ある羅刹の決断

    作者:泰月

    ●窮地にて
    (「甘かったか……」)
     呼吸を落ち着かせながら、羅刹の少女は自分の考えの甘さを痛感していた。
     赤羅が倒された今なら――そう思って村を目指してみたものの、侵入するどころか、かなり手前で他の羅刹に見つかった。
     追われて森に逃げ込んでも中々追手を撒けず、見つけた洞窟に隠れるのがやっと。
    「……こに隠れ――」
     外の森から、そんな声が聞こえてくる。
     まだ距離は遠いようだが、このまま隠れるだけではいつかは見つかるだろう。
     もう少し洞窟の奥へと少女が動いた時、滑り落ちた携帯電話がコツンと音を立てた。
    「これって……」
     そして思い出す。少し前、赤羅が倒されたと知った、あの雨の夜の事を。
     彼らを信じていいのか判断を迷ったまま、携帯の存在は今の今まで忘れていた。
     その迷いは、今も消えていない。それでも。
    「……御子ちゃんを助けるためなら」
     羅刹の少女は、やや操作に手間取りながら携帯の通話ボタンを押した。

    ●繋がった電話
    「大変だよ! 羅刹の少女さんから、電話が来たの!」
     浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)のその言葉に、周囲がどよめく。
    「それって、前に定食屋にいたって言う?」
    「うん、その羅刹さん。今は群馬の山中にいるみたい。侵入に失敗して、他の羅刹に襲われて逃げて隠れているって、助けを求めてきたの」
     羅刹との通話の中で得られた情報を菜月は周囲に告げる。
    「あと、誰かを助けたいって言ってた。私はね、何とかして羅刹さんを助けてあげたい」
     あの夜。一緒にきてみないかと菜月が言ったのは、少女を守ってあげられるかもしれないと思ったからだ。
     そして今、追い詰められ助けを求めて来た。それをどうして断れよう。
    「羅刹さんを助けるの、手伝って欲しいんだよ」

    「羅刹の少女の居場所は判ったわ。この山の中腹にある洞窟」
     菜月から事情を聞いた夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)は、集まった灼滅者にサイキックアブソーバーから得た情報を伝える。
    「但し、他の羅刹達が彼女を探して、山狩り中よ」
     洞窟に隠れてる羅刹の少女との合流の前に、まずは当面の安全を確保するのが優先だ。
     とは言え、全ての羅刹を倒せるだけの人数を集めれば、敵のバベルの鎖で気づかれる。
    「倒すべきは、洞窟に最も近い1体だけ。コイツさえ倒せば、他の羅刹とはかなり距離があるから、落ち着いて彼女と合流可能よ」
     その羅刹は、巨大な金鎚を背負っている。さらに、神薙使いと同じサイキックも使う
    「前の赤羅に匹敵する力を持つ、油断できない相手よ」
     加えて、戦場は山中の森の中だ。生い茂った木々に、山の傾斜もある。足場は決して良いとは言えない。
    「でも、捜索中ってとこが、付け入る隙よ」
     狙うべき敵は、後ろに注意を払わない。既に探し終わった場所だからだ。
     故に、山の下から向かえば、容易に敵の後ろと先手を取れると言うわけだ。
    「合流した後の事だけどね。そこは皆で相談するのがいいと思うわ」
     過去に連絡をしてきたダークネスもいたが、『助けを求めて』連絡してきたとなると前代未聞だ。
     そうまでして、彼女が助けたいと言うのは誰なのか。まだ不明確な部分もある。
     だが、追手が山狩りを行っている状況は、彼女の言う侵入の好機になるかもしれない。
     いずれにせよ、後の事はその時になってみなければわからないだろう。


    参加者
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    李白・御理(外殻修繕者・d02346)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)
    謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)
    浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)

    ■リプレイ

    ●追う者達
    「彼女、怪我してないといいけど……」
     山を登りながら、夕永・緋織(風晶琳・d02007)が羅刹の少女の身を案ずる。
     それぞれ同じ思いを抱きながら、灼滅者たちは山中を急いでいた。
     初夏の山。緑濃く鬱蒼と生い茂った山の草木も、彼らの前には障害にならない。
     前を行く李白・御理(外殻修繕者・d02346)と丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)の2人に対して、草木が自ら形を変えて、道を開けてゆくからだ。
     更に全員が山に適した相応の靴を用意してきたので、傾斜に足を取られる事もない。
    「そろそろ近いぜ!」
     謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)が地図に視線を落としながら告げる。
     自分の現在位置を示す地図上のマーカーは、エクスブレインが記した『敵に追いつく地点』のすぐ近くに表示されていた。
    「くそっ! どこに隠れてやがる!」
     明らかに苛立っているその声が聞こえたのは、その直後。
     先頭の2人が足を止め、刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)が後続の仲間に手で発見の合図を送る。
     態勢を低くし、極力音を立てぬよう息を潜める8人。
    「どうする? 地図だと、洞窟までそんなに距離ないぜ」
    「……あまり開けてないですが、もう仕掛けましょう」
     星瞑の言葉に結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)が答えて、全員が頷く。
    「音は遮断したよ」
     浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)が戦場の中と外で音を遮断する能力を発動した事を告げる。
     準備は整った。渡里が少し前に出て、後ろに回した手で指を折る。
     声に出せば、同じ戦場にいる羅刹には聞こえる。故に、声に出さないカウント。
     3……2……1……!
    「菜々花も合わせて!」
    「ナノ!」
     マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)がガトリングガンから爆炎の弾丸を放ち、合図に応えてナノナノの菜々花がシャボン玉を放つ。
    「何だ――ぐぉっ!?」
     マリーゴールド達の声と、一斉にカードの封印を解除し装備を整えた気配に、羅刹が振り向く。しかし、2人の攻撃の方が早い。
     更に風の刃が幾つか放たれ、オーラが炸裂し六文銭が穿ち、神秘的な歌声が響けば地を這った影が羅刹を飲み込む。
    「後ろにも注意した方がいいですよ……次はないですが!」
     一人間合いを詰めた小次郎。彼のドス黒い血の様な色の影が、羅刹を絡め取る。
    「ンだ手前らァ!」
     背後から襲われた羅刹は、怒りをあらわに振り向く。
    「どこのダークネスかと思えば、人間じゃねえか!」
     そして、自分を取り囲まんとする灼滅者達の姿を見て取った。
     しかしこの羅刹は知らない。8人が赤羅を倒した者達であると。
     故に数の差を意に介する事なく、ただ邪魔者を排除する程度の認識で、最も近くにいた小次郎を鬼の拳で殴り飛ばした。

    ●討鬼
    「銀河の果てまでぶっ飛びやがれ!」
    「洒落せェ!」
     ロケット噴射の勢いを乗せた星瞑のハンマーと、羅刹の巨大な金鎚。
     2つの巨大な金属塊が、邪魔な枝葉を蹴散らし真っ向からぶつかり合えば、重たい金属音が響いて両者互いに弾かれた。
    「背中がお留守ですよ!」
     そこに、背後を取った御理がオーラを集中させた両拳の連打を羅刹の背中に叩き込む。
     金の瞳で羅刹を見据え、緋織が翼の意匠を施した杖を掲げて下ろす。
     シャン!
     連なる環が立てた音が風に乗って響かせると、天から走った雷光が羅刹を撃ち据えた。
     続いてマリーゴールドが、蛇の如く伸縮する刃を操る。
     炎を纏った刃が木々の隙間から羅刹に迫るが、これは不運にも苦し紛れに羅刹が振り回した金鎚に阻まれた。
    「お前も頭は悪そうだな」
     だが、その隙に死角に潜り込んだ渡里が鋼の糸で羅刹の足を裂いていた。
    「これ以上、進ませません」
     更に、静菜も同じく鋼の糸を高速で振るい、羅刹の傷をえぐるように斬りつけた。
    「人間風情がぁ!」
     羅刹が叫びと共に、大金鎚を振りかぶる。弧を描いて迫る巨大な質量。
    「やらせない!」
     御理を狙って放たれた一撃だが、その前にマリーゴールドが割り込む。小柄な体が衝撃に飛ばされ、木に叩き付けられた。
    「マリーさん、大丈夫?」
    「ナノ!」
     すぐに、菜月が月の描かれた群青の護符を飛ばし、菜々花も癒しの力をマリーゴールドに与える。
     羅刹の攻撃は強力だったが、灼滅者達は前衛、特に庇い手を多くし羅刹の攻撃が一人に集中しないように、ダメージを上手く分散していた。
    「ちょろちょろと……!」
     狙いを絞らせない灼滅者達の戦い方は、羅刹を確実に苛立たせていた。
     怒りと共に、羅刹が大金鎚を地面へと叩きつける。津波の如く地を走った衝撃が取り囲んでいた6人に襲い掛かる。
     かつて戦った赤羅の風に負けない強力な衝撃だったが、前衛を6人と多くした事で、1人当たりのダメージ量を若干ながら減衰させる事に成功していた。
    「助けたい人がいるの……だから絶対退いたりしないっ……!」
     すぐに菜月が浄化をもたらす風を呼ぶ。吹き抜けた優しい風が、足に残る痺れを取り去って行く。
    「これで癒しきれるかな」
     人数が多さはここでも響くが、足りないと見た緋織も優しい風を招いて吹き渡らせる。
     それでも足りない分は、菜々花とサフィアのサーヴァント達がそれぞれの癒しの力を行使して埋める。
    「やれやれ。お気に入りの傘がズタズタだ」
     戦いの余波でボロボロになった小次郎の番傘。開いて投げつけると同時に、それごと羅刹に幅広の刀で斬りつける。同時に刃が纏っていた炎が燃え移り、羅刹の身体を更に焼いていく。
     木の陰から木の陰へ。渡里が次々と死角に回り込みながら、鋼の糸で硬い肌に次々と傷を刻んでいく。
     負傷を可能な限り最小限に抑える灼滅者に対し、羅刹の傷は一つ二つと確実に増えていた。
    「ちっ。なら、後ろのガキからだ!」
     後方にいる回復役から。そう考えた羅刹が無造作に腕を振るえば、風が渦巻く。
    「そうはさせません」
     しかし風の刃が飛ぶよりも早く、その前に飛び込んだ静菜が身を盾として凌いだ。かなり深い傷を負ったが、龍の因子を解放して自らを癒す。
     マリーゴールドの操る刃が、木々の隙間を縫って蛇の如く羅刹に絡みつき、斬りつける。
    「よっと。任せますよ」
     更に小次郎が影をまとわり付かせる。糸に、刃に、影に縛られて。動きの鈍った羅刹を蹴り飛ばす。
     よろめいた所に緋織が走りより、手にした杖で一打加えてすぐに離れる。直後、羅刹の内部で魔力が爆ぜた。
    「シーサーキィィィィィック!」
     木々を蹴り、駆け登った星瞑が落下の勢いに沖縄の力も加えて、踵を叩き付ける。
    「任されました!」
     御理が掴んだ木を軸にして自分自身を振り回す。体操の鉄棒にも似た変則的な動きで飛び回り、遠心力をたっぷり乗せた鬼の拳の一撃を羅刹の叩き込む。
     御理の一撃で吹き飛んだ羅刹は、山の木々をなぎ倒して強く地面に叩きつけられ、それ以上起き上がって来る事はなかった。
    「羅刹さんごめんね……」
     倒すしかなかった。それでも、自分たちで倒した羅刹に菜月は涙すら流して祈る。
     その肩に緋織がそっと手を置く。ダークネスであれ、討つ事に心苦しい思いを感じるのは、彼女も同じだ。
    「戦いの痕跡、全部は消せそうにないですね。先を急ぎましょうか」
     周辺を見回し、静菜が言う。幹から折れた木などの大きな残骸も転がっている。箒で掃いた程度では到底片付きそうにない。
     一行は、休息も後回しにして、目指す洞窟へと急ぐ事にした。

    ●再会
    「此処ですか?」
    「貰った地図だと、そうだ」
     振り向いた御理に、地図を手にした星瞑が答える。
     8人がいるのは山肌にある洞窟の前。此処に、羅刹の少女が居るはずである。
     渡里が「定食屋の羅刹の人ー」と洞窟の中に呼びかけると、何かが動く気配がした。
    「……本当に、来たの」
     ややあって羅刹の少女が奥から現れた。
    「お待たせしました」
    「ナノナノ~」
     マリーゴールド達が出迎える。
    「良かった。怪我はしてないみたいね」
    「そうですね。無事で良かった」
     あの雨の夜、定食屋で会った時に比べると、あちこち薄汚れた様子だが大きな傷は見当たらない。
     無事と言える少女の様子を見て、緋織と小次郎が安堵する。
    「良かった、また会えてっ」
     感極まったか、瞳を潤ませて菜月が駆け寄る。
    「その声、電話に出た?」
    「うん。えと、この間も名乗ったけど、私が菜月だよ」
     菜月が名乗ったのを皮切りに、次々と少女に名乗る灼滅者達。
     以前に名乗った時は差して気に留めた様子もなかったのだが、今回は名乗る度に一人一人顔を見ている。
    「色々話したいことがあるけどさ。まず、お姉さんの名前を教えてもらっていい?」
    「……摩利矢よ。上泉・摩利矢」
     名を尋ねた星瞑の言葉に、短い沈黙を挟んでから、少女――摩利矢が返した。
    「なんか、名前似てますね。あ、マリーって呼んで貰えると嬉しいな」
     摩利矢とマリー。成程と頷く仲間達の前で、当の摩利矢は何処か決まり悪そうにしていた。

     いつまでも洞窟の入口で立ち話では、互いに落ち着かない。
     摩利矢によれば、洞窟は少し奥に行けば広い場所があるとの事。
    「サフィア。ここは任せる。異変があったら教えてくれ」
     渡里の霊犬を入口近くに残し、8人は先の戦いの休息も兼ねた相談をする為に、洞窟の奥へ向かう。
    「私たちのこと、思い出してくれて……連絡してくれてありがとうっ」
    「何で助けた方が、お礼言うの?」
     いきなりの菜月の言葉に、逆でしょ、と返す摩利矢。
    「そうかな? ……でも、頼ってくれたのは嬉しかったから」
     自分よりも他人を優先しがちな菜月の、正直な気持ちだろう。
    「電話で言ってた助けたい人の事、行きたい場所、これからどうしたいか……ゆっくりひとつずつでいいの、摩利矢さんのこと教えて貰っていい?」
     促す言葉に、摩利矢は、何処かまだ戸惑う様な素振りをみせる。
     8人はそれ以上問い詰める事なく、摩利矢の方から話すのを待った。
    「先に、私達の事から話しましょうか」
     考え込むように俯いて、中々口を開かない摩利矢に、静菜が自分達の事を語り始めた。
    「灼滅者の組織の者。以前そう言いましたが、まだ若い組織です」
     戦う事が多いが、場合によってはダークネスと交流もある組織だと。
    「最近だと、淫魔のライブに行ったり、炎獣から依頼が来た事もありましたね」
    「……それ、本当?」
    「本当です。……私達って変ですね」
     訝しむ様な視線を向けてくる摩利矢に、苦笑する静菜。
     信じて欲しいから相手を信じる。だから、静菜は聞かれてもいない内情を話した。
    「ねえ、摩利矢さん。聞かせて欲しいんだけど」
     次に話しかけたのはマリーゴールド。
    「あなたにとって、人間ってなんですか?」
     それは、彼女がこれだけは聞いておきたいと思っていた事。
    「必要な存在、ね」
     この問いかけには、摩利矢はあまり迷うことなく答える。
    「私達は子供が産めないから」
     それは羅刹に限らない、あらゆるダークネス共通の欠点だ。
    「人間を守る事はあっても、人間に助けを求めるなんて以前の私なら考えなかった。正直、本当に助けに来るなんて、思ってなかったよ」
    「助ける気が無ければ、そもそも携帯を渡したりしないさ」
     俯いたままの摩利矢に、渡里が事も無げに告げる。
    「こんな、人間もいるんだね」
     重ねられた言葉にようやく摩利矢が顔を上げる。その瞳から、灼滅者たちに対する不信の色は減っていた。

    ●決断
    「君達、ラグナロクって知ってる?」
    「やっぱりラグナロク絡みか」
     口を開いた摩利矢の言葉は、灼滅者達の予想の範疇だった。
    「知ってるの?」
     驚かない灼滅者達に逆に驚いた顔になる摩利矢。
    「ラグナロク絡みと思ったのは、前に君と戦った仲間から傷が治った事を聞いたからだ」
     渡里が予測していた事を告げる。
    「それなら話は早いわ。私のいた村に『御子ちゃん』って言うラグナロクがいるの」
     そして摩利矢は語り出した。
     隔絶された山奥に、羅刹の住まう村がある事。彼女はそこで御子の世話係をしていた事。
    「でも、今の私は、他の羅刹、組長達から、御子ちゃんを助けたいんだ」
     そして村に忍び込もうとして、あっさり失敗したのだと。
     だが、追手の状況を聞いた摩利矢は、すぐに村に向かえば好機になると言う。
    「警戒している所に、向かうのは捕まりに行くようなものにならないか?」
     渡里が懸念を挙げるも、首を横に振る。
    「今なら、村に残ってる羅刹は少ない筈よ。今度こそ侵入出来ると思う」
    「忍び込む当てはある、と言う事ですか」
     扇子で口元を隠しながら、小次郎が思考を巡らせる。
     このまま救出に向かう。一旦下山して仲間に陽動を頼む。身を隠して時期を待つ。
     話を聞きながら考えていた3つの策だが、摩利矢の考えに最も近いであろう策は提案するまでもなく明白だ。
    「私は、すぐに村に向かうわ」
     その考えを裏付ける形で、摩利矢が彼らに告げる。
    「もし捕まったらただじゃすまない。……それでも、協力してくれるなら」
    「摩利矢さんがよければ一緒に行くよ。できる限り精いっぱい、力になりたいの」
     危険だと言う摩利矢の言葉を遮って、菜月が迷いなく言い切る。
    「御子さんは、大切な人なのですね」
    「前に言ったの。私がいつまでも御子ちゃんを守ってあげるって」
     静菜の問いに、頷く摩利矢。
    「大切だと想う気持ちは私達も知ってるから。失くす痛みも。だから、貴女も貴女の大切な人も、助けたいと思うわ」
     どんな話であれ、大切な人を助けるなら出来る限り手伝うと緋織が告げる。
    「御子さんを助けに行きたいのなら、全力で協力しますよ。あなたは何だか悪い人に見えませんし」
     静菜も摩利矢に頷き返す。
    「自分もお姉さんは悪い人じゃないと信じてるし、手伝うよ。その為に来たんだから」
     折角頼ってくれたのだ。星瞑は全力全開で頑張ると強く告げる。
    「助けたい人がいるのは、僕達も同じです。力や立場は違っても、今の僕達は何か大事なものを守りたい仲間だと思います」
     御理も手伝わせて欲しいと告げる。
     思い出すのは『赤い目は泣き虫兎さんの赤色だから――』と言う彼の母親の言葉。
     例え相手がずっと強い存在でも、独りにしてはいけないと御理は思う。
    「勿論、私と菜々花も手伝うよ」
     マリーゴールドも強く頷いた。横で菜々花もナノナノと鳴いている。
    「どうするにせよ、君の力になりたいことに変わりはありません」
    「ここにいる全員が、君に協力すると決めているのは揺るがないさ」
     小次郎と渡里も、このまま村へ向かう事に賛同した。
     摩利矢の言う通り、学園に戻らずに村に向かうのが好機である保証は無い。
     だが、やってみなければ判らないのなら、摩利矢に協力すると誰もが決めていた。
    「……わかった。君達の事、信じてみるよ」
     灼滅者を信じる。
     その決断は羅刹である摩利矢にとって、他の羅刹との決別を意味していた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月24日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 61/感動した 11/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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