狂鬼降臨せし刻

    作者:幾夜緋琉

    ●狂鬼降臨せし刻
    「んー……いい天気だねー」
    「そうね。正しくピクニック日和、っていった感じねー」
     静岡県のとある山中、リュックサックと半袖、短パンで山を登っているカップル。
     周りには同じように、ピクニックで山を登っている人達がいて、安心していた。
     しかし山を更に登っていくと……いつの間にか、周りに人が居なくなっていて、そこにいるのは二人のみ。
     そして時間も過ぎて、だんだん空が暗くなってきて……。
    「……なんだろ、なんか嫌な匂いがするなぁ……」
     男がぼんやり告げた……その瞬間。
    『……ウゥ……』
     唸り声が聞こえたかと思うと、そんな彼、彼女の元に現われたのは……鬼の様な姿をしたもの。
    『うわ、なんだ!?』
     と慌てた声を上げるが、そんな彼の言葉を聞き届ける事も無く……大きな木の幹の様なものを、頭上から叩き落としてくる。
     そんな一撃に、一般人の男が抵抗出来る訳も無く……頭から潰れてしまう。
     傍らの彼女が悲鳴を上げるが……それを聞き届ける人は居ない。
     そして……残酷な笑みを浮かべたかと思うと、血の付いた木の幹を、続けて女に叩き付ける。
     断末魔の悲鳴を上げることも出来ず、二人は……鬼のような彼に殺されるのであった。
     
    「皆さん、集まって頂けたみたいですね……? では、説明を始めますね……?」
     園川・槙奈が、集まった灼滅者らを眺めると友に、早速説明を始める。
    「今回皆さんには、最近現れ始めた強力な敵を倒してきて欲しいのです。その姿は……鬼、と言えば、皆さんに解って頂けるかと思います」
     そう言いつつ、槙奈が地図を取り出し見せる。静岡県と長野県の県境にある、2000m級の山。
    「ここに現われた鬼は、登山……ピクニックを楽しむ方々を、次々と殺して廻ってしまっている様です。彼らの目的については、何故現われているかは解りませんが……このまま放置しておく訳にはいきませんので、早急に倒してきて頂きたいんです」
     そして槙奈は、続けて細かい部部を。
    「今回の鬼……そのメインの戦闘手段は、血に濡れた木の幹によるぶん殴り攻撃です。馬鹿力で以て殴りつけてきますので、この直撃を喰らえば即重傷をも免れません。かすったとしても、それ相応にダメージは大きいです」
    「又木の幹が壊れれば、周りの樹をまた引き抜いてぶん殴りに使ってきます。だからこそ、この鬼は山野中、それも樹の多い所を回り回っています」
    「幸いなのは、昼夜問わずに歩き回っている事……でしょうか。だからといって油断出来る相手ではありませんが……」
    「尚、敵となるのはこの鬼一人のみです。他の相手はいませんが……決して油断なさらないで下さいね」
     そして最後に槙奈が。
    「既に被害者が出てしまっている事件です。皆さん……決して油断なさらずに対峙して下さいね? ……皆さんの無事を、願っています」
     と告げて、皆を送り出すのであった。


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)
    古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)
    九条・茜(夢幻泡影・d01834)
    鷹月・日織(日に映りし闇月・d12680)
    柳・晴夜(ユメノナカウツロウモノ・d12814)
    氷須田・千代(ムッツリ・d14528)
    聖・咲耶(中学生神薙使い・d16119)

    ■リプレイ

    ●鬼の声響く
     槙奈からの依頼を受けた灼滅者達。
     静岡県と長野県の県境にある、とある山に現われた、残虐で強力な敵……鬼の様な風貌をした羅刹。
     彼は既に理性を失い、山の中を暴れ回る……そして、既にその毒牙に掛けられてしまったものが居るのだ。
    「理性の無い鬼、ねぇ……はぐれ眷族、というやつかしら? これじゃ何か情報を手に入れるのは難しそうね」
    「ああ。初めての依頼がただの眷族か。なんというか、モチベーションがなぁ……」
     肩を竦める神薙・弥影(月喰み・d00714)と、氷須田・千代(ムッツリ・d14528)の溜息。
     確かに理性を失った羅刹という事であれば、話を聞いてくれる事は無いだろう。眷族とは少し違うとも言えるが……ある意味そうとも言える。
     だがしかし……倒さない訳にはいかない。
     放置すれば、その狂気の儘に更なる被害者を増やしていくだけのこと……それを防ぐのは、灼滅者としての使命。
    「関係無い人達をどんどん殺して行ってるなんて……ボク、絶対に許せない! どんなに強敵でも、鬼は絶対に倒してみせるよ!」
    「そうだね。これ以上被害者を増やすわけにはいかないよね。ここで止めるよ」
     鷹月・日織(日に映りし闇月・d12680)に、九条・茜(夢幻泡影・d01834)がぎゅっと拳を握りしめる。
     が、そんな言葉へクールに古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)と浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)が。
    「でも、焦りは禁物なの。逸ると、自分が次の犠牲者になりかねないの」
    「そうだな。足場の悪さは動きを制限されるだけでなく、射撃の反動を抑え込むのにも悪影響が出そうだ。だがそれは敵も同じ、条件がイーブンなら、泣き言は言ってられないからな」
    「そうなの」
     と、皆に忠告。
     確かに今回の敵は、破壊力に優れた羅刹、それも武器は、大木の幹を棍棒の様にしてぶん回してくると言う。
     その一撃をまともに受ければ、重傷はほぼ間違い無いだろう。それ程に強力な攻撃は、致命傷の一撃とも言える。
    「……ええ、頑張ります。頑張りますとも……」
     聖・咲耶(中学生神薙使い・d16119)が自分に言い聞かせるように……表に見せないように振る舞っては居るけれど、その緊張度は周りの仲間達からすれば明らかな訳で。
    「ん、大丈夫かい? お嬢ちゃん」
     軽く笑い掛ける柳・晴夜(ユメノナカウツロウモノ・d12814)。そして周りの仲間達に向けても。
    「本当、こうやって可愛いお嬢さん方と共に鬼退治に行けるとは、男冥利に尽きる、ってね。そんな訳で、鬼さんにはさっさと倒れて貰うとしようかな」
     偶然ではあるけど、男は晴夜一人だけ。だからこそ、気合いも入る。
     ……でも、そんな晴夜に、クールな視線を投げかける智以子……そして。
    「ともかく……一般人への被害をこれ以上出さない様にするの。皆、準備良ければ行くの」
    「そうだね……それじゃ、いくよ」
     日織はそう言うと、殺界形成を使って一般人の対応。
     そしてそれぞれ、手を塞がない光源を各自用意。当然滑りにくいように登山靴を履いて、そして灼滅者達は山を登り始めた。

    ●悪虐に溺れ
     ピクニックルートを登り始める灼滅者達。
     流石に2000m級の山であるから、意外に山道は険しい……そんな山中を歩きながら弥影と梗香。
    「しかし、鬼を探して退治とか、なんだかちょっと昔話みたいだわね」
    「ああ、そうだな……とは言え出て来るのは、血に餓えた羅刹……それも何処に居るかが解らない。そしてそんな鬼の武器は、この……周りに映えた大きな木の幹、と……」
    「ええ……せめて木の幹での攻撃を阻止出来れば、もう少し楽なんだろうけどね……」
     やはり思うのは、その大木による攻撃……周りに生えそろっている木々が、羅刹の強力な武器になるのだから。
    「出来れば早い内に見つけたい所なの」
     と智以子がぽつり呟きつつも……時は経過していく。
     空が次第に暮れ始めた夕方の頃……灼滅者達の耳に。
    『……ウウウゥ……!』
     人外の呻き声が、はっきりと聞こえてくる。
    「……ん……近いみたいだね」
     日織の言葉に、皆も頷く。
     更に……一際注意深く、山道を進む。
     ……すると。
    『ウガァ……アアア!!』
     その叫び声と共に、突如……木々の間から突撃をしかけてくる鬼。
     半ば不意打ちにも近かったが、その呻き声が幸いし、咄嗟にその一撃を日織がディフェンス。
    「っ!!」
     丸太の一撃、ディフェンダー効果もあったが、それを全て受け止めきれる事は出来ずに、後方に押し返される。
    「っ……これ、眷族ってレベルじゃないだろ! 洒落にならんぞ!!」
    『ガゥゥ!!』
     千代の叫びに、ニヤリと笑みを浮かべた鬼……咄嗟に日織を護る様に、晴夜と弥影、智以子が前に立ちふさがる。
     そして鬼に向けて。
    「さすがの攻撃力だな……だが、負けられない戦い、それも良いだろう」
    「そうだな。さぁ……どっちが上手か、始めさせて貰うぜ!」
     即晴夜はシールドバッシュで、鬼に自分への怒りを付与。
     そして弥影はESPのサウンドシャッターを展開しつつ。
    「食らいつくそう……かげろう」
     と、漆黒の狼のシルエットをした影縛りで、捕縛のバッドステータスを付加する。
     そして、続けて智以子も、静かに鬼を見据えながら。
    「……」
     無言で、フォースブレイクを叩き込んで行く。
     そしてクラッシャー、ディフェンダーの前衛陣の行動後、すぐ茜が。
    「大丈夫? すぐ回復するよ!!」
     と、茜が日織を闇の契約……でも、それだけでは全て回復出来ず、更に咲耶も清めの風で回復を施す。
     そして、残るジャマー、キャスターの梗香、千代も。
    「力自慢か……なら、抑え込むまでだ!」
    「そうだな……やむを得んが」
     梗香はバスタービームでプレッシャーを、千代がディーヴァズメロディでの催眠効果を施す。
     しかし鬼は、それらバッドステータスに一切怯む事は無い。
     次の刻も、その丸太を大きく振り回して攻撃する鬼。
     ただ単純に、強力な攻撃力でもって立ち塞がる灼滅者を圧倒する……狂気の儘に、ダークネスは暴れ回る。
     例えバッドステータスを受けたとしても、荒ぶる攻撃力は確実に灼滅者達を苦しめ続ける。
    「凄い力だ……だが、地形も悪条件も、全て見切ってしまえば……!」
     梗香が自分へ高速演算モードを使い、命中を底上げする。そして千代はパッショネイトダンスで術アップ。
     そして鬼の攻撃は、怒りを及ぼした晴夜に向かう……半身身体をスライド。
     直撃は避けるが……大木により吹き荒れる風がかまいたちの如く、彼を切り裂く。
    「いてて……すげえ風圧だ」
    「本当だね……大丈夫、私達が完全にバックアップするから!」
    「ん、サンキュ!」
     茜の言葉に晴夜は微笑む。
     そして晴夜はニッ、と笑みを浮かべつつも。
    「ほら、存分に荒れ狂いな、Avatar!」
     と更に晴夜が影縛りを付加していく。
     そして日織も、回復を受けて戦列復帰し、ソーサルガーダーで盾アップをして立ち塞がる。
     そして弥影、智以子のクラッシャー陣は、ディフェンスを完全にディフェンダーの二人に任すようにして閃光百裂拳、地獄投げと連続して攻撃、ダメージを与えていく。
     ……しかし鬼は攻撃能力に加え、体力も高い。
     クラッシャーのアタックであったとしても、その削りの量はほんの僅か……。
     その力を思う存分発揮し、目の前に居る灼滅者達をどんどんダメージを叩き込んで行った。

     そして……戦いは10分以上経過する。
     重傷には至らぬものの、本当ギリギリの戦いが続く……だが、鬼の身体にも、幾重の傷が付きつつあった。
    「……さて、どっちが先に倒れるか……といった具合だね」
    「そうですね……で、でも……負けたくはありません」
     咲耶と茜が、そう言葉を交す。
     決して心まではくじけはしない……ディフェンダーの二人が確りと攻撃を受け止めて、ダメージの被害を一極集中させて、メディックの二人が集中的に回復する様に動く。
     そして残る仲間らが、鬼へのダメージソースとして一致団結して攻撃を加える様にする。
     幾重にも重なったバッドステータスが確実にその身を蝕み……攻撃の回避や、勢い余っての自分への攻撃も出始めてくる。
    『グゥゥ……!!』
    「……効いてるわね。でも……こちらも、かなりマズいけど」
    「……」
     弥影に智以子はこく、と頷き……クラッシャーによるフォースブレイクの一撃を叩き込んだ……その時。
    『ガァアア……!!』
     今迄に無い、鬼の叫び。
     その叫び声は、苦悶に満ちている様にも聞こえてきた。
    「どうやら、かなり来ている用だな。ならば……削りきり、こそぎ落せ!」
     梗香のリングスラッシャーが決まり、そして晴夜が。
    「ワルいが、こっから先はよくある話通りにしてやる。無様に人間にやられとけ、鬼」
     渾身のオーラキャノンを晴夜が叩き込むと……鬼の巨体、足がもつれドスン、とその場に倒れる。
     そしてそこに。
    「……死になさい、なの」
     ……今迄に無い、憤怒の表情を一瞬浮かべた智以子が、地獄投げの一撃を叩き込み……鬼は、断末魔の悲鳴と共に灼滅されるのである。

    ●力の暴れし後
    「……ふぅ……どうにか、ギリギリだったな」
     汗を拭う梗香。
     目の前に倒れ伏せたダークネス……狂気に囚われた儘、壮絶な表情で死している。
    「そうだね、被害が出る前に止められて良かったよ。皆も……無事だよね?」
    「ええ……なんとか、ギリギリって言ったところだけどね……」
    「うん。でも……勝てて、良かった……」
     茜に頷く弥影、咲耶。
     皆、満身創痍と言ったところ……つまり、それほどにこの鬼羅刹が強かったのを物語っている。
    「まぁ、大きな怪我が無くて皆よかったんじゃね? ともかく……結構夜遅くなってきたし、さっさと帰るとしようぜ?」
    「……そうなの。鬼よりも、こっちの方が怖いの」
     晴夜に、智以子が周りを見渡す。
     確かに周りは完全に真っ暗で……違った意味での怖さを覚えてしまう。
    「そうね。ここで遭難……っていうのも格好悪いし、さっさと帰りましょう」
     弥影始め、周りの仲間達も頷いて……そして灼滅者達は山を下りる。
     そして……街の灯が見え始めると、少し安堵を皆も覚えてきて。
    「ふぅ……終わったね。さてと……みんな、後は帰るだけだよね? 折角出し、少し遊んでいかないかい?」
     と晴夜が皆を誘う……けど。
    「……もう夜も遅いから、早く帰りたいの」
    「そうだね。それにこのまま歩いてると、補導されかねないし……帰ろうよ」
     と智以子に日織が頷き、他の仲間達も頷き、三々五々でその場を後にしていく……。
     そんな仲間達に、ふぅ、やれやれ……と肩を竦め降参のポーズを取りながら、晴夜は皆の後を追いかけていくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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