下水パニック!

    作者:J九郎

     東京の地下には、広大な下水道がまるで迷宮のように広がっている。
     だが、敢えてそこに足を踏み入れようとする者はまれだろう。その、数少ない例外が、下水道の一角を寝床とした浮浪者だった。暗さと匂いにさえ我慢すれば、雨露は完全にしのげるし、地上のホームレスのように警察に追い立てられたりホームレス狩りに会う心配もない。
     だが、彼は知らなかった。いつの間にかこの下水道に、危険極まりない存在が棲息していたことを。
    「グルル……」
     下水道に、獣の唸るような声が響いた。闇に包まれた下水道の奥で、赤い二つの目が瞬く。やがて、下水の暗い水底から、巨大な影が姿を現した。巨大な顎、平べったい胴に、細長い尾を持ったその影は、驚く浮浪者に、鋭い牙の生え揃った巨大な口を開け、迫っていった――。
     
    「……嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる。東京の地下に広がる下水道に、都市伝説が現れると」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(中学生エクスブレイン・dn0137)はそう告げた。
    「下水道の都市伝説といえば、巨大ワニというのが定番ですね」
     天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)が自分の予測を口にする。
    「……うん。下水道に現れたのは、巨大ワニ。しかも3匹」
     3匹のワニはそれぞれ金・銀・銅の体色をしているらしい。
    「……便宜上、これからはゴールドワニ、シルバーワニ、カッパーワニと呼称する」
     問題は、このワニの出現条件が『東京の地下に広がる下水に出没し、人を襲う』という、非常に曖昧なものであることだ。
    「……ワニの出現位置は大体の範囲は予測できるけど、完全には絞り込めない。みんなには、まずは下水道の中を探索してもらうことになると思うから、ある程度探索の準備もしていって」
     それから妖は、ワニたちの能力の説明を始めた。
    「……3匹共通の能力は、巨大な口による噛み付き。その牙は、まるでチェーンソーみたいな切れ味がある。あと、ワニたちは、ゴールドワニが攻撃を、シルバーワニが防御を、カッパーワニがサポートを担当する。うまく連携を崩せればいいけれど」
     それと、戦闘中に下水の中に落とされると【ずぶ濡れ】のエフェクトを受ける上にかなり臭いようだ。直接的な害はないが注意した方がいいだろう。
    「なんにせよ、下水道にワニなんて放置しておくわけにはいきませんね」
     皐の言葉に、妖が頷く。
    「……この都市伝説は行動範囲が広いから、今回逃がしたらもう捕捉できないかも知れない。なんとか3匹とも灼滅して」
     妖の言葉に、灼滅者達は力強く頷き返すのだった。


    参加者
    天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)
    ベルデ・ビエント(虜獣・d01067)
    佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)
    飛鳥来・葉月(元聖騎士・d15108)
    鴻上・朱香(無銘の拳・d16560)
    塚地・京介(淡碧・d17819)

    ■リプレイ

    ●下水へGO!
     そこは暗く、じめじめとしていて、何より臭かった。
    「……下水、どんなに綺麗に整備されるようになってもやっぱり下水だよね」
     想像以上の臭いに、佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)が顔をしかめる。
     そう、ここは東京の地下に広がる下水道。首都の下水が一斉に流れ込む場所だ。
    「それにしても、地下にこれだけのものがあるって凄いですよね。実は地下都市も……とか色々あったら楽しそうですね」
     天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)の言うとおり、下水道の中は意外に広く、下水の脇の通路も人が並んで歩けるぐらいの広さがあった。天井の高さも2メートル以上あり、これなら戦闘になっても支障はなさそうだ。全員事前にライトを用意してきたので、光源もばっちりである。
    「ワニは水中から襲い掛かってくるだろうからな。光るものに注意して進もう」
     鴻上・朱香(無銘の拳・d16560)が、いざという時のために用意してきたロープを背負いつつ、周囲に油断なく目をやりながら前進を開始した。
    「こんな都会の下水にワニさんが住んでるなんて」
     飛鳥来・葉月(元聖騎士・d15108)は中衛のポジションを歩きながら、手書きで地図を書いていく。この地図とスーパーGPSを組み合わせれば、迷うことはないだろう。
    「ちょっとした探検してるみたくて楽しいよな」
     塚地・京介(淡碧・d17819)が、言葉通り楽しげに笑顔を皆に向けた。だが、その笑顔も、いつまでも続くものではなかった。
     
     探索開始から1時間――。
     そろそろ嗅覚が麻痺して臭いも気にならなくなり、暗さにもすっかり目が慣れてきた頃だが、同時に灼滅者達の集中力も途切れ始めてきていた。
    「……ああ、単調すぎて眠くなってきました」
     上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)があくびを噛み殺す。
    「オレも眠くなってきたよ。暗いからかな?」
     敦真のあくびが移ったのか、京介も必死にあくびを堪えていた。
    「下水道も割合、広いトコロですからね。このような場所に現れるなンて、困ったモンです」
     ベルデ・ビエント(虜獣・d01067)はライトで水面を照らしつつ、水面に不自然な動きが無いか……水の流れとは違う波の動き、光の反射などに注意を払いながら進んでいた。しかしさすがに1時間以上も集中していると、疲れてくるのも確かだ。
     そんな中、後衛で黙々と暗視ゴーグルで水面を観察していた灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)が、さっと手を上げた。
    「Contact! ……およそ距離10メートル、結構大きいですね」
     軍隊経験のあるフォルケはさすがに集中力を途切れさせることなく、水路から音もなく接近していたワニの存在を察知したのだった。
    「来ましたね。下水道の鰐は高圧ボンベを噛ませて倒すのが主流……と、言ってみただけです。みなさん、迎撃の準備を!」
     皐の合図で、灼滅者達は一斉に武器を構え、迎撃態勢を取ったのだった。
     
    ●下水ワニ、爆現
     水中から、ワニの巨大な顎が姿を現し、名草に飛びかかる。
    「うわっと!」
     ステップを踏んでワニのファーストアタックを回避しつつ、名草は自らの影を弾丸に変え、飛びかかってきた銀色のワニに撃ち放った。
    「薬殺――危険な猛獣は危険な毒薬でおねんねだよ」
     その巨体を現したシルバーワニが、もだえ苦しみながら下水の中でのたうち回る。弾丸に込められた毒が、その身を苛んでいるのだ。
    「こいつらを倒したら鰐殺しか。熊や猪はよく聞くがな」
     下水を撒き散らしながらのたうち回るシルバーワニに、朱香がストレートパンチを繰り出す。だが、その朱香に、水面からもう一匹のワニが飛びかかった。胴色の体色をしたカッパーワニだ。カッパーワニは朱香の足に噛み付き、下水の中に引き込もうとする。
    「させっか!」
     だが、そのカッパーワニの鼻先に、京介の跳び蹴りが炸裂した。カッパーワニはたまらず朱香の足を離し、水中に逃げ込もうとする。が、
    「わにさん、これで少しおとなしくしていて!」
     葉月の指輪から放たれた魔力が、カッパーワニの動きを鈍らせる。
    「こいつらは……アリゲーターか、クロコダイルか……どっちでしょ? まあ、どっちでもいいですけど」
     ベルデは動きの止まったカッパーワニの頭を踏み台に跳躍し、シルバーワニに手にしたナイフ――Maxwell's demonを突きつけた。シルバーワニが激昂し、ベルデに巨体をぶつけようと突進をかけるが、その突進は名草のライドキャバー“轟天”に阻まれてしまう。
    「いい感じに押してますねぇ。このまま一気に灼滅といきましょうか」
     敦真が鬼のそれと化した豪腕で、シルバーワニにさらに攻撃を加える。だが、全身を傷つけられ、毒に犯されてもなお、シルバーワニは戦意を喪失することなく、巨大な口で逆に敦真の腕に噛み付き、そのまま敦真を下水に引きずり込んだ。
    「上名木さん!」
     水中に潜ろうとするシルバーワニに、皐が左手に持つ槍を突き刺す。痛みに思わず口を開いたワニから解放された敦真は、素早くワニから離れ、通路に這い上がった。
    「びしょ濡れで、しかも臭いです。最悪ですね……」
     ぐったりした敦真に、名草が契約の指輪をかざすと、放たれた魔力が敦真に注ぎ込まれ、その傷を癒していく。
    「あとでESPでクリーニングしてあげるからさ、今はそれで我慢してよ」
     一方、カッパーワニを影の銃弾で牽制しながら、フォルケは周囲への警戒を怠ってはいなかった。今この場にいるワニは二匹。とすれば、残るゴールドワニは、どこかで不意打ちのタイミングを伺っているはずだからだ。
     そして、初めにそれに気付いたのは皐だった。
    「! みなさん、頭上に気をつけて!」
     皐の警告の声に、視線を上に向けた京介が、口をぽかんと開けてその光景を見やる。
    「天井を、這ってる!?」
     そこには、天井に張り付いた金色のワニの姿があった。本物のワニなら、考えられない動き。だが相手はあくまでワニの姿をした都市伝説なのだ。
     
    ●3匹が噛む
    「キシャアアアッ!」
     気付かれたことを察したのか、ゴールドワニは奇声を発すると、天井から飛び降りつつ、長い尻尾を振り回した。いくら余裕があるとはいえ、下水道の通路は狭い。その尻尾の一振りは、前衛でシルバー、カッパーの二匹と戦っていた灼滅者全員を強かに打ち据えた。
    「うわっと!」
     尻尾に打たれた衝撃で、ベルデの体が宙に投げ出される。あわや下水に落ちそうになったベルデの腕を、しかしすんでのところで葉月が捕まえた。
    「自分が下水に落ちるのも嫌ですけど、他の人が落ちるのも嫌です!」
     葉月の支えを受け、ベルデは空中で態勢を立て直すと、なんとか下水への落下を免れた。
    「いたたっ。ありがとう、助かりましたよ」
     ベルデが身を起こしつつ葉月に礼を言う。
    「ごめん、一人ずつしか治せないんだ。順番に治してくからちょっと待ってて」
     一方、後方にいたおかげでゴールドワニの攻撃を免れた名草は、契約の指輪をかざして皆の怪我を治していた。
    「すまない。まだ私は未熟だな」
     傷が癒えたことを確認し、礼を言う朱香。
    「あっ、わたしも手伝うよ!」
     葉月も、エンジェリックボイスで回復に加わる。
     一方3匹揃ったワニたちも、体勢を立て直していた。一番傷の酷かったシルバーワニにカッパーワニが太い足で触れると、見る見るうちにシルバーワニの傷がふさがっていく。
    「これで仕切り直しって感じですね。これからが本番ってことでしょうか」
     敦真が拳を構えながら呟く。
    「しかしうん、この色はオリンピックのメダル? それとも……小宇宙を高めておいた方がいいかな」
     どうでもいいことを考えつつ、名草もロケットハンマーを構えた。
    「事前に立てた作戦通り、まずは敵の守りの要である銀色を排除しましょう」
     フォルケの構えたセミオートライフルHk381-DMR"German Pointer"から銃弾が放たれ、シルバーワニの分厚い鱗を撃ち据える。
    「元々固そうだから、これは効くかも!」
     さらに葉月が、石化の呪いをシルバーワニに浴びせると、目に見えてシルバーワニの動きが鈍っていく。
    「固い皮膚だろうが、関係ない。殴る」
     続いて動いたのは、朱香だ。強烈なフックが、シルバーワニの比較的皮膚が薄い脇腹を打つ。
     だが、ワニたちもやられてばかりではいない。
     ゴールドワニが再び尾を振り回し、シルバーワニに迫っていた灼滅者達を牽制。その隙にカッパーワニがシルバーワニの傷を癒していく。
     それでも、手数は灼滅者達の方が上だ。その上、ワニたちには傷は治せてもバッドステータスを治す力はない。
    「ヤベ、なんか苛めてるみたいでかわいそうになってきた。あまり苦しませないで逝かせてやるよ!」
     京介が、シルバーワニの巨体を高々と持ち上げ、水面から無理矢理引きはがす。そのまま京介は、シルバーワニを下水道の壁面目掛けて投げつけた。壁面にヒビが大きく広がり、ワニの巨体が通路に崩れ落ちる。シルバーワニは、そのまま動かなくなった。
    「まずは一匹ですね。次の狙いは……」
     皐が見据えたのは、大きく口を開け、並んだ鋭い歯を見せつけているゴールドワニの姿だった。
    「キシャアアアッ!!」
     自分に狙いが向いたことに気づいたゴールドワニは、鋭い牙の並んだ口を大きく開き、先手必勝とばかりに皐に噛み付こうとする。咄嗟に無敵斬艦刀で受けようとした皐だが、間に合わず腹に鋭い牙を突き立てられてしまった。
    「天祢を、離せ。さもなくば、守りごと、打ち通す!」
     朱香の鋭いストレートがゴールドワニの鼻頭に炸裂し、ゴールドワニはたまらず噛む力を弱める。その隙に皐は後方へ飛び退いたが、腹部は服ごと噛み切られ、激しく流血していた。
    「皐はちょっと下がってなよ」
     京介が皐をかばうように前に出ると、その横に敦真も並んで壁を作る。血の匂いを嗅ぎつけたのかカッパーワニも皐に狙いを定めるが、
    「側面、カバー入ります……お付き合い頂きますよ」
     フォルケが巧みな射撃でカッパーワニの動きを妨害し、
    「さぁ……逃がしませンよ」
     急接近したベルデが手に持つナイフ“Maxwell's demon”で、カッパーワニの硬い皮膚をまるでバターでも切るかのように易々と切り裂いていった。
    「お願い、少しじっとしてて!」
     その隙に葉月の放った制約の弾丸が、前衛と乱闘を繰り広げていたゴールドワニを捉える。ゴールドワニの体が一瞬硬直した隙を逃さず、敦真が動いた。
    「完全に、動きを封じさせてもらいます!」
     敦真の影が蠢き、無数の触手となってゴールドワニを縛り上げる。ゴールドワニは必死に触手を振りほどこうともがきながら敦真を睨みつけるが、
    「どこを見ている」
     その間に急接近していた朱香のワンツーパンチが、ゴールドワニの眉間に炸裂した。
    「キシャアアアアアッ!!」
     ゴールドワニは一際大きな唸り声を上げると、そのまま全身を硬直させ、動きを止めた。
    「よっし、あと一匹!」
     京介が素早く攻撃対象を残るカッパーワニに切り替える。
     カッパーワニは流石に劣勢を悟ったのか、じわじわと後退を始めたが、
    「このっ! 逃がさないよ!」
     葉月の放った魔力がその身を徐々に石化させていき、
    「さぁて、お掃除――跡形もなく消えれば、綺麗になるよね」
     皐の治療を終えた名草が放った影が、カッパーワニを包み込む。
    「一匹たりとも、退却させるわけにはいきません!」 
     そして、武器を解体ナイフに持ち替えたフォルケが、ダメ押しとばかりにカッパーワニの四本の足を切り刻んでいった。
    「jack pot!」
     動きを封じられたカッパーワニにベルデが迫り、目に見えぬ速さでナイフを振るうと、ワニの全身から血が吹き出した。
    「まだ傷が回復しきれていませんが、先に止めを刺させてもらいます!」
     満身創痍のカッパーワニに、無敵斬艦刀を構えた皐が突っ込んでいく。カッパーワニは口を大きく開き、皐に噛み付こうとするが、
    「同じ手は二度と喰らいません!」
     皐はカッパーワニの口に斬艦刀を突き出す。ワニの口が閉じられ斬艦刀をくわえ込むが、皐は構わず斬艦刀を振り上げた。カッパーワニの口が内側から切り裂かれ、更に向きを変えて振り下ろされた斬艦刀が、カッパーワニの頭部を跳ね飛ばす。
     こうして、ワニとの戦いは終わりを迎えた。
     
    ●戦い終わって
    「いやあ、勝てて良かったねぇ。あはは〜」
     京介が明るく笑いながら伸びをする。
    「うん、とりあえず、ESP【クリーニング】を持ってきた判断は間違っていなかったと思う」
     敦真の服にクリーニングをかけながら、しみじみと言ったのは名草だ。
    「そういえば……食用ワニもあるそうで。味は鶏肉に近いとか、何とか。いや、下水ワニを食べようってわけじゃないですが」
     そんなウンチクを語るベルデが見守る前で、ワニたちの死骸は見る見る風化していった。これならば、一晩もすれば跡形もなく消滅しているだろう。
    「ふぅ、とりあえず。帰ってシャワーを浴びたい気分だな」
     朱香は早々に撤退を主張し。
    「……たまには銭湯寄って帰りますか~」
     フォルケの提案に、皆が同意する。
     とりあえず、しばらくは下水道になんか潜りたくはないと、全員が考えていた。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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