復讐の悪魔

    作者:七海真砂

    「えへへー♪ 今日もいっぱい楽しかった~☆」
     深夜の駅前で、ゴキゲンな様子で笑っている少女――否、くねくねっとした尻尾を持つ、ダークネス・淫魔の姿があった。
     彼女は、この駅前で毎日ストリートパフォーマンスを披露しているのだ。
    「憧れのラブリンスター様のようになるための修行ですっ☆」と、大きなウサギの耳をつけて、一生懸命歌って踊ってアピールしている努力の甲斐あってか、通りすがりに足を止めてくれる人も何人かいる。それが淫魔にとっては嬉しいようだ。
     そんな彼女が後片付けを終え、電気の消えた駅前を去ろうとした時だった。
    「見つけた……!」
     ぎりっと歯軋りしながら、禍々しいオーラと共に近付いてくる真白い仮面の女。
     相手が同じダークネスだと気付き、淫魔も警戒をあらわにする。
    「誰?」
    「ふ、ふふ……ほほほほほ! いいでしょう、教えてあげるわ、憎き大淫魔一派の小娘! わたくしはクリスティーナ……お前達が裏切ったアモン様に連なるソロモンの悪魔だと言えばいいかしらね!」
    「は?」
    「フン、とぼけるつもり? 調べはついているのよ、アンタがラブリンスターの配下だってことはね! さあ、アモン様の仇……裏切りは死をもって償いなさい!」
    「だ、だからなんのこ……わきゃーっ!?」
     轟音と共に雷が降る。辛うじて避けられたのは、彼女もまたダークネスだったからだろう。だが、そんな淫魔を取り囲むように、わらわらと配下が姿を現し――。
    「……これは、フザけてる場合じゃないかも、ね」
     すっと目を細めて応戦の構えを取る淫魔。彼女はピンク色のオーラを宿して周囲の配下を蹴散らし、善戦するのだが――。
    「ほほほほ! ここまでのようねぇ」
    「うう……っ。らぶり……たー、さ……」
     敵の数が多すぎた。それを、覆すことができぬまま、淫魔は敬愛するあの人の笑顔を思い浮かべながら、力尽き倒れていくのだった。
     
    「みなさん。ソロモンの悪魔・アモンのことを覚えていますか?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、そう話を切り出した。
     アモン。それはかつて『不死王戦争』の際、灼滅されたダークネスだ。
    「そのアモン勢力の残党が、ラブリンスター配下の淫魔を襲撃しようとしています」
     ソロモンの悪魔にとって、ラブリンスター勢力は『不死王戦争』の際に共闘した間柄のはずだ。……が、その後に武蔵坂学園とつながりを持つようになったラブリンスター達のことを、ソロモンの悪魔は、こう疑ったのだろう。
     不死王戦争の前から灼滅者とつながり、裏切っていたのでは――と。
    「これはダークネス同士の争いです。放っておいても淫魔が1人殺されるだけ、人間に被害は出ません。が……アモンの残党を倒す、チャンスではあります」
     この機を生かし、ソロモンの悪魔を倒して欲しい、と姫子は告げた。
    「ソロモンの悪魔はクリスティーナという名前で、純白の仮面とドレスをまとっています。激しい雷を落とす攻撃、魔力を流し込んで敵を破壊する攻撃を得意としているようですね。また、仮面に紋様を浮かべることで、受けた傷を回復しながら攻撃の威力を高めることも、あるようです」
     クリスティーナは強化一般人を5名連れている。彼らはチェーンソー剣、龍砕斧、解体ナイフ、日本刀、咎人の大鎌を持ち、淫魔を殺すのを手伝うように命じられている。
    「戦場になるのは終電後の駅前広場です。既に利用客の姿は無く、皆さんとダークネス以外が来る心配はいりません」
     広さも十分にあるので、クリスティーナとの戦いに専念できるだろう。
    「一方の淫魔ですが、オーラをまとっての格闘攻撃を得意としています。歌より踊りが得意で、ダンスを攻撃に生かすこともあるようですが……」
     灼滅者が介入しなければ淫魔は負ける、と姫子は断言した。
    「ただ、淫魔もそれなりの実力があるらしく、強化一般人を2人倒し、それ以外の相手にも相応の傷を与えられるようです」
     つまり、淫魔との戦いに決着がついたあとのクリスティーナに襲い掛かれば、有利に戦いを運ぶことができるだろう。
     その前に戦いを仕掛ける場合、厳しい戦いになることが予想される。
     武蔵坂と友好的なダークネスである、ラブリンスターの配下を救出したい……という考えもあるかもしれないが、そうしたい場合、覚悟しておく必要があるだろう。
     この場合はうまく呼びかければ、淫魔と共闘するようなことも不可能ではないかもしれない。だが、そもそもダークネスを助けるべきなのかどうか……。
    「どのタイミングで接触し、どう介入するかによって戦いの過程と結果は、大きく変わると思います。これが正解だと言い切れるものはありません。皆さんが最も良いと思った方法を、取ってください」
     姫子はそう告げると、よろしくお願いしますとお辞儀をして……。
    「……あ、そういえば言い忘れていました。淫魔の、名前なんですけど」
     ちょっと言い辛そうな素振りを見せつつ、姫子はこう告げた。
    「あんじぇりか☆ろっぷー、だそうです……」


    参加者
    百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)
    須賀・隆漸(双極単投・d01953)
    風真・和弥(冥途骸・d03497)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    黒芭・うらり(中学生ご当地ヒーロー・d15602)
    八守・美星(イノセントエンブリオ・d17372)
    数井・莉久(アイイロ・d18176)
    川内・梛(スロートランス・d18259)

    ■リプレイ

     今まさにソロモンの悪魔が雷を放とうとした、その時だった。
    「待ちなさい、ソロモンの悪魔! 貴方達の悪事はここまでよ!」
     びしっと指先を突きつけたのは黒芭・うらり(中学生ご当地ヒーロー・d15602)。彼女を筆頭に現れた8人は、両者の間に割って入る。
    「武蔵坂学園、参上なの。……もふもふを虐める悪魔を裁く、なの」
    「こういう言い方をした方がいいかな? アモンを殺した、武蔵坂学園の灼滅者の一人だ」
     黒い猫ぐるみ姿の小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)が淡々と告げれば、風真・和弥(冥途骸・d03497)が微かに笑う。そんな灼滅者にソロモンの悪魔・クリスティーナは高笑いを上げた。
    「おほほほ、ご丁寧にありがとう。もちろん存じていてよ」
     その声は笑っていない。仮面の向こうから睨みつけてくるかのような強烈な視線を、灼滅者達は感じる。
    「……罠にかけられたのは、わたくしということ? まあ構いませんわ、仇討ちの効率が良くなりそうですもの!」
     そしてクリスティーナが呼びかけると、周囲から強化一般人達が現れる。
    「La Vie en rose」
     百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)はすかさず戦闘態勢に入った。クリスティーナからの雷を受けても構わずオーラを両手に集中させ、龍砕斧を構えた敵へ思いっきり放つ。
    「マグロ☆スクリュードライバー!」
     うらりも熱い思いを込めて螺穿槍を突き出した。
    「……デッドブラスター、しゅーと、なの」
     一方、美海は日本刀を持つ敵に漆黒の弾丸を撃つ。長期戦を見込んで、予め毒を与えておく作戦だ。
    「はああっ!」
     先を見据えて動いたのは須賀・隆漸(双極単投・d01953)も同じ。敵が全員前衛なのを見た隆漸はクリスティーナをシールドで殴りつける。見返してきた瞳には怒りが滲んでいた。
    (「結果に対する原因を正しく認識できていないとはな」)
     そうでなくとも最初から憎悪と復讐に染まった瞳だ。悪魔というのも底が知れているな、と隆漸は思う。
    「彼ばかり見ていていいの?」
     すかさず八守・美星(イノセントエンブリオ・d17372)の光線がクリスティーナを貫く。
    「ほら、余所見をする暇はないわよ」
     美星はクリスティーナが放つ『業』の匂いを感じ取っていた。ここにいるダークネス達の中で、クリスティーナだけがそれを匂わせている。
    (「そこまでして無念を晴らそうとするのは殊勝だけれど、逆恨みは頂けないわね。それとも残党を焚き付けた黒幕でもいるのかしら」)
     もしかしたら……とは思うが、それを確かめる術は無い。とにかく今は、と美星は影業で自分を支えるようにして、腕を巨大な砲台に変えた。

    「なぁアンタ。俺らはこいつをぶっ潰したい、ちょっと手を貸してくれよ」
     一方、淫魔には川内・梛(スロートランス・d18259)が呼びかけていた。
    「あ、あの……武蔵坂学園です。あんじぇりかさんを助けに来たので、敵じゃないです」
     おずおずと数井・莉久(アイイロ・d18176)も声をかける。
     悪い事をしていないのに襲われているのなら助けてあげたい。その気持ちを込めて、莉久はあんじぇりかを見る。
    「一緒に戦ってくれたら助かるけど、危なかったら逃げて……」
    「ううん、大丈夫っ☆」
     莉久の言葉を遮り、あんじぇりかは首を振った。
    「ラブリンスター様のライブを盛り上げに来てくれた皆さんが、私のことまで気に掛けてくれるだなんて嬉しいですっ。それに……」
     瞳を潤ませ拳を握ったあんじぇりかは、ピンク色のオーラを放ちながら駆け出した。
    「私を助けに来てくれたのに、1人だけ逃げたりなんて、できないよっ!」
     一瞬にして拳へ収束されるオーラ。そのまま物凄い連打が敵を打つ。どうやら一緒に戦ってくれるようだ。
     それを見てホッとしつつ、莉久は莉奈をエンジェリックボイスで癒していく。相当なダメージを負った莉奈の様子に、クリスティーナは想像以上に強敵なのだと小さく震えながらも、全力で回復に当たる。
    「さあ、どんどん行くぜ!」
     梛は龍翼飛翔で敵を薙ぎ払う。仲間の元へ戻る梛を、龍砕斧と咎人の大鎌を持つ敵が怒りに駆られた目で追いかける。が、
    「――そこまでだ!」
     霧で自分達を強化した和弥が雲耀剣を振り下ろす。相手が構えようとした龍砕斧共々それを断ち切って、和弥は敵を沈めた。
    「次はナイフ狙いだな」
    「ええ!」
     隆漸はすぐさま黒死斬を放ち、解体ナイフを持つ敵の足を鈍らせた。すかさず頷いた莉奈が緋色のオーラで切り裂きながら活力を奪い取る。
    「流石は卑怯者の集まり、手足からもぐのがお好みなのかしら。ほほほ、ならわたくしもそうしましょう。お前達、この男を狙いなさい!」
     一方クリスティーナは掌を隆漸へ伸ばした。触れたそこから流れ込んだ、膨大な魔力が暴れ回る。
     他の敵も一気に隆漸へ迫っていく。例外は怒りに駆られて梛にデスサイズを振り下ろした強化一般人だけ。莉久は2人のために清めの風を招いた。
    「お札さん、回復お願いなの」
     更に美海の防護符が飛ぶが、すぐにクリスティーナ達の攻撃で隆漸は傷付いていく。あんじぇりかも集気法で手伝うものの、負った衝撃は消えても、刻まれた傷の全てを消せるわけではない。回復しきれない傷が徐々に増えていく。
     美星はデモノイド寄生体から飛ばした液体でクリスティーナの服を破るが、毒にも裂けたドレスにも、クリスティーナは頓着しない。
    「必死だな。敗因を擦り付けに来たのに、またやられちまったら本末転倒だもんな?」
    「必死なのはそちらではなくて? 口は達者なようだけれど、やられそうになっているのは一体どちらかしら。歪な共闘までして醜い足掻きだこと」
     龍骨斬りを繰り出し挑発的な笑みを向ける梛にも、悠然としている。確固たる目的を持つクリスティーナは、そうそう崩れないということだろう。
    「輝く三崎の海波のように……マグロビーム!」
     うらりは標的を散らすべく必殺ビームを放つ。それが功を奏して、クリスティーナの矛先は一度うらりへ向かうが、それ以外の攻撃は隆漸に集まったままだ。更に解体ナイフを持つ敵は後ろに下がり、前衛へ夜霧を展開する。
    「面倒なことをしてくれるわねっ」
     こうなってはオーラキャノンしか届かない。威力も、当たりやすさもやや落ちるが、莉奈は瞬時にオーラを集中させ、狙い定めた一点へと撃った。
     それは狙いを違わず急所を貫き――ナイフを滑り落としながら、敵が倒れていく。

     すっかり憑き物が落ちたような様子で、クリスティーナは仮面に不可思議な紋様を浮かべた。後方からの夜霧隠れで毒が消えたのだと察すると、美星は再びサイキックを繰り出す。梛の龍骨斬りや、うらりのビームが続く一方、隆漸と和弥と莉奈で日本刀の敵を狙っていくが……。
    「く……っ。すま……な……」
     それまで強固な守りで猛攻に耐え続けていた隆漸が、とうとう遂に倒れてしまう。
    「次は、そこの坊やね」
     すかさず鋭い爪先が梛を指した。灼滅者を殺す事よりも、とりあえず黙らせる事を選んだらしい。
     咎人の大鎌での攻撃を何度か食らっている梛は、格好の的だと判断されたようだ。もしかしたら積み重なった挑発も影響しているのかもしれない。
    「俺はいい。それよりうらりを回復してやってくれ」
     龍因子を解放して守りを固め、梛は美海達に呼びかける。うらりが自力で回復するのは難しいだろうし……それに、おそらくは。
    「……だから直接殴る以外の仕事は嫌なんだよ」
     巨大な砲台へ姿を変えた利き腕を見て、梛は一瞬顔を歪めて呟いたものの、すぐ正面を見据えて光線を浴びせた。
     傷が深い自覚はある。せめて一撃でも多く叩きつけてやらなければと、梛はサイキックを連打する。
    「――はあああっ!」
     その間に和弥の居合斬りが決まり、日本刀を弾き飛ばしたが、
    「川内さん!」
    「へ……平気だ、ぜ!」
    「しぶとい子ねぇ」
     がくりと梛が膝をつく。一度は何とか立ち上がったものの、強烈な掌打とチェーンソー剣での無慈悲な斬撃の連続に、今度こそ、その意識は遠のいた。
    「うらりを狙う気なの」
     美海はクリスティーナが彼女を見据えた事に気付いた。おほほほほ、と相変わらずの笑みが響く。
    「お嬢ちゃんも叩き潰しやすそうなのだけれどね」
     ちらりと視線は美海を向くが、すぐうらりへ戻る。
    「させないっ!」
     激しい稲妻から庇ったのは、攻撃から防御へシフトしたあんじぇりかだ。
    「あ、ありがと……とにかく、ソロモンの悪魔を灼滅しないと!」
     うらりは咎人の大鎌を持つ敵を狙う。妖冷弾で凍りついた敵は、更に莉奈の攻撃を受けて傷を深める。クリスティーナが傷と共に負った、多くの悪影響もじわじわ効いているのだろう。仮面に3つ紋様を浮かべながら攻撃するクリスティーナだが、何とかそれを避けたうらりに、苛立つような舌打ちが重なる。
    「あともう1人!」
     うらりの振り抜いた紅蓮斬が、咎人の大鎌を持つ強化一般人を切り崩す。
    「さっさと仕留めるよっ」
     すかさず莉奈はチェーンソー剣の敵へ、これでもかと連打を繰り出す。残る敵はクリスティーナとチェーンソー剣持ちだけ。もたもたしている暇は無い。美星の攻撃も今は強化一般人へと向けられている。
     だが、仲間が倒れ攻撃力を欠いた灼滅者側の不利は、やはり否めなかった。じりじりと時間は過ぎ、その間に受けた攻撃が消えない傷となって積み重なる。
     あんじぇりかは出来るだけ、灼滅者達をかばうものの、
    「そうやって結託して、アモン様を殺したのね」
     助け合う光景は逆鱗に触れた。苛烈な攻撃は、かばう間も与えずにうらりを蝕み、一気に地へ叩きつける。
     チェーンソー剣持ちが倒されようとも、最後の1人になろうとも、もう相当な傷を負っているはずなのにクリスティーナは揺るがない。
     狂気じみた笑いを上げ、ただただ戦い続けるばかりだ。
    「次は、そうねぇ、さんざ目障りなお前にしてあげましょうか」
     言うが早いが、距離を詰めた先には美星がいる。耐えるようにシャウトした美星を、更に莉久達が必死で回復して支えていく。
    「いーかげん、目障りだから消えてちょうだいっ」
     莉奈はありったけの魔力を注ぎ込み、渾身のフォースブレイクを叩き込んだ。ぐらりと、そのとき初めてクリスティーナが足元をふらつかせる。しかし、すぐ体勢を立て直し、クリスティーナは稲妻を轟かせた。
    「っっ――だめ、よ。倒れるわけには……っ!」
     まだ目的を達していない。クリスティーナは、まだそこにいる。必死に這い上がった美星に、クリスティーナは更なる攻撃を重ねようとするが、それを食い止めるように和弥の居合斬りが繰り出された。
     しかし、その足を止めるには至らない。
    「おほほほほ、さっさとお黙り!」
     更に繰り出された攻撃が美星の小柄な体を吹き飛ばす。何とか耐えようとする美星だが限界だった。小さな呻きと共に、その瞼が落ちる。

     笑い声が聞こえた。
     次は、と検分する視線も。
     数々の攻撃を与えてもクリスティーナが倒れる様子も、引く気配も無く、だからこそ和弥にはそれが、解ってしまった。
     ――足りない。このままでは勝てない。
     クリスティーナの目的を考えれば、自分達が逃げ切ることは可能だろう。だが、そうすればどうなるか。クリスティーナは倒せないし、それに――。
    (「淫魔に与したいわけじゃない。が……差し伸べた手を引っ込められるかよっ!」)
     事実無根の言い掛かりで殺されかけて、それでも自分達をかばいながら戦っている女の子を置き去りにするくらいなら。
     和弥は、勝機を掴む為の選択肢を選んだ。
     どす黒い殺意に呑まれそうになりながら、その寸前で踏み止まり雲耀剣を放てば、これまでと比べ物にならない威力がクリスティーナを襲う。
    「お前、ダークネスに……!」
     豹変した和弥にクリスティーナは目を見開く。莉奈達にも言いたいことはあるが、今はそれを飲み込み、美海は護符をばら撒いた。それはクリスティーナの仮面の紋様もかき消していく。あんじぇりかのオーラキャノンも鋭く急所を確実に突いた。
    「これは……」
     クリスティーナがたじろぐのを、莉奈は見逃さなかった。彼女にしてみれば相手取るダークネスが2人に、倍に増えたのだ。無理も無い。
    「逃がさないんだからねっ」
    「!」
     後退を遮るように回った莉奈に、盛大な舌打ちが響く。クリスティーナは強引に突破しようとするが、雷は莉奈を僅かに逸れて落ちる。
     莉奈自身、譲るつもりは無かった。逃がす訳にはいかない。こうなった以上、絶対に!
    「俺の回復はいらない」
     和弥の言葉に頷き、莉久は魔法弾でクリスティーナに制約を課す。それはすぐさま効果を発揮し、クリスティーナの動きが一瞬止まった。
     その好機――勝機を逃す灼滅者達ではない。攻撃を集中させたそこへ、一度武器を収めた和弥が目にも留まらぬ速さで斬り捨て――クリスティーナは灼滅された。
    「……俺、みんなまで殺したくないからな」
     それを見届けると、和弥は振り返らずに駆け出す。まだ『自分』が残っているうちに、少しでも離れる為に。
    「ご、ごめんなさい。わたしのために……」
     灼滅者の事情をどこまで理解しているのか分からないが、大体を察したのかあんじぇりかは泣きそうだ。そんな彼女に美海は首を振った。
    「お姉さんのせいじゃないの。だからそんな顔しないで欲しいの」
    「うん。あんじぇりかさんが無事でよかった」
     慰めるように手を伸ばした美海に、莉久も頷く。
    「……とにかく、皆の意識が戻ったら帰りましょう」
     警戒を解かないまま莉奈が言う。他の殺気は感じないが、もし何かあれば対抗するのは厳しい。
    (「それでも、私達は帰らないといけないもの」)

     やがて仲間達も意識を取り戻し、そして顛末を知った。
     クリスティーナを倒すという目的は達した。しかし流れる空気は決して、軽くは無い。
    「他にも襲ってくる人がいるかもです。ラブリンスターさんにも気をつけるように伝えてください」
    「うん、そうする。……ありがとう、ございましたっ……!」
     別れ際、莉久に告げられ頷くと、うさ耳を揺らして深々とお辞儀をしてから、あんじぇりかは去っていった。それを見届けて莉奈は大きく息を吐く。
    (「あの、ひたむきさ自体は好ましいが……」)
     隆漸は複雑な顔だ。不快に感じている訳ではない。しかし淫魔も、所詮は人間を闇堕ちさせて存続させている種なのだから――。
     友好を結べるかもしれない。しかし灼滅者とダークネス、いつか自分達は彼らを狩る日が来るのかもしれない。
     だが、いずれにせよ、それは今すぐの事では無いだろう。
     それよりも気懸かりは――。
    「……俺らも、帰ろうぜ」

     そうして静けさを取り戻した駅前を灼滅者達も去っていく――1人、その数を減らして。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:風真・和弥(仇討刀・d03497) 
    種類:
    公開:2013年7月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 21/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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