
――噂の舞台であるその学校では、数年前に一人の女子生徒が陰惨ないじめに遭っていたらしい。
そしてある日の放課後。いじめっ子たちに体育館へとへと呼び出された彼女は、そのまま体育館内の倉庫に閉じ込められてしまう。
ちょうど試験期間中であり、普段ならば体育館を使うはずのクラブも、その日は活動を休止していた。
そのため、助けを求める彼女の声は誰にも届くことはなかったのだ。
そしてその日は真夏日であった。夜になっても気温は下がることはなく、熱におかされ次第に少女は衰弱していく。
すえた臭いを放つ器具に囲まれながら、彼女はいじめっ子たちへの怨念を胸に、遂に息絶えるのだった。
――それからその学校では、夜になると体育倉庫に少女の霊が現れ、居合わせた目撃者を自分と同じ目に遭わせ殺してしまう、という噂話が語られるようになったのだ。
「……いや、色々と無理がある話だとは思うがな」
噂話の概要を説明し終えた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、締めるようにそんなことを言った。
「ま、話の整合性は置いておいて、とにかくその噂話がサイキックエナジーによって実体化してしまったわけだ。これを何とかしてきてほしい」
今回の都市伝説は、目撃者がいることが出現のトリガーであるらしい。
夜の体育館の、倉庫の中に何者かが立ち入ると、全身を真っ赤に火照らせ衰弱した少女の姿で出現し、目撃者へと襲い掛かるという。
故に敵と遭遇するためには、深夜の学校の内部に忍び込む必要がある。
「敵を出現させたら、速やかに外へ誘き出すことを勧めるぜ。なにせ倉庫は物で溢れてる上に、決して広くないからな。戦場としては最悪だ」
また現場は深夜の学校であるため、明かりになるようなものも必要となるだろう。
「それと、学校の周りは普通の住宅地だぜ。校内にも宿直の教員なんかがいる可能性があるしな。一般人避けについても考えておいた方がいいかもな」
次にヤマトは、敵の能力についての説明を始めた。
「敵は『暑さで死んだ自分と同じ目に遭わせる』って噂の影響で、ファイアブラッドのサイキックを主に使ってくるぜ」
また、『いじめっ子たちへの怨念により霊となった』という噂話により、デッドブラスター、鏖殺領域に似たサイキックの使用も予測されている。
「どれもダークネスの攻撃に比べれば大したことはないが、それでも正真正銘サイキックの一撃だからな。警戒してくれよ」
特に今回の敵は、こちらにダメージを与えることよりも、炎や毒で侵すことに注力してくるようだ。それだけ、バッドステータスにもかかりやすくなるだろう。
「噂話がどこまで本当なのかは知らないが、今回の敵はいじめの被害者その人ってわけじゃないんだ。
本物の犠牲者が出てしまう前に、なんとしても都市伝説を消し去ってきてくれ!」
ヤマトの激励を受けながら、灼滅者たちは行動を開始した。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 鈴城・有斗(は断ち撃つ刃の殺人騎・d02155) |
![]() 成瀬・圭(ミッドナイトディージェイ・d04536) |
![]() 葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943) |
![]() 華槻・灯倭(紡ぎ・d06983) |
![]() 八神・菜月(徒花・d16592) |
![]() 緑風・玲那(紅蓮の閃姫・d17507) |
![]() 桜庭・遥(名誉図書委員・d17900) |
安楽・刻(拷問王・d18614) |
●
――都市伝説を倒すべく、深夜の学校へと集結した灼滅者たち。
そして体育館の鍵を入手しに向かっていた緑風・玲那(紅蓮の閃姫・d17507)が、仲間たちのもとへと帰還する。
「皆さん、遅くなってすみません! プラチナチケットを使ったら、宿直の方にここの生徒だと思われてしまって……」
手間取ったことを申し訳なさそうに詫びる玲那。だがその手には、目的の鍵がしっかりと握られていた。
「あやうく追い返されそうになったので、仕方なく少しばかり血を頂いて、記憶が曖昧になっている隙に鍵を回収してきたんです」
生命維持エネルギーを得たからか、どことなく生気の増した様子で体育館の扉を開錠する玲那。
「穏便に――かどうかは微妙だけど、一応鍵は手に入ったんだし結果オーライかな。あとはバベルの鎖でいい感じに誤魔化されることを祈ろう」
言いつつ鈴城・有斗(は断ち撃つ刃の殺人騎・d02155)は、ランプを手に体育館の中へと進む。そして彼のライドキャリバー『アング・ロクエン』も、ライトを照らしながら主の後に続いた。
「じゃあ、眠いしめんどいし、さっさと消して帰ろっか」
八神・菜月(徒花・d16592)は、そんなことを無気力に呟いた。そして眠そうに欠伸を噛み殺しつつ、一般人避けの殺界を形成する。
「暗い体育館って、月明かりが入ってきて幻想的ですね」
深夜の体育館という非日常的な光景に、思わず呟く桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)。
「私はむしろ、何となく不気味だよ。噂が多いのも分かるな。
火のない所に煙は立たないって言うし……。どこまで本当かなんて、分からないけど……」
こんな噂が立つのは悲しいね――と、華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)はどこか悲痛な声音で言うのだった。
「いじめられて熱で死んだ霊、ですか……。ただの都市伝説ですけどね、でもちょっとだけ……自分と重なりますね」
本来なら喜び勇んで敵に挑むほど、戦いを愛している安楽・刻(拷問王・d18614)。だが今回ばかりは、自身の過去を思い起こさずにはいられなかった。
「……ま、怪談は怪談のまま、リアルにまででしゃばってこねえように片付けてやろうぜ」
成瀬・圭(ミッドナイトディージェイ・d04536)は気安い口調で言いつつ、体育館の各所に光源のランタンを設置していく。
「うー、初の任務に不安でいっぱいです、皆さんの足を引っ張らないように注意しないと……」
同じく持参したケミカルライトなどを設置しつつ、どうにも落ち着かない様子の玲那だった。
さらに体育館のカーテンは手回し式のハンドルだったため、一般人避けに念のため皆でカーテンを閉め切る。
そして準備万端整ったところで、灼滅者たちは都市伝説を出現させにかかった。
灯倭と葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)の二人が、慎重に体育倉庫の中へと進む。まず彼女らが囮となって、出現した都市伝説を体育館の方へと誘き出す作戦なのだ。
二人が入り込んだ瞬間から、倉庫内の気温が一際高まったように思われた。さらに彼女らの眼前の空気が陽炎のように揺らめきだしたかと思うと、それは次第に像を成し始める。
そして遂に、都市伝説が少女の姿となって現れるのだった。
「出たわね……。さあ、いらっしゃい」
WOKシールドを展開した夢乃は、真っ先に敵へと飛び掛かった。
●
一息に少女へと肉薄した夢乃は、その虚ろな表情へとシールドによる殴打を叩き込んだ。夢乃の攻撃を受けた少女は、赤く燃え盛る腕で反撃を試みる。
だが立ちはだかった灯倭が、淡く光る鞭剣『惺絃』で少女の攻撃を受け止める。さらに巧みに惺絃を伸縮させ、死角からの斬撃により少女の体勢を崩した。
さらに灯倭は相棒の霊犬『一惺』により治療を受けながら、夢乃と共に倉庫の出入り口へと後退する。
少女は幽鬼そのものといった緩慢な歩みで、二人を追って体育館の方へと向かう。そして体育館のちょうど中程まで来たところで、眩いライトの光が少女を照らした。
「可哀想だな」
ライトを手にした圭は、衰弱し苦悶の表情を浮かべる少女を見て呟いた。
「何が可哀想って、同情するポイントがどこにもねえのが可哀想だ」
だって多分、誰も死んでねーだろうしな――言いつつ、圭はスレイヤーカードから得物の封印を解いた。
「噂のうちに消してやるよ。オレたちがな」
槍を手にした圭は、螺旋の刺突を敵へと見舞う。
「まぁでも、都市伝説とはいえ酷い話だ」
呟きと共に、ガンナイフの引き金を引く有斗。彼の放った弾丸は通常有り得ない軌道で敵へと向かい、狙い過たずその身を穿った。
そして有斗の弾丸を受け数歩たたらを踏んだ少女の背後には、可変武器『Alexir』を手にした菜月が待ち構えていた。
「なんで幽霊系のやつらってわざわざ夜に出てくんのかな。どうせなら昼にでてきてくんない、眠くないし」
Alexirを槍に変形させた菜月は、螺旋を描いた一撃を叩き込む。億劫そうな仕草に反し、その威力には一切の手加減は込められていない。
痛烈な一撃を受けた少女は、眼前の菜月へと反撃すべく手のひらへとエナジーを込め始めた。少女の手のひらで赤黒い弾丸と化した怨念が、菜月へと放たれる。
そこへ菜月と敵の間へと飛び出したのは、刻のビハインド『黒鉄の処女』だった。なんとか敵の弾丸を受け止めるビハインドだが、怨念に蝕まれ一気に体力を奪われてしまう。
「回復は任せて、一度下がらせてください」
言いつつ自身の周囲の光輪を放ち、傷ついたビハインドを癒す遥。
そして刻はビハインドを後方に退避させつつ、自身はガンナイフの掃射で敵に足止めをかける。
「――Breaking of the fate,Get ready……」
さらに言霊と共に、スレイヤーカードから天星弓を開放する玲那。初の任務に極度の緊張に陥っていた彼女だったが、弓を引き絞ることで精神を集中させる。
そして先ほどまでとは一転して落ち着いた様子で、彗星のように煌めく矢で敵を射抜くのだった。
●
灼滅者たちから度重なる攻撃を受けた少女は一時後退し、赤黒い塵のような怨念を撒き散らし始めた。そしてそれを、前衛の灼滅者たちを飲み込むように放つ。
サーヴァントも含めると前衛はかなりの人数であり、敵の攻撃そのものは痛打とはならない。だが少女の身に纏う怨念の濃密さは、ジャマーとしての能力の向上を示していた。
この状態で炎や毒を受ければ、一気に体力を削られかねない――そう判断した灼滅者たちは、できる限り敵に攻撃の機会を与えず、速やかに撃破する作戦に出た。
灯倭と一惺は最前線に立ち、炎や毒をものともせず、互いに援護しあいながら仲間を庇い続けていた。
「自分が苦しかった事でも、違う人を同じ目に合わせちゃ、駄目だよ。辛い気持ちも、恨みの念も、断ち切らなきゃね」
ヤリケイトウを模した灯倭の影が、敵を丸飲みにせんばかりに巨大化し放たれる。
「あなたの相手はこっちよ!」
さらに敵の気を引くように放たれた夢乃の魔力の弾丸が、敵へと着実にダメージを与えると共に、その行動を妨害する。
「私は、平気だから……。今度こそ、仲間は私が守るわ」
夢乃はクラッシャーとして攻撃に注力しながら、最前線で敵の攻撃をも引き受けていた。仲間を救えなかった過去を未だ拭えない彼女にとって、それが今できる唯一の贖罪だと考えていたのだ。
「……そんなに一人で背負い込むことはないよ、葵璃さん。僕らはそんなにヤワじゃない!」
キャリバーのアング・ロクエンをディフェンダーに切り替えつつ、ガンナイフによる至近距離からの斬撃を見舞う有斗。彼は巧みに間合いを読みながら、的確に射撃と格闘を使い分けていた。
「そうそう。オレらだって守られるだけのお荷物のつもりはねーよ」
あくまでも軽い口調で言いつつ、圭は敵の眼前に躍り出ると、ちょいちょいと指で挑発する。そして挑発にのった敵の殴打を、華麗なジャンプで躱しつつ攻撃に転じる。
「――Let's Rock!」
釘バットにしか見えないロッドで、渾身の殴打を叩き込む圭。極大の魔力の爆発を受け、後方へ大きく吹っ飛ぶ少女。
そして落下地点へと先回りしていた菜月の手には、同じくロッドに変形したAlexirが握られていた。欠伸混じりの気だるげな様子で、しかし痛烈な魔力の殴打を見舞う菜月。
「……覚悟してください」
圭と菜月のフォースブレイクを受けて怯む敵に、遥は一気に畳み掛けるべきと判断した。殲術道具を飲み込んだ異形の砲台で、瘴気を帯びた光線を放つ。
刻も深手を負った『黒鉄の処女』に後方から支援をさせつつ、自身は縛霊手の霊力の網で敵を捕縛しにかかった。
「――わ、私だって初任務で緊張しっぱなしですけど、足手まといにだけはなりません!」
言いつつ放たれた玲那の護符が、敵の足元を五芒星の結界で強力に封じた。
見た目には、あくまでも始終衰弱したままの少女。だが灼滅者たちの攻撃や妨害は、確実に敵へと蓄積しているはずである。
既に敵は瀕死だろう――そう判断した灯倭は、限界まで伸ばした惺絃を巻きつけ、仲間に攻撃のチャンスを作る。
そこへ、夢乃のWOKシールドによる渾身の殴打が見舞われた。
「たとえ虚構の産物でも、誰かの苦しむ姿は見たくないわ。存分に泣きなさい。全部、受け止めてあげるから……」
夢乃のシールドバッシュを受け、少女は慟哭をあげながら、陽炎となって霧散した。
そして深夜の体育館には、薄明かりと静寂だけが残された。
●
「もう苦しまなくていいんですよー」
少女の顔があった辺りの虚空を撫でながら、刻は穏やかな口調で告げる。それは消え去った都市伝説に向けた言葉なのか、それとも辛い思いをした過去の自分へのものか。
「暑くなって来たけど……風、気持ち良いね。辛かった気持ち、晴らせたかな?」
「……本人じゃないと言っても、そういう目に遭ったって設定の存在な訳だし。せめて安らかに眠ってほしいな」
陽炎となって消えた少女の姿に、思わず呟く灯倭。そしてそんな灯倭の言葉に穏やかな声音で応じる有斗。
「噂が本当だったのかは分かりませんが、無差別に殺してまわるなんて不名誉な噂が、これ以上立たないといいですね」
小さな声の中に、毅然とした意思を込めて告げる遥。人の業を誰よりも感じ取ってしまう彼女だからこそ、人一倍善意に満ちた世界を望んでいるのかもしれない。
「でも人の心から闇が消えない限り、こんな事件がまた起きるのかもね……」
テキパキと撤収のための後始末をしつつ、ふと呟く夢乃。都市伝説だろうとダークネスだろうと、人の心の闇が引き起こした事件であることは同じなのだ。
「怪談はあくまで階段、であってくれるといいな。ま、何にしても終わったんだ。早いとこ帰ろうぜ」
「わたしもさっさと帰りたい、眠いし……」
圭の言葉に、最後まで気だるげな様子で、欠伸と共に応じる菜月。
「そうですね、皆さんお疲れ様。そして緊張した……」
初仕事の緊張から解放された玲那は、若干砕けた口調で仲間を労うのだった。
こうして深夜の体育館にて都市伝説を消し去った灼滅者たちは、無事全員で学園へと帰還した。
これでこの学校に、苦しんで死んだ少女の霊が現れることはないだろう。
| 作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2013年7月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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