昼下がりの復讐劇

    作者:ねこあじ

    「今日も色々貢がれちゃったー♪」
     ショッピングで手に入れた物は可愛い物ばかりで、満足気に歩く、ののか。
     ののかの買い物コースは、公園の屋台で売られているフルーツジュースでシメとなる。
    「あっつい日は、オレンジだよねー」
     両腕に幾つもの買い物袋を掛け、ののかは公園内を散策しながらジュースを飲み、軽やかに歩く。
     そんな楽しい時間を阻害する者が彼女の前に現れた。
    「アモン様の仇だ……」
    「裏切りもののラブリンスター一派に死の制裁を」
    「はあ!? ちょっ、何なのよあんた達」
     出てきた男達に応戦しようと、ののかは動く。
     が、所詮は多勢に無勢。
     男二人を道連れに、彼女は倒れて息絶えてしまうのだった。


    「不死王戦争で灼滅されたアモンの勢力の残党が、また事件を起こすみたいなんだよね」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、うーん、と悩ましげな声を上げた。
    「どうやら、ラブリンスター配下となる淫魔に攻撃をしかけようとしているみたい。
     不死王戦争ではソロモンの悪魔と共に戦っていたラブリンスターが、先日、武蔵坂学園に接触してきた事で、裏切り者ー! と考えちゃったのかな」
     友好的ともいえるラブリンスターライブが行われた事は、まだ記憶に新しい。
     ラブリンスター一派の裏切り、または、不死王戦争の前からラブリンスターと武蔵坂学園はつながっていて、戦争の敗北は一派の策略だったのでは、と考えたのかもしれない。
     と、まりんは予想を告げた。
    「うん、ダークネス同士の戦いではあるけれど、アモン残党のソロモンの悪魔を倒すチャンスでもあるよね。
     だから彼らの灼滅をお願いしたいんだ」

     ソロモンの悪魔と配下となった強化一般人の灼滅が、今回の目的だ。まりんは説明を続けた。
    「強化一般人三体と、ソロモンの悪魔クロンは、魔法使いと同じサイキックを使ってくるよ」
     加えて、クロンは咎人の大鎌のサイキックも使用する。
    「ラブリンスター配下の、ののかはサウンドソルジャーと同じサイキックでソロモンの悪魔達と戦っているんだけど」
     言葉が途切れる。一呼吸置いて、まりんは再び話し始めた。
    「淫魔が倒された後だと、ソロモンの悪魔達は消耗しているの。そこを狙うと有利かも。
     もう一つ。淫魔と一緒に戦うと、結構楽に戦いを運べるかもしれないんだ」
     つまり、共闘か? という質問に、まりんは頷いた。
    「介入が可能となるのは公園内を歩いている、ののかの前にソロモンの悪魔達が現れた時。
     それよりも前に分かりやすく彼女に接触すると、ソロモンの悪魔達に逃げられるから注意してね」
     基本的に接触さえしなければ、問題はない。
    「ののかを守って戦う、彼女と協力してソロモンの悪魔と戦う、彼女が倒れてから消耗したソロモンの悪魔と戦う――どの方法が良いのかな……。
     ここはみんなの考えにお任せするね。
     だから、気を付けて、ちゃんと無事に帰ってきてね」
     そう言って、まりんは灼滅者達を送り出した。


    参加者
    伐龍院・黎嚇(龍殺し・d01695)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    野崎・唯(ご当地愛・d03971)
    アイナー・フライハイト(ひとかけら・d08384)
    イヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262)
    西原・榮太郎(夜霧に詠うもの・d11375)
    桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)
    南谷・春陽(春空・d17714)

    ■リプレイ


     アモンの残党が起こし始めた事件に対し、灼滅者たちの反応は実に様々であった。
     ダークネス同士の諍い――アモンの残党が淫魔を一方的に襲撃する場に入るのは、残党を灼滅する好機でもある。
     淫魔ののかを見つけた灼滅者たちは、潜みながら彼女の歩く先を見つめる。ジュースを飲みながら時折彼女が口ずさむのはラブリンスターのあの歌だ。
     紀伊野・壱里(風軌・d02556)は、ライブが行われた頃の武蔵坂学園の様子を思い返す。
     壱里はライブに参加はしなかったのだが、盛況だったみたいだな、という印象があった。
     それにしても、と壱里は考える。
    (「ダークネス同士の諍いか。甚だ面倒ではあるけど、アモン残党が武蔵坂に直接手を出してくるよりはいいか」)
     同じく、西原・榮太郎(夜霧に詠うもの・d11375)も身を潜めながら、淫魔の行く先を眺める。
    (「今のところ、ラブリンスターは友好的ですしね。守らなければ学園の名折れ、しっかり守りますか……」)
     思いながらも淫魔に対する警戒が消えるわけではない。ののかの動向には用心するつもりだった。
     その時、のどかともいえた公園に異変が起きる。
    「裏切りもののラブリンスター一派に死の制裁をっ」
    「はあ!? ちょっ、何なのよあんたたち」
     榮太郎は潜んでいた場所から飛び出す。
     次々に姿を現し、ダークネスめがけて駆ける灼滅者たち。サウンドシャッターを使用する榮太郎と共に、殺界形成も施された。
    「ちょっと待ったー!」
     一番近い場所にいたのは、野崎・唯(ご当地愛・d03971)だ。ちょうど登っていた木の下で、事が起こった。エアライドを使い、ののかの隣に着地する。
     南谷・春陽(春空・d17714)が、ののかと男たちの間に割り込んだ。
    「か弱い女の子に複数で乱暴するだなんて、男として恥ずかしくないのかしらね」
     ののかを庇うように立つ春陽、隣に立つ唯に、ののかは何となく状況を認識した表情を見せる。最低限、敵ではない、と。
    「何だお前ら! どういうつもりで邪魔を」
     強化一般人の言葉は続かなかった。銃の音、ほぼ同時に足元の土が弾けたからだ。
     バスターライフルで続けざまに威嚇射撃を行うのは、イヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262)。仲間がののかに接触するのを援護するべく、後方からソロモンの悪魔たちを狙っている。
    (「……まさか淫魔を守ることになるとはね。ダークネスとはいえ、この場では敵対関係にないし、利害が一致しているなら共闘しない手はないわね」)
     威嚇射撃で、アモンの残党たちを徐々に後退させた。
     この間に、伐龍院・黎嚇(龍殺し・d01695)が近付いていく。
    (「やれやれ、ダークネスを助けるなどという状況、学園に来た時には想像もしなかったぞ。龍殺しの伐龍院がダークネス共と仲良くなど……」)
     灼滅者の思うところは、実に様々。
     今は友好を結んでいる、と見ているラブリンスターの配下への説得。黎嚇は礼儀正しくののかへと話しかけた。
    「助けに参りました、こちらは我々に任せてお引き下さい」
    「助けに……?」
     桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)も、黎嚇に続き語りかける。十重は、ののかと目を合わせた。
    「桐ヶ谷個人の気持ちではありますが。アモン関係のあれこれに、思うところがとてもあります」
     ここで会ったが運の尽き、死出の旅への一里塚――すらすらと、十重は詠むように言う。
    「ヒーロー参上とまでは申しませんが、お嬢さん、奴らをぶっちめたいのでしたら共闘しませんか」
    「共闘……」
     灼滅者たちの言葉ひとつひとつを確かめるように、ののかは繰り返す。
     アイナー・フライハイト(ひとかけら・d08384)は、視線と体をソロモンの悪魔たちに向けたまま、やはりののかに話しかけた。
    「アモンの残党を倒すため、手を貸してほしい」
    「残党、ね。わかったわ、一緒に奴らをぶっ倒すわ」
     買い物袋を腕に掛けたまま、ぐっと握りこぶしを作る淫魔。ジュースがちょっとこぼれる。
     漂うオレンジの香りに、唯は顔を上げた。
    (「……私もジュース飲みたいなー、あ、メロンとか美味しそう!」)
    「ジュースは後で飲めよ?」
     絶妙なタイミングで割り込んだ言葉は壱里で、淫魔に投げたものだったのだが、何故か「うん!」と二つの声が重なった。
    「では、いざ出陣、ですね」
     榮太郎の言葉を機に、イヴの威嚇射撃が止み、戦闘開始となった。


     ナイフを振り上げるののかを、イヴはライフル越しに見る。接敵前に放たれた毒の風が、強化一般人に向かうのを確認した後、照準をアモン残党たちに合わせた。
     だが直後、黒き波動がイヴと唯、ののかを襲う。敵のボスであるクロンが放ったブラックウェイブ。
    「灼滅者どもか。ラブリンスターめ! やはり灼滅者ふぜいと手を組むのか」
     クロンは憎々しげに灼滅者たちを見据えた。
    「お前達の事情など知った事ではない、が」
     アイナーは妖の槍で強化一般人を穿つ。捻りを加えた一突き。
    「この機はこっちにも好都合でね」
     その捻りを解きながら引き払えば、穿たれた敵は地面に倒れ伏す。まずは一体。
     アイナーの行動に乗じて動くのは唯だ。縛霊手の祭壇展開の勢いに、身をびくっとさせつつも結界を構築。強化一般人の行動を阻害する。
    (「決めた! この戦いが終わったら、私メロンジュース飲むんだ……!」)
     何かのフラグっぽく唯は決意した。
    「この場は、桐ヶ谷が回復を受け持ちます」
     効率よく回復できるように十重が、同じく回復役の黎嚇に声をかける。
     配下の一人へと接敵した黎嚇は《白と黒の裁断者》で強化一般人を打つと同時に己の魔力を流し込んだ。
    (「淫魔とて今は友好を結んでいるが、この悪魔達と同じダークネス。いずれは――」)
     黎嚇は、素早く敵の懐から離脱し、続く爆発から逃れる。
     同時に十重はリバイブメロディで、イヴ、唯、ののかを回復、浄化させた。
    「白昼堂々、よくもまあ仕掛けられたものですねと申しますか」
     淡々と、若干、呆れの入った十重の声がふいに途切れる。
    (「別に、淫魔を助けたいわけでもないのですが。うぅん。しがらみが多いのは、面倒ですが致し方なく」)
     十重の癒しを与える行動に驚きの表情を見せるのは、ののかだ。まさか自身まで一緒に、とは思ってもいなかったのだろう。
     ライフルを持つイヴは、ライフルに影を宿し敵をぶん殴る。黎嚇の攻撃で爆ぜた部分を粉砕し、強化一般人は地面に崩れ落ちた。
    「二体目、撃破ね」
     AMR50『Nightmare』を抱えなおすイヴもまた、敵の間合いから離脱した。
     壱里は後方で陣取るクロンの牽制に動く。
     妖冷弾を放とうとすれば、盾役の強化一般人が立ち塞がり、壱里はそのまま槍を薙ぎ払った。
    「お前の相手は、こっちだ」
     すかさずアイナーが敵を抑えにかかる。壱里は槍を翻し、下方から振り上げて冷気のつららを撃った。綺麗な線が描かれクロンに命中する。
    「人間、灼滅者ふぜいめ。後ろの淫魔が恐ろしくはないのか!?」
    「俺は、淫魔とかいう連中とは縁が遠い。……それより、クラスや知人の女の子の方が怖いけどな」
     壱里はクロンに答えるが、後半は呟きとなり、ソロモンの悪魔までは届かない。
    「裏切りなんて誰が言い出したの?」
     逆に問いかける唯に、クロンは穿たれたつららを鎌で砕きつつ言った。
    「アモン様の仇は、ここで討つ。死人となる者が知ってどうする」
    (「相手の情報を収集出来れば、御の字なんですがねぇ」)
     榮太郎は、ののか、そしてクロンへと流すような視線を向けた。
     彼は円盾『白梅』を展開と共に大きく広げ、前衛の防御力を高める。
     強化一般人がフリージングデスを放ち、そのまま榮太郎は凍りつく魔法が発動されていく場所へと移動した。
    「あわわっ、さっ、寒い!」
     今にも攻撃されそうな唯を庇う、榮太郎。
     春陽もまた、イヴを守る。並行して春陽はののかへと小光輪を飛ばした。
     十重に続き、春陽も。自身の盾となる光輪を確認した淫魔。
    「気を使わなくってもいいのよ」
     見殺しにすることだって出来たはず、とののかは言う。
    「目の前の誰かを救いたいって、この気持ちは嘘じゃないから。私は私が正しいと思うことをするだけよ」
     春陽は笑顔で答えた。
    (「複雑な部分はあるけれど――きっと何とかなるわ。……大丈夫。何とか、してみせる!」)


     ののかはディーヴァズメロディでクロンを攻撃する。
     クロンは苛立ちながらも、今度は凍りつく死の魔法を近付く灼滅者たちへと発動させた。
     悪魔に乗じる配下が、魔法の矢を壱里に放つ。至近距離だ。
     避けきれない。
     そう判断した壱里は逆に進み出た。
    「くっ」
     矢を受けながらも、手にする槍で配下を突き飛ばす。
     相対する位置に移動していたアイナーが、飛び込んでくる敵に向かって影を放ち斬り裂いた。これで、配下はすべて灼滅。
     そのまま壱里は前進し、クロンに向かった。

     回復を行う黎嚇と、十重。
     盾となる、榮太郎と春陽の行う回復の援護により、灼滅者側の被害は最小限に抑えられている。
     アイナーが退路を断ち、クロンは逃走の術を失った。
     ここまでくれば、クロンごときの悪魔の灼滅は容易くなる。
     イヴは固定したライフルの上に腕を添えた。その手にあるのはガンナイフ。
    「援護するわよ」
     的確に、ことごとく、クロンの行動を封じていくイヴ。
     壱里はフォースブレイクを叩き込み、唯がオロチダイナミックで攻撃を重ねていく。
     大鎌を振るうクロンの動きを止めるのは、否、灼滅したのは榮太郎の制約の弾丸だった。
    「何故、淫魔の味方につく……灼滅者ふぜいが……っ」
     色々な見方がある。ダークネスにも、人間にも、灼滅者にも。
     今回動いたアモン残党たちは、一つのことしか見えていないのかもしれない。
     消滅していくクロンに、榮太郎は言う。
    「やることは変わりませんよ」
     今回はソロモンの悪魔――灼滅。


     黎嚇は、消滅する強化一般人に向かって十字を切る。ただの人間だったものは、ただの人ではない死に方をしていった。ダークネスが力を与えたがために。
    (「滅ぼすか、飼い慣らされるか。それ以外の結末はない」)
     黎嚇は、今回共闘した淫魔の方へと目を向ける。
    (「だが、もしそれ以外の可能性があるのだとしたら。その時、僕はそれを受け入れられるのだろうか」)
     今回の件が、今後どう関わってくるのか――。
     唯は、買い物袋とジュースを持ったののかを見上げ、尋ねる。
    「ののかちゃん、オレンジジュース美味しい?」
    「美味しいわよ。オススメよ♪」
     唯の後に、話しかけるのは春陽だ。
    「ののかさん、悪魔達はまたあなた達を狙ってくると思うわ。ラブリンスターさんにも警戒するように伝えて欲しいの」
     ののかは頷く。その様子に春陽は笑顔になり、言葉を続けた。
    「また襲われるかもしれないし、何かあったらケータイに連絡してね?」
     差し支えなければだけど、と春陽は控えめに連絡先を書いたメモをののかに見せる。
    「報告後の、そちらの動向も。出来れば伝えてほしい」
     アイナーも春陽と共に、連絡先を差し出す。
     ののかはそれらを受け取った。メモを眺めるその表情からは、何も読み取れない。
    「そうね、何か、あるのなら。じゃあ、そろそろ行くわねー」
    「待って」
     踵を返そうとしたののかを呼び止めたイヴは、片手を差し出した。
    「ありがとう、一緒に戦ってくれて助かった」
    「こちらこそ、助かっちゃった」
     イヴの求めに、ののかは応じた。互いの手が離れる瞬間、イヴは青の瞳で彼女を見つめる。
    「……あなた達がこのまま大人しくしていてくれることを祈ってるわ」
     イヴを見つめ返した後、ののかは微笑む。見え隠れする警戒心を好ましく受け取ったようだった。
     今度こそ背中を見せて立ち去っていく。敵意も警戒も見せない背中。
     それを灼滅者たちは見送った。
    「よーっし、メロンジュース買ってくるー!」
     淫魔にオススメされた屋台を求め、唯はダッシュする。これを合図に、灼滅者たちも帰路につくべく動きだした。
     本格的な暑さを前にした、熱を含む風が公園を駆け抜ける。
    「こうして出会ったのも、なにかのご縁です。つながるなら幸いですねえ」
     十重の言葉が、穏やかな昼下がりに浸透していった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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