お菓子だよっ! みんな集合っ!

    作者:零夢

     日差しの朗らかな午後三時、事件は北海道の小さな街で起こった。
    「お菓子だよっ!」
     声とともに、ウエイトレス姿の少女が、ぴょん、と跳ねるように二人のちびっ子の前に現れると、どこからともなく甘いお菓子の乗ったトレイを取り出した。
     右手にはシフォンケーキにマドレーヌ、左手にはガトーショコラにモンブラン。
     次々に目の前に出され、ちびっ子は「うわぁ……」と感嘆の声をあげた。
    「さぁさぁお食べっ! たんと味わうがいいよ!」
     少女は元気いっぱいに笑い、お菓子を振舞っていく。
    「うわぁ、甘ーい!」
    「おいしいねー!」
     口いっぱいに頬ばったちびっ子達が幸せそうな声をあげた。
     そこですかさず、少女が瞳に闇を潜ませ問いかけた。
    「もっと食べたいかな?」
    「うん!」
    「ちょうだいちょうだい!」
    「ふっふっふ……それじゃあ、お姉ちゃんについてきなさい!」
     そうして少女は、ハーメルンの笛吹きよろしく、ちびっ子を見つけてはお菓子を与え、次々に列に加えてゆくのだった。
    「お菓子だよっ! みんな集合っ!」

    「……っていう事件が、北海道の帯広っていう街で起ころうとしてるんだ」
     集まった灼滅者達に、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が説明を始めた。
    「少女の名前は黒蜜あんずさん。中学二年生の、甘いものに目が無い女の子だよ」
     ちなみに言えば帯広はお菓子の街だったりする。
     そして彼女は、大好きな地元スイーツを広めたいと願う気持ちをダークネスにつけこまれ、ご当地怪人となってしまったのだ。
    「彼女の目的はお菓子を使ってちびっ子たちを誘惑……否、誘拐し、甘いもので彼らを育て上げること!」
     もしもちびっ子がついてくることを拒めば、無理矢理連れ去るらしい。
     そして甘味の良さを教え込み。
     甘いもの無しでは生きられない大人に育て上げ。
     ゆくゆくは世界人類の全てをお菓子の虜にして世界征服してしまえ!!
     ……という実に気の長い子育て計画である。
     一体何世代かかるというのか。
     なんて、現実的な問題はまぁさておき。
     ごほん、と一つ、まりんは咳払いをすると言葉を続けた。
    「普通、闇落ちしたダークネスは、すぐに人間の意識は消えてしまうんだけど、彼女はまだ、元の人間としての意識を遺してて、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない状況なんだ」
     つまり、彼女はダークネスに変化する途中段階にあるのだ。
     だから、彼女を止めて欲しいのだと、まりんは言う。
     もしも彼女が、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出し、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅をして欲しいと。
    「闇落ちした一般人を救うためには、戦って倒さなくちゃいけないの」
     そうしてKOされると、ダークネスであれば灼滅され、灼滅者の素質があれば灼滅者として生き残る。
     彼女がどちらかはわからないが、ともかく、全力で倒しにかかればいいということだ。
    「あんずさんは、三時になると、まず公園に現れるみたいだよ。地図を渡しておくから、早めに行って、何らかの方法でそこで遊んでいる子供達を避難させておくといいかもしれないね」
     その方が戦闘に集中できるだろう。
     しかし、一つだけ注意してね、とまりんは付け加える。
    「明らかに公園に誰もいないと、彼女は現れないよ」
     つまり人払いをして待ち伏せ、という作戦は通用しないということだ。
    「彼女は、ちびっ子――彼女より年下の人か、お菓子好きな人がいると来てくれるみたいだよ」
     だからもし中二未満の人が参加者にいない場合、お菓子好きをアピールしてみるとか、甘いものの話をしてたりすると、彼女が現れお菓子を振舞ってくれる――かどうかはわからないが、とにかく現れるらしい。
    「あと、あんずさんは論理的に説得されると怒り出してしまうみたい」
     そういうお年頃なのだろう。
     ましてや相手は闇落ちしており、強さは並の灼滅者の10倍はある。
     あまり怒らせてしまうのもよろしくない。
     だから、スイーツへの愛に共感したり、中二の気持ちになって諭してあげるといいかもしれない。
     上手く心に呼びかけることが出来れば戦闘力を下げることも出来るだろう。
    「今回の敵は一人だけだけど、すっごく強いよ。でも、みんなならきっと解決してくれるって信じてる。無事に帰ってきて、いい報告を聞かせてね!」


    参加者
    望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)
    羽坂・智恵美(幻想ノ彩雲・d00097)
    日辻・柚莉(ひだまり羊・d00564)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    村上・光琉(白金の光・d01678)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)
    山岸・山桜桃(男性恐怖症のクラスメイト・d06622)
    九十九・緒々子(迷子じゃないと主張する迷子・d06988)

    ■リプレイ

    ●危険注意報・よい子はさようなら。
     穏やかな日差しが降り注ぐある日、公園では子供達が遊んでいた。
     そこに現る三つの人影。
    「はーい! みんなー、ちょっといいかなー?」
     まず子供達に呼びかけたのは望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)だ。
     それに、何だ何だと子供達が振り返る。
     注目を集めると、すかさず九十九・緒々子(迷子じゃないと主張する迷子・d06988)も声をかけた。
    「今から遊具点検するから、ちょこっとだけ公園から出て行ってくれると嬉しいな!」
     本来少学五年生の彼女は、今だけサイキックの力を借りて激しく年齢をサバ読み、姿だけは十八歳だったりする。恐るべし、サイキック。
     遊具点検と聞くと子供達は一人二人と帰り始めるが、世の中素直な子供だけではない。
    「ねぇ、なんで出て行かなくちゃだめなの、おじさん」
     素直じゃない子供が数人、帽子を目深にかぶった白髪のおじさん――否、村上・光琉(白金の光・d01678)へと抗議した。
    「……」
     おじさん。
     そう見えるよう狙ったが、いざ言われると切ないものがなくもない。が、その切なさはそっと無視して光琉は子供を諭しにかかる。
    「それはだね、もしも近くにいておじさんたちが使う道具に巻き込まれて怪我したりしたら大変だろう?」
     口からでまかせ。他人を巻き込むほど危険な点検道具が存在するかは知ったこっちゃない。
    「えー。じゃあ、」
    「じゃあ、お家でげーむして遊ぼうっと」
     子供の言葉を遮ったのは、日辻・柚莉(ひだまり羊・d00564)だ。
     こんな事態に備え、サクラとして紛れていたのである。灼滅者に隙はない。
     同じくサクラ役の山岸・山桜桃(男性恐怖症のクラスメイト・d06622)も口を開く。
    「そうだね、そうしよっか!」
     帰ろ帰ろーと言った二人が動き出せば、残っていた子供達も諦めて帰って行く。
     最後の子供の背を見送ると、光琉と今日子は出口へ向かう。緒々子は囮役となるべく、変身を解いて公園内に残留だ。
    「あ、おつかれさま」
     出口付近の茂みで待っていたのは花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)。
     その腕の中には、お手製の立て札があった。
    「あとはそれを置くだけだな」
     今日子の言葉にましろは頷く。
    「無事に解決できたら、お菓子も食べたいね」
     持っていた立て札をぎゅ、と抱きしめる。
    (お菓子の街……すてき)
     折角なので是非とも楽しみたい。
     そんな期待に胸をときめかせていると、やたら元気な声が響いてきた。

    「お菓子だよっ!」

     来た。
     三人は顔を見合わせ、ましろが入り口にそっと札を立てる。
    『遊具点検中、立ち入り禁止』
     仕上げに光琉がサウンドシャッターで公園内の音を遮断してしまえば、あとは心置きなく戦える。
     時計の時間は午後三時。
     おやつの時間は、始まったばかりだ。

    ●甘いの好きな子、寄っといで!
    「お菓子だよっ!」
     そう言ったウエイトレス姿の少女の前では、三人の女の子達が感嘆の声をあげていた。
    「うわぁ、すごい! 全部美味しそう!」
     リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)の言葉に、ウエイトレス少女・黒蜜あんずはトレイに乗ったお菓子を紹介していく。
    「かぼちゃプリンにマロンモンブラン、そしてサツマイモのタルトだよ」
     季節のお菓子を揃えてみましたっ!
     びしっ! とあんずがキメる。
    「ここはお菓子の街だからね、たんと食べて!」
    「わわっ、いいんですか?」
     驚きつつも嬉しそうに羽坂・智恵美(幻想ノ彩雲・d00097)が笑みを浮かべた。
    「私北海道も初めてで……帯広で有名なお菓子、私とっても気になります」
     その言葉に、あんずはうんうん、と満足げに頷く。
    「いい子だねぇー。あ、あなたもどうぞ! 何が好きかなっ?」
     あんずに話を向けられた緒々子は無邪気な笑顔で答える。
    「私、果物たっぷり使ったパフェが好きー」
     でもこういうのも好きなんだ、と言ってお菓子を手に取る。
     そこへ、お菓子に釣られたように二人の女の子が寄って来た。
    「ゆずもお菓子だぁい好きっ、沢山食べたいな!」
     チョコレートを片手に柚莉が言えば、
    「甘いものはおいしいよね。私も、いいかな?」
     山桜桃も、並んだケーキを見てキラキラと瞳を輝かせる。
     が、子供達に囲まれたあんずの瞳は、それ以上に輝いていた。
    「ふ、あぁぁ!! こ、こんなに来てくれるなんて……!」
     どんどんお食べっ!!
     思わず大盤振る舞い。
    「おいし?」
    「うんっ、おいしーい!」
     リュシールが元気に頷くと、
    「……これはっ、はい、とふぇも……、んぐっ。美味しいです!」
     口いっぱいに頬ばったお菓子を飲み込んだ智恵美も嬉しそうに答える。
    「よかった! それじゃ、どうかな、お姉ちゃんと来てくれたら、他にもいっぱいあるけど?」
     にや、と笑ったあんずが甘い誘いをかける。
     しかし灼滅者たるもの、ここはしっかり断って――
    「えっ、いいの!?」 
     ――山桜桃が華麗に飛びついた。
     断れなかった。
    「ちょ、山桜桃さん!」
     こそっと緒々子に小突かれ山桜桃ははっと我に返る。
     そしてそれを誤魔化すようにリュシールが口を開いた。
    「え、もっとあるの? ねえねえ、他にはどんな!?」
    「それは来てのお楽しみ! 皆を集めて、お菓子の世界を作るんだ!」
     浮かれたあまり、ぽろっとあんずは壮大な企みをこぼしてしまう。
     するとその言葉に、智恵美はふるふると首を振った。
    「ダメです、大好きなお菓子を……、そんな事に使ってしまっては……」
    「あれっ困っちゃうなっ! 大丈夫、来てみれば意外と――」
    「一緒になんて、行かない……」
     わたわたと慌てたあんずに、リュシールは俯いてぽつりと言う。
    「ねえ、お姉さん。こんなに美味しいお菓子作れる人が、どうして子供の誘拐なんてするの。パパとママが心配するじゃない……!」
    「平気だよっ! いいからおいでよ!」
     次第に強引になりかけるあんず。
     このままだと本当に誘拐犯になりかねない――そのとき、凛とした声が響いた。
    「おやおやぁ?」
     それは子供をなだめるお姉さんの声。
    「なんだか楽しそうだね。この私も混ぜなさい!」
     そこには今日子と、ましろ、そしてすっかり変装を解いた光琉が立っていた。

    ●苦いの痛いの、嫌いなの。
     折角いい調子だったのに、雲行きはすっかり怪しい。
     あんずは不満顔だ。
     そして、どこかに仕込んでいたらしいフォークを取り出すとシャキリと構える。
    「言って聞けない悪い子には、お仕置きだからね!」
     悪い子はどっちだ。
     などとツッコんでいる場合ではない。
     緒々子は手に持っていたお菓子の最後の一口を平らげると、サイキックを解放する。
    「世に甘味は多々あれど、甘味の始祖は果物なり! みかんラヴなお祭り系ヒーロー推参ッ!」
     続いて、智恵美もカードを口元にあてて封印解除。
    「Zefiro!!」
     素早く髪をポニーテールにくくり上げると、黒いグローブをはめた手で腰のポーチから導眠符を取り出し投げつける。
    「ふふふっ、甘いんだねっ!」
     ばしっと護符を握り潰したあんずは、大きく飛び跳ね灼滅者達と距離をとると、手にしたフォークを投げつける。
     ただのフォークといえ、当たればひとたまりもないそれに、今日子は真正面から向かっていく。
     小細工はナシだ。
     当たる直前に身をかわし、あんずの懐にも潜り込むと、今日子は炎を纏った拳を大きく突き上げた。
    「あっつ……ッ!」
     言いながら灼滅者に向き直ったあんずの目に映ったのは、ガトリングガンを構えた緒々子。
    「これはあなたの愛を証明するための戦いなんだ!」
     大量にばら撒かれる弾丸。
     その嵐の中を、あんずは臆することなく向かってくる。
     かわしきれない弾丸が当たっているはずなのに、余裕の表情だ。
    「じゃあ、負けないね。あたしとお菓子は両想いだから!!」
     意味がわからない。
     そして、あんずが向かった先にいたのは光琉。
    「あなたはお菓子、好きかな?」
     訊きながら振り下ろされるのは果物ナイフ。
     この娘、どこに凶器を仕込んでいるかわかったものでない。
     何とかそれを避け、光琉は答える。
    「甘いものは好きだよ。大学イモとか、おいしいじゃないか」
    「た、確かに……っ!」
     じゅるり、とあんずがそそられる。
     その一瞬を光琉は見逃さない。
    「甘いものって人を幸せにするためにあるんだから、お菓子で世界征服だなんてよくないよ! 大学イモも仲間に入れなきゃ!」
     だがしかし、コレは説得なのか。
     何を説き伏せ誰が得するというのか。
    「な、なるほ……って、うわぁ!?」
     思わず頷きかけたあんずを、光琉の放った鋭い光条が突き飛ばす。
    「……冗談だけどね」
     尻餅をつくあんずに光琉は言うが、しかしその目は笑っていない。
     お菓子攻めと大学イモ攻め、どちらがいいかはまぁ置いといて。
    「お菓子って、みんなで食べるからおいしいのよ!」
     起き上がり、再び構えようとするあんずにリュシールは叫び、一気に距離を詰める。
     その拳に宿すは雷。
     そして、飛び上がるように繰り出されるアッパーカット。
    「く、は……ッ、まだまだぁ! ブリュレになっちゃえ!!」
     あんずが構えたのはお菓子作り用小型バーナー、しかし噴出した炎は凄まじい。
    「あぁッ!」
     リュシールが体勢を崩すと、柚莉がすぐに叫んだ。
    「琥珀っ!」
    「ナノー!」
     答えるように鳴いた柚莉のサーヴァントが、リュシールの傷を癒していく。
     それを確認すると、柚莉は隣にいたましろに目配せした。
    「ましろちゃん、一緒に頑張ろう!」
     その言葉にましろは縦に首を振り、あんずに向かう。
    「あんずちゃん、わたしたちは地元のお菓子の美味しさを、正しく皆に広めてほしいんだよ」
     力ずくじゃなく、もっと素敵な方法で。
     そして、放たれる護符。
     あんずはそれを避けようとして、
    「こんなやり方じゃ、甘いチョコレートが泣いてるよ!」
     向かい来る柚莉の風の刃に気づき、両者への反応が遅れる。
    「う、ぁっ!?」
     声をあげ、膝をつく。
     だがここで手を緩めれば、すぐにあんずは反撃してくるだろう。
    「大丈夫……絶対助けるよ。寂しい思いはさせないから!」
     だから今は、あなたの闇と戦うの。
     山桜桃がロッドを振り上げると、激しい雷が真っ直ぐにあんずの身体を貫く。
    「――ッ!!」
     落雷を受け、あんずの眉が苦しげに歪む。
     だが、それでも。
    「まだ負けない……皆をお菓子の虜にするまでは!」
     大好きなお菓子で世界を征服すべく、少女は立ち上がるのだった。

    ●お菓子が繋ぐ、君との絆。
    「家族揃って食べるおやつ、わくわくするじゃない!」
     次々に襲い来るナイフをシールドで受け流しつつリュシールが言う。
     自分には両親がいない――でもその分だけ、家族の大切さを知っている。
    「一人ぼっちで食べたって……バカぁっ!」
     いつのまにか、その瞳はうっすらと濡れていた。
    「バカなんかじゃないもんっ、あたしはお菓子が大好きな人と、お菓子の世界を作るんだ!」
     カン、カン、カン!
     ナイフとシールドの攻防の音が響く。
     そのリズムに合わせて、リュシールの身体が揺れる。
     カン、カン――
    「ここだぁっ!」
     リュシールは踊るようなステップであんずの懐に入り、拳を繰り出していく。
     けれどあんずのナイフ捌きも侮れない。闇堕ちしている分、力は向こうが上だ。
     次第に押され始めるリュシール――しかし、彼女の傷を柚莉が癒す。
    「誕生日ケーキだって、家族で食べた方が美味しいよっ」
     強制じゃなくて好きだから食べるの!
     柚莉の心に浮かぶのは、大好きな姉の顔。
     甘くて美味しいものは、大好きな人達と一緒に笑顔で食べるから美味しいのだ。
    「甘いものは世界征服するためにあるんじゃないんだよ」
     それは、皆を笑顔にするために。
     光琉の光があんずを突き刺す。
    「……くっ!」
     あんずは一旦後ろに下がり体勢を直すと、無数のフォークを投げ飛ばした。
     それを、智恵美のミサイルと今日子の拳が打ち落とす。
    「こんな美味しいお菓子、武蔵野にもあれば毎日でも食べたいのに。黒蜜さん……もし良ければ私達の学校に来てください! そうすれば皆、喜んでくれますよね?」
     智恵美の呼びかけに、今日子も同調する。
    「そんなに美味しいのなら、私もあなたの作ったお菓子を食べたいな。作りたても食べたいし、良かったら作り方も教えてくれ。羽坂さんの言うように、武蔵坂に来てくれないか?」
     あんずは拳を握って俯き、そして顔を上げると言い放つ。
    「あ、あたしのお菓子は市販だよっ!」
     何たる事実。
     とはいえ地元のお菓子を推奨する以上は正しいのかもしれない。
    「でも! お菓子を武器にしない所に、あなたのお菓子への愛を見た!」
     緒々子が言う。
     そして、
    「ミカンビタミンダイナミーック!」
     ヒーローは必殺技を炸裂させる。
    「お菓子を愛する者同士が戦うなんて悲しいよ。お友達になれないかな?」
     ましろの言葉に、あんずは叫ぶ。
    「じゃあ、あたしについてきてよ!」
    「それは、できないけど……!」
     でも、友達になりたい気持ちは絶対に嘘じゃない。
    「だったら――!」
    「分かってるよ。大好きなお菓子をみんなにも好きになって欲しかったんだよね」
     あんずの言葉を包み込んだ山桜桃の瞳が赤く変わる。
     それは、覚悟の色。
     本当は嫌いな色だけど、あなたを助けるために、力を使おう。
    「だったらさ……こんなことやめて、私たちとおいしいお菓子のお店、教えっこしよーよ」
     真っ赤に染まった逆十字が、あんずの身体を切り裂く。
    「あっ……!」
     小さく声をあげて。
     あんずは、ばったりと倒れた。

    「よかったっ! 目が覚めた!」
     目を開くと同時にあんずは、ぎゅぅっ、と思い切り抱きしめられる。
    「私……っ、やりすぎたかと……っ」
     言って、山桜桃はさらに強く抱きしめた。
    「あれっ? あたし……、そうだ、みんなを襲っちゃって、そしてケガ――」
     そこであんずはあることに気づく。
    「あたしのケガ、治ってる? もしかして……」
     ふと顔を上げれば、心配そうに窺う柚莉と琥珀と目が合った。
    「治して、くれた……?」
     その言葉に柚莉は頬を緩め、そして控えめに問う。
    「あのね、ゆず達と……お友達になってくれる?」
    「え、でも」
    「そうそう! そしてオススメの一品とか教えて欲しいな!」
    「うん、お土産に買って行きたいんだ」
     躊躇うあんずに、緒々子とましろも歩み寄る。
    「よければ、私達の学校に来て欲しいのです」
    「帯広のお菓子を広めるためにも、ね」
     智恵美の言葉に光琉が補足すると、あんずはぱっと顔を上げた。
    「いいの……?」
    「もちろん!」
     今日子が保障し、柚莉も頷く。
    「学園なら、あんずちゃんのお菓子好きな人が沢山いる、よっ」
    「お姉さんのお菓子、凄く美味しかったですから」
     ぐい、と涙を拭ったリュシールは笑顔を見せた。
     そして、あんずは。
    「ありがとうっ!」
     お菓子よりも、甘く笑った。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 21/キャラが大事にされていた 7
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