雨呼ぶは灰色の強者

    作者:時無泉

    「戦え」
     突如現れた男は、青年を冷たい目で見下ろし、抑揚のない声を発した。

     雨はしとしとと、まるで何かを名残惜しむかのように降り続く。
     青年――つい先ほどまで、雨の中をジョギングしていた彼は、目の前にすっくと立つその男を見上げる。
     優に2mはありそうな巨躯。生気のない、土色の顔。身体の輪郭は雨に溶け、今にも消えそうな感じを受けるが、しかし同時に、男の内側からはどろりとした圧が放たれている。
     消えそうな気配と、圧倒される存在感。その奇妙な矛盾を、男は素知らぬ顔で成り立たせている。
    「戦え。そして俺を、倒せ」
     凛とした声。男の呼吸がわずかに荒くなる。
     青年は答えを探すように自らの手元を見つめ、それから再び男の顔へ目をやる。無表情の男の目が青年を捕らえている。青年は男から目を離さず、ずれるように後ろへ下がり始める。
     だが、その選択は正しくなかった。
     青年の体がふらつく。足がふわりと浮き、かと思えば青年は背中から地面に打ち倒れる。頭は体と分裂したかのように、少し遅れてがくんと揺れた。
     ただ突っ立っていたはずの男は、いつの間にか一方の拳を真っ直ぐに突き出していた。
    「逃げるな。正面から戦え。強さを、見せろ」
     青年の上から、抑揚のない声が雨とともに降り落ちる。青年はその声に立ち上がろうとする。胸の辺りを抑えてひどくむせながら。男はその様子を、何をするでもなくただじっと見つめる。
    「お前……、何なんだよッ……!」
     青年が走り出す。振り上げる拳。狙いは男の腹。男は、拳をただ待っている。
     そして。
     青年の全身全霊の拳を、男は片手で受け止めた。壁のように微動だにしなかった。
    「しかし」
     男は青年の握り拳を父のような威厳を持って手の平で包み込む。そして、空いていた手で青年の腕をむんずと掴む。
     青年の手首が、一気に青ざめていく。
    「……足りんな」
     青年は空のペットボトルのように軽々と放り投げられた。
     数秒後の、それを勢いよく踏みつぶしたようなべしゃりという音は雨のノイズにかき消えていく。
     大男の灰色の背は、深く濡れていた。

    「アンブレイカブルが、近々現れるようです」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は窓の外の雨をちらちらと気にしながら、灼滅者達にそう告げた。
     灰色の服に身を包んだ、土色の肌の大男――まるで象のような、と姫子は呟く。
    「彼は必ず、雨の降っている時に現れて、そして見込んだ方に勝負を挑んでいます。力比べ、と言うか、何の捻りもないシンプルな勝負ですが……それによって犠牲者も出ています」
     肩を落として、姫子は震え交じりの息を吐いた。
    「今回、このアンブレイカブルと接触できる機会を掴みました。ですから、皆さんにはこのアンブレイカブルを灼滅してほしいと思っています」
     姫子は地図を広げると、ある一点を指し示した。
    「アンブレイカブルは、この河川敷で、ジョギングをしていた青年に勝負を申し込みます。青年とアンブレイカブルが接触した時が、皆さんの介入のタイミングです」
     そのタイミング自体は、近くで待ち伏せておけば問題はないだろう、と姫子は言う。
    「ですがアンブレイカブルは、あくまで青年と勝負をしようと思ってきたはずです。ですから、接触するときには何か工夫をしないと、アンブレイカブルは皆さんに興味を示さないかもしれません」
     灼滅者達が向かったとしても、青年は犠牲になり、アンブレイカブルは逃げていく――そんな最悪の事態も十分考えられる。
    「彼はストリートファイターとロケットハンマーのサイキックをいくつか、使用するようです。……それから」
     もし、アンブレイカブルが灼滅できそうにない時は、と姫子は苦々しく言葉を続ける。
    「彼の納得するような戦いをしてください。そうすれば、しばらくは新たな勝負をしかけようとは思わないはずです……」
     その言葉に顔をしかめた灼滅者に、姫子は微笑みかける。
    「もちろんこれは万が一の話です。皆さんならきっとできると信じていますから」
     どうかよろしくお願いします、と姫子は深く頭を下げた。


    参加者
    八重樫・貫(疑惑の後頭部・d01100)
    花檻・伊織(懶惰の歌留多・d01455)
    病葉・眠兎(年中夢休・d03104)
    森・緑郎(ビビットグリーン・d03602)
    皇・なのは(へっぽこ・d03947)
    藤堂・焔弥(赤鉄の鬼神・d04979)
    永瀬・京介(孤独の旅人・d06101)
    海千里・鴎(リトルパイレーツ・d15664)

    ■リプレイ

    ●序
    「戦え」
     雨の音、そして荒ぶった水の流れる音。空は低く灰色で、川は水位も高く淀んでいる。
     雨に紛れるようにして、突如現れたその巨躯。
     青年がその灰色の男――アンブレイカブルを見上げて、少し体を引こうとしているのがわかる。
    「我が名は『雷神』」
     八重樫・貫(疑惑の後頭部・d01100)が静かに唱えれば、それを皮切りに、八人の灼滅者は青年と男の間に割り込んだ。
    「ちょっと待った。無力な一般人捕まえて、それは無ぇだろ」
     藤堂・焔弥(赤鉄の鬼神・d04979)はそう前置いて、男の方へ一歩、進み出る。それこそ人間対戦車みたいなもんだぜ――と苦笑しながら、ミリタリーブーツを履いた足で地面を慣らす。
    「俺達とかオススメですよー?」
     貫は先ほど解放させた縛霊手の雷神具ヤールンなんとかを軽く振り、挑発するように男を見上げる。青年へ攻撃が及ばないよう、相手の出方も慎重に伺いながら。
     皇・なのは(へっぽこ・d03947)は小さな体で青年の前に陣取り、いつ攻撃が来てもいいように構えている。
    「敗北が知りてぇなら俺等が教えてやるよ。但し、俺等の授業料は……高くつくぜ!」
     焔弥が足を開いて膝をわずかに屈めた――かと思えば、彼の右腕が真っ直ぐ、鉄の如く男を襲う。
    「さあ、それじゃ旅を始めようぜ」
     同時に最後方で様子を見つめていた永瀬・京介(孤独の旅人・d06101)が動く。後ろから、すくい上げるように青年を抱え上げ。
    「まずは逃避行だけどな。……騒ぐんじゃねえよ、舌噛むぞ」
     青年を逃がすため、京介が走り出す。
    「さーて、デカブツ! こっから先は僕様たちが相手してやるぜ!」
     海千里・鴎(リトルパイレーツ・d15664)が焔弥の隣で手の関節をポキと鳴らしたかと思えば、勢いよく男を殴りつける。
     不意に攻撃された男は表情一つ変えずに、とりあえず、といったように一歩後ろへ引く。それから、男はやっと口を開いた。
    「一体、なんだ?」
     彼はそう問うた。淡々とした声だった。青年と引き離されたことに嫌悪感を抱いているのだろうとは推測できるが、確信まではできない。男は無表情で、戦闘の構えも取らずただ突っ立っている。
    「邪魔されて不機嫌かも知れないけど、少し考えて欲しい」
     一瞬の沈黙の後、口を開いたのは花檻・伊織(懶惰の歌留多・d01455)だった。
    「俺たち八人がかりでやっとあなた一人と互角の筈。勝つか負けるか不可知な、貪婪な命の遣り取りこそ、もっとも満足の得られるものになると思うけど、如何かな?」
    「……弱いモノ虐めなんて、無粋でしょう? 私たちなら――貴方を楽しませて差し上げますよ……?」
     男の真正面にいる病葉・眠兎(年中夢休・d03104)もそう続ける。彼女の体からは、常人ならば近づくことすらできぬような、そんな殺気が発せられている。
    「誰でも良いわけではない」
     男がさらりと言い放つ。その返答に、森・緑郎(ビビットグリーン・d03602)がリングスラッシャーを展開させて、いつでも射出できるように相手を睨む。
     青年を逃がし終えた京介も合流し、後は敵が逃げぬ前に攻撃するのみ。
    「お前たちは、なぜここにいる? 雨だというのに、傘も差さず」
     男はそう問う形式をとった。が、実際はその答えを求めているようではなく、のらりくらりと、強まる雨脚を気にも止めず言葉を紡ぐ。
    「まあ、大事なのは、お前たちに、雨の日に出会ったということだ。……それに」
     男の小さな黒の瞳が、灼滅者達を捉える。
    「……なるほど、悪くはないだろう」
     男が短く、一気に息を吐く。そして片方の拳をもう片方の手で握り込む。
     男の雰囲気が変わった――放たれる圧に、貫はニット帽を深く被りなおす。
    「来い」
     無表情だった男の口元が、わずかに綻んだように見えた。

    ●破
    「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
     ぱしゃ、と緑郎の足元の水がやけにその場に不釣り合いなかわいらしい音を立てた。緑郎は跳んだ勢いのままに龍砕斧を振り上げる。
     そのモーションに、男はその場から動かずに腕だけを少し上げた。
    「そうだよ、あの人と戦うより、私の方が断然楽しいよ!」
     緑郎の後を追って、なのはが槍を低姿勢に構え、走る。
     上から降ってきた緑郎の斧を、男は両手で受け止める。しかし足元の槍までは避けきれず。
    「ふん……」
     掴んだ斧を緑郎ごと地に叩きつけてから、男はなのはへと拳を握る。
    「こっちだ!」
     男の視界に貫が割り込んだ。
     直後男の拳が、貫の腹を突いた。鎧で固めたように重い一撃。縛霊手で受けようとするも、その男の動きは巨躯に見合わぬ素早さだった。踏みとどまろうとする貫の意に反して、身体は男から滑るように離れていく。
     思わずその強さに貫の口元が歪む。頭にはどんな攻撃を受けても壊れない盾――自分が目指すそれを思い浮かべつつ。動きを最小限にとどめて、脳を高速化させる。
     手の空いた男へ、すかさず伊織が踏み込む。槍片手に、それを螺旋を描くように男へ突き出す。
    「俺は皆ほど戦いの心意気を重んじる訳でもないけど。ただ礼節はわきまえているつもりだ……」
     男は槍が体へ突き刺さろうとする、その直前で槍を握りしめた。伊織はもう片手を槍に添えて、息を吸う。
    「正面からがお望みなら、喜んで応えよう」
     男を突くべく、じりじりと敵に近づく。しかし男に握られた槍の位置は、宙でびくともせず。結局、男がその槍を放り投げるようにして伊織を退けた。
    「ほら、そこ、隙だらけですよ……」
     伊織が離れた直後、眠兎がエネルギーの盾を叩きつける。眠兎が男に最も接近したその時、男が彼女を睨む。
    「支援は任せろ、アンタらは存分に戦え!」
     京介が叫ぶ。前の七人を隠すように夜霧を展開、男の瞳がわずかに左右に揺れ――その間に焔弥が霧を抜ける。
    「倒してほしいんなら。そうしてやるのが『宿敵』としての流儀だろうぜ」
     ミョルニルと名の付けられたそのロケットハンマーを、自分の一部の如く軽々と操り、振り上げる。
     男はハンマーに潰される前に、鎚を殴りつけてそれの軌道を変えるが。
    「僕様は海賊だ! お前と死合う相手としちゃ十分だろ!」
     鴎が走る。走り高跳びのように跳躍して、金髪の三つ編みを跳ねさせて。繰り出した鴎のアッパーカットが男の顎にめり込んだ。

     男は灼滅者の攻撃を避けようとすることはまずなかった。
     灼滅者の拳を、力を、一つ一つその身に受けては払いのける。まるで戦いの相手の力量を見極めているかのようだった。
     前衛が七人という積極的な隊列であっての状況。最初は灼滅者達の回復もぎりぎりで行われていたが、何度も拳を交わすにつれ、少しずつ男に疲弊の色が見え始めてきた。
     貫が拳を握り、振りかかる。男はその拳も、両手で受けた。しかし、少し――半歩もないほどではあるが、男の体が後ろへ滑る。
     その手ごたえに、貫が思わず男の顔を見上げる。男は無表情で、何を考えているかわからない。
    (「俺は……俺の強さを示す」)
     貫がぐっと拳に力を込める。男は動かない。結果力が跳ね返り、貫はそれを利用して一度男から距離をとる。
     男が貫へ追撃しようと手を握り込む、そこに伊織が立ち塞がった。軽いフットワーク、からの拳の連発。畳みかけた攻撃は、最初のうちこそ体にヒットするものの、途中ふいに手首を掴まれ、動きを止められる。
    「俺もね、こういう時ばかりだ。何もかも汚濁から抜け出でて、無心に生を謳歌出来るのは」
     不利な状況であるのに、それでも伊織は、心の底からこの戦いを楽しんでいた。柔らかい微笑が、あなたはどう、とでも尋ねんばかりに男に向けられる。
     男は何か言おうとしたのか口を開くが、代わりにぎこちなく、口の端をほんの少しだけ上げると、手首から伊織の体を持ち上げる。そのまま彼の体が投げられようとする。
     しかし突如、河川敷に響く爆音。男の周りの雨が一瞬にして蒸発し、白い影のように蒸気が揺らめく。男の肩には、炎の弾丸が貫いた跡があった。
     弾丸の飛んできた方へ男が視線を走らせる。そこにいたのは黒光りしたガトリングガンを向けた焔弥だった。
     その間に解放された伊織が、一発男へ拳を見舞う。
     男の顔が、苦々しく歪む。そして彼の次の一手は、感情に任せたかのような、荒い拳の一撃で――狙いは、眠兎。
     咄嗟に眠兎はシールドで自らの体を庇おうとするが、展開はわずかに間に合わない。
     荒いとはいえ、かなりの威力。眠兎の細い身体は易々と宙を舞い、そして背中から、濡れた地面に叩きつけられる。
    「湿ってるけど大丈夫……だ」
     雨に濡れ、滲みつつある護符を京介は握りしめ、その癒しを眠兎へ飛ばす。
     眠兎はそれを受け取り、ゆるゆると立ち上がる。
    「……きゃは!」
     彼女が浮かべていたのは、抑えきれないといったような狂笑。先ほどの男の攻撃が彼女のスイッチを入れたのか。濡れた背中も、次に彼女が飛び込んだ水溜まりが跳ねるのも、気にも留めず。眠兎がぱしゃりと一歩進めたその足元で、影が垂直に上へと膨らんだかと思えば、途端に細く敵へ伸びてその片腕を縛り上げる。
    「よし、攻めの一手あるのみだぜ!」
     緑郎がその好機に、自らの拳を目の前の灰色の敵に叩きつける。雨の一粒一粒が弾け飛ぶような、その勢い。
     男が一瞬ふらついたところを、鴎は見逃さず、男の腕をむんずと掴んで放り投げる。
     男は膝を使って柔らかく着地する、しかしその正面には、なのはが立っていた。
    「小さいからって侮ってもらっちゃ困るよ」
     なのははどこか自慢げに笑い、独特の歩法で男へ近づき――拳を雨の如く浴びせかけた。

    ●急
    「……なるほど、確かに強い」
     灼滅者達と間合いを取り、肩の辺りを払うような仕草をしてから、灰色の男は呟いた。
     強くなってきた雨が男と灼滅者とを叩き、水のノイズは彼らの傍で轟々と鳴り渡る。そして自分の呼気の音だけが、やけにはっきりと耳に残る。それらがまるで世界から彼らだけを切り離しているような、そんな感覚をもたらす。
    「今日は良い、雨の日だ」
     そして男は、にわかに肩を丸め始める。
    「何か来るぞ……!」
     皆に注意を促したのは京介。直後巨体が高く宙へ跳び上がり――そして、隕石を思わせる落下。
     地が揺れ、風のような衝撃波が生まれ。それが前の七人を襲う。立っていられず倒れ込むほどの力。が、すぐに後方からふわりと、癒しの夜霧が灼滅者達を包む。
    「ああ、本当に……良い戦闘日和だ!」
     皮肉を込めて、焔弥は立ち上がりミョルニルを振りかぶる。男は前と同じように殴りつけようとするが。
     そこで、ハンマーの撃鉄が降りた。仕掛け通り焔弥のハンマーからは鉄杭が飛び出し、それが男を穿つ。
     そこへ緑郎が濡れた足元を踏みつけて、男へ駆ける。
    「この雨は俺好みだぜ! シビれやがれ、抗雷撃!」
     緑郎のアッパーは男の左頬に決まる。
    「そうです……全力で来なさい、この戦闘狂ッ!」
     シールドを纏うように展開させた眠兎が、男へ突進していく。赤い瞳は雨など視界に捉えず、ただただ映しているのは灰色の男のみ。体ごと倒れかかるように、眠兎はシールドバッシュを食らわせる。
    「にはは、雨の中の闘いもたまにはいいかもね」
     なのはは疲労も見せず楽しそうに、自分の体と変わらないほどのロケットハンマーを、振り回す。ハンマーの柄を軸にしたその特徴的な動きは、逆にハンマーに振り回されているような、そんな印象すら受ける。
     男はなのはへ殴りかかろうとする。が、その拳は空振りに終わり。
     横に振られたなのはのハンマーが、男の脇腹に直撃する。
    「いっくぜェ!」
     額の水を拭った鴎が、へっと歯を見せて笑い、男へと突っ込みながら拳を振り上げる。
     男はそれを、身を後ろに引いて避けようとした。鴎の拳は、男の胸の辺りを掠めていく。(「これ以上の犠牲者は出させない。ここで止める」)
     同時に、貫が高く跳躍する。雨の中で彼の拳が雷撃をまとう。さながら彼自身が雷の化身であるかのように、男を狙い落ちていく。彼の拳は男にぶつかり弾けた。がはっ――と空気の塊が男の口から漏れた。
    「そろそろオレも見せ場ってのを貰わねえとな!」
     その声に、男は目を見張る。今まで回復に努めていた京介が、雨音に紛れて接近していた。そして京介は長い緑の髪を揺らし、また男の前から消える。否、跳び上がっていた。
     見上げた男に京介は笑み、上から黒の斬撃を放つ。男は京介を重力のままに地面へ叩き落とそうとする。
     が、既に伊織が男の懐へと突っ込んでいた。伊織のスピードに、男は対処できない。
     伊織は微笑を浮かべたまま、男を斬り裂いた。
    「……楽しかったよ。あなたはどうだった?」
     鮮血が舞って、やがてそれすらも跡形もなく消えていく。
     問いの答えは、返ってこない。

    「お前の心意気、生まれ変われたらもっと良い方に使うんだな!」
     男が消えたその場所で、鴎は自身の拳を握りしめる。
     彼らの息は荒く、体力も限界まで来ている。それでも灰色の脅威の灼滅をやり遂げた。
    「言葉が断片的で分かり辛ぇ奴だったな」
    「そういえば、何で雨の日だったんだろう? 服が肌について嫌じゃない?」
     焔弥がつい口を滑らせると、なのはも服の裾をつまんでぱたぱたと空気をいれながら疑問を口にする。
     眠兎はというとすっかり元のテンションに戻っていて、自分の背中を懸命に覗き込んでは服が汚れてしまったことに落ちこんでいるようだった。
    「この雨のように水に流れて消えちまいたいってことだったのか……?」
     京介が空を見上げる。空はあの男と同じ灰色をしていた。本当のところはもう誰にもわからない。
     ――はっくしょん。
     気まずい沈黙をふいに貫のくしゃみが破った。濡れた体が冷えたのだろうか。気付けば、雨は随分と小降りになっていた。
     焔弥は軽くほぐすように首と肩を回してから、何となく手のやり場に困ってか、近くにいた緑郎の肩をぽんと叩く。
    「何か腹減ったな。よし、皆ウナギ食いに行こうぜウナギ」
     今年の夏はいろんな意味で熱くなりそうだしな、などと焔弥は唐突に言って、そして一人歩き出す。
     あ、ちょうど私もそれ思ってたんだ、と。なのはは残りの灼滅者達を一回り見渡してから、焔弥の後を追う。
     雨の季節も明け始めた。夏は、これから。

    作者:時無泉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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