
    「ご当地グルメ選手権だな。あれは良かった。もんじゃ焼き、初めて食べたが美味しかったぞ」
     ……上柳・零(火種振り撒く観察者・d14333)やノエル・エトワブラン(月を求める脆き太陽・d11228)の言葉を聞いていると、あんまりそんな気がしないかもしれないが大事件だったのだ!
     闇縫・椿(深紅ノ闇・d06320)らはゲルマンシャークがいる飛行船にも乗り込んだが、そこにいたのはゲルマンシャークの石像だけ。強大なダークネスであるゲルマンシャークは行動不能な状態になっていたのだ。
     そして、この飛行船が墜落して爆散するのとともに、ゲルマンシャークの行方は分からなくなった……。
    「一連の事件に関わっているヤツは大勢いるから、興味があるなら、もっと詳しく聞いてみるといいぜ」
     いろいろと面白い話が聞けるはずだと、比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)が後輩達に笑いかけた。

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    【マスターからの解説】
     第1回ご当地怪人選手権の詳しい様子は、サイキックハーツの関連書籍として富士見書房から発売された『サイキックハーツRPGリプレイ(2)灼滅者に刃は輝く』で描写されています。
     そして第2回ご当地怪人選手権は、この本が出版されたあと開催されました。

     この他にも、サイキックハーツでは様々なコラボ企画があり、雑誌での特集記事の掲載や書籍の出版、カードゲームの制作などが行われていて、それらと様々な形でリンクしています。
     どのようなコラボが行われているかは、『出版関連のお知らせ』でまとめられています。
     http://tw4.jp/html/world/publish/publish.html
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    「その後、ゲルマンシャークは北海道の阿寒湖で発見されました」
     深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)はまさに、その場に居合わせた一人だ。ゲルマンシャークがいることに気づいたるるいえ達は、すぐさま撤退したため、無事に学園に戻ってくることが出来たが……
    「そっか、ゲルマンシャークさん見つかったのか!」
     それまでずっと、真面目に聞いていた空戯・宵(夜にはお終い・d16260)が驚きの声をあげる。
     ゲルマンシャークは、倒されたダークネスを復活させるような、とんでもないことに関わっているダークネスだ。阿寒湖を立ち去ったゲルマンシャークは次に、一体どのような影響を及ぼしてくるのか――。
    「たしか、レディ・マリリンなるご当地怪人が関わっていたはずでござるな。……ところで、レディ・マリリンのおっぱいのサイズは……!?」
     ゲルマンシャークを阿寒湖で探していたのは、レディ・マリリンという女ご当地怪人だった。ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)は、そのあたりに興味があるらしい。しかし残念ながら、正確なスリーサイズを知る者はいないようだった。
    「ゲルマンシャークって、結局何者なんだろう?」
     藤川・優也(翠の蛍火・d01971)は首を傾げる。
     ゲルマンシャーク絡みで様々な出来事はあったが、ゲルマンシャークそのものについて、あまり多くのことは分かっていない。『ご当地幹部』である以上、その辺にいるご当地怪人よりも、上位のダークネスであることは間違いないが――。
     ご当地怪人たちが活動を続けていくのなら、彼らと戦うことを宿命付けられたご当地ヒーローをはじめとする灼滅者達の手によって、それもいつか、明らかになる日が来ることだろう。

    ●『六六六人衆』とのあゆみ
    「最後は六六六人衆ですね」
    「それでしたら、聞きたいことがあります」
     静闇・炉亞(紅断ノ裁刀・d13842)は待っていたとばかりに手を挙げた。
    「闇堕ちゲームって……いったい何なのですか?」
     それを聞きたい、という灼滅者は多かった。紫竹山・仄歌(中学生殺人鬼・d18144)も闇堕ちは他人事じゃないと注目していたし、それまで黙々と、ただ目をつむっているだけだった五十嵐・航(台所の主・d16406)も、途端に目を開けて険しい表情だ。
    「発端は六六六人衆のひとり、三日月・連夜です」
     織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)は、とあるダークネスの名を挙げた。
     六六六人衆の573位、三日月・連夜は灼滅者を闇堕ちさせることを面白がっている節がある。
     それを真似するかのように『人間を殺戮すること』ではなく、『殺戮を止めに来た灼滅者を闇堕ちさせること』を楽しむかのような、六六六人衆の事件がいくつも、起こるようになったのだ。
    (「集団で連携して事件を起こしているというよりは、個々の行動が重なって大きな出来事になっているという感じだろうか……?」)
     そんなことを考えつつ、刀形・影生(報復絶倒の影・d18348)は先輩達からの話をメモしていった。
    「何人を闇堕ちさせられるか、競っているんです。まるでゲームのように」
     悪趣味なことです、とリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)は嘆息する。
    「眷属をけしかけて人々を襲い、俺らをおびき出そうとした奴もおってな」
     東当・悟(紅蓮の翼・d00662)の言葉は落ち着いているように感じられた。しかし、その拳は込められた力によって震えている。
     眷属をけしかけて灼滅者を弱らせて、じわじわとなぶろうとする……水島・テイ子の戦い方は、悟にとって忘れられそうにない。
    「八波木々・木波子もそうだ」
     罪人を標的にすると言う彼女は、しかし正義の味方でもなんでもない。一・威司(鉛時雨・d08891)にとっては、ただ私利私欲のまま殺戮を犯す典型的な六六六人衆だとしか思えなかった。
    「狙われてた人は助けられた。けど……」
     仲間が傷付いたこと、そして闇堕ちしたことは決して忘れられない、と黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)の顔にも怒りが浮かぶ。
     詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)も、六六六人衆の事件のひとつで妹が闇堕ちした経験を持つ。黒部・咲耶(春陽麗和・d03038)などのように、今まさに闇堕ちして行方が掴めていない知り合いがいる、という灼滅者だって、この場にはいるのだ。
    「そう、この事件のせいで闇堕ちする生徒の数が一気に急増したんだ。……ボクも、そのひとりだし」
     黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)の言葉に、刀祢・隼鷹(兇刃乱舞・d05931)が苦い顔で頷いた。
    「ぼくも、みなさんに助けてもらいましたけど……」
     カミを降ろすのとは違う、あの感覚は忘れられないと龍田・薫(風の祝子・d08400)は顔を青褪めさせている。
    「中には、そのまま……」
     六六六人衆の狙い通りに闇堕ちし、消息を絶った、石英・ユウマのことを思い浮かべて沈痛な面持ちなのは石弓・矧(狂刃・d00299)だ。あのとき救うことが出来なかった――彼は、六六六人衆として、更なる闇堕ちゲームを引き起こす方へと回ってしまった。
    「ショックだよなー……なんとか、食い止めないとな」
     知り合いがそうなってしまうのは、やはり胸にくるものがある。白・彰二(目隠しの安常処順・d00942)以外にも、そういう先輩達は多いのだろう。少しでも被害を抑えられるように頑張らなければ、と次々頷いている。
    「ヤツらは、どうやったら、壊せる?」
     そんな彼らにとって、槌屋・透流(トールハンマー・d06177)の疑問は痛いところだ。戦って、その力に打ち勝って灼滅する――それしかないのだが、しかしダークネスは灼滅者たちよりも遥かに強い。なんとか協力して対抗していくしかないだろう。
    「そうじゃな。それには闇堕ちした学園の仲間だけでなく、闇堕ちしかけている者がいた場合も手を差し伸べて、武蔵坂学園へ迎え入れることも重要であろう」
     館・美咲(影甲・d01118)が、うんうんと頷く。
     エクスブレインが予知した事件の中には、灼滅者の素質を持っている人が起こしているものがある。彼らを闇堕ちから救出することができれば、武蔵坂学園は新たな仲間を迎えることになるのだ。
     ダークネスは強大な力を持つ存在であり、ひとりで立ち向かうことなど自殺行為だ。だからこそ仲間の存在は大切であり、仲間となる可能性のあるものを助けることは重要なことだと、美咲は語る。
    「拙者も助けに行った経験があるよ」
     中学2年生の女の子だったが、なにせ闇堕ちしかけている状態だ。ひとりだけでどうにかできる相手ではなかった。
     その時も大きかったのは仲間の力だと、素破・隼(時代劇好きな道化・d04291)が語る。だからこそ、仲間を大切にすることは大きな鍵になるだろう……そう隼は考えていた。
    「そうね。救出するには相手を倒さなければいけない。ダークネスを灼滅するのと同じよ」
     気持ちがいくらあっても、打ち勝つ力が伴わなければ救うことは出来ない。
     そのことを忘れてはいけないと、葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)は自分自身の経験をもって、後輩たちに伝えていく。
    「あの、もっと話を聞かせていただいてもいいですか?」
     そういった経験談こそ、綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)が聞いてみたいと思っていたものだった。勇気を出して、より具体的な話を聞かせてもらっていく。
    「この学園に来たきっかけは、人それぞれ違うだろうが、闇堕ちから救出されたことが契機になった者も多いだろう」
     安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)が言うように、巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)や遠・アユミ(中学生シャドウハンター・d09875)など、多数の灼滅者が闇堕ちから救われて、この武蔵坂学園へやってきている。
     そういった実例は、逆にそれを知らなかった永峯・琉羽(ソライロ・d16556)たちにとっては驚きであり、そしてその大切さを痛感できる光景だった。
    「楽しい話、ばかりじャねェ奴も居るだろうけどよ。俺たちの活動は、誰かをどこかで救ッてんのさ。すげェだろ、誰かの笑顔を取り戻してんだッて考えると……」
     跡蒼・頼翔(フェイクダンサー・d11076)の言葉にも頷くしかない。
    「……またシャドウになるのは……怖い、の」
     不安そうな表情で言うのは六道・重巳(無口な詩人・d18017)だ。こんな自分が灼滅者なんてやっていけるのだろうか、覚悟が足りないと思われるのではないだろうか……気になって仕方がない重巳だったが、そんなことは無いと姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)は言う。
    「オレはそれを臆病だとは思いません。まァ、オレから言えることは『手前を大切にしろ』ってコトだけです」
     闇堕ちして戦い続けることだけが勇気じゃない……そう伝えたいという赤音の気持ちは、きっと伝わっただろう。
    「自分が闇堕ちすることで、自分が新たな事件の引き金となり、仲間を苦しめるかもしれない……。闇堕ちを恐れるのは、俺も悪くないと思うぜ」
     葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)も、「だから俺達はそうならないように、よく考え、万全の態勢を整えておくんだぜ」と語りかける。
    (「皆も、いろいろ考えているんだ……」)
     月村・アヅマ(蒼炎旋風・d13869)も、自分が最初にこの『力』について知った時のことを思い返しながら、そんな皆の話を聞いていた。

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    【マスターからの解説】
     闇堕ちについては、第1回でも解説していますので、闇堕ち自体について知りたい方は、前のリプレイも読んでみてください。

     ゲーム解説の『戦いの手引き』にも解説がありますが、闇堕ちしてダークネスと同等の力を手に入れると、灼滅者の戦闘力は、およそ10倍になります。
     ダークネスとは普通、そのくらいの力量差があるということですね。
     ラブリンスターやゲルマンシャークなど、さらに強力だといわれているダークネスは、それでも勝てないくらいに強いことでしょう。
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    ●ダークネス以外の事件とのあゆみ
    「あの、都市伝説というのはどういう敵なんでしょうか。ダークネスとは違うんですか?」
    「ウフフ、都市伝説と相対することが多い僕がお答えしましょう!」
     新海・リタ(小学生魔法使い・d18507)の問いには、立花・銀二(クリミナルビジー・d08733)が立ち上がった。
    「都市伝説には変態が多いのです! 全裸の男の人とか、全裸の男の人とか!」
     ……銀二が遭遇した都市伝説は、たまたまそういうのが多いらしい。
     が、もちろん、そんな都市伝説ばかりとは限らない。
     都市伝説は、人々の噂話や未知を恐れる心がサイキックエナジーと結びついて生まれた存在だ。誰かが闇堕ちしてなるわけではないので、ダークネスとは違う存在だ。
     たとえば、『4時44分に鏡を見ると、鏡の中の自分に呪い殺されてしまう』という噂話がサイキックエナジーと結びつくと、そういう事件を起こす都市伝説が出現する。
     こういった事件の情報も、サイキックアブソーバーには集まってくる。都市伝説はダークネスではないが、事件に巻き込まれて命を落としたり、あるいはそれが引き金になって、誰かが闇堕ちするきっかけになるかもしれない。
     それに、都市伝説もバベルの鎖を持つ以上、サイキックを持つ者でなければ倒すことは不可能だ。だから、灼滅者はこういった事件にも対処しているのだ。

     人々のうわさなどから生まれるため、都市伝説は本当にいろいろなものがある。
     人々が話題にしやすい、季節にちなんだ話や、イベント関連の都市伝説などと遭遇することもあるだろう。クリスマスの時期には殺人サンタが出たことがあるし、今の季節なら梅雨にちなんだ都市伝説が……というわけだ。
    「あの、これはダークネスとは関係ないというか、むしろ味方? のことになるかなと思うのですが」
     学園にウロボロスブレイドをくれた少年のことが知りたい、と津雲院・晶(緋衣草・d01912)が言うと「それなら」と文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が頷いた。
    「ウロボロスブレイドを託してくれた紫堂・恭也は、俺達と同じ灼滅者だ。ただ、武蔵坂学園の生徒ではない」
     恭也はもともと、不死王戦争で倒された蒼の王コルベインの眷属、鍵島・洸一郎に育てられていたという。
     鍵島がどうして灼滅者である恭也を灼滅者のまま手元に置き、育てていたのか。
     かつての恭也との遭遇事例から考えると、他の勢力への妨害用の戦力としていたという可能性が高いが、それだけなのかは今となってはもう分からない。
     だが、恭也はダークネスに完全に味方しているというわけではない。実際、阿佐ヶ谷地獄の際には、被害を食い止めようとする恭也と遭遇している。
    「彼は頑固だがまっすぐな奴で、自分なりの正義を貫こうとしている……そんな印象だな」
     不死王戦争のあと、何が本当の正義なのかを見失い闇堕ちしかけていたこともあったが、灼滅者の助けもあり、恭也は自分を取り戻した。
     そして、今はまた恭也なりの考えに基づいて活動をしている。
     鍵島を倒したのは武蔵坂学園であり、言ってしまえば親の仇のような存在だ。しかし彼はウロボロスブレイドを武蔵坂学園に託してくれたのである。
     ウロボロスブレイドという武器に、そんな重みがあったのかと、思いを馳せずにはいられない話だった。
    「じゃあ、ラグナロクというのは?」
     いろいろメモを取っていた烏丸・エリカ(ハイドランジア・d16493)が口にすると、「あたしもよくわからないぜぃ」と六波羅・睦美(超残念系大馬鹿ヒーロー娘・d05870)が手を挙げている。
    「不死王戦争のときに撃ったあれ……あれ、えっと、なんだっけ?」
    「殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)っすね」
     さっきも少し話題になった単語だ。華渓院・実誉(赤城の元気巫女・d04876)は、あれもラグナロクの力といえばそうっすね、と補足する。
    「要は『なんかすっごいパワーを持った普通の人』ってことっす」
     実誉の説明はざっくりしているが、分かりやすく一言で言うと、実際そうなのだ。
     ラグナロクは灼滅者ではない。ダークネスでもない。だが、普通の一般人とも少し違う。
     ラグナロクは、ただとにかく『大量のサイキックエナジーを体内にもっている人間』なのである。

     サイキックエナジーはダークネスの活動に必要不可欠であり、強力であればあるほど、大量のサイキックエナジーを必要とする。そのせいなのか、ラグナロクが闇堕ちすると、とても強力なダークネス――ラグナロクダークネスになってしまうのだ。
    「世界を、たったひとりで滅ぼすくらいの存在になってしまう、ということですね」
     石川・なぎさ(小学生エクソシスト・d04636)の言葉に後輩たちがどよめく。それを聞いてなぎさは「私も最初はどういうことかと思いましたよ……」と頷いている。気持ちは、とてもよくわかった。
    「だからダークネスは、ラグナロクを闇堕ちさせようと狙っている。当然、それを見過ごせるわけがない」
     過去の事件で、ラグナロクが闇堕ちしないよう、多くの灼滅者が手を尽くしたことを狭山・雲龍(信じる者の幸福・d01201)は告げた。
     ラグナロクを狙うダークネスと戦うため、数千人の灼滅者が協力して戦ったのだと聞いて、「しかも、そんなに手ごわい相手だったのか!」と空谷・桐真(高校生殺人鬼・d14089)たちが目を丸くしている。
    「それで、この間あんなに大騒ぎしていたのか」
    「ラグナロクが、そのように重要な存在だったとは……」
     日野原・夏朱(炎神の息吹・d08022)や榛葉・智百合(無垢な白百合・d13762)なども納得がいったようだ。

    「それから、ラグナロクの方は信頼できる相手と『契約』することで、体内の膨大なサイキックエナジーを放出できるようになります。そして、武蔵坂学園にはサイキックアブソーバーがあります」
     梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)の言葉に、後輩の一部が「あっ」と声を上げた。
     そう、サイキックアブソーバーは空気中のサイキックエナジーを吸収してダークネスを弱体化させている。ラグナロクの持っているサイキックエナジーも、放出されればサイキックアブソーバーに吸収されてしまうというわけだ。
     サイキックアブソーバーのそばでサイキックエナジーを放出しつづけていれば、ラグナロクは普通の人間と同じである。
     もちろん、ラグナロクとしての性質を失うわけではないので、ダークネスから守るためにも学園で保護する必要があるのだが。
    「そして、ラグナロクのサイキックエナジーは『殲滅再生弾』として、サイキックアブソーバーに装填されました」
     殲滅再生弾の効果は、さっき不死王戦争の話をした際、説明があった通りだ。
     これまでに神津・零梨(高校生ラグナロク・dn0139)、納薙・真珠(高校生ラグナロク・dn0140)、雨宮・夢希(中学生ラグナロク・dn0141)の3人が救出された時にそれぞれ、殲滅再生弾が装填された。
     このうち、零梨の時に装填された殲滅再生弾は不死王戦争で使用されている。だから今の残り弾数は2発だ。
    「なるほどなるほど。土星人の私にも、ラグナロクのことが、よくわかった気がしますよー☆」
     一通りの話を聞いて、そう笑った御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)のように、ラグナロクが凄いとだけは理解していても、詳細はよくわかっていなかった灼滅者にとって、よく理解するいい機会になったようだ。

    ●これからのあゆみ
    「とまあ、こんな風に話してきたけど、『ダークネス』って一括りに言っても、色んな奴がいるのよ」
     話が一区切りしたのを見て、朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)が口を開いた。数え切れないほどのダークネスがいて、それぞれが様々な事件を起こしているのだということは、ざっと大きな事件の内容をこうして追いかけていただけでも、痛感できるだろう。
    「こんなにたくさんのダークネスと、いろいろなことがあったんですね」
     だからクラムス・ファレビット(小学生ファイアブラッド・d17753)も、なるほどと頷くばかりだ。高城・時兎(カイゼリン・d13995)も、ずっと気になっていた今までのことを、大体知ることができたと喜びつつ、更に皆を話を聞いている。

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    【マスターからの解説】
     これまでの出来事は、ゲーム解説ページの『武蔵坂学園のあゆみ』でもまとめられています。年表形式になっているので、時系列に沿って、今までの事件を詳しく追いかけていくのに便利です。関連シナリオへのリンクなどもあります。

     また、各ダークネス種族関連の最新の出来事は、『世界の種族・組織一覧』に載っています。ダークネスの種族ごとに起こっている事件を知りたい人や、今現在起こっていることを手っ取り早く知りたい場合は、こちらが便利かもしれません。
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    「大体のダークネスに共通しているのは、みんなこっちを下に見てるってことかな。ラブリンスターとか変わり種もいるけど、灼滅者とは明白に立場が違うし、力だってずっと強い」
     ダークネスの共通事項を挙げようとする天衣・恵(無縫・d01159)だったが、そのくらいしか出てこないほど、ダークネス種族は様々なのだ。
    「今、例外的に交戦状態にない集団も……今、その状態であると考えた方がいいですか」
     藤島・麻里奈(中学生殺人鬼・d17746)は、人間に友好的なダークネスとは仲良くなりたいと考えているが、ダークネスと灼滅者は、基本的には相成れない存在であることを、再確認する。
     おそらく現在活動しているダークネスで人間に最も友好的であろう『慈愛のコルネリウス』ですら、その行動を放置すれば影響は甚大だろう。
    「そういった関係を築きたいなら、相手の立場や置かれている状況を踏まえて話していく事が重要だと思う」
     来栖・清和(武蔵野のご当地ヒーロー・d00627)は以前、イフリートのアカハガネと言葉を交わす機会があったが、複雑な言い回しは理解できていなかったらしいアカハガネの様子を思い出す。
     自分の考えをどのように、どのような言葉で伝えるかによって、相手の印象だって大きく変わってくるだろう。
    「それで、我は結局何を倒せばいいんじゃ??」
     いろいろありすぎて、何からどうしたものやらと悩ましげな顔をしたのは九重・玉藻(高校生神薙使い・d18284)。そこへ助言したのは、もちろん楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)ら先輩たちだ。
    「学園の状況は、日々刻々と変化しているから、まずは学園の『今』と向き合うことかな」
     ここまでに話したような敵は様々な動きをしている。だからこそ、ひとつひとつの事件にしっかりと、確実に対処していくことは大事になってくるだろう。
     今後に向けて自分を鍛えてみるのもいいことだろうし、一緒に協力していく仲間と交友を深めておくことだって、大切なことに違いない。
     ひとりひとりが、そうやって『今』を過ごしていくこと。それが積み重なって、学園全体のあゆみになっていくのだから。

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    【マスターからの解説】
     サイキックハーツには、第1回でも取り上げたように、たくさんのコンテンツがあります。この中から何を選び、何をするかを決めるのは『あなた』です。
     何をしても、いいんですよ。
     どうするか迷ったら、今までの講座でも先輩たちが勧めていたように、クラブや、自分のクラスのたまり場などで、皆さんと交流していくと楽しくていいかもしれません。先輩達も言っていたように、サイキックハーツは『他の参加者さんと一緒にゲームを遊べる』ところが魅力のひとつですから、
     もちろん、それ以外のことをしても全然オッケーです!
     ただ、教室での冒険や美術室でのイラスト作成など、有料のコンテンツもありますので、そこは気をつけてくださいね。

     なお、教室関連ではプレイングについての相談があったため、第2回や第3回であまり触れていなかった部分について説明していきますね。
     プレイングの文字数は、何文字でも大丈夫です。書ける最大文字数が決まっていますが、その文字数ちょうどじゃないといけない、ということはありません。何文字でも大丈夫ですよ。文字数だけで有利不利が起こったりすることもありません。
     思いついたことを書いたけれど、文字数が余ってしまった……という場合も、特に問題は無いのです。短く、分かりやすく、あなたのやりたいことをまとめることが出来ているのなら、それはいいことですからね。
     ただ、第2回でも取り上げたように、あなたの希望を伝えるための文章なので、一度読み返してみて「こうした方が、もっと自分のやりたいことが伝わるかも」という部分があれば、ぜひ余っている文字数を活用してみてください。
     また、先輩達からは、『行動(どんな行動をするか)』だけでなく、なぜこのシナリオに参加したのかや、どのような意気込みがあるのか、どんなことを思っているのかなどの『自分の考えや気持ち』を書いておくと、より自分のキャラクターらしい活躍ができるというアドバイスもありました。
     『自分がどう行動するか』だけではなく、もう一歩進んで『仲間と、どう協力しながら行動するか』を考えてみるのも楽しい! という経験談もありましたよ。

     教室では、冒険の結果は『リプレイ』のところで見れますが、最近1週間に公開されたリプレイでは、参加した人がどんなプレイングを書いたのか読むことが出来ます。
     リプレイをいろいろ見て「自分もこんな風に活躍したい」という人がいたら、プレイングを参考に読ませてもらうのもいいかもしれません。
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    「オレたち一人一人の……自分だけの歴史を作るのも、大事なことだな」
     草那岐・勇介(舞台風・d02601)も頷く。
     学園生活は一度きり。リセットボタンなんてないのだから、大切にしなくちゃ勿体ない。それが勇介の持論だ。
     そして築き上げられたものは何物にもかえがたい大切な思い出であり、仲間との絆であり、成長の過程にもなるだろう。それこそが『青春』だとも言えるかもしれない。だから、それを大切にして欲しいと、勇介は呼びかけた。
    「俺は武蔵坂学園にきたあと最初に、真面目に仕事に励む普通の人が、落花生怪人になってしまった悲しい事件に挑んだ」
     つらそうな表情ながらも「あの時の経験があり、今の俺がいるんだ」と神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)は語る。
     戦いは必ずしも勝利ばかりとは限らない。勝利できても、手放しで喜べる結果にならないこともあるかもしれない。
     しかしそれでも、自分達はひとつひとつの事件を越えながら、戦い続けていくのだと熱志は強い眼差しを皆へ向けた。
    「あとは姫子の言ってた『最初の一歩を踏み出す勇気』よね」
     ディアナ・ロードライト(比翼の片羽根・d05023)は学園にきたあと、まず最初はできることから始めてみようと、クラブでいろいろな灼滅者達と交流を深めていった。だからこそ、その重要さは身に染みている。
     それがきっかけで、大切な人ができたし……そうちらりと傍らを見て、ディアナは笑う。
    「うん。あとは実際に歩いてみればいいと思う」
     霧崎・影薙(ライラライ・d13199)も重ねて、そう後輩達へ呼びかけた。
    「武蔵坂学園には沢山の生徒がいるけれど、あなたにはきっとあなたにしか出来ないことがある」
     だからあなたが見て、聞いて、そして知ったことを……今度はあなたが、新しく学園に来た灼滅者に伝えていけばいい。
     自分達が今こうしているようにね、という影薙の言葉に、後輩達がしっかりと頷き返した。

    ●学園生活のあゆみ
    「それから忘れちゃいけないのが、武蔵坂学園そのもののあゆみだな。まあ、灼滅者が集まるっつっても学校は学校。普通に勉強することには変わりねえよ」
     敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)の言葉に、灼滅者達の意識は身近なところへ戻ってきた。
    「そう、忘れてはいけない。――今週は中間テストだ」
    「うわあああああああああ! 考えただけで恐ろしい!」
     勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)の言葉に、宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)が叫ぶ。
     ほかにも忘れておきたかった現実を思い出したり、思い出したうえで現実逃避し始める生徒の姿が、ちらちら。
    「あいつは年に4回襲ってくる。どれだけ屈強な灼滅者だろうとお構いなしに、真っ赤に染め上げちまう化け物なんだ……」
     緊迫した面持ちで語る絢矢。どうやら彼は赤点の常習犯らしい。
    「……。テストが行われる間も、急を要する事件が舞い込むことがあったりするのが、灼滅者の辛いところだが……。最下位を目指しているわけでもない限りは、悪いことは言わない。普段から学業は怠らない方がいいだろう」
     みをきは、そう助言する。今回のテストには間に合わないかもしれないが、どうせまた、次は期末テストがあるのだから……。
    「他に、テストで良い点を取るコツとかないかなー?」
    「親しい人を誘って勉強を教え合うのもいいと思うぜ。1人で進めるより、はかどるだろうからな」
    「苦手な教科を教えてもらったり、得意教科を教えたり、より充実した時間を過ごせると思いますよ」
     ミス・ファイア(ゲームフリーク・d18543)の質問に安綱・切丸(天下五剣・d14173)やレイ・エトワブラン(太陽を愛でる病みし月・d11227)がアドバイスする。これは勉強の辛さを和らげる効果もあるかもしれない。
    「俺達は学生だ。将来の為にも勉強しておくといいぞ」
     武蔵坂学園には来年、大学もできる予定だ。特に高校生などは自分の進路についても考えてみるといいのかもしれない。
    「ま、あんまりブルーにならずにいきましょ」
     季節がらジメジメしちゃいそうだけど、ブルーになってちゃ勿体ないしねー、と空裂・迦楼羅(焔鳳フライヤー・d00766)は笑いながら、「あ、よかったら食べる?」とお菓子の箱を周囲に向けた。
    「今月は修学旅行も、あるよね」
     来週になれば対象の学年は沖縄へ向かう。飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)も、そのひとりだ。今から楽しみで、わくわくする。
    「他は他は? あたしが入学する前にも、いろいろあったんでしょう?」
     聞きたいなーとせがむ、久瀬・巳那(イデアマテリア・d13523)。平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)も、井印象深いものがあったら聞いてみたいと手を挙げ、想像以上に先輩達からの視線が集まり、ちょっとびくついている。
     もちろん、先輩達は「そういうことならいろいろありますよ」と身を乗り出したにすぎない。
    「去年のハロウィンには大規模な仮装行列があった。とても賑やかだったよ」
    「ああ、あれは楽しかった」
     自身も参加した一人だという椙森・六夜(靜宵・d00472)が語ると、内之倉・帳(夜殺し・d03930)が、自分も今年は参加してみようかと考えているところだと頷く。
    「ふふ、では、私はマラソン大会のことをお話ししましょうか」
     ベアトリーチェ・アーデルグランツ(華やかな桜色の謡紡ぐ秘戯の蝶・d01453)は、生徒達が武蔵野市内に設定されたコースを走るマラソン大会のことを話していく。
    「俺みたいにガチでトップを狙うヤツの他にも、いろいろいたんだぜ」
     サイキックは使用禁止。ただ走るだけのシンプルな行事だが、そこには様々なドラマがあったのだと相良・太一(土下座王・d01936)が語る。
     優勝を目指す者もいれば、順位は二の次で、友達と仲良くゴールを目指しながら楽しく走っていた者もいる。マラソン大会のエスケープを目指す一部の生徒は、魔人生徒会の取り締まりと激しい戦いを繰り広げたりもしたようだ。
    「えっと、そういえばRB団っていうのがいるらしいけど……」
    「それ拙者も気になってたでござる。どのような組織なのでござるか?」
     何も知らない奏森・あさひ(騒ぐ陽光・d13355)や霧島・サーニャ(硝子細工の箱入り子猫・d14915)の疑問には、風真・和弥(風牙・d03497)が身を乗り出す。
    「RB団。それはリア充を爆発させる者達……。彼らはリア充ある所に必ず自然発生して、役目を終えると自然に消滅する。そう、まるで光があれば必ず生まれる影のように……」
     シリアス一色の表情で、和弥は語っていく。
     RB団には入団試験も序列も無い。ただ、胸にたぎる熱いものさえあれば、その者はもう『団員』であり『同志』なのだと――。
    「……そう、たとえば、あそこのカップルとか!」
    「えっ」
    「気付かれた!?」
     指さされたのは、ずーっと一番後ろでいちゃいちゃしてた鬼皇・暁(淡青の片翼・d15059)たちである。まさか誰にも見られまいと思っていたようだが、さすがRB団(?)、甘くは無かった。
    「あー、そゆこと……」
     なにがしたい組織なのか謎だと思っていたミスト・レインハート(闇夜の疾風・d15170)は、この状況に遭遇して大体RB団のことが理解できたらしい。
    「……話を戻しましょうか」
     ひとつ咳払いして、桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)が話し始めたのは芸術発表会のことだ。
     芸術の秋という言葉があるように、武蔵坂学園では秋になると絵画や楽器演奏、ダンスや書道やポエムなど、様々な分野の芸術を発表しあう行事があるのだ。
     総合芸術部門という名のなんでもあり部門も存在し、灼滅者達の豊かな個性が存分に発揮される行事となっている。
    「それから、一年の最後は『クリスマス』だね」
     武蔵坂学園では、盛大にクリスマスパーティが行われるんだよ、と三雲・秋乃(偏愛スケープゴート・d08813)が去年のクリスマスの様子を思い返しながら話す。
     パーティは学園の中だけにとどまらない。クリスマスの過ごし方はいろいろだ。秋乃も綺麗な夜景を楽しみながらプレゼント交換をして……と、思い出話を語り始めたが、RB団的な方向からの視線を感じて、ほどほどにしておく。
     同様に、2月14日のバレンタインデー当日も、学園ではいろいろなドラマが繰り広げられたようだ。
    「ゴールデンウィークには地獄合宿があったわ」
     その次の学園行事というと、これかしらねとシャルロット・ノースグリム(十字架を背負わせる者・d00476)が挙げたのは、灼滅者達を阿鼻叫喚の渦に叩きこんだ行事である。
    「北は北海道、南は九州福岡まで、日本を横断する形で行われた武蔵坂の合宿っす。ちなみに自分が行ったのは『阿鼻叫喚の東名高速ゴミ拾いマラソン』っす」
     普通に車が走ってる東名高速で、ゴミ拾いしながら名古屋まで行ってきたんですよ、と説明する斉藤・歩(劫火顕爛・d08996)だが、わりと意味がわからない。
     アタックしてくる自動車を避けながら疾走し、見事に優勝を果たした思い出を語る歩の言葉を聞き、そんなひどいことになっていたのか……と嵩峰・シノン(基本的に不運・d16580)たちは愕然とするしかない。
     他にも雪山登山やゾンビがひしめく迷宮でのキャンプなど、全国5会場でこんなのが行われたというのだから、ゴールデンウィークのくせにとんでもない地獄っぷりである。
    「あとは最近行われた運動会ですね」
     一色・などか(ひとのこひしき・d05591)はクラスみんなで盛り上がったことを思いだす。最近の行事なので後輩たちの中にも、運動会は経験している者が多い。
     組連合同士で優勝を目指して、様々な競技にいどむ運動会は、楽しい思い出になった者が多いようだ。
    「騎馬戦って、もう騎馬とか関係なかったですよね」
    「あとMUSASHIがすごかったな……」
     矢城・架月(ウイルスチェッカー・d11247)や五十嵐・匠(中学生シャドウハンター・d10959)のように、武蔵坂学園だからこその競技を印象深く思う者も多い。
     優勝した4D椿連合の生徒達のうち何人かは、そろいの優勝メダルを取り出している。
    「行事といえば、修学旅行って行先は毎年同じ? それとも変わるのかしら」
    「特に決まっていないですね」
     自分が行く時も沖縄なのかしら、と疑問を口にした十時・星羅(ノーザンクロス・d05796)は、その返事に一体どこになるのかしら、と再来年に思いを馳せている。
     生徒からの評判が良ければ、また沖縄に行く学年もあるかもしれないし、その時の魔人生徒会のメンバーからの提案が影響することもあるだろう。
    「魔人生徒会って謎だよね。そもそも、どんな役職の人がいるのかしら」
     狩野・スガタ(何処の何奴か・d03740は、誰か知っていたら教えて欲しいと見渡すが、やはり正体不明の魔人生徒会。内部の詳細を詳しく語る者はいないようだ。「生徒会というからには、会長はいるんじゃない……?」くらいのものである。
     勾月・静樹(夜纏・d17431)が気にしていた選出基準なども、やはり答えは返ってこない。謎だ。
     魔人生徒会に入ってみたいという生徒もいたが、入り方が分からないので、何をどう目指したらいいのか……と悩むばかり。
     行事によっては、魔人生徒会が手伝ってくれる生徒を募集していることがあるので、そういった形で関わることはできる。が、そういう生徒も魔人生徒会の真実に触れる機会は無いようだ。
    「ライドキャリバーGPって、魔人生徒会の提案だったんですよね?」
     結浜・里緒(ダンドリオン・d05829)が尋ねたのは、魔人生徒会主催で先日開催されたライドキャリバーレースについてだ。ライドキャリバーに乗った灼滅者達が白熱した争いを繰り広げ、優勝者には『ちょおかっこういい』ヘルメットが授与されたという。
    「来月は学園祭があるんだよね? 楽しみだなー」
     どんなことをするのかな、と姫乃井・茶子(歴女de茶ガール・d02673)はわくわくしている。学園祭は例年通りなら、クラブ企画や水着コンテストなどが行われる。そろそろ、その辺のエントリー受付が始まるだろうとのことだ。
    「クラブ企画に……水着コンテスト……」
    (「学園祭……それは可愛い女の子とお知り合いになって、仲良くなる新たなチャンス……!」)
     そんな中、盾神・一真(アザゼル一真・d04440)などは密かに拳を握りしめてメラメラと燃えていた。
    「授業は普通の学校と変わりませんけど、行事は灼滅者ならではのものも、いくつかあるのですね」
     先輩達の話を聞き、ラルフ・グーテンベルク(中学生エクソシスト・d18225)がなるほどと感心する。大体は普通の学校と変わらないので、地獄合宿などが例外という感じだろうか。
    「行事以外にも、みんなで富士急ハイランドへ遊びに行ったりとか、楽しいことはいろいろあるよー。友達と下校途中に寄り道するのとかもいいよね」
     そういう時間も、せっかくだから満喫するといいよー、と笑いかけるのは神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)だ。
    「そうだな。友達と過ごす色々な場所に青春は広がっている。色々な人がいる武蔵坂学園だ、常識に囚われすぎずに楽しもうぜ!」
     青春を超謳歌してる俺からのアドバイスだ! と水城・恭太朗(みずしろきょうたろう・d13442)も皆に語りかける。
    「というわけで改めて……ようこそ、武蔵坂学園へ!」
     伊織・湊斗(緋海のアルムーリフ・d04865)は伊織・空也(蒼穹のアルスハイル・d04866)と並んで後輩たちに呼びかけると、精一杯の気持ちを込めて新曲を奏で始めていく。
     これからの日々が良いものでありますようにと、明るいメロディに元気いっぱいな歌が載る。
    「じゃあ、灼滅者講座はここまで、ってことにして……」
    「歓迎会といきましょうか」
     みんなでわっと盛り上がろうと、場のセッティングに買い出しにと動き始める灼滅者たち。
    「はっ、これはチャンス!?」
     クラウリー・ホール(高校生ファイアブラッド・d17758)は姫子を探すと、今しかないと全力でアタックしていく。狼姫・兎斗(白闇のバーチカルレイン・d01087)や香祭・悠花(ファルセット・d01386)たちは霊犬といっしょの灼滅者達と集まり、霊犬談義に花を咲かせていった。

     こうして盛大な歓迎会と共に、灼滅者講座は幕を下ろすことになった。
     しかし、講座が終わったからといって、ここは決してゴールラインではない。言ってしまえば今、あなたたちはスタートラインに立ったばかりなのだ。
     だからこそ、灼滅者講座で学んだことを胸に、歩み始めていこう。
     楽しいことがたくさん詰まった、この武蔵坂学園での日々を!

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月13日
    難度:簡単
    参加:1500人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 22/キャラが大事にされていた 68
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