世紀まつどのマッドシティ! 松戸モヒカン怪人!

    作者:若葉椰子

    ●時代が世紀末で止まっている者たち
     千葉県松戸市。
     首都東京の葛飾区や江戸川区より川ひとつ越えただけという近距離にあり、古くより東京(江戸)と寄り添って栄えてきた街である。
     県下でも上位を争うほど賑わいのあるこの都市だが、それに従い犯罪の発生件数が多くなっているのもまた事実なのだ。
     人は、かの街を面白半分に犯罪都市マッドシティと呼ぶ。
    「ヒャッハー! 水だァー!」
    「誰かー! ひったくりです! 捕まえてー!」
     今日もまた、この街で犯罪者の雄叫びとあわれな弱者の悲鳴がこだまする。
    「ヘッヘッヘ、こんな良い水は俺達が飲んでやるのが礼儀だろ? なぁ?」
    「ちげぇねぇ!」
     げらげら笑いながら走り去る、モヒカンで革ジャンな男たち。
     取り残された被害者は、うなだれながら泣き寝入りするしかないのだ。
    「……リッター20円もしない安売りのミネラルウォーター奪って、何が楽しいんだろうねあの人」
     
    ●世紀末でなくとも色々と騒動の絶えないこの世界で
    「松戸市ってたしかに犯罪件数は多いんだけど、犯罪率になおせば千葉県でもまんなかくらいなんだよ。ほんとだよ!」
     説明の前に、松戸がそこまで恐ろしい場所じゃないと強く主張する名木沢・観夜(小学生エクスブレイン・dn0143)。
     松戸市が世紀末と言われてるのは冗談だってみんな分かってるから多分大丈夫ですよ。……大丈夫ですよね?
    「でも、この松戸市内でたくさん悪いことをして、何があっても『松戸市だから仕方ないなー』って思わせようとしてるダークネスがいるんだ」
     それが今回のターゲット、松戸モヒカン怪人である。
    「いつも街中にあらわれるみたいなんだけど、偶然人気のない場所にでてくる様子をキャッチできたんだ!」
     観夜が地図を広げ、ひとつの空き地を指差す。昼間の決まった時間にこの空き地へ行けば、人目を気にする事なく怪人と接触出来るというわけだ。
    「モヒカン怪人はよくひったくりをしてるみたいで、とくに水とかたべもの、タネなんかをよくねらってるみたいだよ。……なんでかはわからないけど」
     ちなみに、外見的特徴としてはまずモヒカン、そしてトゲ付きの肩パッドに革ジャンという出で立ちらしい。
     やべえ、一周回ってカッコいい! もう立ってるだけで職務質問を受けてもおかしくない外見である。
    「おなじようなカッコの強化一般人を四人くらい連れてるみたいだけど、みんなその外見に合った強さだからさくっと倒せると思うよ」
     哀れ、ザコモヒカン。ちなみに隊列はザコモヒカン四人が前衛、モヒカン怪人が中衛という様子らしい。いかにもモヒカンらしく前のめりだ。
    「強化一般人のほうは毒付きのナイフをふりまわしてるだけだけど、モヒカン怪人は火炎放射器みたいなもので攻撃してくるから気をつけて!
     自分が危なくなったら、それを力任せに叩きつけてくることもあるみたいだよ」
     攻撃もモヒカンに恥じない無骨なもののオンパレード。特にモヒカン怪人は割としぶとく、続けざまに火を浴びればひとたまりもないだろう。
    「なんだかヒャッハーとかいってて弱そうにみえるけど、相手はいちおうダークネスだからね! くれぐれも注意して!」
     最後にそう締めくくり、観夜は手を振って灼滅者達を見送った。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888)
    橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)
    句行・文音(言霊遣い・d12772)
    異叢・流人(白烏・d13451)
    篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)

    ■リプレイ

    ●世紀末と踊る者、世紀末を見守る者
    「……なあ、一つ聞いていいか? 俺たちの今いるここは、西暦2013年の現代日本だよな?」
     梅雨空から一変して本領を発揮する太陽、街のアスファルトと鉄筋コンクリートから反射して放出される熱、そしてそれを受け止める湿気をはらんだ蒸し暑い空気。
     あらゆる要素がここは日本だと物語っていたが、異叢・流人(白烏・d13451)はある一点において疑問を抱かずにはいられなかった。
    「へっへっへ、お前ら良いモン持ってんじゃねえか、そいつはここを通るための通行料として頂くぜぇ?」
     その要素とは、すなわちモヒカン。紛うことなきモヒカン怪人ズであった。
    「ま、待ってくれ! どうかこの種だけは! このヒマワリは人類の希望になるんだ……!」
     モヒカンズがげらげらと下品に笑うなか、橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)は気合の入った被害者アピールを見せる。
    「ほう、奪えるモンなら奪ってみィや。生憎と、タダでくれてやるちゅー事はないけどな?」
     それとは対照的に、種籾の入った袋を見せつつ挑発しているのは句行・文音(言霊遣い・d12772)だ。
    「ザコがイキがったところで痛くも痒くもあらへんけど、真の世紀末はここではない事、知らしめんとなァ?」
     戦意を隠そうともしない文音に、今まで圧倒的弱者を相手にしてきたモヒカンズが若干たじろぐ。
     お互いが緊張感に包まれ、一触即発の空気が空き地を支配する。しかし、それを破ったのは予想外の出来事だった。
    「何で強者同士の決戦みたいな空気出してるんすか? モヒカンならモヒカンらしく『ヒャッハー! そんな事関係ねえ! 俺は種を奪うぜェー!』くらい言うモンすよ!」
     突如見守る位置から乱入したアプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)が、呆然とする両陣営の間を巧みにすり抜けて種を奪いにかかった。
    「じ、人類の希望が……って今明らかに灼滅者サイドから奪っていったよね!? モヒカンサイドに回ってる人いたよね!?」
     アプリコーゼの奇行に、演出で弾き飛ばされた清十郎も思わずノリツッコミ。しかし君達、実にノリノリである。
    「テメエら……俺達をおちょくりやがって! ぶっ殺ォす!」
     一連の余興に、モヒカンズはいたくご立腹の様子。でも仕方ないよね、ここまでお約束だもんね。
    「待てぃッ!」
     そしてお約束と言えばこの展開。篁・アリス(梅園の国のアリス・d14432)がわざわざ塀の上から太陽を背にして立っているではないか!
    「具体的に罪状を読み上げるのもめんどいから何かわるいやつめ! チバラキ同盟のよしみで水戸ヒーローのわたしが相手だよッ!」
     殺気を振りまきながら颯爽と口上を述べつつ飛び上がり、見事着地を決めるアリス。断罪の言葉が割とアバウトな辺り、モヒカン達への扱いがどの程度のものなのか分かろうというものだ。
    「あー、うん。名古屋のご当地ヒーローとしてはあんまり関東の事情とか分かんないんだけど……こういうのがいる辺り、本当に世紀末シティなのかな」
     続いて控えめに名乗りを上げるミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)は、ある意味でモヒカンズの狙い通りな松戸市への偏見を持ちつつあった。
    「頼むから変な勘違いしないでくれよ。ああいう手合いが特殊なだけで、松戸はいたって普通の場所だぞ」
     すかさずフォローを入れたのは、この地を少なからず知っている月雲・悠一(紅焔・d02499)だ。
     いやホント、普通の場所ですよ松戸。信じて下さい。
    「……まあ、あんなダサいカッコしたのが街に溢れてるワケないよね、うん」
    「……ああいうカッコしてても、ちゃんと良い奴はいるんだよ。俺の知り合いとか」
     微妙に脱線した会話を続ける二人。割と似たもの同士な事もあり、意外と良いコンビではなかろうか。
    「こまけぇこたァ良いンだよ! 行くぜ、Lockn load!」
     放っておくといつまでも本題に入らなそうな灼滅者達を急かすように、ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888)が臨戦態勢に入った。
     ちなみに彼女はモヒカンでこそないが、肩パッドまで付けたパンクな格好をしている。地味に流行っているんでしょうか、世紀末ルック。
    「さァ、祭りの時間だ! ブチ殺せィ!」
     宣言と同時に生じたいくつものマズルフラッシュが、戦闘の開始を何よりも雄弁に物語っていた。

    ●激闘、世紀まつどのマッドシティ
    「啼く空に応えて詞は紡がれる……! 纏えィ!」
     負けじと叫びつつ封印を解除した文音が、己の拳を頼りに突き進んでゆく。
     ザコモヒカンの一人にターゲットを絞ったその打撃は、いとも容易く相手を貫いた。
    「さあモヒカン共よ! 怖くばこの腕を食いちぎってでも抗え!」
     早くも一体を葬った文音の挑発に、モヒカンズもようやく自分たちの立場を思い出したのか激しく応戦を始めている。
    「……しかし、こんなモノで本当に釣れるとは驚きだ」
     役目を果たした水入りのボトルをしまい、流人はナイフにこもった呪いの力を開放する。
    「お約束を順守するあたり好都合で憎めんが、灼滅すべき存在なのは変わらん。押し通らせてもらう!」
     ザコモヒカンと同じく、ナイフと毒の組み合わせ。しかし流人の放つものは規模が違っていた。
     続けざまに放たれた一撃がモヒカンズへと襲いかかり、当たりどころの悪かった一人はそのまま呪いのうちに葬られていった。
    「テメェら、情けねェぞ! 俺が戦い方ってヤツを見せてやるぜェ!」
     反撃を仕掛けるモヒカン怪人を筆頭に、まだ動けるモヒカンズが炎と刃物の波状攻撃を繰り出していく。
    「甘いっすよ、その程度効かないっすね」
     しかし、それを余裕の口調で受け止めつつ回復へと繋げるアプリコーゼ。
     もっとも、彼女だけは三下根性を出しているのか、無駄にボロボロになっているのだが。
    「ハラショォォォォ! お互いが全力で殴り消耗する戦い! 最ッ高じゃねェか!」
     もはやテンションが最高潮のツェツィーリアの叫びとともに、シリアブレナヤ・ブーリャ……銀色をした暴風の名を冠する無骨な円柱も咆哮をあげる。
    「さあテメエら死ぬまで踊れ踊れィ! でないと折角の演奏が無駄になっちまうからなァ!」
     鈍器としても使えそうなそのガトリングガンを振り回した後、弱っていたザコモヒカンを目ざとく見つけて遠慮なく殴打の連撃を加えていく。
     その戦いぶりはまさに鬼神そのもの。まさに世紀末にふさわしい暴力である。哀れザコモヒカンはその暴力の餌食となり、物言わぬ屍となった。
    「すごい気迫……これはわたしも負けてられないねっ!」
     その戦いぶりを見て感心するアリスもまた、巧みに得物を変えつつ切り込んでいくスタイルでモヒカンを翻弄していた。
    「さあ、これでトドメッ! 水戸六名木! 月影キィィィィックッ!!」
     水戸の力が乗った、恐ろしく強力な蹴り。ザコモヒカン最後の砦は「な、何で俺がこんな子供に……あべしっ!」と断末魔を残し盛大に散っていった。
    「使いモンにならねぇ奴らだなァ! ……まあ良い、俺は他のモヒカン共とは格が違うからな!」
     単身となってもその謎の自信が崩れる事はなく、モヒカン怪人は不敵に高笑いをしていた。
    「おっと、お前はもう死んでいるっす。……あれ、こう言ったら三秒後に悲鳴をあげて死んでくれないと困るっすよ」
    「あァん? テメエが死ぬ番だろうが……よッ!」
     すかさず煽るアプリコーゼだったが、このモヒカン怪人さんはあまり空気の読めない御仁だったらしい。
     振り下ろされた火炎放射器の一撃で、彼女の体力は危険域にまで削られる事となった。
    「鯖味噌、頼んだ!」
     自らも傷ついた仲間へ霊力を分け与えつつ、清十郎は相棒の霊犬に指示を出していく。
     その様はまさに人犬一体。手際の良い行動で、なんとか戦線は保たれた。
    「さ、それじゃこっちも反撃かね。ひゃっはー、汚れたモヒカンは消毒だー」
     どことなくやる気がなさそうに聞こえるトーンで話すミツキだが、その攻撃に容赦はない。
     彼女の炎をまとった正確無比な射撃はモヒカン怪人を確実に削っていった。
     主に、その、頭の辺りを。
    「……あら? あなた、モヒカンなかったらただの肩パッド付けたヤンキーじゃない。没個性ね」
     逆毛に恨みでもあったのだろうか、モヒカンを削ったミツキは、嘲笑するように言い捨てる。
    「ほらごらん鯖味噌。あれが己のアイデンティティを安易に確立しようと奇抜な髪型や服装に走った人の末路だよ。
     けっきょく彼にはモヒカンである事以外に個性を見いだせないんだ、哀れだね」
     清十郎の、あくまで霊犬に向けて話している形をとった精神攻撃が更にモヒカン怪人の心に突き刺さる。君達は鬼ですか!
    「うるせェ! さっきからテメエらにはブチギレしっぱなしなんだよォ! まとめてブッ殺してやるッ!」
    「キレ方までそこらの不良だな。……色々と締まらない奴だけど、そろそろサクっと殴り倒すとするか」
     言い終えるやいなや、悠一は己の血によって膨大な推力を得たブーストハンマーにより、一瞬にしてモヒカン怪人へと肉薄する。
    「俺が許せないのはな、そのモヒカンだ。格好こそ同じだが、超がつくほどの善人を俺は知ってる。
     松戸市の悪評もそうだが、俺の知り合いにまで風評被害を出すわけにはいかないんだよ……!」
     慣性を生かし、勢いをそのままに全体重を乗せた一撃が、モヒカン怪人へと襲いかかる。
    「そんなのァ、俺の知ったこっちゃ……あべしッ!」
     途方もなく重い、悠一の一打。それによってモヒカン怪人は、断末魔をあげて爆散した。

    ●世紀末、灼滅完了
    「ここにモヒカンは討ち取られた。しかし私は名もいらぬ、光もいらぬ。望むものは拳の勝利ッ!」
     まさにその拳を高く掲げ、文音が勝ち名乗りをあげる。そういえば彼女はずっと拳で戦っていたような気もします。
    「うむ、敵を蹴散らせればそれだけで俺ァ満足だ。ウラァァァァ!」
     ツェツィーリアもそれには同意した様子で、とてもバトルジャンキーな事を言ってのける。一通り暴れられたのか、幾分スッキリした表情だ。
    「それにしてもコレ、よく出来てるよね。ちょっと着けてみようか」
    「え、つけるの? ……本当につけちゃった!」
     その横では清十郎がモヒカンが身に着けていたものの残骸で遊んでおり、偶然目撃したアリスが驚愕の声をあげている。
     きっと、あんまりにもカッチョいい姿だったので驚いたんですね。きっとそうですよね。
    「さて、それじゃ奪ったタネは持ち主のお墓に……そういえば持ち主死んでないっすね」
     折角だからとそこらへんに種を埋めるアプリコーゼ。おびき出した人も灼滅者ですからね、そう簡単に死なれると色々困ります。
    「さあ、終わったらさっさと帰ろうぜ。松戸に有名な土産とかはないし」
     悠一は自分で言った後に、良いお土産がないからご当地怪人がモヒカンになるのかと思い至り、複雑な表情になる。
     目立ったモノはなくても、きちんと東京のサポートをしている良い街である事は追記するべきだろう。
    「モヒカンが消えれば、この街もマッドシティなんて呼ばれなくなるのかしら。
     ……普通に治安がよくなってってくれれば良いんだけど」
    「悪印象しか植え付けん存在は灼滅された。これで少しは平和になる事を願うばかりだな」
     ほぼ同じ事を考えていたミツキと流人が、顔を見合わせて頷き合う。
     確かに今この場でモヒカン怪人は灼滅された。しかし灼滅者達の戦いが終わった訳ではない。
     第二第三のモヒカンが出ないよう、あるいは出てもすぐに倒せるよう、灼滅者達は戦い続けるのだ。

    作者:若葉椰子 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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