ストーキンデビル

    作者:灰紫黄

     雨の降りしきる高架の下、異形の怪物とジャージ姿の少女が対峙していた。その周りを凶器を持った男達が囲んでいる。
    「困ったなぁ。ストーカーってヤツ?」
    「うるさい、裏切り者め。命はないものと思え」
     悪魔の号令に従い、男達は少女に襲い掛かる。少女はなんとかして逃げようとするが、悪魔の力のせいか、男達には魅了の力は効かない。
    「っ、サイアク……!」
     追い詰められ、最後には腹部を貫かれて絶命した。
    「やりました、アモン様! 必ずやラブリンスター一派を根絶やしにして見せます!」
     切り取った首を高く掲げ、悪魔はそう叫んだ。

     教室に入ると、口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)と猪狩・介(ボアラット・dn0096)がすでに待機していた。
    「不死王戦争で倒したアモンを覚えてる? その残党が現れたわ」
     また、不死王戦争ではラブリンスター勢力とも矛を交えた。彼女達がこちらと接触したことを知ったソロモンの悪魔達は、戦争の敗因を彼女達の内通だと考えたのだろう。アモンの仇として彼女達を粛清しようとしている。
     ダークネス同士の戦いではあるが、ソロモンの悪魔を倒すチャンスでもあるので対処してほしい。
     淫魔はジョギング中、高架下で雨宿りしていたところを襲われる。
     襲撃に現れるのはソロモンの悪魔が一体とそれに付き従う強化一般人が四人。悪魔は魔法使いのサイキックで、四人は解体ナイフで武装している。
     また、淫魔はサウンドソルジャーのものに加え、サイキックソードのサイキックを備えている。だが、放っておけば悪魔に倒されるのは間違いない。
     普通に戦えば戦力は五分。淫魔が倒され、消耗したところを狙えば有利に戦えるだろう。
    「もしうまく淫魔ちゃんと共闘できたら?」
    「戦力的には十二分よ。勝利は磐石、といった感じかしら」
     介の質問に、目は即答で返す。とはいえ、淫魔もダークネス。助けるには抵抗のある者もいるかもしれない。
    「淫魔を守って戦うか、淫魔が倒されてから戦うか、淫魔と協力して戦うか……選択はみんなに任せるわ」
     もしかすると、今後のラブリンスター一派との関係に影響を及ぼすかもしれない。どれを選ぶか、みんなで話し合ってみてほしいと目は付け加えた。
    「助けたら、淫魔ちゃんとヨロシクできるかな?」
    「いや、介くんが期待してるようなことはないから!」
     顔を真っ赤にして、目は一刀両断。答えを予想していたのか、介は笑って肩をすくめた。


    参加者
    不破・聖(壊翼の鍵人・d00986)
    樹・咲桜(ガンナーズブルーム・d02110)
    若菱・弾(キープオンムービン・d02792)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    オリヴィア・ルイス(プリスマヴェルデ・d09838)
    月村・アヅマ(蒼炎旋風・d13869)
    寺島・美樹(高校生魔法使い・d15434)
    契葉・刹那(響震者・d15537)

    ■リプレイ

    ●雨音
     耳障りな雨音が耳に届く。けれどそれ以上に気に障るのが目の前の悪魔達。男の一人がナイフを持って飛び出してきた。回避しようとするが、間に合わない。瞬間、高架下に轟音が鳴り響く。男の眼の前で、暴力的な形状のギターが地面に突き刺さっていた。
    「おらおらどきやがれ! 女一人に寄ってたかってガン飛ばしてんじゃねぇよ!」
     寺島・美樹(高校生魔法使い・d15434)だ。肩をいからせ、悪魔達を威嚇する。突然の事態に驚く淫魔に不破・聖(壊翼の鍵人・d00986)が声をかける。
    「だいじょぶ、……助けに来た。こいつらは、お前を狙ってる。……だから、下がってて」
    「美しい女性のピンチを救うのは紳士の務めってな。あんたは安全な所まで下がっていてくれ」
     続いて若菱・弾(キープオンムービン・d02792)も声をかける。淫魔を助けるのは政治的な目論みもあってだが、今はとにかく戦闘に集中する。
    「あんた達、何者なの?」
    「武蔵坂って聞いたことないかな? とりあえず今は君の味方ってことだよ」
     猪狩・介(ボアラット・dn0096)の言葉に、淫魔もようやく合点がいったようだ。状況を理解して、灼滅者達の後ろに隠れる。
    「そういうこと。あいつ等は俺達がなんとかする。任せてくれ」
     帽子を深く被りなおし、月村・アヅマ(蒼炎旋風・d13869)が言う。その間に介は支援に来てくれた仲間の誘導で淫魔を連れて離れた場所へ退避する。
    「逃がすか!」
     もちろん、ソロモンの悪魔も見逃そうとはしない。その前にオリヴィア・ルイス(プリスマヴェルデ・d09838)が立ちはだかる。
    「お嬢さん一人に寄ってたかってだなんて、見苦しいね」
     凛とした立ち振る舞いまるで女性を守る騎士のようだ。それが気に食わなかったのか、悪魔は吐き捨てる。
    「貴様らが守らんとしているのは卑しい淫魔。灼滅者ども、命が惜しければそこをどけ!」
     今まで枯れ木のようだった悪魔の体が膨張し、熊のような巨躯へと変わる。放たれる殺気もそれまでとは段違いだ。否応もなく、自分達より上位の存在だと理解させられる。
    「エラそうなこと言ってモ、よってたかってナンて随分やるコトちっさいネェ?」」
     それでも臆することなく、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)は薄く笑う。挑発の効果はあったようで、悪魔の表情に怒りの色が浮かぶ。
    (「ダークネス同士の抗争、出会うことは珍しいですが……積極的に害を与えようとしない淫魔を見殺しにすることは出来ません」)
     契葉・刹那(響震者・d15537)はナイフを持った男達と目を合わせないように気を付けながら悪魔を見据える。一般人に大きな被害を出したソロモンの悪魔を野放しにするわけにもいかない。
    「よーし、行くよ!」
     元気よく飛び跳ね、樹・咲桜(ガンナーズブルーム・d02110)はスレイヤーカードを掲げる。途端、黒い光沢を放つライフルが現れた。迷わず引き金を引くと、それが戦闘開始の合図となった。

    ●悪魔狩り
     戦闘が始まる瞬間、サウンドシャッターと殺界形成を発動する。雨の降る中ではあるが、普通の一般人は遠ざけておくに越したことはない。
    「――Fiat flamma」
     オリヴィアは祈るようにカードを掲げ、武装を呼び出す。鋼糸が手袋をはめた指先に絡まり、優美な曲線を描く。
    「教えてやる。アモンを殺したのは、俺達……武蔵坂学園の、灼滅者だ!」
     銀の刃が聖の周囲を踊る。発する言葉は悪魔への宣戦布告。灼滅者の、なり損ないの不遜な態度に悪魔はついに堪忍袋の緒が切れたようだ。明らかに平静さを欠いていた。
    「灼滅者ごときが! いいだろう、まずは貴様らから血祭りにあげてやる!!」
     悪魔の指先に光が灯り、次の瞬間には魔法の矢となって聖へと迫る。けれど、刹那が実を呈して攻撃を受け止めた。
    「あなたの相手は私です」
     刹那の両腕にオーラが凝集、砲弾として撃ち出す。追尾機能がある砲弾を悪魔は動じず受け止める。攻撃は命中してはいるが、堪えた様子はない。
    「SHOOT!」
    「この程度か、小童!」
     照準器が悪魔を捉えた瞬間、引き金を引く。咲桜のライフルから光線が放たれ、一直線に悪魔へ向かった。しかし悪魔は青い光を帯びた手で弾く。咲桜、刹那、オリヴィアの三人が悪魔を状態異常で抑える手はずになっていた。その間に強化一般人を片付ける作戦だ。
    「さて、まずは雑魚を片づけねぇとな」
     カードから呼び出したバトルコスチュームに身を包んだ弾は光の盾を展開。手近な敵を殴りつける。途端、一般人の表情が鬼の形相に変わった。
    「っ、このクソガキ!」
    「うっせぇんだよ、クソヤロウ!!」
     同じ一般人に美樹のギターが突き刺さる。相手もなかなかの強面だが、剣幕なら美樹も負けてはいない。当然、単純な実力でも。打撃を食らった一般人は高く宙を舞う。
    「……悪いネ」
     瞬間、朱那が柱を蹴って飛び上がる。高さはちょうど、宙を舞う一般人の真上。まとう服と同じ、極彩色の光剣が敵を切り伏せる。断末魔を上げる間もなく、強化一般人は紫の気体となって霧散した。
    「よし、あと四人だ」
     仲間に回復を飛ばしながらも、帽子の下の眼は鋭く男達を射抜く。今のところは順調だが、相手はダークネス。状況は予断を許さない。
    「ダンナ……っ」
    「臆するな。所詮はなり損ない、勢いがあるのも最初のうちだけだ」
     味方を倒され浮足立つ配下に、悪魔が檄を飛ばす。だが、そう言う悪魔の表情にも焦りがあった。やがて介と支援に来た仲間が合流すると、その焦りはより濃い色を見せた。

    ●調伏
     支援に来た仲間も、淫魔の見張りを兼ねた護衛以外は戦線に加わる。多勢に無勢、灼滅者達の猛攻が強化一般人を圧倒する。霊犬も入り乱れた攻撃は瞬く間に敵の数を減らした。
    「おのれぇ!!」
     怒りに燃える悪魔は、片手で印を作る。瞬間、大気から温度がなくなり、前衛の体を凍てつかせる。けれど、それすら厚い回復によって打ち消される。
    「万事休す、てやつだな?」
     回復も不要と判断し、アヅマも攻撃に転じる。片腕が鬼のそれへと変じ、大きな影を作り出した。巨木のような腕を渾身の力で叩きつける。攻撃を受けた悪魔の姿勢がぐらりと揺らぐ。その隙に、オリヴィアが懐に飛び込む。
    「悪魔の最期には、炎がお似合いだろう?」
     指から伸びる鋼糸が深紅の炎を帯びた。鋼糸は燃えながら緩やかに揺れ、炎の波となって悪魔の体を飲み込む。裂傷が刻まれるとともに、全身が炎に包まれた。
    「う、ああああああっ、この屈辱!! 言葉にすらならんわ!!」
     配下を倒され、自身も追い詰められている。認めがたい現実は、悪魔の怒りにますます油を注ぐ。なおさら勝利から遠ざかるとも気付かずに。苦し紛れに放った一撃でさえ、弾に防がれる。
    「その慢心が身を滅ぼしたんだろうぜ」
     弾が口にしたのは、おそらくアモンのこと。あるいは、あの戦いに参加した悪魔達全て。ナイフが鈍く閃き、悪魔の傷をえぐる。さらにライドキャリバーのが突撃。さらに傷を深めた。
    「ザンネン、もう後は無いヨ?」
    「がああぁっ!!」
     もう一度からかうように笑うと、悪魔は激昂して朱那を狙う。しかし、その瞬間には背後に回り込んでいた。身の丈よりも大きい、巨大な剣を振り下ろす。
    「はっきり言っといてやる。アモンが倒されたのはなぁ、たんにオメェらが弱いだけだ、バーカ!」
     叫び、ギターを振り回す美樹。悪魔の表情は怒りから絶望へと移ろっていく。彼の言葉言葉はとにかく、決定的だった。
    「……俺もそう思う」
     静かに同意し、聖は鞭剣を振るう。大事なものを守るには、それがなんであれ、弱くては仕方ないからと。
    「もう、終わりです」
     拳を固く握り、刹那は歌を紡ぐ。澄んだ歌声は物憂げな旋律を生み、悪魔の肉体を、そして精神を傷付ける。錯乱からか、あるいは別の理由からか、悪魔の目からは一筋の涙が落ちた。
    「邪悪なる者は消えよ!」
     今度こそ、咲桜のライフルが悪魔の体を捉えた。胸を光線に貫かれ、悪魔はその場に倒れこんだ。
    「申し訳ありません、アモン様。私は、私は……っ」
     言葉は最後まで続かなかった。途中で力尽きた悪魔の体は、配下と同じく紫の気体になって霧散した。

    ●そして淫魔
     戦闘終了後、淫魔はひょっこり顔を出した。
    「もう終わった?」
     護衛を担ってくれた仲間も一緒だ。十人以上の灼滅者が淫魔を囲むことになった。ジャージ姿でも匂い立つ色香は、若い灼滅者にとっては甘い毒だ。介を含め、鼻の下をのばす者がいてもおかしくはない。
    「怪我はないかい? セニョリータ」
    「ええ、ありがと」
     オリヴィアが問うと、淫魔も笑顔で答える。お互い、完全に味方とはいえないまでも緊迫した雰囲気はない。男子の浮ついた空気を別にして、だけれど。
     それから自己紹介を済ませ、顔と名前が一致したところで咲桜が切り出した。
    「ボクたちはあなたを助けるために武蔵坂学園から来ました。もし困ったことがあるなら言ってください。力になります」
     にこにこと朗らかな笑みを浮かべる咲桜。けれど、あくまで彼女の言葉はは個人的な意思。学園全体の合意ではない。それを淫魔も読み取ったようで、複雑な表情を浮かべる。
    (「ソロモンの悪魔と淫魔の本格抗争が起きればもっと犠牲が出てしまう」)
     と聖のように戦うのに理由付けが必要な者もいる。ダークネスに大切なものを奪われたなら、ダークネスを助けることに抵抗があるのも自然なことだ。
    「ラブリンスターさんに伝えてください。狙われていると」
     ソロモンの悪魔が淫魔を狙っている。ラブリンスターがどこまで把握しているかは不明だが、警戒を促す分には損はないだろう。少なくとも今はまだ、敵ではないのだから。仲良くできる可能性もあると刹那は考える。
    「しばらくは気を付けてくれよ。俺だってあんたには死んでほしくないんだ」
    「ナニ、口説いてるの?」
     弾の言葉の裏には、下心だけではない打算がある。とはいえ、下心もないわけでないのかもしれない。
    「ところで、聞きたいことがあるんだが」
     そうアヅマが尋ねたのは、最近現れたフライングメイド服のこと。けれど、淫魔は一笑に付した。悪気があったわけではないが、笑いをこらえることができなかった。
    「いやそれ、ホントにいるの? 私も見てみたいわー」
     とバカにした様子。何か情報を握っているように見えない。
    「あ、カエル!!」
     高架の下に飛び込んできたカエルを目ざとく見つけ、朱那が喝采を上げた。慣れた手つきであっさり捕獲。それを見て、淫魔が飛び上がった。
    「私、ヘビとかカエルとか無理なの! ちょ、あっち行ってー!!」
     慌てふためいて、美樹の後ろに隠れる。柔らかな何かの感触が背中に。自然と男子達の視線が突き刺さる。女子の視線も冷たく容赦なく突き刺さる。
    「美樹さん、そりゃないよ」
     と介。男子達もだいたい同意見。替われとか思っているに違いない。
    「知るか! 離れろ! こらぁっ!」
     抵抗したが、淫魔はなかなか離れることはなかった。美樹の叫びをかき消すように、ごうごうと雨音が響いていた。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 18
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