深夜の鬼物語

    作者:陵かなめ

     その日、村の消防団員が社に集まっていた。小さな村の社は寄合所も兼ねており、村の運営についてなど話し合われるのだ。
     夜もふけ、灯籠に明かりが点った。
    「今夜はやけに静かだなぁ」
    「そう言えば、虫の声も聞こえねぇや」
     何かの拍子に、こんな会話がかわされる。
     とは言え元々静かな村なのだ。人口は少なく、今日の話題も若者の地元離れについてだった。
    「なぁに、そのうち虫も戻ってくるよ」
     他愛無い話だ。皆、顔を見合わせ笑う。
     その時、ドシンと何かを叩く音が響いた。入り口の扉のようだ。
    「誰だ? 宴会の酒目当ての若造か?」
    「おいおい、今日は宴会じゃなくて、話し合い」
     どっと、笑い声があがる。
     笑顔のまま、ふらふらと一人が扉へと向かった。
    「コラ、若造。もう酒は残ってねぇぞ!」
     勢い良く声をかけ、扉を開ける。
     そして。
    「へ……べっ」
     そのまま、潰された。
     静まり返る場内。その光景を瞬時に理解した者はいなかった。
     なぜなら。
    「なんだ、おまえ……?」
     社に集った者達が見たのは、大きな体を持つ、赤い色の。
    「おに?」
     見たままを言うのなら、鬼だった。肌は赤く、ヒョウ柄の腰巻を身につけ、とても大きな斧を担いだ鬼だった。鬼が口角を上げる。見えたのは、鋭牙だ。
     何かの余興か? 血を流して倒れている仲間はどうした? 何故鬼は何も言わずに自分達へ迫っている?
     誰かが疑問を口にする前に、鬼が村人に飛びかかってきた。
     飛び散る赤い液体、ピンクのナニか、短い悲鳴と断末魔。
     鬼の虐殺は、そこに動くものがいなくなるまで続いた。
     
     
    ●依頼
    「それでは、依頼の説明を始めます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった一同を見回し、話し始めた。
    「鬼のような姿の眷属が現れたんです」
     その鬼が、寄り合い所も兼ねた社に集まっていた村人を虐殺するというのだ。
    「私達は、その鬼を退治すればいいわけなのね?」
     空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が片手を上げ確認する。姫子は頷き、更に詳しい説明を行う。
    「まず、村の皆さんが集まっている社は、村の一番奥山に一番近い場所にあります。この日は、お酒の飲める男性が集まっているようですね。鬼は、山から現れ社を襲います」
     社の扉を叩き割ろうと、斧をぶつける。
     その音を聞いた社の中の村人が扉を開けてしまうというのだ。
    「念のため確認するけど、社の扉を叩く前に鬼と戦闘はできないの?」
    「……、残念ながら、そうなると鬼は山へ逃げてしまいます。確実に鬼を叩くためには、社の中から扉を開けてもらわないと」
     言い辛そうに、姫子がうつむく。
     つまり、最初に扉を開けた村人は救えないのだと。
    「それじゃあ、中で宴会をしている人達は、助かる?」
     紺子の質問に、姫子が答えた。
    「助けるかどうかは、皆さんの判断にお任せします。もし助けるのなら、村人をどう護るのか、相談して下さい」
     最後に、姫子が鬼について説明した。
    「鬼は鬼神変 、神薙刃など、神薙使い相当の強力なサイキックを使うようです。また、手にした斧を振り下ろしてくる攻撃もありますので注意して下さい」
    「ねぇ、寄り合い所って、扉は一つしかない?」
     説明を聞きかながら、紺子が質問する。
    「いいえ、鬼が来る正面扉の他に二つ、トイレにつながる廊下と休息室につながる廊下への小さな扉があります」
    「ふぅん。じゃあ、私が誘導して逃がすことも?」
     紺子の言葉に、姫子が首を傾げた。村人をどこかへ逃がすのか、それとも鬼を社の外へ誘導するのか。その役目は誰が? その他、細やかなことは相談して決めたほうがいいのだろう。
    「危険な任務ですが、皆さん、どうか無事帰ってきてくださいね」
     最後に姫子はそう締めくくった。


    参加者
    風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)
    喚島・銘子(繰糸代読屋・d00652)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)
    楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)
    天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)
    一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222)
    鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)

    ■リプレイ

    ●中と外
    「『鬼』ですか。羅刹とどう関わるんでしょう?」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が考えるように小首を傾げた。意味のない虐殺などは、羅刹がいつもしていることだし。
    「まあ出自を問うより、今は被害者の人を減らすことが第一ですよね」
     責任重大だと、結論付ける。
     ここは、社の外側。
     宴会に潜り込まなかった待機組の仲間が、息を潜めて鬼の登場を待ち構えている。
     鬼は山から現れるという。だとしたら、あまり山に近づき過ぎないようにしなければ。
     穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)もまた、社の外側で気を配りながら待機していた。
    (「ただこうして待つだけと言うのは……やはりもどかしいものが有りますね」)
     心の中で思う。
     出来るのであれば、全員助けたいと言うのは贅沢なのだろうけれど。解っていても、ほんの少しだけ心が重い。この事件は、最初の犠牲者が出なければ始まらないのだ。
     突入予定の扉近くに待機しているのは楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)と一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222)だ。
     二人共懐中電灯を持っているが、今は点灯していない。灯籠の明かりでどうにか社の入り口が確認できる程度だが、それで十分だった。
    「……1人どうしても助けられへんのは癪やけど、その分、助けられるんは助けるで」
     やはり心に引っかかるのは、最初の犠牲者だ。朔太郎の言葉に、刹那が静かに頷いた。
    「どうせなら無害なやつがよかったのに」
     ぽつりと、刹那は呟く。
     児童文学に出てくる、友達の優しさを思って泣くような、そんな鬼だったならば。
     二人は短い言葉を交わした後、再び沈黙した。
     社の中から宴会の音が漏れ聞こえてくる。ここからは、耳を澄まし戦闘開始のタイミングを見計らわなければならない。
     一方、社の中では賑やかに宴会が行われていた。
    「何だ何だ。今日はやけに人数が多いじゃないか。こんなに子供が居るんだ、ウチの村も大丈夫だな」
     酒で顔を赤らめ、男は上機嫌で笑い声を上げた。
    「おじさん、あんまり飲みすぎないでよー?」
     ニコニコと水を差し出しながら、天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)が可愛らしく声をかける。決して、緊張した素振りを見せない。村人の親戚の子供を装い、宴会に潜り込んだのだ。
    「ん。あぁ、しかし、そう言われれば、飲みたくなるなぁ。あ、ほら。お前も飲め。せっかく来たんだ」
     お猪口を勧められたのは喚島・銘子(繰糸代読屋・d00652)だった。
    「未成年にお酒を勧めないの! それにしても、やっぱりこの辺りは空気が澄んでるわね」
     やんわりとお猪口を押し返し、話題を村の自然へと向けた。
    「そうだろう? 良い所だよ。お前らも、たまの帰省じゃなく、ここに住め住め」
     酒を断られても、気分を害した様子はない。男は、銘子に返された酒を自ら飲み干し、また大きく笑った。
    「親父さん、飲むだけじゃなくて食べませんか。これなんか美味いですよ」
     絶妙のタイミングで風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)がつまみを差し出した。泥酔者が出ないよう、気を配っているのだ。
     村人の親戚やその友人として社に現れた灼滅者達を、村の消防団員は気さくに受け入れてくれた。皆おおらかで、今日は子供が居るということもあるのだろうけれど、楽しい宴会だった。その中には、友人として潜り込んだ紺子やサポートのメンバーの姿もある。
    「休憩室に行く扉って、意外と小さいんですね」
     普段の口調ではなく、宴会に溶けこむようなですます調で話すのは鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)だ。
    「そうだぞ。休憩室に行くってのは、自分が潰れましたって、言ってるようなもんだろ? お前も男なら、休むときはこっそり抜けだせ! な?」
     がはがはと笑いながらビールを口にする村人に、もっともらしく頷き返す。
    「しかし、まぁ……今夜はやけに外が静かだなぁ」
     ふと、誰かがそう口にした。
    「そう言えば、虫の声も聞こえねぇや」
     答える声を聞きながら、灼滅者達はその時が近づいたことを感じた。

    ●鬼は来たりて
     その時、ドシンと何かを叩く音が響いた。入り口の扉のようだ。仲間内で笑いながら、一人の男が扉に向かった。
     その様子を、誰も動かずただ見ている。
     やがて扉が開かれ……。
    「へ……べっ」
     そして、潰された。
     声を失う村人達を庇うように、梗鼓が鬼の前へと躍り出た。
    「蒼桔梗、天の羽と参る!」
     すぐさまスレイヤーカードを開放し、きょし(霊犬)と共に鬼と対峙する。仲間達も、一斉に戦う姿を顕にした。
     鬼が斧を振り上げる。
    「これ以上は、やらせないよっ!」
     片腕を異形巨大化させた梗鼓は、鬼を正面から殴りつけた。斧と腕とがぶつかり合い、社が揺れる。きょしも桔梗に続くように攻撃を仕掛けた。
     村人は突然始まった戦闘に、ただ呆然と立ち尽くし言葉を失った。
    「杣、村の人たちを守って」
     銘子の掛け声に、杣(霊犬)が村人の前に体を滑り込ませる。
     鬼は何も語らなかった。
     ただ、目の前の村人目掛けて身体を進ませる。その間に居る灼滅者達のことなど、まるで気にしていない。
    (「救う事は出来た……鬼を逃がしさえすれば。だが、これも自ら選んだ道」)
     神羅の目の前に、無造作に転がった村人の死体。だが、ここで鬼を逃してしまえば、更に犠牲者が増えるのだから。
    「彼に従って下さい!」
     村人に届くよう声を張り上げた。
    「早くにげてっ!!」
     桔梗の声も重なる。
     声の先には龍夜が居た。
    「全員逃げるんだ! 早く! こっちだ!」
     すぐに休憩室への廊下の扉を開いた龍夜は、村人の様子を確認しながら誘導を始めた。
    「休憩室まで行けますか」
     銘子が紺子に短く確認をとる。鬼が正面扉に仁王立ちしている。これでは鬼の横をすり抜けて村人を外へ避難させるのは不可能だ。だが、休憩所までの廊下の扉は狭く、ようやく二人通れるほどしかない。
    「駄目、間に合わないかも」
    「無理ならこちらへ」
     首を横に振る紺子を見て、銘子がもう一つの扉を開けた。
    「こっちで半分避難させる。そちらは任せた。おい、トイレの廊下にむかえ!」
     足のふらつく村人に肩を貸しながら、龍夜がキビキビと指示を送った。
    「すみません……手段は選んでいられないのです」
     避難を手伝っていた蓮璽が、村人を強引に抱え込み廊下へ投げた。村人は、恐怖からか呻くばかりで不満を口にする余裕はないようだ。同じく仲間をサポートするように沙月も社に現れ、村人の守りを固めた。
     社の中の喧騒を確認し、待機していた仲間も動いた。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     亡くなった村人に心の中で手を合わせ、紅緋が戦う姿を現した。
     お伽話よろしく、鬼退治を始めましょーと、鬼を目指す。
    「……さぁて、鬼退治といこか!」
     桃子(霊犬)を従えた朔太郎に紗月、刹那も続いた。
     中にいる仲間と鬼を挟み撃ちに出来るよう、それぞれ位置を取る。
     最初に飛び上がったのは刹那だった。
    「後がガラ空き、不用心だねっ」
     事実、鬼の意識はすべて社の中に向いているようで、背中が隙だらけだった。
     大きく腕を振り上げ、シールドで思い切り殴りつける。だが、吹き飛ばすまでは至らず、鬼はその場で足を踏ん張った。
     鬼がちらりと振り向く。
    「鬼さん、お相手は此方になりますよ?」
     そのタイミングで、ガンナイフを構えた紗月が、鬼を挑発するように声をかける。
     鬼さんこちらと、手軽に意識を向けてくれるのなら楽なのだが。鬼は宴会をしていた人間を諦めきれないのか、紗月の声を無視して社内に向かって斧を振り上げた。
     では、仕方がない。
     紗月は正確に鬼の足元を狙い、銃撃を開始する。
    「……!」
     今度ははっきりと鬼が振り返った。
    「ボクが危険になる分、一般人の方が安全になると思えば安いものですからねっ」
     鬼との距離を測りながら、攻撃を続け注意を引く。一般人の避難が完了するまで、鬼の意識を自分達に向けなければ。
     紅緋は石化の呪いを鬼へ向けた。石化が始まれば、後々楽になる。
     思いは同じ、灼滅者達はそれぞれの役割をこなし、戦いを始めた。

    ●そして、合流
    「避難場所は、どないなった? 村人は、外に出られそうか?」
     遠くの仲間へ真っ直ぐに、朔太郎の声が響く。
    「外には出られぬ。二つの廊下に、分けて避難中だ! それも、じき終わる」
     同じように、神羅の声が返ってきた。二人のやり取りを聞き、一般人を社の中で守り、鬼を外へ押し出すと、すぐに仲間が理解する。
     その間に、鬼が刹那に狙いを定め斧を振り下ろしてきた。
    「……っく」
     防御の姿勢を取り覚悟していたが、その衝撃は凄まじい。重い衝撃で、身体が傾ぐのがわかった。三割ほど、一気に体力を削られた感覚。
     だが、膝を付く前に小光輪が刹那を護るように飛んできた。
    「こっちは避難完了したわ。大丈夫?」
     村人を扉の向こうに誘導し、銘子がメディックの位置についたのだ。同じく、避難を完了させた龍夜が戦いに参加する。
    「悪夢よ、来たれ」
     どす黒い殺気を放出し、鬼を覆い尽くした。
    「こっちも、行くよっ」
     戸惑うような素振りを見せた鬼に、梗鼓が影を伸ばす。最初の人は救えなかった。ならば、これ以上の犠牲は絶対に出さない。影は動きを封じるように鬼に絡みついた。
     だが、まだ鬼は社の中。
     紗月と刹那が同時に激しく渦巻く風の刃を生み出した。
    「ここはお前が入っていい場所じゃない! 出て行けええ!」
     どうにか鬼を外へ誘導したい。気合を込め刹那が叫ぶ。
    「合わせて、行きましょうっ」
     上手く社の外へ誘導出来ればいいと紗月も思った。
     紗月の掛け声に合わせ、刹那も風の刃を飛ばす。刃は重なり、幾度も鬼を斬り裂いた。
    「ゥ、ヴ……ァアァアアアアアアッ」
     上手く動くことができないのか、焦れたように鬼が唸り声を上げた。腕を大きく異形化させ、力任せに振り回す。
     鬼の近くに居た仲間が後退し、代わりに紅緋がその懐へと飛び込んできた。
    「脳震盪、起こすだけの脳みそあるかな?」
     鬼と同じく異形巨大化した腕を、鬼の下から打ち上げる。
     狙うは顎。
     正面の攻撃に気を取られていた鬼は、下からの攻撃に対して無防備だった。
     紅緋が腕を振りぬくと、鬼の身体が社の外へと転がっていった。
    「ィアアアッ」
     鬼が二度目の咆哮を上げる。すぐに体勢を立て直したようだ。それを見届け、紅緋は退避する。足を止めず、鬼の周りを駆けながら隙を探すのだ。
     仲間達も、鬼を取り囲むように社の外へと出てきた。
    「絵に描いた様な鬼っちゅーのはこういうんやな」
     赤い肌も、ヒョウ柄の腰巻も、いかにも童話や絵本に出てきそうな鬼だ。それならば、めでたしめでたしで終わらなければ。
    「鬼には鬼を……ってな」
     敵の異形化した腕を見て、朔太郎もまた片腕を異形化させる。
     鬼が攻撃の姿勢をとった。
     互いに言葉なく、相手に向かって飛び掛る。粉塵が巻き上がった。お互いの巨大化した腕がぶつかりせめぎ合う。
     不意に、鬼が力を抜いた。
     あっと思った時には、別の方向から斧が襲い掛かってくる。
     慌てて身体を反転させ、打たれる場所をずらし、致命的な一撃をやり過ごす。だが、次の攻撃が迫ってきた。それを桃子がかばう。
    「ようやったな!」
     朔太郎は桃子に声をかけ、すぐに身体を起こした。止まっていては、的になってしまうばかりだ。痛みを訴える身体をねじ伏せ、走り出す。
    「鬼を以て鬼を討つが我が流儀! 一手、馳走致そう!」
     朔太郎を追うように動く鬼に、神羅が迫っていた。
     仲間も口にしていたが、まさに鬼退治だ。鬼退治など、伝説だけであれば良かったのだがと思う。
     しかし、今、神羅の目の前にはっきりと敵意をむき出しにした鬼がいるのだ。それも、一般人を惨殺した鬼が。
     身体の重みを一撃に乗せる。巨大化した腕で鬼を殴りつけた。

    ●静寂の夜
     鬼は自身の体から吹き出る血も構わず攻撃を繰り返した。その度、フォローし合いながら戦う。
     重い一撃を受けた紅緋が吹き飛ばされた。勢いに抗わず、上手く衝撃を逃がす。指にあたった柱を掴み、体勢を整えなおした。
    「まだまだ、すぐ殴りに行くからね」
     胸にハートのマークを具現化させ、傷を回復させる。
    「ごめん、こっちも手一杯だわ」
     銘子は杣と共に朔太郎の傷を癒している。紺子も回復のサイキックを使うが、まだ追いつかない。
    「足りない分は、ボクが」
     次に鬼が攻撃してくるまでに回復したほうがいいと判断し、紗月が癒しの力を込めた矢を紅緋に飛ばした。
    「流石にやる! ならば、これならどうだ」
     やはり、鬼の一撃は重い。一撃一撃が相当のダメージになるのだ。
     回復を仲間に任せ、龍夜が鋼糸を繰り出した。闇に紛れながら、決して鬼の視界に囚われないよう位置取りをし、糸だけを鬼に絡めつかせる。
    「捕縛業の弐、搦糸」
     気がつけば、鬼は身体を拘束され自由を奪われていた。
    「大丈夫や、ありがとう。ほな、行くで」
     傷は癒された。まだ戦える。
     朔太郎はロケットハンマーのロケットを噴射させ、勢いのまま鬼に殴りかかった。
     鬼も満身創痍だ。今までどんな攻撃を受けても踏みとどまっていた鬼が、初めてゆらりと揺れた。
    「ここだっ」
     今がチャンスと、刹那が拳にオーラを集中させる。
    「そうだね、やろう!!」
     それに合わせるように、梗鼓も飛び出した。
     二人は鬼を挟んで左右から、同時に連打を繰り出す。逃げる場所がなくなり、鬼がその場で苦しげに呻いた。
     だが、攻撃の手は緩めない。
     紅緋が再び鬼に跳びかかり、殴りつける。
     そして。
    「傲慢と言われようと、これ以上の犠牲は許容出来ぬ!」
     最後に神羅が、異形と化した片腕で鬼を殴り滅ぼした。

     今夜は虫の声も聞こえないと、村人は言っていた。
     社に再び静寂が訪れる。
     刹那は社にお参りし、境内での戦闘を心の中で懺悔した。
    「こいつ一匹だけ、……だよね?」
     梗鼓の言葉に龍夜が頷く。他に敵意がある者がいないか、その他簡単に調べたが、特に成果はなかった。
    「任務、完了だ……」
     それが分かれば良いと、龍夜は闇に消える。
    「灼滅完了。消防団員さん達が戻る前に引き上げましょう」
     紅緋が言うと、皆帰りの支度を始めた。
    「……壊れたもんも命も戻されへんけど、日常に戻れるとええな」
     朔太郎が呟く。幸い、避難した村人に大きな怪我はないはずだ。
    「……杣」
     被害者の身なりを整え、手を合わせていた銘子が立ち上がった。相棒の名を呼び、頭を撫でる。
    (「拙者に更に力があれば……というのは本当に傲慢か……」)
     死者の冥福を祈っていた神羅は思う。
     鬼は退治できた。それだけは本当だ。
     灼滅者達は静かに社を後にした。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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