裏切りの制裁はプールにて

    作者:白黒茶猫

    ●真昼の襲撃
    「よいしょ……よいしょ……」
     平日の真昼間。
     監視員の姿すらない室内の温水プールに赤いビキニ姿の若い女性が独り。
     25mのプールを歩幅や全身の動きを大きく歩き、何度も往復している。
     どうやらスタイル維持のための水中ウォーキングらしい。
    「ん……?」
     女性がぴくっと反応して顔を上げ、歩みを止めて視線をプール際に向ける。
     いつの間に現れたのか、5人の男性がそこにいた。
     プールだというのに水着も着ず、真っ黒なローブを纏った場違いな姿だ。
    「何、あんた達? このプールはあたしの貸切よ」
     それに気付き、動きを止めた女性がプールの中で男達に視線を向ける。
    「我々は泳ぎに来たのではない。……制裁を加えにきたのだ」
    「何のこと? あたしには心当たりが全くないんだけど」
     女性はちらり、と出口を伺うが、出口や窓は男達に塞がれている。
    「ふん、裏切り者のラブリンスター一派は全て同罪。貴様達をこの世から消し去り、我らを裏切ればどうなるか、ラブリンスターに思い知らせてくれよう」
     男の手から漆黒の剣閃が女性へと目掛けて放たれると、水飛沫が爆ぜる。
    「ちょっ……危ないでしょ!?」
     コウモリのような黒い翼で飛翔した女性……淫魔が慌てて回避する。
     退避すべく周囲を見回すが、淫魔を捉えようと漆黒の魔弾が次々と襲いかかる。
    「逃げ場などないぞ。貴様はここで消え去る運命なのだ」
    「いいわ……そっちがその気なら、やってやろうじゃない!」
     水に濡れた頬から冷や汗を流しつつも、淫魔は独りソロモンの悪魔へと挑んだ。
    「淫魔風情が。我々ソロモンの悪魔に勝てる道理はあるまいて」
     だがその結果は、酷く順当なものだった。

    ●教室
    「ふふふ、皆さん、集まりましたね」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が、集まった灼滅者達に柔和な笑顔を向ける。
     どうやら不死王戦争で灼滅したソロモンの悪魔、『アモン』勢力の残党が、また事件を起こすらしい。
    「今度はソロモンの悪魔が直接、ラブリンスターの配下の淫魔に対して攻撃を仕掛けようとしているようです」
     共闘していたラブリンスターが武蔵坂学園に接触した事を『裏切り』ととったのか、あるいは『不死王戦争の敗北はラブリンスターの策略だった』と考えたのかもしれない。
    「放って置いても人的被害は出ませんが、アモン残党のソロモンの悪魔を倒す絶好のチャンスです」
     姫子はにこっと笑顔を浮かべる。
     ソロモンの悪魔とは長さ25mの一般的な室内プールで戦う事になる。
     淫魔が一般人を追い払ったため、利用客だけでなく、職員や監視員を含めて一般人は誰も居ない。
     敵はソロモンの悪魔と、その配下の強化一般人が4人。
    「ソロモンの悪魔は魔法使いのサイキックと、黒い光の剣のような腕を武器にし、配下のほうは影業と契約の指輪で戦うようですね」
     ソロモンの悪魔が淫魔を直接相手にし、配下は回復や支援に努める、といった戦闘スタイルになるようだ。
     灼滅者と戦う場合でもこのスタイルは崩さない。
    「接触できるタイミングは二つ。一つは淫魔とソロモンの悪魔が戦い始めた直後です」
     このタイミングであれば、バベルの鎖に察知されることはない。
    「淫魔の戦闘力は高くありませんが、共闘すれば優位に立てることでしょう」
     共闘する場合は、サウンドソルジャーのサイキックに加え、見えない糸を使った攻撃を使う。
    「もしくは、皆さんが望むのであれば、淫魔を戦いに参加させずに守って戦うこともできます」
     その場合、灼滅者達とソロモンの悪魔の戦力はほぼ同等。
     有利も不利もなく、互角の戦いとなるだろう。
    「そしてもう一つは淫魔が倒された直後、ですね」
     淫魔が倒される頃には、数の上で優位に戦ったソロモンの悪魔も無傷ではすまない。
     消耗した状態であれば、かなり優位に戦えることになるだろう。
    「今回、皆さんは『淫魔が倒されてから、消耗したソロモンの悪魔と戦う』ことも、『淫魔と協力して戦う』ことも、『淫魔を守って戦う』ことも出来ます」
     灼滅者の選択次第で、戦況や状況は変わるだろう。
    「どうするかは、皆さんの判断にお任せ致します。皆さんで相談して決めてください。それでは、頑張ってきてくださいね」


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    椎名・茜(明日はきっと向こう側・d03875)
    ウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)
    エリ・セブンスター(ボンクラーズハート・d10366)
    兎津木・永慈(紅瞳の射手・d10893)
    玖継・彬(月喰の華・d12430)
    祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)
    法螺・筑音(名無姿ノ道化・d15078)

    ■リプレイ


    「じゃすたもーめんと&ストップザやつ当たり!」
     淫魔がコウモリの翼で飛翔し、戦い直前の張り詰めた空気を裂くように椎名・茜(明日はきっと向こう側・d03875)が叫んで割り込む。
     その声で淫魔とソロモンの悪魔達の動きが僅かに止まり、灼滅者に注意が向く。
    「いくら淫魔相手だからって、5人がかりはちょいと盛り過ぎじゃねーの?」
     法螺・筑音(名無姿ノ道化・d15078)は軽口を叩きながらおどけてみせる。
    「アンタ達は……!」
    「義を見てせざるはなんとかかんとか細かい事情はさておいて、そこの淫魔の人。わたし達が助太刀するよ!」
     茜が黒ローブの強化一般人を雷を纏った拳で殴りつけながら、淫魔へと叫ぶ。
    「女の子が襲われるところを黙って見ている訳にもいかないからね。さあ、行こうかハチ」
     兎津木・永慈(紅瞳の射手・d10893)が眼鏡を外し、ハチと共にソロモンの悪魔に視線を向ける。
     癒しの矢でエンチャントを付与しつつ、霊犬『ハチ』が強化一般人へと退魔神器による一撃を加える。
    「また変なこと企んで……ソロモンの悪魔っていまいち好きになれないんだよね」
     エリ・セブンスター(ボンクラーズハート・d10366)がため息混じりに呟く。
     ソロモンの悪魔としては大義名分があるつもりなのだろうが、傍目にはやつ当たりにしか見えない。
    「手を貸してやる……奴――アモンへの借りを清算するためにな……」
     叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)が思い詰めて病んだような敵意をソロモンの悪魔へと向けながら淫魔へ言う。
    「見捨てるのは気が引けますし、戦力は多いに越したことはありませんからね。共闘と行きましょう」
     ウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)が強化一般人の防具を斬り裂きながら、淫魔へ共闘を申し込む。
    「淫魔さんはわたくしの宿敵――ですが。今回は敵対する理由ないですし、力を貸し合えれば」
     玖継・彬(月喰の華・d12430)が前衛に『夜霧』を纏わせつつ、宿敵と肩を並べて戦う事に複雑な思いを抱きつつも、頷く。
    「共闘ですって? ちょっと、勝手に決めないでくれる!?」
    「申し訳ないけれど細かい話はまた後で……とりあえず、先ずこの局面を切り抜けないと」
     永慈が魔法の矢を放ちつつ、噛み付く淫魔を制して戦う意志がないことを告げる。
     軽く淫魔から距離を置いて視線を敵から逸らさないのは、大人のお姉さんな淫魔が少し怖いせいだ。
    「アタシ達が前に出るからサポートは任せたよ」
     エリが淫魔にそう告げて盾を構えながら前に飛び出し、淫魔を狙うソロモンの悪魔の注意を引きつける。
    「って、だから人の話を……っ! くっ、しょーがないわね……」
     淫魔は淫魔への警戒や敵意を見せない灼滅者に面を食らった様子を見せたが、気を取り直してソロモンの悪魔へ向く。
    「別に、アンタ達に助けて貰うわけでも、アンタ達を助けるわけでもないんだからね!? そこは間違えないようにしときなさい!」
    「分かってるってば♪」
     淫魔は口うるさく叫びつつ地上――奇しくも彬の近くへと降り立ち、メディックとして歌う体勢を整える。
    「ソロモンの悪魔、あなたは灼滅させていただきます!」
     祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)が変化させた巨腕を凄まじい勢いで叩き込み、強化一般人を吹き飛ばす。
    「残念だけど他の所もみんなアタシ達の仲間が潰させてもらったからね、変なののいうこと聞くからだよっ」
     エリがびしっとソロモンの悪魔を指差し、挑発する。
    「何だと……? ラブリンスターに組する灼滅者共が……随分と淫魔どもに手懐けられたものだな」
     ソロモンの悪魔の『灼滅者はラブリンスターの手先』という勘違いは解消されていないようだ。
    「別に助ける義理もねーんだが、敵の敵は味方とも言うしな?」
     筑音が指輪から放たれる魔法弾で、ソロモンの悪魔の身に制約を刻む。
    「親分格がやられたことを恨んで、同盟組んでいた相手にやつ当たり。しかも、相手のトップを攻めずに徒党を組んで構成員を襲うって……情け無いぞ、ソロモンの悪魔の名も無き下っ端!」
     茜がソロモンの悪魔を指差しつつ、挑発するように叫ぶ。
    「逆恨みも甚だしいことですまったく……」
     ウィクターがやれやれと言ったように心底呆れた声を出す。
    「ふん、なり損ない共がよく吠える……下賎な淫魔共に躾けられただけあって、なっておらんようだ」
     ソロモンの悪魔はぴくりとこめかみを動かしつつも冷静に振舞う。
    「挑発し返すのは苛立っている証拠、ですね。つくづく小物らしいです」
     更に呆れた、とウィクターがため息を付く。
    「アモンに連なるというなら、殺す。それが俺の借りの返し方だ……一凶、馳走してやる……」
     宗嗣が振るう剣が、強化一般人をまとめて斬り裂きつつその剣閃は鋭さを増していく。
     宗嗣はいつかの日、アモンと直接対峙しつつも倒せなかった悔恨を力と変え、その借りを返すために剣を振るう。


    「灼滅者風情が調子に乗りおって……よいな、お前達。あくまで今回の目標はあの裏切り者だ。灼滅者共は適当にあしらえ」
     数の利が失われたのを見てとったソロモンの悪魔は配下に命じ、配下は無言で応じる。
    「裏切り者とか、逆恨みも良いところじゃないかな」
     その言葉を聞きとめ、永慈が呆れたように声を出す。
    「ふん、庇い立てか。これは正当な報復……貴様らもいずれ報いを受けさせるが、今はその時ではない。大人しく順番を待っていろ」
     だがソロモンの悪魔の振るう漆黒の剣閃は、執拗に淫魔を狙い続けていく。
     傷つきつつも妄信的にソロモンの悪魔のサポートを優先する強化一般人によって術力が増した一撃は重い。
    「悪いけど、そういうわけにもいかないんでねー」
     悪魔に刻んだ制約は即座に癒されてしまったため、筑音は続けて自らの影で縛り上げる。
     だがそれも続く強化一般人の力によって解かれていく。
    「先にこっちを片付けないといけませんね」
     彦麻呂は鞭の様にしなる剣を高速で振るって強化一般人達を纏めて切り裂き、その剣閃は更に鋭さを増す。
    「俺の邪魔をするな……!」
     宗嗣が苛立ち交じりに、薄らと蒼に染まった刃を持つ解体ナイフ、『無銘蒼・禍月』でローブとその下の防具ごと斬り裂く。
    「まずは一人、ですね」
     続けてウィクターが弱った強化一般人を居合の一太刀で斬り伏せた。
    「やっぱりあのエンチャントは厄介だね。ハチ、行くよ」
     永慈が狙い済ました彗星の如き矢を放ち、ハチがそれに続いて術力を打ち破る。
    「届きません……わね」
     時折攻撃してくる強化一般人によるダメージを癒そうとするが、彬の集気法では前中衛には届かず、夜霧隠れだけでは集中したダメージに対して少々心許ない。
    「ったく、しょーがないわね……アンタ、狙われてるのはあたしなんだから、しっかりあたしを治しなさいよっ!」
     淫魔が彬へと叫びつつ、傷ついた茜をその歌声で癒す。自分より灼滅者の治癒を優先するらしい。
     時折エリへ分散されているが、ソロモンの悪魔の攻撃のほとんどを受ける淫魔の傷は大きい。
    (「共に戦い、癒し合う……もしかしたら、分かり合えるのかもしれない……けれども」)
     彬はその傷を癒しながら、宿敵と共に戦う違和感と共闘感に、迷う。
     しかし首を振り、その迷いを振り払う。
    (「自分のありようが揺らいでるようで、ちょっとこれはダメですわね。しっかりしないと」)
     胸の前で拳を握り締め、意志を強く持つ。
    「……共に戦う事はあっても、宿敵――敵ですもの」
     この共闘はただ利害の一致しただけの、一時的なもの。
     灼滅者とダークネスは相容れないのだと、強く自分に言い聞かせた。


    「さあ、これで残るはあなただけだよ!」
     最後の強化一般人を叩き伏せた茜がソロモンの悪魔へと向き直る。
    「チッ、使えん手駒だ……だがここまできて、おめおめと引くわけにはいかん……ッ!」
     ソロモンの悪魔は意固地になっているのか、逃げるそぶりすら見せず、淫魔へ激しい敵意を向ける。
    「ふん、上等よっ! 返り討ちにしてくれるわ!」
     淫魔は傷つきつつも、息巻く。
     淫魔は灼滅者なら凌駕してなお倒れる程の傷を負いつつも、まだ倒れていないのはさすがダークネスといったところか。
     とはいえ、癒えない傷は蓄積している。
     淫魔の生死は問わないとはいえ、共闘した以上倒させるつもりはない。
    「ほらほら、こっちだよ!」
    「えぇい、目障りな……ッ!」
     エリは攻撃を引き受けるべく、盾での一撃をソロモンの悪魔に加え注意を自分へ向け、攻撃を引き受ける。
     更に縛り上げる影や刻まれる制約が蓄積し、ソロモンの悪魔の動きが目に見えて鈍りだした。
    「これで!」
    「おのれ、おのれ……ッ! 淫魔に誑かされた灼滅者風情が……ッ」
     彦麻呂の強烈な鬼腕の一撃を受けて追い詰められたソロモンの悪魔が、恨み言を吐きながらよろめく。
    「アモンに連なるモノは殺す……。例外はない、死ね……」
     そこへ病んだ冷徹な目をした宗嗣が、『無銘蒼・禍月』をその身を貫き立てる。
    「バカ、な……ッ! この私が、淫魔風情と灼滅者如きにやられるなど……ッ! アモ、ン……さ、ま」
     そしてソロモンの悪魔は、この世から灼滅された。
    「アモンの忘れ形見、確かに貰った……一応、礼は言っておく」
    「なんでアンタが礼を言ってるのよ。フツー逆……というわけでもないけど! アンタが言う事ではないわ。あたしも言わないから言わなくて良いの!」
     消滅を確認し、思い詰めた表情を少し和らげた宗嗣が淫魔に礼を述べると、淫魔はツンと返した。


    「……彼女はこれからどうするんでしょうね?」
     戦いが終わり、ウィクターが淫魔の様子を伺うと、淫魔もこちらを見ていた。
     やがて意を決したように灼滅者達に近づき、目線をやや下に向けつつ口を開く。
    「あー、っと。なんてゆーか……意外ね。灼滅者ってもう少しダークネス憎しってか……警戒すると思ったわ」
     淫魔が彬にちらりと視線を向け、言葉を選ぶように言う。
    「アンタ達にとっては、そっちの悪魔もあたし達も、一緒でしょ。後ろから撃たれるとか、考えなかったの?」
     淫魔は恐る恐る、と言った感じでそう聞いてきた。
     灼滅者達は淫魔を警戒するそぶりを見せなかった。
     灼滅者としては未来予測で淫魔と敵対することはないと分かっていただけなのだが、淫魔としては無条件に信頼された、とでも感じたのだろうか。
    「……いやまあ、淫魔の人もダークネスで倒すべき相手なんだけど。でも、今人を襲ってないのなら、とりあえず棚上げ! 目標に向かって努力するって姿、かなり好きだしね♪」
    「同じダークネスでもラブリンスター派ってなんか憎めない感じがするからね」
     茜とエリの言葉に、淫魔は狐につままれたような顔をする。
    「ふん……そんな事で信用するなんて、バカね」
     満更でもないような顔で、淫魔はほんのりと柔らかく笑った。
    「でも、別に親切心で助けたわけじゃない。そのうち、返してもらうからね」
    「……別にあたしだって、助けを呼んだ覚えも、助けて欲しいなんて言った覚えもないけどねっ」
     だが彦麻呂の言葉で、すぐツンとした態度に戻る。
     ツンツン対ツンツン、だろうか。
    「まぁ……アンタ達が来なかったら、やられてたのはあたしのほうだった、とは思うわ」
     淫魔は灼滅者達に目を向けずに、口を尖らせて頬を染めながら言う。
     続けて何かを言うかと思ったが、淫魔は照れたようにそっぽを向いてるだけだ。
     この淫魔なりに、お礼を言ったつもりなのだと気付いた筑音がけらけらと笑う。
    「別に礼なんざいらねーよ。明日にゃアンタが標的かもしれねーんだし、な?」
     筑音はそう言いつつも敵意のない、へらりとした笑みを向ける。
    「ふん……今言った事は、ラブリンスター様には伝えないでおいてあげるわ」
     それに淫魔はきょとんとしつつ、悪戯っぽく笑みを返した。
    「……どう見てもただの暑苦しいローブだよね。むしろ汗臭いローブだ」
     エリがバベルの鎖突破する力でもあるのかと、残されたローブを調べてみるが、結果は芳しくない。
     学園に持ち帰って調べてもらおうかと考えたところで、淫魔が声をかけてきた。
    「で、アンタは何してるのよ?」
    「だって、貴女のバベルの鎖がことごとく突破されてるでしょ? だから何かバベルの鎖を突破する秘密があるんじゃないかなって」
     エリの言葉に、淫魔が首を振る。
    「あのね、バベルの鎖の予知だって完璧じゃないの。予知できる時もあれば予知できない時もあるのよ」
    「うーん……それって?」
    「相手の数や力、目的が全部わかる時もあれば、なんとなく危ないってだけだったり、誰か来る事はわかっても目的はわからなかったり……タイミングだって色々よ」
     今回は『ソロモンの悪魔が来る事は直前にわかったが、目的まではわからなかった』ということらしい。
     淫魔の言葉にエリ達は考えを巡らせる。
     エクスブレインの未来予測通りに動いてバベルの鎖に引っかからないようにした自分達だったが、今回ソロモンの悪魔も偶然引っかからないような動きをした、ということだろうか。
     その『偶然バベルの鎖に引っかからない動き』を、未来予測によって導き出すのがエクスブレイン、ということだ。
    「あの調子じゃ他の娘達も襲われてるでしょうけど、事前に予知して逃げたり、仲間を連れて撃退した娘もいるでしょうね」
     つまり、灼滅者がエクスブレインの未来予測に従わなかった時と同じ。
     そして事件が起きなければ、エクスブレインも予測できない。
    「ってゆーか、アンタ達の動きこそ全く予知できなかったんだけど。そんな発想するってことは、そっちには突破する秘密でもあるの?」
    「いや、あははー……あ、アタシちょっと水中ウォーキングやってみたいんだけどオーケー?」
     悪戯っぽく言う淫魔にエリは誤魔化すように言う。
    「冗談よ。まっ、仮にそんなのがあっても聞かないであげるわよ。あたしは興味ないし。それと、プールは好きにしなさい。私は帰るけど」
     淫魔はエリに興味なさげにひらひらと手を振って更衣室へと向かう。
    「今度会う時も呉越同舟になるか、それとも敵になるか知らないけど、ね」
     途中で振り返ってニヤリ、と淫魔がダークネスらしい笑みを浮かべた……
    「ねえねえ、ちょっとお茶でもしていこう♪」
    「ってあたしのカリスマ溢れる空気を崩すなっ!? てかなんであたしがアンタと仲良くティータイムしなきゃならないのよ! あたしは忙しいの!」
     が、その空気を壊すように、去り際の台詞に戦いたくないという想いを察した茜が明るく話しかける。
    「そんなこと言わずに、せっかく知り合えたんだし、電話番号とかメールアドレスの交換とかしよ♪」
    「アイドルがほいほい連絡先を教えるわけないでしょ! ……まぁ、見習いだけど……って付いてくるなってばー!?」
     騒がしく、淫魔は駆け去っていった。

    作者:白黒茶猫 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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