狂気の刃

    作者:天木一

     夜の駅前で少女が歌う。そしてそれを聴く人々が喝采を送る。
    『みんな聴いてくれてありがとうー♪』
    「「ミキリーン!!」」
     ストリートライブが終り、少女が歓声を上げるファンに手を振って、ギターケース担ぐと足早に立ち去る。
    「ふー今日のお客さんはノリが良かったし、イイ感じだったな!」
     流れる汗をハンドタオルで拭い、人の少なくなった繁華街を通って帰途に着く。
    「ミキもラブリンスター様みたいになれるかなー」
     理想のアイドルへの道はまだまだ遠い。
    「うん! 明日もがんばろー!」
     その時、ふと視線を感じて振り返る。するとそこには痩せたスーツの男が立っていた。
    「貴様がミキとかいう淫魔か……」
    「だ、誰? ……ファンの人? ゴメンね、声をかけてくれるのは嬉しいけど、プライベートの時間は秘密なの♪」
     そういって少女は足早に去ろうとする。だがその先を男達に囲まれる。
    「誰が貴様のファンだ! ふざけるなよ売女め!」
     怒りに声を震わせながらスーツの男が怒鳴る。
    「俺はアモン様の配下だったソロモンの悪魔だ。そう言えば察しがつくだろう?」
     男が高圧的に少女を見下ろす。
    「な、なんなの、あもんって誰? 意味わかんないよ~」
    「とぼけるな! 貴様ら淫魔が裏切って灼滅者と共にアモン様を倒したのだろうが!」
     少女は全く分からないという顔で首を傾げる。
    「意味わかんないよ! ミキもう帰るね!」
     そういって男達をすり抜けようとすると、一斉にナイフを突きつけられた。
    「な……なにするの」
    「分からんのか? 分かるだろう? 裏切り者を粛清するんだよ!」
     声を震わせ脅える少女に向かい、狂気に彩られた男は舌なめずりをしてナイフを構えた。
    「ご自慢の声で存分に叫ぶといい……」
    「いや、やめて……誰か、助けて-ー!!」
     少女は逃げようと叫び走る。だが男達の暴力に捕まり、少女の泣き叫ぶ声が虚しく響く。
     やがて声は途絶えた。
     
    「やあ、集まってくれたね。不死王戦争で灼滅したソロモンの悪魔・アモンを覚えているかな? その勢力の残党が、また事件を起こすみたいなんだ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が困ったものだと説明を始める。
    「アモンの配下たちは、ラブリンスター配下の淫魔に攻撃を仕掛けるみたいなんだよ」
     人ではなくダークネスを襲う。それは何故かと灼滅者が問う。
    「どうも、不死王戦争に負けたのはラブリンスターが僕たち武蔵坂と通じていたからだと、そんな風に思っているようなんだ」
     実際には違うが、それを知る術が相手には無い。
    「攻撃されるのはダークネスだけど、普段暗躍しているソロモンの悪魔を叩く絶好の機会でもあるんだよ」
     これはソロモンの悪魔へ打撃を与えるチャンスだろう。
    「ソロモンの悪魔の名前はべジル。配下の強化一般人を4人従えているよ」
     夜の繁華街。人は減っているとはいえ、全くいないわけではない。
    「襲われている淫魔はミキという名前の駆け出しアイドルみたいだね。ソロモンの悪魔が淫魔を攻撃している時に助けに入れば共闘できるかもしれないよ」
     ラブリンスター配下の淫魔は灼滅者に対して悪意は持っていない。共闘は難しくないだろう。
    「放って置けば淫魔は殺されてしまうよ。ソロモンの強化一般人も多少はダメージを負うから、多少は有利に戦えるかもしれないね」
     共闘なら淫魔は後衛として灼滅者達をフォローしてくれる。倒れてから戦うなら暫く様子を見てから仕掛ける事になるだろう。
    「共闘するもしないも、どうするのかはみんなに任せるよ。どちらにせよソロモンの悪魔は灼滅して欲しいんだ。お願いするよ」
     説明を終え、灼滅者達を見送る誠一郎は一人呟く。
    「個人的には、女の子を見殺しにするのは目覚めが悪いかなぁ」


    参加者
    天上・花之介(連刃・d00664)
    神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    西園寺・奏(シュヴァルツヴァイス・d06871)
    百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    霧丘・学(不動の魔導士・d17970)

    ■リプレイ

    ●路上の駆け出しアイドル
     夜の駅前に人が集まる。
     その中央ではギターを掻き鳴らし、拙くも元気な歌声を響かせる少女の姿。
     周囲には音楽を聴きに集まった人々が歓声を上げていた。
     まだまだ技術的には未熟だが、少女は本当に楽しそうに歌う。その雰囲気が観衆にも伝わり、皆が音に身を委ねる。
     そんな姿を離れた場所から見守る集団。それは、淫魔をソロモンの悪魔から護ろうとする灼滅者達だった。
    「淫魔を助けるっていうのも複雑だけど。助けてって手を差し伸ばされたら、掴まないわけにはいかねえよ」
     理由も分からず殺されるのを放ってはおけないと、天上・花之介(連刃・d00664)が淫魔を見た。
    「罪を犯す淫魔なら、見過ごすことは出来ないしそのつもりもない、のだが……。何にせよ、アモンの残党の振りまく混乱は、捨て置く訳には行くまい」
     かつては自らも淫魔に堕ち、罪を犯した神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)も、複雑な気持ちで楽しそうに歌うダークネスの少女に視線をやる。
    「ダークネスから罪なき人を守ること、それが灼滅者である僕らの務め……」
     そう言葉を紡ぎながら、西園寺・奏(シュヴァルツヴァイス・d06871)も複雑な表情を見せた。
    「例え、襲われるのがダークネスでも……それが、理不尽なものであるなら……僕は」
     嫌悪感を持つ淫魔を助けると決めながらも、思い悩む。
    「先の大戦での敗因を他者に押し付けるなんて敵ながら情けねぇ」
    「ラブリンスターの一味は一先ずおいといて、今はアモンの残党を直接叩くチャンス!」
     中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)は、責任転嫁して弱い相手を叩こうとするソロモンの悪魔に怒りを感じる。
     この好機を逃さないと、百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)も闘志を燃やす。
    「ダークネスでも人に対して悪い事をしてないなら、助けてあげないとね」
     ダークネス全てが悪とは考えない泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)は、真剣にアイドルを目指す淫魔を助けようと決めていた。
     その言葉に他の灼滅者達も思い思いに頷く。
    『みんな聴いてくれてありがとうー♪』
    「そろそろ終りみたいだね、行こうっ」
     観客に最後の挨拶をする少女。路上ライブが終わるのを確認して、柿崎・法子(それはよくあること・d17465)が仲間達に声をかける。
     灼滅者達は気付かれないよう、少女を追い一斉に動き出す。
    「初めてのまともな戦いだけど、色々めんどくさそう……だけど、死にたくないしできる限りがんばるか……」
     めんどくさそうに呟いた霧丘・学(不動の魔導士・d17970)は最後に動き出す。サドルの付いた箒に乗って空から仲間を追い目的地へと向かう。

    ●悪魔の復讐
     人気の無い夜の繁華街で、淫魔の少女が男達に囲まれていた。
     男達はそれぞれ抜き身のナイフを構え、少女へ向けて振りかざす。
    「ご自慢の声で存分に叫ぶといい……」
    「いや、やめて……誰か、助けて-ー!!」
     ナイフが振り下ろされる直前、その間に割ってはいる影。
    「女の子に手を上げることは君にとって『よくあること』なのかな?」
    「ひとまず下がれ。いま助けてやる」
     法子が輪に飛び込み、淫魔へ向けられたナイフを手袋に覆われた手で受け止めていた。そして殺気を周囲に放ち、一般人が近づけない結界を張る。
     動きが止まった隙に、花之介が鞘に収めたままの刀を振り下ろし、配下の1人の後頭部を叩き割ると、倒れたところに体重を込めて踏み込み、首の骨を折った。
    「か弱い女の子に寄ってたかって、ソロモンの悪魔も変態になり下がったかっ」
     銀都が周囲の音を遮断する。
    「変態に名乗る名はないが、敢えて言おう。愛など説かぬが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都、参上」
     堂々とした名乗りに敵の視線が集まる。その隙を突いて上空から箒に乗った学が、淫魔のミキを拾い上げた。
    「なぁ!?」
     僅かに意識を逸らした間に獲物を取られたソロモンの悪魔べジルが呻く。
    「どうも、灼滅者です。一応助けにきたんですけど、逃げるのも共に戦うのも自由です。お守りしますよ」
    「あ、ありがとう! ミキもお手伝いするよ!」
     涙を目に溜め、震えていたミキはぎゅっと学にしがみ付き、2人は灼滅者の後ろへと降り立つ。
    「あー……やっぱり、あーあーやっぱりだよこの売女! こいつら灼滅者じゃねーか! すっとぼけやがってやっぱり手ぇ組んでんじゃねぇか!」
     ベジルが淫魔を指差し逆上して叫んだ。殺意が灼滅者達へ向けられる。その背後から煉火がビームが放った。
    「ぎゃっ!」
    「貴様らが言いがかりをつけるなら此方も言いがかりをつけてやろう、鶴見岳の謀略にデモノイドの実験とよくも色々やってくれたな……」
     怒りを剥き出しにして煉火がベジルを睨みつける。
    「ベジル様!」
     主が攻撃され、配下が反撃に移ろうとする。その時美しい歌声が場に響くと、配下の1人が睡魔に襲われて膝をついた。
    「逆恨みも程々にしておくがいい。……見苦しい」
     歌い終えたエルザが侮蔑するように言葉を吐き捨てる。
     部下の1人が影を触手にしてエルザへ伸ばす。足元から絡みつき締め付けながら動きを封じる。そこにもう1人がナイフを持って突っ込んでくる。だがその凶刃が届く前に動きが封じられた。
    「アモンの残党……ここで灼滅します」
     いつの間にか奏の手に嵌めたグローブから鋼糸が伸び、配下の体に絡み付いていた。
    「まずは1人」
     絡まった鋼糸を思い切り引く。すると配下の体に鋼糸が喰い込み、全身から血を流し倒れる。
    「こんのぉっ……灼滅者ごときが俺に傷をつけやがって! ダークネスの裏切り者と一緒に殺してやる!」
     べジルがミキに指を向けると、魔法の矢が放たれる。
    「裏切られた……いや見限られたんだ……」
     星流が箒型のロッドをかざす、するとロッドに宿る魔力が双翼の形状となり、魔法の矢が放たれた。それは狙い違わずべジルの矢を迎撃して撃ち落した。
    「淫魔も人間も! 俺たちソロモンの悪魔に従えばいいんだよ!」
    「自惚れて……負けたら理由を他人のせいにするような奴等より、僕等の方が……利用価値があるって思ったんじゃない?」
     高慢なべジルに星流は冷たい言葉を放つ。
    「おい、この五月蝿い奴らを殺れ!」
     配下の2人がナイフを振るい毒の竜巻を起こす。風の刃が銀都、星流、学、ミキを襲う。
    「させないよ」
    「やらせるかぁ!」
     法子と煉火がその射線上に飛び込み、受け止める。手袋で押し止め、エネルギーの盾で障壁を張り勢いを弱める。2人は幾つもの傷を体に作り、毒に犯されながらも仲間に向かう竜巻を押し留めた。
     その竜巻の後ろから配下の1人が突っ込んでくる。ナイフで狙うのは煉火。刃が喉元に迫る。
    「コール」
     冷静な声が響くと同時に、無数の弾丸が配下の男を襲う。学の持つガトリングから撃ち出された弾幕が配下の足を止めた。
    (「ヒーローを傷つけさせはしない」)
     かつてヒーローに助けられた学は、表情には出さないが今度は自分の番だとばかりに援護する。
     ライドキャリバーのエクスがその配下に突撃し、轢き倒した。
    「今治療するぜっ」
    「ミキも歌うね!」
     銀都は清浄な風を法子と煉火に送り、ミキも明るい歌声で2人の傷を癒す。
    「そう何度もやらせるか」
     またナイフで竜巻を起こそうとする配下に、エルザがエネルギーの剣を振るうと、光の刃が放たれ配下の1人を斬り裂く。
     そこに花之介が飛び込み、鞘から刀を奔らせる。抜き打たれた一閃は配下の胴を真っ二つに断った。
    「次だ」
     剣を振るう勢いを活かし、隣の配下の死角から更に攻撃を仕掛ける。刃は配下の脇腹を斬った。
    「ぐぅっ」
     痛みに耐え、ナイフを花之介に突き立てようと踏み込む。だがそのまま倒れ込んだ。見れば足が切断されている。
    「……かかった!」
     奏の張り巡らしたワイヤートラップに引っ掛かったのだ。更に放たれた鋼糸に首を切られ、血に溺れて倒れた。
     残る1人の傷ついた配下が立ち上がる。だがそこに竜巻が襲い、吹き飛ばされ再び転倒する。
    「そのまま……寝ておきなよ」
     それは星流が起こした魔術の風だった。そこに学が影の刃で切り裂き、エクスが機銃を撃ち込むと、配下の男は身を屈め逃げようとする。
    「逃がさん」
     花之介が立ち塞がり、上段に刀を構え振り下ろす。だがその時、横手から呪いの風が吹きつける。竜巻が花之介と配下の男を巻き込んだ。2人は強風に空へ巻き上げられようとする。
    「危ない!」
    「こっちだよ!」
     煉火がそこに盾の障壁を張り、花之介を吹き飛ばす風を弱める。そして法子が手を差し伸ばした。その手がしっかりと花之介の手を掴むと、思い切り引っ張り、竜巻の範囲から逃れる。
     空へ巻き上げられた配下が、どしゃりと地面に落ちて潰れた。

    ●狂気の悪魔
    「この役立たず共が!」
     べジルはその潰れた配下の頭を蹴りつける。
    「あーあー本気だ。本気でやってやるぞ。貴様らみたいな裏切り者と出来損ないに本気を見せてやるんだ。ありがたく死ねぇ!」
     灼滅者達を睨むベジルの瞳孔が大きく開き、爛々と輝く。肌は黒く染まり硬質化し服を突き破る。手は指が同化し、腕から一つの刃となった。
    「外道め……見た目同様、心まで醜いようだな」
     エルザが十字架を呼び出す。すると十字架は無数の光線をべジルに放つ。だがベジルは凄まじい反応速度でその弾幕を回避していく。
    「ちょこまかと……跳ね回るな」
     星流が魔法の矢を放つ。それは動き回るベジルの動きに反応して方向を変え、その胸に吸い込まれる……だが胸に刺さる直前に斬り払われた。
    「死ィィィィ」
     ベジルは飛ぶように星流に襲い掛かる。ベジルは星流と距離を開けた場所で一度腕を振るう、するとぶつりと弾ける音がした、奏が仕掛けた鋼糸を切られたのだ。
     そのまま勢いを弱めずに刃が襲い来る。
    「仲間を何だと思ってるんだ? 本気だろうがなんだろうが――貴様だけは許すかぁ!!」
     煉火が虹色のオーラを纏い、間に割り込んだ。刃は煉火の左肩に埋まる。同時に煉火は無骨な縛霊手をベジルの腹に叩き込んだ。
     吹き飛ぶベジル。だが吹き飛ばされながらも煉火に魔法の矢を放った。動けぬ煉火の前に法子が立ち、矢を手袋で弾き飛ばす。そして炎の翼で煉火の傷を癒した。
    「ほら、ボクなんかに止められてて悔しくないのかな?」
    「死ネェエエエ!!」
     法子の挑発に、体勢を立て直したベジルがもう一度突っ込んでくる。
     学とエクスが迎撃にガトリングと機銃で弾幕を張る。ベジルはそれを先程のように回避しようと動く。だが動きが鈍く弾丸はベジルの体を抉った。
    「ナァアア!?」
     自らの体を見れば、網状の霊力が纏わりついていた。先の煉火の一撃で動きを封じられていたのだ。
    「気付いてなかったの? 間抜けだね」
     馬鹿にするように鼻で笑うと、学は箒に乗ったまま上空から弾丸の雨を降らす。
    「悪いが正義、押しとおさせてもらうぜ」
     銀都が分厚く大きな刀を担ぎ、ベジルに接近する。
    「俺の正義が深紅に燃えるっ! 変態どもに裁きを与えよと無駄に叫ぶっ。必殺! 坊主になって反省しろいっ」
     振り下ろされる刃をベジルは腕の刃で受け止めようとする。だが重量に押し切られ、銀都の刀はベジルの左腕を斬り落とし、肉を焼く。
    「ギィアアアアアア!」
     痛みにベジルは悲鳴を上げ、銀都を蹴り飛ばすと間合いを開けた。
    「一気に仕留めます」
     奏が巧みに鋼糸を操り、動くベジルの体を絡め取って拘束する。
     その隙を突き、刀を鞘に収めた花之介が駆け寄る。
    「凍ェエエエエエルァア!」
     周囲の温度が一気に下がる。夏場だというのにまるで冷凍庫の中のように。ベジルが魔術で周囲の温度を奪ったのだ。
     花之介のみならず近くにいた奏、煉火、法子の動きも止まる。
    「サア! 殺シテヤルゥァアアア!!」
     残った右腕の刃を振るい、竜巻を起こそうとすると、歌声が場に響いた。
    「助けてもらったから、次はミキが助ける番だよね!」
     ミキの歌声がベジルの意識を奪おうとする。だがベジルは抵抗しそのまま刃を振るう。その時、歌声が重なる。エルザが合わせ声はハーモニーとなる。
    「ア……コンナ歌ナンゾ……」
     動きが止まっている間に、銀都が凍えた仲間の治療を終える。
    「これで終りにしてやる!」
     煉火が跳躍し、縛霊手を頭上から振り下ろした。ベジルは地面に叩きつけられ跳ねる。
    「オオオオオオ」
     衝撃に意識が戻ったのかベジルは走り出そうとする、だがその足はすぐに止まった。星流と学がベジルの温度を奪い、体を凍結させていた。
    「これで決着だよ! さぁ、吹っ飛べ!」
     法子の拳がベジルの顔面を打ち抜き、吹き飛ばす。その先には花之介が居た。
    「さよならだ!」
     鯉口を切ると刀を抜き打つ。身動き出来ぬベジルの首を斬り落とした。
    「滅び去れ、ソロモンの悪魔ベジル。その罪に穢れた魂ごと撃ち貫く!」
     エルザの放つ光がベジルの肉体を浄化していく。眩い光が消えると、そこには何も残っていなかった。

    ●アイドルは歌う
     ソロモンの悪魔達が消え。ミキは漸く安堵し、ぺたりと地面に座り込んだ。
    「怪我は無いか?」
    「うん、みんなが護ってくれたから……大丈夫だよ、ありがとう!」
     花之介が心配そうに尋ねると、ミキは笑顔で答えた。
    「礼を言われる筋合いは無い。が……感謝してるなら今回の事をよく覚えておくんだな」
     こうも敵意がないと調子が狂うと、煉火は頭を掻いた。
    「一つ誓ってほしいことがありますね、人の命を弄ばない、人に希望を与えると誓いますか?」
    「人を誑かすな。罪に穢れたならその時は容赦出来んぞ」
     学がそっけなく尋ねる。だがその内には真摯な気持ちが籠もっていた。
     エルザもまた忠告しておく、ダークネスとして敵で現われたなら戦う事になると。
    「もちろん! ミキの目的はスーパーアイドルになって大勢のファンを喜ばせることだもん!」
    「アンタみたいな淫魔……ダークネス……初めて見たよ……」
     毒気を抜かれたように、星流は呟いた。
    「安全に過ごすならば目立たないようにしておいた方がいいよ」
     法子が今後も戦いに巻き込まれないようアドバイスする。
    「また狙われるかもしれねーし、何かあれば助けを呼ぶといいと」
     銀都がそういって連絡先を教える。
    「アイドル活動……応援してますから、頑張って下さいね」
     奏はそう言うと足早に立ち去る。それは自分の中の何かから目を背けるようだった。
     それに続いて他の灼滅者達も立ち去ろうとする。
    「アイドル業頑張れよ。悪さをしない限りは応援してる」
     花之介の言葉にミキは大きく頷いた。
    「本当にみんなありがとう! よかったら今度ミキのストリートライブ見に来てね!」
     大きく手を振る淫魔が見送る中、それぞれ複雑な心境で灼滅者達は去る。
     姿が見えなくなり、繁華街を抜けた頃、遠くから歌声が響いた。それは拙くも優しい歌だった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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