堕ちし者の闇堕ちゲーム~リベンジ~

    作者:相原あきと

     その町にある火葬場は、付近の地域の葬儀をまとめて行えるよう複数の炉をもうけた、近代的な斎場だった。A棟、B棟、C棟があり、A棟に3部屋、B棟に2部屋、C棟に2部屋の火葬室が存在する。
     今日も7組のご家族が来場し、つつがなく葬儀の最後を締めくくる。
    「ああ、救われるべき人々がこんなにも……」
     火葬場に入ってきたのは、色眼鏡を欠けた灰色の髪の男だった。
     ブランドもののスーツを着こなし曇り一つないぴかぴかの革靴で火葬場へと入ってくる。
    「前から目を付けてはいたのですが……準備に手間取りましたか」
     男の後ろには2人の喪服の男女が付き従う。
     その目は虚ろで生気が無く、よくみれば動く死体だと解る。
     もっとも、男や死体の2人に気がつく人々はいない。
    「さぁ始めましょう。今日は燃やしきれないほどの死体が出る。この火葬場も大忙しです」
     男が言うと共に2人がB棟とC棟に向い、最後に男はA棟とかかれた建物へと向かっていった……。

    「みんな、石英・ユウマ(せきえい・ー)を覚えてる?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     石英ユウマ、元武蔵坂学園灼滅者であり、学園初の完全闇落ちによりダークネス六六六人衆となった男。
    「今回、みんなにお願いしたいのは、石英ユウマが起こそうとしている大量殺人の阻止よ。場所は某所の火葬場、このまま放っておけば火葬場の職員や葬儀会社の人も含めて150人近い犠牲者が出るわ」
     珠希は件の火葬場の見取り図を取り出し机に広げる。
     その火葬場はA棟、B棟、C棟に分かれており、A棟に3部屋、B棟に2部屋、C棟に2部屋火葬室が存在する。
     A・B・C棟は火葬場の駐車場を中心に、東と北と南に位置しており、それぞれの移動には2分もあれば大丈夫らしい。
     棟内の火葬室は別室になっており、それぞれの行き来は約1分もあれば移動が可能だろうか。
    「敵のバベルの鎖を回避するには、石英ユウマかその眷属が殺人を犯すタイミングで、誰かしらに接触する必要があるの」
     眷属。
     今回、石英ユウマは死者の眷属を2人連れてきており、それぞれ自分とは違う棟へと派遣し、同時に殺戮を犯す予定らしい。

     バベルの鎖回避条件。
     石英ユウマかその眷属が殺戮を開始するタイミングで誰か(石英ユウマでも眷属の1人でも)に接触する必要がある。

    「火葬場には合計で7部屋の火葬室があるの。石英ユウマとその眷属2人は、全員1人ずつ3棟のどこかの部屋にいるのは確実よ」
     もっとも、どの棟にいるかはわかっても、どの部屋にいるかは不明だと言う。
     珠希が言うには、放っておけば石英ユウマは1分間で約10人を殺害するが、眷属達は1分で2人ずつしか殺害しないらしい。
     珠希は辛そうな表情を浮かべて、次の言葉を告げる。
    「全員を救うのは……難しいと思う」
     沈黙が教室を支配する。
     珠希は首を振ると、依頼に必要な情報を灼滅者へと告げる。
    「みんなはもうわかってるかもしれないけど、石英ユウマは一般人を殺すだけが目的じゃないわ……みんなの、闇堕ちを狙っているの」
     六六六人衆の闇堕ちゲーム。
     灼滅者を闇堕ちさせダークネスへと変える。かつての自分がそうなったように。
    「石英ユウマは大量殺人が無理だと判断するか、もしくはある程度の傷を受けると撤退していくわ」
     そして、石英ユウマの戦い方は変わらないと珠希は言う。
     殺人鬼と日本刀に似たサイキックを使い、攻撃優先の構えで仕掛けてくる。
     眷属たるアンデッド達は、どちらも解体ナイフに似たサイキックを使うだけで、そこまで強くは無いらしい。
    「今回の目的は大量殺人の阻止よ。思うところはあると思うけど、相手は強いわ……みんな、無理だけはしないで。そして、無事帰ってきて」


    参加者
    和瀬・山吹(エピックノート・d00017)
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    穂群坂・結斗(雪月封火・d01524)
    黒崎・紫桜(日常を守護する葬焔の死神・d08262)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)
    ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)
    翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)
    朱鷺崎・有栖(ジオラマオブアリス・d16900)

    ■リプレイ


     その町の火葬場はコンクリートが剥き出しのデザインであり、どこか寂しげな雰囲気を醸し出していた。
     やってきた8人の灼滅者のうち和瀬・山吹(エピックノート・d00017)が火葬場を見上げて呟く。
    「こんなところで闇堕ちゲームだなんて……趣味が悪いね」
     火葬場には3つの建物があり、8人はその中間点である駐車場の併設された広場へ差し掛かる。
    「……なんで、こんなことになったんでしょうか」
     アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)がB棟とC棟を見ながら呟く。
     答えられる者はいない。
     そして無言のまま8人はA棟へと入って行った。

     A棟にはA1、A2、A3と3つの火葬室があった。
     灼滅者達は3班に別れて六六六人衆・石英ユウマを探す。
     そのうちの1班。
     唐突に部屋の扉を開けた見慣れぬ3人に、部屋で故人の火葬を行っていた親族一同が奇異な目を向けてくる。
     黒崎・紫桜(日常を守護する葬焔の死神・d08262)は眷属がいないことを確認、翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)も紫桜に頷き同意する。即座に太治・陽己(薄暮を行く・d09343)がESPを発動させ、刃物を持った不審者が、と一般人たちを扇動して逃がす。
     アレスにA2へ向かったアプリコットから連絡が入る。
    「あっちもハズレだったようだ」
     と同時、A1に向かった仲間と通話状態にしていた陽己の携帯から、人々が逃げ惑う悲鳴が漏れ聞こえてきていた。

    「きゃああああああっ!」
     悲鳴が飛び交う中、殺戮を防がれた石英ユウマが光刃を放ち邪魔をした穂群坂・結斗(雪月封火・d01524)へと一直線に斬り込んでくる。
     ギンッ! とサイキックソードで受けきる結斗。
    「私もかつて闇に堕ち、救われた……だから、できるならきみを助けたい」
     ぐんっと結斗の意志に呼応するように光の刃がはじけユウマが後ろへ飛び退く。
    「けど、彼がもういないと言うなら、ここで止めさせてもらう」
     A1の部屋から一般人たちが我先に逃げ出していくが、ユウマは一般人に見向きもしなかった。ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)は逃げ出す一般人を外へ誘導しつつ歌をぶつける。
    「残念諦めな♪ いつだって学園の灼滅者はてめぇの前に現われる♪」
     それは神秘的な歌声でユウマの意識をかき乱す。
    「くっ……」
     打ち払うように首を振ったユウマが、ふと視線を部屋から逃げゆく最後の一人へと向けられる。次の瞬間、ユウマの姿が消えていた。
    「上!」
     朱鷺崎・有栖(ジオラマオブアリス・d16900)の声に見上げた時には、すでに目の前。
     ザクッ! 咄嗟に飛び退こうとするが間に合わず太股を深く斬り裂かれた。
    「一本丸ごと貰う予定だったのですがね」
     ユウマが有栖を睨む。
     一般人に視線を誘導し死角から切り込む。六六六人衆らしい戦い方だが、元々一般人を気にしていなければどうという事はない。
     有栖は不敵に微笑むと。
    「さぁ私と遊びましょう。殺し屋さん?」


    「良いですが順番は守って下さい。最初に救うべきは彼からです」
    「救われたいのはそっちだろ。てめえが救われたいと願うのなら、退魔士のオレが主の御名において救いを与えてやるよ! 無論、オレのやり方でだがな!」
    「ほう」
     ユウマが短くあいづちを打つと同時、結斗の脇をすり抜けギュスターヴへと接敵、下段からの高速の斬撃。
     だが、甲高い音を立ててユウマの刀が突如突き出された大きな金属杖に防がれる。
    「順番待ちと言ったはずですが……。ふむ、一般人はどうでも良いが、仲間は大事、とか言うクチですか」
     金属杖を握る有栖へ皮肉る。
    「どうかしら? でも楽しい殺し合いが目の前にあったら、割り込みたくなっても仕方ないでしょう?」
    「くくく、どうやら他の2人とはあなたは違うようですね」
    「わかってくれる? 私もね、あなたを助けたい、なんて笑えるほどに面白いことを言う人が多くて困っていたの」
    「ほう、それは笑える話ですね。私の中の彼を助けたいなどと……無意味も良いところですから」
     距離をとりクツクツと笑うユウマ。

    「笑うな!」

     声と共に5人の灼滅者が部屋へと飛び込んでくる。
    「学園にはまだ、お前を待つ人もお前が帰る居場所も残っているんだ」
     ユウマが言葉を放ったアレスを見る。
    「ふっ、本当に彼が帰る場所があるとでも?」
    「あるさ」
     山吹が言う。
    「もう、こちらに戻る気は無いのかい?」
     嘲笑するユウマを山吹は見透かすように見つめ。
    「……さて、もう一度聞くよ。俺達は来たわけだけど……きみは、どうする?」
     ユウマは嘲笑を止め真顔となる。
     僅かな逡巡。
     しかし――。
    「私に言われても困りますね」
     山吹は一度目を閉じ……開く。
     と、語っている間に移動させておいた影でユウマの足を捕縛する。
    「知り合いの人には悪いけど助ける気は毛頭無いよ。そんなことしてたら、俺たちまでやられちゃう」
     ユウマが慌てて影を切り払おうとするが、背後から向けられる殺気に思わず振り返る。
    「死神が、止めに来たぜ」
     紫桜がチョーカーを握り締めると影の片翼が広がる、ほぼノータイムでユウマの脇腹が切り裂きつつ駆け抜ける紫桜……の腕が、ユウマによって掴み取られたかと思うと、超至近距離から突きを打ち込まれる。紫桜の左腕からも鮮血が飛んだ。
     ――もしかしたら石英みたいになっていたかもしれない自分、だが石英と自分は決定的に違う……。
     紫桜は腕を振り払いユウマに向かって刀を構え直す。
    「お前が堕ちたのも覚悟してのことだろうな……。だったら、俺は堕ちない覚悟でお前を止めてみせる」
     それは闇堕ちを経験したからこその決意、桜の花弁、ピアスに誓った想い。
     ユウマは刀に付いた血糊を振り払うと、1、2、3……と灼滅者の人数を数える。
    「8人、今までの経験からして……そうか……くくく、ははははははっ!」
    「なにがおかしい」
     結斗が問う。
    「ふふふ……いや、なに、ちょっとした事に気が付いただけですよ。あなた方はいつも8人で行動している。今回もそうでしょう。そしてB棟とC棟に私の眷属がいる事も知っている……違いますか?」
     ほぼ全員の顔に苦い表情が浮かぶ。
     そしてユウマは誰とも視線を合わせずその言葉を告げる。
    「B棟とC棟の一般人を……見殺しにしたわけですか」

     ――ピシリ。

    『おおおおお!』
     床を転がる陽己の鞘の音すら打ち消すように一斉に攻撃が再開される。それは怒濤のようにユウマに押しよせ、さすがの六六六人衆もそれ以上二の句が告げられずに防戦に徹せざるをえなかった。
    「おのれ!」
     どす黒い殺気をユウマが一気に解放する。
     前衛たちが軒並み吹き飛び各々が体勢を整える。そんな中、殺気を剣気にて相殺した陽己が至近距離からユウマに一撃を叩き込み、魔力を連続で爆発させる。
     苦痛の表情を浮かべるが、すぐにニヤリと笑う。
    「後悔……しているのですか?」
     陽己の胸にある想いが飛来する。
     ――石英が堕ちたあの時、代わりに石英の役を自分が負って居れば……。
     傲慢ですらあるその想い。
    「石英は俺を助けた。それは多分そう望んだからだ」
     陽己はユウマを押すようにして後ろへと離れる。
    「ええ、彼は望んだから助けたのでしょう。ま、何を望んだのかは知りませんが……」
    「そういうお前の望みは何だ? 眷属に殺しをさせる事か」
    「ははは、それは手段に過ぎませんよ」
    「君は心が痛まないのかい?」
     かけられた問いに反応するようにユウマが結斗をみる。
    「別に?」
     結斗はぎりりと槍を握り込むと再びユウマへと攻撃を開始する。
     悔しいのは結斗だけではない。一般人を救いたいと頑張っていた彼女もまた同じ。
    「ユウマセンパイ、貴方に……大事な人は、居なかったんですか……!」
     鼓舞する響きで仲間たちを癒しつつアプリコットが語りかける。
    「居たと思いますよ? だから闇堕ちしたのでしょうしね」
     ユウマが傷を受けつつ前衛の包囲を強引に突破、ギュスターヴへ放たれる高速の斬撃。
    「お兄様!」
     アプリコットの叫びと、ユウマが割り込んできたビハインドを切り裂いたのはほぼ同時だった。ちらりと振り返りつつビハインドが消滅する。すでに何度か仲間を庇っていた分、耐えられなかったのだ。
     かつて目の前で兄が死んだシーンがフラッシュバックし、やはり皆を救いたかったと後悔の念が浮かぶ。自分のような甘い考え方は間違っているのか……戦いは無情にも続く。


     かつてその灼滅者は、目の前で誰かが命を散らす事を許容する事ができなかった。それをするぐらいなら……それが石英ユウマという男だった。
    「く、はっ……」
     シャウトにより冷静さを取り戻したユウマの日本刀が、ついにギュスターヴを斬り倒すも、凌駕し再び立ち上がるギュスターヴ。
     しかしユウマもその程度は折り込み済みとばかりに、再度日本刀を振りかぶり――。
     クラリ……。
     意志へ介入する歌声にたたらを踏み、ユウマは慌てて跳躍する。
    「カンシャするぜ」
     ユウマへ歌をぶつけた山吹へ、ギュスターヴが礼を言う。
    「大丈夫ですか……!」
     アプリコットがギュスターヴを即座に回復させる。
     それを見ていたユウマが舌打ちする。回復がなければ範囲で薙ぎ払いつつトドメを刺そうと思ったのだが……。
    「仕留める!」
     一瞬の隙に飛び込んできたのは結斗だった。
     咄嗟に半身になったユウマの左腕を、結斗の光刃が深く切り裂く。
     ――全員は救えない、その力は、僕には無い、なら今は情を捨てよう。
    「諦め、ですか」
     見透かすように。
    「……覚悟だよ。キミはそういう相手だろう」
     ズシャッ!
     ユウマの背が風で切り裂かれる。背後を振り向けば……アレスだった。
    「全てを助けたいと願っていても、俺の、俺たちの手が届く範囲は極僅かだ……ならば、手が届く範囲の人だけは助け出して見せる」
     さらに連携は続く、前衛たちの攻撃が次々にユウマへとヒット……しかし、片腕を垂らし、すでに血が止まらなくなった傷も複数あるにも関わらず、ユウマは未だ倒れず、嬉しそうな表情を浮かべていた。
    「何がおかしい!」
     普段クールなはずのアレスが叫ぶ。
    「ああ、いえ、何という事はありません……ただ、あなた方の選択を知り、彼がどう思うかと……ね」
     石英ユウマの威圧感が、ここに来て急速に膨れ上がっていく。
    「結論だけ言いましょう……石英ユウマという人間の闇堕ちは、まったくの無意味だったという事です!」

     ――パリンッ!

    「さぁ、殺し合いを始めましょうか!」
     次の瞬間、狙われたのは有栖だった。気が付いた時には背後に回られ、振り向きざまに顔や胸を杖でカバーしたが、ざっくりと切り裂かれたのは足だった。
    「か、は…っ……一々、重いのよ」
     口元を拭い強気な言葉を吐くが、傷は決して軽くは無い。次も食らえば……。
     灼滅者たちも即座にフォローに入り連携して攻撃を加えるが、ダークネスは致命傷だけを避けて強引に反撃を繰り出してくる。
     そして気が付いた時、ダークネスはギュスターヴの前に。
    「救いの時です」
    「はっ、勝手に抜かすなダークネス。人を救う御業は我が主こそ。てめえはおよびじゃねーんだよ!」
     もし庇えるとしたら有栖だけだった。しかし有栖は動かない。
     ダークネスが持つ摩利支天刀が振り降ろされ、血が飛沫く。
    「い、いいか……オレの信仰は……揺るが、な、い」
     ギュスターヴが倒れながら胴体に抱きつく。
    「っ!?」
    「是が非でも止めるんだよ……! これ以上好き勝手やらせてたまるか!」
     飛び込んで来たのは紫桜だ。高速で日本刀が振り抜かれ、ダークネスは強引に摩利支天刀で打ち払う。
    「誰も堕とさせはしない。その上でお前を止める」
     紫桜の台詞と共に、その後ろから陽己が現れる。
     放たれるは同じく日本刀による高速の斬撃、愛刀を引き戻そうとするが間に合わない。

    「……かっ、はっ」
     ドクドクと血を流すダークネス。
     陽己の一撃は最後まで振り抜く事はできなかった。刹那の間際でダークネスが腰にしがみついたギュスターヴを盾にしたのだ。
     今回の戦いでは、そこまでの覚悟をもって挑んではいない。致命傷で十分だった。
     石英ユウマの判断は早かった。ギュスターヴの身体を灼滅者たちへ投げつけると、即座に部屋から飛び出していく。
     灼滅者のうち数名が即座に石英ユウマを追う。
     そして――。


     灼滅者たちはA棟を駆け抜け駐車場兼の広場へ。
    「もう戻れないなら、せめて……」
     アレスが先頭で広場に出た瞬間、何かが2つ投げつけられた。
     それは喪服を来た老女と、黒い服を着た少年。
     アレスを追い抜くように有栖が飛び出し、金属杖で老女の顔面を殴りひしゃげさせ、同じく陽己が日本刀で少年を横薙ぎに打ち払う。
    「ひどいっ!」
     後ろから必死についてきたアプリコットが口を覆う。
     その肩に手を乗せ結斗が冷静に言う。
    「よく見て、すでに……死んでる」
     老女は胸を切り裂かれ、少年は腹に風穴を空けていた。
     見れば広場の中央に立つダークネスの元に喪服を着た男女の配下がいる。彼らが犠牲者の死体を投げつけてきたのだろう。 
     状況を確認し山吹がいつもの口調で告げる。
    「今回は、引いてもらうよ、ユウマ君」
     それは灼滅者がこれ以上深追いしないとの宣言。
     このまま犠牲をいとわずに戦えば、ダークネスを灼滅する事も可能な気もした。しかし、今回はそこまでの覚悟を全員が持っているわけではない。
    「思い違いをしていましたよ。あなた方は彼が望んだ存在のように、どんなリスクを負っても全力で人間を助ける集団だと思っていましたが……」
    「ええ、それは完全な思い違いね」
     クスリと有栖が笑う。
     ダークネスはやれやれと。
    「それに次は……」
     と1枚のコインを取り出すと親指で空中に弾き――。
     キキンッ!
     摩利支天刀を煌めかせると、裏と表が分かれるように真っ二つにし落ちてくる裏面だけを手に握る。
     その瞬間、ダークネスの周囲にWOKシールドのような不可視の障壁が展開される。
    「こちらも出し惜しみはしません……他の仲間にも伝えておいて下さい。次は必ず堕とす、とね」
     そう言うとダークネスたちは去っていった。

     B棟とC棟の被害には目を瞑り、全員で一直線に石英ユウマだけを狙い、攻撃力に特化した布陣で1分1秒でも早く撤退に追い込む。
     自身の安全や闇堕ちの危険性を考えるなら、これ以上の作戦はなかっただろう。事実、150人中、死亡した数は36人だった。

     せめて最後ぐらいは……と犠牲者に走馬灯使いを使用しようと思った紫桜は、足下に落ちているコインを拾う。
     それは先ほどダークネスが斬ったコインの表面だった。
     キンッ……。
     だが、手で拾い上げた瞬間、コインが真っ二つに割れる。
     2つに割れたコインの表面は、悲しく澄んだ音を鳴らし……。
     大地へと堕ちたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 32
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