木の枝から、枯れた葉が落ちる。
きびしい日差しや雨風にさらされ、水を吸う力もなくなった乾いた葉が、木の枝からはらりと落ちようとしている。
その葉を、枇氏・米太(びし・べいた)がぼんやりと見ていた。まるで自分のようだと思いながら。
「このまま生きていて、いい事がありますか?」
背後から囁かれる声。声の主を振り向いて確かめる気力も、米太にはなかった。
見ないほうが良いかもしれない。声の主は異形だった。頭の上から指先まで、どす黒いどろりとしたスライム状になっており、ぶよぶよの胴体から手足が伸びている事によって、かろうじて人型だということがわかる。
そして、その顔。その顔は、笑顔だった。心の底からの晴れやかな禍々しい笑顔。その顔色の悪い少年の顔だけが、黒い体躯の中で唯一、人間の色をしていた。だが、笑顔の奥に閉じ込めた情念が、顔面の外から、黒く、どろどろと溢れ出し、異形の姿形を作り上げているようだった。
異形が言う。
「家でも学校でも虐められ人格をおとしめられて、もう限界でしょう?」
米太が今立っているのは、自宅があるマンションの廊下だ。手すりの先にあるクスノキを、かれは霞がかった目で見ている。
「将来きっといい事がある? ないかもしれないですよ。それに、今のこの日々を過ごすことが、どうしようもなく苦痛、ですよね」
米太は、緩慢な動作で踵を返して階段を上りはじめた。屋上へと続く階段。屋上を囲うフェンスは一部が破れていて通り抜けられるはずだと思いながら。
一歩一歩、重い足を運んで死へと向かう米太の後を、黒い怪物が、ずるり、ずるりと、満面の笑顔でついて行くのだった。
●
「闇堕ちした筒井・柾賢さんの行方が、ようやく掴めました……」
園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が、浮かない顔で灼滅者たちに告げた。西日の射し込む教室の中、彼女の顔が暗く沈んでいた。
「筒井さんはソロモンの悪魔となり、「自分の存在意義を見出せなくなった人間」や「虐待・いじめを受けた人間」の心の隙間に忍び込んで、言葉巧みに絶望を増幅しているようです。そして、ダークネスの素質があるなら闇堕ちを促し、さもなければ自殺させて骸を眷属にしています。……すでにもう数人、犠牲者が出ているようです」
「もう犠牲者が……」
痛ましそうな表情で呟いたのは功刀・真夏(肝っ玉お姉さん・dn0132)である。彼女は窓際で、腕を組んで佇んでいた。真夏に、槙奈がうなずいた。
「はい。これ以上被害を出すわけには行きません。皆さんには予知が導き出した場所に行って、戦ってもらいたいのです。
筒井さんは3日後、郊外のマンションに現れます。枇氏・米太(びし・べいた)さんという14歳の少年を、マンションの屋上から飛び降りさせようと、彼の絶望に囁き続けているようです。
皆さんは、あらかじめ屋上に先回りして待ち構えることができます。屋上は100平方メートルぐらいの広さで、貯水槽があるだけで普段は誰もいません。鍵は開いています。
筒井さんと米太さんは裏階段で移動しますので、皆さんは表玄関のエレベーターを使うと良いですね。屋上に罠を仕掛ける事もできますが、それ以外の行動をとると、相手に気付かれて取り逃がしてしまうでしょう」
「少年は助けてあげたいわね。それで、相手の戦力は?」
「はい、筒井さんが自殺させたサラリーマンと男子学生の骸を眷属としたのが2体います。彼らは咎人の大鎌と、ソロモンの悪魔の力で攻撃してきます。
筒井さん自身は魔法使いと、殺人鬼と解体ナイフの能力を主に使いますが、ガトリングガンを隠し持ってもいるようです」
それでですね……と槙奈は顔を翳らせた。
「闇堕ちした筒井さんの姿に、ショックをうけるかもしれません。……でも、なんとか筒井さんを説得して闇堕ちから救出してもらいたいのです。筒井さんが説得に応じなかった場合、彼は完全なダークネスと化すでしょう。……その場合はもう、灼滅するほかはありません」
だが筒井柾賢の心の闇は深く人間に立ち戻ることを拒否している節がある。説得は困難を極めるだろう、と槙奈は言った。
「私は、不幸な境遇にいた人がいつまでもそこから抜けられないなんて、そういうのは凄く嫌なのよ。でも、筒井君は他に被害者を出しているわけだし……」
真夏がぎゅっと眉根を寄せた。
「説得に応じなかった場合、灼滅するのが灼滅者としての使命なんだろうけど……。それは同時に同じ学校の生徒を殺すという事だし、やりきれないわね……。よく考えて悩むことにするわ」
そして筒井柾賢を灼滅する事態になった時には、その事実の重みを背負う覚悟があるか。灼滅者たちはみずからの胸中に問いかけるのだった……。
参加者 | |
---|---|
本郷・大和(驚顎仮面クワガンオウ・d01918) |
東谷・円(乙女座の漢・d02468) |
マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944) |
小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156) |
釈迦堂・味昧(黒き流星のクルセイド・d05832) |
レイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861) |
マキシミン・リフクネ(龍泉大好きっ子・d15501) |
水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184) |
●蟷螂生
中天を過ぎた夏の日差しに、屋上は容赦なく晒されていた。
熱く、こもり気味な空気の中、灼滅者たちは屋上出入り口の屋根の上と扉の死角に身を潜めていた。
「自殺する勇気はないのに、闇堕ちする勇気はあるとか笑えねーわな……」
東谷・円(乙女座の漢・d02468)が、鋭い目を扉に向けていた。彼は空飛ぶ箒で、死角となる上空で待機している。円の実家は名のある家柄で、円もかなり厳しく躾られた為、筒井・柾賢に若干同情と親近感を感じている。が、それはそれだ。
じりじりとした沈黙の中、彼らは待っていた。今は闇に堕ちた、かつての学友を。
がちゃり、と鈍い音がして、入口の扉が開いた。
灼滅者が身を固くして見守る中、中学の制服を着た少年がゆっくりと歩み出てくる。彼が枇氏・米太だろう。少年は生気なく、入口の向こうにあるフェンスに向かって進む。柾賢の姿は、まだ、見えない。
米太が屋上の半ばまで来たところで、黒い異形が姿を現した。柾賢だ。その両脇には、黒い瘴気をはなつ骸がずるり、ずるり、と従っていた。
「今です!」
大きな声で合図をしたのは、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)。彼女は潜んでいた屋根の上から大きく跳んで、米太と柾賢の間に割り込んだ。
合図とともに、一斉に灼滅者たちが動き出す! 箒にまたがったマリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)が一拍遅れて滑空し、米太の腕を掴む。驚く米太の体を、怪力無双のサイキックを使って引き上げる。
眷属が、硬直した骸の体ながら以外にも素早い動きでブラックウェイブで灼滅者たちを薙ぎ払う! その余波を受けてマリアの体が傾いだ。米太をかばいながら、彼女の小柄な体がフェンスにぶつかる。サウンドシャッターの効果で音はしなかったが、フェンスは大きく揺れた。
箒に乗ったマキシミン・リフクネ(龍泉大好きっ子・d15501)と円の2人がマリアのもとに飛び、彼女と米太を支えた。そのまま、フェンス脇に駆けつけた仲間に米太を託した。
支援者とともに走り寄った功刀・真夏(肝っ玉お姉さん・dn0132)が、米太の体を抱える。驚き身をよじる米太を、天地・玲仁が声をかけてなだめた。真夏が米太を安全な場所に連れて行こうと出入り口を見ると、そこには眷族と柾賢が立ちふさがっている。
前衛が柾賢と眷属を包囲する。しかし連続して繰り出される列攻撃が危なくて、通り抜ける隙がない。真夏が逡巡していると、支援に駆けつけた灼滅者が壁となり、梅雨払いをして道を作った。
嶋田・絹代がカポエイラの動きで柾賢たちを牽制する。
「あの時アンタがいなかったらどうなってたかわかんねっす。消えちまうのは勝手なんすけど、礼の一つくらいは聞いてってほしいっす」
「お前の生き方にあれこれいうつもりは無いが、自分の命まで他人任せ、自殺がいやだから殺されるのも他人任せか。責任転嫁もここまで来ると清々しい。なぁ……。元相棒。どう思う?」
紅羽・流希が突き放すように言い、備傘・鎗輔を見た。
「そんなに死にたきゃ、闇落ちから立ち直って、自分の手で死ね! そんなことの為に仲間の手を汚させるな! 罪悪感の持ち損だ!」
鎗輔は憤慨して、柾賢に言葉を叩きつける。その後ろを、米太を肩に担ぎ上げた真夏が疾走した。追おうとした眷族を、支守・みことが遮った。
「人の手を借りないと死ねないなんて、本当は死にたいと思っていないんじゃないですか? 誰とも仲良くならずに過ごしたと堕ちた時に言ったそうですね。……筒井くんはそうでしょうが、他の方は違うと思いますよ!」
「腕に二つのガトリング、闇を挟んで撃ち砕く、俺の名は『驚顎仮面クワガンオウ』! さあ、お前の驚く顔を見せてみろ! お前は倒す、そして助ける! GO! ラァイドキャリバァァ!!」
本郷・大和(驚顎仮面クワガンオウ・d01918)が熱く叫ぶと、3体のライドキャリバーが敵を取り囲んだ!
「暗黒歴術式001……ジャッジメント・バスター!」
ついで釈迦堂・味昧(黒き流星のクルセイド・d05832)が輝くビームを放つ。
闘いが行なわれているマンションの下では、銃沢・翼冷が半泣きで屋上を見上げていた。
「なぁゴージャス……。いや、釈迦堂・味昧。友人としての頼みだ。味昧も無事で……アイツを連れ戻してきてくれ……! お願いだ……!」
味昧のビームの光が、翼冷からも見えた。
屋上では、その光と爆風の中を真夏が駆け抜け、出入口に何とか滑り込んだ。擦り傷を負った米太を魂鎮めの風で眠らせ、癒す。階段の前で待ち構えていたトレニア・リーフィルに米太を預けた。
トレニアは微笑んで米太を受け取り、彼の髪を梳いた。その唇からは優しい唄が紡がれていた……。
●腐草為蛍
レイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861)が、眷属をティアーズリッパーで切り裂く。苛烈な斬撃を放ちながらも、その足運びは悠然としていた。
「悪いけど、大きなお世話焼きに来たぜ」
そういって、レイシーは柾賢ににっと笑いかける。レイシーと優雨は柾賢のクラスメイトだった。久しぶりの顔を見て、柾賢は満面の笑みだ。だがそれは、狂った禍々しい笑み。
柾賢はうれしそうに黒死斬をはなった。ぶよぶよの手に握られた解体ナイフが、恐るべき鋭さと重さを持ってレイシーの足を斬り、吹き飛ばす。
後方に下がって傷を押さえるレイシーを、枝折・真昼のリバイブメロディが癒した。
レイシーをビハインドとともに背後に庇い、水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)が柾賢と対峙した。
「筒井さんとは会ったことないよね。けど闇堕ちした時の話を聞いて絶対助けなきゃって思ったんだ。悲しいし、寂しい。過去も未来もすごく厄介だし怖いよね。簡単に振り切れないし忘れられない。でもずっとそれに縛られてたらいいわけでもないと思うんだ。筒井さんをソロモンの悪魔のままにするつもりは、ないよ」
裕也の真摯な声を拒むように、2体の眷属が再びブラックウェイブを放った。魔法使いが狙われ、円とマキシミンが箒から叩き落される。
マキシミンは地面に転がった体勢から起き、闇の契約で円を回復する。彼は柾賢を見つめた。
「俺はあなたと会ったことはありません。でも、君を心配してる人がいるんです。戻ってきて下さい」
マキシミンは真剣に言葉を投げかけた。
「本当に君がいらない存在だって思われたならその時は殺しましょう。でも、それは今じゃないでしょう。君を失いたくない人がいるんです。必要とされてる間は生きて下さい。疲れたなら、休んでもいい。でも、死のうなんてのは許さない。苦しくても、辛くても生きて戦って下さい。生きることは、それ自体が戦いなんですよ」
柾賢の、嗤う形に開いた口から、言葉が発せられた。
「筒井君は言っています。『要するにそれは、なんでも思い通りになる召使が欲しいということですね』と」
それはダークネスの口を借りた、伝聞調の言葉。マキシミンは、予想外の返答に唖然とした。確かに戻ってきてほしいが、思い通りにするとか、召使にするなどというつもりは無い。
召使、とマリアが呟いた。彼女はワイドガードで仲間を癒しながら、柾賢に向かって囁いた。
「……それが、呪いの、言葉でも。人の役に、立とうって、思うなら。今は、戻ってきて」
「筒井君は言っています。『生徒はたくさんいる。1人減っても構わないでしょう』と」
ダークネスが言う。柾賢を代弁して。
優雨が、異様な姿に変容したクラスメイト、柾賢を金色の瞳でじっと見る。優雨は大きな穴の空いたフェンスを指し示した。
「どうして自殺に追い込むという手段をとるの? 直接手をくださないのは自分自身の手を汚さないため? 自殺は他人が決めたことだから自分は悪くない? 貴方は私たちを自分の目的を果たすための都合のいい道具としか見ていないんですよ」
彼女の口を塞ごうとするかのように襲いかかった背広の眷族を、優雨はロケットスマッシュで叩き潰した。 優雨の強い目と黒い髪が、青空に映える。
「クラスで話しても、自分の言葉だけを言って会話をしようとしませんでしたね。貴方は他人に自分の都合だけを押し付けて、その人を見ようとしていない。貴方は貴方自身の事しか考えていないんです。貴方にとっては私たちクラスメイトは自分の不幸を着飾るための装飾品でしかないのでしょう。でも、私にとって貴方はクラスメイトで仲間なんです」
そう言う優雨の横にレイシーが並び、拳を突き出した。
「親なんて寮入って縁切っちまえばいいし、パシリ扱いする奴はブッ飛ばしゃいい。無理だってなら、俺がやってやる。それにな、少なくとも武蔵境ニキューにそんな性根の腐った奴はいねぇ。テメェがちっと手を伸ばせば、マトモな友達なんて簡単に出来るんだよ! あとは、テメェがどうしてぇかってだけだ。ちったぁ戦う気になったなら、気合い入れやがれ! それともまだ死にたいなら……殺してやるからそこに直んな。とにかく、いつまでもうじうじしてんじゃねーぜ!」
レイシーが言葉とともに閃光百裂拳を繰り出す! その拳は柾賢の胴体をえぐり、張り付いた笑顔を一瞬だが揺るがせた。
大和がレイシーを狙おうとした眷族を、ブレイジングバーストで吹き飛ばす。
「死ぬのが怖くて闇に堕ちるくらいなら、精一杯生きればいい。生きてるうちは何だってできる。その手伝いなら、俺も力になろう。あんたは自分のことが大嫌いかも知れないが、皆はそんなあんたのことが大好きなんだよ。武功になると言うのなら、あんたを助けた武功が欲しい。あんたのその色々混じった笑顔、俺は好きだぜ」
柾賢は顔色の悪い笑顔を向けた。
「筒井君は言っています。『それを信じられるほど、私はキレイな心を持っていないのです』と」
その言葉と同時に、柾賢と眷属の2重のフリージングデスが灼滅者たちを襲った!
●乃東枯
衝撃がやんだ時、灼滅者たちは満身創痍だった。ライドキャリバーは後退し、空飛ぶ箒に乗っていた者はたまらず地面に足をついている。血が点々と地面に模様を描いていた。なのにいまだ眷属は1体残っており、灼滅者たちは回復に追われて柾賢に何発も入れていなかった。
惨状を見渡して、裕也が悲しげに言った。
「筒井さんは本当は何がしたかったの? 誰かを傷つけること? 死なせちゃうこと? それとも、死んじゃうこと? もしそうなら、誰かを利用してでも死にたかったの? なんで、自分が一番嫌いなの? 筒井さんの本当の気持ちとか考えは、筒井さんにしかわからない。だから、自分から独りにならないで教えてほしい。武勲とかそんなのより、一緒に話したりする方がずっといい。みんなと一緒に帰ろう?」
柾賢が首をもたげた。心なしか、禍々しい笑顔に辛さが差しているように見えるのは、灼滅者たちの思い込みだろうか。
「筒井君は言っています。『選択肢は2つ。このダークネスを見逃すか、ここで討ち果たして武勲とするか』と」
柾賢の口から出てきたのは、しかし拒絶の言葉だった。
それまで口数少なに回復役に集中していた円が、眉を吊り上げてキッと顔を上げた。
「……不幸自慢は楽いかよ筒井」
円は押し殺した声を腹から絞り出した。
「親が厳しいとか周りに認めて貰えねぇとか、テメーは自分でその環境を何とかしようとしたか? 家出でも何でも、やり方なんかいくらでもあっただろうが! 願ってるだけで行動しねぇクセに、周りにだけ責任押し付けてんじゃねーぞ! もう1回、今度は自分の意志で生きてみろ!」
円がマジックミサイルを放ち、眷族を爆炎に包み、屠った。
その炎の前に味昧が飛び込み、閃光百裂拳を柾賢に叩き込む。
「……ここで死んでそれで全て終わる気か! 貴様の本音を聞かせてみろ! 叫べ! そして主張しろ! 恐れるな! ……そこから逃げるな! 貴様は自分の事が許せないんだろう? ……だったら許す努力をするべきだ!」
味昧の拳が、柾賢のゼリー状の体を削いだ。柾賢が、フェンスまで弾き飛ばされた。味昧の味昧は漆黒の羽根を散らしながら、柾賢を指差す。
「ダークネスとして……ここで惨めに死んで消えるか! 一人の人間として、価値ある人生を取り戻すか……ここで選べ! 生きたいのなら……もう少し根性を見せてみろ!」
早く早く早く早くもう嫌だ早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く誰か早く早く早く早く早く早く。
柾賢の体からどす黒い瘴気が立ち上る。開いた口から、黒い煙が吐き出された。虚ろな目には何も映っていない。
その濁った目を見た円が、矢筒から矢を取り出した。
「ああ、そうかよ……生きる事を放棄して……そんなに死にたいってンなら、お望み通り”殺して”やるよ」
円の動きを制するかのように、味昧が前に立つ。マリアと優雨とレイシーが柾賢を半円に取り囲む。トドメは自分がやる。罪を仲間には被らせないとでもいうように。
マリアが無表情な中に万感を宿し、祈りを込めた最後の説得を試みる。
「……今、死んでも。貴方が望んだ、死に方には、ならない、よ。全力で、生きて……それでも、死にたいなら。その時は、私が、殺してあげる」
柾賢は黒い息を吐いた。ひび割れた笑顔で、空を見上げる。体がガタガタと震えて、声にならない叫び声をあげている。柾賢は後ろのフェンスの上に跳躍した。そして穿たれた胴体の中からガトリングガンを取り出し、灼滅者たちにバレットストームを浴びせた!
「!!!!!!」
激烈な弾丸の雨が、灼滅者たちに降りそそぐ。ある者は走り、ある者は転がって弾を避ける。顔面をかばいながら彼らが見た柾賢の顔は、今までに見たことのない表情だった。虚ろだった目が見開かれ、灼滅者たちを見ていた。
それは覚醒か、惑乱か。
柾賢はふたたび跳躍した。屋上の外に。
驚愕した灼滅者たちが、フェンスに駆け寄った。不思議に彼らのダメージは大したことはなかった。柾賢の混乱した意識が狙いを外したのだろうか。
転落した程度で、ダークネスが死ぬはずはない。数瞬、柾賢を見失った後に彼らが見たのは、立ち並ぶビルや建物の上を風の速さで走り去る、黒い異形の姿だった。
もう、追って届く距離ではない。灼滅者はこみ上げる悔しさに唇をかみしめた。
灼滅者の言葉は少しでも届いたのか。柾賢は走り去りながらも、時おり、羽根を怪我した鳥のような動きを見せた。その中で彼は灼滅者たちを振り返ったようだったが、その表情は遠くてうかがい知れなかった……。
作者:桐蔭衣央 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2013年7月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 36/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 15
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|