仮像者の検証～真性ショッパホリック

■リプレイ

●買い物依存症
「イイ選びっぷりねーお姉さん」
　既にショップバッグを幾つも提げつつ洋服を品定めしていたユカは、そんな高柳・綾沙（泡望落月・d04281）の声に一瞬驚くも。
「……すごい量、ね。こんなに買うのね。荷物を持ったままだと、重いのでは？」
　怪力無双でひょいっと荷物を持つライラ・ドットハック（蒼の閃光・d04068）に、慌てて礼を言う。
　さらにユカへ笑みかけるのは、神泉・希紗（理想を胸に秘めし者・d02012）。
「希紗に似合いそうな夏服のアドバイスもしてもらいたいな。ユカちゃん、ファッションに詳しそうだし、一緒にお買い物したら楽しそうだと思ったんだよ！」
　ユカはそんな希紗の洋服を選んであげては、楽し気に微笑んで。
　また別の洋服へと手を伸ばした、その時だった。
「アタシもヤなコトとかあると色々買いたくなっちゃうのよね。お姉さんもなんかヤなコトあったの？」
「……ヤなこと、か」
「綺麗なお姉さん♪　気分が悪そうだけど、どうかしたの？」
　ぴょこりと、まるで道化の如くおどけ、子供らしく笑みながらそう続く、有栖川・へる（歪みの国のアリス・d02923）。
　そして少し憂鬱そうなユカを見つめ、板尾・宗汰（蛇竜幼体・d00195）は思う。
（「依存症のそもそもの原因は、現実世界で不満を言う相手がいなかったんじゃねェかな」）
　ならば――自分達に出来る事は。
「一人で抱え込まなくていいじゃない！　色んなお喋りしようよ！」
「ボクもユカさんのお話を聞く！」
　ユカの愚痴を、聞いてあげる事。
　希紗や十津金・旭（桜火転身トツカナー零五・d06921）に促されたユカは、少し戸惑うが。
　余程鬱憤が溜まっていたのか、会社の愚痴を灼滅者達に延々話し始める。
　そんなユカに、うんうんと頷いてあげながらも。
（「相手が居たら、一人じゃ無理な事でも乗り越えられると思うんだよ」）
（「ボクはお話を通してユカさんに自分自身を見つめてほしいな」）
　希紗や旭は改めて思う。彼女の力になりたい――と。
　そして犬神・沙夜（ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889）は周囲への警戒を怠らない。
　何せ此処は、シャドウ・パンタソスが操る夢の中だから。
　その間、ユカの愚痴は母親の事に及ぶ。
「また同じようなの買って……って、うるさいの」
「お母さん心配したのカモ、だね。でもそんな言い方されたらボクでも怒っちゃう！」
　決して自分を否定せず、頷いてくれる旭に。
「そうだよね！」
　ユカは笑みつつも、こう続けるのだった。
「でも今の私には、魔法のカードがあるの！」
　そして取り出されたのは、七色に輝くクレジットカード。
　宗汰は、うっとりカードを見るユカのその姿を瞳に映して。
（「コルネの説く慈愛は麻薬と一緒だ」）
　コルネリウスの性質の悪さを、改めて実感する。
　現実の辛さからそんな麻薬に溺れ死んでいくのを、見逃す訳にはいかないし。心囚われた人を解放したい。
　その為には、夢に逃げる理由を探り解いていくしかないのだ……今は。
　そして宗汰はユカに、ある提案をしてみる。
「ストレス発散のオススメは……そうだな。キックボードで滑走大会でもやろうや」
　別の発散方法を、見つける事を。
「アタシあれ乗ったことないんだケド、真っ直ぐな道とか超楽しそうよねー」
　綾沙も宗汰の誘いに乗り、ユカの手を引いて。
　スポーツ用品店で、キックボード滑走大会の開始！
「わ、難しい！」
　運動が苦手なユカは苦戦しているも。皆でキックボードをする事を、楽しんでいるようだ。
　……だが。
「キックボードって面白いんだね！　あ、そうだ！　どうせなら、やっぱり良い道具が必要よねっ」
　おもむろに『魔法のカード』を手にしたユカの、買い物依存症の症状が露呈する。
「みんなの分も買ってあげるね、そーれ！！」
「え、ええっ！？」
　ドサドサッと急に目の前に出現したのは、大量のキックボード。
　ユカ自身が無知な為か、そのデザインや構造はいい加減である。　
　そして上機嫌にそれを皆へ配るユカに唖然とする灼滅者であったが。
　彼女にふと訊ねたのは、旭。
「ユカさんは、現状を変えたい？　変えたいなら、そのためにはどうすればいいと思う？」
「え？」
「……買い物依存症だと診断されたわたしの友人は、それを病気と認識し、カウンセラーにしっかり相談して克服したの。嵌りすぎると恐ろしい病気なの、よ？」
「私が買い物依存症？　このカードあるからもう無駄遣いしてないし、ローンの返済もあと少しで終わりなのよ？」
　続いたライラの言葉に、驚くユカ。
　そして今迄の彼女の言動を踏まえて。
「金は天下の回り物と言うだろ、いくらでも買い物が出来るなんて事はありはしないぜ」
　平・等（眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650）は確りと、現実を告げる。
「欲しいモノがある、だから頑張って働くんじゃないか。対価を得る過程をすっ飛ばす事なんて、誰にも出来ないんだぜ？」
　だが、等に反論するユカ。
「私は、ちゃんと頑張って働いているわよ！」
　ストレスを感じつつも現実で懸命に働く自分は、この夢の対価を得る資格があると言いたいようだ。
「そっか。お買い物って、お姉さん自身へのご褒美って事カナ？」
　旭は声を荒げたユカにフォローするも。
「貧乏人も、金持ちだって例外じゃない。責任を積み上げて対価を得るんだ。それが分かっていないから、お母さんが心配するんじゃないか」
　オレには羨ましいぜ、その心配、と。母親の事を持ち出し、正論をぶつける等。
　さらに続くのは、へると沙夜。
「買うだけ買って使わない物の山……見ていて空しくない？」
「このままだと、いずれ現実に興味を失くす人になる」
「夢を終わらせるのは辛いと思うけど、お姉さんは一人じゃないよ」
　今度は一緒に現実で買い物に行こう、と。希紗が手を差し伸べるも。
「以前の私ならだけど……今の私が、買い物依存症ですって？　折角、みんなのキックボードも買ってあげたのに！！」
　灼滅者達が彼女に訴えた事は、確かに正論で的を得ている。
　ただ……それをユカが受け入れる事は、紡いだ言の葉では、できなかったようだ。
「すごく楽しかったのに……もう、知らない！！」
　そしてユカが叫んだ――その時。
「！」
　灼滅者達の表情が、一瞬にして変わった。
　灼滅者達の前に、キックボードプレイヤー風なスポーツ店の店員２体が現われたからだ。

●仮像者の魔法
　キックボードを操り、アクロバティックな斬撃を見舞ってくるキックボードプレイヤー店員達。
　だが、ユカに買い物をさせなかった為、敵の数は最少に抑えられていて。
　個体の戦闘能力が高くない彼らは、灼滅者達の猛攻を浴び、大きく身体を揺らしていた。
「おい煎兵衛、しっかり働いたらおやつをたっぷり食わせてやる。がんばりな！」
　魔力を帯びた強烈な打撃を主人の等が繰り出すと同時に、仲間へと頑張って回復を施す煎兵衛。
　沙夜の盾の一撃が敵に見舞われたのに続いて、相手に負けぬトリッキーな動きをみせ、フェイクの影業を駆使し拳で容赦なく殴りつける綾沙。
　そして旭の龍の骨をも叩き斬る衝撃で、相手が体勢を崩した隙を見逃さずに。蒼き魔力の輝きを宿したマテリアル光る、プリトウェンからのライラの強打が、まず１体、敵に止めを刺した。
　さらにもう1体も既に足元が覚束ず、その機動力を生かせずに。小柄な希紗から繰り出された豪快な戦艦斬りをモロにくらい、へるの死角から見舞われた鋭撃によって防具ごと引き裂かれて。
　そんな敵へと引導を渡す一撃を放ったのは、宗汰。
　撃ち出された漆黒の弾丸によって蝕まれた敵のその身体は。
　地にどさりと崩れ落ち、消滅するのだった。
　――その時。
「おや……この夢の魔法は、もう解けちゃうようだね」
「……！」
　その声に、一斉に振り返る灼滅者達。
　いつの間に現われたのか――そこには、派手な装いの紳士・パンタソスの姿が。
「有力な方がいらっしゃるとの事で、是非お会いしたいと。ご無礼を承知で伺った次第です」
　現われたパンタソスへと淑女的に振舞いつつも。
　沙夜は彼に驚いた様子がないのを見て、自分達の介入を想定していたと察して。
「ボク達はキミ達の事、断片的にしか知らない。魂の幸せってのも含めて。だからボクはキミ達の事を知るため、ちゃんとお話がしたい！　つまり……キミ達にお茶会を申し込む！　……ダメ、カナ？」
　そう申し出た旭に、逆にパンタソスはこう問う。
「ところで……この夢は、悪夢だったのかな？」
　そんな意外な言葉に、灼滅者達は一瞬きょとんとするも。
「ボク達はダークネスのせいで不幸になる人が出る事を見過ごせない。今はよくても夢の供給が止まれば、ユカさんは今まで以上の買い物依存になって不幸になるって、そう感じて介入したんだ」
　旭は、間違いなく悪夢であるこの夢に、何故自分達が赴いたかを告げて。
「ユカをこの先どうしたかったのか聞きたいね。いくら幸せであろとも夢は夢。思惑あっての事だろう？」
　パンタソスを見遣り、等もそう投げかければ。
「幸せを求める事とは貴方達が人に与えた業？　貴方達の行動の先に人はどうなる？　私達の魂の奥底に居る者……貴方達は全てのダークネスに幸せを与えるつもり？」
「わざわざ現実で破滅させるような夢を見せた理由を聞きたい」
「夢を改良し続けてるのは何が狙いなの？」
　等に続いて次々と口を開く、沙夜や綾沙や希紗。
　だがそんな質問にも、パンタソスはさらりと答える。
「思惑も何も破滅どころか、この夢を見る事で、ユカは現実で無駄遣いをする事が無くなったんだよ？　ローン返済もあと少しで終わりで、会社での評判も良くなってるみたいだしね」
　どうして、夢の中にずっと囚われている事でも無く、現実世界に良い影響しか無いのに。
　頑なに灼滅者達は、『幸福な悪夢』を拒むのか。
「まぁ、それらは夢の中でユカが言っていた事なんだけど。その話をしている時の彼女は、とても嬉しそうだったけどなぁ」
　理解できないという様に、上品に首を傾げる紳士。
　そんなシャドウに、今度は灼滅者が尋ねる。
「……シャドウは絶望を与えるものだと思ったけど、彼女は幸福を与えている。彼女はどこか変わっている。何か特別なの？」
　……もしかしてシャドウ達にとって特別な存在、なの？　と。そう言ったライラに続いて。
「コルネが配下に与えるエナジーの源について知りたい」
「実験は多くの人間を夢に囚える為じゃないの？　人間を支配して操るつもりとか？」
　宗汰と希紗の言葉に、更に首を傾けるパンタソス。
　そして、へるは。
「植物に水をやり過ぎれば根腐れする。人はお菓子だけでは生きていけないんだよ？」
　そんな皮肉を。
（「『魂の幸せ』って心の幸せって事？」）
　彼らが介入するのは、主に夢の中。だから精神的なものに拘って、現実での不幸を理解せず軽視するのカモ……などと、思ってみる旭。
　さらに、宗汰が続く。
「望みが叶えられる事が幸せなのか？　願いは叶えられなくても、気持ちが満たされる事が幸せなのか？　この二つは違うんだという事をコルネは判っていない」
　だが……その反面。
（「そしておそらく、オレら人間も。だから皆、コルネの罠に嵌っちまうんだろう」）
　夢に溺れるユカの言動を思い返し、宗汰は人間の弱さを痛感する。
　でも――『幸福な悪夢』は人間にとって、やはり悪夢でしかないのだ。
　そんな灼滅者達を見回して。
「ふむ……？　それは、ただの屁理屈ではなさそうだね。まるで、未来を見て来たみたいだ……」
　パンタソスはそうぽつりと呟いた後。気を取り直し、続ける。
「私達ダークネスにとっては、人間の寿命なんて短すぎるものだからね。望むのならば、ユカには一生、夢を見続けさせる事も可能なんだよ？」
　それに即座に反論するのは、ライラ。
「……夢は所詮夢でしかない。そこに依存して現実に影響を与えるのは危険すぎる。……なのでわたしはどんな夢だろうと、断固として立ち向かっていく」
　へるや希紗や等もライラに続き、はっきりと、パンタソスに告げる。
「幸福中毒になった人は、ヒトとして壊れてしまう。人間はね、それを幸福と呼ばず破滅と言うんだ。ボクは破滅するヒトを見過ごすことができない」
「人は夢の中だけで生きていけない、一人で生きてちゃいけないと思うから。だからわたしは彼女の『慈愛』を否定するよ！」
「悪夢を壊さないという選択肢はオレにはないぜ。ダークネスへの利敵行為にあたるだろうからな」
　『幸福な悪夢』は人間の為に決してならないし。
　心を閉ざしていない限り、対象の人間の自立する力を信じたい。
　だから。
（「アンタたちが夢で人間を惑わすなら、私は何度だって現実が美しいかを示してやる」）
　ぐっと湧き上がる感情を抑えながらも、仲間達の言葉に、綾沙も強く頷いて。
（「彼らの慈愛、それは魂に眠るダークネスに向けられているのか？　いつか私達がダークネスになるとしても、それでも悪夢への介入を行う」）
　最後まで手を伸ばし、その手が届かない時の覚悟もしている、と。沙夜もパンタソスを見据えた。
　それは――半端者の灼滅者なりの、意地だ。
　そしてそんな灼滅者達の言葉を、全て聞き終えたパンタソスは。
「良い夢をみせてあげる魔法を、そこまで拒む理由を。『次』はもう少し、詳しく調べさせてもらうことにするね。では、失礼」
　上品な仕草で、派手なシルクハットへ手を添える。
　そんな彼にすかさず声をかけたのは、へるとライラだった。
「ボク達は互いのことを知らなさ過ぎる。次は女王陛下もお茶会に呼んで欲しいな。もちろん、首をはねるのはナシでね」
「……最後に一つ。あなた達は人間をどう思っているの？」
「お茶会を楽しみたいのは山々なんだけど。慈愛のお姫様の頼まれ事を、まずはしなくちゃいけないからね。そして私達シャドウへと抱く感情は同じ灼滅者でも、ひとりひとり違うだろう？　それと、同じじゃないかな」
　そう二人に、にこりと微笑みを返してから。
　パンタソスはぺこりと礼儀正しく一礼すると、ソウルボードから姿を消したのだった。

●今はただ、願う
　現実世界へと戻った灼滅者達は、まだ眠っているユカをそっと見つめる。
　彼女を説得する事は難しく、今回は叶わなかったが。
　だが……伝えたい事は、伝えた。
　あとはもう、ユカが自分達の言葉をいつか思い出してくれて。
　買い物依存症を克服し、立ち直る事を――ただ、祈るばかりしかできない。
　そして『次』のパンタソスの目論みも、コルネリウスの『幸福な悪夢』も……また何度でも壊してみせると。
　灼滅者達はそう、心に誓うのだった。

作者：志稲愛海	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年7月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 25／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 4
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