黄昏時の鬼退治

    作者:緋月シン

    ●黄昏
     薄暗い道を一組の男女が歩いていた。他に人影はなく、喧騒は遠い。静寂の中を、足音だけが響き渡る。
    「な、なんか不気味だね……」
     それを打ち破るように、女が口を開いた。半ば無意識に、握る手に力が篭る。
    「この時間帯は妙に暗くなるからなー。加えて変な噂話もあるし」
     答える男には、しかしそれを気にした様子はない。おそらくは慣れているのだろう、それでも若干口調を変えたのは、女を怖がらせるためか。
    「う、噂……?」
    「うん。何でも、鬼が出るんだってー。ほら、下見て」
    「下……? ……!?」
     その光景に、驚きのあまり女の声が詰まる。地面が、まるで血を塗りたくられたかのように真っ赤に染まっていたからだ。
     冷静に考えれば夕陽と周囲が薄暗いせいだということが分かるが、突然それを見せられればそうなってしまうのも無理はない。実際知っている男でさえ、ふとした瞬間に薄気味悪く思ってしまうことがあるのだから。
     例えば、今とか。
    「ここを通った人の中で、罪を犯したことがある人は、鬼に殺されちゃうんだって」
     それを悟られないように、男は喋りながらさり気なく視線を外す。少し遠くを眺めながら、言葉を続けた。
    「ほら、今も鬼は僕達を見ている。影だけを映しながら、ひっそりと」
     その言葉の通りに、二人の背後には一つの大きな影があった。鬼のように見えるそれは、周囲の環境によって偶然出来たものであったが。
    「なーんてね。まあ心配することないって。この道は何回も通ってるけど――」
     続く言葉が発されることはなかった。何故ならば、振り向いた先にそれを伝える相手がいなかったから。
     手は未だに繋がれたままだ。だというのに、その腕は肘の部分で途切れていた。
     流れる液体が、ぽたりぽたりと、地面に落ちては混ざる。
    「……え?」
     さらに後方に向けた視線の先。赤く染まった視界の中で、二つの角が、妙に印象に残った。
     そしてそれが、男が最後に目にした光景となった。

    ●鬼退治
    「鬼と言われたら、皆はどんなものを想像するかな?」
     集まった灼滅者達を前に、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は唐突に問いかけた。
     鬼。その言葉から灼滅者達が連想するものといえば、羅刹となるだろう。
     だが。
    「今回の相手は本物……って、言っていいのかな? ともかく、その鬼なの」
     正確に言えば、鬼のような姿の眷属だ。それが、とある町外れの一角に出現する。
    「時刻は夕方。特に条件とかがあるわけじゃなくて、その道を歩いてる人を襲うみたいだから、今ならまだ誰かが襲われる前に何とかすることができるよ」
     戦う場所は薄暗いが、光源が必要なほどではない。広さ的にも特に問題はないだろう。
     鬼が使用するサイキックは神薙使い相当のものだ。さらに棍棒を使い、無敵斬艦刀相当のものも使用してくる。
    「相手は一体だけど、気をつけてね? その力は、普通のダークネスと比べても遜色ないほどだから」
     眷属だと油断しては大怪我の元となりかねない。十分に注意するべきだろう。
     
    「放っておけば、そこを通る人が皆殺しにされちゃう。そんな地獄のような光景を作らないためにも」
     お願いと、まりんは灼滅者達へと頭を下げたのだった。


    参加者
    ロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)
    行野・セイ(ヴェルグラの路行き人・d02746)
    葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)
    片倉・光影(神薙の剣術士・d11798)
    深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)
    星見・紗生(スターゲイザー・d16863)
    白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)
    駿河・一鷹(迅雷銀牙ヴァーミリオン・d17774)

    ■リプレイ

    ●逢魔ヶ刻
     夕焼けに染まる空の下を、九つの人影が歩いていた。一見すれば友人達の談笑とも取れるその光景は、しかし残念ながらそんな気楽なものではない。
     鬼。恐ろしいものの象徴。それと戦い倒すために、彼らはそこに居るのである。
    「黄昏時……。異界のモノが現れる時間、ですね。いかにも、って感じです、はい」
     ロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)は呟きながらも、気を抜かずに歩いていた。
     まりんの予測によれば、女性は悲鳴を上げる間もなく、であった。不意打ちされないように、足元に砂利や小石などが無いかどうかも気に掛けながら、先へと進んでいく。
     同じように周囲を警戒しているのは葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)だ。
    「迷信に殺されるなんて、洒落にならないわね」
     逢魔ヶ刻に鬼が出る。それが本当に信じられていたのか、或いはただ注意を促すための話だったのかは分からないものの、具現化してしまえば迷惑なことに変わりはない。
     奇襲を受けないよう、細心の注意を払いながら警戒を続ける。
    「罪とか鬼とか、都市伝説らしくて興味深い。けど、アレがどこかの勢力に使われるのはウザいだけ」
     行野・セイ(ヴェルグラの路行き人・d02746)もまた警戒をしていたが、こちらは鬼というよりは羅刹に対してのものだ。
     近くに居るとは限らないものの、念のためにと周囲に意識を向けている。
    「逢魔が時に鬼退治なんて、物語の中に迷い込んだみたいだね」
     何処かぼんやりとした様子で呟くのは、星見・紗生(スターゲイザー・d16863)だ。
     ちなみにその口元がもごもごと動いているのは、きびだんごを頬張っているからである。
     セイのビハインドであるナツより配られたものであり、手作りらしい。桃太郎じゃないけど、みんな仲間だからと、ゲン担ぎで皆に配られたものだった。
    「罪を犯した人間……それ、ほとんどの人がアウト。そんなみんなに耳寄りの情報」
     深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)が唐突に発した言葉により、皆の視線が自然と集まる。
    「巫女の私が作った免罪符はいかがか? まー、罪を赦すのは邪神様だが」
     そしてすぐに逸らされた。どうやらここまで来る道中で、突飛な発言を繰り返するるいえの言動に皆大体慣れたらしい。
     もっともそんなるるいえではあるが、やることはきちんとやっていた。いつどこから現れるのか分からないため、襲われやすいよう油断してる風を装いながらも周囲を警戒している。
     ただし常に眠そうでローテンションであるために、その様子が普段と違うかというと首を傾げるものであるし。
    「この依頼が終わったら、学園で免罪符を売るんだ! ……フラグ立てはこんな感じでおけ?」
     そうした発言も、変わらずに続けられてはいたが。
     ともあれ――。

    ●鬼
     前兆は欠片もなかった。唐突にそこに出現したとしか思えず、直後に地面が爆ぜる。
     棍棒が振り下ろされたのだということが分かったのは、地面にそれがめり込んでいたからだ。
     その持ち主は、わざわざ言うまでもない。全身を赤く染めた、鬼だ。
     それをかわすことが出来たのは、皆がきちんと警戒をしていたためだろう。だがそれを喜んでいる暇はない。
     白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)はその姿を油断なく見据えつつも、一度軽く目を閉じた。それから深呼吸をし、気持ちを切り替える。
     自分に出来ることを成すために。
     初めて会う敵だからとDSKノーズを試してみた紗生であるものの、特に業を感じ取れはしなかった。だが元よりそれで何かをしようとしたわけでもない。
     そういう結果かと受け止めると、切り替え、構える。
     片倉・光影(神薙の剣術士・d11798)は鬼の姿を確認すると、即座にスレイヤーカードを取り出した。
     鬼のような姿の眷属といえども、そう云う存在を倒し厄災を未然に防ぐのが灼滅者、そして神薙使いとしての役目だ。
     故に。
    「真風招来!」
     全力で倒すためにそれを掲げ、解放した。
    「さて、ちょこっと気合入れちゃいますか!」
     普段から鍛錬はしているものの、駿河・一鷹(迅雷銀牙ヴァーミリオン・d17774)が依頼に参加するのはこれが初だ。
     大勢で一緒に戦うのは初めてだなー、などと思いつつも、光影に対抗するかのようにスレイヤーカードを掲げる。
    「ライズ・アップ!」
     叫びながら身に纏うのは、黒と赤の強化服。
    「装着完了、どっからでもきませい!」
     解放というよりはもう変身といった様子で、八極拳の構えをとった。
     二人に続き、六人もそれぞれの殲術道具を構える。
     そしてそれが終わったのと、鬼が次の動きに移ったのはほぼ同時だった。
     鬼は二メートルを超える巨体だ。だがその挙動に鈍さは感じられず、むしろ素早い。
     一瞬で灼滅者達との距離を詰めると、その手に持った棍棒を振り下ろした。
     そこへ割り込むようにして飛び込んだのは、光影のライドキャリバーである神風だ。機銃で足止めを狙いつつ、だが撃ち込まれた一撃はその身体では受け止めきれない。
     激しい轟音と共に吹き飛ばされた。
     しかし攻撃が遮られたことに代わりはない。
    「ね、一緒にあそぼ?」
     吹き荒れる衝撃の合間を縫い、紗生が突っ込んだ。
     構えるのは異形巨大化した片腕。
    「負けない、から。ね」
     鬼同士の勝負。まるでそれに応えるかのように、鬼は棍棒を握っている方ではない、ただの腕を振るってきた。
     しかしそれでもそれは鬼の腕。紗生のそれと比較しても劣らないどころか勝ってすらいる。
     そしてそれは、単純な威力にしても同様だ。
     激突と、轟音。
     だが弾かれたのは鬼の腕だった。
     理由は単純である。その腕に巻き付き食い込んでいる刃が、その原因だ。
     光影の手より伸びたそれが、激突の瞬間に僅かに威力を殺したのである。
    「桃太郎じゃないですけれど。さあ、鬼退治、と参りましょうかあ」
     その隙を付いて、ロロットより放たれた影の触手が鬼を縛る。
     しかもそれは一つではない。
     セイとるるいえ、そしてイバラの形状をした夢乃の影によって次々にその身体が縛り上げられていく。
    「さて、鬼ごっこを始めましょうか。でも……悪いけど、今日の鬼は私達よ」
     だが。
    『―――――!』
     咆哮。一閃。そのようなものは関係ないとばかりに、肥大化した腕を振るう。
     それが向かった先は一鷹。展開されていた光輪ごと撃ち抜かれ……だが、膝を付くことなくギリギリで耐えた。
     そして。
    「さぁて、いってみよーか!」
     両腕に宿すはバトルオーラの輝き。即座にシールドリングで回復を送ってきた悠月へと視線で礼を述べながら、鬼へはお返しに猛然と連撃を叩き込んだ。

    ●退治の時
     攻撃を受け身体を削られても、鬼の猛攻は止まらなかった。確実にダメージは蓄積していっているはずなのに、まるでそれを感じさせない。
     けれどもそれは灼滅者側も同じだ。傷が増え疲労が溜まれども、怯むことなく、攻撃を繰り返していく。
     だがそれでも、少しずつ癒しきれない傷は増えていく。次々と傷ついた仲間を癒していく悠月であるが、それも何時までもは持たない。
     鬼の棍棒によって吹き飛ばされた神風が、地面に激突すると共に消え去った。
     しかも鬼の攻撃はそれだけでは止まらない。発生した衝撃波が、ナツへと吸い込まれるように叩き込まれる。
     若干腰が引けつつも、気を引こうと何度も呼ぶように手を叩いていたナツではあったが、さすがにそう何度もは耐えられない。
     そのまま、ナツの姿も掻き消えた。
     その姿を横目にしながら、それでもセイは前に出た。十分動きを鈍らせることは出来たし、ナツにしたところで戦いが終われば即座に復活が可能だ。
     だからと、何かを振り切るようにさらに一歩を前に進み出る。鬼に目をつけられないようにしつつも、その隙を狙うように動く。
     それに合わせるように、空気を音が震わせた。激しく情熱的な曲が、その場に響き渡る。
     ロロットに手によって、マルセイユの歌という名のギターより奏でられるそれに、特別な効果などはない。あるとすればそれは、ただソニックビートとしてのものだけだ。
     それでも気分が高揚するような気がするのは気のせいか。
     導かれるように、セイが飛び込んだ。オーラを纏わせた拳を、その身体へと叩き込む。
     そしてそれに合わせて、夢乃も踏み込んだ。その手にはマテリアルロッド。
    「捕まえてごらんなさい……見切れれば、だけど」
     振り下ろされる腕を掻い潜り、さらに一歩を前へ。叩き込むのと同時に魔力を流し込み、直後体内で爆ぜた。
     さすがにそれは効いたのか、鬼の身体が微かにぐらつく。だがまだやられないとばかりに、棍棒を持つ腕を振り上げ――止まった。
     いや、正確に言うならば、止められた、というのが正しいか。
     その腕に巻きついているのは、光影のウロボロスブレイドである。
     だが止められたのは一瞬に過ぎない。けれどそれで十分だった。
     そこへ迫ったのは一鷹。隙の生まれたその身体に、緋色のオーラに包まれた拳をぶち込んだ。
     遅れて棍棒が振り下ろされるが、その時にはその場には誰も居ない。抉れる地面と共に土煙が上がり、一瞬鬼の視界を隠す。
     そこに、鋭く解き放たれた矢が突き刺さった。
    「紗生、鬼なんかに負けないよ」
     言いながら紗生は再び弓を引き絞り、放つ。それは違うことなく、狙った場所へと突き刺さる。
     吼える鬼。
     未だその勢いは衰えを見せず、だが弱ってきているのは確かだ。
     だから。
    「皆、がんばろーおー」
     えいえいおーだ、と鼓舞する紗生であるが、その表情は相変わらずぼんやりとしたものである。戦闘中どころかこんな状況でも変わらないそれは、しかし何処か頼もしくも見えた。
     そんな紗生から、三度矢が放たれる。さすがに今度はかわされるも、しかしそれでよかった。
     その間に近寄っている影が二つ。ロロットとるるいえである。
     鬼は巨体であるため、一人で持ち上げるのは厳しい。だが、二人ならば。
     素早く左右から組み付いた二人が、鬼を上空へと投げ飛ばす。地面を蹴ったのは同時だ。
     そのさらに上に飛び上がった二人が、やはり同時に鬼へと一撃を叩き込む。地面に叩き落された鬼の身体が、メンチコフと邪神、二つのパワーによって大爆発を起こした。
     それでも未だ健在な鬼へと、地面に降り立ったるるいえの追撃が飛ぶ。
    「時代錯誤の鬼に……宇宙的な恐怖を教えてやろう」
     嘯くるるいえから放たれるのは、ご当地、即ち邪神――ただし自称――の力を宿した必殺ビーム。自称とはいえ、その力は確かだ。
     貫いたビームはその身体へと穴を空け……それでも構わずに振るわれた棍棒によって、るるいえの身体がボールのように吹き飛ばされる。
     それを見て、咄嗟に夢乃が動いた。未だ倒れない鬼へと向け、飛び掛るようにして迫る。
     その脳裏に過ぎるのは、過去の依頼や戦争でのこと。自分の仲間を救えなかったこと。
     無謀なそれは当然迎撃されるが、構わずさらに前に出た。
    「私の前では……誰も死なせないわ……」
     すかさず悠月から回復が飛び、夢乃は悠月へと一瞬視線を向ける。だがそれは礼を述べるためではなく、自分よりも他の仲間を優先しろという意味だった。
     しかし悠月は構わずに回復をし続けた。今この状況の中で、最も傷ついていたのは夢乃だったからである。
     それに気付いて、夢乃は何も言わずに視線を戻す。代わりとばかりに、襲ってくる腕をいなしながら、拳を全力でぶち込んだ。
     そして如何な鬼と言えども、限界というものはある。
     夢乃に合わせて繰り出していた一鷹の拳も受け、ついにその膝を付く。
     そこへ飛んだのは、伸縮自在な刃。無防備になった首元へと伸び、そのまま反対側へと抜けていった。
     後に残ったのは、頭のなくなった胴体。数瞬遅れて、音を立てて地面に倒れていく。
    「静かに眠ってくれ……」
     それへ向けて、光影は片手だけで手を合わせ、合掌したのだった。

    ●幕引きはひっそりと
    「ふぃー、皆が強くて助かっちゃったよ。協力して戦うのもいいもんだねぇ」
     鬼が跡形もなく消え去ったのを確かめた後、一鷹はそう言いながら思いっきり伸びをした。その服装は既に普段のものに戻っている。
    「お疲れ様」
     仲間達に声をかけながら、無事に依頼が終わったことに悠月は安堵の息を吐き出した。
     しかしそうしながらも、思う。灼滅された鬼は、未来の自分の姿もしれない、と。
     少し感傷に浸りつつも、気を引き締め直した。
    「お疲れ様でした」
     そうして皆を労うセイは緊張が解けたらしく、口調はおしとやかなものに戻っていた。
     そしてそのすぐ傍では、復活したナツがへたりこんでいる。鬼と戦うのはやはり怖かったらしい。
     そんなナツへセイはおやすみなさいと呟きつつ、スレイヤーカードをかざした。
     周囲の仲間を見回した後で、夢乃はぐっと拳を握り締めた。
     傷の深い者がいた場合は心霊手術で回復させるようと思っていたものの、その対象であるるるいえはそれをしたところで意味がない。次に該当するのは自分であるだろうが……。
     息を吐き出すと、空を見上げた。
    「るるいえちゃん、大丈夫?」
     目を覚ましたるるいえへと、心配そうに声をかけるのは紗生だ。あの鬼の攻撃をまともに食らったのである、傷は大分深いはずだが……。
    「フラグを回収しただけだから、問題ない」
     どうやら割と元気そうだった。
     それを確認した後で、何気なく鬼の消えた場所を眺める。
    「この鬼は、ダークネスと違って、人じゃないんだよね。どこから来たんだろ?」
     その疑問に答えられる者は、この場にはいない。もっとも紗生とて、答えを得ようとしたわけではなかった。
    「もう、出ないといいね」
     叶わない希望を口にするが如く。ぽつりと零した。
     その後で周囲の調査を軽く行ったものの、特に手がかりとなりそうなものは見つからなかった。
     もっともこれは紗生というよりは、るるいえの希望である。自分一人でやるつもりだったようだが、さすがに一人でやらせるわけにはいかないので手伝ったのだ。
     ちなみにその際にどんな風に消えるのかも知りたがっていたで、教えておいた。るるいえはその時気を失っていたため、見ることが出来なかったからだ。
     もっとも普通に……というべきか、倒してすぐに跡形もなく消え去ってしまっただけであったが。
     ともあれ、これでこの場ですることはもうなくなった。後は帰るだけである。
     歩きながら、紗生が童謡を口ずさみだす。視線の先にあるのは、夕焼け空。
     暢気とも言えるが、特に問題はないだろう。もうここに鬼は、いないのだから。
     そんな八人の横を、ふと一組の男女が擦れ違った。漏れ聞こえた話は、何処かで聞き覚えのあるもの。
     その会話にこっそり耳を澄ませながら。
    「現実にならないで良かったあ」
     ロロットはひっそりと、微笑んだのだった。

    作者:緋月シン 重傷:深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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