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あーあ、もう最悪。こんな点数、親になんて見せらんないよ。
どうせまた、マンガばっかり読んでるのが悪いとか、来年は受験生なんだからしっかりしなさいとか、ネチネチ言われるに決まってるし。
いっそ、裏の林に捨てちゃおうかな……って、それは止めた方がいい? どうして?
あそこには悪い点数のテストがたくさん捨てられてるから、お化けになって出てくる……?
やだ、何それウケる。ぬり壁みたいに大きなテスト用紙でも出るわけ? それ、マジで言ってるの?
……あたしは信じないからね。これは、別のとこで捨てることにしただけなんだから。
大きなテスト用紙のお化けなんて、出るわけがないじゃない。出るわけが……。
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「捨てられたテスト用紙が、お化けになるの、よ……」
教室に集まったメンバーを前にして、千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)はたどたどしい口調で話を切り出した。
数ヶ月前、ヨギリは『人間に捨てられた自転車の都市伝説』と遭遇している。
物には魂が宿るのだと感じた彼女は、事件の後も同様の噂がないか調査を続けていたが、先日になって『捨てられたテスト用紙が化けて出る』という話を耳にした。
それをエクスブレインに報告したところ、ヨギリが睨んだ通りに都市伝説が生まれていた――と、こういう流れである。
彼女から話を引き継いだ伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)が、詳しい説明に移った。
「現場は、中学校の裏にある林。もともと薄暗くて、あまり人が来ない場所だから、悪い点数のテストを捨てていく生徒がすごく多かったんだって」
いつしか、そこには『捨てられたテスト用紙が化けて出る』という噂が生まれ。やがて、都市伝説『お化けテスト』として顕現したのだという。
「この『お化けテスト』だけど、林に『30点未満のテスト用紙』を捨てようとすると出てくるよ。誰も持ってなければ、手書きで作っちゃっても大丈夫だと思う」
現れる『お化けテスト』は8体。その名の通り、巨大なテスト用紙の姿をしている。
功紀の話では、彼らは『学生に現実を直視させる存在』とのことだが――。
「出現した時、その場にいる人たちが前に受けたテストの用紙を、そっくりコピーしちゃうんだって。皆の場合は、こないだの中間テストになるんじゃないかな、たぶん」
点数の良し悪しは『お化けテスト』の強さには影響しないが、人によっては精神的にダメージを受けるかもしれない。
「名前だけは、ぼやけて読めなくなるらしいから安心といえば安心なのかな。……本人が見たら、さすがに分かっちゃうと思うけど」
控えめにフォローを入れた後、功紀は『お化けテスト』のポジションがクラッシャーであると告げる。
メンタルまでも破壊されないよう、気を強く持っておく必要があるだろうか。
「都市伝説はまだ生まれたばかりだから、犠牲者とかは出てないけど。早めに倒しておくに越したことはないからね。お願いしても、いいかな?」
功紀は飴色の瞳で灼滅者たちを見ると、思い出したように一言付け加えた。
「あ、テスト用紙はそのまま林に捨てたらダメだよ。持ち帰るか、別の方法で処分してね」
参加者 | |
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山田・萌絵(にんにんにゃんにゃん・d01326) |
アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354) |
高橋・雛子(はっちゃけ高機動型おちび・d03374) |
橘・清十郎(不鳴蛍・d04169) |
藤平・晴汰(灯陽・d04373) |
ディアナ・ロードライト(比翼の片羽根・d05023) |
白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661) |
幸宮・新(弱く強く・d17469) |
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各所に設置された幾つもの灯りが、夜の林を煌々と照らしていた。
光源を確保して準備を整えた後、灼滅者は背中合わせに円陣を組んで互いの死角を補う。
「どの方角から敵が来ても対応できるようにしないとな?」
周囲を警戒する高橋・雛子(はっちゃけ高機動型おちび・d03374)の隣で、隠密用のダンボール箱を被った山田・萌絵(にんにんにゃんにゃん・d01326)がこくこくと頷く。ちなみに、彼女によると『ダンボールは忍者の嗜み』らしい。
今回、都市伝説が姿を現す条件は『30点未満のテスト用紙を捨てるフリをする』こと。よって、殆どのメンバーが本物、偽物を問わずそれを持参していた。
「最近は成績も上がってるし、過去とは決別する良い機会だ!」
ポケットから昔の答案を取り出し、橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)が声を上げる。
彼の声を合図にして、テスト用紙を手にした全員が動いた。
「景気良く、ビリビリっと……」
「……すると思ったら大間違いでごにゃる!」
紙を破く音に重なる、ガトリングガンの銃声。流石は萌絵、破る手間が惜しいと言い切るだけのことはある。捨てるどころか、跡形もなく燃やしているあたり、そこまでするかと突っ込みたくはなるが。
その反対側では、藤平・晴汰(灯陽・d04373)が数学のテスト用紙(24点)を星型に折っていた。
「とんでけーっ」
昨年の後期期末テスト結果を闇に葬るべく、手裏剣の要領で投擲する。
幸宮・新(弱く強く・d17469)、白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)らも、それぞれ偽造したテスト用紙を破り捨てていた。
「あたしもやりたかったけど、過去のテストは全部捨てちゃったからね」
テストなんて無ければ、こんな都市伝説が生まれることもなかったのにと零す柚理の傍らで、執拗にテスト用紙を破き続けるアイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)。演技にしては、随分と真に迫っている気がするが――。
「こういうのは、リアリティーってやつが大事だと思うんだ……!」
依頼のために仕方なくやっているだけだと本人が主張するので、同行者達もあえて突っ込もうとはしない。『偽物』と強調する国語のテスト用紙(20点)が、『限りなく本物にそっくり』だったとしても――それもまた、彼女が言う『リアリティー』の一環なのだろう。きっと、たぶん。
林の奥から、がさり、と音がする。視線を向けると、2~3メートルはあろうかという巨大なテスト用紙が8枚、こちらに迫ってくるのが見えた。都市伝説『お化けテスト』のお出ましである。
「……テストを物理的に倒せる日が来るとは思ってなかったわ」
素早く隊列を整えつつ、ディアナ・ロードライト(比翼の片羽根・d05023)が武器を構える。
「全力で行くから覚悟してね!」
彼女の宣戦布告とともに、灼滅者とお化けテストの死闘が幕を開けた。
――非情なる現実に立ち向かえ、学生たちよ!
●
お化けテストの表面がぼやけ、先の中間テストにおける灼滅者たちの点数を浮かび上がらせる。
それを認めた瞬間、アイティアは誰よりも速く地を蹴っていた。
(「これはまずい……」)
20点と書かれた国語のテスト用紙をまじまじと眺め、己の肉体を覆うオーラを両手に集中させる。
氏名欄は滲んで読めないが、見る者が見れば先の『偽物』とそっくり同じものであることは一目瞭然だろう。
――そう。この依頼は『合法的にテスト用紙を葬り去る』チャンスであると同時に、『同行者にテストの点数を知られる』リスクをも孕んでいるのだ。
「何とかしないと……!」
皆に聞こえないよう口の中で呟き、打撃の嵐をテスト用紙に浴びせていく。特に、点数欄は念入りに叩かねばならなかった。成績が露見する前に、穴だらけのボッコボコにしてやらねば。
「お化けテストか~。たしかにあんなでっかくなって見せつけられたら堪ったもんじゃないな?」
後に続いた雛子が、巨大な敵を見上げて一撃を加える。自分のテスト用紙を視界の隅に映して、晴汰が一瞬だけ目を伏せた。
地味に精神的ダメージは大きいが、ここで負けるわけにはいかない。
「気を引き締めていくよ……!」
己に喝を入れ、ウロボロスブレイドを横薙ぎに振るう。加速により威力を増した刃が、お化けテストを一直線に切り裂いた。
――現実ヲ直視セヨ……!
地の底から響くような声が、灼滅者の脳裏を揺さぶる。
お化けテストの精神攻撃から自身を庇った霊犬の『鯖味噌』に向けて、清十郎が声をかけた。
「おっしゃ、回復はこっちに任せろ。前線は任せるぜ!」
指先から浄化の霊力を放ち、より傷の深い仲間を優先して癒す。敵の数が8体と多い以上、特に序盤は全員の体力に気を配っていく必要があった。
「わざわざ気にしたってしょうがないよ、分かんないもんは分かんないんだから!」
「テストくらいでおびえちゃダメだよね!」
若干開き直り気味に言い切った新に、柚理が全力で頷く。彼女のナノナノ『もも』が、そんな相棒に気遣わしげな視線を向けていた。
柚理と呼吸を合わせ、紫電を宿した拳を繰り出す新。
「駆逐してやる!! この世から……、1枚残らず!!」
彼がどこかで聞いたような台詞を叫んだ時、萌絵がWOKシールドを展開して仲間の守りを固めた。
「滅せよ! テストのお化け軍団! ……でごにゃる!」
すかさず、アイティアが『Requiem』と名付けられた杖でお化けテストを殴り飛ばす。
爆発四散する敵をバックに、彼女はくるりと仲間達を振り返った。
「誰も点数見てないよね?」
にこにこにこ。うっかり『見た』などと言おうものなら、その場で消されそうな迫力である。
あまり必死にならない方が、自分の点数だとバレる危険は少ない気もするが……ここは突っ込まないでおこう。怖いし。
斬魔の刀を咥えた霊犬『刃』に攻撃を指示しつつ、ディアナが己の成績を写したお化けテストに狙いを定める。
「自分が点を逃して悔やんでる部分にまた向かい合うなんて……憂鬱」
数学のテスト用紙に記された点数は77点。平均を上回ってはいるのだし、客観的に見てそこまで悪い結果ではない筈なのだが――彼女にとっては充分にショックだった。
テスト前、彼氏と2人で勉強をして。これでバッチリと、万全の状態で受けたというのに。いざ蓋を開けてみたら、以前よりも点数が下がっていたのだから。
返却後、彼に結果を訊かれた時のことを思い出すたび、ディアナは申し訳なさのあまり泣きたくなる。
努力を裏切られた者のダメージは、そもそも努力をしない者に比べて大きいのが道理だ。
「……とりあえず燃すわ、綺麗に燃えてね?」
据わった目で『敵』を睨み、ガトリングガンのトリガーを絞るディアナ。
吐き出された弾丸が、巨大なテスト用紙を爆炎の渦に呑み込んだ。
●
灼滅者に『現実』を知らしめるべく、お化けテストの群れは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
雛子を庇って横っ面を引っぱたかれた新が、眼前のテスト用紙を見て思わず声を上げた。
「うわぁ……こんだけ点数取って苦手教科とか、うわぁ……」
彼がぼやくのも無理はない。そこには、『100点』の文字が燦然と輝いていたのだから。
ドヤ顔で調子づく雛子だが、彼女が英語を苦手としているのは間違いない。それは、過去の成績が証明している。
ただ――今回はヤマカンが恐ろしいまでに的中した。運も実力のうち、と言うべきか。
渾身のドヤ顔で螺穿の槍撃を繰り出す雛子に続き、ディアナが自分のテスト用紙に止めを刺す。
「これはあれね……テストを灼滅って言うか、自分のうっかりミスを灼滅(物理)って言うか」
少なくとも、この悔しさを覚えている限り同じ過ちは犯すまい。
メディックの要として仲間達を支える清十郎の支援を背に、灼滅者は1体ずつ確実に攻撃を集中していった。
「……これくらい気にしてないよ。過去に、もっとひどい点数を取ったこともあるしね」
算数の答案(48点)を前にして、柚理が自分に言い聞かせるように呟く。
「みんなが頭よすぎるから下の方にいるだけで……ほ、本当に気にしてないから!」
主張すればするほど、言葉とは裏腹に彼女の真意が透けて見えてしまう気がするが……そう言いたくなるのも人情というものだろう。
隣でハートを飛ばすももが心配そうに見詰める中、柚理は契約の指輪を自らのテストに向けた。
「動かなくなっちゃえ!」
呪いを帯びた魔法の弾丸が、お化けテストに制約を強いて行動を縛る。もともと楽な相手ではないとはいえ、実力以上に強敵と思えるのはどういうわけか。
現実を直視せよ、と連呼する声に耳を塞ぎつつ、アイティアが精神攻撃をすんでの所で避ける。異形の腕でテストを引き裂かんとする彼女の後方で、晴汰が深く溜息をついた。
「数学は前より上がってたし、他の教科は平均点取れてたから問題なかったのに……」
視線は、ターゲットから少しだけ離れた自分のテスト用紙に向けられている。『世界史/地理53点』――先のテストまでクラスの平均点以上をキープしていただけに、これはちょっと凹む結果だ。
「しっかりするんだ! ほ、ほら……その、なんだ? ……うん、がんばったじゃないか!」
豪快な投げ飛ばしで1体を仕留めた雛子が、微妙に言葉を濁しつつフォローを入れる。
刃が浄霊の瞳で晴汰のトラウマを消し去る中、ディアナが肩越しに声をかけた。
「大丈夫落ち着いて、もうテストは終わってるの……!」
その間も、影業を伸ばして敵の動きを封じることは忘れない。皆の盾として奔走する萌絵が、無邪気に声を響かせた。
「皆! テストは怖くないでごにゃるよ! 早く帰れてラッキーでごにゃる!」
……いや、その。決して間違ってはいないけど、うん。
一方、新は自分のテスト(英語筆記41点)を前にして『瞬迅闘気』を全身に漲らせる。
「確かに、僕は結果を出せなかったさ! ……でもね……」
心折られることなく、彼はかっと目を見開いた。
「……英語なんか分かんなくても、日本で暮らしていく分には全く問題ないんだよ!!」
鬼神の如き膂力をもって、忌まわしきテスト用紙を引き千切る。それから間もなく、雛子の英語答案(100点)も屠られた。
敵の数は、もはや半分を切っている。それでも、灼滅者に油断はない。
影業を大きく広げた晴汰が、先のトラウマごと喰らいつくすかのように己のテスト用紙を丸呑みにする。敵の攻撃を懸命に受け止める鯖味噌を見て、清十郎は頼もしき相棒に仲間の支援を託した。
「よし、鯖味噌。ここは任せた! 俺は一発ぶん殴ってくるぜ!」
向かったのは、彼の『現実』を写した答案(化学49点)。以前よりマシになっているとはいえ、いくら勉強しても思うように点が上がらないのはなかなかに辛い。
肉迫した清十郎が鋭い一撃を見舞った直後、柚理がお化けテストに組み付いた。
「こんな奴らに負けるわけにはいかないよ!」
巨体を難なく放り投げ、地面に叩きつけてこれを葬り去る。
後に残るは、萌絵が『強化ダンボールと特殊ダンボールの考察』をつらつらと書き綴った『国語8点』のテスト用紙のみ。ちなみに、さっき彼女が燃やしたのは『英語25点』の答案である。
あまりの熱意に、採点した先生も思わずほだされた(かもしれない)意欲作。
流石の萌絵も、これには攻撃し難いかと思いきや――。
「……ということはないでごにゃる」
遠慮も躊躇もなく、爆炎の弾丸を大量発射。
やがて全ての敵が消えた時、彼女は屈託なく笑って口を開いた。
「中間は学年2位で少しだけ悔しいでごにゃるな! 次はもっと頑張らないでごにゃる!」
もちろん、『後ろから数えて』であることは言うまでもない。にんにん。
●
静けさが戻った林で、灼滅者たちは大きく息を吐く。
「本当にいやな敵だったなあ……」
しみじみと呟く柚理の傍らでは、アイティアが耳を塞いだまま『現 実 な ん て 見 え な い』と無言の主張を続けていた。うん、気持ちは解らなくもない。
ただ1人、『英語100点』の雛子だけは得意げに胸を張っていたが、この戦いで勢いづいたメンバーより、心に傷を負ったメンバーの方が圧倒的に多かったのは事実である。
「さっさと帰って忘れることにしよう……」
先ほど破り捨てた偽のテスト用紙を拾い集めながら、肩を落とす柚理。重くなりがちな空気を吹き飛ばすように、新が言った。
「それじゃ、そこらへんに散らばってる過去の遺物も灼滅しちゃおうか」
春の地獄合宿でゴミ拾いマラソンが行われたように、武蔵坂学園は環境美化にも力を入れている。その一員として、林に不法投棄されたテストの山を放置するわけにはいかない。
拾ったゴミを件のダンボール箱に放り込みつつ、萌絵が言う。
「次からは古紙回収に出すでごにゃる」
どうやら、これまではゴミ箱に直行がお決まりのコースだったらしい。今回は仕方ないので、一度捨てたものをわざわざ回収してきたのだが。
「なんで破りたくなるんだろうね、コレ」
拾っても拾っても減らない紙ゴミの山を見て、清十郎がやれやれと肩を竦める。
テストの点数が悪かった時間が長かった分、気持ちは痛いほどに理解出来る。しかし、テスト用紙を破ったところで事実は消えないし、まして点数が良くなる筈もないのに。
「少なくとも、他人を誤魔化しても自分に誤魔化しちゃだめだよな」
他ならぬ自分の事なのだから、しっかりと受け止めなければ――そう正論を述べた後、雛子は若干バツが悪そうに付け加える。
「……まあ、勉強あんましてないわたしが言うのもアレだが」
やがて、一帯のゴミは全て灼滅者たちのゴミ袋(と、段ボール箱)に収まった。あとは、学園に戻ってこれを処分するだけだ。
「これで、依頼はほとんど完了ね」
ゴミ袋の口を固く縛るディアナの隣で、晴汰が箒を手にしたまま考え込む。
「うーん……『テスト用紙捨てるべからず!』みたいな看板立てたら、捨てる人いなくなったりしないかなぁ……」
願わくば、二度とテスト用紙が捨てられることがないように――。
そう祈りつつ、灼滅者はそっと林を後にした。
作者:宮橋輝 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年6月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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