(「なんなの、これ」)
眼前で繰り広げられる凄惨な殺戮を、芹香は呆然と見つめていた。
突如現れた鬼が。
まるで地の底で罪人を罰する獄卒のような怪物が、今、芹香の恋人を叩き潰している。
それは、つい先刻の事。
清々しい森の中を散策していた芹香達が偶然見つけたのは、神社らしき建物だった。
既に廃墟となって久しいようで、人の姿はなく。冒険心をそそられた二人は、森の緑に囲まれた趣のある境内をぐるりと見て回る事にした。
ふと気づいたら、目の前に牙と角を持つ青い肌をした巨体が立っていて。
一陣の風が通り過ぎた――と思った刹那、二人は足に深い裂傷を負って地面に転倒していた。これでは逃げる事ができないと気づいた瞬間、振り上げられた鬼の金棒が、彼を一撃。それから餅をつくように淡々と何度も何度も――。
「うう……」
異常な現実を受け容れられず、けれど錯乱する事さえできないまま、芹香はゆるゆると首を振る。
(「私達が一体何をしたっていうのよ……」)
粉砕されて原形を留めぬ赤黒い肉塊となった恋人をなおも執拗に叩き続けていた鬼は、その手を止めてギョロッとした瞳を芹香へと向けた。
「ああ……次は私の番なのね」
彼から贈られたお気に入りのペンダントをぎゅっと握り締めて、芹香は目を閉じる。
私は彼と散歩をしていただけなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう?
バサバサバサ……生い茂る木々の向こうで飛び立つ鴉の羽音――それが、芹香が現世で聞いた最後の物音となった。
●鬼退治
とある廃神社に、『鬼』が出現した。
「日本の昔話に登場するような、あの『オニ』だよ。ただし絵本の挿絵みたいに可愛らしいものじゃなくて、遊園地にあるお化け屋敷とかで残酷なスプラッタシーンを繰り広げているような、見た目も中身も怖いリアルな鬼なんだ……」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の口調がいつになく重苦しいのは、あまりにも陰惨な殺害現場を目の当たりにしてしまったからなのだろう。
「既に何組かの家族やカップルが犠牲になっているの。起こってしまった過去を変えることはできないけど、このまま鬼を放置しておいたら被害者がどんどん増えちゃうよ。みんなで行って、鬼を退治してきてくれるかな」
緑濃き森の奥にある件の廃神社へ足を踏み入れて、敷地内をしばらく歩き回っていると、生者の気配を嗅ぎつけた鬼一体と配下のゾンビ数体が、何もない空間から前触れもなく出現する。
「青い鬼が持っている武器は大きな金棒だよ。見た目の印象通りにとてつもない怪力を持っていて、積極的にガンガン攻めてくるから気をつけてね」
鬼は旋風を巻き起こして相手の体を切り裂く技も繰り出してくる。体力・攻撃力ともに高く、厄介にもダークネスに匹敵するような力を秘めているようだ。
「それから、取り巻きのゾンビは全部で6体だよ」
鬼に屠られた者のなかで比較的原形を留めていた老若男女の骸。不幸にもゾンビと化した彼等は、憎悪に突き動かされるように、毒まみれの爪を生者へ突き立てようとする。
ただし鬼に比べれば彼等の攻撃力は低いし、思考力もない。油断さえしなければ、ゾンビ達に遅れを取る事はまずないだろう。
「ゾンビは鬼の犠牲者だけど、こうなっちゃったらもう助けられる手段はないから、手加減は無用だよ」
まりんの言葉に、雫石・ノエル(高校生魔法使い・dn0111)は神妙に頷いた。
「……うん、判ってる。それに、動く死体として鬼にいつまでも従わされているのは、本人達にとっても不本意だろうし、ね」
せめて、彼等に安らかな眠りを。
やるせない空気を振り払うように、灼滅者達はすっくと立ち上がる。鬼退治へ出かける為に。
引き受けてくれてありがとう――まりんはぺこりと頭を下げて、教室を出て行く若者達の背を見送った。
「これ以上犠牲者を出さないように、必ず倒してきて。みんな、くれぐれもよろしくね」
参加者 | |
---|---|
藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892) |
夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512) |
物集・祇音(月露の依・d10161) |
結城・真白(月見里響の妖刀・d11282) |
相良・巧(研究者気取り・d11696) |
永峯・琉羽(ソライロ・d16556) |
羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283) |
卯花・深雪(狂兎・d18480) |
●明け方の森
強い風が通り過ぎ、森が不安げにざわめいた。
「こんな時間でも、もう明るいのね」
今にも雨が降り出しそうな空模様だと思いながら、卯花・深雪(狂兎・d18480)はそっと欠伸を噛み殺す。
(「……眠いし、朝は正直言って好きじゃないのよね。ま、そんなコト言ってられないんだけど」)
この季節にしては肌寒い早朝。人通りが少ないであろう時間帯を敢えて選んだ灼滅者達の予想通り、森の遊歩道には人っ子ひとり見当たらなかった。
「いかにも何か出そうな雰囲気だねぇ。あ、あれかな? 神社の入口」
夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)が指し示した細道の奥に、朱塗りの鳥居が見える。件の神社に間違いなさそうだ。
あそこに『鬼』がいる。
(「今回出現した鬼は、羅刹の眷属と考えていいんだよね」)
ただ、人を無差別に襲う存在を羅刹が野放しにするのは怪しいと相良・巧(研究者気取り・d11696)は思っていた。目的は何なのか。そこから闇堕ちでも狙っているのだろうか。
「とにかく、早いとこ終わらせよう。本業も兼ねて、神殿の建築構造や御神体の痕跡を調査したいしね」
「おっと、待った」
逸る気持ちを抑えきれず足早に鳥居をくぐろうとした巧をそっと引き止めたのは、物集・祇音(月露の依・d10161)だ。
「なるべく皆で一緒に行動しようぜ…どこから敵が襲ってくるか判らねえからな」
「ウォンッ」
彼の足元にぴたりと寄り添う霊犬の菊理が、主の言葉に応えるように一声吠えた。
「人払いも確実にしておきたいねぇ。ノエルくん、お願いできるかな」
千歳の指示にこくりと頷いた雫石・ノエル(高校生魔法使い・dn0111)が、身体から殺気を放つ。現場を補佐する為に同行した四月一日・いろはもまた、念には念を入れてとばかりに殺界形成を展開し、万が一敵が逃走した時の包囲網を敷く手伝いをすると申し出た。
「それじゃ、俺は道でも塞いでくるかな」
「私も神社周辺を見張っているわね」
煙上・銀助とナイン・ドンケルハイトが森の中へと消える。戦闘時にはサウンドシャッターを使用する予定もあるし、もはや人払いに関しては鉄壁といえた。ここまでしてもなお神社へ近づく者があるとすれば、それはもう一般人ではないと考えるべきだろう。
「準備は整ったか?」
感情が読み取れない冷徹な声で藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)が皆に問いかける。鳥居をくぐれば、そこはもう戦場――少しの油断が命取りとなる空間。
「…問題ない…真白はいつでも動ける」
淡々と答える結城・真白(月見里響の妖刀・d11282)に続き、全員が静かに頷いた。
「では、行こう」
●鬼退治
バサバサバサ――朽ちかけた鳥居をくぐると、大勢の気配に驚いた鴉が一斉に飛び立った。舞い散る黒い羽に迎えられた灼滅者達は、恐れる事なく廃神社の敷地へと足を踏み入れてゆく。
鬱蒼と生い茂る雑草に半ば埋もれた神殿が見える。人がいる様子はない。
「……? ……!」
ざっと見ただけでは特に目につくものはなかったが、注意深く目を凝らした永峯・琉羽(ソライロ・d16556)は気づいてしまう――ところどころに生き物の血や脂が飛び散った跡があるという事を。
(「ここで鬼が人を叩き潰したのかな……」)
そう考えてしまうと、境内に漂うじっとりとしたこの空気が犠牲者の怨念のようにも思えてきて、思わず身震いしてしまいそうになる。
(「臆するな、できる。そう信じよう」)
失われた命を取り戻す事はできない。今は任務を遂行する事だけに集中しようと、琉羽は強く頭を振って深呼吸をした。
「皆、離れるなよ」
祇音の言葉に頷き、いつ戦闘になっても動けるよう陣を整えて歩き出す一行。慎重に神殿の裏手へと回った羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)は、周囲の木々にざっと目を向けて、その根元に異様なものを発見する。
いくつかの赤黒い物体。
それが、鴉に啄まれ野良犬に食い荒らされた死者の残骸だと気づいた彼は、言いようのない怒りの感情に襲われた。
(「良いだろう、羅刹共――お前らが殺し続けるなら、僕もお前らを殺し続けてやる。どちらかが死ぬまで地獄絵図を続けてやろうじゃないか」)
と、その時。琉羽が息を呑んだ。
「……気をつけて、みんな。来たよ!」
不意打ちを警戒していた彼女の視線の先、何もない場所からズルリと音を立てて出現したのは、腐臭を放つ屍――ゾンビの群れ。鬼の姿はまだ、見えない。
「…目覚めろ…緋桜…黒桜」
真っ先に動いた真白のドス黒い殺気の渦が、ざあっと敵軍を覆い尽くした。一瞬怯んだゾンビに千歳の槍先が襲いかかる。
『ウォアァァ……アアア』
言葉にならない虚ろな声を上げながら接近し前衛陣に爪を突き立てようとしたゾンビへ、戦闘の補佐として同行した月居・巴の鬼神変、ルコ・アルカークによる爆炎弾が立て続けに降り注いだ。現場は瞬時に生者と死者が入り乱れた戦場となる。
「数が多くて面倒ね。鬼の犠牲者だからって容赦はしてあげないわよ」
蛇咬斬でゾンビ一体を仕留めた深雪は、純白の蛇腹剣をくるんとくねらせて不敵に微笑んだ。
「とっとと殺してあげる……といっても、元々死んでたね」
『ウゥーウアァー』
死体達は怨嗟の念に突き動かされているかのようだ。そんな彼等に切なげな目を向けて、祇音が囁くように言った。
「本当は、この場所に…嘆き争いはいらないんだ。なあ、アンタの居場所は此処じゃねえよ…還んな」
と。緩慢に蠢く屍群の後方から――青肌の巨体が、無骨な金棒で空間を切り裂きながら飛び出してきて。
ごうっ! 直後、青い鬼の放った旋風の如き刃が前衛を担う者の肌を裂いた。
「くっ!」
多人数を対象にしているのだから威力は減衰している筈だが、それでもこれだけのダメージを与えてくるのか、と苦痛に顔を歪める琉羽。
「データ収集及び殲滅を、開始する」
岩壁のような鬼に真っ向から突撃した徹也のシールドバッシュが、相手の鳩尾に食い込んだ。
「なんで『ここ』を選んだのかな? って、聞いても無駄だよね。『さあ、フィールドワークだよ』」
「アンタがやらかした非道のツケを…ここで、きっちり払って貰うぜ」
巧と祇音が間を置かず突進する。だが鬼は二人の挟撃を素早い動きでひらりとかわしてしまった。やはり強敵、一筋縄ではいかないようだ。
「抗えるものなら抗ってみな!」
なゆたが鬼の躯に石化の呪いを深々と刻み込む。
「ウォン!」
治癒の光で仲間を支援するノエルのもとへ駆け寄った菊理が、傷ついた主へ浄霊の瞳を向ける。更に、ノエルの手伝いをすると宣言した泉人・氷花が前へ躍り出て癒しのオーラで琉羽の体力を回復。音羽・結衣もまた小光輪の盾を駆使してディフェンダーを担う仲間の守りを強化した。
「ありがとう、助かるよ」
菊理と自分だけで果たして広い戦場の回復が追いつくのかと危惧していたノエルにとって、癒し手を買って出てくれた少女達の存在は非常に頼もしいものだった。
『ヴオォォォー!』
ズガン! 嵐のような雄叫びを上げた鬼の金棒強打。パワーショベルに横殴りにされたらこんな感じだろうかと冷静に分析しつつ、徹也が頭部を血塗れにしたまま反撃に転じる。
「おい藤谷、大丈夫なのか!」
「危ないと思ったら下がってね」
シールドを装備した拳で鬼を攻め立てながら叫ぶ祇音と巧に、徹也はあくまでも淡々と、無表情のまま答える。
「活動は可能だ。任務を続行する」
「長期戦になると、こちらに不利だな」
強烈な斧の一撃を鬼に叩き込みながらなゆたは思う。幸い回復陣は厚いが、受けた傷を完全に癒せる訳ではない。鬼の攻撃を何度も食らっていてはいずれ限界が来てしまうだろう。
「…そうなる前に…潰す。…参学円之太刀…一刀両段」
無敵の一閃。真白の妖刀【黒桜】によって横薙ぎにされたゾンビ達へ飛び掛かった千歳のフォースブレイクが、動く屍の身体を砕き四散させた。
『オオ……オ』
頭部が大きく陥没したおぞましい死体達は、仲間が倒されても頓着せず毒の爪を手当たり次第にザクザクと突き立ててくる。浄化をもたらす風を全身に感じながらゾンビに肉迫した琉羽の刃が、腐った肉体をズタズタに切り裂いた。
(「ごめん、ね! もう休んでて」)
彼等は死後もなお鬼の配下として操られている――そう思うと琉羽はたまらなくなる。だが、情けをかけてやれる余裕などない。
「痛たた。やってくれるじゃない……でも、おかげで目が覚めたわ」
毒爪に裂かれた傷の痛みをものともせず、深雪が『虚戯』を高速回転させて敵群を切り刻んだ。無秩序に暴れ悶え苦しむ屍達に追い討ちをかけるべく放たれた真白の森羅万象断が、更に一体のゾンビをこの世から消滅させる。
「今……眠らせてあげるよ」
燃えさかる炎の一撃で屍を屠った千歳は、青鬼へと目を向けた。敵の怒りを誘い、攻撃を引きつけておくディフェンダーチームの作戦は上手くいっているようだ。徹也や祇音、巧と激しい攻防を繰り広げている鬼に、なゆたの魔法弾が炸裂。苛烈な殴打を繰り出す鬼の動きは、次第に鈍くなってきている。
『オオオオオッ!』
全身を砕かれるかのような金棒攻撃が巧に襲いかかった。
「ぐっ!」
たまらず膝を突きかけた彼に、すぐさま複数のヒールサイキックが向けられる。ゾンビが全滅するまでは鬼をうまく誘導しておかねばならない。仲間の盾となるべく、徹也は積極的に巨体の死角へ飛び込んでゆく。
「さすがに、しぶといな…ま、予想通りではあるけどな」
解体ナイフを振りかざす祇音の斬撃に身を捩った鬼の体を、巧の足元から伸びた漆黒の影が覆い尽くした。
「少しは大人しくしてくれないかな」
鬼を襲うトラウマとは一体どのような姿をしているのだろうかと愚にも付かない事を考えながら、巧は敵の挑発を続行する。
「…示現流…重切。…消えろ」
艦船をも断ち切る真白の鉄塊剣が、腕を振り回しながら突っ込んできたゾンビを粉砕した。
「あと一体!」
攻撃の矛先を変えたなゆたが、最後に残った屍へ躍りかかる。その胸元に光るペンダントに気づいた彼は動きを止めたが、それも一瞬。龍砕斧を握る手に力を込めて振り下ろしたなゆたに続き、千歳の斬撃がゾンビの急所を鮮やかに断つ。
『オアアアッ!』
瀕死のゾンビが一矢報いようと琉羽に抱きついて、その背に薄汚れた爪を突き立てた。
「くっ……これぐらいの傷で退いたりなんかしないよ」
琉羽の指輪から射出された魔法弾がよろめくゾンビの胸元を貫き、その体を虚空へと消し去る。
「アンタ達には恨みも何にもないけど、悪いわね。でも、あの鬼はちゃんと殺してきてあげるから」
全滅した屍達の魂を慰めるようにそう言ってから、深雪は暴れ続ける青鬼へウロボロスの刃を突き立てた。
「覚悟なさい」
『ヴオオォオーーーーー!』
愚かにも抵抗し続ける『獲物』を大人しくさせようとでも思ったのか、青鬼は再び風を呼んで複数の灼滅者を切り裂いた。しかしその傷は、結衣の巻き起こした清めの風と、戦場を駆け巡る菊理とノエルによって瞬く間に癒されてゆく。
「みんなお待たせ! 状況はどう? よし、悪夢を終わらせようか」
命を弄ぶ者は許せない。明るめの口調とは裏腹に怒りに燃える瞳を鬼へ向けた千歳が、徹也と動きを合わせて黒死斬を繰り出した。
「犠牲者が味わわされた恐怖…アンタも少しは味わうといいぜ」
祇音によって生み出された渦巻く風刃に刻まれた鬼へ向けられるのは、巧の繰り出す斬影刃。更に複数の戦力による補佐もあり、戦況は明らかに灼滅者側が優勢となっている。
「殺してやるよ、鬼! 僕がお前にとっての地獄だ!」
ここで殺された者が感じた苦痛と絶望を倍にして返してやる――巨大化させた異形の腕を振りかざしたなゆたが、渾身の力で鬼を殴打する。
「…馬庭念流…岩切」
上段の構えから振り下ろされた真白の強撃が鬼の金棒を両断した。
「…ここが…年貢の納め時だ」
「もう、これ以上の被害は出させない。地獄に、帰って貰うよ」
岩石のような鬼の腕をアクロバティックに避けた琉羽のジグザグスラッシュが、青い皮膚をずぶりと抉る。疾風の如き素早さで敵の死角に飛び込んだ深雪の刃が、強かに鬼を攻め立てた。
「昔話だと、鬼って必ず退治されるよね。そろそろ終わらせてあげるから、鬼なら鬼らしくさっさと地獄に戻るといいわ」
「何の罪もない人を理不尽に手にかけるような輩は、灼熱の地獄がお似合いだよ」
焔を纏った千歳の一撃によって大きくよろけた鬼は、四方八方から降り注ぐ灼滅者達の猛攻撃を全身に浴びて――激しく立ち上る炎の中で、燃え尽きるようにして消滅した。
●おくりびと
「…何とか…片付いたか」
息をつき、音もなく武器を収める真白。
「気を抜くのはまだ早いかも知れない」
眷属を操る存在がいないかと、徹也が周囲へ警戒の目を向ける。ほどなく森の周囲を見張っていた仲間達が戻ってきて、とりたてて怪しい出来事はなかったと皆に告げた。
悪鬼は退治され、ようやく神社に静寂が戻ったのだ。
「さて、と……犠牲者を埋葬してあげないとね。こんなとこで悪いけど……」
眷属になってしまった死者はゾンビとして消えた。境内に遺されているのは、かつては人だったものの残骸に過ぎないが、そのまま放置して去るにはあまりにも忍びない。せめて安らかに――千歳の言葉に徹也も同意する。
「戦闘の痕跡も片付けよう……神聖な場所には、不要な情報だ」
「……」
戦いの最中にゾンビの体から落ちたペンダントをそっと拾い上げたなゆたが、黙って彼等の後を追う。
「後始末が済んだら、一通りここを調べてみるよ。まぁ、何も出なさそうだけど」
肩をすくめて神殿を見上げる巧の後ろで、深雪はふぁぁと小さな欠伸をした。
(「鬼もゾンビもお休みなさい。私も眠いから、早く帰って寝よっかな」)
その時、鈍色の空がぱらぱらと水滴を落としてきた。
「雨、だ」
琉羽は思う。この雨が、犠牲者の魂を少しでも浄化してくれると良いのだけれど、と。
「廃神社だって…神様ってのは…いるもんだぜ」
寄り添う菊理の首元を労うように優しく撫でた祇音が、すっと立ち上がり静かに龍笛を吹き始める。
救えなかった命と、かつて祀られていたであろう神へおくる魂鎮めの音色が、雨に煙る神社を切なげに包み込んでいった。
かに龍笛を吹き始める。
救えなかった命と、かつて祀られていたであろう神へおくる魂鎮めの音色が、雨に煙る神社を切なげに包み込んでいった。
作者:南七実 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年7月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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