その噂は北の温泉郷へ

    作者:御剣鋼

    ●噂は巡りに巡って全国各地の温泉地へ
    「皆様、お集り頂き、誠にありがとうございます」
     集まった灼滅者達を出迎えたのは、里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)。
     けれど、彼の後方に置かれた石版に目を留めた数人は、暫し固まった後……。
    「えーと、後ろにある石版って……もしかして」
    「流石は灼滅者様、ご明察でございます。イフリートからの手紙で間違いはございません」
    「「またかよおおおおお!!!」」
     ――他にもまた、何かあったら声をかけて欲しい。
     と、同様の依頼に赴いた灼滅者達が、返事の石版を宛てたのは、記憶に新しい。
     クロキバからの依頼に加えて、箱根湯本の源泉近くに隠れたイフリート達からの依頼。
     どちらも灼滅者が解決したことは、全国各地の源泉に隠れているクロキバ一派のイフリート達の間に瞬く間に広まったのだろう。
    「今後は全国各地の温泉地からも同様の依頼が、遠慮なく、舞い込んで来そうですね!」
    「遠慮なくって……」
     自重しないところが安定のイフリートといいますか、むしろブレて無いと誉めるべき?
     執事エクスブレインも遠い眼差しで、しかし落ち着いたトーンで改めて石版を指し示す。
    「こちらは『宮城県・鳴子温泉郷』の源泉に棲む、イフリート達からの依頼でございます」

     ――ナルコノゲンセンノチカクニ カマイタチノムレ スミツイタカモ。
     ――ホウチスルト ジマンノタテガミ カラレルカモ。
     ――トウバツ タノム。

    「こういう情報提供は助かるわね……最初の一文以外は、どーでもいいけれど」
    「人里に来られましても、イフリートの毛を刈られるのも、どちらも迷惑極まりませんね」
    「……。アンタ、時々ずれているって、言われない?」
     陽が傾き始めた頃。温泉街近くを流れる川岸近辺に、カマイタチの群れが現れるという。
     取り巻きのポジションは、クラッシャーとジャマーが2体ずつ。――そして。
    「それらを束ねる個体が1体の、計5体でございます」
     首級は最初は姿を見せないが、取り巻きを2体倒すと、スナイパーとして後方に現れる。
     ボスクラスだけあって他の個体よりも強く、油断出来ない相手になるだろう。
    「5体とも、使用してきますサイキックは、『咎人の大鎌』に似た攻撃のみとなりますが」
     その分、倒す順番で難易度も変わってくる。
     ボスが現れるまで、先に倒すべき2体のことも考慮しておいた方がいいかもしれない。
    「また、何れも素早い動きを得意としております。くれぐれも油断されませんよう……」
     説明を終えた執事エクスブレインは、手元のバインダーからパンフレットを取り出す。
     どうやら、温泉街の散策マップと湯巡りチケットもセットのようでして……。
    「今はホタルが見頃のようですし、戦闘後は鳴子の温泉街を散策されては如何でしょう?」
     ――街を歩けば下駄も鳴子。
     戦いが終わったあとは、温泉浴衣と下駄に履きかえての温泉街巡り。
     浴衣と下駄は自前でもいいけれど、旅館や駅前等で気軽に借りることが出来るという。
    「浴衣を持ち合わせても、雰囲気重視で温泉浴衣で揃えるのも、どちらも良さそうですね」
     カランコロン、と。
     温泉街に鳴る下駄の音を想像したのだろう、執事エクスブレインは瞳を細める。
     栗だんごや岩魚の塩焼きを頬張りながら、足湯やホタルを散策してみてはいかが?


    参加者
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)
    水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)
    鴨打・祝人(みんなのお兄さん・d08479)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    関・銀麗(東海青竜王・d15670)
    黒水・薫(浮雲・d16812)

    ■リプレイ

    ●川岸の刃
    「一般人を巻き込まないように、気を付けて戦おう」
     仲間と共に温泉街近くの川岸に身を潜めていた流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)の赤色の双眸が鋭くなる。
     視界に入ったのはカマイタチに似た4つの影……紛れもなく討伐対象の眷属達だ。
    「人里のコト考慮してくれてるとしてもさ、俺ら便利屋扱いされてるよね?」
     ふと、小さく疑問を洩らすのは、水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)。
     ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)も溜息をついて。
    「全くいいように使われているわね……自慢のタテガミって」
     人に害をなすモノを退治するのも、灼滅者(スレイヤー)の使命。
     しかし、何となく緊張感が欠けてしまうのも、手紙の主のせいと思うのは自分だけ?
     ……でもなかった。
    「タテガミが刈られるのも大変だな、被害も抑えたいし早めに退治しよう!」
     何処かズレた相槌を返したのは、鴨打・祝人(みんなのお兄さん・d08479)。
     自身の宿敵からの依頼に、正直ピンと来ないというだけかもしれないけれど……。
    「ご褒美は温泉街散策ね」
     次も舞込んで来ると思っていたのは、関・銀麗(東海青竜王・d15670)も同じ。
     今は眼前の敵に集中しようと、赤色の双眸を凛々しくしていく……が。
     御礼にタテガミを触らせてくれないかなと言う楸と合わせて、マイペースにも見れる。
    (「油断や慢心をしているわけじゃないけど……」)
     表に出していなくても、黒水・薫(浮雲・d16812)も初めての温泉郷が楽しみで。
     それに、綺麗なホタルも見れると聞いて、内心はワクワクドキドキが止まらない!
    「よおーしっ。待っててね、ボクの美味しい食べ物達!」
     先に先制攻撃を仕掛けようと、灼滅者達は一斉に飛び出す。
     気合い十分の桜川・るりか(虹追い・d02990)も黒色の髪を靡かせ、武器に炎を宿す。
    「作戦通りに展開よ」
     狙うはジャマー1体。
     敵の布陣を確認しながら、ヴィントミューレが放った影が敵を絡める。
     楸が放出した漆黒の殺気が敵を覆い、同時に彼自身の能力を高めた。
    「私のご当地守備範囲に住み着くとは、いい度胸ね!」
     宮城県内に入ると仙台ラブが全開になるのは、流石ご当地ヒーロー!
     緑のオーラを纏った風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)が紅と黒を追う。
     足元からするりと伸びた影が、鋭い刃に変わり追撃を見舞った。
    「つい防具も浴衣で来ちゃったよ」
     少し日焼けした肌に浴衣を纏ったアカネもガトリングガンを構える。
     周囲に人がいないことを目視で確認すると、霊犬のわっふがると共に駆け出した。
    「いくよ、わっふがる!」
     アカネは見切られないように注意しながら武器に宿した炎を勢い良く叩きつける。
     開始早々集中攻撃を受けた1体が炎に倒れ、あと1体倒せばボスが出現する――が。
    「バラバラに狙って行こうっ!」
     ボスが現れた直後に取り巻きを一気に殲滅できれば、戦況はかなり優勢に運ぶ。
     なるべく均等に弱らせていこうと眼前の眷属に魔力の奔流を叩き込む、るりか。
     先に倒れた眷属をちらりと見届けたクラレットも余裕を残す眷属を狙っていく。
    「あなた達に罪はないかもだけど……ごめんなさい」
     ――せめて安らかに。
     スナイパーに布陣したヴィントミューレは仲間の支援に徹していて。
     攻撃は前衛に任せ、後方からの牽制と敵の動きの見極めに専念していた、が。
    「攻撃をしながら敵の体力を正確に推定するは、難しいわね」
     同じサイキックを使っても、布陣するポジションでダメージ量は変化する。
     また『攻撃が必ず当るとは限らない』ことを考慮すると、各自に細かに攻撃目標を指示していくのは、実に骨が折れる作業だ。
    「両者ともよろしくね」
     幸い、作戦を共用していたのもあり、全員が敵を均等に削るように上手く動いている。
     仲間のサーヴァントとメディックに着いた銀麗も盾の加護で味方の支援に徹していて。
    「わぁ、眼つきが可愛くない」
     楸は瞳を瞬かせながらも傷の浅い眷属目掛けて、炎を乗せた武器を振う。
     その脇をヴィントミューレの矢が弧を描き、薫が霊的因子を停止させる結界を構築する。
    「楽しい温泉旅行を邪魔しないようにしないとな」
     同時に。祝人は周囲に一般人を遠ざける殺気を放つ。
     万が一に備えて。そして、楽しい温泉旅行になるように、願うように――。

    ●疾風剣斬
    「そろそろかしら?」
     雑魚を残す以上、攻撃される回数が多くなり、殺傷ダメージが蓄積しやすくなる。
     後方から仲間の負傷具合を確認していた銀麗の警告を受け、薫が強く地面を蹴った。
    「イフリートさん達の縄張りに住み着いちゃうなんて、とても運が悪かったのね」
     跳躍した薫は寄生体に武器を飲み込ませ、己の利き腕を巨大な砲台に変える。
     撃ち出すのは高い毒性を持つ、死の光線だ。
    「でもごめんなさいね、私達も、オシゴトだから」
     毒を帯びた薫の破壊光線が2体目を撃破した、その時だった。
     後方の茂みが大きく揺れ、一回り大きな個体が現れたのはッ!!
    「ボスが現れたよ」
     アカネが武器をクロスすると同時に、相棒も不機嫌そうに『がる……』と身構える。
     仲間が施す盾の加護が衝撃を和らげてくれるが、他の個体より強力なのは明白で。
    「お兄さんが惹き付ける、皆は止めを刺すことを優先してくれ!」
     残る雑魚は、クラッシャーが2体。
     魔術の竜巻で幅広く行き届かせていた祝人も攻撃を切り替えるようにシールドを構える。
     仲間の盾になるよう、敵前衛の攻撃を惹き付けるように距離を詰めていく。
    「ボクも気合入れちゃうんだもんねーっ!」
     これも食べ物……いえ、世のため人のため!
     るりかも力をもたらす響きをもって治癒を手厚くし、銀麗の癒しの隙間をカバーする。
    「回復の補佐は大丈夫そうね」
     ヴィントミューレが視線を動かすと銀麗の傍らを愛らしいサーヴァント達が固めていて。
     ならば、敵の攻撃を惹き付ける祝人を支援しようと、ボスの牽制に動いた。
    「おだづなよ! このほでなすが!」
     攻撃を切り替えたクラレットも体力が低い敵に鋭利な影を刺し向ける。
    「手下から確実に仕留めていきましょう」
     仲間に攻撃が行かないよう薫もシールドを構え、反撃の刃を積極的に受け止めた。
    「わっふがる、キュアを重視しておくれ」
     視線は前を見据えたまま、アカネは後方の愛らしき相棒に声を掛ける。
     主人の意を瞬時に読み取った霊犬は『わっふ!』と応え、健気に走り回っていて。
    「うん、鬱陶しからウロチョロすんな?」
     3体目が倒れたのを確認した楸は、速攻で死角からの斬撃で4体目を葬る。
     回復と補助は十分足りている。なら、クラッシャーである己は攻撃に専念するだけだ。
    「ふわまる、頼む!」
     祝人の声に銀麗と治癒に専念していたナノナノのふわまるも元気良く羽を動かして。
     背に届くのは温かい癒し。同時に銀麗の清浄なる風が戦う味方を大いに鼓舞させる。
    「仲間を引き連れてくる様子もなさそうね」
     援軍が現れることも考慮に入れつつ、銀麗は癒しに徹する。
     味方の支援に応えた祝人の影が勢い良く伸びて、ボスの体を絡めとった。
     その隙を逃さず、薫が護りを固めたシールドを脳天へ叩き付ける!
    「あなた達の所業が悪か否か、今こそ裁きの時よ」
     瞬時に、ヴィントミューレも刀身が自在に伸縮する長剣をしならせる。
     瞬き放たれるは悪しきものを滅ぼし、善なるものを救う『光』!
    「受けてみなさい、この裁きの光をっ!」
     ヴィントミューレが解き放った聖なる光条が邪悪を撃ち滅ぼさんと、戦場に伸びる。
     一拍。懐に潜り込むように深く身を沈ませたるりかが、凄まじい連打を繰り出した。
    「しそ巻きビーム!」
     るりかが武器にオーラーを集束させると同時に、クラレットが追撃する。
     ご当地の力を宿した必殺ビームにボスの体がぐらりと傾き、その眼前を炎が躍動した!
    「素直に燃やされとこーか?」
    「イフリートの炎はこんなものじゃないんだからね! ラッキーだと思いなよっ」
     楸とアカネが同時に叩き付けた炎の奔流が、ボスを飲み込んでいく。
     息継ぐ間もない猛攻を浴び続けた眷属は、炎と共に消えていった。

    ●鳴子温泉郷巡り
    「んー、こんな恰好久し振りだなー」
    「食べ歩きにホタル、楽しみだわ」
     運動の後は腹が減るというもの、早速浴衣に着替えた楸は颯爽と温泉街に乗り出す。
     白地に桜をあしらった浴衣に着替えたヴィントミューレも散策に加わり、全員が揃った。
    「えへへ、どうかな?」
     るりかの浴衣も白地に桜の花の柄をあしらえたもの。
     風も気持ち良くのんびり歩きながら少しだけ瞳を閉じると、下駄の音が心地良く響く。
     夜の帳が落ちた温泉街は都会よりも薄暗かったけれど、街灯が温かく路を照らしている。
    「サーヴァントが入れる温泉を見つけたら、一緒にのんびりつかるわ」
    「銀麗君、感謝するぞ!」
     ふわまるが入った壷を銀麗はヌイグルミのように優しく抱き上げる。
     祝人も浴衣に合わせた下駄の感触を確かめながら、風情豊かな温泉街を見回した。
    「浴衣で温泉街を歩くのって風情があっていいよね、それだけで心が弾むよ」
     温泉が大好きなアカネは相棒のリードを持ちながら、ふと己に流れる血に問う。
     イフリートと温泉は縁が深い、表裏一体だけあって似たモノがあるのかもしれない。
    「せっかくの温泉街、写真もいっぱい撮って楽しみましょうか」
     岩魚の塩焼きに栗だんご、それに蕎麦も美味しいと薫は聞いている。
     どうやら、基本は食べ歩きがメインになりそうだ。
    「イフリートもいい情報をくれたものだわ」
     この機に乗じて仲間を宮城の虜にせんと、クラレットは瞳の端を鋭く光らせていて。
     ずんだ餅に似た緑の色の浴衣の裾を踊らせると、下駄が奏でるリズムも楽しそう♪
    「名物はきっちり制覇しないとねー」
     楸は食べながらホタルを見たいと、ぐるりと視線を巡らせる。
     キラキラと瞬く青色の瞳に否を唱える者は1人もなく、一行は散策に繰り出した。

    「へえ、大きな栗が丸ごと1個入ってるんだ」
     栗だんごは始めてだと感嘆を洩らしたアカネは勢い良くパクンと1口。
     相棒は躾(しつけ)と訓練の行き届いた賢い女の子、傍らで大人しく寄り添っている。
    「イフリートって結構いいとこ拠点にしてるんだね」
     折角の温泉街、食べ物は出来るだけ全部頂きたいと、るりかは気合い十分!
     早速栗だんごと岩魚の塩焼きを頬張りながら、次は何を食べようかなと視線は忙しなく。
    「お姉さん、ホタルの見れるイイ穴場知らないかなー? あと美味いお店とかも」
     楸は店のオバチャンを煽てながら、ホタルが見所の穴場を探っていて。
     ――美味いお店。魅惑的なフレーズに嬉しそうに手を挙げたのは、クラレットだった。
    「あ、食べる人の分私買ってくるよ!」
     栗だんごを始め、名物という名物を網羅していると、クラレットはびゅんと風になる。
     ご当地ヒーローらしく地元名産のブルーベリージャムを勧めるのも忘れない♪
    「ふわまる、加呼吸か?」
     壷に入ったまま、ふわまるは浴衣姿の女性陣に盛り上がっている様子。
     少し遠くを歩く祝人にも鼻息(?)が荒いのが伝わってくるのは、気のせい?
     蒼い浴衣を着た銀麗に壷ごと抱えられたふわまるは、とても嬉しそうに見える。
    「このみたらし餡も美味しいね」
    「栗団子もイイけど、しそ巻も美味そーだね」
    「お蕎麦も美味しいわね」
    「んだべ?」
     美味しそうに食べるアカネと楸、薫にクラレットも花のような微笑を浮かべていて。
     写真を撮りながら下駄の音に耳を傾けていたヴィントミューレはふとメモを取り出した。
    「この際、地方名物を書き留めておくのも今後の役に立ちそうね」
     ヴィントミューレの視線が幸せそうにモグモグと口を動かす、るりかに留まる。
     口の中いっぱい広がる好物の甘味に、るりかの紫色の瞳は恍惚に満ち溢れていて。
    「楽しいわね」
     美味しいもの、綺麗なもの、――そして。
     少しでも穏やかな時間が続くことを祈って、薫は仲間の笑顔を写真に収めていく。

    ●下駄も鳴子
    「はー、きれーだねぇ」
     軽く食べ歩きながら温泉街巡りをした一行が着いたのは、小さな溜め池。
     楸が店の人から聞いた話よりそれは美しく、闇に幾つもの光がぽぅと輝いている。
     か細くも、けれど力強い生命の灯を眺めながら少しだけ水辺に足を浸した。
    「いい時期に来られたみたいだ」
     仲間と共に溜め池に足を運んだアカネは眼前の光景に思わず溜息を洩らす。
     東北の山間では今がホタルの見頃なのだろう、光は声を失う程に美しい。
    「うわー、ホタル綺麗。これ、先輩に見せたいな」
     幻想的な光景に心が躍っていたのは、るりかも同じのよう。
    「お兄さんが若いころには、近くにも――」
     蛍を見るのは久しぶりだと瞳を輝かせた祝人の話はとっても長くなるので、以下略!
    「……イフリートでも、この魅力はわかるのかな?」
     闇に鮮やかな光の軌跡を残すホタルの群に、クラレットは何度も瞳を大きく瞬く。
     そして思わず洩れたクラレットの声に、ヴィントミューレが顔を上げた。
    「報告の他にも……そうね、お礼の一言が欲しいかも」
    「あとで連絡をくれたイフリート達に御礼を書いておくわ」
     ――ありがとうと、感謝を込めて。
     一緒にこの光景を楽しむように、ヴィントミューレは書き溜めたメモに指を添える。
     仲間と一緒に眺めるホタルの幻想的な光景に、銀麗もうちわを片手に瞳を細めた。
    「こーゆートコにいると田舎を思い出すわ」
     何処か懐かしそうに微笑を浮かべる楸、アカネもホタルを眺める相棒を優しく撫でて。
     薫の提案でホタルを背景に記念撮影を終えた時だった、るりかが呼び掛けたのは。
    「せっかく湯巡りチケットを貰えたのだから、温泉も楽しみたいかな」
    「貸切風呂があれば、サーヴァントちゃん達もイッショに入れるかしら?」
     真の温泉巡りはこれからだからと微笑む、るりか。
     時間があれば足湯も堪能したいと言う薫に、クラレットも嬉しそうに頷いて。
    「シールを使い切るまで巡ろう! 足湯の他にも手湯なんてのもあるみたいだよ!」
     温泉では効能を信じる派の、クラレット。
     みんなで美肌になろうと楽しげに奏でた下駄の音に、祝人も笑顔で力強く頷く。
    「出来る限り全部やろう!」
     ――お疲れさま。
     疲れを見せず、全力でこの時を楽しむ仲間に祝人は胸の内で労いを掛けて歩き出す。
     まだまだ温泉街と名産を楽しみたいし、温泉にも入りたいのは同じ想いだったから。
    「この場所を少しでも守れたんなら、それもイイかな」
     便利屋扱いされても、構わない。
     そう柔らかに口元を弛めた楸に、アカネもこんな依頼なら大歓迎だと微笑む。
    「これはイフリートに感謝してもいいかな」

     カランコロンと。
     下駄が奏でる楽しそうな音色が、夏を迎える温泉郷に、幾つも軽やかに響く。
     夜の温泉郷巡りは、まだまだ始まったばかり――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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