鬼襲

    作者:魂蛙


     閑静な住宅街の夜道を、飲み会帰りでほろ酔い加減の青年が歩いていた。街灯の間隔が広く、あまり見通しがいいとは言えないが、青年にとってそれが歩き慣れた家路であり、さして気にすることもない。
     夜の帳が落ちた住宅街は、どこまでも静寂に包まれている。そんな夜道に、怪音はよく通った。
     何かの足音だ。靴を履いた人間の物ではない。
    「野良犬か……?」
     いや、違う。もっと大きな、熊か何かの足音だ。
     青年が熊の足音を聞いたことがあるわけではないが、それは熊が走ってくる音、と形容するのが適切に思えた。
     ……走ってくる?
     それが近づいている事にようやく気付いた青年が、振り返る。
     そこに、鬼がいた。
     苔むしたような緑色の体にぼろ布を纏い、馬鹿でかい斧を担ぎ、油に濡れたざんばら髪を振り乱す、鬼。
     鬼は吊り上げた口角から涎を垂らし、口からはみ出す捻くれた牙に蒸れた吐息をぶつけ、皿のような目玉は全くぶれず一点を見据え、青年に向かって凄まじい勢いで駆けてくる。
    「あ」
     青年の胴体ほどもある大きな足が、青年を蹴り倒す。強かに頭を打って昏倒できた青年は、幸福であった。
     鬼は青年の胸を踏み押さえると、顔が裂けんばかりの笑みから規則正しい吐息とぬるい唾液を漏らしながら、青年を見下ろす。しかし見開かれた目玉は黄色く濁り、鬼から感情らしきものは見い出せない。
     不意に斧を持ち上げた鬼が、まるで餅でもつくかのように振り下ろし始める。振りかざし振り下ろす行為を、ただただ無心で繰り返す。
     一つ衝いては腕が飛び、
     二つ衝いては脚が舞い、
     三つや四つ五つ衝いて首刎ねる。


     園川・槙奈(そのかわ・まきな)は集まった灼滅者達に控えめに一礼し、説明を始めた。
    「獄卒……というのでしょうか。地獄絵図に描かれている鬼のような姿をした何者かが、深夜のとある住宅街を歩く人々を無差別に惨殺する、という事件が起きています。これ以上の被害の拡大を防ぐ為に、みなさんにこの鬼の退治をお願いしたいんです」
     この鬼と接触し、戦闘に勝利すること。それが今回の目標ということになる。
    「鬼の正体についてですが、まだ詳しいことはよく分からないんです。あの、ごめんなさい」
     彼女が悪いわけではないが、それでも槙奈は申し訳なさそうに頭を下げた。
    「鬼との接触方法ですが、鬼は住宅街の夜道、あまり明るくない道を歩く人がいると、背後から走り寄って襲いかかるようです」
     複数人が同時に襲われるケースもあり、灼滅者達は単独行動する必要はない、と槙奈は補足する。
    「ですので、皆さんも事件現場周辺の道を歩いていれば、鬼と接触できる筈です。背後から現れる性質があるので、みなさんが揃って同じ方向を向いて歩く方がいいと思います。出現する時間帯は午前2時から3時頃……所謂丑三つ時に現れるようです」
     鬼の足音は、話をしていても話し声に割り込んでくるかのように、不思議とはっきり聞こえるらしい。鬼が現れるまでの警戒は、主に耳でするのが確実だろう。
    「鬼と接触することになると思われる道は、車がどうにかすれ違えるくらいの道幅で、周囲には民家が建ち並んでいます。鬼が身の丈2メートル以上とかなり大柄なこともあって、あまり戦いやすい環境とは言い難いと思いますが、周囲の住民の方々に被害が出ないように、よろしくお願いします」
     鬼を民家に叩き込むような戦い方は論外として、鬼の攻撃対象は夜道を歩く者だ。家で眠っているであろう住人が外に出てこないようにさえすれば、被害は抑えられるだろう。

    「鬼は単独で行動し、他に敵となる相手はいません。大きな斧を武器として持っていて、使用するサイキックも龍砕斧の物によく似ています。加えて、咎人の大鎌のサイキックである虚空ギロチンに似たサイキックを使用してきます。これが特に威力が高いので、気を付けてください」
     単体とはいえ、鬼の戦闘力は相当に高い。灼滅者達が力を合わせて、ようやく互角に戦える相手であることを忘れてはならない。
    「被害の拡大を防ぐことは大事ですが、みなさんが無事に帰ってきてくれることも、とても大切なことです」
     槙奈は自分がもたらした情報のために、戦う覚悟を決めた灼滅者達を見つめ、少し辛そうに目を伏せる。
    「みなさんが無事に帰ってこられるように、精一杯お祈りしています。どうか、お気を付けて」


    参加者
    内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)
    由津里・好弥(ギフテッド・d01879)
    シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)
    井達・千尋(怒涛・d02048)
    天羽・冬希(ふゆくらげ・d03260)
    一二三・政宗(封神阿修羅・d17844)
    鍵鏡・蒼桜(天文得業生・d17890)
    青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)

    ■リプレイ

    ●後ろの正面
    「ううう、草木も眠る丑三つ時に見回りとか……」
     正体不明の鬼を退治するため、深夜の住宅街を歩く灼滅者達。一行の殿組の1人、内藤・エイジ(高校生神薙使い・d01409)は背後をちらりと気にしながらぼやく。夜道の見通しはあまりいいとは言えないが、今のところ異常はないようだ。
    「こんな事なら部室の炬燵でぬくぬくしていたか……いえなんでもありません」
     前を行く井達・千尋(怒涛・d02048)と目が合い、エイジは愚痴を中断する。
     単なる安全確認のつもりで何気なく振り向いただけで、千尋にエイジを咎める意図はなかったのだが、まあいいかと前を向き直った。
     傍らを静かに歩く霊犬の葛桜を見やり、千尋が呟く。
    「鬼退治に犬とか、桃太郎みてぇだな」
    「腰につけてるのは、きび団子じゃなくてランプだけどねー」
     千尋の後ろで笑いながら布で遮光したランプを揺らすのは、天羽・冬希(ふゆくらげ・d03260)だ。
    「ところで、政宗はアレ大丈夫だよね?」
     青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)がLEDライトで千尋の更に前を歩く、先行組の一二三・政宗(封神阿修羅・d17844)の背中を照らす。シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)と鍵鏡・蒼桜(天文得業生・d17890)の間で、政宗の頭は腰に提げたランプと同調するかのように、こっくりこっくりと揺れていた。
    「ちゃんと歩いてるし、大丈夫だと思うよ」
     半分眠りながら歩く政宗の顔を覗き込み、蒼桜はのほほんとしている。政宗の頭が縦揺れしているのは頷いているのかうつらうつらしてるのか、判断が難しいところである。
    「この時間じゃ眠いのも仕方ないけど、好弥だって起きてるんだし、ねぇ?」
    「私はちょっと、なんだか目が冴えてしまって」
     苦笑しながら問いかけた康徳に、由津里・好弥(ギフテッド・d01879)は、やや緊張気味の笑顔を浮かべながら頷く。
     と、その笑顔が今度こそ緊張で引きつった。
     足音だ。遠いはずなのにやけにはっきり聞こえる、何者かが走る音。
     それに気付いたのは好弥だけではない。灼滅者達は足を止め、近付きつつある足音に意識を集中させている。
    「ベトベトさんお先にお越しって言えばいいんでしたっけ?」
    「素通りされても困るけどねー」
     好弥と冬希には、冗談を言い合う余裕がある。
    「み、みんな、おおお落ち着いて! 練習どおりやれば大丈夫! 深呼吸してほら、ヒッヒッフー」
     エイジにはあんまり余裕がなさそうだ。
     テンパり気味のエイジのラマーズ呼吸も、皆の肩から無駄な力を抜くのに一役買ったようだ。灼滅者達は顔を見合わせてから、同時に振り返った。

    ●鬼笑い
    「うわぁ……凄い笑顔」
    「うっわ、超笑顔じゃん気持ち悪っ」
     持ってきた照明器具に巻いた遮光用の布を解き、感想までシンクロさせる冬希と千尋。
     暗がりの中を、疾走する鬼。闇に紛れてなお、その巨躯と笑顔には異様な存在感があった。
     灼滅者達が各自用意してきた照明器具が、周囲の光量を確保する。
    「うわ、大きい……」
    「図体デカいのにさ、背後から狙うとか卑怯だよ」
     仄かな憧憬を込めてシオンが感嘆の声を洩らし、蒼桜は憤慨する。
     いつの間にか目を覚ましていた政宗は、ぴしゃりと自分の頬を叩いて活を入れた。
    「政宗も目ぇ覚めたか? んじゃ、とっとと片付けようや」
     ぐいっとゴーグルをつけた千尋が、サウンドシャッターを展開する。
     狂気じみた笑みを満面に、まっしぐらに駆けてくる鬼。前に出て迎え撃つのは康徳だ。
    「緑装!!」
     スレイヤーカードの封印を解き、若葉色の装甲を纏った康徳が、鬼の行く手を遮る。
    「おおお!」
     康徳は茶柱ブレードを盾に鬼のその巨大な足を受け、衝撃に後退しながらも暴走を押し止める。
     完全に止められてから一瞬の間があり、ようやく受け止められた事に気付いたかのように鬼が足元の康徳を見下ろした。
    「あは」
     一切の感情を含まない、形だけの笑みから吐息が漏れる。
     鬼は康徳を踏みにじろうとするように足に力を込めつつ、その巨体に相応しい巨大な斧を振りかざす。
    「いざ、真夜中の鬼退治ー」
     緩い声が届いた時、冬希は既に鬼を間合いに捉えて跳んでいた。
     冬希が鬼の頭上を取ると、冬希の影が鬼に覆いかぶさる。瞬間、影が形を持って触手と化し、鬼に絡みつき、斧を持つ腕を縛り上げた。
     直後に飛び込んだのは好弥だ。
    「ふゥッ!」
     好弥は跳躍から鋭く息を吐いて申公豹を鬼の肩口に突き下ろし、稲妻のように波打つ穂先を捻り込む。そのまま肩を抉り、棒高跳びの要領で頭上を飛び越え背後に回り込んだ。
    「な、なんか絵でみるより迫力あるの……けど、頑張るの!」
     鬼が怯んだ隙に、康徳がバックステップで鬼の足元から退避する。そこに間髪いれず、シオンが制約の弾丸を放った。
     弾丸が鬼の脇腹を穿ち、鬼の動きが鈍る。
    「政道、鬼の力を封印せよ。鬼を封じ滅ぼすことが我が一族の使命」
     ビハインドの政道を伴い、政宗が駆け出す。前に出た政道が、振り下ろされる斧を躱して懐に潜り、霊撃を浴びせる。
     政道の背後、鬼の死角から飛び出した政宗の掌に、バトルオーラの光が集束する。政宗は両手を振りかざし、練り上げた光弾を鬼目掛けて叩き付けた。
     オーラキャノンを顔面に受けながら、それでも鬼の笑みは歪まない。斧を構えた鬼は、首を回してエイジを見据える。
    「あ、アッシでゲスか?!」
     鬼は全力疾走でもってエイジに答え、助走の乗せた斧一撃を叩き込む。
     エイジを弾き飛ばすと鬼はすぐさま反転し、斧を振り回しながら走り好弥を、冬希を、康徳を撥ね飛ばした。
    「その笑顔がキモいんだよ!」
     千尋がガトリングガンをぶっ放し、そこに葛桜が六文銭射撃で十字砲火を仕掛ける。
    「政宗君はエイジ君を!」
     冬希は救援態勢に入った政宗に声を掛けつつ、胸の傷に手を当て集気法で回復を図る。
    「あいつは、ここで灼滅しないと」
     傷の深さから鬼の力を直に感じ取った冬希は、立ち上がりながら呟く。

    ●斧振るい
    「星空の彼方より、彼の者に癒しの加護を!」
     蒼桜のヒーリングライトを受け、立ち上がった康徳はすぐさま飛び退いて鬼が振り下ろす斧から逃れる。
    「隙アリでゲス!」
     これを好機とばかりに、政宗の救援を受けて回復したエイジが、鬼の背後からリングスラッシャーを投げ放つ。鋭いカーブを描きながら飛んだリングスラッシャーが、鬼の背中を直撃した。
     鬼は斧を引き抜き、背中の傷をぼりぼりと掻く。それから振り返った鬼は、やっぱり笑顔だった。
    「ちょっとは痛そうな顔をして欲しかったでゲス……」
     エイジはぼやきながらも油断なく鬼との距離を保つ。反対に前に出るのは闇の契約を発動させた好弥だ。
    「鬼さんこちら、手のなる方へ……っと」
     好弥は無理には攻め込まず、鬼の間合いギリギリを出入りして鬼を攪乱する。
    「吹き来る風、さながら白刃の如く!」
     蒼桜の周囲を風が渦巻く。蒼桜は吹きすさぶ風を刃へと練り上げ、好弥に振り回されている鬼へと放った。好弥が退避すると同時に荒れ狂う風の刃が、鬼の体を切り刻む。
     鬼はその太い腕を振って風を打ち払い、尚も好弥に追いすがる。
     好弥はバックステップを刻んで鬼が叩き付ける斧を躱し、衝撃が撒き散らすアスファルトの破片から顔を庇う。
     地面に斧を引っ掛けた鬼は、柄を引き込みながら前に出る事で、好弥のバックステップよりも深く踏み込む。そのままクロールでもするかのように腕を回し、斧を引き抜きオーバーハンドで振り下ろす。
     咄嗟に申公豹を持ち上げ受けた好弥の両腕を、重い衝撃が襲う。痺れが残る腕は、斧を水平に振るう鬼の追撃に、対応が追いつかない。
    「駄目。させない」
     斧に自ら飛び込んだのは冬希だった。
     冬希は逆手に握った解体ナイフをカチ上げ、弾き飛ばされながらも強引に斧の軌道を上にずらす。
     難を逃れた好弥と入れ代わりで鬼の懐に飛び込んだ千尋が、ガトリングガンをフルスイングでぶん回して斧にぶち当てる。千尋はそのまま鍔迫り合いに持ち込み、ガトリングガンの銃身を押し込んだ。
     千尋はアスファルトを踏み割らんばかりに力を込め、突きつけたガトリングガンのトリガーを引く。
     ゼロ距離で銃口が火を噴き、鬼の胸を弾丸と火花が踊った。
    「あーくっそ、しぶてぇなぁ!」
     怯んで後退する鬼は、それでも倒れない。その満面の笑みから、ダメージの程度を推し量るのは困難だった。
     不意に、鬼が天を仰ぎ、慟哭した。笑みの形の口から響くその声は遠吠えのように、サイレンのように、空気を震わせる。
    「な、なんでゲスか?!」
     ビリビリと歪む夜空を切り裂くように、無数の斧が現れた。
     灼滅者達の頭上を埋め尽くし、ぬらりと光を照り返す満天の斧。その圧倒的物量に、躱すという発想が生まれる余地はない。
    「うふ」
     鬼の口から吐息が溢れ、直後に斧が降り注ぐ。
     狭い路上から民家の屋根の上に逃げれば、或いは躱す事もできたかもしれない。
     しかし、それを選択する灼滅者は、1人としていない。
     飛来する斧がアスファルトを抉り、砕く。巻き上がる砂塵に、灼滅者達の姿が飲み込まれた。

    ●追儺
     ゆるり、と砂埃が揺らいだ。
    「清き風の祝福よ」
     風だ。風が吹いている。
    「我の戦友の傷を癒し」
     灼滅者達に再び立ち上がる力を授ける、
    「勝利へと導け!」
     政宗が起こす清めの風が!
     直後、風に乗って砂塵を引き裂き飛び出した冬希が、妖の槍を鬼の胸に突き立てる。
    「戦闘中に背中を見せたがうぬの失策! 死ぬでゲス!」
     いつの間にか鬼の背後に回り込んでいたエイジが、炎を灯らせた手でリングスラッシャーを掴む。炎が燃え移ったリングスラッシャーを、エイジは逆水平に振り抜いた。
     日輪の如きリングスラッシャーに背中を焼き斬られ、鬼が斧を構えながら振り返る。
    「あ、ちょっとタンマ! 嘘ですよ嘘!」
     素早く脱兎の如く離脱するエイジ。結果だけ見れば、見事なヒットアンドアウェイだった。
     がら空きの鬼の背中を、好弥が申公豹で斬りつける。サイドステップで振り返る鬼の死角に回り込み、更に脇腹を薙ぎ払って離脱する。
    「効いてるんなら、ちったぁ痛そうな顔してみやがれ!」
     直後に飛び出した千尋が、一気に鬼に肉迫する。明らかに動きが鈍りつつある鬼の傷口を広げるように、千尋は容赦なく解体ナイフを振るった。
     シオンの周囲に、光球が生成される。シオンが力を込めて念じる程に、光球は数を増していく。
     シオンが目を見開くと、圧縮された無数の光球が矢の群れに形を変えた。
    「マジックミサイル、いくよ!」
     その隣で、蒼桜がバスターライフルを構える。
    「狙い撃つ!」
     マジックミサイルの群れが飛翔し、蒼桜がバスタービームを連射する。
     同時に康徳がコンクリート塀を駆け上がり、街灯に飛び乗り、踏み切って高く跳躍した。
     上空から放物線を描いて雨あられと飛来するマジックミサイルが、周囲の地面ごと鬼を穿つ。更にバスタービームが鬼を直撃し、2発、3発と鬼を後退させていく。
     よろめく鬼の頭上遥か高く、若葉色の光が灯っていた。跳躍の最頂点に達した康徳が、茶柱ブレードの刀身を撫でる。
    「茶柱が呼ぶ幸運を刃に乗せて、貫け一閃! ムラヤマイジャー――」
     若葉色の輝きを放つ茶柱ブレードを構え、康徳が急降下を開始する。
    「――ラッキィイイイ! ペネトレイトォッ!!!」
     全体重を乗せ切った康徳の刺突が炸裂し、茶柱ブレードが鬼の胸元を貫いた!
     康徳は刃を引き抜き、同時に鬼を蹴り跳んで後退する。
    「……あは」
     油断なく構える灼滅者達に対し、笑顔を浮かべたままの鬼の指先から、煙が立ち上る。まるで紙を炙るように、炎は鬼の全身へと広がり、形を保てなくなった鬼が燃え崩れていく。
    「……お前の在るべき場所に、還るがいい」
     灰と化して消えていく鬼に、蒼桜が祈りの言葉を紡いだ。
    「お疲れさん。あーくっそ真っ暗じゃん」
     鬼の灼滅を確認し、仲間達に労いの言葉をかけた千尋は、静けさを取り戻した夜空を見上げて毒づいた。そんな千尋の足元に葛桜が近寄り、千尋がその頭を撫でる。
    「ここの人達の帰り道、守れて良かったねー」
     冬希が緊張の解けた笑みを浮かべ、1つ息を吐く。
    「これで僕だけでなく、このあたりの人達も安心して寝られるようになりますね」
     冗談めかして笑う政宗。その隣で、緊張が解けた途端に眠気がきたのか、好弥が目をこすりこすりしている。
     それから灼滅者達は戦闘の痕跡をできる限り片付け、改めて一息つく。
    「んじゃ、夜道に気ぃつけて帰ろうぜ」
    「そうですね。僕たちの前に襲われた人がいないか、念の為確認しながら帰りましょう」
     千尋の言葉に政宗が頷き、灼滅者達が帰り道を歩き始める。その中で、シオンが足を止めて後ろを振り返った。
     そこに、もう鬼はいない。シオンは鬼が最期を迎えた路上を見つめ、小首をかしげる。
    「鬼が居るってことは、地獄もやっぱりあるのかな……?」
     言葉にしたことで実感が増したのか、首をすくめて粟立つ腕をさするシオンだった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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