危険な駅前メイド服

    作者:陵かなめ

     金糸梅・花絵は、大きく一つ伸びをした。
    「ふぁ……あ。今日は何着よう? 電車通勤は辛いわ」
     ぶつぶつと文句を言いながら、ワードローブをチェックする。彼女はごく一般的な事務員だ。電車通勤のため、毎日服装には気を使っている。
     満員電車に揉まれることを想定し、きれい目かつ動きやすい服でなければならないのだ。
     ところが、花絵が手にしたのはひらひらとした衣装だった。
    「ええと、あれ? こんな服持ってたっけ?」
     上品な黒のロングスカートワンピース。可愛いランタン・スリーブに、胸元には大きなリボンがあしらわれている。その上に、裾にフリルのついたエプロンが取り付けられていた。
     それは見るからにメイド服なわけで、絶対に通勤服には向かないと思う。
     けれど。
    「ああ、これ、これを着たい……!」
     何故だか、とてもこのメイド服を身に着けたい。
     花絵はまるで熱に浮かされたように頬を染め、いそいそとメイド服に着替えた。
     
    ●依頼
     教室に現れた須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が神妙な顔つきで話し始めた。
    「不思議な服を着てしまった人が、強化一般人となって事件を起こしてしまうんだよ」
     これが、本当に不思議な服でねぇ、と。まりんが遠くを見ながら事件の説明をする。
    「金糸梅・花絵さんという会社勤めの事務員さんが、ある日、通勤・通学服をメイド服にすればイイって主張し始めるんだ」
     自らメイド服を見につけ、電車の乗客にもメイド服を強要するのだ。
    「花絵さんのパフォーマンスは凄く人を引き付けるんだ。結果、メイド服こそ正義だと言う集団ができちゃってねぇ」
     勿論、拒否する人もいる。
     するとメイド服の集団が、拒否した人を血祭りにあげてしまうのだと。
    「まぁ、メイド服を着て集団に混じれば、すぐに受け入れてくれるよ。そしたら、有利に戦えると思うんだ」
     男子も女子も小学生から高校生まで、皆メイド服になると良いかもね、と。
     まりんは張り付いたような笑顔で、教室に集まった一同を見た。
    「メイド服集団は、朝から駅の改札近くで集会をしているよ」
     不思議なメイド服を身につけた花絵を中心に、配下となった強化一般人が8名参加している。
     花絵はサウンドソルジャー相当のサイキックを使い、配下の強化一般人は、それぞれ殴る蹴るなどの攻撃を仕掛けてくるだろう。
     強化一般人の攻撃は弱く、灼滅者の敵ではない。だが、数が少し多いのが気になる。集団に襲いかかって真っ向から戦うよりも、集団に溶け込んで不意打ちを食らわすほうが有利になるはずだ。
    「通勤や通学の時間だから、その他の乗客も結構居るの。一般人を戦場から遠ざけたほうがいいかも」
     人払いが出来るのならば、戦うには充分な場所だと言う。
    「じゃあ、皆がんばってね。集団のリーマンメイド服に負けない、メイド服を期待してるよ」
     油断しなければ、戦闘は大丈夫だとは思うが、それでも注意は怠りなきよう。
     まりんは終始微妙な笑顔のまま、話を終えた。


    参加者
    露木・菖蒲(戦うメイドさん・d00439)
    織神・かごめ(籠に咲く彼岸花・d02423)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    久世・瑛(晶瑕・d06391)
    湾河・猫子(気紛れ屋の模倣犯・d08215)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    天道・奈落(堕落論・d16818)
    イリヤ・ナジェイン(青の鍵・d17600)

    ■リプレイ

    ●集団の中で
     通勤客で混雑している改札口の手前で集団が集会を開いていた。
    「メイド服こそ至高!! これこそ我らの主張なのです」
     メイド服を着こなした花絵が演説を始める。
    「「「「そうだ、そうだ」」」」
     男子学生達から声が上がった。
    「「「「メイド服、バンザイ!!」」」」
     メイド服を賛辞する声は止まない。集団には片手にビジネスバッグを持っているサラリーマンの姿もあった。
     目を引くのは、この集団、皆メイド服という点だ。
     男子学生がフリル満載のメイド服というだけでも厳しいけれど、サラリーマンが繊細なレースをあしらったメイド服を着込んでいる様は、もはや地獄である。
     そんな暑苦しい集団の中で、死んだような遠い目をしながらメイド服姿で拳を上げているのは織神・かごめ(籠に咲く彼岸花・d02423)だ。
    「メイド服イェー」
     周囲の声に合わせ、掛け声(棒読み)を上げる。
     右にメイド服のサラリーマン。左にメイド服の男子学生。
    (作戦とは言え、これは恥ずかしいなぁ……)
     一般の通勤客は、メイド服集団を見ると足早に去っていく。その見るからにアレな集団の中に、自分がいるのだ。
    「というかこの集団、男の人ばっかというか、なんというか」
     何というか、とにかくアレなのだ。
     集団の中には、他にも仲間が紛れている。
    「メイド服バンザイなのですよっ」
     ふりふりとフリルを可愛らしくなびかせ、露木・菖蒲(戦うメイドさん・d00439)が声を上げた。
     暑苦しいサラリーマンメイドに囲まれていると、菖蒲の可愛さが際立つ。丁度隣の男と目が合った。男はへらりと目尻を下げ笑う。男の子でも大丈夫。その魅力にサラリーマンも釘付けだ。
     隙無し。菖蒲メイドに隙無し。
     淫魔は何を考えてこの眷属を作ったのだろう。それが分かったら人としてダメな気がするので、気にしないでおこうと菖蒲は思った。
     その隣では、メイド服賛辞を真似て湾河・猫子(気紛れ屋の模倣犯・d08215)が声を上げていた。
    「メイド服こそ素晴らしい!」
     野太い男の声。
    「メイド服こそ素晴らしい!」
     続いて猫子が声を上げる。
    「君、良い声出しだね? 思いが伝わっていいよ!!」
    「は、はい。メイド服は、素敵……ですね」
     リーマンメイドが、にこやかに微笑んだ。演説に心打たれた一般人を装ったかいがあったというものだ。メイド服は恥ずかしいけれども、こうなればそれを吹っ切って演じるだけだ。
    「さあ、メイド服にはカチューシャだよ?」
    「……」
     手渡されたカチューシャを仕方なしに帽子の上に乗せ、猫子はメイド服賛歌の声を上げ続けた。
     その様子を、姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が微笑んで見ていた。セカイはメイド服を和服風にアレンジして着ている。
     カチューシャの代わりとして頭に飾っているかんざしに思わず手をやった。着物風に前合わせになったメイド服は、落ち着いた雰囲気ながらも、可憐だ。
    「皆さん、メイド服が本当にお好きなのですね」
    「「「もちろんです!!」」」
     何気なく呟いたセカイの言葉を聞き、男子学生が声を合わせて頷きあった。
    「素晴らしいです。こんなにも沢山の賛同者がいてくれる!! ああ、メイド服サイコー」
     うっとりとして熱を帯びた花絵の声。
     可愛くリボンをあしらったメイド服なのに、花絵の仕草が妙に色っぽいせいか妖艶な雰囲気を醸し出す。
    「「「「ああああ、メイド服様!! 花絵様!!」」」」
     集団のボルテージが一気に上昇した。

    ●集団の外から
    「……つーか、なんでメイド服が空飛ぶんだよ。意味わかんねーし」
     いかがわしいメイド服集団を眺めながらイリヤ・ナジェイン(青の鍵・d17600)がぼやいた。日本のサブカルチャーもそこまで進化したか。……いや、それは、ないわ。淫魔が何を考えているのかイマイチ理解しかねる。
    「いろんな眷属がいるものですねえ……メイド服……ですか」
     久世・瑛(晶瑕・d06391)もまた、戸惑いを隠せない様子だ。
     ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)と天道・奈落(堕落論・d16818)も、外からメイド服集団を見ていた。
     頃合いを見計らい、動き始める。
    「興味があるので、詳しく話を聞かせて頂けませんか?」
     奈落が真摯な態度で花絵に接近した。
    「まあ、話を聞いてくれるんですね? 嬉しい。私達は、メイド服こそ最高だと思っています」
     花絵は胸に手を当て、瞳を潤ませながらメイド服の説明を続ける。
    「可憐な造形、落ち着いた色合い。このフリルを見て。タップリと惜しげも無く生地を使い、十分ギャザーが寄るように縫われています。袖の部分も、襟ぐりも、どこを見ても完璧な縫製。これほど手の込んだ服装なのに、人様に奉仕するメイド用なんですよ」
    「ははぁ」
     正直、メイド服の細やかな縫製など気にしていなかった。
    (「ふむふむ、なかなかどうして奥が深い……」)
     花絵の力強い語りもあって、段々興味が湧いてくる奈落であった。
    「メイド服最高ですね、目覚めました!」
     ミカは怪しまれず近づくため適当にサラリーマンメイドに声をかけてみた。
    「少年よ。萌えるか、好きか。今はその感情だけでいい。大切にしなさい。そしていつか、我々のようにメイド服を着用する気持ちに昇華される日が来る」
    「……」
     何となく言葉を失う。と言うか、引いた。それ以前に、ミカは特にメイド服萌えとかない。だが、サラリーマンメイドは、ミカの目の前で、どうだ俺今いいこと言った!! と言うような得意げな顔をしていた。
    (「マジ、意味わかんねーし」)
     そのやり取りを横で見て、イリヤが心の中で冷ややかに呟いた。
     やはり、着るか着ないかで情熱の度合いを測っているのだろうか。
     瑛は勇気を振り絞り、集団に近づいた。
    「素敵なメイド服ですね……、よ、よかったら俺も、き……着させて、もらえません、か?」
     精一杯の声掛けだった。
    「なんだと?! 良い心がけだ。メイド服を着たいか。良し、私のメイド服を貸そう。なぁに、心配はいらない。私は今日はカチューシャを付けて集会に参加するよ」
     そう言うと、ミカと話していたのとは別のサラリーマンが、メイド服を脱ごうとした。
    「……、いや、あの」
    「ああ、ちょっと背中のファスナーを下ろしてくれんかね?」
     彼は100%善意から、瑛に着ていたメイド服を譲ろうというのだ。しかし。
    「そこだそこ。ずずいと頼むよ? 見目麗しい若者がメイド服を着る。素晴らしいことじゃないか」
    「……」
     大変申し訳無いが、正直、無理だった。迫り来る脂ぎった笑顔も、おっさんのメイド服というビジュアルも、メイド服を勧められている自分も、無理だったのだ。
     瑛から、鋭い殺気が放たれた。
     駅の改札口前は通勤客であふれていたのだが、潮が引けたように人がいなくなる。
    「着たいわけないでしょそんな服! 俺の趣味じゃないし!」
     冷ややかな声で、瑛がメイド服を拒絶した。
    「な、なんだと?! まさか、ミニスカメイド服が良かったというのかー!!」
     驚愕するサラリーマンメイド。
    「そういう問題じゃないっての!!」
     思わず突っ込みながらイリヤが光線を発射した。
     ともあれ、これを合図に戦闘が始まった。

    ●メイド服賛歌
     メイド服集団の内側から、堅い糸が伸びる。
    「メイド服の布教はここまでだよ!」
     かごめが集団の内側から攻撃を仕掛けたのだ。
    「封縛糸、捕らえたっ」
     近くに居た学生メイド服に糸を巻き付ける。
    「ぐ……ぁ、そ、そんな……。まさか、メイド服に縛り属性まで……!」
     学生メイド服は、苦悶の声を漏らした。
    「違ーう、それ、違うっ」
     いちいちウルサイ敵である。
    「な……まさか、ありがたいメイド服を狙う敵かっ」
     メイド服集団がようやくざわめき始める。
    「ありがたいって……どう考えても呪われたアイテムじゃないんでしょうか?」
     集団が攻撃の準備を整える前に、猫子がハンマーを地面に叩きつけた。衝撃波で、学生メイド服達がよろめく。
     さて、メイド服について色々考えさせられた奈落は、瑛の殺気を感じ取りはっと正気に戻った。
    「……メ、メイド服の素晴らしさについてはよく分かりましたがっ! だからと言ってダークネスの跋扈を許す訳にはっ!」
     飛ばした液体が、確実に学生メイド服の一人に命中する。
    「くぅ……、メイド服……バンザイ」
     倒れる間際まで、メイド服を思うようだ。
    「なんて事!! メイド服を慕うふりをして近づくなど、卑怯な。そもそも、メイド服は……」
    「いえいえ、もうメイド服の説明は結構ですので」
     花絵が力のこもった声を張り上げたが、菖蒲がそれを遮るように歌をぶつけた。
    「皆さん、良く狙っていきましょう」
     セカイは天星弓を構え、味方に向け癒しの力を込めた矢を放つ。
     同時に、ミカがシールドを広げた。周囲の仲間を守り、バッドステータスへの耐性も高める。
    「この場所なら、前列の皆に届くはずだよね」
     集団に近づいた時に、さり気なく戦闘の場所を探っておいたのだ。
    「ああ、花絵様っ。メイド服の力をお示し下さい」
    「メイド服こそ正義」
    「メイド服こそ愛」
     ようやく戦う態勢を整えた学生メイド服の集団が、花絵に向け癒しの歌を歌う。
     それを遮るように、瑛は縛霊手の祭壇を展開した。なるべく沢山の敵を巻き込むように狙いを定め結界を構築する。
    「さっさと破って解放してあげますよ!」
     むさ苦しい男子メイドはもうたくさんだと思った。
    「つーか本場のメイドはもっと質素だっての」
     イリヤが呟く。そんな派手な見た目重視の服じゃないと。
     狙うは回復の出来る学生だ。すでに沈みかけている学生達にトドメとばかりにどす黒い殺気を放出する。
     メイド服バンザイ、メイド服大好きでしたなどなど。最後の力を振り絞った言葉を残し、学生達は崩れ落ちていった。
    「……あー、なんか、まぁ本人たちがいいならいいけどさ」
     心なしか、その散り様を見ていると疲れる。精神的に。

    ●妖しの服は散りて
     その後、サラリーマンメイドが蹴り技を中心に灼滅者に襲いかかってきた。ひらひらと揺れるメイド服。スカートの隙間から繰り出されるおっさんの足。そのビジュアルは凄まじく、灼滅者達は一刻も早く倒さねばならないと肌で感じた。
     猫子がどす黒い殺気でサラリーマンたちを覆い尽くし、仲間が確実にとどめを刺す。
    「瀟洒なメイドのモップかけ!」
     俗っぽくなく、洒落ている。きちんとした動作の近接戦闘で菖蒲が敵を倒した。
    「抜刀、一閃!」
     かごめが居合斬りを放ち、最後に花絵だけが残った。
    「くっ。たとえ一人になろうとも、メイド服の素晴らしさ、伝えなければ……!!」
     花絵が演舞の構えをとる。
     声を張り上げて演説するだけだった花絵だが、動きはなかなか素早い。加えて、ボリュームの有るスカートやワンピースは、それだけでどこから攻撃が飛んでくるのか見極めにくい。
    「なんだ、結構やるんだ! でもさ、正直メイド服より白衣でしょ~」」
     ミカが仲間をかばうように、花絵の正面に出る。挑発するように声をかけシールドで殴りつけると、花絵が大きく目を見開いた。
    「バカな、白衣など邪道っ!!」
     花絵が手刀を繰り出す。
    「でも、まあ、メイド服についての説明はありがとうございました」
     それを、奈落がかばった。すぐさまセカイが仲間を癒す歌を歌う。
     花絵の死角になる場所からイリヤが飛び出してきた。すでに利き腕を巨大な刀に変えている。
    「そろそろ、終わりにしよ―ぜ」
     勢いそのままに斬り裂く。
    「あ、あぁ……! メイド服がっ。私の、服がっ」
    「っ……」
     メイド服はダメージを受けて破れ始める。顕になる花絵の肩や太ももに、思わずイリヤは顔を真赤にし目をそらした。なぜなら、女性の裸など見慣れない中学1年生だからっ。
     しかしメイド服はしぶとく花絵に纏わりついている。
     それを見て、瑛が激しく渦巻く風の刃を生み出した。真っ直ぐ花絵に向かって、刃を飛ばす。
    「あ、ぁ……」
     風に斬り裂かれ、メイド服が消えていく。
    「や、破りたい訳じゃないんですが……仕方ないんです、すみません……!」
     腕も、腹も、胸元も。花絵のすべてが晒される。メイド服は破れ、完全に消えて行った。
     残ったのは、下着姿で立ち尽くす花絵だけだった。

    「あ、……あれ?」
     ぼんやりと、花絵があたりを見回す。
     すぐに菖蒲が爽やかな風を吹かせ、花絵を眠らせた。
    「ここから先はボクがやるべきじゃないよね。では女性陣にお願いするのです」
    「そうだね。申し訳ないけど、お任せするよ」
     駅前に大人の女性が裸同然の姿を晒していると言う、あまりにも衝撃的な光景。ミカは花絵を直視しないよう目を逸らしながら女性陣に頼んだ。
     それは瑛も同じで、少し離れたところから仲間を見守ることにした。
    「任されました」
     簡単に羽織物をかぶせ、奈落が花絵を背負う。
     丁度近くに駅員の休憩室が見えるので、関係者を装いそこへ入り込んだ。
    「……ま、なんとかなって良かったんじゃね」
     花絵を見送りながら、イリヤが呟きため息を付いた。それにしても、疲れた。
    「一見馬鹿馬鹿しいけどなかなか危険だったね。視覚的にも」
     ミカもまた、疲れてどよんとした瞳で頷いた。
    「帰ったらこのことは忘れよう。服も隠滅しよう。うん、そうしよう」
     周りに人が来ないか警戒しながらも、かごめは誓うようにきっぱりと宣言した。そうでもしないとやっていられない、という風に。
     メイド服を着ていたことを覚えていないのは、本人たちにとっては幸いだと思う。
     ちなみに猫子は、メイド服を着替えに行きました。
    「んー、後始末も終わったし帰ろうかな」
     菖蒲がふっと口から息を吐き出し、クールにその場で身体を反転させる。
    「あれ、そう言えば、着替えないんですか?」
     瑛に指摘され、菖蒲が振り返った。
    「だって自分の着替え忘れてたんだもん」
    「ああ、それは……ああ」
     瑛は納得したように曖昧に頷いた。

     さて、駅員休憩所にて。
    「ん、うーん」
     花絵がようやく目を覚ました。花絵は下着姿ではなかった。セカイの用意した服に着替えさせたのだ。
    「お目覚めになられましたか? 駅のベンチでお具合悪そうに気を失っておられた所をわたくしが見つけまして、こちらの方と一緒にお運びしたのですが……」
     花絵を気遣うようにセカイが声をかける。
     セカイと奈落を見比べ、花絵はバツの悪そうな顔をした。
    「そうでしたか。何だかちょっと、記憶があやふやで……。お手数をお掛けして、すみません」
    「御加減は如何ですか? 毎日お仕事などでお疲れなのでしょうが、御無理は禁物ですよ?」
     セカイが手を差し伸べると、花絵はしっかりとその手を握りしめ身体を起こした。
     花絵の服のポケットには栄養ドリンクが一本忍ばせてある。
     不思議なメイド服に翻弄された上、これからお仕事に向かうであろう彼女へのせめてもの応援に。セカイからのプレゼントだった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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