●秘密の遊びは闇の中で
暗い明かりのない倉庫の中、一人の少女が荷物に腰掛けてまた別の数人の少女たちを見下ろしている。
否、それを少女と言うべきだろうか。蠱惑的な唇と瞳、そして肢体を指して言うのではない。もっと別の、少女以前に人間ではないと言った方が正確だろうか。
淫魔。比喩としてではなくダークネス種族として彼女はそう呼ばれる存在だった。その種族の名に恥じず、彼女の脇にはかしずくように複数の青年が姿勢を低くしていた。
「どうかしら、自分達がオモチャになった気分は。結構悪く無いでしょ?」
淫魔が優しげな声で少女たちに語りかけた、反応する少女たちをよく見れば服は乱れ体の所々に傷がある。それでも辛うじて彼女らの瞳に光がある。それもまたこの淫魔の遊びの一環なのだろう。
「大切に遊んであげる、ゆっくりじっくり、ね」
心から優しげに、大切な人形に語りかけるように。淫魔は服を着せ替える代わりに、少しずつ苦痛を少女達に施していく。
「大丈夫、そのうち何も考えられなくるくらい気持ちよくなるわ……」
「淫魔が女の子達を弄んでいるんだ」
有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)はそう言い、見えた情景を静かに伝えた。
「被害が大きくなる前に、この淫魔を灼滅して欲しいんだ。淫魔はある雑居ビルの一角に5人の女の子たちを監禁してる。予測できたところによると、今から行けばそこから動かないから逃がすことはないよ。ダークネスだからみんなの力を合わせてやっと勝てる相手だけど、頑張ればなんとかなるはず。それに……」
「それに?」
口ごもるクロエを水藤・光也(高校生エクソシスト・dn0098)が促す。
「……淫魔には隙があるんだ。戦いになると、保身よりも先に女の子たちを『壊そうと』するの。誰にも奪われないように、だと思う。その場合、女の子ごとに一人ずつ決まった男の子を向かわせるんだ」
この男子達は誘惑された強化一般人だと言う。そしてこの時だけは彼らの攻撃は灼滅者達に向けられない。
「きっと、この間に上手くやれば有利に戦えるはずだよ。それでもダークネスだから、皆がどれだけ強くても気をつけて。どんなにみんなが強くてもダークネスはそれよりもっと強いから」
どことなく暗い面持ちで彼女は言う。
「きっとここで逃すとまた別の所で同じ事をするから、そうさせないように頑張ってきて。それじゃ、行ってらっしゃい」
参加者 | |
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風宮・壱(ブザービーター・d00909) |
村上・忍(龍眼の忍び・d01475) |
高野・あずさ(菫の星屑・d04319) |
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566) |
アルバート・レヴァイン(福音・d06906) |
西明・叡(石蕗之媛・d08775) |
神林・綺羅(宵の綺羅星・d11630) |
袖岡・芭子(匣・d13443) |
●闇を駆ける
夜を照らすはずの月、だが今宵は雨雲に閉ざされてその光が地上に届くことは無い。灼滅者達の数を確認できるのは足音の大きさだけ。その多数の足音の向かう先は倉庫街の一角、鉄の扉を開け放ち灼滅者達は倉庫の中に飛び込む。
「大勢のお客様ね。レディの部屋に来る時はノックくらいするものじゃなくて?」
突如現れた彼らに物怖じせずこの部屋の主である淫魔は乱入者達を睨めつける。それは現れた者達を品定めするようであり、その余裕のある気配が灼滅者達には重圧となってのしかかる。
(「……なんて、痛々しい……」)
夜目に慣れてきた高野・あずさ(菫の星屑・d04319)の目に少女達が映る。彼女らは冷たいコンクリートの床の上に転がされており、所々に痛めつけられた跡が残っている。辛うじて生きているのは「長持ちさせるため」だろう。
「お人形遊びならお家で一人でやってくれるかな」
袖岡・芭子(匣・d13443)が抑揚のない口調で言い放つ。アルバート・レヴァイン(福音・d06906)が少女たちまでの距離をはかる時間を生む。
「私のいる所が私のお家。ちょっと殺風景だけれどこっちの方が雰囲気が出るでしょ?」
「……人を巻き込まないで、外道」
淫魔とはダークネスである、たとえどんな形であろうと人を道具程度にしか見ていないものだ。良くて「質の良い道具」程度だろう。本質からして人とは相容れない存在、それがダークネスなのだ。
(「……ああはなりたくないものね」)
西明・叡(石蕗之媛・d08775)は心の中で呟く。ダークネスとは人の中に有りて、人でないもの。元となった人格とは全く別の立ち振舞と力を振るう。灼滅者とはそういった自分の中の存在と常に戦い続けているものだ。故に目の前にいる淫魔は未来の彼らなのかもしれない。
「人をおもちゃにするなんて……」
「おもちゃでなければなんなのかしら」
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)に淫魔は本当に不思議そうに返す。風宮・壱(ブザービーター・d00909)は指なしグローブの感触を確かめながら淫魔に向かって口を開く。
「お人形さんごっこはここまで、こっからは俺達が相手させてもらうよ」
「それならそうと早く言ってくれればいいのに。そうねもうそろそろ新しいお人形も欲しかった事だし。ちょっと片付けるから待って下さるかしら」
スッと淫魔が手を上げる、それと同時に闇から現れるのは強化一般人の男子達。だが彼らよりも早く動く影、村上・忍(龍眼の忍び・d01475)があった。
「よくも彼を……! 淫魔、覚悟っ!」
「あら、あの中にいたの? 間違えちゃったようね、ごめんなさいね」
軽くやり取りをして淫魔は身を翻す、もっとも淫魔は忍の行き先を見抜いていたようで大して同様もしていない。忍の動きに合わせるように他の灼滅者達も一斉に動き出す。
「絶対に助けるんだからねっ!」
神林・綺羅(宵の綺羅星・d11630)の言葉が示すように彼らは少女達を助ける意志に満ちていた。
●闇に惑う
灼滅者達の動きはまず強化一般人を捉えようとする、少しでも空いての近くに居続ければ自分達に攻撃が向くだろうとの判断であろう。しかし戦場はそんな簡単なものではない、常に敵味方入り乱れ特定の相手の前に立ち続ける事が難しい。そしてそれができたとしても相手が素直に前にいる相手を狙うとは限らない、今回の様に明確に狙う相手がいるのなら尚更。……抑えるという行動は相手の攻撃を自分に引き付けるという点に置いて確実度は高く無いのだ。
「フフフ、それで助けられると思ったの?」
壱と芭子の攻撃を簡単にあしらいながら淫魔は笑う、淫魔の視線の先には自分達の目測の甘さに苦虫を噛み潰した表情をしている灼滅者達がいた。そこが戦場である限り安全な場所など無いのだ。
「せっかく誘ってるんだから、無視しないで相手してよね」
摩那やあずさがシールドバッシュで強化一般人の気を引き付ける。だが二人だけで彼らを押しとどめることは不可能だ。
「しまった!」
男子の内の一人が少女にサイキックを放つための態勢を整える。水藤・光也(高校生エクソシスト・dn0098)が斧を構えるが間に合わない。だがそのすんでのところで少女達の保護に来ていた者達が身を呈してその攻撃を庇う、その間に別の二人が扉を抜けて戦場の外へとそれぞれ少女たちを抱えて避難させる。彼らがいなければ少女たちの命が助かることは無かっただろう。
「……まあいいでしょう、片付ける手間が減ったわ」
あるいは最後に「壊す」のを楽しみにしていた淫魔が吐き捨てる。
「でもあの子だけは難しいんじゃなくて?」
戦場の一角を壱と芭子に指し示す。そこには未だ助けを待つ少女、守りの手も届きにくい場所。そして強化一般人の魔手が届こうとしていた。
「神岡センパイ、ごめん!」
壱が駆け出す、目の前の淫魔はその様子をおかしそうに見ている。
(「届くのか……、いや届かせる!」)
壱は足に強く力を込める、前に進むことに全力を使い強化一般人と少女の間に割り込み、次の瞬間強かな攻撃を背中に受ける。
(「っ痛……。でも……守れた……」)
薄れゆく意識の中救出された少女を見て彼は意識を手放した。
●闇を祓う
主に戦闘を行う者が欠け、更に苦戦に追い込まれる一行。相手のダークネスも強力だが、強化一般人たちの力を見誤っていたのもその一つの原因だ。元から彼らの動きを止めることに主眼を置き、倒すためには如何にしなければならないのかという視点が欠けていた。強化一般人も攻撃に徹しようとも一撃で倒せる程弱い相手では無いのだ。
「女の子達はみんな脱出した! 攻撃を集中させるんだ!」
劣勢を覆そうとアルバートが叫ぶ。強化一般人達に意識をそれぞれ集中していた仲間達が一斉に動きを変える。戦場を動きまわる彼らが彼の一言をきっかけに個別に狙うように動きはじめる。そうなれば戦闘の推移は早いもの、着実に敵を一体一体撃破していく。
「あなたたちは悪くない……全ては淫魔のせいなのですから」
傷ついた強化一般人に対し、悲しげな瞳で見据えるあずさ。すみれ色の光線は相手の体を貫きその動きを止める。その場に倒れる相手に微かに意識を奪われる。そんな彼を打ち倒そうと、別の強化一般人が腕を振り上げ迫る。
「あたしの目をもってすれば、このくらい造作もないんだからねっ!!」
銃声が一つ、綺羅の確かな一撃が相手を背中から貫く。彼女の放つ攻撃は必ず敵の体を捉えていく。彼女の攻撃を軸に次々と強化一般人達は撃破されていく。
「辛かったね。さあお休み」
アルバートが振るう杖に打ちのめされて強化一般人はその場で崩れる。彼らもまたダークネスの被害者なのだ。彼らには深い眠りを与える以上にできることは無い。
「菊、好きなだけ運動して良いわよ!」
叡の命により、彼の霊犬である菊が刃を持って敵の懐に飛び込んでいく。その後姿は頼もしく、彼は自分のなすべき回復行動に集中する。
(「しかし……嫌な予感がするわ……」)
時間が、かかりすぎている。勿論少女達が距離を取るためには長いほうがいい。だが、彼の行う回復の効果が薄くなってきている、サイキックで即座に癒せる傷よりもそうでない傷が大きくなってきている。そしてその予感は現実のものとなる。
「お疲れ様、中々楽しかったわ。ちゃんと後でゆっくり遊んであるわね」
淫魔の妖艶な声が響く、同時に体の至る所を切り裂かれた芭子がその場に倒れる。シールドバッシュなどでひたすらに自分に攻撃を引きつけていたせいだろう、それに加えて壱がいなくなった事で負担が増えたのも大きい。一人ダークネスの攻撃を受け続けていればこうなるのも仕方はない。
「さあ残りの貴方達も抵抗せずに楽になりなさい?」
●闇を灼く
「お人形遊び、私とも致しませんか?」
「いいわね、今すぐにでも。和装のお人形って欲しかったのよ」
忍に淫魔は軽口で返す、すぐさま生じるのは鋭利な糸。それが忍の体を切り裂いていく。その痛みは深く、彼女の動きまで制限する。苦痛に歪む彼女を見て笑みを浮かべる淫魔、その背後から摩耶が不意をついて斬撃を見舞う。
「こういうのが趣味なんでしょ?」
「されるのは嫌ね、貴女にも同じ事をしてあげる」
再び糸が閃き摩那の体を防具ごと貫く。ダークネスはこの状況になっても未だ自分の優位を疑って居らずそれは正しい。今のままでは相手に攻撃を与えるのさえ難しく、逆に相手の攻撃は必ずこちらを捉えてくる。そしてその威力は強化一般人の比ではない。
(「壱君、芭子君ありがとう」)
アルバートの視線が倒れている二人に向けられる。彼らが淫魔の攻撃に耐え続けた結果、傷の少ない状態で強力な敵である淫魔に対して挑める。雷を呼び残る淫魔に向かって放つ。
「貴方達を大人しくさせたら逃げた子と一緒にしてあげましょう、そうね、それがいい」
微笑みながらそれを避けようとする淫魔の足元に銃弾が打ち込まれる。援護射撃に撃ちぬかれた事で態勢を崩した淫魔を雷が貫く。
「絶対に……絶対に助けるんだから!」
「悲劇はここで全部終わらせる」
動きの鈍った淫魔に対し、大量の銃弾が打ち込まれる。
「大丈夫、すぐ何も考えられない位気持ちよくなります……そうなんでしょう、こうされるのって?」
隙の出来た相手に畳み込むように攻撃を仕掛けていく。おそらくこのタイミングを逃せば淫魔を倒すことは難しいだろう。灼滅者達は全精力を以って火力を集中させる。
「人形の癖に!」
「……ふふ、あなたが仰った事ですよ? 結構悪く無いでしょ、って……」
忍が銃弾の雨を淫魔に叩きこむ。それに紛れて叡が白蛇にも似た光輪を7つに分けて駆けつける。
「アンタ自身が痛い目見る覚悟、決めなさい!」
光輪は淫魔の足を尚深く切り裂き動きを鈍らせる。その動きを鈍らせた所に狙い誤らずに放たれる気の奔流。
「人を弄ぶなんて許せない」
「そういうものでしょう! 成り損ないが偉そうに!」
あずさの一撃に貫かれ、淫魔はそんな言葉を残して灼滅された。
●闇が明ける
壱が目を覚ます。少女を助けて背中に衝撃を受けた所から記憶が無い。
「女の子たちは?」
「落ち着かせて傷を癒したところ。今は眠ってる」
仲間達が言葉などで落ち着かせ、答えた芭子が魂鎮めの風を使った所らしい。今は忍に頼まれた者が記憶操作を行なっている所。壱は携帯を取り出して連絡を取り、息を吐く。
「ところで」
芭子が仲間達に話しかける。
「……お腹空いたから、ご飯食べに行こうよ。どんな事があっても。ご飯を食べて動けばいつか良くなるから」
どこか重い空気だったその中で彼女は言う、確かにそれは正論で灼滅者達は立ち上がる。
黒い雨雲はいつの間にか消え去り、明るい月が空に架かっていた。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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